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−−−ピーッ!!
午後七時二十三分二件ノ伝言ヲ預カッテヲリマス。
「あ〜今日はみのりんとご飯食べに行くから。
てか、あんたも誘ってあげようと思ったのに、なかなか帰って来ないし。
携帯はちゃんと持ち歩きなさいよ。それじゃ。」
「あ〜あ〜。そうゆう事だから、大河借りてくぜッ。
ちゃんと、お土産買ってくっから。
悪く思わないでくれぃ。じゃね。アヂュ〜。」
………
「て、事らしい。どうする?」
お留守番をしていた携帯電話が真っ暗な部屋の中で、チカチカと赤く点灯していた。
奈々子と二人、家に帰って来た竜児を待っていたのは、実に薄情な伝言だった。
ったく。あいつの弁当箱を取りに行ってたってのに…
それにしても、櫛枝と飯か。ちょっと惜しかったな、と思うが、
帰りが遅いのも、携帯を家に置いて来たのも自分であり、
「ホントに2人っきりになっちゃったわね…
でも、あたし、だったらかまわないわ。
もう、あなたの家に来ちゃったんだし…
お夕飯、作っちゃいましょ?」
ね?とウインク。奈々子の艶っぽい仕草に、少しドキリとする。
ああ、櫛枝と飯食う機会は逃してしまったけれど、
それでも、こうして新しい縁が出来たのだから、良かったのかもしれない。
と、感じていた。
竜児にとって、櫛枝実乃梨は愛しい人。長年の想い人である。
心に決めた女性。決して軽い気持ちじゃない。
本当にどうしようも無く、好きで、好きで、好きな人。竜児自身はそう、考えていた。
しかし、だからと言って、他の女性など、目に入らないか?
と、問われると、別に、そんな事はなかったりする。
可愛いものは可愛い。好きな人が居るとか、どうとかは、また別問題なのだ。
つまり、結論から言えば、竜児は奈々子について、『カワイイ』と感じていた。
元々、あまり接点のある関係では無く、特に親しい訳では無かった。
友達の友達。防衛庁とテロリストまで結べる様な希薄な関係である。
ただ、奈々子はクラスでも目立つ存在ではあったから、
竜児にしても、遠巻きに、美人だな。と、思う事もあった。
それが、今日、急に親しくなり、カワイイ。と、感じたのである。



話してみると、結構、良かった。
奈々子にとってそうであった様に、竜児にとっても、また、そうであった。
実際のところ、二人の間には、多少の温度差がありはするのだが…
「お米は、もう研いであるみた…って、三合!?
高須君って結構、食べるのね。」
「あ、いや、俺は、基本一膳しか食わねぇけど…
その、後は、泰子と大河の分だ。あ、泰子っていうのは、俺の母親。」
「…そっか、大河ちゃんね…なるほど…
じゃあ、ちょっと味が落ちちゃうけど、ご飯は快速炊きにして、
その間に、オカズを作っちゃいましょう。
オカズは、何にするの?」
「ん、え〜と、ちょっと待ってくれ、確か、冷蔵庫に……」
冷蔵庫に吸われるように歩いて行き、
「おう。これだけあれば、オカズになるな。よしよし…」
と、冷蔵庫に半身をカップンチョされた状態で、何やら考えている。
端から見ている奈々子には、そんな竜司の格好はひどく滑稽で、
ついつい、表情が緩んでしまう。
「それじゃ、今日は、豚コマとキャベツの味噌炒めにしようと思うんだけど、良いか?」
と、恐怖!冷蔵庫の巻。から、生還した竜児が答えた。
「良いわよ。それじゃ、高須君は、食器出して座ってて。
ささっと、作っちゃうから。」
「へ?香椎が作るのか?」
「手伝うって言ったじゃないの。任せておいて。
本当に料理は得意なのよ、あたし。」
「お、おう。そうか?じゃあ、お願いするよ。
エプロンは、そこに掛けてるの使ってくれ。
俺のだが、バッチリ洗濯してアイロン掛けてある。
制服、汚しちまったら大変だから。
それじゃ、俺は、食器だしとくから、何かあったら呼んでくれ。」
と、言い残し、竜児は居間へ帰って行った。
残る奈々子は、台所の端に掛けあるエプロンを手にとり、
ふと、顔を近づけみた。
キチンと洗濯された、ふわふわの感触と太陽に匂いが心地良い。
ウフフ。高須君の匂い…なんて、何してんだろ、あたし。
それにしても、スゴイ洗濯スキル。まるで、クリーニングに出したみたい。
これ、高須君が洗濯してるんだとしたら、スゴイわ。

そういえば、聞いた事がある。
高須君の家事スキルは、ほとんどチートだって。何やらせてもプロ並だって。
確か、亜美ちゃんが言ってたかしら?
あの時は、興味の無い話題だし、チートってどういう意味なのか解らなかったから、
適当に、相槌打って流したけど、ホントだったんだ……
さっきも、ほとんど一人で教室ピカピカにしてたし…
この分じゃ料理の腕だって……
ああ、マズイわ。美味しく作って、アピールのつもりだったのに…
あたしが、サポートに回った方が良かったんじゃあ……
でも、今更悩んでも仕方がない。
あたしだって、料理は得意なんだからッ。
こうなったら、本気で勝負するだけよッ。
と、奈々子が、ガラにもなく、奮い立ち、
エプロン装着、長い髪は後ろにまとめて、いざ!!と、いう所に
「食器、出しといたぞ〜」
竜児が、台所へ帰ってきた。
「ありがとう。こっちも、すぐに作っちゃうわ。」
「………」
思わず、息を飲んだ。
奈々子のエプロン姿は、実に魅力的だった。
制服の上に、大きめのサイズのエプロンが何とも…
緩くウェーブの掛かった長い髪をポニーテールに結い上げているのもイイ…
台所に立つ姿は、まさに、新妻といった佇まいで、これは…クル…
「ん?あら?どうしたの?ぼ〜〜としちゃって」
ぼ〜っと見惚れていた竜児だったが、
奈々子の言葉で、何とか、正気に戻る。
「お、おう。似合うな、エプロン。」
戻って無かった。思っている事、ダダ漏れ。
産地直送源泉掛け湯垂れ流し。
そんなストレート過ぎる竜児に、奈々子は、
朱の差した頬を両手で覆い、伏し目がちにモジモジしつつ、
「!?そんな…もう。
ありがとう。…嬉しい。」
と、返した。
その様子が、また、竜児的にgood。
この感じ、悪くないな…いや、むしろ…イイ…
「けど、もしかして、皆にそんな事言ってるんじゃないの?」
と、続く。先程より、少し、厳しい口調で、
「お、おう!?
そ、そんな事、ねぇよ…
こんな事、思ってたってなかなか言えないんだぞ?
…言っちまったけど 。」
何か、調子、狂うな…いや、狂わされてるのか?

そうか。と、竜児は得心がいった。
これが、香椎奈々子っていう女の子なんだな。
普段のおっとりした感じと、こうしてたまに見せる、鋭さ、というか…
そういうギャップが、この娘の魅力なんだな。
能登辺りが、奈々子様と呼ぶ、理由がなんとなく解った。
このままだと、本当に好きになる…かも。
でも、良いのか?櫛枝は?俺は、櫛枝が好きなんじゃないのか?
俺は、そんな軽い男だったのか?そんな易々と鞍替えみたいな…
『ふぅん。あんたってば、結局、女の子だったら、誰だって良いんだ?
見損なった。良いわよ。もう、好きにすれば?
私としても、大事なみのりんにそんな野郎を近付たくないし。』
ち、違うんだ。大河 。俺はそんな軽薄な野郎じゃない。
櫛枝への気持ちが揺らいだ事、なんて今まで無かったんだ…
だから、俺だって今、どうしよう…って思ってるんじゃないか…
脳内大河の罵声に必死に言い訳してしまう。
解ってくれよ…俺だって自分が解らねぇんだ…
「何か顔色悪いよ?大丈夫?
すぐ、作って、持って行くから、座って待っててよ。」
「お、おう。あ、ちょっと喉乾いちまって…
お茶、取りに来たんだ。」
そういって、また、冷蔵庫に半身を捧げる。……少し、頭が冷えた。
取り出したお茶を、ゴキュゴキュと喉を鳴らしながら、一気に行く。
「わぁ。スゴイ飲みっぷりね…
よっぽど、喉乾いてたのね。」
「香椎も飲むか?」
「あ、あたしは、後で、ご飯の時に頂くわ。」
「お、おう。そうか。」
「ええ。でも、今の高須君、何だか格好良かったわよ。男らしくって。
と、言っても、呑んべは嫌いなんだけどね…
あ…あたしは、格好良いなんて、誰にでも思わないわよ?
そうね、同年代の男性なら、高須君…あなたが初めてよ。」
ウフフ、とからかう様に奈々子。
何気ない一言でも、余裕の無い、今の竜児にはたまらなかった。
このまま、奈々子を抱きしめて、自分のものにしてしまいたい。
そんな、黒い囁きが擡げるが……

『信じられるから…』
奈々子の言葉が、ブレーキになって、なんとか、踏み留まれていた…
ダメだダメだダメだ…
香椎は、俺が変な事しないって信じてくれてんだ。
裏切れねぇ…せっかく、仲良くなれたんだ…
嫌われなくねぇ…
「俺も、作るよ。
もう、食器は出したから。
そうだな、簡単に味噌汁と出汁巻きなんか。」
「ホントに?うん、じゃ…一緒に作りましょっか。」
「おう。」
確かめよう。こうして、香椎の隣に居て。
そうしたら、解る、かも。俺は、香椎が好きなのか…違うのか…

***

ジューーと、小気味よい音ん立て、
竜児が操るフライパンでは、卵が見事な玉の形を築いていた。
単なる卵焼きじゃない、ホントに料亭の玉みたい。
自分の味噌炒めを焦がし過ぎないよう…
グリングリンと、楕円の軌跡で、混ぜ込みつつ
「高須君て、ホントにスゴイのね…
あたし、感心しちゃった…」
と、話しかけた。
「香椎の方こそ。スゲェじゃねぇか。」
「う…ん、あたしは、毎日、やってるもの…。
男の子で、そんなに料理が得意だなんて、やっぱりスゴイわよ。」
「俺も、毎日、やってるからな。
…あのさ、男が、料理得意って…やっぱ変か?」
竜児のトーンが半オクターブ下がる。
「あ、ううん。ゴメンなさい。
そういう意味じゃないの。
今のって問題発言だったわよね。ゴメンなさい。
あたしは、全然、変じゃないって思う。
だって、レストランのシェフだって、男の人が多いじゃない?
素敵だな。って思う。
家事が得意な男性って、何だか…好きよ?」
「お、おう……」
微妙な、空気になる。
今のって…高須君の事、好きだって…そんな風にとれるわよね…
…好きには違いないんだけど…
ああ、早まっちゃったかしら…
「高須君は今すぐにでも、良いお嫁さんになれるわね。」
ウフフ。と、精一杯、冗談ですよ、とフォロー
「なら、香椎が貰ってくれるか?」
と、竜児も冗談めいて返す。

「さあ?ウフフ。どうしようかしら?」
「でもよ、香椎の方こそ、マジで良いお嫁さんになれるぞ。
綺麗だし、家事も出来て、良妻賢母って奴かな。
香椎と結婚する奴は、幸せだな。」
割と、真剣な口調で竜児が言う。
ありふれたテンプレートな常套句、とは解っていても…
「あ…」
と、黙ってしまう。
顔が火照って、胸がドキドキする。
チラッと竜児の方に目をやると…
「………」
「………」
目があった。
それから、双方、何だか、気恥ずかしい雰囲気まま、時間は過ぎた。

***

そして、
「なあ、香椎?デザート食うか?」
と、竜児から沈黙を破った。
先程の、気恥ずかしい雰囲気で、食事。
さらに、食後、
「俺が皿洗う。」
「そんな、あたしが洗うわよ。」
と、俺があたしがと、茶番劇を繰り広げ、
例によって、二人で洗い物をした。
お約束の通り、奈々子が落として拾おうとした、菜箸を竜児も…
も、やった。なんだか、もう完全に新婚気分。
「良いの?」
「おう。三個で、100円の徳用プリンだけどな。」
「それじゃあ、頂こうかしら。」
100円プリンを上品に食べる香椎を尻目に、
ああ、いつも大河が食ってる奴とは、違うプリンじゃないか?
竜児は、そんな事を考えていた。
もし、大河にバレたら、ダダでは済まなさそうだが。
それから、2人、テレビも何だかつまらないという事で、
オセロなどを興じていた。
実力は、やや、奈々子の方が上。
平和なオセロであった。途中までは。

***

勝者の余裕からか、奈々子は、とんでもない事を言い出した。
「ねぇ、何か賭けない?」
「ん?そりゃあ、良いけど…何を賭けるんだ?
自慢じゃないけど、金なら無いぞ?」
「もう。ゲームでお金賭けるのって違法なのよ?
ん〜っとそうねぇ…じゃあ、あたしが負けたら一枚ずつ脱ぐっていうのは?」
「ブッ…。ちょ、おま、そっちの方が問題あるだろ?」
「そうかしら?ねぇ、高須君は見たくないの?
あたし、結構、自信あったりするのよ?」
「……川島みてぇな事、言うなよ…」
「ふぅん。高須君、亜美ちゃんと、そんな事したんだぁ?」

「し、してねぇよ?誓ってしてねぇ。
いっつも、あいつが一方的にからかってくるだけで…
そんな事、絶対してないから。」
「そう。あたしは本気だよ?
そりゃあ、亜美ちゃん程じゃあないけど、
それでも、見て損はさせないわ。」
「…うぅ。だ、ダメだ…
来る前に、変な事、しねぇって約束したんだ。
だから、ダメだ。」
と、断腸の思いで、キッパリ断る竜児。
「ウフフ。高須君ってさ、詐欺に引っ掛かっちゃうタイプだね?」
「はぁ?」
「だってさ、あたしは負けたら、一枚脱ぐっていっただけで、
高須君が、負けた場合の事、あたしは言ってないのよ?」
…あ、と、竜児は目と口を丸くする。
「お前…はぁ、危ない所だった。
俺に一体、何させる気だったんだよ?」
「ウフフ、さぁ?」
「さぁ、て…」
「けど、嬉しいな。高須君は、約束ちゃ〜んと守るんだね。
女の子を大切にするタイプなんだ。
あたしの方から、言い出したんだから、そんなの反故にして、
やっちゃっても、責められる事ないのに。」
「…そういうは何か嫌なんだ。」
「素敵。だと、思うわ。
あたし、そういう人が好き。
もし、付き合うなら、そんな人が良いわ。」
え…それって…竜児の胸に期待が高まる。
言っている奈々子は、竜児以上にドキドキものなのだが、
「ウフフ。高須君が負けた場合の事、思いついたわ。
もし、高須君が、負けたら、一つ質問に答えてもらうわ。
ノーコメントはダメ。嘘もダメ。
嘘ついてるかどうかなんて、あたしには解らないけど…
高須君は信頼に足る人物だって思うもの。
あ、それと、あたしの方は靴下とか、リボンとか、どんどん使うわよ?
そんなに簡単に見せてあげるつもりは無いわ。
ねぇ、どう?してくれない?
と、いうか、これでしてくれないと、
あたしってそんなに魅力ないの?って、
逆に落ち込んじゃうわ。」
ね?と、ウインクされ、口元のホクロが今日もやけに色っぽい。
気圧されて。お、おう。と、竜児は、思わず首を立てに振った。
おもえば、2人のパワーバランスは、この時点である程度、定まっていたと、
後々、気が付く事になるのであった。

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