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28 HappyEverAfter9 sage 2010/10/01(金) 20:45:49 ID:T3kNYCV/





Happy ever after 第9回






日本の夏は暑い。その日も例にもれず蒸し暑い日だった。
強い日差しはもとより、湿気を含んだ空気がその熱を溜め、放散を妨げる。
もわりとした熱の塊が漂い、常に体に加熱を加えていた。
汗たっぷりの人間が常にまとわりついているような錯覚すら浮かんでくる。そんな日だった。

高須家の台所は、それにもまして暑く、温度計は三十八度に届かんとしている。
何故か
こんな日にも関わらず、揚げ物が作られているからだ。

時は昼時、竜児は弁財天でヘルプ中。
逢坂大河のオーダーを受け、川嶋亜美はせっせと、トンカツの調理に明け暮れていた。
ボトムは竜児のジーンズを借りていて、男物のパンツは彼女の自慢のスラリとした足といえど長いらしく、少しばかり折り返して上げていた。
上げた裾の下から、素足が少し出て、形のいい足の指が質素な床に侍る。
アップは簡素なTシャツ。日中の暑い最中だというのに長袖を着ている。
揚げ物の時は長袖着ろよとおばさん男に言われていたからだ。
高須お料理教室の生徒である川嶋亜美は授業中は常にふざける、手のかかる生徒。
けれど、先生のいないところでは、律儀に言いつけを守る真面目な生徒でもあった。

竜児は値段が手ごろな事もありプリントシャツをよく購入する。
特に、奇抜なメッセージや、奇妙なものは売れ残り、プライスダウンする事が多く、手が伸ばしやすい。
そのシャツも安売りセール時に竜児が購入したものだった。
プリントされている文字がセンスの欠片もなく、草食系と記されているのがバーゲンセール行きの大きな理由。
買った本人はこの文字が目つきを相殺してくれるかもと期待もしていた。
実際、彼が着るとグリム童話に出てくる、お婆さんに擬態した狼さんよろしく、怪しさ百万倍。
そんな事鵜呑みにするのは人を疑うことを知らない真っ赤な頭巾の子くらいだろう。
少しでも警戒心のある猟師に出会ったらその場で撃ち殺されてしまう。

その上、亜美には「高須くんそのまんまじゃん。もっと捻らないとつまんねー」と世間一般とは真逆の評価をされる始末。
竜児が亜美の前でたまたま着ていたそれを、そんな風に馬鹿にされた。
散々けなしたわりに、元モデルの実力を見せたいから着てみたいとも言う。試しに着させたTシャツはたしかに似合った。
けしてお洒落といえる代物ではないバーゲンセール品。
けれど彼女が着ると、わざと外しを入れた遊びのファッションに見えるから不思議なものだ。
「どうよ」と、左足を前に出し、前かがみ。右手は腰に、左手は前に出した足の膝に、そして笑顔を作る。
そんなモデルポーズで決めた、大きすぎる男物のシャツに身を包んだ亜美。
「可愛い…」と竜児も思う。思うが、けして口には出さない。その代わり、「まぁ、俺よりは少しはましだな」と意地を張る。
そうして、「そうそう、亜美ちゃんの方が似合よね。じゃ、これは私のもの♪」と言われるままに亜美にシャツを取り上げられる。
使い古しだというのに亜美は大きく喜んだ。

そんなシャツを着た亜美を、赤い、これ自身は品物もいい、これもいつのまにか竜児にねだって亜美が自分へのプレゼントと奪い取ったエプロンが着飾る。
贈り物を包装するようなラッピングペーパーのように彼女を飾り立てている。髪は邪魔にならないよう、ポニーテールにして、纏めていた。
台所に立つ彼女のうなじを玉の汗が露となり伝う様子ときたら、そこに風情を感じないものなどけしていないだろう。

慎重に油から狐色に色づいたカツを長箸で取り上げると予めキャベツの千切りが盛り付けられている皿に置く。
二つの皿が並べれており、一つ目の皿には小さめの一口カツを、もう一つには大きな大判カツを置く。
これで完成。亜美はその皿をみて、小さく、満足げに頷き、急いで表情を作り直し、両手に皿をもつと居間に向かった。

「ばかちー、遅い。お腹ペコペコ」
「急にあんたがカツが食べたいって言ったからじゃん。予定通り素麺だったら楽でよかったのに」
「あんな薄い味のもの何度も食べてられるか」
「何度もって、五日前だっての」
「そういうのは一週間に一回で十分」
「トンカツは三日に一回でも飽きないってのに?。本当、こんな暑い中、よく食えるよね」

と亜美は文句をいうものの、カツを前に目を輝かせる逢坂大河を前にしては、
やはり、毎回、注文どおりに用意してしまうのである。

当の要望者は文句を言った表情はどこ吹く風。
ニコニコ顔となり、カツにソース(ブルドック)をたっぷりと掛け、それをおかずにご飯を水のように飲みながら、昼食を進めていた。
咀嚼する度にゆれる満足げな表情を見ると、
メニューを変更してよかったなと思い、また、上手く揚がってよかったとホッとする亜美であった。

そうして、飢えた虎は一膳目の飯を平らげ、腹四部タイガーに変化する。大河はふっー、と息を付くと亜美をジッと見つめた。
「ねぇ、ばかちー。肉……」
「ん?。肉がどうしのよ。確かに今日のは、三日前の閉店間際に買ってきた赤札が付いたやつだけど、狩野屋だし大丈夫でしょ。
 ほら、ゆりちゃんも言ってたじゃん。腐りかけが一番美味しい時期だって」
「違う、その肉」
と大河は箸で亜美の方を指し示す。亜美はカツがのった皿を引いた。
「これは私の分だからやんねーっての」
大河は意が伝わらないのを不満と、箸を戻し、戻しざまに、たくあんをつまんでボリッと噛み、その後、低い声で、

「夏って言えば、怖い話よね」
「なによ。急に」
「私が特別に話してあげる」
「亜美ちゃん、ホラーとか超苦手だから聞きたくない」
「あんた、冬休みの時の肝試しとか全然怖がってなかったじゃない。竜児と騒いでただけで。
 役者のくせに、芝居、みのりんに適わないんじゃないの?」

安易な挑発に亜美はあっさり乗る。
「ふん、幽霊とか存在するか解らないものなんか怖がってられねーての。世の中、怖いものばっかだってのに」
抗議を無視して話始める大河。
「私ね。インナーマッスルってのがすごくマッチョなんだって。だから、代謝がかなりいいの。水に浮かないけど……。
 その割に胃腸の吸収はそんなよくないから、かなり燃費が悪いの」
「で?、何が言いたいのよ」
「つまり、すっーごく太りにくい体質て事」
「自慢かよ?、胸糞悪い」
と心底嫌そうな顔をして、ケと呟く。内心は羨ましいさ一杯だが、そんな気持ちはおくびにも出さず、憎らしげな目で見返す。
大河は平静、マイペースなまま、語調を同じくして、先を続けた。


「竜児の家でご飯摂る前は、ずっーとコンビニご飯とか、出前とかで済ましてた。
 その時もお肌とか、お通じとかよくなかったけど、少しも太らなかった」
「皮肉?、私はストレス太りで」
「最後まで聞くがいいわ。ここからが怖いところなんだから」
と大河はいったん息を吸い、山場に向かって話しを進める。

「竜児の家でご飯食べるようになったら、お肌も綺麗になって、体調もよくなったの」
「…………」
「あら、どうしたの?、ばかちー。黙っちゃって。私の話を静聴したい訳ね。いいわ」
急に押し黙る長身モデル、小柄なお姫様の薄紅色の愛らしい唇から恐怖体験が紡がれる。

「そんな生活を続けていたら、あっと言う間に、秋になる事には、外見が変わっちゃうくらい、まるまる肥えたの」
亜美の顔色が少しずつ青ざめていった。
「そんな事生まれて初めて。遺憾ながら、あんたの手までかりてダイエットしたものね。覚えてるでしょ。人の数十倍太り難いこの私がね」
そこで大河はニヤリと笑い、亜美に謝罪した。
「あ、ごめん。ばかちーには関係ない話か。あんたは誰よりも太り難い体質で、ダイエット戦士とは縁が無い存在だものね」
そしてとどめの一撃を放つ。
「ところでさ、最近、竜児の服、男物の服ばっかり着てるわよね。しかも、体のラインが見えない位、ぶかぶかのやつ」
「うきゃーーーーーーーーーーー」
川嶋亜美は頭を掻き毟りながら立ち上がって、そのまま凍りついた。


         ******


夕刻になり、高須竜児は早朝からの仕事を終え、帰宅した。
夏場のお好み焼き、鉄板、客の出入りを心配していたが、最近の売り上げを見る限り、杞憂に終わりそうだ。
夏休みに入って、学生客が増えたのが何よりの要因だが、
泰子考案の、冷やしお好み焼き始めました。の登りが功を奏した。それ目当てに来る客が増えたのだ。
但し泰子のアイディアは発案のみ、実際は存在せず、売り切れで今まではごまかして来た。が、限界に達していた。
売り切れの連続が話題を呼び、目当ての客が雪だるま式に増えてしまった。これが客が増えた真相。
その対策として、急遽、開発部長に任命された竜児がなんとか実体をひねり出す事を命じられる。
孤軍奮闘、悪戦苦闘の日々の末、苦労の甲斐もあり、自分自身でも満足出来る物がやっと出来た。
今日から正式にメニューにも載せた。
体はかなりの疲れをまとっていたが、精神を達成感が高揚させており、体は軽かった。
そんな達成感の元、憩いの我が家のドアを開けると、
鬼がいた。
「高須くんは女を駄目にする男だ」
と涙目の鬼女とエンカウント。どうやら玄関で待ち受けていたようだった。
充血した赤い目で睨む鬼チワワと化した川嶋亜美が立っている。
軽かった体が嘘のように重くなる。。高揚感が吹き飛ぶくらい怖かったのだ。
だから、悪夢を消す為に呪文を唱えてみた。
「……鬼は外」

だが、目の前の現実は消えることがない。わんずと竜児のエリを掴む。その手の中で彼の服は内に巻き込まれ、身動きがとれなくなる。
鬼は自分の姿を外にさらす事を嫌い、竜児を服毎をつかんで部屋に引きずり込むと、強く音が鳴るほどの勢いでドアをしめた。


気づいた時は、ちゃぶ台の前で竜児は正座していた。
「このサゲチン!」
睨む亜美。何故、俺はここに座っているんだと、頭に?を付けて状況が一向に飲み込めない竜児。お茶を飲む大河。
そんなお茶の間。
「川嶋?、サゲチンの意味、解ってて言ってるんのか」
「高須くんが駄目男って事でしょ」
「たしかにそうだが、って俺は駄目じゃねぇ。てか女の子が破廉恥だろ。大体、そんな事お前とはしてねぇし」
「モデル仲間はみんな使ってる。だいたい何で駄目男ってのがえっちい言葉なのよ」
どういう意味がちゃんとわかってなくて使かってやがるな。こいつの言葉遣いが悪いのって、回りの女のせいかよ
等と竜児は思いながら、マルチタスクで、何が川嶋を怒らせてるんだ?と原因を考えていた。

飯の支度、最初の話以上に任せちまってる事か?。
そうだよな、初めは下準備は俺がするから調理だけって事だったが、川嶋が任せろって言ってくれた言葉に結構、甘えちまってるし。
何度も高須くんは馬鹿だから嫌いとか言われてるもんな。
そりゃ鈍いのは認めるが、しかたねぇだろ、この目つきのせいで、恋愛なんか諦めかけてたし。
櫛枝の時だって、大河が間に入るまでは、ほとんど話しかけられなかった。結局、告白する前に振られちまった。
そうなのだ。そういう場数を踏んだ回数ってのが圧倒的に少ない、というよりも、正直に皆無。
今現在がおかしいのだ。異常気象の影響で発生したモテ期としか思えない。

そんな自分ですら納得できない気持ちのまま、もう一方の当事者、川嶋亜美をチラリと見る。
美人だと思う。凶眼持ちとか、犯人面とか言われる自分とは対照的な整った顔立ち。
仕草は、計算され尽くしたものなのかもしれないが、確かに魅力的だ。時折、零れ落ちる吃驚した顔やモデル顔ではない笑顔は取り分け、可愛い。
なんでこういう女が自分に好意を持つのだろうかと改めて不思議に思う。そわそわと落ち着かなくなる。
そう思うと……。
たしかにそうだよな。と再度納得する。
女優業の足引っ張てはいても、助けて等いない。釣り合いなんか取れていない。ゆえにサゲチンと言われても否定出来ない。
責められても仕方ない気がしたので、謝罪する事にしたのだが、

「謝ってよ」「ごめんなさい」
「なんで理由も聞かずに謝るのよ」「すまん。何で怒ってるんだ」
「自分で考えなさいよ」
無限ループだった。

2杯目のお茶をすすり終わり、そんな状況に飽きた大河が、
「ばかちー、デブったんだって」
「ちび、余計な事言うな」
「川嶋が?」
じっと、亜美を見つめる竜児。見つめられた方は「な、何よ」と、
微妙にもぞもぞと体を揺らし、半身になって、体を両手で抱きしめるようにした。
けれど竜児には亜美の体が変化しているように思えなかった。顔が大きくなった訳でも、むくんでもみえない。むしろ、血色もよく、健康的だと思った。
と言っても、彼は逢坂 大河の体積が倍になるくらい、体重増加を問題視出来なかった位の節穴。
彼の母親故の反動なのか、女性のプロポーションにたいして強い願望がなかった。
亜美が知ったら大いに落胆したと共に、納得もしたであろう。年頃の男子高校生にしては異常といったレベルだった。
たしかに竜児だって興味はあるし、そんな本やDVDも隠してもいた。
だが、事ある毎に隠し場所を詮索する悪戯っ子が同居する事になって、泣く泣く、友人の春田家に疎開させた為、今は持っていない。
それなのに目の前の据え膳に手を出さない。
そんな難題を我慢出来てしまうという驚愕の事実。男子高校生にしては、ある意味、異常性欲な男だった。


「でどこがだ?」
「お腹よ、お腹。今じゃ、ボン、ボン、プニ、ってもんよ。こいつ、座ると段が出来るのよ、二段に」
「だから、余計な事をいうな!。二段なんかじゃねぇし」
と、自分のお腹を両手で包み込み、前傾姿勢で竜児の視線から腹部を隠すように抱え込む。
その姿をみると、大河の言葉に疑いの余地は無いように竜児は感じた。少なくとも一段目はあるんだろうなと思った。
何を感づいたのか、そんな竜児を充血した目がギラっと睨みつけ、「なに?」と力が篭った声が聞こえてくる。
ここはフォローしてやった方がいいかと、安心する言葉を掛けようと勤めて優しい声を出し、
「少しくらい太めの方が健康的で良いんじゃな…、おう!」
新聞紙を丸めたものが飛んできた。
慌てて竜児は避ける。すると、「避けんな」と、座布団が飛んできた。
一応、当たっても怪我しないものを投げる分別はもってるようだな等と竜児は思ったが、それでも痛いので当たる訳にはいかない。

「何で避けるのよ!」と理不尽な抗議をまた飛んでくるので、竜児は諭す。
「女が思うほど周りは体重の事なんか気にしないぞ」
「甘い!、無責任。そんな事、みんな口では言うけど、どうせ裏ではメタアミ、メタアミって言うんだ」
「誰も言わないだろ」
「言うに決まってる。高須くんはやっぱり、女を駄目にする男だ」
チワワの目は狂気に満ちているように竜児には見えた。川嶋亜美の美への思い入れは人一倍強いようだった。
正直、怖かったのと、このままでは埒が明かないという思いもあり、建設的な提案をしようと竜児は
「運動すればいいんじゃねぇか?。大河の時みたいにスポーツジムに行けばいいだろ」
「それ私も言ったんだけどね」と大河。
「こんな姿、身内以外にみせられねー」子犬はわんわんと泣く。
「なら、あの時みたいに、クラスの奴らに手伝わせるか?。あれだけ膨れてた大河でさえ、みるみる痩せて……」
「余計に、みんなにばれる!」
「それなら、部屋の中で筋トレとか」
「マッチョにはなりたくない。無闇にやったら筋肉ついちゃう!」
「そこまで行かない程度ですませれば」
「ああいうのは程度が難しいの!、もう話かけないでよ」
もう、何を言ってもマイナスに捕らえるネガティブモード。亜美は反論を許さない。

と言っても、彼女自身、高須竜児が全て悪いとは思っていなかった。思い当たる事は沢山あるのだ。
まず、逢坂 大河が言ったように、最近、ご飯が美味しい。
だが、それは意識して節制をしたつもりではある。
けれど夏である事に油断もしていた自分もいた。
普段の夏であれば、食欲も減退し、3食、サプリメントと水で済ます事もある。
逆に、顔や、腕、胸、臀部と言ったところの肉が無くならないか、気を使わないといけないくらいなのだ。
けれど、一緒に食卓を囲む人間がいる事もあり、三食欠かさず食べている。
ともすれば、大河と一緒におやつも食べてしまっている。

なにより問題なのは、自分が食事を作る時なのだ。
何度も味見をしてしまっている自分がいる。
美味しく出来ているだろうか、レシピの抜けはないだろうか、あいつに不味いと思われないだろうか。
料理中に何度も、何度も、試食してしまっていた。
食事前にはお腹一杯になってしまう事もしばしば。
それで食事を抜こうとするものなら、高須家全員が心配する。我慢してでも、食事を一緒に取ることになる。
自分でも、ヤバイという認識があるので、味見を減らそうとは思うのだが、せっかく作るのである。不味いとは思われたくない。
なにせ不足点があると、それを見逃さず、先生気取りで指摘してくる奴がいる。
やれ最後に塩コショウで味ごまかしたろとか、火通しすぎだとか、この前、渡したがってんメモ読んでないだろとか、細部に渡って指摘する。
その後、竜児が時間を作って、料理教室を開いてくれたりする。
ただでさえ忙しいから交代で料理をしているのに手間は掛けさせたく無いと思う。何度も間違えるのは格好悪いと思ってしまう。
そして、上手く行った日は素直に褒めてくれる。亜美が工夫した点を言い当ててくれる。
やりがいを感じていた。
普段から、これくらい鋭いといいのにと別な不満も沸いたが、とにかく嬉しいのだ。
だから、自分の責任もほんの少しくらいはあるという自覚がある。
それだからこそ言ってしまう。
「高須くんのせいだ!」
むきになって、八つ当たりで、甘えもあって、竜児に文句をぶつけてしまう。


「本当、めんどくさい女よね、ばかちーは」
「あんたに言われたくない」
と吠え立てる亜美に、大河は相手にしてられないと竜児を話し相手に変える。
「今日、昼前に帰るって言ってたけど、どうしたの?。冷やしお好み焼きの試食、駄目だったの?」
「いや、店のみんなは大好評だったし、オーダーも見届けてきた。お客さんもすげぇ喜んでたよ」
「じゃ、なんで帰ってきたのが今なのよ?」、
「高須農場に行ってきた。連日、こう暑い日続きだと、愛しの野菜たちが心配でな」

すんすんと泣いていた亜美だったが、自分を無視して会話をされる事になんだか腹が立ってきたので、言葉を挟む。
「高須農場って?」
「ばかちーは知らないんだっけ。竜児が作った学校裏の違法農場で、大麻草生産工場。
 それを育てながら、竜児はぐふふって笑ってるの。Jwal(ピー)も、のり(ピー)もこいつの犠牲者よ」
「人を本当の犯罪者にするな。あれは普通の小型農園だ」
「農園?」
「そうだっけ?」
「お前だってあそこの生産物の恩恵を受けてるんだからな。ニンジンさんに大根さん、シソに生姜。
 来たこともあるだろ。芋堀りの時はすげぇはしゃいでたじゃねぇか」
「そうだった。あの芋は絶品だったわ。みのりんと焼き芋楽しかったな」
「御芋掘り?、実乃梨ちゃんも一緒?」
亜美は懸命に記憶を探る。大橋高校での日々は騒動ばかりで、そのどれもが大切な日々だ。
時には痛く、苦い味がしたとしても、それは忘れえぬ宝物だった。
だが、いくら考えても、そんな記憶はない。

「私、知らない……」
「ばかちーは知らないの当然よ。だってハブったもの」
当然とばかり言い放つ虎。それを聞いて、亜美はキッと、竜児を睨みつけ、
「聞いてない!」
竜児は必死で言葉を探す。
「えーとな、お前、ああいうの嫌いそうだろ。かっこ悪いとか、ダサいとか」
「それは、……そうかもしれないけど…」
亜美は感情のままに怒りをぶつけたかった。しかし、素直になれない。
芋掘りがしたくて怒る川嶋亜美と思われるのは恥ずかしい。けれど、怒りたいのは高須竜児の川嶋亜美への思いに対してだ。
だから、どうしても不満も訴えたい。無理にでも言葉を捜す。
「…誘いくらい。そう、亜美ちゃんの機嫌しだいで文句言わないかもしれないし、場合によっては断らなかったかもしれないし」

それを聞いて竜児は嘘だと思った。絶対に文句を言うはずだ。精魂込めた愛しの農場を馬鹿にするに決まっている。
きっとこんな事言うに決まってる。
 『高須くん、頭への酸素が急激に減って急性酸素欠乏症とかになっちゃったんじゃない?。
  そんなお洒落じゃなくて、肉体労働な一次産業に三次産業の頂点たる美人モデルの亜美ちゃんが行くと思ってるの?
  太陽にやられて、頭ゆだってるんじゃない?』
そうだ文句を言わないはずはないのだ。
そんな事を口でいいながら、当日は場違いな位、気合の入った、洒落た服に身を包んで、農場に来たに違いない。
朝早いとか、やっぱ来なきゃよかったとか愚痴りながらもきっとそこにいる。
櫛枝の突っ込み役やって、俺をからかって、大河と小競り合いして、そんな事しながら
一生懸命、芋掘って、泥で服汚して、それでも、楽しそうに芋焼いて、笑いながらみんなで食って……
スケジュールさえ合えば絶対に来たはずた。
いや、前もって言っとけば、こいつの事だ、無理にでも調整して結構楽しみにしてくれただろうに。

竜児は亜美にあやまる事を決め、「誘わないで悪かった」と心のそこからの謝罪をする。
その素直さに面食らい、亜美は「別にいいけど」とあっさり受け入れる。
そして竜児は、今からでも遅くねぇと考え。
「いい運動にもなる。お前さえよければ、高須竜児農場に行ってみないか」
と彼女を彼の農場に招待した。



         ******


「高須農場へようこそだ」
「へー、これが」
自慢げに大きく指し伸ばした右手の先は学校の片隅。亜美はそちらの方向へ視線を向けると
「ちっさ」
と侮蔑気味に言い放つ。続けて、
「もっとさ、見渡す限り一面の植物とか、花畑って感じを想像したのに。がっかり、なんだか小さい」
とさらにおとす。竜児はやはり文句言われたかと
「学校の片隅でそんな事出来るかよ」
「だって、農場って自信たっぷりに言ってたからさ。実乃梨ちゃんも大喜びだったって」
「……農場は確かに言い過ぎなのは認める。気持ちだけは農場なんだよ」
と、いじけ気味の呟きと、目つきを向ける。
亜美はそんな反応だけで楽しくなり、
「嘘嘘、ほらすねない。けっこう可愛いよ。こっちの向日葵とかさ」
とフォローを入れてみる。しかし、反応はより弱く、
「……そっちは園芸部のであって、俺はその名札から右だ」
向日葵から右側は、青々とした葉が生い茂る。美味しそうには見えても、綺麗とは言いにくい。
「より小さ。けど高須くん一人育ててるんだ。てっきり園芸部にお邪魔してるのかと思った」
「お邪魔といえば、お邪魔してるんだが、園芸部とは切磋琢磨する仲というか」
「つまり、一人ぼっちで、植物に水あげたり、肥料あげてニヤニヤしてる?」
「言い方が気になるが、一人作業なのは否定できん」
亜美はその姿を想像してみた。
方や、みんなでワイワイと水をあげ、植物の成長に一喜一憂、歓談をする園芸部。
その反対側の花壇で、集団から離れ一人、如雨露で水をあげ、土を盛り、鋭い目つきで凶悪な笑顔をする竜児。
「えーと、ごめん。フォロー出来ない」
亜美の唇は形だけ、笑みを浮かべる事に成功していたが、それ以外は失敗していた。困り果てた目で竜児を見る。
「何とでも言え。哀れめよ」
自分でも農場で一人でいると、もしかしたら「俺って寂しい奴?」と思う事があるだけに、より拗ねた感じが言葉に出てしまうのを竜児は自覚していた。
けれど、それ以外の気持ちもある事もたしかだ。だから、駄目もとで反論してみる。
「でもな、そういう事で落ち着くこともあるんだよ」
「…………」
亜美は表情を戻し、静かな表情で見つめる。
竜児は彼女からの罵倒の言葉を待つが、その表情のまま竜児を見つめ返すのみ。
「いや、なんか言えよ。言ってください。川嶋さん?」
何故か心配になり聞いてみる。すると亜美は微笑みにも似た優しい笑顔で浮かべ、
「ま、いいんじゃない。時にはさ」
「もっと酷い事言われるかと思ったが、何でだ」
「誰しもそういう事あるよねと思ったの」
と返して、照れ隠しと、話題を変える。
「それよりさ、すごいと思うよ。個人活動なのに、学校認めさせるなんて」
「…………」
今度は竜児が無言の答えをする番だった。その様子に異変を感じ、亜美はある可能性を思いついた。


「もしかして、非合法?」
竜児はこくりとうなずく
「マジで?」
「マジで」
後ろ暗そうな背定の言葉に、今度は吹き出す様に亜美は笑う。
「あははは、高須くんって不良。真面目一辺倒かと思ってたけど、悪いんだ」
「ああ、そうだよ。非難してくれて構わない。解っててルール破ぶってるんだからな」
と、今度こそは酷い事言われるだろうと覚悟して竜児は答える。
すると亜美は新しい発見をした子供のような表情で
「へぇー」
「なんだよ。言いたい事があったら言えって」
「別にたまにはいいんじゃない。悪意がある訳じゃないし、人に迷惑を掛けてる訳でもないし。高須くんなら罰あたらないよ」
と言った後、今度はニヤリと悪戯顔になり、
「それとももしかして、本当にタイガーが言ってたような事してたりする?、隠れて大麻育てたりして?。
 うわーすげー、それってすげーよ。似合うんじゃね?」
とからかいに転じる。
「馬鹿、それじゃ本当に犯罪者じゃねぇか。第一、大麻は体に悪い。絶対に駄目だ」
「でもさ、ドハマリだと思うんだけどな。高須竜児が秘密の栽培だよ。やりそうだと思う人多いんじゃない?」
「お前までそう思ったりするのかよ?」
と竜児。本心で亜美を非難してる訳ではない。彼のわずかしか歩んでいない人生ですら、そういった嘲笑は沢山あった。
だから、どうせ世間様が人相悪を見る目はそういうもんなんだろうよ という自嘲を込めた半分ふざけての言葉に過ぎない。

「違うよ」
だが、亜美は今までの大笑いを何処かに置いてきたかのように、真面目な声で言った。
竜児は亜美の不意打ちに驚いて、急速にテレて、少し心に染みて、彼女を正面から見るのを止め、横を向いた。
「ならいいさ。そりゃ誤解されるのは嫌だが。俺を知らない奴がそう思うのは仕方ねぇよ。こんな人相だ。もう慣れた。
 だからといって、そんな偏見に応える義務なんかねぇけどな」
と一般論に摩り替えてみたりする。

そんな竜児に亜美は先ほどの真面目なトーンが嘘だったかのように、高いテンションに戻り、
「そっか。そうだよね。うんうん。そうそう。偏見どおりにしてなくてもいいよね」
「なんだニコニコして?。持ち上げてから、落とすつもりじゃないだろうな」
「素直に賛成してあげてるんだから、喜びなよ」
「そうか、それもそうだな。ああ、ありがとうな」
「うん、うん。素直でよろしい」

機嫌をよくした亜美は改めて、周りを見渡すと
「つまり、ここが高須くんだけの場所か」
「言っとくけどな別に俺だけの場所って訳じゃない」
「そうだよね。だって、実乃梨ちゃんもタイガーも連れてきてるんだもんね」
「悪かったって。だから、お前を今連れてきてるんだろ」
「いいの?」
「なにがだ?」
「なんでもな〜い」
亜美は足取りも軽く、元廃花壇、今高須農場の前に近寄り、スカートを気にしながらしゃがみこみ、植えられた植物たちに顔を近づけると
「葉っぱばっかりだね」
とシソの葉を右手で弄び、振り仰いで、
「どうして、全部、食べる系?。もっとこう実用性抜きのさ、例えば鑑賞目的みたいなお洒落な奴とかもやろうよ」
亜美は提言。が、竜児はこれを否定。


「口に入れる事が出来る植物でも、けっこうお洒落なものあるぜ。香草とかな。お前、ポプリとかアロマとか好きだろ。
 この前ストバでお茶した時のあのハーブティーだって作れる。シソだってジャパニーズハーブだ」
「ハーブは好きだけどさ、しそ紅茶ってどうなのよ?」
「アカジソのハーブティはあるぞ。後、あっちに生えてるレモングラス、お前の好きなローズヒップと相性がいい。
 それと菩提樹の葉だな。今度、その三つで煎れてやるよ。
 おう、そうだ。ダイエットにも効果的だ。利尿効果が高いからトイレは近くなるけどってな。ってしそ、むしって投げつけるな。MOTTAINAI!」
「トイレの話しないでよ!」
ちょっとしたトラウマを抱える事になった居候女優は軽く怒りの表情を作る。
それは実際、演技でしかなく、それほど悪い思い出でもないので、すぐに表情を戻し、
「まあ、自家製ハーブティてのはちょっとカッコいいかもしれないけど」
竜児は優しく笑い、
「かっこいいかどうかは知らないが、自分で植えたものを食べるのは、ちょっとした感動がある」
と亜美が乗ってきた事に喜びを感じていた。
「なんかさ、そうやって自分の趣味、正当化しようとしてない?」
亜美は常に裏を伺い警戒する。大概の事にそれぞれの人間の都合のいい理由というものがある。
だが、亜美の目の前にあるのは純粋な善意の言葉。
「そんな事はねぇが、ただな、いいものはお前にも解って欲しいなんて思ったりもする…。
 無理強いするつもりはないけどな」
「ふ〜ん」
竜児が善人な事は解っている。彼が自己中心的な言葉をいうはずがないと信じている。
けれど不安な事もあるし、その口で聞いてみたい言葉もある。
立ち上がり、背中で手を組み、少し前傾姿勢になると、じっと竜児の顔を見つめだした。

「な、なんだよ」
「たとえば料理とかと同じ?、高須くんは解って欲しいと思う?」
「どうした急に?」
「答えて欲しいな」
亜美の言葉には、いつものようにからかって楽しんでいる雰囲気が満ちていたが、
真剣さのエキスがほんの数滴だが含まれている事を感じ取った竜児も真面目に言葉を返す。
「楽しいと思ってくれるなら俺は嬉しい」
「川嶋亜美が楽しいと、高須竜児が嬉しい?」
「妙な言い回しするな」
「違うの?」
竜児を覗き込む顔には、もう冗談はなかった。
「……違ってはいないが」
「なら、やってあげてもいいかな。やって欲しい?」
「それは強制ではなく、するならお前の意思でだな」
「欲しい?」
竜児は根負けして、
「……、植物を育てる楽しみを知って欲しいとは思う」
と内心の動揺を隠し切れずに少し声が上ずっている。
そんな竜児の反応に満足したのか亜美は
「苛めるのはここまでにしてあげる。いいよ。やろう。料理も楽しくなってきたし、もしかしたら面白いかも」
だが釘をさすのは忘れない。
「でも、育てるとしたらどんな奴?。大根とかはやだよ」
「ハーブて手ごろな奴がいいだろ?。そうだな。ローズマリーって知ってるか?。
 一年中、苗の植え付けが可能だから、今日からでも始められる」
「ローズってバラだよね。亜美ちゃんに相応しい名前。どんな奴?」
「頻繁な水やりもいらない、肥料もいらない、風にも強い。日陰でも十分育つ。初心者にはもってこいだ。
 もちろん日向に植えたらスクスク育つ。綺麗な花も咲く」
「高須くんの薦めならやってみようかな」
「そうしろよ。俺もサポートしてやる。いいぞ、うまく育てば花がつくのは十一月だ。
 強くていい植物でな。なによりしそ科なんだ」
「……しそ、本当に好きだね」


そうして、竜児と亜美は花屋に苗を買いに行き、亜美はそこで同級生の少女と談笑し、
その少女の彼氏であるところのアルバイトと対面し、彼を見て、竜児を指差しで笑い、
買ってきた苗を、高須農場に二人で植える。

苗を運んで、土を掘り起こして、そこに根を広げて、土をかぶせて、水で固めて
亜美は竜児の手を借り、指示を受け自分でやってみたりする。そして、彼の作業する背中を目で追ったりした。

高校二年の時、教室掃除でも、よく彼の背中を追った。
掃除の時間は彼女にとって面倒臭いの言葉に尽きた。
まさに、「なんで亜美ちゃんが」であったし、するつもりなど毛ほどもない。
だから、適当にする振りをして、非力さをアピールして、いい所を見せたがる男子に任せた。
もちろん恩に着るつもりは一欠けらもなかったから、「ありがとう♪」とその場で、報酬をやった。
身分不相応のご褒美だ。釣りはいらないから、さっさと働けと思った。

けど、この小うるさいおばさん体質男は、非力さをアピールした所で、率先してやろうともせず、
「川嶋、ちゃんと働けよ」等と言う。
「なんで亜美ちゃんが 」等と言ってみても、「川嶋亜美が2-Cの生徒だからだろ」と直ぐに返しやがる。
仕方ないから、机なんぞを運んでみた。掃除好きの後を追って。
後ろから見る背中は、掃除程度だと言うのに真面目で、一生懸命で、彼女はそんな背中が好きだった。
箒をもって履いてみた。ゴミを送る先には塵取りがあって、それを持つのは目つきが異常に悪い奴だった。
気を配ってたのかもしれない。そうでないのかもしれない。彼女が行動に対し、当たり前にそこにいた。
そこには媚も諂いもなく、ただちょっとした気遣いがあるように感じた。そんな行動を少し感心したりもした。
モップの水を交換しようとして、「さすがにそれは重いから、女にはきついだろ」なんて代わりに持っていく、
たまにしか優しくない男がいて、アッカンベーなんて、そいつの前ではモデル以外の顔をしたりした。
そんな時間が嫌いではなかった。

三年になると、みんなの亜美ちゃんが掃除をすべき存在でない事がはっきりと解った。
女優となった亜美はなにをしなくても、媚びへつらう男どもに囲まれていたからだ。
「本当、アピールする必要がある分、2-Cの男の子の方がましだよね」
なんて、感謝もせず、男どもへの評価を下げていた。
だから、清掃の時間に物足りなさを感じていた。あんな時間はもう無くなってしまったのかと残念さを抱えていた。
それだけに、畑仕事という肉体労働を、久々のこんな時間だからこそ、亜美は楽しんだ。
苗植えも、雑草取りもそんなに苦にならなかった。
気づいた時には数時間が過ぎていた。

「川嶋、そろそろいい時間だし、終わりにするか?」
竜児は手を止めて、中腰にしていた腰を伸ばすようにすると声を掛けた。
「え〜、まだいいよ。そんなつまらなくは無いし、第一、まだ数十グラムくらいしか減ってない気がする」
「そんな一気に動いても、ぶったおれちまうだろ。それに」
竜児はしつこいかとも思ったが、それでも、亜美を心配する。
「多少、太ったとしてもそんな変わらないと思うぞ。もしろ、ふくよかな方が健康的に見えて俺は安心だ」
彼にとって、スタイルは二の次だ。それより彼女の健康の方が大事なのは自明の理だった。
「多少とかつけても、太ったとか言わない!。ウエスト60より上のモデルはこの世に存在しないの」
亜美はわざと怒った顔をして、ふざけて竜児を遮る。彼が心配してくれている事は解っている。けれどだ。
「だって、私からそれ取ったら何にも無いもの」
「どうした?。自信家なお前が」
「もちろん、美少女なのは当然、自信あり。常識でしょ。けど、それ以外はさ」
と軽く笑う。


竜児にはその笑顔が少し寂しそうに見えた。そして、それは亜美がいつも間違いを犯す時の顔のように思えた。
だから先手を取る。照れくさくても、言いたいことはちゃんと言う。
「俺は川嶋をすごい奴だと思ってる」
亜美は慈愛に満ちた顔で竜児を見て、
「高須くんはいっぱいもってるからそんな事言えるんだよ。人のこと考えられる余裕がある」
「お前は現役女優なんだぞ。俺が一体、お前より何を持ってるてんだ」
言っている事が解らないと竜児は亜美を見返した。

「友達がいる。性格だっていい。家事だってこなせるし、料理だってすごく美味しい。
 それだけじゃない。選抜クラスに選ばれるくらい頭よくって、福男になれるくらい運動能力だってある」
「自分の性格の事はよく解らん。成績とかだって実社会に出て、活躍してる女優から比べたら取るに足りないだろ」
「そんな事ない。むしろ、実社会出て、自分のスペックてやつを思い知った。掛け値なしに能力のある人はいる。
 自分に焦りを感じて、今の仕事なんか偶然で出来てるて思うこともある」
「お前は十分に凄いと思うぞ。まだ始めたばかりだからそう思うだけで、初めては誰でもそう思うんじゃないか?」
「事実、才能ってやつは本当に存在するんだもの。
 例えばタイガー。ろくに勉強してる姿見せないのに、成績はTOP。そのくせ野生動物みたいにな身体能力がある癖に鍛えてる素振りもない。
 それどころか、あんな暴飲暴食しても太らない体質ってどうよ。さけんじゃないての」
と毒づいたかと思うと、
「これから言うこと絶対、チビに言わないでよ」と竜児に念を押す。
「ちっこくって、可愛くって、小柄で、最高級のフランス人形みたいに整ってる容姿。
 名前だって芸能人じゃないのに大河なんて、インパクトのある、物語の主人公みたいな名前。亜美なんてサブキャラでも通じるようなやつじゃない。
 その上、いくら遠ざけようとしても、人が近づいてくる愛され体質。あー、もう、着ぐるみでプリクラ取った時、思い出した。
 とにかくさ、アホみたいに純情で、純真で、すれてなくて、可愛い性格で……。 そりゃ、誰かさんも構わずに居られないでしょうよ」
竜児は心底驚いたという顔をして、
「お前でも、大河褒める事あるんだな」
「褒めてなんかない。単なる主観を省いた客観的意見」
そうして、竜児から視線を離すと、中空を見て、独り言のように亜美は続ける。
「で、その第三者の視点で川嶋亜美を見てみるとさ、
 腹黒、性悪、歪んだ性格。成績だってよくない。家事なんか解らない。料理なんかまだまだ。
 別に運動だって得意でもない。女優ってだけが特別で、それだってママが居てこそ、容姿もスタイルもママからのもらいもの。
 けど、ストーカーくらいのストレスで食べ物に逃げ込んで、高須くん家で気抜いて、すぐに太る」
「ストーカーの時だって、お前、怖いのに立ち向かおうとしてたからだろ。よくがんばったと思うぞ」
亜美は振り返って、竜児の言い聞かせるように、
「タイガーはストカーに正面から向かってた」
「お前は人一倍の気づかいで怖がりなんだ。しようがないだろ」
と竜児は思ってる事を口にするが、それでもチワワは変わらない。
「その辺りが、たぶん、決定的な違いの現れ」
「俺はその事もお前のいい所だと思う。というか、それを含めて全部が川嶋で。そんな川嶋を俺は…、えーとな、
 そうだ。すげいい奴だと思ってる」
「そう?、じゃ、高須くんは私の事、どういう風に見えるの?」
と亜美はあくまで、竜児を論破しようと質問してみる。
「お前は自信たっぷりで、我侭だ。けど、実は嘘つきで、人の心配をしすぎる臆病者で…、たくさんだ。たくさん頑張ってる」


亜美はこの買いかぶりをどう説得しようかと少し考えて
「あのさ、私、小さい頃、自分の事を世界で一番のお姫様だと思ってた。
 ママとパパの遺伝子のおかげか、子供の頃から周りの子と比べて背も高くて、男の子よりも体力的に勝ってて、
 機転が利く自分を頭がいいと思って、他のやつが馬鹿に見えて、もちろん、今と同じ美少女。祐作をあごで使って、子分もたくさんいて王様気分」
「今とあまり変わってない気もするが……」
「うっさい」と軽く亜美は一喝。
そして、そっと、伺うように、盗み見るように竜児に目を向けて、
「一応言っとくけど、一緒にいた男の子、祐作だけじゃなかったからね。それに女の子の方が多かったし、
 そもそも、その頃は男とか女なんか全然気にしてなかったから」
「ああ、そうなのか」
「解ってる?、本当に?」
「別にいいさ。そんな事。どうでもいいんじゃねぇか」と強く竜児は返す。
「本当、解ってるのかな?。それでね。
 小学校高学年になると、モデルの真似事みたいな事始めたんだ。
 そこでもみんなからママに似て、美人だねなんて言われて、当然の事なんだけどさ。美少女なのは。
 でも、大人から見ても自分が美人で、未来の大女優だって思われるんだなと自信を深めたりもしたんだ。
 で調子に乗った私は、同じ中学校に行こうといってくれた友達の声も聞かず、お受験した。有名中学受けてみたんだ。
 そしたらさ。全部、落ちた。完膚なきまでに、一校も引っかからなかった。
 そこで初めて、あれ?、て思って、怖くなって周り見渡したらさ、いつも褒めてくれてた人たちが
 有名女優のコネがある癖に落ちる方が難しいって笑ってるのを知った。モデルの事も馬鹿にしてる事も感じた。
 怖くなって、誰も信用出来なくなって、ママに頼んで、誰も知り合いのいない中学校に入学した。
 今思えば下らない足の引っ張り合いが当たり前の世界だから、ママへの牽制程度の話しなんだろうけど」
そう言ってシニカルに唇を歪ませて、くだらない大人たちを笑い。
「あいつらにママ譲りの美人だけは馬鹿にされたくないって、私なりに頑張ったんだ」
正面から竜児を見つめて
「だからさ、ナルシーて言われたって自分の容姿には自負もあるし、労力と時間だって使ってる。
 けっこうプライドもあるんだよね」
と言い、今度は自分を笑うような笑みを浮かべ、
「裏を返せば、それしか私、無いから」
「お前間違ってるぞ」
竜児は強い言葉で告げる。
「変な慰めなんていらない。そうやって高須くんは甘いから嫌い」
「そうじゃねぇよ。と言うか少しむかついた。
 お前は顔とかスタイルのおかけで、木原や香椎が友達でいると思ってるのか?、櫛枝が褒めてたのはお前の見た目なんかじゃ無い。
 北村だって、能登だって、春田だってな。第一、大河や、それに俺がお前のそんなとこしか見てないと思うのかよ」

そう真面目な表情で問う。亜美はむきになって反論する。しかし、心は大きく揺れていた。だからこそ、強く出る。
「そんな事言ったってさ、現実は、見た目、ステータスって大きいもの。世の中、そんな奴ばっかり」
「言っとくが、俺はお前のモデルの外面なんか最初にから用は無かったからな」
「そんな甘い言葉に騙されるかって」
亜美はむきになったまま。勢いにまかせて、自分でも知らぬ間に、ここぞとばかりに不安をぶつけていた。
「例えばさ、私がゆりちゃんぐらいの年になって、先生みたいにお肌とか疲れちゃって。女優とか、モデルの仕事なくなったとして。
 タイガーなんかとコンビ組んじゃって、お笑いでしか金とれなくて。
 なんて、有り得ない、バットエンドの大全みたいな、そんな未来にだったら高須くんはそこにいるはずないもの」
そんな問いかけに、竜児はなんの躊躇いもなく、
「いるに決まってるだろ。当たり前だ。お前らが避けなければだが、いや、避けたって一緒にいるさ」

亜美はあまりの返答の早さに、その迷いの無さに、返す言葉を失った。
そのストレートな、簡素な言葉は亜美の気持ちに直接、響いた。
不安な気持ちが欠けて、弾けて、溶けていくのを感じた。
が、それでも、意地張りは矛を下ろさない。いや、むしろ、自分自身の気持ちの変化に動揺して、大慌てとなって言葉を返す。
「やっぱり、やっぱりうそ臭い、臭すぎる。てか絶対に亜美ちゃん信用しねー。
 亜美ちゃんが美人でなくなった時、いっぱい持ってる高須くんは見向きもしないに決まってる」


そんな亜美の強い反応に、どうこの駄々っ子をあやそうかと思案に暮れる竜児。
「たく、なんて言えば納得するんだよ。わからずやめ。
 モデルだろうが、女優だろうが、お笑い芸人だろうが、関係ないって。
 能力だの、ステータスだけで人間関係が成り立ってる訳ないだろ。
 そんなの事でしりごんだり、二の足を踏むのはお前らしいが、釣り合いとか考える事自体が馬鹿らしいというかだな…、
 て……、能力?、釣り合い?、…なんだって?……」
「だって亜美ちゃん、世の中知ってるもの、高須くん以上に。
 そんな言葉に騙されて、後悔してからなんて遅いての。何を言われようと、ダイエットは止めない」
と説得されてなるものかと、強い口調で、一息で、反論を続ける。そうでもしないと蕩けてしまう
が、予想に反して先ほどまで間髪入れず帰ってきた竜児の言葉が返ってこない。
内心、竜児の反論を期待していた亜美は、急に不安になり横目で伺う。
竜児は苦虫を噛んだような表情で、ぶつぶつと呟いていた。なんだか腹が立ってきた。
「聞いてる?!」
「あ、ああ」
そんな、先ほどまでとは打って変わって、自分に干渉しない竜児を理不尽にも憤慨して。
「やっぱり、本気じゃないんだ。亜美ちゃんの事なんかどうでもいいんだ」
「そんな事はねぇが」
と返した後、急に理解を示し、
「そうだな。お前が何かしなきゃならないと思う気持ち、少し解った気がする。すまなかった」
「え、あ、うん。解ってくれれば、いいけど……」
相手が折れた事にぶつけどころを失ってしまい話を収める亜美。
「けどな無茶はするなよ。体壊したら元も子もない」
「解ってる。無理はしない。こっちはプロだし」
「ここ来る時は一人は駄目だからな。日射病とか熱中病も怖いし、結構、重労働だ。倒れると困る」
「もう、うるさいな。解ったて」
と相手の話を中断させ、言質をとりに掛かる。
「その代わり、農場行く時は必ず、私を連れて行く。弁財天から直接行く時も連絡する。絶対にハブにしない。いい?」
「おう。約束する」
「じゃあ、もう一時間がんばるからね」

そうして、二人はもう暫くの間、高須農場で時間を過ごした。
意地を張った結果、亜美は、次の日から数日、筋肉痛に悩まされる事になる。
けれど、その姿はけして見せない一流の意地ぱりだった。
筋肉痛が発症した二日目の朝食。亜美の席に置いてあった冷湿布はありがたく使わせてもらう事にした。




追伸



その日からダイエットを兼ねた農作業は二人の日課になった。
風のある涼しい日は大河もやって来て、三人で作業をした。そんな日々が続き、亜美の体重は順調に減り始めた。
そうして、高須家の居間は平穏を取り戻し、一時期禁止(亜美の前では)されていた食後のお茶の時間が解禁となった。
泰子、大河、亜美がグデっと、気を抜いた体でちゃぶ台を囲む。消化器官以外は休憩モードだ。
お茶菓子兼食後のデザートは高須農場採りたてのプチトマト。まったりとした空気が場を支配していた。

お茶をすすっていた大河は、ちゃぶ台中央のトマトに手を伸ばすと、夕食後にも関わらず、
数個一緒に掴むと、可愛らしい口にほうり込み、ハムハムと咀嚼する。そして、竜児に視線を向け。
「今年のプチトマト、去年より甘さが足りなくない?」
「そうか?、春先、忙しくて、あまり世話してやれなかったからな」
と無念そうに竜児は呟くと、一つを自分でも摘み、口に入れ、
叔父貴、仇は必ず、と傍からは復讐を誓うアウトローの顔つきになっていた。

「無念だ。だが秋物は期待しろ。最近は過保護ってくらい世話してやってるから。畑たちは恩を絶対に忘れない」
「秋のことなんか聞いてない。私は、今、甘み分が物足りないの。そうだケーキ!、あのタルト」
「無い」
「プリン!」
「それも無い!」
「それを想定して、作っておくのがあんたの役目でしょ。まったく使えない駄犬ね」
「無茶言うな」と竜児は言いながら、それでも大河に甘い彼は妥協案を提示する。
「甘みなら蜂蜜金柑で我慢しろよ。特別に濃い目にしてやる」
それを聞いて大河の喉が鳴る。「しかたないわね」と無理をしている顔を見て竜児は楽しげな気持ちになり、立ち上がる。
台所に向かおうとするついで、亜美にも聞く。いつものやつでいいか確認をする。
「お前はエスプレッソでいいのか?。と言ってもそんな大層なものは無ぇえから、濃い目のコーヒーだが」
「いいや。あれは止める事にする。私には少し早いかな。タイガーと同じやつ。ハチミツ金柑。甘いのでいい」

亜美は連日の高須農場ではしゃぎすぎて、疲れていた事。そして、順調に減っていく体重に少しは自分を甘くしてもいいなかと思ってしまっていた。
それに、ここでは背伸びする必要もないのだし、竜児に甘えるのも悪くない。
なにより、蜂蜜金柑は亜美にとって特別なものだった。
最初の時は甘すぎるソーダに過ぎなかったが、二度目の味は、彼女の記憶に痺れるような記憶となって残っている。
口にする度に、あの高須家での気持ちを思い出すことが出来た。蜂蜜金柑は亜美にとって大きな誘惑だった。

しばらくして、竜児がお盆にマグカップを三つのせ、戻ってくる。そのカップを泰子、大河、亜美の前に置く。
だが、亜美のものだけ、カップを満たす色合いが異なっていた。赤く、透き通るようなルビー色の彩りだった。
「川嶋はハーブティにしとけよ。ローズヒップ好きだろ」
「なんで、亜美ちゃんだけ」
「お前、ダイエット中だしな」

それを聞いて亜美は口をキュと結んで、大きな目だけで竜児を軽く睨むと、
「やっぱりそうだ。あ〜あ、男なんて信じられれない。なんだかんだ言って、痩せろて事じゃない。
 太ってても、君は魅力的だとか言ってさ」
「そこまでは言ってないだろ。ただな、考えたんだが。お前、次のドラマの台本読んでて、楽しみだ、って言ってたなと思ってな」
竜児は目を合わせないようにして、そっけない言葉で、不器用に気持ちを伝える。

亜美はそんな竜児を覗き込むように
「……それって、もしかしてさ。亜美ちゃんの事、あれからも一生懸命考えてくれてたって事?」
「ち、ちがう、と言うかだな。無理なダイエットなんか目の前でされるのはこっちの迷惑なんだよ。
 だからな、お前は当分、特別カロリー制限だ」
何故か竜児は怒ったように言い放つ。その姿に可笑しさを感じ、クスリと亜美は笑ってしまう。
「本当、私には厳しいよね。タイガーには甘いくせに」
まだ竜児は意地をはってぶっきらぼうなまま、
「そうだな。お前には厳しいかもな」
亜美は竜児の言葉に合わせて、しかし、笑いは抑えられず、クスクスと笑いながら、
「たくさ、私も甘いやつがいいのに」
と両手でカップを包むように持ち、そのまま紅茶を一口すすり
「しょうがない。今は優しい味で勘弁してあげる」
亜美の体に、ローズヒップの少し酸味のある、柔らかな味が広がっていく。
それは新たな、痺れるような感覚を伴って、忘れえぬだろう新たな優しい記憶となり、ゆっくりと亜美に染みこんでいった。


END

以上で全て投下終了です。お粗末さまでした。
後、2回で終わらせる予定です。読んでくださってる方、最後まで、どうぞよろしくお願いします


27 Jp+V6Mm ◆jkvTlOgB.E sage 2010/10/01(金) 20:43:44 ID:T3kNYCV/
こんばんは。遅筆です。以下SS投下させて頂きます。

概要は以下です。よろしくお願いします。

題名 : Happy ever after 第9回
方向性 :小説スピンオフねたで、ちわドラ。

とらドラ!P 亜美ルート100点End後の話、1話完結の連作もの
1話でもなんとか読めるとは思っているのですが、まとめサイト様で保管して頂いている過去のも読んで頂けるとありがたいです。

主な登場キャラ:竜児、亜美、少し大河
作中の時期:高校3年 夏休み
長さ :15レスぐらい

補足:
なんだかんだあって、劇中では亜美は高須家に居候中。
そんなこんなあって、劇中では高須家の食事当番は竜児と亜美の交代制。

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