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Happy ever after 第1回
「これからゆっくり、話していこうね、竜児」
こうして、高須竜児と川嶋亜美は末永く、幸せに暮らしました。めでたし、めでたし
とは簡単には行ってなかった。
「予想はしてたけどね、まさかここまでゆっくりって、どういう事よ」
川嶋亜美は自販機の間に身をおいて、一人反省会を行っていた。
一度は大橋高校を離れた彼女であったが、「「高須竜児を落とすため」」と高校3年の5月に戻ってきた。
いや、やっと帰って来る事が出来た。
学校を離れている間、彼女は不安で一杯だった。
もし、既に逢坂大河や櫛枝 実乃梨が高須と付き合っていたら、
そこまでで無いにしても以前のように彼女が入る余地の無いほどの仲になっていたら、
数えれば切りが無いほど嫌な想像が浮かんでは消えた。
だが、彼女は耐えた。
自分が選んだ仕事を中途半端にしては、胸を張って戻る事が出来ない。
彼の前を歩き、導ける自分でありたい。
自分が居ていい、いや自分自身もその一部である世界が待っていてくれる事を、
そして、目つきの悪い、心根の優しい少年の事を信じて
結果として、映画の仕事は一定の評価を得、ドラマの仕事も勝ち取った。その上での転校である。
もっとも、北村祐作を通して近況の確認は常にしていたのだが。
「そりゃ、私だってそんな簡単に行くとは思っていなかったわよ、あの高須くんなんだから」
そうは言っても、転校前日の川嶋亜美は遠足前の小学生よろしく、希望的観測を膨らませていた。
もう、自分にはチャンスは無いと諦めかけていたはずなのに、あの高須竜児がキスまでした。
とあれば、期待しない方が嘘というものだろう。
−実乃梨ちゃんとも、タイガーとも付き合ってないって事は私を待っててたくれたと思っていいよね。
 営業用の顔でも、演技でもない、本当の私がいいって・・・・、キスをしてくれた。
 
 だとしたら、再会の時、高須くんは何って言ってくれるのかな。もしかしたら付き合ってくれとか言われたりして。
 ううん、もっと凄い事かも、例えば
  「嫁に来いよ!」とか
  「死ぬまでの俺の人生をお前にやる!」とか超言いそう。
 早すぎだよね、私の芸能人人生考えたら。でもスキャンダル的に取り上げられるよりいいのかな。
 ってさすがに高須くんに夢見すぎか、そんな純情一直線男、今時居ねって。理想押し付けすぎだろ、私は。   
 兎に角、私を待っていてくれた事は間違い無いとして、高須くんが言い出し易いようにリードしないと。
 鈍感な高須くんにも判るように、しっかりとスタートラインを切れるように、みんなの前で宣戦布告して。
 最初が肝心だから、呼び方も変えよう。高須?ううん、これだと余計友達感覚だし、竜児くん、竜ちゃん、もう一歩か、
 竜児! これいいな、これにしよう。
 ちょっと、タイガ−の事羨ましがってたとか思われそうだけど、これから二人の関係を作っていけばいいだけだし、楽・し・み −
転校前日の亜美の頭の中は正にお花畑状態だった。だが現実はサボテンしか生えてない荒野である。
「はい、はい。私が馬鹿でしたたよ。ほんと、ばっかみたい。気の利いた言葉はあの口からは出てこないだろうなと思ってたけど、
 いくら私がアクションとっても「おぅ」とか「あぁ」とかばかり。マジ酷い。
 なんか前までは楽しかった会話も、空気重いし。
 あれかな、久々にあって思わずキスしちゃって、引いちゃった?でも、ほっぺだよ。マジチューとかじゃないじゃん。恥ずかったけど。
 もしかして、タイガや実乃梨ちゃんと条件が同じどころか距離広がってる? 
 なんでだろ、高須くんは融通は利かないからかな、
 その分嘘はつけないけど、誠実だし。
 びっくりする程鈍くて、色恋沙汰に関して馬鹿だから?
 だから相手の事を一生懸命理解しようとしてくれるんだけどね、優しいし.....」
亜美は物思いにふけりながら静かに目を瞑った。自然と口元がにやけてしまっている。
恋する少女は無理やりにでも、サボテンの花をさかせてしまう。
モデルとして、人様には見せられないあられもない表情になってしまているが。
その静寂を一つの音が破った。誰かの足音がする。それは聞きなれた足音だった。
−高須くん!どうする。どうしよう?
 とりあえず、軽く挨拶して、えーと、今日のスケジュールは、ラッキー、夜の撮りまで時間空いてるから放課後は大丈夫。
 スドバにいく流れに持っていって、お茶したいな。
 んー、でも高須くんはゲーセンの方が喜んでくれるのかな、それなら、それで......、
 嘘、足音止まった。もう目の前じゃん。とりあえず声かけないと、元気ないって心配されるかも −
急いで、しかし、柔らかく、上目遣いを意識して顔を起こし亜美は声を掛けた。
「竜児。おは・・・よ・・・・う?」
そこには
後ろ足に体重を掛け、上体をそらし、目を異常に開き、凶悪な眼光を眼底に湛えたチンピラが
いまにも”ここは誰の島か解ってるんかい”と言いそうな感じで口を半開きにし立っていた。
「はぁー、あんた何キョドってるの。キモイんですけど」
高須竜児は微動だにせず、いや出来ずに返答する。
「い、いやー、吃驚しちまって、固まちまった」
「なにを今更、ここで亜美ちゃんと会うなんて、いつもの事じゃない」
亜美はイライラした様子で、右手で髪を掻き揚げながら言った。
「そうか、いや、俺は誰も居ないと思ってたんだが、そしたらお前が」
−すごくカチンと来た。何だそれ。無理、もう無理−
亜美は勢い良く立ち上がると、そのまま立ち去ろうとした。
それを引き止める様に竜児は問いかける。
「川嶋?どうした、おい」
「さあ〜、なにかな、なんだろうね」
手をヒラヒラと振りながら、竜児の問い掛けには答えず、亜美は振り向かないまま、その場を立ち去った。
放課後までの授業中、亜美はずっと考えていた。
命題は、「「なぜ竜児の態度が変わってしまったか」」 だ。
その解は
高須くんは何かしらの事情があって、今現在!一時的に!元気がない
それを調べて、問題を解決してあげれば、いつもの高須くんに戻るはず。
という都合のいい結論に至った。何だかんだで高須竜児に甘い亜美だった。
まずは調査をしないといけない。そこで友達たちに聞いてみた。
質問
 みんなと一緒に高校生活を送ろうと思ってたのに、少しでも離れ離れになちゃってすごく寂しかったよ〜
 大橋高校に居ない間、みんなが元気だったかすごく心配しちゃった。
 元気でよかったよ。亜美ちゃん超うれしい。 
 ところでさ、高須くんだけ、なんか近づき難さ当社2割増しなんですけど〜、何かあったのかな〜
回答者1 木原麻耶ちゃん
「高須くん?すごいんだよ。2年の3学期から、すご〜く成績よくなっちゃって。
 まるおを抜いた時もあるんだよ。まるおも凄いんだけどね、まるおは元から頭いいのに....」
 以下祐作の事、興味が沸かない
回答者2 能登くん
「高須?普通だったよ、むしろ気合入ってるって感じ、例えばさ、4月って新入生歓迎レクとかやるんだけど、
 その実行委員って人気ないんだよ。春休み潰れるし。誰も遣りたがらなくて困ってる時にさ、
 あいつ、自分からやるって、そんなキャラじゃなかったんだけどな。で、その仕切りが病的にキッチリしてて、
 結果レク大成功。それで.........」
 あまり役に立つ情報じゃない、能登君使えない
回答者3 アホの春田君
「高っちゃん、忙しそうだったよ、もうビュンビュン音がなる感じ、違うかな、ビューかな、ゴアーかも、
 もう教室にもほとんど居なくってさ、あんまり遊んでくれなくてさって、あれ話もういいの?亜美ちゃん?」
     ***
「祐作どう言う事よ!」
−元2-Cのみんなに聞いたが、高須くんが変わった理由がまったく解らない。
 そもそも近況を祐作に聞いていたが、何も変わりないと言っていたのに!−
「よう、亜美。生気がみなぎってるな表情だな。いいぞ。24時間ぐらい働けそうだな」
「何それ、意味わかんねえし」
亜美は、いつもお気楽そうな幼馴染を生徒会室で捕まえた。
ちょうど北村祐作以外誰もいなかった。亜美はクレームで食っている悪徳業者のような勢いで、噛みついていった。
「あんたさ、私に適当な事を言ったでしょう?」
「心外だな、俺は適当な事は言わないぞ」
 −さも、私は善人ですって顔で返事をする男だ、この顔が昔からムカつく。なんだそのしたり顔は−
「あ、あれよ。私が居ない間、メールでみんなの近況聞いたでしょ、で、特に変わった事ないて書いてあったけど、
 でも、変じゃない。たとえば高須くんとか」
北村は携帯を取り出すと、メルメルと操作をした。
「メールってこれか、ええと
 Hello 祐作。そっちはどう 
 こっちはすごく順調、ってか大絶賛、やっぱ才能のち・が・い?
 大橋高校もみんなは元気?なんかあったら教えてね♪
 特に高須くんなんだけど、インフルエンザで入院するわ、
 記憶喪失になるわで不幸続きだから大丈夫かなって
 まぁ、タイガーや実乃梨ちゃんとかいるから大丈夫だとは思うけど
 とにかく何でもいいから返信するように、どんな細かい内容でもいいから
 PS
 絶対返信する事、なるべく早く、急ぎなら電話でOK、しなきゃ一生恨む」
「うぜーから、声だして読むな、真似るな。それ恥ずかしい
 一応言っておくけど、そのメールだけじゃないからね、他にも出してるでしょ、ちょと、読まなくていいから!」
「他のメールったて、ほとんどコピーの手抜きメールだろ。しかも3日に1回、酷いときは半日に1回って、
 お、そうかこれはお前のバイオリズムと連動してるのか、生理とか」
「だから、うぜーての」
「それに全部返信しただろ」
「同じ内容でね、世は全てこともなしだっけ」
「ちゃんと毎回、手打ちだ」
「そういう事じゃなくて、これって正確なの、高須くん明らかに変わったよ」
「高須自身は変わってないと思うが、どっちにしろ、お前が心配してる事は起きてないぞ、亜美」
「別に心配なんて」
「それにしても、亜美可愛くなったな」
「ふん、なにその露骨な話のすり替え、やめてよね」
「高須を紹介してよかったよ」
「!!」
 亜美は顔を赤らめて、一瞬フリーズする。彼女の頭の中でいろいろな関連付けと、過去の反芻を行っていた。
 余計、顔の赤みが増していく事から、内容は推して知るべし
 −なんで、ここで血液が集まる私の顔、体、あんなにメンテしてやってるのに−
「い、意味解かんねぇし。いいやもう、祐作と話してらんない」
「いいから、本人に聞いてみろ」
「言われなくても、そうするわよ」
亜美は、怒りの表情をつくり、そそくさと生徒会室を出て行く亜美、幼馴染の生徒会長が笑顔で見送る。
     ***
−とは、言ったものの、さてどうしたものかと廊下を歩いていると高須くんに会ってしまった。
 というか、私を探してたの?高須くん−
廊下で向かい合う二人
不満そうな表情を作って高須を眺める亜美と、どうしても睨みを効かせてるよう見える竜児
この二人の迫力に廊下を通る僅かな生徒も、その雰囲気に追われて知らぬそぶりで早足で歩き去ってしまう。
「川嶋、すまん。何か怒らせちまったか、俺」
「ふ〜ん、竜児でも怒らせた事くらいわかるようになったみたいね。」
  • 心の準備無しに高須くんに会ってしまった。どうすればいいかな、もういいや、取りあえず聞くしかないか−
「で、怒らせた理由、見当はついた?」
−無茶な言い方だよね、怒った直接の原因は置いといて、
 根本的な原因はキスまでしてくれた高須くんが私の事をどう思ってくれてるのか解らないってことだもの−
「正直、お前が怒ってる理由がよくわからん、だが、お前が怒るんだから、もっともな理由があるんだろうし、
 知りたいと思う。」
「そう、ならヒントをあげる」
−口先だけで謝られてもしょうがないし、正直に言ってくれた事と、知りたいと思ってくれた事
 すごくうれしいよ、高須くん−
「じゃ、これからの質問に答えて下さい」
−ごめんね、高須くん、君の事を知りたいだけなんだ、そして私が思ってることを知ってほしい。
 少しでも今の私の事を見てくれるんだったら、もう一回からかわせて、それでチャラにさせて−
「一つ目の質問、みんなが嫌がるレクの実行委員の仕事を率先して竜児は行ったそうですが、
 文化際の実行委員を決めるとき、亜美ちゃんが竜児に手伝って欲しいから、実行委員になって
 頼みましたが、断りました。何故ですか」
「春田が既になってたろ」
「じゃんけんの結果、春田君になっただけじゃない。レクの実行委員立候補するくらいだったら
 あの時、代わってくれても」
「おまえなら、春田をコントロールして要領よくやれると思ったから、実際うまくやれたと思うぞ」
「む〜」
−ちょっと冷静になろう、ここはあまり深く考えない考えない−
「2つ目の質問、クリパとかレクとかの実行委員をやって苦労をしった竜児は、今思うと、
 亜美ちゃんに悪かったなとか謝罪の言葉は浮かぶと思いますが、どうでしょうか」
「本当、クラスやグループまとめるのって大変だよな。実際やって痛感した。その上
 おまえ実行委員と、プロレスショーの主役とミスコンの司会同時にこなしたのな、すごいと思うよ。」
「いや、だから、そうじゃなくて。いいや、別な質問
 竜児は2年の3学期から、成績が上がったそうですが、なにか理由がありますか。
 例えば、タイガ−の世話する時間を少なくしたから、勉強の時間が増えたとか」
「いや、大河と一緒にいる時間はそんなに変わってないぞ、というか、あれだ。
 たんにやる気が出ただけだ。」
「3学期って、私転校した後だよ」
「そうだな。?」
「む、む では最後の質問です」
 今日、自販機スペースで会った時、なんで私がいないはずって思ったの」
「なんだろう。何時もそうだったから?」
「今は一人の場所なんだ、私の知りたい事が解ったよ。ありがとう高須くん」
−その時の私はなんの感覚も沸かなかった、意識して言葉も選べない。
リミッターが切れた時はこんな感じなんだろうか。てっきり、ストカー騒ぎのように、ブチ切れるかと思ったが−
高須くんの顔を見ることもなく、下駄箱に向かった。
     ***
−下駄箱で、上履きから、靴に履き替えてる。
 なんで、こんな私の動作は緩慢なんだろう、そうでは無い、時間の流れが遅く感じるのだ。
 なんか時間感覚がかなりおかしい。−
夜の撮りまで、このテンション戻るかな
なんで、今日は夜まで撮りがないんだろ、最悪だ
放課後すぐに仕事なら良かったのに、時間が空いてる分もっと落ち込みそう
そうやって、外に出ようとしている時、亜美は外に香椎奈々子がいる事に気づいた。
「奈々子、奈々子にお願いがあるの。今日、帰りスドバに寄らない」
「どうしたの、調子悪そうだけど」
「ちょっとね、私の我侭だって解ってるんだけど、期待してた事と、実際起きてる事があまりにも違って、
 私が確信してた事も私の単なる思い込みじゃないんじゃないかって、自信なくなっちゃった」
「仕事の話?」
「そんな感じ、とっても大事だと思ってた事なんだけど、それも勘違いかも」
「大変そうだね。ちょっとまってて麻耶ちゃんも誘ってみるから」
奈々子は携帯を取り出すと、アンテナが立ってなかったのか小走りで校舎の影に走っていった。
スドバへの道を奈々子と二人で歩く、麻耶ちゃんは少し時間がかかるので、
二人で先に行ってて欲しいとの事だった。
「麻耶ちゃんから、亜美ちゃんが転校している間のみんなの事、気にしてたって聞いたんだけど」
「そうだね、みんな普段通りだったみたいだね」
「それで、高須くんの事も心配してたって聞いたけど」
「聞いた聞いた。元気だったって、私がいる時よりもずっと」
「元気なかったと思うよ」
「うそ、だってみんな、成績が上がったとか、実行委員やってたって」
「私の感想だけど元気なかったと思う、だけど頑張ってた」
「どういうこと?」
「亜美ちゃん転校してから、高須くんが他の人と教室で騒いでるのあまりみてないんだ。
 春田君とか能登君は、高須くんが遊んでくれないってぼやいてた。
 高須くんが成績上がったり、実行委員やったりしてるから我慢してたみたいだけど」
「・・・・・」
「それにね、高須くん教室にいる事自体が少なくなったと思う。
 休み時間になるといつのまにかいなくなって、次の授業までには戻ってくるんだけど、
 缶ジュースとか手にもって入ってきちゃうから、よく先生に怒られてたっけ、
 昼休み以外は自販機つかったちゃだめだとか」
 ふと、小走りな足音が聞こえて来た。聞きなれた足音だった。麻耶ちゃんと後もう一人
「亜美ちゃん、奈々子お待たせ。急いで高須くん連れてきたよ」
   ***
須藤コーヒースタンドバーに向かう道の途中の住宅街、香椎が裏道を選んでいた為、人通りはほとんど無い。
亜美と竜児が対峙する形で向き合い、距離をおいて二人を見守る香椎と木原。
「竜児、で何の用なの」
平静な面持ちで言葉を発する亜美、声色からも特に感情の揺れは感じられない。
「川嶋、すまん、お前が怒ってる理由、結局、自力では解らなかった」
一方、竜児は顔の筋肉に無為に力が入っている、だが言葉の一言、一言は落ち着いた感じ。
「それで?誰かに教えてもらったの?」
「いや。 ただ香椎からアドバイスをもらった」
「なんて」
「お前に心配掛けたく無い と思ってる事を伝えた方が良いって」
 亜美の目が少し見開かれ、僅かに唇が震える。
「言って」
「俺は、お前が映画撮影なんて、すげー所で、自分のやりたい事を果たそうと努力してるのをみて
 お前との距離を広げられたくないと思った。いや違うな、お前に心配されるのが嫌だった。
 後ろにちゃんと居るのか、ついてこれるのか、
 結局はお前に届かない男だと、その程度だと思われるのが嫌なんだ。
 たしかにお前は俺の前を行ってるんだろう、
 だが、俺は今の俺に出来ることを精一杯やって、いつかお前に追いつこうと思っている。
 まぁ、なんだ、お前が俺の事を心配するなんて確定事項のように考えてる事自体が
 俺の思い込みでしかないんだが、呆れてるか?」
「.....うっ......」
 亜美の瞳から、1粒の涙が落ち、亜美の声色が変わる。か細く、泣き声のように
「心配した。
 高須くんが私の言う事、私自身の事を気に掛けてないんじゃないかって心配した。
 高須くんが考えてる事、私には言ってくれないと思って心配した」
「すまない」
「蜂蜜金柑」
「それがどうした?」
「あれ飲んだとき、ちょっと落ち着いた。だから蜂蜜金柑のお湯割りが飲みたい。
 そしたら許してあげる」
「あぁ」
「これからも心配掛ける度に作って、そうしたら安心出来るから」
「あぁ、お安い御用だ」
静かに振り向くと、亜美は少し気まずそうに、困ったように香椎と木原の方を見た。
「奈々子、麻耶ちゃん ごめん」
香椎は静かな微笑で亜美に答える。
「いいよ、そのつもりで麻耶ちゃんに高須くん連れて来てもらったんだから。
 スドバはまた今度3人で行こうよ」
「ありがとう」
亜美はその言葉を聴き、亜美の顔はほどける様に満面の笑み変わった。
その笑顔を見て麻耶は思わず感嘆の声を上げてしまう。そして小さな声で奈々子に囁く
「女優の仕事ってすごいね。モデルの時の亜美ちゃんも可愛かったけど
 仕事で磨かれたのかな、すごく、すご〜く、亜美ちゃんの笑顔、可愛いくなってる」
追伸
「川嶋、座ったか?邪魔だから新聞はどけていいぞ」
「ありがとう、竜児」
焼けた畳の居間に亜美を座らせると、竜児は台所に立ち、手早く薬缶に水を入れ、お湯を沸かしに入った。
高須家では、電気ポットはあるがあまり使われることはない。
ポットで保温するより、毎回沸かす方が少々手間だが経済的だし、環境に優しい。
ふぅー、台所に立つと落ち着く。
川嶋と二人きりで帰ってる時は死ぬかと思った。
櫛枝の時といい、本当に俺ってTOO SHY SHY BOYだぜ、すげー落ち込む。
学校でも、川嶋に不意に会うと言葉を失う。
意識するだけでこんなに変わるとは、こんな事が川嶋にばれたら一体どんな罵声をくらうか知れたものではない。
いや、嘲笑うだけ、嘲笑って、ねっちこくからかいそうだ。あいつは意地悪姑の素質があるから。
そっと、居間の川嶋を覗き見る。心の声を聞かれてないか不安になった。
何故か台所を見ていた川嶋と目があう、只でさえ緊張するのに、あいつはニッコリ笑いやがった。
照れ隠しに言葉を掛ける。
「川嶋、本当に、金柑の蜂蜜付けの付け汁の方でいいのか?
 蜂蜜入りホットミルクも割とお勧めだが」
「うん、蜂蜜金柑の方でいい。私はあの味ここでしか飲めないもの」
「あぁ、これは高須家自家製の味だからな」
「そうだね、あまり飲める所ないよね」
やっと最近になって解ってきた。こいつは時々、寂しそうな顔をする。
俺が気づかなかっただけで、今までも一人でこういう顔してきたんだろう。
と言っても、またこういう顔をさせている訳だし、その理由も解らない訳だが。
くそ、精進足りねえな、俺も。
「ねぇ、竜児、私に近づくために努力したって言ってくれたよね
 それは私が帰ってくるて思ってたから?」
「それはちょっと違うな、お前が戻ってくるとか、来ないとかじゃなく
 お前に、期待外れな男だと思われるのがしゃくでかな、あと精進が足りねえ!」
「私は頭がいいとかそんなの期待してる訳じゃないのに」
「何か言ったか」
「ううん、なんでもない。でも私が期待するのは、そうだな。
 映画撮影中でも、私を迎えに来てくれる男の子、竜児はそうしてくれた?」
 寂しそうな顔をさせたお詫びに頑張ってみた。
「そうしたかもな、例えば、お前がイタリアで映画撮影中に、男を上げた俺と偶然出会って」
「私を虜にするって、あは、竜児、すごくロマンティク!90点あげる」
そこで丁度お湯が沸いた。俺みたいに蒸気を上げて。
飲料用に別にしているタッパから、前回の蜂蜜金柑の漬け汁を出し。
2つのコップにスプーンで入れる、川嶋は割りと甘いのが好きだが、
カロリーの事を考えて、2杯ぐらいにしておいた。そして沸かしたばかりの熱いお湯を注ぐ
「ほら、川嶋」
「ありがとう」
川嶋は、両手でカップを受け取ると、そっと香りを嗅いだ。
「ふふ、金柑の香り」
一口飲み、亜美は長い息をついた。
「うん、これがいい」
そして、カップを置き、懐かしそうに部屋を見渡す。
「この部屋も久しぶりだな、何度かお邪魔したけど竜児と二人きりなんてあの時以来だね。
 やっとここまで戻ってこれた」
ふと、目に入った亜美の横顔は、差し込む夕日のせいで淡い橙色にかすかに染まり、茶色の瞳も琥珀のように透き通っていた。
あの日の亜美のままに
「ねぇ、竜児。竜児は私には慣れた?すごく歪んでいて、超腹黒で、意地悪っ子な素の亜美ちゃんに。
 嫌いになってない?」
自嘲の色を瞳に浮かべ、こちらを伺うように尋ねてくる。
その瞳を正面に見据えて、からかう様に言葉をつむいでみた。ちょとした逆襲のつもりで
「ならねぇよ、素直じゃなくて、無駄に悩んで気使って、意地っ張りな女だろ、本当の川嶋亜美は」
ちょっと驚いた顔を川嶋はしたが、なにか企んでるニヤリ笑いをしやがった。やばいな藪を突っついちまった。
猫のように身を屈め、手を畳につけるとそっとテーブルを迂回してくる。
そして亜美は体を寄せてきた。金柑が香る。
「竜児は、私が、本当の私を見せたら・・・・・どうするんだっけ・・・」
川嶋の顔が静かに近寄ってくる。30cm、10cm、瞳が目の前に.....
「ねぇ・・・・ほら、早くしないとまたタイガ−が来ちゃうよ」
再び触れた川嶋亜美の唇は、やはり熱く甘かった。
END

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