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243 M☆Gアフター6(鳳凰篇) ◆9VH6xuHQDo sage 2010/04/26(月) 01:41:10 ID:9+luXIVH





『よし! ソープに行け!』
『……そお、ぷ? ……ってなんですか? 会長ぉ』
『深く考えるでない。皆様こんにちは。生徒会長の北村佑作です。三月に入ってもなお、気温
 は十度を割り、風は冷たく、空気は乾燥しています。……イヤですね、ノロウイルスにうっ
 かり留年。イヤなものと言えば、来週から期末試験が始まりますよね。皆様準備は進んでい
 ますか? ちなみにこのボクこと大明神も勉強がなかなか進まず……アハ! 予定通りには
 いかないものです』

 三月十二日金曜日。
 午前中の授業を終えた2−Cの教室に設置されたスピーカーから、テーマ曲らしき陳腐なイ
ンストロメンタルに乗せ、毎度毎度の北村祐作率いる生徒会の自主的校内放送が流れ始めた。
 するとそのオープニングトークの内容に、「なんですと〜!」と、春田浩次が突然蛮声を上
げ、荒っぽく窓枠に肘を掛けて、思いっきり渋い顔を見せたのだ。

「なんかこの放送うざくねー? なんで北村、わざわざ楽しいランチタイムに試験勉強の話な
 んて始めるの? 意外に思われるかもしれないけど、俺、勉強嫌いなんだよ。そして誰にも
 言わなかったけど、勉強苦手なんだよ〜!」
 そう言って春田は、購買部で買った、さっきまで焼きそばパンだった口の中の咀嚼物を、仲
良く同席する三人に全開で披露してしまうのであった。それを最も至近距離で見てしまった、
隣に座る能登久光は、不快指数が一気に高まったようで、「汚っ!」と反応。己の口の中のピ
ザパンを完全に飲み込んでから、黒縁眼鏡の下の眉間に深い皺をつくった。

「知ってるよ! 俺だけじゃなくって、春田が勉強残念なのって、みんな知ってるって! わ
 ざわざ言わなくても、完全にバレちゃってるレベルだよ! う〜〜ん春田〜。……勉強嫌い
 なのは俺も同意なんだけど、大先生の言葉を借りて言わしてもらうけど、頼むからうっかり
 留年なんてしないでくれよ? さっき購買部の前で、学年主任になんか言われてたっしょ?
 あれって、その、あれでしょ? ヤバいッてこと言われちゃったんでしょ?」
 能登が残念なブレインを持つ親友の進退問題を危惧してあげると、じゅる────っ! と、
春田はコーヒー牛乳を一気飲み、口の中を一掃して「キャハーッ!」超音波を張り上げた。

「そーそーそーなんだよ能登っち〜! さっき学年主任に『おい! バカキング!』って呼び
 止められちゃってさ〜、来週のテストで一教科でも赤点取ったら、もう一回二年生やれ!
 だって! バカキングは来年もう一回修学旅行行いってこーい! って言われちゃったんだ
 よ〜! ……でももう一回修学旅行に行くってなんかすごくね? ブッ! ブアハハ〜!」
「おうっ! 笑えねえよ! 笑えねえだろ春田! ……能登、マジなのか?」
 キング春田がうざったいロン毛を振り乱し、単独爆笑中の正面で、般若面をヒクつかせるの
はワル面キング高須竜児。コンプレックスでもある鋭すぎる狂犬のような三白眼は、ちょっと
眼力を入れ過ぎただけで、親友であるはずの能登をも、「恐っ……」と今でもビビらせるのだ
が、そんな竜児に能登はゆっくり首を縦に振る。そして竜児はゆっくり首を横に振り、
「そっかー。春田をどうにかしねえと……なあ、実乃梨」
 竜児の隣で大人しく座っていた竜児の彼女、櫛枝実乃梨は竜児と目が合い、何の意味なのか、
人懐っこいまあるい目を眇め、竜児にムキッと前歯を晒すのだった。


 そんな微妙な空気と、春田のアホ声が響き渡る教室に、北村の気合が入ったハキハキ声が竜
児たちの耳に強制的にジャストチューニングされる。

『しかし皆様! そんなイヤなものを吹き飛ばすイベントがあさって日曜日にあります。そう、
 ホワイトデーですよね? 先月のバレンタインデーに告白した女子も、告白された男子もワ
 クワクしている生徒が多いのではないでしょうか! ……さ・ら・にっ! さらにです!
 本日から待望の新番組っ『クイズ・狩野さくら』がスタートします! では早速ご紹介しま
 しょう! ゲストを務めてくれるのは生徒会庶務のご存知っ』
『はうっ! ……みなさんこっ、こんにちはぁっ〜、っ! ……一年生庶務のぉ、狩野さくら
 ですぅ。はんっ! 会長、あたしっ緊張してっ! ぅふんっ……ドキドキしちゃいますぅ……』
『いいぞ狩野っ、その調子だ! ズバリつかみはオッケーだぞ!』

 そんな北村のアナウンスに、今度は竜児が顔を渋め、声を荒げる。
「おうっ! 新番組って……先月いろんな意味でやっちまった『クイズ・香椎奈々子』とどこ
 が違うんだこれは。北村のやつ今度は生徒会の後輩に何やらせるつもりなんだ?」
 口をへの字にし、切れ味鋭い、ぶっちゃけおっかない両眼をスピーカーに向ける竜児に実乃
梨は、オーバーリアクションで取りなす。
「まあまあ、竜児くん。北村くん渾身のパワハラ全開、昼ドラ顔負けの新番組なんだからよ。
 ドロドロスパイスもピリリと効いてて、辛口な奥さまも歓喜の垂涎な内容ですぜ! ここは
 ひとつ黙って聴いてやろうではないかーい!」

 ……校内放送を辛口な奥さまが聴いているとは甚だ思えない竜児なのだが、言われてみれば、
興味をそそられるコンテンツであることは確かで、ニコニコ太陽のような笑顔の実乃梨に竜児
は、「そうだな」と同意すると、教室の対岸、廊下側に座っていた2−C公式美少女トリオの
中から前回のクイズのゲスト、香椎奈々子がホクロのある口元を抑え、小さくポツリと漏らす。

「やだ、まるおくん、また同じ過ちを繰り返すのかしら……ほとんど暴力……」

 ……いったい先月の放送裏で、香椎が北村たちにどんな過ちを行使されてしまったのか具体
的に知りたくもある竜児だったのだが、実乃梨の手前、首をブンブン振ってそんな煩悩をかき
消した。そうやってなんとかポーカーフェイスを保っていた竜児に、肩が触れるほどの距離に
存在する実乃梨が、ふうっ……と吐息を漏らし、ドキリと竜児の心臓が飛び跳ねさせるのだっ
た。
「そっかー、早いなあー。奈々子ちゃんのクイズから、もう一ヶ月前になるんだねえ……そう
 いえば大河からメールこないけど、あの娘元気にしてるかなぁ」

 横目で見た実乃梨は、引越しした親友・逢坂大河の事を思い出し、まるで肖像画のように凝
り固まってしまう。いつもの爆竹みたいに元気な実乃梨も好きだが、そんなアンニュイで物憂
げな実乃梨も、竜児のハートをキュンキュンさせるのに充分過ぎるポテンシャルを有していた。
「大河……俺にも何も連絡ねえな。まあ連絡ねえって事は、上手くやってる証拠だろ? 引越
 し後っていろいろと忙しいだろうし、やっと落ち着いた頃なんじゃねえかな」
 そう実乃梨へ返す。そして改めて思う。きっとそうなんだ。連絡がないのは上手くいってる
証拠だろう、と。「そだね」と、寂し気に呟く実乃梨の瞳に竜児の視線がしばらく留まる。
 そうこうしているうちに聞き流していた校内放送のオープニング曲が終り、北村の先月のリ
ベンジに燃える溌剌とした声がスピーカーを揺らすのである。

『はい! それでは早速皆さんお待ちかねのクイズを出題します! 皆様ケータイの準備はよ
 ろしいでしょうか? では第一問! ……おや? ジングルが鳴らないじゃないか……う〜
 ん、故障かな? 皆さんしばらく……あっ、幸太! ちょっ、お前何をしているんだ!』
『何をって会長! 何で、さくらちゃんをクイズにしてるですか! 俺、聞いてないですよ!
 ていうか断固反対ですっ! 今すぐ放送を中止してください!』
『安心しろ幸太! 俺は眼鏡を外したら何も見えないし、ホクロの位置は既に前会長に確認済
 みだ! はっはっはっはっ! ……では、この勢いに乗って第一問! 今日のゲスト、狩野
 さくらさんのチャームポイントは、なんと言ってもそのたわわなバストですが、ズバリ、そ
 のバストにホクロは幾つ……あああ倒れる倒れる、やめっ、機材があっ! 暴れるな幸太!』
『うぎゃあああ! そんな問題だすなんて安心しろったって全然安心できないじゃないですか!
 これ以上、さくらちゃんを辱しめるような問題出さないでください! てか会長もうダメです!
 さくらちゃん、帰ろう!』
『ええ? 幸太くんちょっとっ! でも会長が……ああん、どうしよ〜っ……それよりあたし、
 胸にホクロあったっけ〜。う〜ん、やああんっ、ブラウス脱がないとよく見えなぁい。ふぁ
 ああん……え〜っとおおっ』
『わー! さくらちゃんだめー! ストッープ! そんなボリューミーなものをっ、だめだっ
 て! もう充分でしょう会長! さくらちゃんはよくやりましたっ! もうおしまいっ!』
『幸太、まだ一問も出題してないのに締めるんじゃ……なんとっ! そ、そうだ狩野! その
 まま脱っ……! ぐああっ幸太、俺の眼鏡を勝手に取るんじゃない! 何をする! み、皆
 様しばしお待ちくださ〜い! ……ガガガッ!』

 ザワ……ザワ……あまりの衝撃的な展開に、教室はまるでギャンブル船『エスポワール号』
(フランス語で希望)の船内ように、低いどよめきが立ち込めるのである。

「……ちょっとこれ、香椎の時と同じオチじゃねえか。北村、全然改善ってか反省してねえな」
 思わず竜児がそんな感じで親友にダメ出しすると、それに追い討ちをかけるようにして、北
村の幼馴染であり、奇跡の美しさを誇る腹黒モデル・川嶋亜美がプチトマトをフォークの先に
ブっ刺したままクルクル廻し、黒魔法を唱えるようにして、苦言を呈す。

「こんなエロい放送しやがって佑作のやつ立場的にヤバいんじゃね? てか盛り上げる事だけ
 優先し過ぎってな感じで何やりたいのか訳分かんねえっつーの! あのバカいったいなに目
 的で、どこ目標なワケ? ……まあ亜美ちゃん的に知ったこっちゃねーけどねっ!」
 小さな口で、プチトマトをパクつきながら、亜美はぶりっ子仮面をつける事なくブラックモ
ード。まあ最近は目上の人がいない限り、亜美はブラック化しているのが通常モードになりつ
つあるのだが。

 そして、ギャル系なわりに恋愛偏差値が低く、この手の話題に興味津々の木原麻耶は、最近
若干黒っぽく戻したサラサラヘアーを揺らして、透明グロスで艶めく唇を尖らせた。
「ねえ亜美ちゃん、まるおがヤバいッて、生徒会長がってこと? でも奈々子の時も平気だっ
 たし、大丈夫じゃないかなー? てかさっ、狩野兄貴の妹って彼氏いるんだ? 兄貴と違っ
 てまあ、ちょっとだけかわいらしいけど、まだ一年生の分際でそれってどうなのよねえ?
 亜美ちゃんってば何か知ってる? ねえ?」
「……あたしに訊かれても何も知らねーけど……前に実乃梨ちゃんのバイト先で、高須くんか
 ら兄貴ノート写させてもらったとき、偶然あのバカップルに遭遇したんだけどさ。そん時タ
 イガーが富家くんの事、不幸の黒猫男がどうたらとか言ってて、バカップルにちょっかい出
 してたら、なんか二人で目のやり場に困るほどイチャイチャベッタベッタしやがったりして
 て……あー、亜美ちゃん思い出しただけでイラッとしてきたんですけど!」

 ケッ! っと、ピンクの唇をひん曲げ、いかにも判り易く不快感を露にする亜美。しかし、
「えー! なにそれ、どういう風にイチャイチャしてたか教えてよー!」「詳しく!」という
キャンキャン声が周囲に湧きたち、「えー! たいした話しじゃないしー!」と亜美が答える
も、ウワサ話が大好物なヤツらも相まって、ドーナツ状の人集りを作り騒ぎ始めるのだ。

 おかげで教室の対岸、窓際の竜児たちは平和なランチを過ごすことができるのだが、「あ〜!
なんかこの曲、CMで聴いたことあるかも!」フンフンフン、と?気にロン毛を振りながらリ
ズムを取って、留年の危機から現実逃避している春田に、能登は黒縁眼鏡の下には、ポカーン
と呆れ顔をつくった。

「……ねえ春田、ヤバいって。マジで試験の勉強しないとヤバいって。俺、手伝うからさ」
「うえ〜んっ、勉強〜? ハルタの憂鬱って感じ? てか溜息? いっそ消失したくね? で
 もな〜、う〜ん……だよね〜。やっぱヤバいよねー。本当は分かっちゃってるんだよね〜。
 逃げちゃ駄目だ。逃げちゃ駄目だ。逃げちゃ……あ、これシンジね? 逃げちゃ駄目だ。逃
 げちゃ……」
「……なんか余計に現実から遠くに旅立って行っちゃった気がするけど……まあいいや。ねえ
 高須、また例のノート借りられないかな? いま亜美ちゃんが言ってた兄貴ノート。明日、
 学校に持ってきてよ。高須も使うだろうから土曜日だけ貸してもらって、明後日の日曜日に
 返すってことで」

 能登が口にした兄貴ノート。それは、文化祭で前生徒会長、狩野すみれから、竜児と実乃梨
の二人に授与された全教科の学習ノートで、その中身は市販の参考書顔負けの内容で簡潔にま
とめられていた。そういえば、クリスマス前の期末試験でも、兄貴ノートに記してあった要点
が面白いほど出まくったことを竜児は思い出す。確かその時も、能登と春田は兄貴ノートの恩
恵を受けていた。

「俺はかまわねえけど、あれは実乃梨のでもあるし……どうだろう実乃梨、春田に貸してやっ
 てもいいか?」
 竜児の問いに、実乃梨はニッコリスマイル。
「勿論いいぜよっ! ぜよっと、ぜよっと! 折角だからみんなでノート活用しようでごわす!
 それが兄貴ノートも兄貴ノートとして、報われるってな、もんだぜよ!」
 実乃梨の快い答えに能登は「サンキュー! よかったな春田! な!」と春田の肩を揺する。
そして誰もつっこまない実乃梨の土佐、薩摩なまりミックスに、竜児は低音ボイスでフォロー。
「てか実乃梨、なんで坂本どんと、西郷どんが混ざってんだよ」
 しかし反応したのはバカキング。
「最後うどん? イヤーっ! 俺、讃岐うどんとか、大好きなのに、最後だなんて、イヤだー!」
「おかえり春田。彷徨っていた魂が、やっと戻ってきたね? でもいきなり勘違いとは、流石
 はキング。天上天下唯我独尊」
「え? なに〜能登っち? 天丼? 天かす? 肉うどん? だから俺は、讃岐うどんが好き
 なんだって〜」
「……いいって、春田。なにも言うなって。それってこれ以上、引っぱるほどの話じゃないしね。
 とりあえず明日、高須にノート借りてコピー撮らせてもらおうよ。実は春田の為でもあるん
 だけど、俺も兄貴ノート見たいんだよねっ。いきなり苦手な数学からっしょ? 兄貴ノート
 って教師別の試験のヤマも的確に書いてあって、すっごい参考になるんだよね! でも日曜
 日に返す時、どこで待ち合わせしようか?」


 すると復帰したバカキングの頭上に、ピコ〜ン!! と電球が、ひかり輝く。間違いなく、
輝いた。ように見えた。
「じゃあさ〜、高っちゃ〜ん! 明後日のホワイトデーはファミレスじゃなくって、スドバ行
 こ〜よ〜☆フヒヒ」
「そっか。もう明後日の日曜日はホワイトデーなんだよな……ってか、なんで、わざわざスド
 バなんだ? 俺は、お前からチョコレート貰ってねえし、ノート返してもらうくれえで、そ
 んな洒落た場所で待ち合わせしなくてもいいだろ?」
「俺、高っちゃんラブだけど、そ〜じゃなくてさあ〜、草野球の特典、スドバ無料サービスの
 期限って、たしか日曜日まででしょ〜? どーせなら、野球やったメンバーで集まって、勉
 強会っ! 開こうじゃん☆」
 バッキュ〜〜ン☆と、春田が眩いウインク光線を放つのに対して、竜児は反射的にギラリと
怪光線を放つのだが、さらにその視線の衝突点に、つぶらな瞳の可愛くないカワウソ眼が交差
するのである。
「春田にしてはナイス! 一緒にやろうよ勉強! したら、草野球やったみんな誘おうじゃん!
 大先生とか、亜美ちゃんとか、奈々子さまとか、あと、きっ……木原、とか……。な、なに
 よ、高須! そのいやらしい目は! おかしいよ! 高須、おかしいよ!」
 どうやらカワウソ眼の能登曰く、竜児はいやらしい目になって、下心丸見えの能登を凝視し
ていたようなのだが、そんなピュアなハートの友人の背中を、竜児は押してやるのだ。
「いや能登。わかってる。わかってるから。お前が、スドバに木原を誘うんだぞ。頑張れ!」
「ばっ……ばかー! な〜に言っちゃってんのよ! そそそんなんじゃなくってえっ! ほら、
 木原とか、木原とかは関係なくって! ……も、もういいよ! ふん(かわいくない)!」
 悪い悪い、冗談冗談、竜児はむくれてしまう友人をとりなすのだったが、いつの間にか能登
の背後で胸下まで零れるサラサラのストレートロングを勢いよくかきあげ、話題の的になって
いた件の本人、木原が腕組みして直立っていた。

「さっきからそこうるせえな? あたしの名前勝手に連呼してんのは能登かよ? うざ!」
 想い人の声に、能登は髪が逆立つほど驚き、ぐりっと真っ赤な顔を方向転換。
「う、うざってなにさっ! 俺はただヒマだったら的なあれだけど、もし予定空いてたり的な
 あれならさ、スドバが無料なのは明後日までだし、木原と一緒にホワイトデーを、って……
 ほああんっ! 俺、どうしよう恥ずかしぃ! 何言ってんだろ俺っ! もう死ぬ!」
 爆死寸前の能登を竜児は必死にレスキュー。一命を取り留める。
「こんな所で死ぬんじゃねえよ能登! 気を確かに! ……なあ木原。そんな訳で、明後日な
 んだがスドバに一緒に勉強会来てくれねえか? 兄貴ノートもあるし、北村も来させるし」
「え? まるおも? じゃーあたしもっ……って、でもまるおは……」

 と、木原は想い人のあだ名を呟いたきり、口を閉ざす。なんとなく膠着状態に突入するかと
思えたその場を救うのは、香椎だった。
「麻耶。私たちもまだスドバ行ってないじゃない? せっかくコーヒー無料なんだし行ってみ
 ようよ。みんな一緒の方が楽しいし、勉強もはかどるもんね。どう? 亜美ちゃん?」
 と、抜群の抱擁力を誇るスマイルを、香椎は亜美に向けた。
「あはっ? 奈々子、あたしも行くの? ……んまあ、期末試験ヤバいし、兄貴ノートか……
 仕方ないっ、あたしも行くのか〜」
 背伸びをするように、亜美は両手を掲げ、重い腰を上げる。四面楚歌の木原は、大きな瞳を
丸くして、キョロキョロして、
「ええ? 奈々子も行くの? 亜美ちゃんも? こいつらと一緒に? マジで? んー……。
 うんっ! したら、みんなで行こー!」
 そんな感じで木原は、キーの高い声を上げ、拳を天井に突き上げ、ピョンと跳ねる。そして
亜美はクルリとチワワ目を揺らし、蚊のなくような声で、小さく漏らす。

「あー……あたしって結局そういう役回りなのよね……」
 その亜美の肩を、奈々子がつついた。
「うんうん、亜美ちゃんって……そうなのよねえ」
 奈々子はうふふ、といつものように柔らかい微笑を浮かべた。

 そうして、日曜日の『勉強会INスドバ』が、めでたく決定するのだが、そうとは知らない
生徒会長、北村のランチライムの放送は、そのまま再開すること無く、スピーカーからは曲が
流れ続けていた。



***



 翌、土曜日の放課後。高須家まで数十メートルの路上。

「おうっ? 着信か?」
 竜児は両手に持っていた手荷物を左手に纏め、制服の尻ポケットからケータイを取り出し、
帰路途中の足にブレーキをかける。そしてケータイのフリップを開けて、目に飛び込んできた
画面は、時刻が午後四時を過ぎようとしている事と、メールの差出人は『実乃梨』である事を
知らせていた。
「実乃梨……あいつ今日、部活終わんの早えな」
 パチッ、とフリップを閉じ、竜児は尻ポケットにケータイを突っ込み、再び歩を進める。そ
して左手にまとめていた手荷物を、左右の手に振り分けるのだが、右手にはスーパーヨントク
で買った食材、そして左手には過去一度だけ竜児がアルバイトしたことのある洋菓子店・アル
プスで、翌日のホワイトデー用に購入した、タルトタタンが入った手持ち袋をぶら下げている
のである。
 それからまもなく、竜児が自宅への最後の曲がり角に差し掛ったその時、灰色の排気ガスを
吐き出しながら、引越し業者のトラックが、ブオーッ! と、竜児の横を勢いよく走り去って
いき、そのトラックの荷台から飛び出した、一枚の伝票と思われる紙きれが、ハラリと足元に
舞い落ちてきたのである。
「おうっ? これは……」
 その伝票の最後には『201号室』と記載されていた。つまり、
「大河の部屋……だよな。なんだ、もう誰か入っちまったのか……なんつーか、これって……
 駄目押しだな」
 そう呟き、竜児は大河が住んでいたマンションを見上げる。オレンジ色の夕陽を反射させて
いるマンションの無機質な外壁は、そこに大河がいない虚無感を際立たせているように竜児に
は見え、何とも言えないセンチな気分に襲われてしまう……その刹那。

「っ!」
 突然竜児は、背中に銃口のような何かを突きつけられる。両手が塞がっている竜児はホール
ドアップも出来ない。

「フッ……いとも簡単に背後をとられるとは……迂闊だぞっ、竜児くん!」
「おうっ、実乃梨かよ! メール着てからずいぶんと早えな! てか、いきなり俺の後ろに立
 つんじゃねえよ! ゴルゴかよ!」

 振り向くと実乃梨は、竜児の背中に突きつけていた人差し指で、BANG☆と宙を撃ち、そ
れを口元に持ってゆき、フーッと、息を吹きかけた。
「伝説のスナイパー、デューク櫛枝……人は私の事をそう呼ばない……へっへー、今日は久し
 ぶりに竜児くんちにお泊りして、勉強会だからよ。速攻で家帰って、支度してきたんだぜい
 っ。てか試験前だしバイトは禁止、部活は早上がりだ! それよりボーっと、竜児くんって
 ば、どしたの?」
 えらい可愛いい伝説のスナイパーは、艶やかな肌に白い歯を魅せ、竜児のハートをドキュン
と撃ち抜くのだ。
「ああっ、大河が住んでたマンションに、新しい住人が引越してきたみてえなんだ。それ……
 その伝票」
 竜児は呟き、足元の伝票に視線を落とす。実乃梨はその伝票を見つけると、拾い上げた。
「ここのマンションの二階は一部屋しかないから……大河が住んでた部屋だね。ぶっちゃけ、
 いままで空き部屋だったから、もしかしたら戻ってくっかな〜って、ちびっとだけ期待して
 いたんだけれど……こりゃ、もう無いね。なんとなく寂しい、なあ……」
 クシャリと伝票を握り、実乃梨もマンションに目をやる。そんな時でも竜児はマンションを
見上げ、夕陽に映える実乃梨のキレイなアゴのラインに見惚れてしまうのだった。

「ああ、そうだな……実乃梨。とりあえずウチに入ろうぜ。泰子が待ってる。晩飯作んねえと」
「……うん」
 そして実乃梨は、竜児が右手に持っていた重い方の荷物をサラリと奪い取り、くるりとターン。
不意をつかれて気後れする竜児に一度振り返り、二本指を額に当て、パチッと、ウインク。
 ……カワイイ。そして、実乃梨の仕草に萌えて、真っ赤になる竜児より先に、カンカンと、
高い音を奏で、実乃梨は高須家の外階段を駆け登っていくのだった。

***

「タッ……タッ……タダイマー!」
「惜しいぞインコちゃん! 正解はお帰りなさいだからな? でもご挨拶するなんてスゴいじ
 ゃないか〜! そうかそうか〜、その調子なら自分の名前が言える日も……おうっ? 泰子
 がいねえ」
 帰宅した竜児は、黄色い愛しのペット、インコちゃんのお出迎えに親バカ丸出しで歓喜して
しまい、玄関から一直線で居間の奥に吊るしてある鳥カゴに向っていって、そこで初めて泰子
が不在な事に気付いたのだ。
「お邪魔しま〜す! わあぉインコちゃん殿っ、お久しぶりっ、機嫌うるわしゅ〜! ありゃ?
 竜児くん泰子さんはお出掛け?」
 そこへ竜児にしては珍しく脱ぎ散らかしてしまった靴を揃えていた実乃梨が、遅れて居間に
入ってくる。
「ったく泰子のやつ、折角今日は好物のトンカツだってのに、出掛けるんならメールで連絡く
 らいよこせってんだ……おうっ?」
 竜児が居間を見渡すと、卓袱台の上に、まぁる〜いチマチマした泰子の文字でしたためられ
た置き手紙を見つけ、ひとまず手荷物を畳の上に置き、手紙を拾い上げた。
「手紙? 私も読んでいい?」
 そう言って実乃梨が竜児の肩越しに手紙を覗き込んでくる。と、ふわぁ、っと香しい実乃梨
の体臭が鼻先に漂い、ムラムラしてしまう竜児なのだが、目を通した泰子の手紙の内容に驚く
竜児。どうやら、そんなけしからん煩悩に侵されている場合ではない。
 手紙によると、なんでも泰子に人事異動が決まって、スナックのママの座をナンバー2にバ
トンタッチ。新規オープンするお好み焼き屋『弁財天国』の店長に抜擢され、その引き継ぎや
ら打ち合わせとやらで急遽オーナーに呼び出されたとの事。因みに文末には『みのりんちゃん
にヨロシク〜☆』と記してある。

「お好み焼き屋……かよ。大丈夫なのか泰子は。スナックからお好み焼き屋に鞍替えなんて、
 いくらなんでも違いすぎだろ?」
「へえ〜? お好み焼き屋さんとな? こりゃあまた随分と唐突だよねえ? でもおもしろそ
 う。あはっ、そーだ私、そこでバイトしよっかな?」
 と、ネガティブな意見の竜児に対し、ポジティブな意見の実乃梨に毎度関心してしまうの竜
児なのだが、不意にある事に気付いてしまう。ゴクリ。息を飲む。

「……てことは、今夜は実乃梨と二人きり、じゃねえか……って、おぅわっ! 痛っえ!」
「うわはあっ! インコちゃん餅つけ! もといっ、落ち着け〜ぃ!!」

 翔んだ。
 挨拶しようと、実乃梨がインコちゃんのカゴの扉を開けた瞬間、インコちゃんが翔んだのだ。
「アイッ、キャンッ、フラ──────イッ!」
 そしてホーミングミサイルのように実乃梨とのエロシーンを妄想中の竜児の頭に、ドドメ色
のクチバシが一直線に突き刺さるのだ。
「痛い、痛いっ! インコちゃんどうしたってんだよ? 毛を毟らないでくれよ! 俺ハゲち
 まうよ!」

 インコちゃんは竜児の肩に降り立ち、爪を立て、竜児が昔、深夜にテレビで観た、ヒッチコ
ックのパニック映画のやつみたいに、竜児の髪の毛をついばみ、どういう訳だか襲撃モード。
インコちゃんの目は完全にイッちゃった感じで昇天寸前、目蓋をピクピク痙攣中であり、流石
の竜児でも、ちょっと正視できない状況にエスカレートしてしまっていた。
 きっとインコちゃんは実乃梨にジェラシーを感じているのだろう……そう竜児が推測してい
ると、次にインコちゃんは、カンタービレ。

「インッ……淫っ! 淫行っ! インサート! イン・アウト、イン・アウト、イン・アウト……」
 狂った。
 インコちゃんが発狂した。ブサイクで狂ったとなると育ての親である竜児でも処置なしだ。
「あわわっ、インコちゃんが壊れたっ! 意味わかんねえ言葉を繰り返し言ってるし……」
 しかし実乃梨は冷静に対処する。
「あはは竜児くんインコちゃんに叱られてやんの〜っ。フッ、俺にまかせな……ヘイヘイ、イ
 ンコちゃ〜ん。ユーのライクなチコの実……じゃねえや、ヒマワリの種だぜ? 高タンパク
 でローカロリーでコンセントレーションを高め、リラックス効果があると言われ、ダイエッ
 ト効果も期待出来ます……なんだぜ? こわくない……ほらね? こわくない……ね?」
 実乃梨が醸し出す、風の谷の姫ねえさま級の慈愛に満ちた表情に、インコちゃんは平伏、ペ
ロペロと牛タン色の小さな舌で実乃梨の指先を舐め……というかむしゃぶりつくのだった。そ
れを見た、飼い主の竜児は複雑な気分になるが、まあ、インコちゃんがおとなしくなったって
事で良しとしよう。
「あ、ありがとうな実乃梨、助かったよ。インコちゃんがもう少し落ち着いたらカゴに戻して
 くれ。俺は夕食つくるから、頼むな」
「怖かっただけなんだよね……え? ああ、ゴメン竜児くん、自分の世界に入っちまってたよ。
 了解すますたっ。ここは私に任せて行ってくれい!」
 ビシッと竜児に敬礼する実乃梨の肩に移り、インコちゃんも敬礼しているように羽を折る。
飼い主としての自信が、少し揺らいだ竜児だったのだが、はぁっと、軽くため息をついてUタ
ーン。畳に置いた食材を持って、台所へと向かった。

***

 夕食の片付けを終えた竜児は自室に移り、参考書を詠むでもなく、ただぼんやりとイスにも
たれ掛かって、ペラペラとページを捲り、眺め見している。そして参考書の活字から、チラッ
と視線を上にスライドさせてみたのだ。
「なあ実乃梨。さっきから何見てんだ?」
 この狭い空間には、もちろん実乃梨がいて、ちょこんと竜児のベッドに腰を降ろし、足をバ
タつかせながら小冊子をペラペラと捲っていた。そしてややあって、実乃梨はパタンと、ペー
ジを閉じたのだ。
「アルバム。沖縄旅行の……まだ一年経ってないのに、なんだか懐かしいねえ……ねえ、竜児
 くん?」
 そういう実乃梨は、何故だか顔をアルバムで隠していて、竜児からは確認出来ない。
「ああ、確かあん時は皆既日蝕だったから、七月だったよな?……多分、懐かしいって感じる
 のは、あれからいろんな事あったからじゃねえか?」

 ──そう。二人はお互い恋人が出来て、初めての四季を二人は全力で駆け抜けた。その季節
の度に竜児は、来年も、再来年も、ずっと実乃梨と一緒に……と、願ったり、祈ったりしてい
たのをふと、思い出すのだった。
「うん。竜児くんと付き合ってからホント、いろんな事あったなあ。体育祭、インターハイ、
 夏休み、文化祭、クリスマスとか……目を閉じれば瞼の裏に鮮明に記憶が蘇っ! ……ゴホ
 ッ! ……私がこんな身体なばかりに苦労をかけ……ッゴホッゴッホ! ひいいっ、血があ
 あっ!」
 余命いくばくもない病人の寸劇を始めた、血など着いていない恋人の手元を眺めながら、竜
児は彼女の語る声を黙って聞いていた。
 ……しかしその言葉尻に、なんとなく違和感を感じた竜児は、手にしていた参考書を机に放
り、実乃梨の顔を覆っていたアルバムを引っこ抜く。と、

「おうっ? ……実乃梨お前、泣いてたのか?」
 露わになった実乃梨の顔は、キラッと、目尻に涙を溜めていた。一瞬、息を詰まらす竜児。
「んっ、見られちった……ふはは。ゴメンなさい」
「なんで謝るんだ実乃梨……とりあえず、これ使え」
 ハンカチを差し出す竜児。受け取った実乃梨はチーンッ! と、思いきり鼻を咬む。エコ大
好きな竜児は、ティッシュを使わないなんて流石俺の嫁。と、思いつつも若干引きつる竜児な
のだが、実乃梨はシリアスな表情を保っている。

「……竜児くん。アルバム見て大河の事、思い出しちゃった……分かってるんだ。いつか私た
 ちのところに戻ってきてくれる為に大河がいなくなったのは分かってる……。でも、このマ
 ンションの部屋にはもう違う人が越してきてるし、楽しかった分、今更、胸にぽっかり開い
 てたココロの穴に、気付いちゃった感じ」
 と呟き、実乃梨は竜児の背後にある南向きの窓の外に視線を移す。いまはカーテンがかかっ
ていて、マンションは見えない。
「実乃梨……だっ」
 竜児は一度噛む。そして己の胸に強引に抱き寄せた。実乃梨は抵抗しなかった。
「大丈夫だっ! 大河がいなくなっちまって、お前の胸に開いちまった、でっけえココロ
 の穴は俺が埋めてやる。もっと俺が、お前の中で大きな存在になるから。だから……大丈夫
 になってくれ」
 竜児は実乃梨の身体をさらに強く抱く。実乃梨も竜児の背中に手を回してくる。抱きしめた
実乃梨は小刻みに震えていて、竜児の胸に、その悲しみがじわじわと滲んでくるような気がし
た。

「竜児くんありがとう。すごい嬉しい……でも竜児くんは私の中でもう既にすっごい大きな存
 在になっているよ? 多分、竜児くんが思っている以上に。だから、うん。大丈夫。大河の
 事は、言ってみただけ。ゴメンなさい。それに泣いたのは大河の事だけじゃないんだ……も
 し竜児くんが、貴方が、運命のイタズラとかで……大好きで、一番大切な貴方までも私の前
 から……って、なんでもない。なんでもねえっす! ははっ私ってば、な〜に言ってんだか
 ……」
 無理して作る、いつもの快調な口調が逆に痛々しい。実乃梨への愛しさが、切なさが、ジュ
ワッと竜児の胸にこみ上げる。
「実乃梨……俺はどこへも行かねえ。俺だってお前の存在はでけえし、ずっと一緒にいてえよ。
 もし、運命のイタズラで離れ離れになるような事があっても、心はずっと、絶対、……一緒
 だ」
 そう願った。誓うように。
「うん……うん。ホント、ゴメンね。変な事言って……竜児くん、やっぱり私、貴方と出会え
 て、本当によかった」
 実乃梨はやっと、笑顔を魅せる。キラキラした美しい笑顔だった。そう、その笑顔を竜児は
美しいと感じた。可愛いいと感じたことは幾らでもある。……でも今の実乃梨は天使のように
美しかったのだ。

 そして竜児は天使とキスをする。

 キスを続けながら、実乃梨の指先がシャツの下から忍び込んできて、竜児の背中をまさぐっ
てくる。思いのほか冷たかった実乃梨の指先に背中の体温が奪われていく。
「……実乃梨」
 しかしその冷たさが心地よく感じるほど、竜児の全身は熱く上気していたのだ。一旦、自分
の太ももで指先が冷たくないかを確かめてから、竜児は実乃梨のブラジャーに手をやる。その
シンプルなデザインのブラジャーは、実乃梨の清楚さを引き立てていた。そしてパチッ……と、
ホックを外した途端、形の良い実乃梨のおっぱいがまろび出て、その時、ムワっと、おっぱい
から熱が立ち上った気がした。竜児は一度引き、シェイプされたボディからツンともり上がる
二つの白い膨らみを見つめる。くっきりとした谷間の影が、その形の良さを物語っていて、そ
こから醸し出る、媚薬めいた匂いが竜児の鼻先で揺らぎ、たまらず実乃梨のつやつやとした首
筋にむさぼるようにキスをした。……実乃梨の存在を確認するかのように竜児は、匂いを嗅ぎ、
舌で舐めまわし、右手はモチのようにやわらかいおっぱいの先端のピンクへと這う。と、ピク
ン……実乃梨は体をさらに竜児に寄せる。

「竜児くん……したいよ」
 耳元で囁かれた言葉に竜児のパンツが隆起する。実乃梨はパンツの上から竜児の本体を握っ
てきた。
「はぁくっ、実乃梨……」
 興奮して、はぁはぁと荒げた息が竜児の口から漏れだす。その口を実乃梨のキスで塞がれ、
そのまま二人はどちらともなくベッドになだれこみ、実乃梨に覆いかぶさる竜児はまた、実乃
梨の乳首をレロレロと舐め始めるのだ。
「いやあっ……」
 そんな訳ない。実乃梨は乳首を攻められるのが好きなはずだ。しばらく舐めて、そして吸っ
て……軽く、噛む。
「あっ、ああんっ!」
 そうやっておっぱいをなめられているだけなのに、実乃梨はビクビク、悦のそぶりを魅せる。
そのかわいらしい素振りを見て、竜児も悦に入る。
「実乃梨……しばらくこうしてぇ」
 竜児はおっぱいをむさぼり続ける。実乃梨のピンクの先端は明らかに勃っていた。喩えれば、
モチの中に大豆が入っている……そんな感じだろうか。互いに荒くなる吐息。パンツの上から
握られている竜児の本体も、ピクピクと反応していた。
「んっっ、んっっ、んふ……私も、触って欲しい……かも」
 無言で返事をする。竜児は指先を実乃梨のパンツの中に、シュルリと侵入。ぐちょりと濡れ
ていた入口の部分をコリッコリッつまむたび、こねくるように動く実乃梨が、跳ねる。
「あんっ、はあっ……んっ!」
 実乃梨は自分の指を噛む。と思われたがその指にテカるほどの唾液を浸し、竜児の先っぽを
直に、親指と人差し指でニュリニュリと、しごいてきた。目眩く快感、竜児の全身に刺激が走る。
「おうっ! 気持ちいい……」
 クチュンクチュンと、イヤラしい音が室内に響く。快楽に溺れる竜児だったが、実乃梨のつぼ
みを嬲る指先のペースを変えなかった。
「あひゃっ、あん、あぁぁ……っ、んやっ、ああんっ」
 ぼんやりと鼓膜に響く、大好きな実乃梨の嬌声。心臓が破裂するほど胸を叩き始める。高ま
る快楽。しかし先にのぼり詰めるのは竜児だった。
「おうっ! ……マズイッ!」
「はあっ、はあっ、え? 竜児くんマズイって、なんで?」
「イっちまう、くっ、もっと……実乃梨としてえのにっ」
「うふ。ねえ竜児くん、イっていいよ、イくとこ見せて……」
 そんなこと言われても……だって、まだ挿れてないのに……MOTTAINAI。
「いやっ、もっと、したいんだ……っ」
「安心してよ竜児くん。イった後もっと、シてあげるから。ね? ……えいっ!」
「おうっ! くう……っうっっ!!」
 ビクンビクン! と、竜児の先端から白濁液が勢いよく放出される。結局……実乃梨の手だ
けで、竜児はイってしまったのだ。

 ……先に昇天した罪悪感に苛まれる暇もなく、実乃梨に竜児は、パンツを脱がされる。
「私……ここ、舐める」
 おもむろに実乃梨はまだ白濁色の体液が滴る竜児の下半身に顔を埋め、ジュポ、口にふくむ。
「お……うっ……あっ、俺もっ」
 竜児も夢中で、愛しい実乃梨のパンツを剥いだ。丸見えになった実乃梨のその場所は、竜児
と同じく、やはり白濁色の糸が引いていた。
「んくっ、はあんっ! 竜児くんっ、そんな激しくぅ、んはぁんっ! ……おちんちん舐めれ
 ないよおっ! んーっ」
 実乃梨がチュパチュパ音を奏で、竜児の竿をお口いっぱいに根元までくわえる。ぐちゅりぐ
ちゅりとした実乃梨の口内で、さっきイったばかりの竜児の本体はすでに脈打ちはじめていた。
 竜児も実乃梨のつぼみから溢れる体液をレロレロ、ちゅっぷちゅっぷ、舐め回す。むさぼる
ようなクンニリングス。竜児の鼻先についた、ぬるぬるした実乃梨の愛液が甘酸っぱい臭いを
放つ。実乃梨が、ひくひくする度に分泌される潤沢な愛液は、彼女の尻の間まで溢れ出るのだ
が、全てを竜児は舌で舐めとるのだ。
「んーっ! りゅふひふん……あはっ、ああん! 私、イっちゃうぅっ!」
 たまらず実乃梨は竜児の本体をちゅぽんと口から抜く。しかし握る手はぎゅうっ、と力強く
なる。あんあんと、実乃梨はかわいい声をずっと漏らしている。
「俺、実乃梨がイくとこ見てえ」
 実乃梨の腰が激しくこねる。逃がすまいと竜児が掴んだ実乃梨の尻肉は、あり得ないほどや
わらかい。竜児の快感は頂点に達していたが、さっきイったおかげでなんとか堪えられている。
「はあっ、竜児くん、だめ……本当、イっちゃう! まだ挿れてもらってないのに! ああん」
「ん、いいぞ……イってくれ。」
「イヤだよ……竜児くんかわいそうだもん」
 竜児は指を挿れていた。ブシュブシュいやらしい音を愉しみながら、竜児は、シックスナイ
ンから態勢を戻し、実乃梨のおでこにキスをした。
「いいって……これでおあいこだろ? 気にしないでイってくれ」
 そして、竜児は実乃梨にディープキスをしたまま、さらに指先を秘部に滑りこませる。
「ああんっ……ィくーうっ! あん! あん! イくううっ、はあん、あん ああああっ!」
 と、実乃梨は身体を反らせ、股の間の竜児の右手を、太ももでグニューッ! と挟み込む。
真っ赤になっている実乃梨、上下に揺れるおっぱい……。汗だくの玉肌。そこいらに何度も竜
児はキスをする。そして、実乃梨は、弓のように身体を反らせ、一気に上り詰めた。

「はあっ、はあっ、竜児くん……恥ずかしい……もうっ、エッチ!」
竜児の唇を人差し指で軽くタッチ。その指先にキスをして、竜児の唇は すっと下に降り、
またピンクの先端へ。チュルンとアメ玉のように口の中で転がす。
「んはあっ! そんなすぐ……でも、おっぱい……気持ちぃ……」
「俺……実乃梨のおっぱい好きだ……汗の匂いも」
 竜児は、実乃梨の胸の間に溜まった汗を舐める。脳みそがとろけるほど、甘酸っぱい。
「……やだぁ……んふっ、竜児くんいいよ。私のおっぱいにいっぱいチュウして」
 しかし竜児は、おっぱいではなく、強引に実乃梨の脚を押し開いて、グチュグチュのアソコ
に顔をうずめた。
「んやぁっ! ズルい竜児くん、またっ、あ、あはぁんっ、イっちゃうぅ、やだ、竜児くんっ
 挿れて……竜児くんのでイきたい」
「おうっ、俺も挿れてえ。実乃梨の声があんまりかわいいから」
 そう言う竜児は一度、実乃梨のひくひくした下の唇にディープキスして、そこへ少し荒っぽ
く、腰を押し込んだ。
 ニュルンっ。挿入した。……実乃梨の中は熱い。
「あああっん! 激っ」
 実乃梨の指先も気持ちよかったが、実乃梨の膣内は熱くて、粘液が絡まりついて、ビリビリ
するほど感じて、髪の毛がざわめく感じがした。
「あんっ、あんっ、竜児くん! おっぱいも……さわって、強く!」
「おうっ、……くうっ、実乃梨の乳、やわらけえ、はぁっ実乃梨、愛してる、愛してるっ!」
「……はぁっ竜児くん、はぁぁん、私も愛してる……あっ、あっ、 あぁん!」
 腰の動きは早く、まるで互いの体をぶつけるよう。竜児は激しく腰を振りつつ、実乃梨の肉
体を吸い。胸を揉み、欲望のまま弄ぶ。

 すると実乃梨の手が竜児の首に絡まる。実乃梨の声が、熱が、臭いが、汗が、竜児の世界を
エクスタシーの頂点へと導く。いままで実乃梨と何度も交わした激しく、燃えるような行為。
そしてこれからも。いつまでも。愛しい。そう彼女に伝えた。喘ぐように。ねだるように。
「実乃梨、はあ、はああっ、……愛してるっ」
 実乃梨も答える。どんな甘い果実よりも甘く。
「うん。竜児くん。大好き。私も愛してる、あん、ああんッ!」

 もつれあって、結ばれ、一つになっていた二つのカラダは、やがて感電したかのように痙攣
し、そして……。

「ぁあんっ!」

 二人は嬌声を上げ、ベッドの底へ溶け落ちていくように、ゆっくりと沈んでいった。



***



 ホワイトデーの朝がきた。
 竜児は、朝の身仕度を終え、居間の卓袱台に肘をついている。
 時計がわりにただ流しになっているテレビ画面からは、初老のコメンテーターが関東地方の
天気は相当晴れているらしい事を伝えているのだが、高須家の南側に設置されている大きな窓
からは太陽の光が入ってくる事はなく、見えるのは隣のマンションとの境界壁。相変わらず高
須家はぼんやりとほの暗いのである。

「みのりんちゃん、オススメのケーキ、すっご〜〜っく、美味しぃ〜〜☆竜ちゃん、コレなん
 て言うんだっけぇ? タル? タルルルートン? んふ〜っ……」
 頭を悩ます泰子の前、卓袱台の上には慎ましい純日本食の朝食の後に広げた、泰子と実乃梨
へのホワイトデーギフトが鎮座していた。
「タルトタタンな、泰子。本来はリンゴを使うんだが、アルプスの主人に頼んでナシで作って
 もらったんだ。思ったより甘くなくて、美味いな」
 そして竜児の隣にぺちゃんと正座る、ナシが名前に入っている実乃梨は、
「まいうー! アルプスったら流石、いい仕事してますねえ。へへ、ありがとうね、竜児くん」
 と喜んでくれて、竜児の心を満たしてくれるのだ。すると泰子がすっくと立ち上がる。 

「竜ちゃんご馳走さま〜☆それではやっちゃんはぁ、そろそろお出かけしなきゃ〜!」
 日曜日だというのに今日も泰子は忙しい。昨日に引き続き、お好み焼き屋、毘沙門天国の開
店準備と、ママを譲る弁財天国ナンバー2の静代との引継ぎと大童で、短い睡眠時間にも拘ら
ず、休日出勤しなくてはならなかったのだ。
「おうっ! 行ってこい泰子。気をつけてな」
 と言って、見上げた泰子は、打ち合わせのみというスケジュールなので、ほぼスッピンなの
だが、奇跡の童顔輝かせ、ムッチリもち肌は今朝は絶好調だった。そうして泰子が一旦、自室
に引っ込むと、居間の奥に掛けてある鳥カゴからカタカタとした音を発っするのだった。


「めっ、めっ、めしーっ!」
「おうっ、おはようインコちゃん! いまやるから、ちょっと待っててくれ」
 竜児はインコちゃんに駆け寄り、鳥カゴを覆っている布を取り去った。姿を見せた寝起きの
インコちゃんはもちろんスッピンなのだが、奇跡のキモ顔輝かせ、泡立つくちばしは今朝は絶
好調だった。
「私もご馳走さま! 竜児くん、したらば、私めが洗い物をするから、インコちゃんの朝食は
 任せたぜ!」
「サンキュー実乃梨……てかインコちゃんが、昨日からやたらとハイテンションなんだが……
 まあ、いい事なんだよな……よ〜しよ〜し、かわいいなあインコちゃん」
 エサ箱を取り出すついでに、畳の上で鳥カゴから出したインコちゃんとじゃれ合う竜児。エ
サをやろうとして、そのまま指の腹をフガフガとかじられ、朝のささやかなコミュニケーショ
ンをとっているのだが、己の頭髪の寝グセも、インコちゃん同様トサカ状態になっているのが
実はさっきから気になっていたというところで、目前の泰子の部屋のふすまがガラリと開いた。
「では、やっちゃんは、お仕事いってきまーすぅ☆みのりんちゃんはぁ、六時くらいにお店に
 来てね?」
 いつもの調子でくりくりと髪を先を指で巻きつつ、ぽえぽえと、口を開いく泰子に、洗い物
をする手を一瞬止め、台所から笑顔を向ける実乃梨。
「いってらっしゃい、泰子さんっ。弁財天国に、六時っすよね? 御意」
「んう! みのりんちゃんバイトの面接待ってるね? じゃーねー☆」

 バタン! と、玄関が締まり、泰子が出勤していった。竜児もインコちゃんの世話を終え、
鳥カゴを定位置に戻すと、洗い物を終えた実乃梨が、台所から居間に戻ってきた。
「竜児くん! 洗い物完了しました!」
「おうっ! 相変わらず早えな? さて、と……俺たちもそろそろスドバに行く準備しねえと
 だな。そうだ、さっき食べたタルトタタンどうする? ちょっと余ってるんだが。実乃梨、
 持って帰るか?」
 すると、実乃梨は大きなどんぐり眼を瞑り、首を横に振る。
「私、結構食べちゃったし、もともと半分は、泰子さんの物だし、夜は弁財天国に面接に行く
 から持っていけないよ。竜児くん食べちゃってくれる?」
「そっか。それもそうだが、なんなら明日、学校持っていくか。一緒に食おうぜ?」
「ナイスアイディア! では話がまとまった所で、竜児くんっ、出発するかーっ! 張り切っ
 て、行こーっ!」
「おうっ! いつでもいいぜ!」
「……二度ともうここには戻れないよ」
「おうっ? なんだそりゃ?」
「覚悟の上だね!」
「……実乃梨?」
「40秒で支度しな!」
「いや、そんなに急がなくても……まあいい。わっ、わかった! 待ってくれ!」
 よく考えたら、なんとなく聞いた事あるセリフだった事を、竜児は頭の隅で思い出しながら、
バタバタと自室からカバンを持ってきて、竜児は実乃梨と玄関を飛び出した。

 爽やかな午前中の日射しを浴びながら、二人は手を繋ぎ、気付けば駆け足でスドバへ向かっ
ていた。



***



 ちり〜ん。
 21世紀になって久しいというのに、いまどきそりゃねえだろ的な、ベルの音の中、竜児と
実乃梨は待ち合わせ場所であるスドバヘ入るのだった。
「須藤バックスにようこそ!」
 既に春休みなのだろうか。大学生と見受けられるアルバイトが、元気な声で、無料のコーヒ
ーを強請りにきた竜児たちを明るく迎えてくれた。

「まだ誰も来て……おうっ北村! 早えな!」
「ようご両人! 約束の三十分前に来るなんて、ズバリ偉すぎるぞ! 感動の余り、眼鏡のレ
 ンズが曇りそうだぞ!」
 店内の奥にある禁煙のボックス席。北村は、全身ワイパーという喩えが許されるほど、大き
く手を振っていた。
「おっはー、北村くん。待たせたなっ? ねえ竜児くん、男同士、積もる話もあるだろうから、
 私が竜児くんの飲み物買ってくるっぺよ。何にする?」
 既にソファーに腰を掛けていた竜児は実乃梨を見上げ、お言葉に甘える。
「おう、ブラックのコーヒーに、チリドッグ食おう」
「さすが高須、チョイスが渋い。しかし男は黙ってコーラだろ? 既に全員分のコーラがここ
 にある!」
 デンッ! っと汗をかいたグラスを差し出す北村。コーヒーショップでコーラを注文むのも
オカシな噺だが、コーラをメニューに入れてしまうオーナーの須藤さんも、オカシな噺だ。
「コーラって……北村〜。無茶苦茶すんなよな? まあいい、一応飲むか、MOTTAINAI」
 すると「え〜」と実乃梨が口を挟む。どうやら会話の途切れるのを待っていたようだ。
「ご注文繰り返しま〜す。竜児くん、ブラックのコーヒーに、チリドッグね? ん〜私はコー
 ヒーに、シナモントースト……いや、女々しいなあそれは。チーズトーストにしよっかな?」
「女々しいって実乃梨……お前は正真正銘の女子じゃねえか」
「え? ああ、そう、そうだったよ。いやー、たま〜に、自分が女子だって忘れちまうことあ
 るんだよね」
「……そうなのか? まあ、たとえ俺は、実乃梨が男でも、お前のこと……お前のっ」
「ちょっ! ……や、やだよこの人は。北村くんの前で何言おうとしてんのさっ! こっぱず
 かしい事言わないどくれよ!」
 スパーン! と実乃梨は、竜児の背中に気合を入れ、逃げるようにスドバの注文口に消えて
いった。叩かれた背中は、派手な快音だった割には、まるで痛くはなかった。こういう小技に
しても、実乃梨はテクニシャンだ。見送る竜児。そして北村は、
「あっはっは! かまわん、かまわんぞ高須! 仲良きことは美しき哉! ズバリ武者小路実
 篤だな。たしか同じ白樺派の志賀直哉が現国の試験範囲になっているし、丁度いいじゃない
 か。いやー、しかし金曜日の昼休みの放送は、豊年っ! 豊年っ! だったなあ」
「豊年って……お前それ、『暗夜行路』かよ。そんな事言ったら北村、昼休みに何があったか、
 恐ろしくて聞けねえじゃねえか」
 異常なテンションの北村に、首を傾げる竜児なのだが、これも、大河が転校したのがショッ
クの後遺症なのかもしれない。そう憂慮するのだが、北村の暴走は、留まる事を知らなかった。


「おっくれてる───────────────────────────────────
 ─────────────────────────────────────────
 ────────────────────────────────────────!」


 引いた。あまりの親友の凶行に、流石の竜児も引いた。いったい親友に、何が起こったのか
のだろうか? もしかしたら、なにかのラノベのパロディーなのかもしれないが、使うところ
が間違っているのは、元ネタを知らない竜児にも確信できた。
 今度こそ本気で心配し始める竜児。そこに大学生のウェイトレスの「須藤バックスにようこ
そ!」が聞こえた。

「ちょっと佑作っ!、あんたのシャウトが店の外まで聞こえてんだけど、一体なんなのよ!」
 ものすごい剣幕で、美少女モデル、亜美が、店の入口から指先を突きつけながら、北村に、
直行してきた。背後にはモテ系ファッションに身を包む、木原と香椎の姿もあった。
「すまないな亜美! 実は店の窓からお前たちが見えてな。時間に遅れている事を指摘したか
 っただけなんだ」
 そうして店内の注目を浴びてしまっていると、注文口にいた実乃梨が、せっかく並んでいた
行列を抜け出し、こちらへ駆け寄ってくるのが見えた。
「おいーっす、あーみーんっ! あ、麻耶ちゃんと奈々子ちゃんも、ちぃーっす! そーだ、
 とりあえず駆け込み三杯! グビッと、コーラでもやってくれい!」
 実乃梨は、テーブルの上に並んでいたグラスを三人に差し出す。その中で一番実乃梨の近く
にいて、勢いに押された木原が、ついヌルくなりつつある、コーラを口にしてしまう。

「うわっ、なにこれ櫛枝! 炭酸抜けて甘っ! ペッ、ペエッ! もうっ! 違うの飲む!」
「……このコーラ頼んだの佑作でしょ? バッカみたい。罰としてみんなのオーダー分、運
 びなさいよねっ? とにかく一緒に来いっ!」
 そう言って亜美は、強引に北村を注文口へ引っ張っていった。その後ろには、実乃梨と木原
と香椎が着いて行ってしまい、一人寂しくボックス席に取り残された竜児の前に、それまでの
経緯を全く知らない能登と春田がノコノコとやってきたのだ。

「おはよう高須。あれ? 人数分のグラスがある。なんだ、俺たち以外みんな揃ってんだ?
 早っ!」
「うい〜す☆高っちゃ〜ん、おりぇの席ここでいいの? てか、このジュース、どれが誰の?」
 と春田はテーブルの上のグラスに、ツンツンと指で差す示す。すると能登は、その内の一つ
に、ピンクの口紅が着いているストローが刺さっていたグラスを発見してしまい、瞑らなカ
ワウソ眼で、しっかりロックオンするのだった。

「おい能登。俺も男だ気持ちは分かる。分かるんだがな。それはちょっとどうかと思うぞ」
「え? ななななななに言ってんの高須っ! 木原のストローなんて見てないよ? ちょっと、
ピンクの口紅が付いてるから、これって誰のかなって、気になっただけじゃん!」
「ピンク? 木原は口紅は紅かったぞ? こっちが木原のストローじゃねえかな? 紅い」
「紅色は亜美ちゃんじゃな〜い? フヒヒ、俺、このストローで飲んじゃおうかな。間接キッ
 ス☆」
「……まて春田。それは実乃梨のだ……てか二人とも、確信ないなら間接キスは諦めろ。後悔
 先に立たずだろ?」
「だ、だから違うんだってば高須、うーん……味見、いや、これって美味しいかな〜って!」
 無論、嘘だろう。味見っていってもどれを飲んでも一緒。能登は自分の欲望を誤魔化すのに
必死だ。
「能登、わかった。お前って、ギャンブラーだな。まあ、あくまで味見というなら仕方ねえ。
 ちょっとだけ飲むだけなら、俺は目を瞑るぞ。青春だな」
「ウヒョー! 能登っちレッツ☆グオー!」
 他人事ながら盛り上がる春田。これから始める能登の行為は、一切、他言無用だという事は、
不文律の男のルール。熱いフレンドシップだ。

「あ、ありがとう高須、春田、俺は一線を超えるぞ! 二人とも忍びねえな?」
「かまわんよ」
 と、少々廃れたお約束を交わし、能登は念願のストローに口を付け、そして吸った。すると、
「おお能登と春田! 遅かったじゃないか! ん? なんだ能登、それは俺の飲んだコーラじ
 ゃないか! 仕方ないやつだな!」
「ブッフオオオ! だ、大先生! マジで? だってこれ、口紅……」
 能登は盛大にコーラを噴霧、さっきまで咥えていたストローを指差す。
「どうすれば口紅に見えるんだ? 血だ。間違いない。血がついている。実は俺の唇、大変な
 んだ。すっごいカサカサなんだ、いや、しかし間接キッスではないか。恥ずかしいなぁ」
 頭を掻く北村に対して、能登は超燃費、さっきのテンションはどこへやら。魂の抜けた能登
は、ゆっくりと竜児に、真っ青な顔を向けた。
「……どうしよう高須。俺、思いっきりストロー味わっちゃったよ。そして思いっきり愉しん
 じゃったよ。俺こういう冗談が、一番苦手なんだよ、ね……」

 残念すぎる。竜児は頭を抱える。すると春田の口が弾ける。
「能登っち悲惨! ちなみに、このコーラは飲んじゃ駄目。俺のね? It’s 峰っ!」
「春田、It’s mineだろ? しかし能登よ。なんつーか、それって……」

 と、竜児が言葉を紡いだ、次の瞬間。

「「遺憾よね」だよな」

 竜児は誰かとセリフをシンクロナイズ。竜児は全力で振り返る。そんなセリフ吐くやつは、
一人しかいない。それは、

「「大河──っ!!」どうしたのさ? なんでここにいるのさ?」
 今度は実乃梨とシンクロナイズ。竜児は驚き、飛び上がる。フルパワーで、実乃梨にハグさ
れる大河は、似合っているが、見慣れないセーラー服を着ていた。
「んああっん! みのりんただいま〜っ! あのね? ママが退学届けを次の日には撤回して、
 休学届けにしておいてくれたの。ただ転校先の学校に手続きだけちゃっていたから中々許可
 でなくて……だから、この制服着るのも最初で最後。私、明日から復学するんだから! 終
 業式も一緒なんだからっ!」

 戻って来た。大河が戻って来た。みんながいるここに。
 今、目の前にいる大河は、正真正銘の大河だ。腰まである淡色の髪、白い小さな顔に乗っか
った長い睫毛、小さな鼻、唇。一ヶ月前に別れたそのままの大河だった。ただ違う所と言えば、
セーラー服に身を包んでいるところか。正直、どう贔屓目に見ても、小学校から進学したばか
りの中学生にしかみえない。そこにパニーニを持った木原、登場。

「っあっれ──? タイガーじゃ──んっ! ねえねえ亜美ちゃんっ、奈々子っ! タイガー
 が、コスプレしてるぅぅ! 超かわい────っ!!」
「コスプレ? んなあっ、ちょっとチビ虎っ!! 久しぶりに逢ったら、何セーラー服とか着
 ちゃってんのよ、ズルくね? あたしだってセーラー服、超〜似合うんだからっ……」
 そんな亜美の憎まれ口は、最後は聞き取れないほど、声が震えていた。
「おかえりタイガー。うふふっ、今日は勉強会どころじゃないかもねっ」
 という香椎のやさしい声は、店内は騒々しいに掻き消されていく。

「むうにゅううっ、みのりんみのりんみのり〜〜んっっ! 私、みんなのところに戻ってくる
 為に、メールでも連絡できないくらい、いっぱい頑張ってきたんだよ! でも、これからは
 また一緒っ、すっごい、私! うれしいっ!」
「うおおっっ──! 大河ーっ! みのりんもうれしいぜええーっっ!」
 ちょっと竜児が嫉妬してしまうほど激しい二人の抱擁。ふうっ、と溜息。そうして竜児は、
実乃梨の肩に手を触れた。

「……なあ実乃梨、この後、学校いかねえか?」
 ぐりっと首だけターンをきめる実乃梨。目尻に浮かんだ涙は、昨日のそれより、熱を帯びて
いる。
「えええ? 学校? 竜児くんなんでさ?」
 もたげた実乃梨の肩越しに、キラキラ光る大河の顔も覗ける。そして、ふたりに竜児は、出
来る限りの祝福を提案した。
「大河が戻ってきたお祝いに、俺が腕を奮ってやる。学校の高須農場の野菜達で、俺の最終奥
 義『鳳凰』を創ってやる。なんでも『鳳凰』ってのは、祝いの席で創るらしいからな。大河
 は戻って来たし、ホワイトデーだし。場所は、弁財天国借りて……なあ、どうだろう?」
 竜児は声を張る。大河と実乃梨は顔を合わせ、ニンマリした。

「野菜で『鳳凰』とな? そりゃすっげーよ、あーた! 及ばずながら流浪のウェイトレス、
 私も手伝わしてくんなましっ! ねえ大河っ! 勉強会の後に学校へ行くって! いいよね?」
「うん! 竜児はイヤだって言っても造っちゃうだろうから、食べないと野菜たちが可哀想だ
 もんねっ? もちろん行くわよ! おいばかちー!! 貴様も来るのだっ!」
 犬猿の仲、宿敵同士の大河と亜美は、ケンカしてるんだか、抱き合っているのか、訳分から
ない位、身体を寄せあっていた。
 そうやって、みんなが喜ぶ姿を眺め、つい、感極まり、言葉を失う竜児。そこに誰かから、
肩を叩かれた。 
「驚いただろ高須。俺は知っていたんだが、逢坂にまだ内緒にしてって言われててな。騙した
 みたいで、すまない」
 平伏す北村の肩を、今度は竜児が叩く。
「そんなことねえよ! てか、もう嬉し過ぎて、どうでもいい! そうだ、お前も『鳳凰』食
 ってくれよな? 絶対旨いから!」
 最近、北村の様子がおかしかったのは、大河の事をカミングアウトしたかったのを、大河の
言いつけ通り、我慢していたからであろう。全ての謎が解けた竜児は、もう嬉しくって、笑い
が止まらなかった。と、その横。

「くうっ! みんな……よかったねえ! うくくっ!!」
「ちょっと、須藤さん……なんで泣いているんですか?」

 なぜか部外者の須藤氏も混ざって号泣していた。
 止まらない、みんなの泣き、笑い声が店内に響く。


 そして新しい日々が、また、ここから始まる。


 おしまい。






263 ◆9VH6xuHQDo sage 2010/04/26(月) 02:04:20 ID:9+luXIVH

以上になります。お読み頂いた方、ご支援頂いた方、有り難うございました。
また、何故かレス数を間違えました。十七レスでした。申し訳ございません。
次回、スレをお借りさせて頂くときは、職人様のお邪魔にならなければ来月
M☆Gアフター8を、投下させて頂きたく存じます。失礼いたします。




254 M☆Gアフター6(鳳凰篇)インターミッション ◆9VH6xuHQDo sage 2010/04/26(月) 01:55:24 ID:9+luXIVH

*INTERMISSION*

前半以上です。お読み頂いた方お疲れさまです。また有り難うございます。ぜひお茶、タバコ
でもお飲み頂き、ご一服頂けたらと存じます。ここは本編をスルーしている方の目には触れな
いでしょうから、ここまで読んで頂いている方に、休憩代わりに裏話的な話を。本当はコレ、
先週投下するつもりでした。でも先週購入したスピンオフ3で、大橋高校の期末試験がホワイ
トデー後という事を知り、なるべく原作遵守したいと思っている私としては、先週完成してい
たのですが、7割以上書き直しました。実際、読まなきゃ良かった。と思ってしまったのです
が、新作に記載されていた麻耶がハマった映画、バニラスカイのサントラを私も持っていて、
曲の趣味合うかも。と思い、ちょっと二人のためのエピソードを加筆してみました。てか、ど
うでもいい話ですね。申し訳ございません。これから後半を投下させて頂きますが、率直な御
意見を頂きたく存じます。あと五レスになります。最後までお付き合い頂きたく存じ上げます。


242 ◆9VH6xuHQDo sage 2010/04/26(月) 01:40:09 ID:9+luXIVH
お邪魔させて頂きます。久しぶりなのと、K氏の後で緊張しております。
先月投下させて頂いた。M☆Gアフター6(マシュマロ篇)の続きです。


題名 * M☆Gアフター6(鳳凰篇)
時期 * 二年生の三月。
設定 * 竜×実付き合って九ヶ月。
物量 * 十五レスになります。(本番シーンは十〜十二レス目です)
注意 * 原作とカップリングが違うので、みの☆ゴン未読ですと不快かもしれません。
     また、M☆Gアフター6は、三部構成になっており、(チョコレート篇)(マシュマロ篇)
     に続き、今回の(鳳凰篇)がラストです。

長いですが、休憩入れながらでもまったりお読み頂ければ幸いです。
宜しくお願い申し上げます。

このページへのコメント

いつも楽しく読ませていただいてます。
週一程度の更新で済むようになったのは
よかったのかどーななのか。

SL66さんも規制巻き込まれたらしいですねえ。
なんとかならないものなのでしょうかと、思うわけです。

>誤字がいつも以上に多かった
ああ、転載する時に気に留めていませんでした。
そのうち校正します。

Posted by 管理人さん 2010年05月08日(土) 22:30:17

いつも判り易く御転載頂き、有り難うございます。
今回、誤字がいつも以上に多かったのと、オチの
鳳凰ネタは某スレで募ったものだったにも拘らず、
スレに投下後、私的に最も多くの好意的なレスを
頂いて恐縮してしまったSSです。投下したタイミ
ングも良かったのかもしれませんが、以前スレに
ご迷惑おかけした時期を思い起こしますと、お読
み頂いた方がいらしたんだと思うだけで歓喜です。
今後共こ指導ご鞭撻のほど、お願い申し上げます。

Posted by ◆9vh6xuhqdo 2010年05月07日(金) 09:13:08

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