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177 十二月二十四日の日常 Jp+V6Mm ◆jkvTlOgB.E sage 2009/12/24(木) 20:59:40 ID:Koa4Tk9X
十二月二十四日の日常
意外に思われるかもしれないがクリスマスという存在が時々、鬱陶しくなる事がある。
川嶋亜美という存在はきっとクリスマスが大好きなんだろうなんてのが、
きっと世間の評価。
たしかにイベント毎は好きだし、きらびやかな事は心が躍る。
けれど時折癇に障るのも事実。
十二月になると街中に溢れかえるクリスマスキャロル。
華やかに飾り付けられたイルミネーション。
それが時折、目に触る。ノイズにしか聞こえない時がある。
十二月の風物詩なんてものが上面だけとりつくろった偽者にしか見えないときがあるのだ。
あんなのセミの命より短命、せいぜい蜻蛉くらい。
二十四日の夜を頂点に最初から無かったかのように消え去っていく。
無性に虫唾が走る。とってつけた様な雰囲気。
それがどうしても嘘ぱちにしか感じられない瞬間がある。
とは言っても、小さいころの私は人並みの子供と同様にクリスマスを楽しみにしていた。
サンタクロースなんてどこにもいない事は物心がついた時には気づいていたが、
やっぱりその日は特別で、パーティに行くことが出来る日で、
その夜は遅くまで起きていても怒られなくって、
なにより仕事で忙しいママが一晩中一緒に居てくれる日だった。
いつも行くパーティは大規模なもので、一流のホテルで行われ、
沢山の人たちが集まり、大騒ぎをした。
高級ホテルに行けるだけで、特別な気分になれた。
大勢の人たちに囲まれてるだけで、一人ではないのだと思えた。
みんなが浮かべる笑顔に楽しくなれた。
参加出来る事で大人の一員になれた気がして誇らしかった。
それでも、それは子供の時だけ。
少しでも大人になれば解かること。
高級ホテルは如何にもテンプレートの高級さ。
形式だけの、申し合わせられた一流で飾られた個性の少ない舞台。
大勢の人たちの大半は、来たくて集まった訳じゃない。仕事がら仕方なく来ている。
沢山の人間が同じ場所にいても、全員が孤独だった。
だから集まった人たちの笑顔は仕事に繋がらないかという愛想を振りまく大人の顔。
その笑顔は私も同じ。きっと同じ表情をしている。
そんなつまらない大人たちと、いつのまにか同じになっている自分へは
嫌悪感しか抱けなかった。
いつのまにかクリスマスイブはお祝い事ではなくなった。
十二月二十四日は大事な仕事の日。
やっぱり仕事だと思うと面倒くさい時もそりゃある。
浮かれた顔をするのも、はしゃぐ振りをするのもやっぱり疲れる。
でも今年は期待していた。
高須竜児と、彼氏と初めて迎えるイブ。
ドラマ等で見る作り物のクリスマスイブ。馬鹿にしていたイベント。
だが、「あの葡萄はすっぱい」と思っていたのも事実。一口試してみたかった。
「どうせ高須くんに任せても、ろくなものになる訳はないしね」と、
それを免罪符に、デートの準備をした。
お気に入りのレストランを予約し、ホテルも押さえた。
行きたい所も、一緒に歩きたい道も考えておいた。
一番の繁華街じゃ流石にまずいと、ちょっとだけ行き場所をずらして。
歩道橋を越えてジャックモールの小さなツリー。
もうちょい歩けばクィーンズイースト。そこでご飯食べて、今度はパークのツリー見て。
橋を渡れば海までもうすぐ、さらに頑張ればいつもの公園、いつもの道。
その日が寒ければなおいい。少し甘えて、寄り添って。夜は長いんだ。
ママに無理を行って、事務所を巻き込んで、嘘スケジュールを入れてもらった。
今夜の私は夜遊び出来るシンデレラだった。
ガラスの靴でお洒落して、ダンスだって十二時を越えても踊っていられる。
行かないでくれという王子様の要望にでも答えられる。
そんなの軽くOK。それだけじゃない、どんな要求だって応えてみせる。
けど、現実は
「川嶋、これ、そこに並べておいてくれ」なんて言って、
私にチャーシューが綺麗に並べられたお皿を渡してくるのだ。高須竜児という男は。
「違うんだよね」
私が求めてもらいたいのはこれじゃない。
それなのに、高須くんは
「おう。お前が好きなやつも作ってあるぞ。こっちにまだ持ってきてないだけで」
とよく解からない言葉が返ってきた。本当、まったく解かってない。
これくらいでヒステリーを起こすのも癪なので、無言で受け取るとポテトサラダの横に置く。
「ん?、なにか俺、変なこと言ったか?。なんで川嶋は笑ってるんだ?」
といぶかしみながら、台所に戻っていく。
私が笑ってる?、何て勘違い。亜美ちゃんが、そんな、
好みの食べ物を作ってくれた。なんて心使いだけで喜ぶわけないじゃん。
そんな安い女じゃないっての私は。
急いで笑いが出ないように、確りと表情をつくりなおす。
で皿に伸びてきた手から、さっき置いたチャーシューをガードする。
「チビ、みんなが座るまで待ちなって。少しでも早く食べたになら高須くん手伝いなよ」
「ふん、ばかちーだって、座ったまま動こうとしないじゃない。
いいのよ、私は味見してあげてるんだから」
「出来上がった料理を味見したって修正きかないての」
と、飢えた手乗りドラにステイを命じる。その代わり立ち上がり、配膳の手伝いを
する事にした。とタイガーも面倒臭そうながらこっちに来た。
じゃ、みんなでとっとと準備するか。
料理の皿はまだたくさんあるのだ。並べるだけでももう少し時間が掛かる。
台所にはちゃぶ台が埋まっても、まだお釣がくるくらい料理があるんだもの。
高須くん気合いれすぎ。もっと違う所に気合いれてもらいたいんだけど。
そう、私は豪華なレストランでも、煌びやかなツリーが飾られているカフェに
いる訳でもない。借家二階の高須家にいる。
デート準備中に、あいつに先手を打たれた。
「川嶋、クリスマスイブは仕事ないって言ってたよな。だったら家へ来ないか」と
一瞬、家デート?、イブの間中、ずっと二人きり?。なんて思ったが、
そんな事ある訳もなく。
「おう。高須家クリスマスパーティーをやるんだ。お前も参加しろよ」
と罪のかけらもない言葉。今でも思い出せる。あー、腸が煮えくり返る。空気読んでよ。
そして、今、現在も罪のかけらもないが、生活臭がすごくする言葉が
台所から聞こえてくる。
「大河、もう少し待っとけ。刻み葱と合わせて食べないとそのチャーシューの真価は問えねぇ」
まぁ、それが高須くんなんだろうけど。
でも、今日は付き合って初めてのクリスマス前日の夜で、
私が初めて特別な人とすごすイブなんだけど、
ねぇ、竜児。
とりあえず、憎らしい高須くんの顔を見に、台所に入る。
「川嶋、お前、仕事で疲れてるんだろ。いいから座ってろって」
「いいよ。だってタイガー、飢え飢え虎状態。これ以上いくと人食い虎に化けかねないよ」
諦めてる?。多分、納得してるんだ。こんな心配をしてくれる高須くんの事も。
そんな彼氏にどうしようもなく惚れ込んでる自分にも。
高須家は季節毎のお祝いを目一杯たのしむのだとか。
だから十二月はクリスマスと大晦日はみんなで、家族で祝う。
そこに恋人とか、甘いロマンス的な発想はないらしい。あーあ。
つまりクリスマスも季節毎の節句のようなイベントの一つでしかないらしい。
季節を楽しむ、それが高須家流だって。
そういえば、食べ物も季節ものが一番ってゆずらないものね。
家族パーティという事で部屋も自分達で飾りつける。手作り感が一杯な感じ。
私が現場から貰ってきたもみの木の枝をツリーに見立て。
段ボールで土台をつくり、ちょっと大きいけど学校に仕舞い込んでいたあの星を飾る。
壁には、いろ紙で作った輪のチェーンをいくえも吊るし、
折り紙で鶴やトナカイ、虎や、竜や、チワワをみんなで作った。
私も仕事の合間に折ったやつを持ってきた。
そんなこんなで、タイガーのつまみ食いを牽制しつつ、ちゃぶ台を食べ物で一杯にする。
台所にもまだまだあるが、それは第二段、第三段らしい。
高須くんのお手製料理。タイガーが容易した有名ケーキ店のショートケーキをホールで、
泰子さん特性のお好み焼きもならんでいた。
私はシャンパンを用意したんだけど高須くんに止められた。お堅いな。
だから、タイガーがみんなの分のジュースを注ぎ、
高須くんのとなり、引いてくれた座布団にすわり、
泰子さんからクラッカーを受け取り、準備完了。
「「メリークリスマス!」」
パーティは今まで経験した事がないくらい騒がしかった。
泰子さんも、ひさびさ♪と、お酒を飲み。私たちはジュースでお相伴…のはずが、
いつのまにか持ってきたシャンパンは空になっていて、それどころか焼酎の空瓶が、
料理用の日本酒まで…
気がついた時には高須くんもタイガーも酔い虎の、酔いどれ893。
冗談まかせに高須くんを脱がしても抵抗しないし、私が脱いでも止めないし。
虎が癇癪起こさなければそのまま行けたんだけどな。
でも良い事知った。したくなったら酔わせればいいのか。
それで逆上したタイガーとなんだかんだで勝負事。
タイガーと張り合った末の大食い大会。
これじゃ明日から正月まではほとんど絶食状態で過ごさないとまずい。
お正月も高須くん家で過ごす予定だからちょっと心配。絶対太る。
こんな大騒ぎしたのは久々だ。
というかクリスマスでこんなにはしゃいだのは子供の時以来だった。
タイガーは酔っ払って、腹を一杯にして、そのまま夢の国の住人になってしまった。
そのチビスケを高須くんが運んでいく。
これまた寝てしまった泰子さんと一緒に泰子さんの部屋でぐっすり状態。
それにしてもお姫様だっこって、それ私まだしてもらってない。
それなのに私はというと後片付けの真っ最中。台所でお皿洗い実施中。
本当、なんで私は人の家で皿洗いをしてるのだろう?。
しかも、イブの日に一人で水仕事。これってかなり寂しい話じゃないだろうか。
昔の私がこんな姿をみたらどう言うだろう。
二年前の豪華な、薄っぺらな、業界パーティに出て、作り笑いを浮かべてる私なら、
「最低。そんな事ありえないんですけど。貧乏くさ」と軽蔑を目に浮かべるかもしれない。
去年の私なら、学校の体育館から一人で帰って、部屋の隅で座っていた私なら、
「……そんな事ある訳ない」なんて、暗い目を伏せたまま、否定するのだろうか。
だけど、ほんの少しのボタンの掛け違いから、高須くんとキスしてから、
たどり着けたのがこの場所なら、それはあまり悪い事じゃない気がする。そして少し誇らしい。
そうなのだ。これ以上、求めたら罰があたるのではないかと不安になる
性悪女にはそれ相応の戒めがおりる気がする。
タイガーじゃないが、クリスマスくらいい子にしなければ。
「一人でやらせちまって悪かったな、川嶋。ここからは二人だ。
とっとと二人でやっちまおう」
なんて、私の横に来て、一緒に後片付けをする男の子がそばに居てくれるのだから。
あれだけあった片付け事もあっという間に終わってしまった。
途中から、自分の方が綺麗に洗えるなんて話になって、高須くんの掃除魂に火をつけて、
どっちが手早く、清潔に洗えるかという競争になった。
そんな事をしながら、ちょっといちゃつけた。
だから、十分だと思う。
片付けてしまった台所。残念に思いながらここにいる理由もなくなった。
さすがにチビトラが寝てるのに泊まって、高須くんにぴったりとひっつく訳にもいないし。
とりあえず、付けていた赤いエプロンを外し、手あれ防止用のゴム手袋を外す。
そして定位置の食器棚の隣、雑貨入れにしまう。
このエプロンは亜美ちゃん専用高須家エプロンだ。ゴム手袋は高須くんからのプレゼント。
来るたびにカバンに入れておく必要がないので楽でいい。
それにこの家に自分のものが増えていく事がなんだか嬉しい。
さていい気分のまま帰りますかと、
「帰りのタクシーを呼ぶね」と一言断りを入れて、携帯を取り出す。
すると高須くんが慌てた顔で、
「川嶋。お前、もしかしてこれから仕事か?」
「ん〜、仕事じゃないよ。言っとくけど、虎曰くのひまちーって訳じゃないんだからね。
たまたまOFFで明日の午前中まで仕事ないだけだから」
誰かさんと一緒にすごす為のたまたまだったんだけどね。
「じゃあ実家に帰るのか?」
「違うよ。いつもと同じ、おじさんの家」
芸能界の最前線にいる両親は顔つなぎの為のパーティ三昧。
子供のころ意味も解からずついていったパーティ。
意味がわかってから仕事の為に参加したパーティだ。
今年は特別に不参加にしてもらった。
今年のような事が来年もあるならもう参加する事もないかも。
だから、実家に帰る必要もない。今住まわせてもらってるおじさんの家に帰る。
もっとも、おじさん夫婦も仕事がらのクリスマスパーティに参加中。今日は誰も居ない。
帰るのは誰も居ない家だけど、今日はそんな寂しくない。
まだ時間があるのがもったいないが、今夜はとってもいい夢を見れる気がする。
このまま布団に入り、そんな夢見る少女も悪くない。
「だったらそんな遠くないだろ。タクシーなんて頼むなよ。MOTTAINAI」
でたよ。この男の節約根性。でもさ、夜道を一人で帰る彼女の身の心配しないってどういう事?。
かなりカチンと来てしまった。
どう文句を言い返そうかと、睨みながら心の中で一番効果的な言葉をならべていく。
あれがいいか?、いやこっちの台詞の方がもっと効果的か?。
だけど…
「タクシーなんて使うなよ。代わりに俺が送ってやるから」
なんて、視線を外しながら言ってきた。って、え、意味解からないんですけど。
用意していた言葉が吹き飛ぶ。ついでに言語能力も吹っ飛んだ。言葉が出ない。
「今日、クリスマスイブだろ。お前と過ごす初めての」
そんな台詞を続けざまに投げてくるのだ。この凶悪犯版まがいの人相悪は。
だから…
とにかく、吹っ飛んだ言語能力の代わりに、精一杯の力を振り絞って
こくん と頷く。
高須くんはそれを横目で捕らえると、外着になるため、自室へと向った。
なにかもう、一秒でも惜しい。とりあえず。すぐ外に出られるようにコートを羽織る。
いや、羽織ろうとするがなかなか袖が通らない。
なんでこんな時に限ってこんな簡単な事に時間が掛かるのだろう。
無駄に手間どったがコートを着終わる。そしてマフラーを巻く。が、これもなかなか決まらない。
そんな事をしている内に、準備を終えた高須くんが近づいてきて、マフラーを勝手に直す。
余計な事をするなと、頬を膨らまし、上目遣いながらも、非難の目を向ける。
そんな仮面を被る。
そうでもしないと、頬が緩む。目じりが下がる。
そして、彼が一瞬、驚いた隙に前を向く。
顔を見られないように。
既に口元が緩んでしまっているから。
そして、高須くんの手を握ると、足早にドアを開け、外に飛び出す。
やっぱり私は性悪だ。腹黒女はそう簡単にいい子になんかなれない。
こんなに強欲なのだから。したい事がたくさんある。
もっとこの時間をすごしたい。一緒にいたい。クリスマスイブはまだ数時間ある。
そして、クリスマスはこれからだ。
END
以上で全て投下終了です。お粗末さまでした。
176 Jp+V6Mm ◆jkvTlOgB.E sage 2009/12/24(木) 20:57:13 ID:Koa4Tk9X
朝規制かかったってのに書けてよかった。
こんばんわ。 時期ネタでクリスマスものを投下させて頂きます。
でもエロは無いです。いつかは投下したいと思うのですが現在修行中。
他の方のエロは勉強になるので是非投下して欲しいです。
題名 : 十二月二十四日の日常
方向性 :ちわドラ!で、ただ甘の展開。
お話的には薄いかな
とらドラ!P 亜美ルートを経て、竜児と亜美が付き合ってる事が前提
長さ :6レスぐらい
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