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Jp+V6Mm ◆jkvTlOgB.E 2009/10/13(火) 22:18:06 ID:odSVWLZV



Happy ever after 第5回


「……そう、こんな事お願い出来るのは麻耶ちゃんくらい。
 だから、高須くんと付き合って欲しい」
川嶋亜美は、言いづらそうにしながらも、最後まで言葉を繋いだ。
高須竜児を任せるとしたら木原麻耶に頼むのが一番だと自分に言い聞かせて。

「うん、解かった。亜美ちゃんのお願いなら」
必死の気持ちが通じたのか、言葉少なに、だが、力強い了解の言葉が返ってきた。

亜美は電話を切ると、肩の荷が下りたと、深い息を吐く。
同時に、まったく何でこんな事になったのかと、あて所の無い不満が沸いてくる。
それは数日前の出来事が原因だった。


         ******


ドラマの撮影の合間、出番待ちの間、亜美は台本の読み返しに余念がなかった。
台詞を憶えているわけで無い。そんなものとっくに終わっていた。
ただ、演じる役のイメージを沸騰寸前まで煮詰める。重要なのはそれだけだ。

「亜美ちゃんお疲れさま」
疎ましいとしか識別出来ない声色が現実に引き戻す。
現れたのは同じ年だが、ベテランと言っていいキャリアをもつ、
今回のドラマで競演する子役あがりの役者、Cだった。

「Cちゃんお疲れ様、この前は本当にごめんね」
亜美は天使のような笑顔を作る。
心の中では、以前に大河がCを恫喝した事を思い浮かべていたので、本当に気持ちよく笑えた。

そういうものは何となく伝わるもので、
相手も「この前」と言うキーワードだけで大河の事を思い浮かべて、
「本当、なにあのちびっ子猛獣女、超ありえないんですけど」
と心底嫌そうな顔をする。

「いつもはあんな事言わないんだけどね、たまたま機嫌悪かったみたいなの。
 本当にごめんね」
と、逢坂大河の生態について大嘘をついた。猛獣はどうしたって、猛獣である。
「まぁ、亜美ちゃんの所為じゃないけど」
と嫌なイメージを急いで消し去ろうかとするようにCは軽く頭を振り、
「でもさ、謝ってくれなくていいからさ、ちょっとしたお願い聞いてくれる?」
とニタリと尋ねてきた。

亜美は正直面倒臭いなと思ったが、相手は共演者だ。話を聞かないまま断るわけにも行かず、
私に出来る事なら何でも言って と話の続きを促した。もちろん、100%断る事が前提。
「え〜とね、あの時一緒にいた男の中に、目つきの悪い男いたでしょ。
 あの子紹介してくれない?」
その言葉に完全に不意を撃たれ、亜美は仮面が取れかける。そして次の言葉を誘う事になる。
「亜美ちゃんがこれだけ反応するんだもん。おもしろそうな男だよね」

しまったと自分の過失を悟る。これでは向こうが優勢だ。
断るにしても適切な理由が求められる。
「すごく意外だったから吃驚しちゃっただけだよ。でも、面白くなんてないよ。
 むしろ逆、高須くんって悪人面だし、貧乏だし、いい家の子って訳でもないよ」
と不本意ながら、竜児の欠点をあげつらってみた。
確かに社会的なスペックとしてセールスポイントが無いかもと、
が、それなのに惹かれてる自分を少し嬉しくも思いつつも。

そして、トドメとばかりに
「Cちゃん高い系が好きだから、もっと高スペックが好みなのかなっと思って
 それとも、ああいう男の子が好きなのかな」
自分だったらここで否定するはず、これでこの件を終わらせる と勝算をもって放つ一撃、なのだが

「好きだよ」
迷いの無い言葉のカウンターに、へっと、またも仮面を一瞬外してしまう。

「それでも、亜美ちゃんが友達付き合いする価値があると思ってるんでしょ。
 余計興味出るって。あ、ごめん、本当に亜美ちゃんの彼氏じゃなければの話だけど」
こいつは相手を攻撃する為なら、自分がダメージを受けても構わないと思うような自爆系だったのか、
と別な手をさぐる。ならばこれ以上、竜児と自分の接点を見せてはいけない。
そして搦め手から打って出てみる。暗闘は続く。

「えーと、彼氏じゃないけど、そう、付き合ってる人いるんだよ。私の友達。
 だからね、ちょっ〜と無理だと思うんだ。ごめんね」
両手をあわせ、謝罪ポーズをとり、片目をつぶり拝む倒してみたが、
「そうなんだ、でも亜美ちゃんがライバルじゃなきゃ、私に勝ち目あると思うんだよね」
まったく通用していなかった。


         ******


Cは高須が付き合ってる事を自分の目で確かめないと気がすまないと言い出し、
結局、亜美はその意見を受け入れた。
ただし条件つき、それぐらいの譲歩は引き出せた。
交際している事実を確認したら引き下がってもらうというものだ。

それからの亜美は女優業の傍ら、デート計画を立案、偽装作業に奔走した。

一番の難題、竜児の偽彼女の配役は済んだ。下手な相手ならCの略奪熱に火を付ける
可能性があるが、木原麻耶なら、そのルックス、性格ともにハイレベル、その心配は無いだろう。
お詫びに北村祐作への援護とフォローを約束。あと能登久光へのフォローも少々。

デートコースも準備完了。亜美のレパートリーから最適なお洒落コースをチョイス。
予約、チケット準備も済んだ。

後残るは一つ。なんとなく最後に回してしまった件を解決すればそれで準備完了だ。
難題では無い。助けを求めた手を跳ね除ける奴では無い事は痛いほど解かっていた。
すぐに取り掛かれなかったのはただ、亜美だけの問題だった。

「と言うわけで、亜美ちゃんからのプレゼント、可愛い女の子と一日お洒落なデートだよ。
 デート代はもちろんこっち持ち。準備も既に完了。高須くんは楽しむだけ。
 すごーい、超絶ラッキーボーイだね」
と楽しげな口調で高須竜児に話しかける。それは真面目な相談をする時のものではなかった。
強いおちゃらけ風味が加えられていたのだ。演技過剰という程に。

「あいかわらずな、お前は。人に頼み事をするってのに」
 で、その俺と同じくらい可愛そうな可愛い女の子って、一体誰なんだ」
と当の竜児は呆れた口調のあきらめ顔。

「私から見ても、とってもキュートな子」
すっと流れような動きで、亜美はそんな竜児の後ろに回る。
そのまま首に手を絡みつけ、顔を近づけ、後ろから抱きつくように、
「公認で浮気出来るんだよ。え〜、そんな寛大な彼女いないよ。亜美ちゃん優しすぎ」
とうそぶいた。

手を回された朴念仁は、反射的にといった感じで、とっさに距離を開ける。
「なんでお前は自分の事をそこまで褒められるんだ。大体、浮気って、お前彼女でも何でもないだろ」
そこで、目の前の瞳が僅かに揺れてる事に気が付き、
「わ、わりぃ。ただ俺は、まだ」と続けるが、

亜美は視線を避ける様に後ろを向き
「続きはいいよ。解かってるから」 と静かに言った。


         ******


宇宙の蜉蝣姐さんが言うように、不測の事態は起こるもの。
デート計画の前日、亜美の携帯に麻耶からの電話があった。

麻耶のあいさつの声を聞いた時点で、大体の経緯は理解出来た。
声がガラついていた。時折、咳き込んでいる。
「麻耶ちゃん、風邪?」
「そうなんだ……。今日までに何とか直そうと思ったんだけど、やっぱ無理みたいで」
「大丈夫だよ。無理しないでいいから、取りあえず奈々子に代役をお願いしてみる」
「無理だと思う。私が風邪もらったの奈々子だから」
ここ3日ほど香椎 奈々子は体調不良で学校を休んでいた。

「でも心配しないで、勝手だけど、私が代役確保したから、その報告の電話なんだ。
 本当は私がやれればよかったんだけど」
「ううん、体調不良のままデートなんて説得力無いからしょうがないよ。
 それより代役って?」
「私より適役だと思う。恋人同士って感じの、すごく説得力ある子にお願いしたんだ」

亜美は警告音を聞いた気がした。危惧が姿を現す。一人の女の子の姿で脳裏に浮かぶ。
「実乃梨ちゃんは駄目!」
「え、櫛枝?、なんで?」
「えーと、実乃梨ちゃん、体育大の受験準備で急がしそうだから。
 急にお願いしても迷惑だろうし」
「そう言う意味じゃないんだけど、でも櫛枝なら迷惑とは思わなそうだけど?
 多分、即答で協力してくれると思うよ。
 亜美ちゃんが何を心配してるのかピンと来ないけど、でも、代役の子の方が
 もっとお似合いだと思う。 だって、私、あの二人好きあってると思ってたもの」

再び警告音を聞いたが、今度はそれが形づくる前に必死でかき消す。
考えてはいけない。けして私は邪魔してるわけではない。
だが、それは単に答えを引き伸ばしただけだった。

「じゃーん、タイガーに代役頼んだんだ。あの二人で結構お似合いな感じしない?
 ご、ごめん、今は誤解だと解かってるから。亜美ちゃんの事だって」
「そう、そうじゃなくて…、ううん、違う、でも」
何を否定してるか自分でも解からなかった。だが、自分の考えを打ち消したかった。
麻耶は体調不良からか、そういった亜美の思いには気づかず先を続ける。

「説得にちょっと苦労したんだけどね。この前、撮影所で暴れた事、
 タイガーも気にしてたみたいだったのと、高須くんがタイガーにどうしても
 頼みたいって言ってた事にしたら、
 「竜児がそう言うなら仕方ない」って、しぶしぶ受けてくれたんだ。
 だから、亜美ちゃんから、高須くんに口裏合わせてくれるように言っといてくれないかな?」

そこで、再び咳き込み始める麻耶。
亜美はこれ以上無理をさせたくない事と、混乱する自分を制する事、それだけで一杯になり、
これ以上会話は出来ないと断念して、
「麻耶ちゃん。無理しないで。後は任せて。ありがとう」
と電話を切った。

そうは言ったものの、思い悩み、結局、竜児に連絡し、口裏を合わせるどころか、
デートの相手が逢坂大河だとすら伝えられなかった。


         ******


デート当日、事前にCと合流、尾行の体制を整える。
竜児達のスケジュールは亜美自身が作成したものだ。場所、時間はもとより、
どこから監視出来るのかもチェック済み。
後は彼らを眺めるだけだった。彼女が当日に出来る事はただそれだけだ。

待ち合わせ場所となった喫茶店には竜児が一人先におり、そわそわと回りを見渡していた。
ボトムが白のコットンパンツ、アップスは薄い青地のリネンシャツ。
シンプルで、飾り気が無いがスッキリとした服装。
普段より、ちょっとだけいい服を着た高須竜児。

亜美は、へぇー と感嘆を漏らす。
高須くんには、レストランを予約したからそれなりの服装を着て来てねと
伝えたが、それにしても…

もちろん贔屓という加点により水増しされた点をつけていたが、亜美は高得点を付けていた。
実際、運動部に所属してもいないのに、2年にして大橋高校の福男を勝ち取った、
その身体能力を秘めた体躯は、モデルであった亜美から見てもバランスのとれた
魅力的なものだった。
ただな、あの目つきが台無しにしてるよな。私は割りと好きだけど、
なんてうすく微笑み、そのまま竜児を見つめ続けた。無事にレストランに入れるか心配しながら。
その為、高須より亜美の表情に注目しているCの視線を気づくことは無かった。

当の竜児はかなり緊張した様子で、凶眼を仕切に周りへ視線を走らしていた。
喫茶店に来る客、特に女性は、その死線を受けると短い悲鳴を上げ足早に立ち去る。
その為、店内の人口密度は急激に落ちていく。営業妨害だ と店員の忍耐が尽きる直前、
逢坂 大河が現れた。

「なに、あの男の恋人って、あの猛獣女なの!」Cが呻く。

大河はいつものように、いや何時もより可愛らしい服装で現れた。
上は小花模様のサマーワンピース、ワンピースのボタンは途中から外れ、
フリル一杯のアンダースカートが上品に足元に伸びる。
その服は一見して最高級の布を使って仕立てられた事が解かる。
布地より上質さが伺える大河の髪は緩やかなウェーブを描き、フワっと広がり、煌く。
その髪を恥ずかしげながら、そっと自己主張をするように、小さいなリボンが点在し、飾っていた。
亜美の目からもそれは美しく、そして、いつもより気合が入ってるように見えた。

今度はCが感嘆を漏らす番だった。
「なにあれ、どこの国のお姫様って格好だけど、……似合いすぎ」
その姿は芸能人である彼女たちにとっても、高次元のものだった。

(タイガー、黙ってれば、高級フランス人形もかくや って位の美人なんだよね。
あの凶暴な性格は外に出ないからな)
と亜美は、上手く思考のバランスを取る事が出来るが、Cはただ驚愕するのみ。
で高須くんの反応は、と視線を向ける。

「やっぱ、昨日高須くんに言っとけば良かった。相手がちびトラだって。
 あんな顔見るくらいなら」
高須竜児は逢坂大河を見つけて、心底ホッとした表情をしていた。


         ******


「なんだよ、デートの相手って大河の事か、すげードキドキしたが助かった。今日はよろしくな」
竜児は今までの重圧から開放された反動で陽気に告げる。が、大河は
「こ、こちらこそ、よろしくお願いします。高須くん」
とカチコチと音が鳴るように、頭を下げた。

「なんだ、どうしたんだお前、なんか悪いもんでも食ったのか」
と茶化すも、着飾った娘は無反応。

とりあえずと、彼の大事な被保護者が座りやすいように向かいの椅子を引き、促す。
大河は無言で椅子に座るが、かなりぎこちない。それは椅子ですら
転げ落ちるのではないかという硬い動き。
やっと座ったかと思えば、そのまま硬直、動作しなくなった。

「なんか飲むか、大河はオレンジジュースでいいよな」とドリンクを注文。
そしてまた、無言真空状態が続く。だが、別段、竜児は困った様子は無かった。
無言であることに気まずさはない。大河が喋るまいが、騒ごうが、一緒にいる事は変わらない。
彼女といる事、それは日常、苦痛など何も無い竜児の普段の生活なのだから。
ただ、今日の逢坂大河は少しテンパっていただけ。
そして高須竜児は女の思考回路についてかなり鈍感なだけ。

その二人の様子を監視している、非日常的な傍観者が二人。
「なに、あの猛獣女でも、しおらしい顔するんだ。超うける」
とCが笑い。亜美はそうね と寂しそうに笑っていた。

しおらしいと評価された大河だが、竜児はそんな事に気づきもしなければ、動揺しなかった。
だが心配はしていた。鈍感たる所以だが、それが彼の人の良さの現われでもあった。
「なんだ、調子悪いのか、ジュース来たら来たで、一気に飲み干すし、
 調子悪いなら、この芝居中止しても…」
「大丈夫!、デ、デートの続き出来る」
「そうか?、本当に大丈夫か? とにかく、ここは落ち着かなさそうだから、
 とりあえず次の場所に移るか。えーと、川嶋の予定表だと、次はボーリングと」

彼らがデートをしている街は、港町として始まり、今はその呼び方をベイサイドエリアと変え、
観光都市化した場所だった。
観光向けに再開発されただけに、娯楽施設には事欠かない。
その分、物価も上がっており、倹約家の良妻、高須竜児としては遠い場所だ。

そんな場所にあるボーリング場は竜児達がいきつけのボーリング場とは別の施設。
その外観はちょっとしたホテル然とした立たずまい。場内はより一層、その態が高かった。
自然光を完全に排し、ブルーのライトのみが店内をそっと照らしている。
その為、かなり薄暗い。となりの人間が僅かに見える程度。
点在する大き目の液晶ディスプレイでは、洋楽のミュージックビデオがサイレントで流れている。
サイレントで流す意味がどれくらいあるのだろうか などと竜児は素朴な疑問をうかべる。

レーンとレーンの間は小さなパープルホワイトの光が並び、真夜中の高速道路の車列のように
ピンまで伸びる。ピン自体は蛍光塗料が塗っているのか、ぼんやりと闇の中浮かび上がっていた。
装飾物は多くないが、それぞれが高級感がありで、ハイソな雰囲気を作っている。
ただしボーリングする雰囲気でもなければ、競技環境を後押しするものではない、
むしろ、足を引っ張っていた。

二人はもの珍しさで、最初は回りにきょろきょろと目線を走らせていたが、
左のカップルが熱烈なキスを耐久レースのように繰り返すのを発見し、いそいで逆側に目をうつし、
右のカップルが何やら、下半身をまさぐりあってるのを見て、目を逸らす。
気づけば、見ていいのは正面だけ。目の前をただ見つづける事しか出来なくなっていた。
しかし、左右からのステレオ音響で嬌声が二人を押しつぶす。

金縛りにあった二人は、並んでレーンを見つめる。どれくらい時間がたったか、
大河が上ずった声で竜児に話しかけた。
「あ、あんた、何て場所に私をつれこんでるのよ」
「俺だって吃驚だ。ここは日本なのか」
「……発情チワワが選んだんだっけ」

途方に暮れる二人だが、竜児は責務を思い出した。
亜美の知り合いが納得する程度の、デートをしなければならない。
そうでもしないと、アイツが何て顔して罵倒するか、そして困り顔になるか…
気合を入れなおすと一歩踏み出した。

「とりあえず、受付をすませてくる。
 お前は自分の分のシューズと、ボールを用意して、先に待っていてくれ」
早く戻ってきなさいよ。駄犬 との声を受けつつ、足早に受け付けに向かう。
だが、相方はまだ途方に暮れたままだった。借りてきた手乗りタイガーだった。
手乗り虎は言われた通り、遅い動作ながらも、いそいそと準備を行う。
その後、時間を持て余し、好奇心に負け、観察を再開してしまう。
そうして、チラチラと周りを見始め、自らを追い詰めていく。
竜児が戻ってきた時には、逆毛を立てて、完全に警戒モード。
「大河。待たせたな」と竜児が声を掛けた時の返事は
「ぐるるるるるる」うなり声だった。


         ******


「ボーリングのルール解かってるな。ボールを転がして、ピンを倒した数を競うんだぞ。
 おい、上手で投げちゃ駄目だぞ。それは砲丸投げだ。
 人様のレーンにも投げちゃ駄目だ。レーンの番号言ったろ。
 だからカップル相手に投げようとするな」
竜児は冷や汗を流し続けた。この小型アトミックボム娘を抑えるのは自分しかいないのだ。
ボーリング場の平和は俺が守る!、と決意を新たにする。だが、

「うるさい。解かってる!」との言葉ですべての回答が返ってくるのだ、
どこまでわかってるのか不安になり、ボーリング場を戦乱から守る自信が無くなって来ていた。


「おかしい!!、ボールが横の溝に吸い込まれる。両端に細工があるわ」
案の定、基本からよく解かっていなかった。
「細工もなにもそういうものなんだ。
 いいか、とりあえずゆっくり、真っ直ぐ投げてみろ。話はそれからだ」
「てぇい!」
「何も聞いてねーじゃねーか。力一杯投げる前に、真っ直ぐ投げるようとしてみろ。
 いいか、基本から俺が教えてやる」
竜児の世話焼き体質に火がついた。目がギラギラと輝きだす。周りの客が恐怖に怯える。
彼らのレーンは人外魔境と化していた。ある意味、二人の世界だ。

「本当、一々煩いわね。遊びくらい自由にやらせなさいよ」
と大河は竜児に苦情。だが、それも彼女らの日常。それが二人のマイペース。自分を取り戻していく。
「運動神経がいい割に、お前は適当なんだから。まったくMOTAINAI。
 川嶋との水泳勝負の時みたいに、簡単な事から教えていくぞ」
と竜児も手取り足取りと、小まめに面倒を見る。それが彼らの関係なのだ。

「私と竜児で特訓して、ばかちーと勝負したっけ。ふふ、いいわ。教わってやろうじゃないの」
だから、いつの間にか二人は騒がしげに、自然な感じになっていた。
そして、二人の特訓が始まった。

大河は持ち前の運動神経と、パワーで、あっという間にスコアを上げていった。
女の子が使うとは思えないほど重いボールを猛スピードで投げるのである。
一つでもピンにあたれば、そのピンは高速スピンし、他のピンをなぎ倒す。
ビキナーズラックもあってか、高い確率でストライクを量産した。
「へー、ボーリングも面白いじゃない」
機嫌が目に見えてよくなる大河、竜児も一安心。
俺も負けてらんねーな とカーブボールを器用に使い、こちらもスコアを上げていく。

そんな二人は、お洒落がメイン、二番目がいちゃつき、ボーリングは三の次のお客様の中で
かなり浮いていた。
ファミリー中心のボーリング場に、突如、マイボウル、マイグローブ等、フル装備の人が
スロットル全開で投球を始めたみたいなものだった。
二人を監視してる亜美たちも、なにあのスターボーリング?状態で傍観する。
そして、人のデート見るなんて、なにも楽しくないっての と亜美は冷めた顔。
時折欠伸を噛み殺し、その奥で本当の気持ちを押し殺していた。

ふと、横から熱心な気配が感じられた。
「……すげー」
亜美が横を向くと、連れがオペラグラスのような道具で竜児たちを見ている不審者に
なっている事を発見した。視線に気づいたCはその道具を差し出してくる。
「暗視スコープ、夜のクライマックス用に役立つかなって持ってきたんだけど、
 もう役にたつとはね。ちょっとエロいよ、亜美ちゃんも見てみ」

どうでもいいんですけど と呟きながら、スコープを素早く受け取り、目に当てる。
スコープの先には体を密着している竜児と大河の姿があった。


         ******


亜美が嫉妬を溜める、その少し前。

「ねぇ、竜児。店側がとうとう細工始めたらしいわ、やつらヤル気よ」
「何だ今度は遠隔操作か、それともセンサーでチューリップが開かなくなったか」

竜児の視線の先にはボールを持って仁王立ちする大河。さらにその先には
両脇に1本づつ立つピン。そしてスコアを写すディスプレイの大河の行は
数字の周りを○で囲まれたスコアが並んでいた。

「これはスプリットと言ってだな、真正直に正面の角度からボールをぶつけるとなりやすい。
 まっすぐ投げれるようになった証拠みたいなもんだ。
 球速が速いとピンが真後ろに飛ぶから余計にな。
 お前、球速むちゃくちゃ早いからな、……俺よりも」
「じゃあ、どうしろって言うのよ!上手くなったのにスコア下がるって
 仕組み事態がおかしいじゃない。なに、このくそゲー」
竜児が説明するが、いままで調子よかっただけに、突然あらわれた壁の存在に大河は納得できない様子。

「じゃあ次の段階だな。さっき教えたカーブ、試してみろよ」
「あんな面倒くさい投げ方、私に出来るわけないじゃない」
「コツ掴めばそんな難しいもんじゃねえぞ。だが口で教えてもお前はわからなそうだからな…、
 よし、とりあえず投げてみろ」
「なんで、あんた私の後ろに立つのよ」
「俺が補正してやる、名付けて、高須式プロボーラ養成ギブス」
そう言って竜児は、大河の後ろに立ち、利き手を添える形で重ねる。

「このエロ犬!、あんた、変な下心あるんじゃないの」
「憎まれ口叩いてないで、ほらやるぞ」
わかったわよ。と大河は竜児への絶対的な信頼からその練習方法を受け入れた。
それと結果が伴うかは別で、何ゲームも練習に費やしたが大河がカーブも覚えることはなく、
私は私の道を行く とスピードボーラーを目指す大河と、それを見守る高須 一徹 竜児。
ピンが壊れる事と、常連客が減ることを心配し、マンマークを始める店員。
その三人が異様な雰囲気をかもし出していた。

別なところでも、異様な雰囲気をかもし出す二人組みが存在していた。
それなりの美人二人だが、デートスポットで暗視スコープを使い、
じっとカップルをピーピングトム。まったく色気が無かった。
流石に店としても見逃すわけにいかず、彼女たちの動向チェック専門の店員を配置した。
二人組みは店公認の変態となり、また今日シフトに入ったバイトたちは人手不足に
己の不幸を呪っていた。

「亜美ちゃん、あいつら他のカップルよりも超エロかったよ。あんな長時間、
 覆いかぶさるみたいにピッタリくっついて、腰と腰なんか隙間もないくらい密着してさ。
 それに高須くんの指とか、よく動くし、それでいて、優しげで、
 なんか…、股間に来る。すげー卑猥」
暗視スコープを覗き、解説を続けるCに対し、亜美はうんと一言返し、
シルエットしか見えない薄闇をただ見つめていた。


         ******


二人は、かれこれ5ゲームを消化していた。竜児は、久々に結構投げたなと思い。
「どうするまだ続けるか」と尋ねる。
「何よ。あんた、これくらいで疲れたって。ハァ、本当、ハァ、あんた駄犬ね」
と息を乱しながら罵倒する返答があったので、竜児は柔らかく返した。
「そうだな。俺は疲れた。止めようぜ」



大河はベンチに座り、足を所在無さ実に揺らしながら、後片付けをする整理好きを見つめていた。
「それで、次、ばかちーはどこに行けって」
テキパキとボールを戻し、二人分のシューズを返しに行き、椅子まで綺麗に拭きながら
竜児が言葉を返す。

「次は映画らしいな。ミニシアターってやつか」
「映画?アクションものとかなら観てやってもいいけど」
「川嶋が選んだんだ。それはないだろう。知らない映画だが、恋愛ものとか、芸術ものとか
 そういう系統じゃねぇか?」
「パスパス、そんな面倒くさそうなの、私確実に寝るわ」
「そうだな。飛ばしちまうか。映画館で寝ちまっても、まったく説得力無ぇし。
 だいたい、このリザーブシートの時間過ぎちまってるから、問題無いだろう」
「で、その次は」
「レストランで夕飯。これで最後らしいな」
「それいいわ。お腹へったし、決まり決まり。さぁ行くわよ」
シュタッと、ベンチから飛んで離れると、大河は行き先を示した。

亜美は二人がボーリング場を出て、映画館の方向に向かわないのをいぶかしんだ。
「え、あれ、なんでそっちの方向。何勝手して」
Cに後を追う事を促され、渋々と足を向ける。
「今日の楽しみ、あれだけだったのに」

         ******


予定表に記されたレストランは、今まで竜児たちが居た繁華街から少し離れた所にあった。
昔は船舶の基地として使われ、今はこの街の観光の代名詞となっている公園を抜ける。
その先にはポートエリアと名前を変えた本来の機能を停止した港の跡地が広がっていた。
高級感を売り物にする店舗が並ぶ。

その仲でも際立って立地条件のよい場所。
海辺に向けての広いテラス席を持ち、そこからは、これから沈むであろう夕日が
海との境界線に溶け込むような一番美しいレイアウトが約束されている。そんなレストラン。
それが川嶋亜美が指定した場所だった。

「大河、なんかすげー敷居が高いだが、ここに入らなきゃいけないのか?」
「なにビビッてるのよ。あんたがキョドってると目つきの悪辣さが増すわ。
 たたでさえ極悪な顔が、殺人的な、いえ、殺人中な凶悪犯ぐらいになってるわよ」
「現在進行形かよ。だいたい、ここ一食分で高須家何日分の食費が賄えるんだ」
「なに貧乏臭い事いってるのよ。別にばかちーの持分なんだから気にすることないじゃない。
 あくまで私たちは協力してあげてるんだから。
 店の前で突っ立てるなんて恥ずかしいから、さっさと行くわよ」
竜児は二の足を踏んでいたが、まったく躊躇せず、引かぬ。媚びぬ。省みぬの大河は
そのまま進んでいく。それにつられ竜児も歩き出し、デート相手の前に出る。
女にドアを開かせるわけには行かない。

店の扉を開くと、よく訓練されたという感のボーイがすぐさま、竜児達の前にやってきた。
「いらっしゃいませ。お客様。失礼ですがご予約の方は」
「えーと、川嶋亜美から予約が入ってるかと思うのですが」
「失礼致しました。高須竜児様でいらっしゃいますね。ご利用下さりありがとうございます。
 川嶋様にはお母様からも懇意にして頂いております。よろしくお伝え下さい」
一連の流れをスムーズにこなしながら、深々と礼をするボーイに釣られ、竜児も深いお辞儀を返す。
大河はこなれたもので堂々とそれを受ける。

ボーイは礼を失しない程度に竜児に視線を向けると
「失礼ですが、私どもの店ではネクタイ着用がルールとなっています。
 こちらでお貸しする事も出来ますが」と言った。
一応、用意してます と竜児が自前のネクタイを取り出し、苦労して巻く。

先ほどまでプロの対応を行っていたボーイが目を剥く!大河さえ一歩引いた。
高須竜児はネクタイを装備した。ジョブが完全にシティー893に変わっていた。
しかもかなり冷酷そうな、弱みを握られたら、裸になるまで剥かれるような
容赦の無い雰囲気をまとっていた。

「ひでーよな、あのボーイさん。…解かってはいたが、改めて思い知った。
 はぁー、俺は一生、この人相と付き合っていかなきゃいけないんだよな」
席に着き、二人になると開口一番の独白。
「呪われた宿命なんだから仕方ないじゃない。だけど、あんた、正装ぽい恰好すると余計、
 凄みがますわね。普段の服装よりよっぽとヤバイわ」

竜児はしょげた自分を隠さず呟く。
「なんとかなんねーかな」
「ならないわね。なにその情けない顔は。どうしてもって言うなら、そうね。
 目つきは一生ものの傷だけど、修正できるとしたら…、その無骨なネクタイ。
 巻き方からして無粋なのよね。スーツの時はまだよかったけど、
 シャツだけだと余計、ネクタイが強調されて、怖わ!ネクタイ上の目つきが気になる」
追い討ちをかけられ、溜息をつく竜児。不器用な大河は励ます言葉を捜すが、
気の利いた言葉を見つけられない。なので、

「竜児、ちょっと顔寄せなさい」
 なんだ藪から棒に と虚を突かれた竜児に続けざまに
「いいから、ネクタイ結んであげる」
と手を伸ばす。

「お前不器用なのに大丈夫なのか」と言いながら、竜児も背の低い大河が結びやすいように、
席を離れ近づく。結びやすいように、腰をかがめ、なるべく胸元を近づ、首を伸ばす。
大河はなれた手つきで、ネクタイを結びだした。意外と上手いなという言葉に対し
「小さい頃は結構やってたのよね。あのくそ親父に。寒気がするけど」
と満更でもない風に続ける。指先の動きが軽やかだった。

その光景は部外者達からもしっかりと見えていた。
「へぇーなにあれ。彼氏のネクタイ、一生懸命結んであげてるよ。新婚ごっこかな?、亜美ちゃん」
とやけくそ気味にニヤニヤ笑いで続けるC。
「うん。そうだね」と
仮面を被り続ける亜美も笑う。今日の彼女は昔と同じ傍観者。
「本当、オママゴトみたいで微笑ましいね」
という言葉に、耳をふさぐ両手すら持ち合わせていなかった。


         ******


高須竜児は困っていた。
目の前のテーブルの半分には食器が並ぶ、卵の上を半分切り取ったような器に
水を満たしたものもある。
それ全てが高級品でそろえられている。膝に置くナプキンですら、
汚すことを躊躇う程の見事なつくり。

「TVでよく見る光景だが、いざ、自分がとなると。
 おい、大河、どういう風に食器使っていくか解かるか。たしかフォークは外側に
 並べてあるものを使えばいいんだっけ。もしかして内側?解からなくなってきた。
 こいつはフィンガーボールって言うんだろ、たしか」
待ち合わせ時のように挙動不信な竜児。フォークを触る姿は通報されるギリギリだった。

「あんた、フィンガーボールの水飲むなんてボケかましたら、ナイフ刺すわよ」
にこやかにナイフを握る大河、傍からは悪戯にナイフを手に取る女の子でしかないが、
本人は半分以上、凶器として使用する気があった。実際はこっちの方が通報されるべきだった。
竜児はデート相手の気持ちを察し。
「気をつける」と大河と自分に誓った。

「いい竜児、ご主人様の真似をしなさい。さっきから動きが怪しいから」
「お前だって根っからのドジっこ特性もってるんだが、大丈夫か」
「なに私を不治の病持ちみたいに言ってるのよ。あんたの三白眼とは違うんだから。
 だいたい、竜児からはそう見えないかもしれないけど、私はいい家のお嬢様なんだから
 ちゃんとレディ出来るのよ」
と大河はにかんだ。

改めて見ると、大河は着ているものも一流で固め、それを着こなしている。
他の客にもまったく負けていない。
それどころか、服の中身は他の女性客を遥かに凌駕していた。
その上品な作りの顔、有り得ないほど精巧に作られた唇、目、鼻。芸術品と思えるほど。
一緒にいる事が日常である大河だが、改めて見ると美少女という言葉を体言する存在だった。

そして、店内を飾る光が、彼女の髪の色をさらに映えさせ……、竜児は言葉を失った。


「なにアホみたいな顔してるのよ、馬鹿犬。 一応、デートなんだから確りしなさいよ」
との声で竜児はわれに返り、
「そうだな。川嶋に頼まれたデートの途中だったな。相手が北村じゃなくて悪いが、がんばろうぜ」

「あんたに北村くんの代わりが出来るわけ無いじゃない。逆立ちしたってあんたはあんたなんだから…、
 ほら、最後まであんた流でエスコートしなさいよ」
「へいへい」

その後、ペースを取り戻した竜児と、若干ハイペースの大河は
食事を自分たちなりに楽しむことが出来た。

その平穏な食事風景を覗き見るだけの外野、駆け出し女優たちには、
カップルが楽しげな程、惨めさが押し寄せていた。
空腹への緊急対策として、近くのコンビ二で調達したアンパンと牛乳がさらに気持ちに拍車を掛ける。

Cは心からの悲鳴という感じで告げる。
「もういいや。見てる方がバカみたい。終了、終了と私帰っていい?
 今夜、彼氏との約束もあるし」

そのいい加減な言動に怒りを覚える亜美だったが、もっと根幹的な問題に気づいた。
「え、彼氏いるの?高須くん彼氏にしたかったんじゃないの?」
「うん、何人かいるよ。ヤンキーくんも付き合ってみても面白いと思ったけどね。
 だって亜美ちゃんの反応面白いから」
と亜美に表情を楽しそうに観察しながら、Cは続ける。

「でも、亜美ちゃん慌てさせる役は既に割り当て済みみたいだし、
 それに、あんま洒落になってないみたいだしね」
亜美は反論したかったが、今日の計画を自分から壊すことになる事を思い出し、
口の中で言葉を呟くのに留めた。

「そう、その反応、私だけじゃ、なかなか引き出せないから惜しいんだけどね。
 亜美ちゃんの相手は強敵みたいだし、引いてあげる。一応私、味方のつもりだし。
 そうだ。さっきポロっと言ったけど私が男いるって黙っててね。
 亜美ちゃんが彼氏作っても黙ってあげるから、って事で」
とCは言い放つと、後ろを振り返らずに じゃあね と言って立ち去った。

「なんなのよ、もう。ワザと言ってるだろ」
亜美はぶつけどころのない鬱屈を一人抱え呻いた。そして、自然と視線をレストランの方に戻す。
楽しそうな恋人たちが居た。
直ぐに目を逸らす。

ふと、マッチ一本する事が出来れば、楽しい幻を見ることが出来る気がした。
が、今日の運勢から言って、確実に放火魔と間違えれる気がして寸前で辞める。
「もう見なくてもいいんだし」
それだけを救いとして、亜美は一人帰ることを決めた。


         ******


竜児と大河は食事を終え、彼らも帰宅していた。もうすぐ自宅近くだ。
亜美のデートコースはレストランまでで、それ以上は書かれていなかった。
竜児と大河もその先が書かれていたらとどうしたろうと、それぞれが変な想像をしていた。

「なぁ、大河。うちよってお茶していかないか、なんか肩こっちまった」
一仕事終わったんで飲み行かない?という感じで大河を誘う竜児だったが、

「いい。だってこれはデートでしょ。
 家まで送って行くのがデートですって習わなかった?
 だから、今日は竜児の家には行かない。やっちゃんには会いたいけど」
と大河がふざける。

「別に俺のアパートだって、お前の家みたいなもんだろう。疲れてるだろうから泊まっていったて…」
「デートの後、泊まれなんて台詞は竜児にはまだ早いわ」
とふざけた態度を継続、そして、二コリと笑って大河は竜児の台詞をふさいだ。
僅かに顔が赤み掛かっていた。

それを隠すように、「おやすみ。竜児」
後ろを向き、足早にマンションへ走っていった。

竜児はいつもと違う大河の態度に、困惑と戸惑いと熱。
そして自分が取ろうしている次の行動に対する少しの迷いを感じた。

だが、「これは昼間からずっと考えていた事、やらない訳にはいかない」
と携帯を取り出した。今日の偽装デートの締めだ。


         ******



一人での帰り道、否応にも寂しさが増していた。そんな道の途中、亜美の携帯が電話着信を告げる。
ネーミングだけで選んだ着信曲、とある竜と恋の歌だった。

瞬間的に、無視しようと決めたが、
いつまでも切れない着信に、我慢しきれずに出てしまう。

「川嶋、俺だ」
「高須くんお疲れ様。協力ありがとう。なんか納得してくれたみたいだから目的達成。以上、じゃあね」と一方的にまくし立て、切断ボタンを押そうとした。だが、
「ちょっと待て、川嶋」との声で言われたままに電話を切るのをやめる。
言うことなんか聞く必要ないのに、何を期待してるのだろう。と思いつつ。

「何?私は用無いんですけど、て言うか、早く電話切りたいのだけど」
胸のイライラを隠さずに答える。

「1つだけ教えてくれ。お前、ちゃんとしたデートって1回しかした事なかったよな」
その言葉に対し、とっさに、だがいつも通り嘘をつこうと思った。
違うよ。高須くんの知らない間にたくさんしてるんだよ と、
だが、その言葉を信じられたらと怖くなり言えなかった。

「そうよ。高須くんとしかした事ないわよ。なによ。馬鹿にしてるの」
「で、だとしたら
 今日回ったとこ、実際使ったデートコースって事じゃないよな。
 俺、昔、もし彼女が出来たらって、MD作ったり、こんなデートコースを回ろうなんて
 無駄に計画だけ立ててた事があるんだが……」

「なにそれ、なんで高須くんの妄想計画聞かなきゃいけないの?キモ」

「今日行ったところって、お前が行きたかった所じゃないのか?」
「!!」
 
川嶋亜美は、自分の事を
ある誰かとのデートを、いつも夢見てるようなバカ女だと言われた気がした。
恥ずかしさで一杯になる。早く電話を切りたかった。
ただ会話を終わらせる言葉が思いつかない。会話もなく一方的に電話を切る勇気はもっと無い。

「だからって言うわけじゃないが、趣味悪いと言われても仕方ないが、
 このコースで俺とデートしないか」

川嶋亜美は、ただ電話を切りたい。その一心で、仕方なく。
そう自分に言い聞かせて

「うん」
と言って、電話を切ったのだった。


END


Happy ever after 第5回 追伸


高須竜児がデートの待ち合わせ場所である喫茶店に着いたのは、約束の時刻の20分前だった。
「まったく、結局いつもの服になっちまった。結果が同じなら直ぐに来ればよかったか」

息を切らしながら、喫茶店の前まで駆けつける。
そこで立ち止まり、深呼吸、息と整え、汗をふき取る。
改めてデートを意識すると、胃の中からと緊張感がせり上げてきて、背筋を伝い、体中を縛る。
大河とのデートの時はこんな事なかったのだが、あれが偽装デートだったからだろうかと
自分に疑問を感じながら、服装のチェック。髪型のチェックを再度行う。

「元モデル様がお相手だ。出来る限りの事はしなくちゃな。出来ることは少ないが……」
竜児の今日の服装は、コットンのカットシャツ、うす茶のシノパン。
普段着とあまり変わらなかった。
一応、竜児が持っている服の中で、2番目にいい夏服なのだが。高須家の経済状況から
ベストドレスとの格差は明らか。だか仕方ないのだ。これも貧乏が悪い。
メッセージプリントがされたTシャツよりいくらかましだ。

自分との折り合いを付けて、喫茶店を覗く、
入り口から見つけやすい席で川嶋を待つことにしようと、手ごろな席を探す。
と、目を付けた席に、既に彼女がいる事を発見した。

そで無しの白ブラウス、その上に薄い青のカーデガン。
下はミニまではいかないが、短めなスカート
滑らかな肩から先の白い手、スラリとのびた足が服以上に存在を主張していた。

あの川嶋亜美にしては意外とシンプルな恰好だな。と竜児は一瞬、疑問を持つ。
何かに合わせて服装を決めたみたいだが。デートコースか、はたまた今日の陽気か
もっとも、時間を掛けても、鈍感な彼には答えは出せなかっただろうが。

だが、それでも私服というだけで、普段の制服とはちがうだけでこうも印象が違うのかよ とも思う。
初めて会った時、そして2度目の初対面ではっきりと思った、
”見つめられるだけで恋に落ちかねない”そんな女がそこにいた。

再び、軽く深呼吸。遊ばれないように、呆れられないように、緊張感をねじ伏せて、
「よぉ」
そう声を掛け、ゆっくりと近寄る。

「高須くん、なんか遅くない?」
「遅くない?って言われてもな、まだ待ち合わせ時刻前だぞ」
「そうかもしれないけど、結果的に待たせてるわけだし」
と言葉につまりつつも、不満げな表情を向けてくる。この顔をみるとさすがに……

竜児の悪戯心が目を覚ました。普段は眠ってるこの趣向、亜美に対してはよく騒ぎ出す。
それは彼女が対等であるからか、それとも彼と同類であるからか。
女の子に奥手の彼にしては本当にめずらしい行動。
いずれにしても、意地の悪い言い方で竜児は声に応える。
「そりゃ悪かった。で、どれくらい待ったんだ?」

亜美は少し思案顔。かと思えば空中を睨み、ため息を付き、腕時計をチェック、再び空を睨んで
「ついさっき」
とお姫様はのたまわりました。

「なら、ちょうどよかった」
そう言うと、亜美は目を寄らせ、口をまげる。
竜児にとって、意地悪亜美ちゃんと並んで、定番の表情、挨拶みたいなものだ。
もっとも、モデル、女優、そして、大橋高校での、みんなの亜美ちゃんは
けしてそんな表情をする事はない。

竜児が席に付くと、待ってましたとばかりにウェイターがやって来たので、
とりあえずコーヒーを頼む。
そして、テーブルに目をやり、亜美の前にある小さいカップに入ったコーヒーが
冷めてしまっている事を見つける。 お前は? と聞くが、

「いらない。喉渇いてないから」との返事。
竜児はその言葉に、前のデートの事を連想し、コーヒーをキャンセルして、
そっとアイスティーと頼んだ。

「高須くんさぁー、なんかいつも亜美ちゃんばっかり扱い悪くね」
お姫様の不満は継続、ちょっとからかい過ぎたかとも竜児は思ったが、
それも俺と川嶋らしいかと、取りあえずの謝罪等するでもなく、

「どういう意味だ?」
「他の女の子と扱い違うんですけど。ぞんざいって言うかさ。
 亜美ちゃんだよ。学校一、日本一の美少女だよ。酷くない?。
 海遊び行った時だってそうだし、肝試しの時だって。
 高須くんってやっぱりサド?、いじめっ子?
 うわー、なんかすげーイジメしそうなんですけど。
 下駄箱とかから私の靴取り出してさ、超投げそう。ガンガン投げそう」
「なんで、急に話が飛ぶ。お前の靴投げるとか、なんか変に具体的だが」
と言いつつ想像が出来た。亜美が頑なに意地を張り、竜児は心を開かない事に腹を立て…、
ストーンと投げた。思い切り、オーバーハンドで投げれる自分が目に浮かぶ。
あー、川嶋の靴は良く飛ぶ。

竜児が想像の世界の住人になっているのを引き戻す声が上がる。非難だ。怨嗟の声だ。
「あんた、明確に想像出来たでしょ。あー、やだやだ。なんて酷い男。女の子相手に」
「なに人の脳内の絵まで決め付けるんだ。想像出来たが…
 いや、現実で女の子相手にそんな事を俺はしない……と思う」

「そうだよね、出来るのは私にだけだよね。そんな酷い事」
「いや、そんな事は」
「じゃ、実乃梨ちゃんや、タイガーでも想像出来る?そういうシチュエーション」
「想像くらい!、…出来ねぇ…」
竜児は頭を抱えた。亜美の事は確かに想像出来た。イメージ出来た。
まるでそんなIFの世界があるかの様に。だが、実乃梨や大河となるとまったく想像出来ない。

「やっぱり、なんて男。でも……、それは亜美ちゃんが特別って事?なんで?」
「なんでだろう?、……お前を見てると構いたくというか。仮面を剥がしたくなるというか」
竜児は自分に尋ねるようと言葉を搾り出す。そして、自分の一面に気づく
「悪い、なんかお前の前だと、悪い高須竜児やっちまってるな。
 あまり良くないなこういうの」
「いいんんじゃないの。私だって高須くんの前で黒いとこ隠してないしさ。
 ……私は、川嶋亜美は、高須くんの前では結構、素を出してると思うよ。
 そんな姿、肉親意外には見せたことないのに」

ドキリとした。唾を飲み込む。もしかしたら素の川嶋の前では素の高須竜児が出てきているのだろうか。
「ふーん。赤くした顔を答えとおっておくかな、そうか私は特別か」
竜児は抗議をしたかった。抗議をしたかったが、自分に尋ねても反論の言葉は出てこなかった。

一息付いたのか、お姫様の機嫌はいつのまにか直っており、改めて竜児に目をやりながら言った。
「それにしても素朴な格好だね。
 高須くん、スタイルいいんだからもっとお洒落しないとMOTTAINAIよ」
「MOTAINAI!そりゃ大変だが。お洒落ってピンとこないんだよな」
「今度、服見立ててあげるって。
 …でも、飾り気の無い格好も、高須くんらしくって私は嫌いじゃないけど…」
最後の言葉はか細く、竜児は聞き取れなかった。亜美に聞き返したが、
ウェイターが飲み物を持ってきた為、話は中断。
竜児の前に冷たい紅茶で満たされたグラスが置かれようとする。

「すみません。それ、彼女に」と言いながら、亜美の前のカップを取り、
「川嶋、間違えて紅茶頼んじまったから、そのコーヒーと交換してくれ」
「はぁ、何言ってるの、ちょっと」
亜美はすぐに反論するが、その言葉も聞かず、コーヒーに口を付ける。
ぬるま湯になっていたコーヒーはやけに攻撃的な味をしていた。

「苦いなこれ」
「何強引な事してるのよ」と言いつつ悪戯の種を見つけ、すぐに飛びつき、
「何?高須くんって子供舌?、エスプレソの味も楽しめないの?」
とニヤリと皮肉を言って、亜美はアイスティーに、美味しそうに口をつけた。


         ******


その後、ちょっとした雑談をしながら
アイスティーが無くなるの(相変わらず、結構早い)を待って、席を立つ。
スケジュールはわりと一杯だった。

「高須くん、私、タイガーみたいに無駄体力ないからね。ボーリングは触りだけよ、触りだけ。
 何ゲームもやって、映画パスなんて有り得ねーから、そこの所、よ・ろ・し・く」
二人はボーリング場の前に立っていた。さっそく亜美が釘をさしてきた。

「なぁ、川嶋、ここボーリングする場所じゃないよな」
「何言ってるの?、れっきとしたボーリング場だよ。高須くん字も読めなくなった?」
「しかし、すげーやり難い環境だったぞ。ボーリングしたいなら別な場所でした方が良くないか」
亜美はアメリカン人のボディランゲージのように、両肘を脇に当て、手のひら天に向け
「高須くんは解かってないな。単なるボーリング場じゃなくて、
 ここはお洒落にボーリング場を楽しむ場所。さぁ行こう」
そう言って、天にあげた手を下げ、その勢いで、思い切りよくといった感じで、
竜児の手を取ると、亜美は歩き出した。


店に入る。相変わらず薄暗い店内。竜児はつい最近来ただけに要領は解かっていた。
手早くカウンターに向かい、受付を済ませる。今回は亜美をリードすると決めていた。

なぜなら、亜美は喫茶店と同じように済ました顔をしていたが、
時折きょろきょろと左右を見回し、他の客を見てはいそいで目を伏せる。
明らかに緊張してる事がわかるし、前回の竜児よろしく周りのカップルたちの行動に
動揺してるようだったから。

「川嶋、三番レーンだってよ。とりあえずシューズ借りにいくか」と促し、
「ボールも軽めなものでいいか」
と竜児がセッティング、「子供あつかいしないでよ」の抗議もどこ吹く風で、
「しょうがねーだろ、お前子供なんだから」
と言葉をふさぎ、手早く準備完了となった。


「じゃ、軽く練習がてら1ゲームやってみようぜ」
「練習がてらって、1ゲームしかする気ないよ」
「それじゃ、シューズのレンタル代とかMOTTAINAIだろ」
「だって、亜美ちゃん疲れちゃうもん」
「お前、ボーリングしたくてスケジュールしたんじゃないのか」
「別に、高須くん達が慣れないデートで緊張してるかと思って、
 最初は体動かすものにしただけだし〜。亜美ちゃん、疲れる事なんかしたくないもん」
と背伸びしながら、ものダルげな態勢を取る。だが、顔はまだ強張っている。

「だったら、ちょうどいいじゃねえか、お前緊張してるし」
「緊張なんかしてないって」
言うまでもなく嘘だった。いまだに回り見回して。仮面を中途半端に被ってるまま。

「川嶋、やっぱり俺たちにあった場所がよかったんじゃないか」
「それって、ゲーセンとか、スドバとか?
 それって…。それも悪いとは言わないけど、楽しかったけど。、
 でもお洒落な場所とか、高級な場所が、自分を成長させる事もあるんだよ。
 私、もう17歳で、女優だから、ゆっくりしてられないし、ママが17の時はもう…、
 それに今日は私が行きたい所でいいんでしょ」

竜児はその言葉に、彼女なりの、彼女らしい考えを感じ取り、
「そうだな、悪かった。もう文句は言わねぇよ」
「そうそう、女の子の言うことはきくもんだよ。じゃボーリングやろ」
と亜美は軽く笑って答えた。

亜美は疲れることなんかしたくない、と言ったわりに上手かった。
ストライクを取る事はあまりないが、確実にスペアを取っていく。
スプリットにしても大河みたいに、2兎を追うような事はしない。
取り易い方を捕っていき、あわよくば二つを狙う。無理はしないで積み重ねていく。

「ボーリング上手いな。よくやるのか」
「そんな事ないよ。でも大体の事ならある程度はこなせるし、ほら私、器用だから」
「そうだな。大河みたいに教えないといけないかと思ってたが、その必要がないから楽だ」
「……そう。私、器用なんだよね…」

という感じで、あっという間に1ゲーム終了。
後半から、亜美は妙に凡ミスが増え、取りこぼしがあった為、辛くも竜児が追い抜いた。
川嶋には負けられないと必死だっただけに竜児はホッとしていた。

「どうする?、もうやめるか?、俺は体暖まってきたから、もう少しやりたいんだが」
「……高須くん。
 やっぱさ!やっぱり、高須くんの方が上手いみたいだから、だから、教えてもらおうかな
 カーブの掛け方とか……」
そう言ったかと思うと、亜美はそっぽを向く。

「お前だって綺麗なカーブ掛けれるじゃねえか」と喉まで出かけたが、
意地っぱりの頬が紅潮してるのを見つけ、止めた。

「おう、じゃ、高須式プロボーラ養成ギブスで教えてやる。あれで能登にも教えたし。
 春田でさえマスターしたんだからな」
「ありがとう、じゃやろうか」

そうは言ったものの、竜児は目の前の現実に直面した。まずい。これって。
「えーと、川嶋さん、後ろに立って良いか?」
「……いいよ」
「覆いかぶさっちまうが、構わないよな」
「……うん」

高須式プロボーラ養成ギブスは自分の体をギブス代わりに見立ててフォームを調整する。つまり、
(おい、どうすんだよ。体密着しなけりゃいけないよな。
 これ女相手にやるのって、犯罪じゃね?。俺、どうすんだよ)
竜児は心の中で悲鳴を上げた。

「高須くん、もっと体つけていいよ。そいいうやり方なんでしょ……、腰とか」
「えーと、悪い」
と覚悟を決めて、いつもどおりの態勢をとる。と亜美から強い吐息が漏れた。
反射的に体を離す。
「悪い。やっぱ悪い」
「……いいよ。だってこれ、教えてくれる為なんでしょ」
「そうだが。そうなんだか」

ほらと言って、亜美が竜児の手を取る。竜児は握られた手の体温が上がっている事を知った。
火傷するくらい熱い。感じた熱は掴んだ手か、それとも上気した自分の顔か。
そして心臓の鼓動はとても早い。密着した腰から、後ろから抱くようにして密着した背中からも
感じた。そして自分の心も。

それから、かなり効率の悪いカーブの掛け方教室が3ゲームにわたって行われ、
亜美は凡ミスがかなり増えたが、ストライクの数がいくらか増えた。


         ******


映画館に早足で向かう。軽くすませる予定だったボーリング、二人はかなり時間を使っていた。
それは、やめるタイミングを失っていたから。どちらとも止めようと言わなかったから。

竜児は、川嶋がやけに映画に拘っていたから、さすがに遅れる訳には行かないと先導して急く。
この分なら間に合うだろうと目処が立ち、連れを観察する様子を得る。

亜美はボーリング場からずっと無言。鉄面皮を被っていた。
竜児は対応に困っていた。ボーリング場の出来事、その後、どう行動すればいいのか。
だから受身に回る。亜美がなにか反応してくれれば、それに合わせればいい。
だが変化はない。竜児から伺いしれない。
頼むから、と、なにか情報が手に入らないかと様子を見る。
だが亜美の表情は動作不良を起こしたように、フリーズしたかのように変化を見せなかった。

滑り込むようにして、ミニシアターに飛び込む。
時間的には余裕があったが、逃げ込みたかったのだ。映画をみている間は余計な事を考えなくてすむ。
それは二人とも……。

竜児は亜美チョイスと言うことでお洒落なミニシアターをイメージしたいたのだが、
特別お洒落なものではなかった。
カップルシート満載とか、独特なという表現でいいのか、ミニシアターにありがちな奇異な仕掛けはない。
普通に映画館を小さくしたような作り。彼にとっては意外だった。

さらに意外だったのが映画の内容。
ジャンルはたしかに、恋愛映画と言えなくもなかった。

古いフランスの映画だった。
ハイスクールで会った男の子と女の子が付き合って、波乱もないまま結婚して、
子供が生まれ、そういった平和で平凡な生活が描かれていた。

娯楽性も豊富でなければ、洒落た感じもしない。淡々とした映画だった。
後で感想を求められてたらと必死に印象を残そうと必死に観た。だが無理だった。
横にいた亜美が涙ぐんでいたのが印象に残りすぎた。

なんで泣いてたのか、寂しかったのか、悲しかったのか、嬉しかったのか、
その理由が聞きたかった。だが、どんな聞き方をすればいいか解からず、
「そんなにこの映画を観たかったのか?」
なんてどうでもいい事しか聞けなかった。
「うん、観れて良かった。一人で見る勇気なかったから」
と答えた顔が心に残った。


         ******


「信じられない。信じられない。信じられないーい!」
海沿いのレストランの入り口で亜美が悲鳴のように声を上げる。
竜児が突然、路上で亜美のブラジャーを強奪した……訳ではない。

ただ、亜美に同様のダメージを与えるくらいの失態をしてしまった。

「申し訳ありませんが、本日はご予約がないお客様はお断りをさせて頂いております」
いつもの乗りで予約なんてものが必須な店である事を忘れていた。
竜児が日常で利用している飲食店と同じ調子で、
店にいけばなんとかなるだろう、最悪、待つことになるかもしれないが。
と彼は簡単に思っていた。貧乏が憎い。
竜児が貧乏に抱いている感情以上に、亜美が憎憎しげに睨んでいた。
気づかない振りをした。
気まず過ぎて、怖すぎて、彼にはそうとしかする事が出来なかった。


コンクリートで固められた波止場を二人で歩く、デートスポットを意識して作られている為、
一定感覚で常夜灯が点り、波の音と相まって、雰囲気を作る。
そう男女で歩くには、最適といってもいいシチュエーションのはずなのだが、

「サイテー」
お姫様のご機嫌は最悪だった。
竜児は自覚があるだけに、返す言葉も無く…、いい訳のしようもなく…。
これが7回目の「サイテー」だった。

「なにか言うことないの」
ここに来て初めてサイテー意外の言葉を聞いた。とりあえず機嫌を直してもらおうとするが、
機転の利いた台詞が見つからず、とりあえずと様子を見る。
「川嶋さん?」
「あーあ、最低」
カタカナから漢字になっただけだった。
竜児の発言を求めた割に機嫌を直すチャンスも頂けない。
もしかしたら不機嫌で通す事を決めてるのかもしれない。
たしかに俺が悪い訳だが、そこまで悪い事したかと今日一日を反芻する。

喫茶店   → 意地の悪い事を言う
ボーリング → エロ男
映画館   → 感想の一つも言えない
レストラン → 問題外

最悪だった。
高須竜児という存在そのものが最悪だと自分自身の説明文が書ける気がした。

デートに誘っておいて、これって、
今、裁判が行われたら、裁判官どころか、陪審員の方々も全員一致で有罪の表決をするだろう。
そう思い。竜児自身も控訴しない事に決めた。

せめて、反省の気持ちをと、さっき、隙を見て買ってきた食べ物を亜美に差し出す。
人間、空腹の時は余計、怒りやすいものだ。

「……なんで牛乳とアンパンな訳。
 そう、タイガーはレストランのディナーで、私はこんなもんがお似合いって事だ。
 そう言うことなんだ」
竜児のささやかなお詫びは、亜美の背中を思い切り押し、
余裕で最後の一線を越えさせる事に成功した。

「大体、あそこのディナーの値段知ってるの?
 仮に入れたとして、支払い出来ないって落ちだったんじゃない?」
怒りの表情を表に出し、亜美は攻撃口調となっていた。

「それは無い。一応、前回の時チェックして来た。たしかに高いが払える。」
「あそこの食事代を、一般庶民の高須くんが?
 その上でデート代を自分が持つって?
 あーそうか、だから、私たちには不相応なデートだって言ってたんだ。
 たかがデートにMOTTAINAIよね」
「勿体無く無い!」
 少しばかりカチンと来て、竜児は強い口調になるが。攻められるべきなのは自分だと
 悪ぃと謝罪する。それ態度を見て、亜美の態度が変わった。諌めるように。

「ねぇ、高須くん。私の今のギャラ知ってる?。モデルの時とは桁違いなんだよ。文字通り。
 私が持つって、せめて割り勘でいいじゃん」
「俺が誘ったデートだから、俺が払う」
「男のプライド?つまらないよ高須くん。格好悪い、」
「別にいいだろ」
竜児は意地を張る。そこは引き下がれない領分だと。たとえ喧嘩になっても。
だが予想外に亜美の機嫌はよくなり、

「そっか、じゃあ格好悪い高須くんに合わせますか」
と言って、偽者怒りんぼは牛乳を啜った。

「格好と言えばさ…、悪いとまでは言わないけど、今日の服装ってタイガーとデートした時より、
 グレード低いよね。やっぱりタイガーと亜美ちゃんで差付けてる?」
「付けてる訳ないだろう。ただ前回来た服が、役者を納得させないといけないデートだって事だから、
 俺が持っている中で一番いい服だったてだけで。
 あのデートと同じ服着てくるのってなんか違うだろ」

「ふーん、気は使ってくれてるんだ。
 でも、その服じゃレストラン入れないと思わなかった。やっぱり計画的犯行?」
とからかい口調になりながらも、まだ亜美は竜児を攻め立てる。

「一応、これとは別な服の用意はしてあった。近くのコインロッカーに
 ほら、お前も観たことあるだろう、クリパで着たスーツ。
 服以外の理由であまり着たくないんだが」

「クリパ、クリパ、クリパと」
目を上目使いで宙に向け、何も無い空間を見つめる。口を少しだけ空け、考え事、それに数秒。
なにかイメージ出来た様子で、目を悪戯ぽく輝かす。
そして、亜美は少しだけ勇気を振り絞って
「じゃあ、じゃあさ。その服着て来てよ。一時間?ううん、二時間待ってあげるから」
「着たってレストランには入れないから意味ないんじゃないか」
「着てきて!高須くんやっぱり悪いと思ってないんだ。亜美ちゃんがこんなに頼んでるのに」
より強い口調で続ける。言葉は冗談ぽい物を選んでいたが、その声の響きは真剣だった。
その意味を理解し、竜児は了解する。

「解かったよ。近くのコインロッカーだから三十分もあれば戻ってくる。待ってろ」
「二時間って言ったでしょ。私だって都合があるの。ほら行って来て」


         ******


スーツに着替え、待ち合わせの場所に竜児は一人居た。
彼自身が告げた通り、三十分もしないで着替え終わり、
万が一にも彼女より遅く到着する訳にはいかないと、用意が出来ると直ぐに元の場所に戻った。

あれから、約束の二時間が過ぎ、三時間が過ぎ、既に四時間に成ろうかとしている。
もう直ぐ二十三時を回る。
「これは罰ゲームだよな、やっぱり」
波頭に一人、高そうなスーツを着た男が回りに鋭い視線を走らし、何時間もただ立っている。
時折、深い溜息と、己を侮蔑するように首を振る。
周りの人間は身の危険を感じ、遠ざかっていった。今や竜児一人を残し人影は消えていた。

今日一日の事を思えば、罰を受けるのは仕方ないと思った。が、それにしても、
「暗い夜に一人きりって応えるな。寂しいっていうか、心寒いというか」

竜児は真の意味で、一人ぼっちになった事はなかった。
母の泰子が竜児の事を思ってくれている事はいつも解かっていたし、
今では新たな家族とも言っていい、大河と過ごす事が多い。
だが、その怖さは知っていた。母子家庭の彼は小さい頃、いつも取り残されることを恐れていた。
だからか、そんな人間をほっておけない所があった。

いつしか川嶋亜美の事を思い浮かべる。寂しそうな横顔をしていた。
イメージした彼女は何故か一人だった。
竜児は被りを振る。そうじゃない。そんな事はさせないと決めたはずだった。
あいつはそう言うのが人一倍嫌いなはずだ。

せめて想像の中ぐらい。
「怒ってるのかな、あいつ」
寂しい顔より、怒ってる顔の方がましと、亜美が怒ってる顔を思い浮かべようと、
今日一日を振り返る。不満そうな顔だらけだが、緊張した顔、楽しそうな顔、恥ずかしげな顔
百面相のように浮かんでくる。
改めて考えると、思っていたよりましな一日に思えてくるから不思議だった。

そして、最後まで行き着く。別れ際に見た亜美の姿は
なにか面白い事を思いついた自称、悪戯っ子亜美ちゃん の顔だった。
寂しそうな顔が無くて安心した。この罰ゲームがあいつが思いついた悪戯なら、
あの表情を引き出せるなら甘んじて受けよう と気持ちを固め。

すこし楽になった心で、一人でいる夜を楽しむことを決めた時、
ハイヒールで、コンクリートを蹴りつける危なかしい足音を聞いた。
そちらに目が行く。

目に入ったのは精一杯の高さを強いるハイヒール、そして、少し透けた黒のストッキング。
スラリとした足をより艶かしく見せ、目を奪われる。
その長いい足は、漆黒のドレスに吸い込まれる。
シンプルなドレスは体のラインを浮き彫りにし、自分を着こなす主人を称える。
そして…、前髪を斜めに止め、タイトにアップした髪は、
額、いたずらぽい瞳、小さい唇、なにより走って来たその上気した表情を
隠す事なく、宝石のように輝かせて見せていた。

それは去年の十二月二十四日、学校の体育館で見た川嶋亜美の姿だった。

「よっ」
亜美は照れ笑いを浮かべ、おどける様に右手を上げると声をかけて来た。

「高須くん、お待たせ。待ち遠しかったでしょ」
「おぅ、お帰り」
「遅かったとか、いつまで待たせるんだ、とか言わないんだ」
「そりゃ、俺が待ってろて言ったからな」
「ずっと私の事待っててくれた?」
「限界はあるぞ。朝まで待って、そしたら帰ろうと思ってた。学校もあるしな」
「朝まで待っててくれる気だったんだ。そうか、そうか。褒めて上げる」
そう答えた亜美は、あの日、あの歌の感想を言われた時のような笑みを浮かべた。

そして、自分の表情を隠すように、背を向けると
「言い訳なんだけどさ、どうしてもクリパの時みたいな髪をセットしてくれる美容院が無くて、
 行き着けの店に着いたときはみんな閉まっててさ。
 無理やりお願いして、セットしたから時間立っちゃって」
「そんなにあの時の髪型が気に入ってたのか、その割には一回しか見た事なかったが」
「にぶちん、そうじゃなきゃ意味ないてのに、亜美ちゃんばっかり気合入れて馬鹿みたい」

「いいや高須くんだもんね。それよりさ、なんか無いの」
背を向けていた黒いドレスの少女は、そこで1回転半。スカートの裾が小さく、ふわっと傘を作る。
そして、あの先ほどと同じ、竜児に全てをあずけるような、そんな笑顔を浮かべる。
見つめられるだけで恋に落ちちまいそうな女の無防備な笑顔は、
先ほど思い浮かべた亜美の表情の中でも一番輝いていて、だから竜児は…

「綺麗だ」
「え、高須くん、何か言った?」
「何も言ってない!」
「綺麗って聞こえたよ。ねぇねぇ、誰の事」
「さぁ、誰の事だろうな」
「私?それともあたし?」
「おい、それお前しかいないじゃないか」
「そうか、そうか。僕にはお前しかいないって
 そうだよね。綺麗な人は私しかいないよね。と・う・ぜ・ん♪みたいな?」

顔を熱くさせて竜児は言葉を失う。だから、海風が強さを増してきた事は幸いだった。
そうでもなきゃ、血潮の熱さで体が燃え出すじゃないかと思った。

「くしゅん」
小さなくしゃみが聞こえた。そむけた顔を戻し、お姫様をみるが知らん顔。
だが、また一陣の風と共に、くしゃみが一つ。
きらびやかに体を飾る服は、不意に吹く海風にすらその身を守る力は持っていなかった。

「川嶋それ寒そうだな。六月でも夜の海じゃ厳しいか。朝まで雨ふってたし。
 それにしても、その服、よく十二月に着る気になったな」
「解かってないな。女の子の服の選択で一番大事なのは、見・た・目。
 勝負の時は保温性とかは2の次だって、どうでもいい時はそれなりだけど♪」

「本当、女って大変だよな」
としんみりと竜児。
「高須くんは。もう少し苦労をした方がいいと思うな。女の子についての苦労。
 きっと、今後の対応も変わってくるはずだから。
 って無し無し。女関係の苦労なんてしなくていいから、私も疲れそう」
と取り乱す。

「お前はどうしてほしんだ」
「なんだろうな〜なんだろうね〜。この鈍感」
と不満そうな台詞、そして続けて、
「もう、今日はやり直しの日なんだって。高須くんと話してると本当、調子崩す」
と後ろ手に持っていた箱を差し出した。

「まあいいや、これ、あげる。開けてみて」
「サングラス?なんでだ、これから夏だからか」
「亜美ちゃんと週刊誌にツーショットが載るとき用よ。素顔が出るよりマシでしょ?」
「お前危険な事を…」
「ふふっ、冗談よ。あらてめて、お近づきの印ってヤツ?」
「川嶋、俺何も持ってないし、一方的に受け取る訳には」
「いいじゃん。高須くんにあげようと思って買っておいたんだけど。なかなか機会がなくてさ。
 亜美ちゃんこれ持ってるのうんざり、かれこれ半年も立つし」

「半年? 十二月…、クリスマスか…」
竜児は口に出す前に言葉を飲み込む。プライドの高いお姫様の気分を害さないように。
そして、自分の机の上で寂しそうにしている。届くことの無いヘアピンの事を思い出し、
「ああ、そういうことなら……、ありがたく頂くよ」
「かけてみて」
「ここでか、だいたい夜じゃ意味ないだろ」
「すご〜く意味あるよ。大事だよ。だ・あ・って、私がみたいから♪」
「まったくガキみたいな言い草だな。わかったよ。……サングラスなんて初めてだが」
「うん、うん。似合ってると思うよ。本職みたい。
 ちょっとサングラス越しにうっすらと透ける白眼が尋常じゃないけど……」
「最後の言葉が腑に落ちないが、だいたい本職ってなんだよ」

竜児の文句に、プレゼントに対する不満に、亜美はちょっとだけ慌てて言い訳をする。
「でも、高須くんの目つき隠れるよ、これで。見慣れた人はサングラスの方が
 怖いかもしれないけど、知らない人が見たら、普通の範疇だって」
「はいはい、俺の目はどうせ鋭すぎるよ。その上、三白眼だよ」
「言っとくけど別に私は高須くんの顔が怖くて、それプレゼントした訳じゃないんだからね。
 コンプレックスもってるのかなと思ったから用意したけど、
 個人的には、高須くんのいつもの眼差しって、ポイントだったりするし……
 で何言ってるんだろ。もうさ、いいから貰っておいてよ」

そんな必死さに可笑しさを感じつつ、プレゼントの受け取り主は簡単に、だが心からの感謝を言葉にする。
「お、おぅ、ありがとうな。川嶋」
「う、うん」送り手は顔を赤くし、照れ隠しとばかりに反転、
軽い足取りで歩き出し、、
「なんかすっきりしちゃった。中途半端だった事とか溶けてく感じ。これであの日は全部いい思い出」
心なしか声を明るい。

その明るさにつられて、竜児はクリスマスの事を思い出していた。

 まず思い出すのは未だに針を刺すような痛い記憶。だが、ゆっくり忘れていく事を誓った出来事。
 初めは倒れる程の、巨大な金槌で頭を殴られるくらい、意識を失うくらいの痛み。
 今では心臓に細い金属がねじまれる程度の鋭いが耐えられる痛みに変わった。
 それは今一緒にいる、もう一人のおかげもある訳で……

 準備からみんな団結して、盛り上がって、
 当日なんか、みんな笑顔でキラキラ輝いて。

 クリスマスパーティーは準備から縁の下に居たのは川嶋だった。
 もちろん、美味しい所はちゃんと顔を出す。

 そう、川嶋と大河が歌をうたってたけ。
 よくもまあ、あの場に大河を引っ張り出せたもんだ。
 主役にしたかったんだろうな、なんだかんだで大河の世話焼きたがる奴だ。
 まったく川嶋らしい。

 あの後、大河は帰っちまったが、本当に馬鹿なやつだよな。
 Lonely Christmas じゃつまらないって歌ってやがったのに。
 クリスマスはみんなが幸せでなきゃいけないんだろ……

 幸せでなきゃ?孤独なクリスマスじゃつまらない?
 ちょっと待て。

 あの夜、みんな幸せがったのか?
 川嶋に会って、歌どうだったて聞かれて、それで、俺は大河の事心配して。
 川嶋はその事で俺を怒って?、その事?

 川嶋の忠告を聞かなかったから?
 いや俺が解かってなかったからだ。大河の孤独も。川嶋の気持ちも。
 春田が言ってた。川嶋がその後、すぐに帰ったって、泣いてたって…

 パーティを盛り上げる為一番頑張ってたのは誰だ?
 大河をフォローしてやったのは誰だ?、俺じゃない、俺は当日まで一杯一杯で、

 だがクリパの後は大河を一人ぼっちにはさせなかった。俺はあいつの家に駆けつけた。
 それはあの夜はみんなが幸せにならないといけないって思ってたからで。そう思って。

 けど、それはたぶん、川嶋も同じで。だから準備だって一生懸命盛り上げて。
 それなのに一人で泣きながら帰って、たぶん、一人で夜を過ごして…
 俺は大河と馬鹿さわぎして、気づきもしないで…

「川嶋!」

川嶋亜美は振り替ええると
「どうしたの?」といつも通りの笑顔をしていた。


「クリスマスの事でお前に謝らないといけない」
「何?高須くん何かやっちゃった?罪の告白?」
「…お前を泣かせた」
お姫様は反転、再び前を向き、歩くのを再開。

「なにそれ、亜美ちゃん泣いてなんかいねーし」
「クリパ出て行くときだ。見た奴がいた」
「何かの見間違いじゃない。
 そうだとしても、そんな昔の事別にいいよ。高須くん空気読めないかな。
 今は楽しいデート中なんだよ」

お姫様は歩く歩幅を、速度を早める。
「それに罪の告白をしなけりゃいけないのは本当は私、
 私の願いの所為で高須くんはクリスマスにインフルエンザにかかったんだから」
「なんだそれ、全然関係ないぞ」
「私はそう思ってる。高須くんはそう思ってない。クリパの話と逆だね。 
 だから、お互い様、この件は無しでいいじゃん」

「川嶋!!」

お姫様は歩くのを止めた。そして笑顔で振り返る。
「私は今、とってもいい気持ちなんだ。そんなのに水を差すなんて洒落てないよ。
 私はね、自分がどう思ってるかちゃんと考えてる。
 考えた上で、今楽しいって思ってる。高須くんは今日のデート楽しくなかった?」
「そりゃ、俺だってデートは楽しかった。だが」

「じゃいいでしょ。このままでさ♪」
今度はハイヒールだと言うのに、軽やかな動きでダンスを踊る。
そして、新たに習ったステップだと、軽快に回る。

竜児はそのはしゃぎ振りに危うさを感じた。
「川嶋あぶないぞ」
「だって、楽しいんだもん。高須くんの前では子供みたいでいられるから」
亜美は聞きもしない事を返答する。案の定、バランスを崩すが、それでも揺れる。回る。
そんな光景を見ていられなくなり、竜児は強引に手を取ると、胸に引き寄せた。
「見てて危なかしいんだって、お前は」

川嶋亜美は震えていた。
亜美は抵抗も無く、そのまま竜児の胸に収まり、震えていた。
いくらか時間がたった。海風がさらに強くなる。


「……やっぱり寒かった」
竜児が腕に力をいれる。亜美は続ける。

「自分が…寂しいかどうかって考えるのって……、やっぱり辛いよ」
「…じゃあ、真っ直ぐ表現しろよ。対等なんだから」

亜美がしがみ付く。
「…とっても寒かった」

竜児は亜美の剥きだしの肩に、素肌に手を掛ける。風から守るように抱き込む。
亜美の素肌はボーリング場で感じたように、とても熱く。けれど、か弱く。
それでも華奢な体を、壊してしまいそうなくらい強く。たが、もっと脆いその内側を守るようにしっかりと

お互いの気が済むまで、ただ抱き合った。

END

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