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60 174 ◆TNwhNl8TZY sage New! 2011/09/10(土) 18:05:07.52 ID:BDBuG0SF


「N.G.S」


なんでも行き当たりばったりで、何事も先延ばしにしてしまうような性格を恨めしく思うのはこれで何度目になるんだろう。
特に考えもせずその場のノリで決めてしまったのが二週間前。
まだまだ余裕あるから後に回しても大丈夫って気楽に構えてたのがちょうど一週間前。
さすがにヤバイと本気で焦りだしたのは、提出日のたった三日前のこと。
いくらなんでも遅い、遅すぎる。そこから挽回するのだって、大変なことは充分わかっていた。
少なくとも、そのつもりだった。
それだってのにとうとう明日が期限だというところまで日々を無駄に浪費してしまったのは、ひとえに自分の責任だ。
もし時間が巻き戻せるんなら、あたしは二週間前のあたしを絶対引っ叩いてやる。
泣いて謝ったって許してやらないんだから。
こんな穴だらけの指になりたくなかったらもっと楽にできて、かつすぐ終わらせられるようなもんにしときなさいよねって、おもっくそ嫌味ったらしく言ってやる。

「痛っ」

まただ。余計なこと考えてるからそうなるのよ、それ見たことかって、心の中で自嘲気味に呟く。
人差し指に走った痛みにいい加減辟易する。刺さってしまった針先を慎重に引き抜くと、遅れて傷口から薄っすらと血が染み出す。
隣に座っていた、それはそれは目つきのおっかない男子が、すかさず絆創膏を貼ってくれた。

「ああもうっ。もう嫌、やってらんないわよこんなの」

「落ち着けって。さっきまでと比べりゃだいぶ上達してるぞ」

高須くんはそう言うけど、あたしにはとてもそうは思えない。
度重なるミスのおかげで左手はとっくに絆創膏まみれになっている。
今の今増えたのも合わせると、自分自身に針を刺してしまった回数は片手じゃ数えられない。
始めてからもう一時間。それだけ費やしてこの有様だ。
経験値に直したら少しはレベルが上がっていていいはずだってのに、まるで立体感のない、ぺちゃんこのクマだか狸だか判然としない形の布切れからは、上達のじょの字も感じられない。

「やめてよ、お世辞とか。なんか、逆にムカつく」

一向に終わる気配がしてこない、苦痛まで伴う地道な作業の繰り返しに、あたしはもうすっかり嫌気が差していた。
こんなもの放り出して帰りたいのに、けどそうもいかなくて、やらなくちゃいけないのもわかってるし、でもやりたくない物はやりたくないんだもん、しょうがないじゃん。
それにもう、どうせ間に合いっこないよ。
勝手に八つ当たりして、勝手に諦めムードを漂わせていると、高須くんがはあとため息。

「そんなんじゃねえよ。ほら、木原、まっすぐ縫えるようになってきてるだろ。ちゃんと上手くなってるよ」

「なってないってば。だってさ、こんなにやったのに、ちっとも高須くんみたいに上手にできないし。きっと才能ないんだよ、あたし」

始める前、一通り高須くんに実演してもらったのを思い出す。
淀むことなく綺麗に繕うその様子をお手本にしていたのに、いざ自分が針を持つと勝手が違って、まったくお手本どおりにならない。
あれだけ要点とか注意とかを教えてもらったのにもかかわらず、最初の方に縫ったのなんか糸がよれよれで蛇行しまくりだ。
それでも何度か練習して、やっと本番に取りかかって、なのにずっとこの調子。
自信があったわけじゃないけど、こうも上手くいかないんじゃあ気落ちするなっていうのも無理な話でしょ。
そうやってうなだれているあたしに、高須くんがフォローを入れた。



「才能なんて関係あるか。誰だって始めたばっかじゃこんなもんだ。俺だってそうだ」

「でも」

あたしは高須くんとは違うから、高須くんみたいにできないよ。
そう続けようとした言葉を遮られる。
遮ったのはもちろん高須くんだ。

「わからなけりゃ何回だって教えてやるし、難しいとこは手伝ってやるよ。だから木原も、もうちょっと続けてみないか」

そうまで言われて、ううん、言わせちゃって、これで諦めて帰るだなんてこと、できるわけない。
それでなくったって頼み込んで手を貸してもらっているんだから、一方的なわがままで終わらせるのって、高須くんにすごく悪い上に失礼だ。
いくらか冷静さが戻ってきたのもあって、高須くんの説得により、止めようという気持ちはだんだん霞んでいった。
それでも引っ込みをつけるのが苦手なあたしはそっぽを向き、

「わかったわよ。やればいいんでしょ、やれば」

と、可愛らしさの欠片もないふて腐れた返事をする。
他の人だったら愛想をつかされててもおかしくないのに、高須くんは「おう」とだけ言って、何事もなかったようにしている。
自分でもさすがにあれはないんじゃない? と思っただけに、あっさりとしすぎる高須くんの反応が意外で、肩透かしを食らったようにさえ思える。
まあ、あれだけ素直じゃないタイガーを相手にしてるから、慣れちゃってるってのもあるのかな。
それが一番ありえそう、それだけいつも一緒にいるんだろうなって、そう思った次の瞬間。

「痛っ」

チクリ。今度の針は、今までのよりほんの少し深く刺さった。

「なあ、慌てなくていいんだからな」

「うん」

絆創膏が、また一枚。
気を取り直して再開させた、その矢先にこれなんだから。
先が思いやられるなあ、もう。
そもそもこんなに難しいと知っていたなら家庭科の裁縫課題、適当に雑巾とか、そういう簡単そうなのにでもしとくんだった。
亜美ちゃんに奈々子、それにほとんどみんなが「可愛いからこれにしよ」って盛り上がってるとこに、ノリで便乗しちゃったのが最初にして最大の間違いだ。
ぬいぐるみなんて可愛らしくって複雑なもの、どうせあたしにできっこないってのにさ。
まったく、何やってんだか。

「あーあ、男子はいいよね。こんなめんどいことしなくっていいんだから」

あっちはあっちでレポートの課題がある。
といってもたいしたことはなく、ただ教科書の内容を丸写しにして出せばいいだけ。
それに引き換え、女子にはこういう実技課題が出されているんだから、やっぱ不公平だ。
同じ家庭科だってのにこの違いはなんなのよ、男女平等社会じゃねえのかよ。
裁縫なんて、そんなのが得意な女子高生なんて今どきいるわけないでしょ。
もしいるんだったらここまで連れてきてみろってえの、たく。
だいたいさあ、こんなぬいぐるみもどきを作れたとして、それが将来なにかの役に立ちそうってわけでもないし、ほんと、何の意味があるんだかわかりゃしない。
ちくちくちくちく危ない手つきで縫いつけながらのあたしの、その投げやりな気持ちがめいっぱい込められたぼやきに、隣で見守る高須くんが首をかしげた。



「そうか? 俺はそっちの方がいいけどな」

今どきの男の子がいくら大人しいったって、ここまで女々しいというか、所帯じみてもいないでしょうよ。
少なくともあたしの身近に高須くんほど家庭的という言葉が似合う男子は思い当たらない。
女子をひっくるめても辛うじて奈々子ぐらいなものかな、当てはまるの。
つくづく見てくれとのギャップが激しい高須くん。
そのことに何ら驚きもしなくなっている自分を悟られるのがなんだか恥ずかしいことのように感じられて、そうならないよう冗談めかして言う。

「なら、いっそ代わる? でさでさ、あたしがやったげるよ、高須くんのレポート。ね、そうしよ」

「ああ、名案だなそれ。だけど生憎ともう書き終わってるんだ、レポート。気を遣わせたみたいで悪いな、木原」

そっか。それじゃあ残念。
体よく押し付けようとするあたしをひらりとかわした高須くん。
さすがにそこまで甘やかしてはくれないか。
でもまあ、それも当たり前だよね。ていうか、そうでなくちゃあ都合がよすぎるってものだもん。
ただ優しいだけの男よりもよっぽど好感が持てる。そういう男はつまらない。
何故だかそんなことを考えている自分を見つけて、不思議なことにその理由もわからず、あたしはあたし自身に対して首を捻る。

「手、止まってるぞ」

目ざとく指摘されて、あたしはぎこちなく指を動かした。
が、ものの数針縫ったところで、すぐまたピタリと止まってしまう。

「どうしたんだ」

「え、あ、その。ちょっとここの部分、むずいかなあって」

咄嗟に思い浮かんだことをそのまま言う。
高須くんは平然としているけど、実はさっきからたまに落ち着かない時があった。
場所は放課後の教室。窓から差す夕焼けが眩しくて、居残ってる生徒は誰もいない。
あたしと高須くんの二人きり。
意識しまいとしていたのに、変なことに気がいったからか返ってそのことをより強く意識してしまい、あたしはいまいち集中しきれずにいた。
まるで告白か何かのようなシチュエーションもそれに拍車をかけている。
おかしいな、べつにあたし、高須くんのこと何とも思ってないのに。

「そこか。よし、任しとけ」

そうだ、あたしは高須くんのことをどうこう思ってるわけじゃない。
ぜんぜん、まったく、これっぽっちも意識なんてしていない。
いたって普通の友達関係、それ以上でも以下でもない。
これまでだって、これからだって。

「た、た、た、高須くん!? ちょっと!?」

でも、だからって、こんなことされていつもどおりにしているなんてできないわよ!?

「いいから。少しの間じっとしててくれよ」

いいも悪いもない。動くなって言われたって、微動だにできやしない。
ひょっとしてこいつわざとやってんじゃないの。
そう疑ってしまうのは、何もあたしが自意識過剰だからじゃない。
誰だって背中から抱きすくめられたら似たり寄ったりな反応をするはずだ。

「でな、そうしたら、次はここをこうやっていって、と」


いや、抱きすくめられてってのはいささか語弊があるかもしれない。
高須くんはたんにあたしの背後から腕を伸ばして、布と針を握るあたしの手に自分の手を重ねて、難しいと言った箇所を縫ってくれてるだけ。
ただそれだけで、そんなのは充分理解してるのに、どうにも動揺を隠せない。
自分の手をすっぽり覆う高須くんの硬い手の感触に、目の逸らしようがないぐらい、これが異性の手なのだということを実感させられてしまう。
椅子に腰を下ろしているあたしに合わせて腰を屈めている格好のため、密着度合いはそこまでではないものの、コツやら何やらを解説するたびに首筋にかかる吐息がむず痒くってしょうがない。

「あとは玉止めにしてやれば、ここの部分は出来上がりだ。他もこんな感じでやってけば、っておい、木原」

「ふぁ」

肩を揺すられて我に返る。変な声が出てしまったのは、この際気にしてもいられない。
あたしは振り返り、ちゃんと聞いてたのかよみたいなことでも言いたげな視線を寄越す高須くんを力の限り睨みつけてやった。
こっちの取り乱しようなんてちっともわかっていないだろう訝しげな顔が益々憎らしい。
いったいぜんたいどういうつもりなのよ、いきなり、あ、あんなことしてきて。
冗談にせよそうでないにせよ、たち悪いってば。
不覚にも、その、ドキドキしちゃったじゃないのよ、くそぅ。
言いたいことは山ほどあったのに、いざ高須くんを目の前にすると口だけがパクパク動くのみ。
そんなあたしの言葉にならない言葉が伝わったのかはさて置いて、高須くんが言った。

「わかり辛かったんなら今のとこ、もう一回やってみるか?」

少しくらいはって、そんな期待に微塵も応えない朴念仁ぶりを発揮されて、人のことをなんにもわかってくれない高須くんにほとほと呆れかえる。
しかも完全に素のままもう一回、だって。
いくらなんでもあんな心臓に悪いのをそう何度もやられたんじゃ、向こうはともかくこちらの身がもちそうにない。
でも、先に言わせてもらうけど、断じてあたしは物覚えが悪いわけでも、バカでも、ましてや裏口入学疑惑のかかるようなアホじゃあない。
どこにでもいる模範的な今どきの女子高生で、ただ、他の人よりちょびっとだけ手先が不器用なためにこんなことになっているのだ。
差し迫った提出期限まで、もういくらも猶予が残されていないってのもある。
上手な人に教えてもらえるというのなら、それに越したことはないじゃない。
その上教え方が懇切丁寧ならなおさらのこと。その申し出を突っぱねる理由もない。
そうそう、だからあくまで、あくまでこれは仕方なくなんだから。

「それじゃ、あんまり動かないでくれよな」

「高須くんこそ。針、刺したりしないでよね。けっこう痛いんだから」

「おう」

しばらく逡巡したそぶりを見せてから頷くと、高須くんの腕が肩越しに伸びてくる。
大きくて硬い手にされるがまま、クマだか狸だか判然としないぬいぐるみもどきに針を入れつつ、チラリと窓の向こうに目をやった。
せめて、あの夕日が落ちきるまでには、完成させないと。

「痛っ」

言ったそばから指先にチクリとした痛みを感じたけど、よそ見をしていたあたしの注意が足りなかったんだから、これは不可抗力だ。

「もうっ、刺しちゃやだって言ったのに」

だけど、敢えてそれを口にすることはしなかった。
最後までそうだとは気づかなかった高須くんの平謝りを聞き流しつつ、また増えた針傷に絆創膏を貼ってもらった。

                    ***

翌日の昼休みのこと。

「そう。大変だったのね、麻耶」

「ほんとだよ。おかげでこんなになっちゃった」


隙間もないほど絆創膏で埋め尽くされた、変わり果てた姿になってしまった左手をひらひら翳してみせる。
奈々子が痛々しさに眉根を寄せた。
だけどもこれ、大げさなわりにもう痛みも引いてるし、自分の不器用ぶりをわざわざ自慢して歩いているみたいで少し恥ずかしくもある。
たった一箇所を除けば全部自分のせいだからそれも仕方のないことなんだけど、逆に考えればこれって努力の証なんだし、頑張ったからこそって思えばそこまで嫌なものでもないかな。

「でもよかったわね。課題、ちゃんと間に合ったんでしょう」

「まあね」

でなけりゃこうしてのんびりお昼ごはんなんか食べてらんないわよ。
だから本当、高須くんには感謝しなくっちゃ。
ぬいぐるみもどきから、ようやくぬいぐるみとして及第点をあげられるくらいになったあのクマも、手元に帰ってきたら記念に飾っておこう。

「奈々子もありがとね」

「どういたしまして。といっても何もしてないんだけどね、あたしは」

とんでもない、奈々子の言葉がなかったら、あたしは今頃針と糸相手にまだ悪戦苦闘していたはず。
昨日、提出期限直前になっても右往左往していたあたしに「高須くんにお願いしてみたら?」と勧めてくれたのが奈々子だった。
はじめあたしは奈々子に泣きついたんだけど、間の悪いことに昨日はどうしても都合がつかなかった。
他力本願なことこの上ないけどいよいよヤバくなった時は頼ろうと決めていた頼みの綱は、いとも容易く千切れてしまった。
こんなことならもっと早く相談していれば、ううん、それよりもちゃんと自分でやってきていれば。
そうして途方に暮れていた時だ、見かねた奈々子が助け舟を出してくれたのは。
その奈々子の勧めに一も二もなく飛びつき、藁にも縋る思いで事情を説明すると、高須くんは嫌な顔一つ見せず、むしろどことなく乗り気な体で快諾してくれた。
得意なことで頼られたのが案外嬉しかったらしいのは、熱心に付き合ってくれていたあの様子を見ていればわかる。
ただ、高須くんに頼ることに問題がなかったわけでもなくて。

「それにしても昨日のタイガー、ずいぶん大人しかったけど。何も言ってこないのも、なんだか怖いなあ」

心底意外そうな奈々子の言うとおりだ。
たしかにあたしが平身低頭にお願いしていたその時、高須くんの横では、機嫌の悪さをありありと滲ませるタイガーがいた。

「それなんだけどさ、あたし聞いてみたんだよね、高須くんに」

「そうなの? それで高須くん、なんて?」

あんまり大きな声で喋っていると本人の耳に入ってしまうかもしれない。
高須くんとタイガーの二人は少し離れたところで机を並べて、櫛枝と、まるおと、それに亜美ちゃんも交えてお弁当を広げているんだから。
あたしは小さく手招きをし、心もち身を乗り出した奈々子に耳打ち。

「なあんだ、そういうこと」

奈々子が納得がいったという表情を浮かべる。
そりゃああれだけ大雑把で、しかもドジを踏みやすいタイガーだもん。
一人で針仕事なんてさせたらどうなることやら。
なんてことはない、タイガーとあたしは同じ穴の狢ってだけだった。
だからあたしにもしていたような、その、背中から抱くようなあれは、元々はタイガー相手にしていたんだと思う。
ああして教えてあげれば針が指に刺さるようなことも少ないし、口で説明するよりかはまだわかりやすいだろうって、たぶんそんな風に考えたんだろうね、高須くんは。
本当のとこはどうだか知りようがないけど、事実として、あの方法は思いのほか捗る。
ぶっちゃけ高須くんがやってくれてるようなもんだしね。
とまあ、そういった具合に高須くんにかなりの手助けをしてもらったから、タイガーも取り立てて何も言わずにいてくれているっぽい。
こっちとしてもそれは同じで、だからこういうのもお互い様、ってところなのかな。

「それだったら、楽しそうだから麻耶と一緒にあたしも教えてもらえばよかったかも。ふふ」

種がわかって、奈々子がくすくす笑って茶化してくる。
そつなく課題を終わらせておいてよく言う。
でも、人のことをとやかく言えないあたしは、とりあえずパックのジュースを啜って聞いていないフリをした。


「でも麻耶、意外と気が多いのね。北村くんにも、高須くんにも、なんて」

「ぶっ。けほ、こほ」

おもいっきり咽た。
咳き込むあたしを、何が面白いのか、腹黒い考えなんて欠片もなさそうでいてその実ありまくりの笑顔をした奈々子が見つめている。
なにを言い出すのよやぶから棒に。

「どうしてそうなんのよ。まるお、今の話と関係ないじゃん」

「べつに。ただ高須くんとのこと、ずいぶん嬉しそうに喋ってたからなんとなく。違うの?」

小首をかしげる仕草が可愛らしくて小憎らしい。
それがめちゃくちゃこっちの癪に障るは神経逆撫でするはって、わかっててやってるんだから、ほんと奈々子っていい性格してるわよ、マジで。

「違うっつーの。誤解しないでよ、もう」

「じゃあ高須くんのことは何とも思ってないのね」

性悪ぶりを全開にさせる奈々子はすんごく鼻持ちならなくて、だけどその口から出てくるのは、昨日のあたしの気持ちだった。
あたしは高須くんのことをどうこう思ってるわけじゃない。
ぜんぜん、まったく、これっぽっちも意識なんてしていない。
いたって普通の友達関係、それ以上でも以下でもない。
これまでだって、これからだって。
何が起ころうとそのはずで、なのに。

「い、良い人だとは思ってるよ? だってほら、課題、手伝ってくれたし。話してみると、見かけよりずっと普通だし」

思わず言い返していたのは、きっと今のあたしの気持ちだと思う。
いまいち確証が持ちきれないというか煮え切らないというか、そういう類のはみんな奈々子のせいだ。
底意地の悪いことばかりする、奈々子のせい。そうに違いない。

「そう。良い人なんだ、高須くん」

とうの奈々子はというと、いやらしい笑みを深めるばかり。
居心地の悪さに縮こまるあたしをにやにやと見ている。
その内コウモリみたいな真っ黒な羽でも生やして、お尻からも矢印のように尖った尻尾が出てくるんじゃないの。
小悪魔系ってよりもずばり悪魔そのものだ。

「で、麻耶はどっちにするのかしら」

「な、なにがよ。意味わかんないんですけど」

「もぅ、ほんとはわかってるくせに」

いやらしい悪魔が興味津々と尋ねてくるのをひたすら知らん振り。のらりくらりと受け流す。
意地でもわかってやらないんだから。そりゃ、何を言いたいのかなんてわかってるけど、絶対わからないで通してやる。
いくら奈々子だって、なんでもかんでも本音を教えてしまうとか、そんなのたまったものじゃない。
一方的にというのもずるい。せめて奈々子の秘密と交換じゃないと割に合わない。
まあそれでも、奈々子が聞きたがっていることを打ち明けるというのは、まずありえない。
曖昧で定まらない、捉えどころだってないその気持ちをはっきりとした言葉にすることなんて土台できない話なんだから。

「わかんないわよ、ばか」

だからせめて、それが何なのかってはっきりするまでは。
回答は、先延ばし。

                              〜おわり〜


67 174 ◆TNwhNl8TZY sage New! 2011/09/10(土) 18:12:14.32 ID:BDBuG0SF
おしまい

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Posted by 若若若 2013年07月31日(水) 20:29:47

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