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234 勇者の代わりに竜児が(ry ◆NHANLpZdug sage 2009/12/27(日) 03:01:23 ID:ohZCkKTg



川嶋の美貌が苦痛に歪み、眉間に深い皺が刻まれる。急所狙いで突き出された凶刃を避けきれ無かったのだろう……
片刃の長剣が川嶋の左肩に深々と突き刺さり、白銀の刃は真っ赤に濡れている。
大丈夫なんだろうか?心配だ。あんなケガしたら、普通は痛い痛いと泣き喚きそうなもんだけど、川嶋は悲鳴ひとつあげやしない。
まさか、川嶋まで不死身の身体……いや、違うみたいだ。良く見れば涙目で、下唇を噛んで必死に痛みをこらえているっぽい。ああ、何か可愛い。
そういえば、川嶋は結構、虚勢を張るタイプなんだよな。きっと、ホントは痛くて痛くて仕方ないのに…そうは見せまいと我慢してるんだろう。健気だ。いじらしい。
「つ〜か〜ま〜え〜た〜☆」
川嶋は無事な方の手を伸ばし、フロンティアの仮面を掴んだ。余裕ぶってるが声は勿論震えている。
「なんのつもりだ?」
「怪しいんだよね、この仮面。どの位、怪しいかって言えばニブチンの高須君でも薄々勘付く位怪しいね。」
確かに。あの仮面は怪しいと思う。絶対、何かある。って、うるせぇよ!!誰がニブチンだよ。
「ほう…で、どうするんだ?私を見て仮面が怪しいなんて、誰だって考えるさ。」
−この仮面は一生取れない呪いのアイテム−
初めて会った時、フロンティアはそんな事を言っていた。
「案外、あんたもニブいんだね。あんな非常識な戦い方をしておいて、まだバレてないと思ってるの?」
ベリベリベリベリ……まるで、生皮を剥ぐ様な嫌な音。
川嶋が強引に仮面を引き剥がした。初めて、露わになるフロンティアの素顔。
その顔には傷ひとつなく、見目麗しい楚々たるジパング風美人。しかし、その表情は浮かない。
「なッ!?」
バキィッ!!
剥がれない筈の仮面を剥がれ、動揺するフロンティアの虚を突き、川嶋は手にした石仮面でその頬を思いきり引っ叩たいた。
あれは…痛い。余程、勢い良く殴りつけたのだろう。石仮面が粉々に砕け散り、フロンティアはその衝撃で大きく吹っ飛ばされた。
恐らくは、バイキルトで強化されたビンタ。しかも石で。川嶋の奴、容赦ないな……


容赦ないのはフロンティアも同じか……川嶋は肩に突き刺さったままの剣を抜こうとして、苦悶の表情を見せている。
刺された時より抜く時の方が痛いらしい。小さく呻いているし、血がドバドバと派手に噴出している。見てらんない。
一方、吹っ飛ばされたフロンティアも先程までの不死身っぷりが嘘の様にダウン。ピクリとも動かない。
「なんで仮面が剥がれたか不思議で仕方ない。信じられない。そんな顔をしてたね。教えあげようか?」
そして、始まる川嶋のスーパー解説タイム。
「そもそも、完全な不死なんてのはあり得ないんだよ。これでもあたしはその分野の専門家だったからね。それ位、わかる。
あんたのバカげた耐久に理由を付けるなら、ニつに一つ。魔法に耐性がある何を装備しているか、仮初めの不死を得ているか……
例えば、あたしに刺さってるこの剣…魔力を秘めた、くさなぎの剣ってやつだよね?あんたが剣で魔法を斬ってみせたのはこの剣のおかげなんでしょ?
普通の剣で火球を斬っても剣が素通りするだけ、でも魔力剣なら魔法で生んだ火球を散らす事が出来る。これが対魔性能。
でも、あんた自身の装備に対魔性能は無い。いくらなんでも、必殺のメラゾーマ×5に耐えれる訳ないからね。
そんな対魔装備がこの世にあったら、魔法使いは商売上がったりだよ。なら、答えはあんたが仮初めの不死を得ている。って事になるよね?
そこで目に付くのは、そのいかにもな石仮面。わざわざ、剥がれないように呪いまで掛けて……
けど、残念だったね。あたしはイシス出身者。その手の呪いにはちょっと詳しくてね。だから解呪なんて楽勝♪
けど、あたしも人の事は言えないけど、あんたも恐ろしい術を使うよね。屍肉呪法。死者に仮初めの命を吹き込む禁術。
あんたがその対価に誰の命を使ったのかは知らないけど…先代さんはそんな事平気でする人たちなんだね……
この世に一本しか、存在しない筈のくさなぎの剣を持ってた事といい、多分、あんたの正体は−ッ!?」
この時、ピクリとも動かなかったフロンティアが動きをみせた。
「私の正体暴きはあの世でしてくれッ!!」


「うぁぁあああ………」
肩の傷口から例のツタが伸び始めた。流石の川嶋も堪えきれずに悲鳴をあげる。
伸びたツタはそのまま身体を引き裂き…はしなかった。ツタは一瞬で炭と化した。川嶋の左腕もろとも。
そのままにしておけば、致命傷を受けると言っても、即、自分の腕ごと火をつけるなんて、川嶋もとんでも無い事をする奴だ。
「くくぅ……屍の分際でぇ〜…今、土に還してやる……。」
もはや、ぶりっ子やってる余裕も無くなったのだろう。ついにブチキレた。
川嶋らしからぬ鬼の様な形相でこちらを睨みつけ、右手には当たったら火傷では済まなさそうな、業火球が渦巻いている。
ああ、なんで俺はこんな事やってるのかな……今、俺はフロンティアを庇う形で川嶋の前に立っていた。
先ほど、術者である川嶋がダメージを受けたせいかどうかは知らないが、俺の硬化が解けたのだ。
「そこをどけ。お前が私の代わりに死ぬ事は無い。」
ヤなこった。俺は別にあんたを庇ってる訳じゃないのさ。ただ、川嶋に手を汚して欲しくないだけ。
怒った顔も可愛いよ。可愛い。やっぱり、川嶋は可愛い。……。火が消えた。綺麗な細い腕から。俺の好きな手から。わかってくれたのか?川嶋……
「そう。庇うんだ?高須君はそっち側に立つんだ?」
…え?いやいやいや、そうじゃなくて。そういうんじゃないから、これ。
「良いよ。言い訳なんか聞きたくない。そうだよね?あたしはもう高須君の仲間じゃなかったもんね……」
川嶋の身体がすぅーっと消えていく。
「さよなら。次に会った時には覚悟してね。あたしはもう覚悟したよ。
力づくでもキミを手に入れる。従属か死か、次回までに答えを出しておいてね。それじゃ。バイバイ♪」
それが最後の言葉だった。ヤな事を宣告して、川嶋は霞の様に消えてしまった。
「あ〜あ。せっかく会えたのにな。お前が早く告っちまわないからだぞ?」
お前……誰のせいだと思ってんだよ……


「そうだな。私のせいだ。それは認める。スマン」
意外にもフロンティアは素直に自分の非を認め頭を下げた。
「責任は取ってやるよ。私を好きにして良い」
は?なんだって?
「てめぇに抱かれてやるって言ってんだよ。あいつの代わりにな。どうせ溜まってんだろ?
なんだよ…私が相手じゃ不服か?屍が相手じゃ勃たねぇか?前に言った通り、私は美人だと思うが…てめぇの好みじゃないか?」
いや、そういう問題じゃねぇだろ?ってか、さっきから屍とか言ってるけど…どういう事なんだ?
どう見ても、お前は元気に生きてるよな?それと、何でそういう話になる?説明を求める。
「それ位察しろよ……まあいい、ニブいお前にも解る様に1から丁寧に説明してやるよ。」
フロンティアは、膝を折り力無くその場に座りこんだ。余程、堪えているらしい。そして始まるハイパー説明タイム。
「まず、私は半年前に一度死んでるんだよ。屍ってのはそのまんまの意味。私は生ける屍。つまりアンデットだ。
つっても、その辺りのリビングデッドとは違う。肉体の滅びは無いし、自我もちゃんとある。
さっきあいつが言ってたろ?屍肉呪法っつってな。生者の生命力を仮面に取り込んで死者を動かす術だ。
但し、生命力を仮面に奪われた人間は死ぬ。故に禁術だ。ちなみに私の場合は妹の命を頂いた。まあ、それも仮面を砕かれてパーになった訳だが……
本来なら仮面を剥がされた時点で、私は物言わぬ屍になる訳だが、そこはもう一つカラクリがあってな。
蘇った私は、まだ動いていた妹の心臓を抜きとって、自分の身体に取り込んだのさ。だから、まだ辛うじて動ける。
ちなみに、妹は僧侶だった…戦士の私が回復呪文を使えるのはそのおかげって訳だ。もっとも、妹はこんな呪文の使い方はしてなかったがな。
さて、ここまで話たんだから、そろそろ私が誰なのか見当が付いたか?」
いや…全然。さらりと話してくれるが、こっちは、はい。そうですか。とは流せんぞ、内容的に。
「軽く流してくれて結構。私たち姉妹の事は他人には解らんよ。私は妹にした事を悔いてもなければ悪いとも思っていない。
まあ、私がもう一度死んだとき、妹と同じ場所には行けないだろうけどな。
それより、お前はどんだけ察しが悪いんだ……


すみれと名乗れば解るか?二代目さんよ。私は初代勇者の無念を晴らす為にお前たちの仲間になったんだよ。
言ったろ?大切な奴らがあのハゲに殺られたってな。あいつらの仇を討ち、悲願だったバラモス討伐をこの手で果たす為に私は蘇ったんだ。
で、それは妹の願いでもある。まあ、結果はお前も知る通り。ざまぁねぇな私も。地獄行きで良かったよ。会わせる顔がねぇもん。
所詮は借り物の心臓だ。私はもう永くない。直に動けなくなる。そうなる前にお前に私を抱いて欲しいんだよ。ダメか?」
………。色々と思う事はある。エライ事を聞いてしまった。しかし、今は考える時じゃない。フロンティアは、俺の事が好きなんだろうか?それとも…
「バーカ。そんなんじゃねぇよ。それに、もうフロンティアじゃなく、すみれと呼んで欲しい。
私がお前を好いてるだと?バカ言え。私はただ、処女のままじゃ死んでも死にきれんと思っただけさ。
……。なんてな……。この身体はもう何も感じない。誰に抱かれても何も感じない。空腹感だけがある。満たされない。寂しいんだよ私は」
俺は、何も言わずにただすみれの口を塞いだ。冷たい…と俺は感じた。熱い…とすみれは呟いた。
なら良い。熱いなら良かった。お前は俺の仲間でもあるんだから。短い間だったけど、確かに仲間だった。
すみれの身体は、どこを触っても冷たかった。ひんやりだとかそういう冷たさでは無い。寒気すらした。身体の外も中もただ冷たい。
少しでも、暖かさを感じて欲しい。俺はそれだけを考えて、触れた。突いた。
今だけは、川嶋の事も他の皆の事も忘れて、考えない様にして……でも、最後まで、すみれがそれらしい反応を見せる事はなかった。

そして、事後。俺は1人で玉座の間を出た。
「わりぃな。良かったよ。ありがとう。それじゃあ、もう行ってくれ。私の身体が朽ちていくのをお前には見られたくない。
私の前に道は無い。あとはもう死に方の問題だけだ。死に方のな。
少しでも私を仲間だと思ってくれているのなら、そのまま振り返えらずに行ってくれ。頼む。
お前たちと一緒に旅が出来て、ホントに楽しかったよ。じゃあな。あの性悪と仲良くやれよ。」
それが、フロンティア。いや、すみれの最後の別れの言葉だった。


胸が痛い。気分が悪い。ムカムカする。救われない話。誰が悪い訳でもない、だからこそ腹が立つ。
中庭に出ると、なんか緑の奴が居た。櫛枝と大河と絶賛死闘中。何だ…ちょうど、いいのが居るじゃないか。
次の瞬間には、目の前が真っ赤になって…その日の俺の記憶はそこで途切れている。

−80日目−

俺は今実家に帰ってきている。何もする気が起きず、皆にはしばらくオフだと伝えておいた。
特に何をするでもなく、部屋でゴロゴロしながら色んな事を考えていた。川嶋の事。すみれの事。
やらなきゃいけない事は目白押し。でも、どうにも体が動かない。動きたくない。
ガッシャーーン!!
下から皿の割れるやたら景気の良い音が聞こえた。これで通算何枚目だろう……
割ったのは大河。あの日、バラモス城から戻ってきて以来、大河は我が家の居候として居着いている。
久しぶりに家に帰ってみたら、家が差し押さえられていたらしい。何でも、俺たちが旅に出ている間に大河の親父さんが破産して夜逃げしたんだとか。
何でも、大きな失敗をしていまい、周りが誰も助けてくれなかったそうだ。余程、汚い商売をやっていたのだろう。まあ、自業自得という奴である。
そんな訳で、いきなり家無き子になってしまった大河をとりあえずウチで面倒を見る事にしたのだが…
大河という奴は妙なトコで義理堅く、一宿一飯の恩とか言って、泰子の仕事を手伝っている。
正直に言えば、大人しくしていて欲しいのだが、頑張っている大河に水を差す様な事は言いたくない。
よって、毎日皿が犠牲になっている訳である。MOTTAINAIとも思うが、必要経費という言葉もある。我慢しよう。
それと、もう1つニュースがある。魔王バラモスを倒したら終わりだと思ったら終わりじゃなかった。
「ワシがいる限り世界は闇に閉ざされるだろう。そなたらの苦しみこそ我が喜び。」
などと、ドS丸出しの声明が大魔王ゾーマを名乗る影から下された。
正直、やってられない。もう…いいだろ?誰もが俺に期待している。バラモスを倒した勇者がゾーマも倒してくれる。
でも、バラモスを倒したのは俺じゃない。川嶋だ。俺はただ見ている事しか出来なかった。


そんな俺にやる気を出せと言うのはムリな相談だ。旅を続けるには色々ありすぎた。俺はもう疲れた。
「ヤッホー。一緒にスゴロクでもやろうぜぇ〜」
ノックも無しに勢いよく扉が開かれた。櫛枝が部屋へと乗り込んできた。櫛枝はオフになってから毎日決まった時間に部屋へ来る。
毎回、毎回、友情破壊系のボードゲームを持参して、遊びに来る。
「旅の続きをしよう。」とか「いつまでも寝てないで動け」とは一切、言わない。気を遣ってくれてるのだろう。
今日も、太陽みたいな笑顔で俺を照らしに来てくれた。でも、俺の心は、もう陽の当たらないどん底まで堕ちてしまった。
櫛枝を見ても気分が晴れないなんて……俺はもう二度と這い上がれない気がした。
自然と涙がこぼれた。別に悲しくて泣いた訳じゃない。とうとう涙腺まで壊れたらしい。心の方はとっくに壊れてしまった気がする。
「…元気だせよ高須君。何があったのか、私は知らない。けど、高須君にそんな顔で居て欲しくないんだ……」
それなら…わざわざ俺の顔を見にくる事も無いだろうに。放っておいてくれたらいい。
「ヤダよッ!!そんなのヤダ。もしも…あーみんの事を考えてるなら、もうヤメなよ。」
櫛枝には関係の無い事。けど、怒鳴りつける気力もない。
「関係なくなんか無い……
好きな人が不幸になろうとしてるのにッ!!放っておくなんて私には出来ない。私は高須君が好きなんだ。
友達として、仲間として、なんて逃げたりしない。ずっと好きだった。私は高須竜児が好き。」
突然の櫛枝の告白にも全く心が動かない。こんな男は櫛枝の為にならない。お前の方こそヤメた方が良い。
好きだった櫛枝に不幸になって欲しくはない。
「………んむぅ………」
唇が熱い。櫛枝は情熱的だな。
「私の事は良いんだよ。高須君が元気になるなら私はなんだってやる。」
なんだって…か、その言葉に冷たい身体のすみれを思いだす。
「勿論、それだって良いよ。高須君が望むなら受け入れる。」
良くはないだろ…お前が傷付くだけじゃないかよ。
「良いんだよ。高須君の気が少しでも紛れるならなんでも良い。」


俺の方が良くねぇ。そんなのはゴメンだ。
「何で?私の身体に魅力が無いなら、変化の杖であーみんに化けたって良い。私は高須君さえ元に戻ってくれればそれで良いんだッ!!」
櫛枝は、勝手に服を脱ぎ始めた。俺も、櫛枝から目を逸らしたりはしない。だが、その豊かな胸も薄い茂みも、俺の心を打つ事は無かった。
櫛枝の献身的な奉仕も虚しく、俺はホントに何かが壊れてしまったんだという自覚を強めるだけの事だった。

−81日目−

朝早く、しばらく振りに外へでた。街の外ではインコちゃんが待っていてくれた。俺は1人で、インコちゃんの背に飛び乗った。
ホントは旅になど出たくないが、もう家には居づらい。櫛枝にも大河にも顔を合わせたくない。
このままだと、きっと2人を不幸にしてしまう。俺はギアガの大穴へと飛んだ。死ぬには良い日だ。



ぼうけんのしょ1 りゅうじ

冒険の書にありのままを書いたら、神父が凄い顔をしていた。でも、ホントの事なんだから仕方がない。
自分の冒険の書を読み返してみれば、最初の辺りからずっと川嶋の事ばかり書いてあった。
俺がもっと早くに気がついていれば、こんな事にはならなかったんだろうな…

PS.
ギアガの大穴から飛び降りたら、別の世界にたどり着くらしい。
天国ではなさそうだし、案外すみれの行くべき世界と同じだったりして…


242 勇者の代わりに竜児が(ry ◆NHANLpZdug sage 2009/12/27(日) 03:08:35 ID:ohZCkKTg
今回はココでおしまいです
次回も良かったらミテネ

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