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「NOET」484 174 ◆TNwhNl8TZY 2009/03/07(土) 13:31:20 ID:PQCTy3by




「あれ、高っちゃんどこ行くんだろ?」

──────昼休み──────
日々代わり映えのしない学生生活の中で、授業の合間に一時でも安らぎを得られる時間。
真面目に授業を受けていようと寝ていようと、等しく訪れるもの。
それが昼休みである。
その過ごし方は十人十色、人それぞれ好きなように過ごせばいいが、
大抵は気の合う友達同士で、昼食をしながらのお喋りに花を咲かせたりするものだろう。
中にはついつい授業中に弁当を平らげてしまい、それでも足りずに学食へ突撃していく者・・・・・・・・・
所属している部活の会合に出席していく者・・・・・・
いつもなら勝手に寄ってくる友達と机をくっ付けて、実の無い話を延々と続けながらヒマを潰しているのに
今日に限ってそんな気になれず、自販機の間でちびちびとお茶を飲んでは溜め息を吐いている者・・・

午後の授業が始まるまでの間、自由な過ごし方をしていい時間。
そんな時間を「お前らホモダチなんじゃねーの?」と変な疑惑をかけられそうな程、常日頃ワンセットで学生生活を過ごす二人・・・
脱ぎたがりのメガネの影に隠れていまいち目立てない地味な方のメガネ・能登久光と、
純白のスーツでも着せてイケメンを自称させれば、それなりに笑いを取れるかもしれない男・春田浩次ことアホロン毛は、
今日も今日とて二人一緒に昼休みを過ごしていた。

「めずらしーよなー、高っちゃんが昼休みにどっか行くなんて」

大橋高校に在籍しているものなら一度は耳にした事があるだろう『手乗りタイガー』と『ヤンキー高須』の名前とその噂。
前者は完全に本人が作った武勇伝からなる、後者は完全に本人以外によって作られたのは言うまでもない。
そして『ヤンキー高須』こと高須竜児は、本職も避けて通るような強面を持っていながらその中身は驚く程に歳相応の高校生である。
強いて言えば所帯染みた性格をしてはいるが、あの目つきさえどうにかできればその辺を歩いている一男子生徒でしかない。
そんな竜児にとって、ただ歩いているだけでモーゼの如く人の流れが割れて道ができたり、
頼んだ訳でもないのに勝手に財布を差し出されるというのは日常茶飯事であり、彼自身その日常を激しく疎ましく思っている。

そういう理由からか、後始末(主に『落し物』を事務に届けに行ったり)等の自分に降りかかる面倒や居心地の悪さもあり
竜児は普段あまり教室から外に出歩かない。
と言うより出たがらない。
勿論トイレは普通に行くが、今しがた春田が指摘したようにこの場合は普段とは明らかに違う、目立つ部分が竜児にはあった。

「さっき弁当食ってたのに、弁当箱なんて持ってどこ行くんだろーな、高っちゃん」

そう。
竜児は既に昼食を済ませているのに、何故か手に弁当箱を提げた格好で教室の外に出て行ったのである。
・・・・・・断りを入れておくと、竜児は別に
教室に居場所がないために泣く泣くトイレの個室で弁当を広げ、昼休み終了まで篭っている・・・という事をしにいった訳ではない。
そんな事をしていたら、今頃そのトイレは大橋高校の七不思議として『番長皿屋敷』なんて名前でも付けられるか、
竜児の喫煙所と誤解されて人も寄らないだろう。
二年の男子達にとっては迷惑極まりない。

「きっとウンコかなんかかなー、アハハー」

教室に残ったアホは、竜児が弁当箱を持っているのを見ていたにも関わらずTPOを弁えずにアホな事を言ってしまい、
まだ食事中のクラスメートからアホを見るような目を向けられている。
そんなアホの隣にいて、ずっと話を聞いていた能登は途中まで手を付けていた弁当を慌てた手つきでしまうと、
一冊のノートとペンを手に取って立ち上がった。

「悪い、俺ちょっと用ができたから・・・お先」

「ハハ・・・どうしたんだよみんな、そんな顔して・・・・・・・・・あ、ちょっちょっと待ってくれよ、俺も行くって」

そう言った能登はわたわたと残りの弁当をかき込む春田を残して、さっさと教室を出て行ってしまった。
咽ながらも持っていたお茶を流し込んで弁当を片付け、とても行儀の良い食べ方をしたとは言えない証を口元に散りばめたまま
能登を追いかける春田。
さすがに教室中から突き刺さる視線に耐え切る自信が無かったのだろう。
だが、教室に居たクラスメートの大半は逃げた春田の評価を殊更に下げ、極一部は「やっぱホモダチか・・・」と疑惑を深め、
更に極々一部では「ツン能登攻めのヘタレアホ受けで鉄板」という腐った会話をしていたりしなかったり・・・と。
教室から去った事は賢明だったかもしれないが、既に2-C内に自らの居場所が消えかかっている事を、この時の春田はまだ知らない。
・・・・・・もしかしたら、トイレの個室に篭るようになるのは春田かもしれない・・・・・・

「・・・あのアホ、マジで裏口なんじゃないの? 食事中にサイテー・・・ね、奈々子」

「そうねぇ・・・・・・」




「お、いたいた。お〜い能登〜〜」

──────場所は変わって、一年生の教室がある階──────
口元の米粒を撒き散らしながら、ブンブン手を振って寄ってくる春田を特に気にした様子もなく。
何故か廊下の曲がり角に身を潜めるようにしている能登は、時折曲がり角から顔を出しては教室を出る時に手にしていた
ノートに何かを書き綴っている。

「なぁなぁ、何で置いてくんだよー・・・てか何してんだよ? こんな所で」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

「・・・・・・ダメガネ」

「誰がダメガネだこのアホロン毛・・・allくらい書けるようになってから出直して来い・・・・・・」

「なんだ、ちゃんと聞こえてんじゃん。無視すんなよ〜」

「・・・俺は今集中してんだよ、話なら後にしてくれ」

そう言うと、能登はまた曲がり角の向こう・・・一年の教室が並んでいる方を気にしだした。
教室から出れさえすれば後は何も考えていなかった春田も、ヒマ潰しと好奇心から能登のマネをして曲がり角から頭を出してみる。
すると・・・・・・・・・

「なんだ、高っちゃんじゃん。一年の教室の前で何を」

「シーッ! 春田、ちょっと静かに・・・・・・お・・・?」

頭を出した春田に向かって能登が注意したのと同時に、竜児の方に動きがあった。
一先ず春田に「見るなら静かにしてろ」と小声で言うと、能登は先程と同じようにノートとペンを持って構える。
春田も妙な緊張感を放つ能登の言う事を聞いて、息を殺して竜児の方に集中し始めた。

二人の視線の先で、周りの生徒・・・しかも殆どが一年であり、一番竜児に対しての情報が少なく
『ヤンキー高須』のイメージしか持たれていないような生徒達の中、竜児は必死に顔を俯けて棒のように立っている。
が、春田と能登が覗き始めて数瞬もしない内に顔を上げたかと思うと、提げていた弁当箱を持ち直して誰かに渡した。

(・・・なぁ、高っちゃん何してんの? こっからじゃ見づらいんだけど)

(慌てるな・・・・・・よし、見えた)


「・・・・・・悪いな、わざわざ弁当なんて」

「い、いいんです・・・・・・こんなの、まだお礼の内にも入らないし・・・・・・迷惑じゃありませんでしたか?」

「そんなことないぞ。栄養も偏らないようにできてたし、うまかったって」

「ほんとうですか? ・・・よかったぁ・・・早起きして作った甲斐がありました・・・・・・」

春田と能登が見ているとは思ってもいないだろう。
竜児は一年生の女子とやたら親しげに話している。
それにどうやら、先程から竜児が持っていた弁当箱の中身はその女子生徒の手作りらしい。
手渡された弁当箱を抱きしめて喜んでいるその女子生徒を、竜児が意外そうに見ている。

「あれ、全部自分で作ったのか?」

「ぁ・・・はい・・・あ、でも、お母さんに教えてもらいながらだったから、自分で作ったって言うのかな・・・」

「それでも、あれだけできればスゲェと思うけど・・・おだててるんじゃなくて、本当にうまかったって思うぞ、俺は」

「・・・・・・え、えへへ・・・そんなに褒めてもらえるなんて・・・・・・」

(・・・・・・・・・・・・・・・・・・)

(・・・・・・・・・・・・・・・・・・)

唖然としている春田と、竜児達を気にしながらも一言一句間違わないようノートに竜児と女子生徒の会話を書き記している能登。
やけに冷静な能登と違い、こんな場面に出くわすとは欠片も考えていなかった春田は状況に付いていくのでやっとだろう。
だが、竜児達の会話が途切れた事で若干は余裕を取り戻したらしい。
アホはアホなりに、今起きている出来事の理由を解明しようとした。

(能登、これどうなってんの!? 何で俺じゃなくて、高っちゃんがあんな可愛い子から手作り弁当貰ってんだよ!?)

(・・・・・・教えてやるから乗っかるなよ、春田。書きづらいだろ)

興奮気味に能登に食って掛かる春田だったが、あくまでも冷静に対処する能登に言われてとりあえずは気を落ち着ける。
「教えてやる」ということは、少なくとも能登は何かしらの事情を知っているんだろうと、春田の少ないお頭が奇跡的に思い至ったのだ。

(『・・・・・・褒めてくれるなんて』・・・と)

竜児と女子生徒の会話を記録し終えた能登は一度溜め息を吐いた後、指を解すようにプラプラと動かしている。
それも終わるともう一度溜め息を吐いて、自分の頭上にいる春田に意識を向けて考えだした。

───このまま帰したら高須に直接聞きに行きかねないし、そうなったら・・・やっぱマズイよな・・・・・・───

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

───こいつは口は軽いしアホだけど、アホだから明日になったら忘れてるだろ・・・・・・───

極力この事は秘密にしておきたかった能登だが、春田に黙ったままでいるリスクと話した場合のメリットを天秤にかけた結果・・・
教えてやるとも言ってしまったし、話した後で口止めをしておけばとりあえずはいいだろうという結論に達した。

その日の内に、能登はこの決断を後悔する事になる。


(・・・なぁ、あの娘に見覚えはあるか? 春田も絶対見てるぞ)

(はぁ? 急に言われても・・・・・・あー・・・だめだ、わっかんねー・・・ホントに俺も見た事あんのかよ)

(・・・文化祭、ミスコン、メイド・・・)

(あぁ、どっかで見たと思ったらタイガーに命令されてた娘じゃん。いや、マジでここまで出かかってたんだけどな〜)

(そう、その娘で合ってる。1年A組の光井百合子ちゃんだ)

(く、詳しいんだな・・・・・・で、なんであの娘が高っちゃんに手作り弁当なんて作ってくんだよ。俺だってそんなの貰った事ないのに)

(それは不思議がる事じゃないだろう・・・睨むなよ。それにあの娘が高須とイチャイチャしてる理由なら言うって。
 ・・・先週の放課後、学校の近くであの娘が絡まれてたんだよ。けっこうガラの悪そうな連中に)

(あぁ、それを高っちゃんが助けたのね・・・けど、高っちゃんってケンカとかすんだ・・・意外って言ったら意外だ・・・)

(まぁ・・・だけど、春田の予想とはちょっと違うな。確かに高須はあの娘とその連中の間に割って入ったけど・・・
 あの娘・・・百合子ちゃん、高須が来た途端に泣き出しちまったんだよね・・・『親玉が来たー』みたいな感じで)

(・・・うわー・・・・・・そっちか・・・・・・)

(でな、百合子ちゃんに絡んでた連中は高須に『すいませんでした!! 高須クンのスケだって知らなかったんス!!』・・・
 そう言って土下座して、有り金やらなんやら置いて走ってっちまった)

(・・・つくづく高っちゃんてエリートヤンキーなのな・・・・・・)

(で・・・取り残された高須は大泣きしてる百合子ちゃんを必死に慰めてたんだよ・・・それはもう必死に。
 人目もそれなりにあったんだけど、目線を合わせて話を聞いたり、頭撫でてやったり・・・・・・極めつけは抱っこしてた。
 いや、百合子ちゃんから抱きつきに行ってたんだけど・・・まぁ、高須の事を安全だと判断したんだろ。そう思おうぜ。
 ・・・タイガーがその場にいたら嫉妬に狂ってたんじゃないかって、本気で思う・・・・・・というよりも、事実そうなった)

そこで一旦話を区切ると、能登は一度頭を出して竜児と話の中心人物である女子生徒・・・光井百合子が
どんな会話をしているか聞き耳を立てる。
話の内容がたわいない料理関係の事で盛り上がっていると分かると、ノートに一言『雑談。特記すべき点は無し』と書いて丸で囲み、
春田に話の続きを語りだした。

(あれは凄かった・・・なんせタイミングも悪かったしな・・・よりにもよって高須と百合子ちゃんが抱き合ってる場面に出くわすとか・・・
 なんか、タイガーの後ろに大口開けたマンガみたいな虎が見えてさ・・・気のせいだろうけど)

(しゅ、修羅場にも程があんじゃね!?)

(あぁ・・・正しく修羅場だった・・・タイガーのやつ、『誰よ、その女・・・どういう関係か言いなさい、駄犬・・・』って詰め寄ってって・・・
 正直見てる俺も引くほど迫力あったくらいだから、百合子ちゃんまた泣きそうになっちゃってさ・・・咄嗟に高須の首にしがみ付いたんだよ。
 そしたらタイガー、分かりやすいほど動揺して・・・『うろたえた』って方がしっくりくるな。で・・・・・・)

(・・・・・・で?)

(『りゅ、りゅりゅりゅ、竜児は私にょなんだから離れにゃさいよ! この泥棒猫!! 間女!! バカバカバーカ! バカァッ!』
 ・・・一瞬何が起こったのか分からなかった・・・それくらい衝撃的だった。あの女は本当に高校生かよって疑ったくらいだ・・・・・・
 まぁ、直後にタイガーが泣き出した事もそれなりに衝撃的だったんだけど)

(・・・・・・・・・・・・・・・・・・)

(丁度百合子ちゃんも今の春田みたいにポカーンと口開けてたなぁ。お前の方がよっぽどアホ面だけど。
 ・・・・・・お、噂をすれば・・・見ろよ、タイガーが向こうから走ってきたぞ)


竜児達が立っている位置よりも、更に奥の方を指差している能登に倣い、目線を動かした春田が見たものは

「ぬぁにしてんのよバカ犬ぅぅぅぅぅぅう!! 私に黙ってぇぇぇぇえええ!!」

廊下を歩いている男子を除雪車を彷彿とさせながら轢き飛ばし、雄叫びという表現がピッタリ合うほどの大声でこちら・・・
竜児目掛けて突進してくる手乗りタイガー。
腰の位置よりも伸びた長い髪を靡かせながら、力強さとしなやかさを兼ね備えたフォームで疾走するその姿は、
そこだけ切り取れば陸上選手でなくとも羨ましがるかもしれない。

だが、元々人形のような可憐な顔をしていようと、どれだけ美しい走り方をしていようと・・・・・・
鬼みたいな形相で喚きながら通行人を撥ねまくって爆走する少女なんて、ただただ恐いだけであって。

「りゅうじぃぃぃぃぃぃぃぃぃいいいい!! そっから動くなぁぁぁぁっ!!」

「あれ、大河? どうし」

「こんのぉ・・・・・・ぅわきものぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」

大河がシャイニングウィザードのような飛び膝蹴りで竜児の意識を刈る頃には、憩いの時間であるはずの昼休みは
一年生にとっては恐怖と混乱によって阿鼻叫喚さながらの、憩いの『い』の字も存在しない時間に変貌していた・・・・・・・・・

「・・・・・・お前なぁ、何であんなに怒ってたんだよ。見ろよ、そこいら中に大河がのしちまった奴らが転がってんじゃねぇか」

(一番強烈にのされたのはお前だろう・・・何でもうピンピンしてんだよ・・・・・・)
これは春田と能登に限らず、一年男子生徒ほぼ全員の共通した心の声である。大河にのされて夢の世界にいる者も、きっと同じ思いだろう。
硬い物同士がぶつかるような音をさせていたから、確実に竜児は頭蓋骨で大河の膝を受け止めたはずだ。
にも関わらず、竜児は一瞬・・・時間にしておよそ10秒ほど沈黙したかと思ったらすぐに
「・・・・・・・・・痛ってぇな! 大河!? お前いきなり何すんだよ!」と・・・・・・
獲物を追い込んだ虎のような動きで、ジリジリと百合子ににじり寄っていく大河を掴まえてそう言った。
周囲の生徒が驚きで息を飲む中、大河だけは驚きもせずに暴れていたから、竜児と大河にとってはこの程度は普通なのだろう。
誰も気付かない内に、目つきが悪いだけの高校生だった竜児は、目の前でむくれている少女によって鍛えられていたようだ。

「う、うううるさいわね! 竜児が悪いのよ、教室に帰ったらどっか行っちゃってて・・・・・・」

「何で俺のせいになるんだ・・・・・・それにどうして俺がここに居るって分かったんだ? 言ってないよな、俺」

「そんなの、竜児の匂いを辿ってきたに決まってんじゃない。まぁあんたに近づくにつれて、余計な匂いもプンプンしてたけどね・・・・・・
 そ・れ・とっ! 竜児は私んだって言ったでしょ! あんた、なに勝手に人のもんに手ぇ出してんのよ!!」

「ひっ・・・あ、あのあの、私・・・・・・わたし・・・・・・」

「やめろって・・・どうしてお前はこの娘に突っかかるんだ? こないだだって、今みたいに訳の分かんねぇ事言って・・・・・・」

床に転がっている男子に手を貸したり、しっちゃかめっちゃかになってしまっている廊下を手早く片付けている竜児と、
その背に隠れるようにして竜児を手伝っている百合子。
その百合子をどうにかして竜児から引っぺがそうと躍起になっている大河。そしてその度に大河を宥める竜児・・・・・・
しばらく似たようなやり取りを繰り返した後、元々人がぶっ倒れている以外は大して片付けるほどでもなかったという事もあって
思っていたよりは早目に廊下の惨状は片付け終わった。

「・・・なんか、悪かったな。いろいろと迷惑かけたみたいで」

「い、いいんです、高須先輩が悪いわけじゃ・・・それに、ケガだってなかったし・・・」

「あぁ・・・ケガがなくて本当によかった。女の子にケガでもさせちまったら、どう責任取ればいいんだ」

「せ、せきにん・・・・・・? ・・・・・・そんな、でも・・・・・・」


被害を被った生徒が居る教室一つ一つに頭を下げ終わり、用も済んだと帰ろうとする竜児に挨拶をしていた百合子が真っ赤になる。
どのような想像をしたかは本人にしか分かりようが無いが、大河には百合子の反応がえらく気に入らなかったらしい。
80年代のスケ番のように舌打ちを連発して竜児を急かしてくる。
直接飛びかからなかっただけマシかもしれないが、それでも先程の暴れっぷりに加え威嚇行動のような舌打ちをかます大河に
百合子以外の生徒も完全に怯えている。

「わ、分かったからそれやめろよ、大河・・・じゃあ、弁当まで作ってくれてありがとうな」

「・・・・・・ぁの、た、高須先輩!」

「おぅ」

「・・・・・・こ・・・今度! えっと・・・またお弁当作ってきますから、食べてもらってもいいですか!!」

顔を真っ赤にした百合子が、尋ねるようなイントネーションではなく宣言するような強い語調で竜児に問いかける。
百合子にしてみれば、こんな事言ってしまったら大河に何をされるか分からない恐怖の中、ありったけの勇気を出して言ったのだ。
それこそ、大河に取って食われる自分が見えたほど。
だが、百合子にとっては追い風が吹いたらしい。
大河は何もしてこなかった。
・・・・・・正確に言うと、あれだけ威嚇したあの草食動物みたいな娘が、ここで動くなんて予想していなかったことと
どう脅かせば百合子に前言を撤回させる事ができるか考えている間に、竜児は返事をしてしまった。

「おぅ。作ってもらってばっかりもなんだから、今度は俺も作ってくるよ。苦手な物とか、リクエストがあるんなら今・・・・・・」

「ぃ、いいんですか・・・? ・・・あ、ないです! 苦手な物・・・・・・高須先輩が作ってきてくれるんだもん・・・・・・」

「じゃあ、都合がいい日ができたらメールで教えてくれないか? こっちはいつでもいいから」

「は、はい・・・明日は・・・・・・だめ、ちゃんと練習してこないと・・・」

「・・・・・・竜児! もういいでしょ、さっさと行くわよ!」

「お、おぅ・・・大河、そんなに引っ張んなよ」

「うるさい! ・・・・・・ね、ねぇ・・・お弁当くらい私だって作ってあげるわよ・・・? うぅん、作るもん。
 決めた! 明日のお弁当、私が作ってあげるね、竜児」

大河に引きずられながら去っていく竜児を、一年の男子は片目を羨望で、もう片目を嫉妬で全開にしながら見送っていた。
(付き合うのは考え物だけど、あんな可愛い彼女がいるのにこっちの有望株に唾付けていきやがって・・・舎弟になるにはどうすれば・・・)
そして廊下の向こう・・・竜児達が歩いていったのとは反対方向にいた春田も、似たような事を考えていた。

「・・・・・・高っちゃん、うちのクラスの女子だっていっぱい持ってってんだからさ・・・一人くらい回してよマジで。そうすればなー・・・」

いや、口に出してる上に言ってる内容が直球すぎる分、確実に一年のルーキー達よりも汚れているのが窺える。

遅まきながら騒ぎを聞きつけて、収めがてら自慢の筋肉を誇示しようとしゃしゃり出てきた黒間が能登達の後ろ側からやって来ており
通り過ぎる際に春田のセリフを聞き、アホを見るような目を春田に向けたのを能登は見逃さなかった。
が、当の春田は妄想の世界にドップリと浸かり込んでおり、黒間が横を通り過ぎた事にも気付いていない。黒間も特に注意しない。
能登も能登なりの優しさで、黒間が遠ざかるまでは春田の好きなようにさせていた。
それにやる事も残ってる。



「『『・・・・・・明日のお弁当、私が作ってあげるね、竜児』そう言ったタイガーは、高須を引きずって帰っていった』・・・よし。
 おい春田、俺達も・・・・・・まだやってんのか・・・」

「うへへへへ〜〜・・・亜美ちゅあ〜ん、ここが良いんだろ? ほらほら〜」

「・・・・・・もう行くぞ、アホ。いい加減見失っちまう」

「でへへへー・・・・・・ちょ、みんな順番守ってって、俺はどこにも行かないぜ」

パンッ

「・・・・・・あれ? 能登、高っちゃん達は?」

「先行っちまったよ。俺達も行こうぜ」

「ん〜・・・・・・なんか顔痛てー・・・・・・・・・」

いつまで経っても降りてこない春田に痺れを切らせた能登が、軽く頬を張ってやって無理やり春田を起こした。
能登の仕事はこれで終わった訳ではないので、最悪春田は置いていってもよかったのだが・・・・・・
まだ口止めをしていない春田を放っておいたら、後で何を言い触らすか分からない。
昼休みが終わるまでまだ時間はあるし、その間は能登も自分の仕事に集中したい。
このまま春田も付きあわせて、放課後にスドバで奢ってやれば十分口止めになるだろう。
そう決めて、能登は今日の仕事・・・・・・いや、今日も仕事に気合を入れた。
お伴はアホだ、いつもよりも注意しろ・・・・・・・・・と。




「なー、さっきの話だけどさ」

「・・・・・・何の話だっけ?」

「あれだよ、高っちゃんとタイガーとさっきの娘の修羅場で、タイガーが泣いたって話。
 あれって、あそこで終わりなのか?」

「あぁ、その話か・・・いや、あれには続きがある。っていっても、すぐ終わりなんだけどな。
 ・・・・・・泣き出したタイガーを高須があやしてそのまま帰っていった。弁当なんかの約束は、さっき高須が言ってたようなメールだろうな。
 ベソかいてたタイガーに気ぃ遣いながらアドレス交換してたのが印象的だった。異様すぎて」

「へー・・・よく見てんな〜そんな所」

「俺だってあんなもん見たくねぇんだけど、これに書かないとさ・・・・・・」

「・・・・・・なぁ、気になってたんだけどよ・・・そのノートって」

「いたぞ・・・・・・悪い、後にしてくれよ春田。それよりも急いで靴履き替えろ」

「外かー・・・・・・」


──────校庭──────
さっきまで大河に引きずられていたはずの竜児が、何故か一人で歩いている。
昼食を終えてテキトーにボール遊びに興じていた運動好きの生徒がチラホラいるが、自分達に接近してくる大橋の魔王に気付いた途端に
蜘蛛の子を散らすように逃げてしまった。
かの名プレーヤーの言葉を借りれば、今まで自分達が蹴っ飛ばして遊んでいた友達を置き去りにして。
離れた位置にいた生徒も、さり気なさを装いつつ校舎に近づいていく。
それもしっかりと見てしまった竜児は、一度深い溜め息を吐いて気を取り直すと、
目の前に転がってきたサッカーボールを手に取って今来た道を戻りだした。

「俺、今度の昼休みにサッカーやろうぜって高っちゃん誘ってみるわ」

「あぁ、その時は俺も混ぜてくれ。他の奴も誘って、なるべく大勢でやろうな」

メガネを外して上を向く能登と、逆に下を向いて髪の毛で顔を隠す春田。
竜児が目つきだけは異常に凶悪なせいでそれなりに苦労している事を知ってても、
実際に目の当たりすると、頬を伝う物を我慢できなかったらしい。
あまりにも竜児が不憫でならない・・・・・・が、いつまでも泣いている訳にはいかない。
こんな所で男二人が泣いていてもハッキリ言って気味が悪いし、このままでは竜児を見失ってしまう。
能登はメガネを掛け直し、春田は制服の袖で鼻水を拭うと、竜児が歩いていった方に向かって進みだした。

「・・・・・・それはそうと、タイガーはどこ行ったんだろ? 高っちゃんも何で表に・・・」

「・・・・・・さっきの会話の流れから勝手に推測すると、『な、なによ! 私にだってお弁当くらい作れるわよ! バカにしないで!』的な
 方向に話が行っちまったんだろ。あとは怒ったタイガーに追いかけられてる内に校庭に出てたって感じじゃないか?」

「あれだけ足速ぇし鼻も利くタイガーからよく逃げれんな〜高っちゃん」

「た、確かに・・・・・・」

竜児に見つからないようにしながら後をつける春田と能登。
まるで慣れているかのような自然な動きで、一定の間隔を空けながら竜児をつける能登とは対照的に、春田の動きは
思わず能登が(昔アニメで見たなぁ、『ササッ!』って口で言っちゃってる尾行とか・・・)と思ってしまうような派手なものである。
それでも自分が尾行されている事に気付いていない竜児は、体育用具室まで来ると手に持っていたボールをカゴに放り込んで・・・
そのまま用具室の中の片付けを始めてしまった。

(・・・・・・なんか高っちゃんって、掃除とかしてる間は感じ変わるよな・・・おっかねー方に)

(まぁこの程度はいつもやってる事だから気にすんなよ。それに二週間前なんか放課後に掃除してて閉じ込められたんだぞ、高須)

(あそこに一人で!? マジィ!?)

用具室なんてある程度物が散らばっていて当たり前だというのに、目に付いた物からテキパキと片付けていく竜児・・・
上機嫌な証拠に口元が歪んでいる。Vシネマなら活躍できそうな危ない笑顔だ。
そんな竜児を覗き見している春田と能登。
・・・級友が狭い茂みの中で身を縮め、更に密着するほど身を寄せ合って自分の様子を覗いていると知ったら、竜児はどう思うだろう・・・
それと・・・・・・竜児に気付かれる心配が少ないからといって、なにも茂みの中に隠れる必要があるのだろうか?
まぁ、「こういう時は茂みに隠れるもんなんだって」と力説するからには、春田の中にはそれなりの根拠があるのかもしれないが。

(確かあの時は・・・・・・櫛枝が高須に用があるから、部活が終わるまで待っててくれって言って、高須もOKしたんだよ)

(あ、それで待ってる間に掃除してたのか。
 それはそれでどうかと思うけど、ヒマ潰しにあんな所掃除しようなんて高っちゃん偉いな・・・でも閉じ込められるなんてなー・・・)

(いや、少し事情が・・・あの時さぁ、高須の奴はソフト部の練習見ながら櫛枝の事待ってたんだけど・・・・・・
 ・・・・・・隣にタイガーがピッタリくっ付いてたんだよ・・・・・・俺の言いたい事、分かるか?)

(俺には修羅場っていう単語くらいしか出てこねーんだけど)


(十分だ。櫛枝は高須と二人っきりで・・・っていうつもりだったんだろうけど、高須はタイガーも一緒だと勘違いしてたんだろうな。
 で・・・そんなの聞いてなかったタイガーは放課後、高須にくっ付いて校庭まで来た所で『・・・へぇ、みのりんが・・・そう・・・』と・・・
 あとは練習が始まって何分もしない内に、タイガーが乱入して櫛枝に詰め寄ってった)

(あいつら、仲良かったんだけどなぁ・・・・・・・・・前は・・・・・・)

(今はお互い吹っ切れたんだろ・・・それからはタイガーと櫛枝の追いかけっこだよ。グラウンド中を。
 『大河、ちょっと落ち着いて話し合おうよ!』『竜児に用ってなぁに、みのりん?』『・・・・・・・・・』『みのりーーーん!』とか
 大声で喋っててさ・・・他の部活の用具とか蹴飛ばしたりしてもお構いなしで、しかも二人ともそのまま外に出て行っちまったもんだから)

(だから櫛枝、こないだジャージで来てたのか。そりゃそのまま帰っちまったらしょうがねーよな)

(そう、それの前日だ・・・・・・だけど・・・・・・ちょっと待て、誰か来た)

話を遮って竜児の方を指差した能登は、春田が「だけど?」と口を開こうとした時には
既にノートを広げて書きやすいような姿勢を取っていた。
何が能登をそこまでさせるのだろう・・・・・・疑問に思いながらも、今の能登は竜児の方に集中していて聞くだけ無駄だろう、と
珍しく学習能力を発揮した春田も黙って竜児の方に目をやった。
そこには・・・・・・・・・

「よぅ、こないだはお互いついてなかったな」

「そうね、あんなのはもう二度とごめんよ」

春田と能登の目に飛び込んできたのは、特に気負いもしないで竜児に近づいていく女子という信じられない光景だった。
普通はさっき校庭に居た連中同様、竜児が近づいてくると気付いたら逃げるか避けるかするものを、
その女子は竜児が用具室を片付けていると分かると、逆に自分から近づいていったのだ。
そして二人の会話・・・まるで一緒に災難にでも遭ったようなセリフに、春田の頭に嫌な考えが過ぎる。

(・・・・・・能登・・・高っちゃんは一人であそこに閉じ込められたんだよな? そうだよな? そうだって言えよ)

(いいや。あそこで高須の手伝いをしてる娘いるだろ?
 あの娘ソフト部のマネージャーやってんだけど、あの娘と一緒に閉じ込められたんだよ。用具室に)

何も言わないで竜児の手伝いを始めた女子と、その事に特に声をかけるでもなく片付けを続ける竜児の行動を、逐一ノートに記しながら
能登は春田の方を見向きもせずに残酷な事実を告げる・・・・・・春田にとっては、だが。

(・・・・・・・・・・・・・・・・・・)

(落ち着けよ。そんな石っころ七個も並べたって神龍が出てこないのは、いくらお前がアホだって分かってんだろ)

(・・・・・・タッカラプト ポッポルンガ プピリットパロ)

(ポルンガだって出てこねぇよ・・・・・・そんなもん覚えてられるのに、何でallの綴りをarlなんて間違えちまうんだよ・・・・・・)

(・・・・・・高っちゃんばっかズルくね・・・何気に良い思いしまくってんじゃんよ・・・・・・俺と代わってくれよー・・・)

(本音が駄々漏れだぞ、春田。見苦しいからその辺にしとこうぜ・・・・・・)

(・・・・・・ギャルのパン)

(お・・・・・・そろそろ終わるみたいだな。ウーロン、ちょっと静かにしてろよ)

現実を認めようとしないで、今どき小学生でもしないようなアホな事をやっている春田に少々キツイ事を言いつつ、
動きがあればいつでも反応できるようにノートを広げていた能登の瀬線の先では、額に汗を浮かべ、埃で汚れた格好の竜児が。
一仕事終えたような爽やかな雰囲気と、一仕事殺り終えたような顔という様は見る人が見れば即通報するかもしれない。
もしくは、刑期を全うして久しぶりに娑婆に出てきたかと錯覚させるような絵面だ。
そんな竜児の後から、用具室から出てくる人影が。


「悪いな、手伝ってもらっちまって」

「いいのよ、練習で使う物がちゃんとあるか見に来たついでだし・・・・・・
 それに高須くんだって、当番でもないのに勝手に片付けてたんでしょ?」

「あぁ、まぁ・・・そうなんだけどな。なんとなくだ、なんとなく」

「なんとなくでお礼言われてもなぁ・・・本当、高須くんって見かけと全然ちがうよね。この間も・・・・・・」

(この間ってなに? 高っちゃん、あの娘と一緒にあんな狭い所に閉じ込められて一体どんな事を・・・やべ、鼻血出てきた)

(お前・・・・・・後でちゃんと教えてやるけど、少なくとも春田が思っている程過激な事は無かったぞ)

「俺が思っているよりはソフトな何かがあったのか?」と、鼻を押さえながらいろいろと考えを巡らす春田だったが、
いきなり能登の持つペンの動きが早くなった事で竜児達の方に向き直る。

「ねぇ・・・この間のことなんだけど・・・・・・」

「おんや〜? この間? どの間のことを言ってるのかな〜・・・・・・私にも教えてくれるかい? く・わ・し・く」

「ぇ・・・・・・ぶ、部長!? ・・・どうして・・・・・・だって、まだミーティングやってるはずじゃ・・・・・・」

「おぅ、櫛枝。珍しいな、こんな所で何やってんだ?」

竜児に向かって何事か言おうとしていたソフト部マネージャーの背後から、突然実乃梨が現れた。
これには春田もそうだが、能登も驚きを隠せない。
主に竜児の方に意識が集中していても、それなりに回りに気を配っていたつもりだったのに、あそこまで近づくまで気付く事ができなかった。
本当に実乃梨は突然出てきたのだ。
一瞬能登の脳裏に嫌な記憶がフラッシュバックする。

「ん〜? ソフト部のミーティングに来ない、いけないマネージャーを探してたんだよねぇ・・・・・・
 で、この辺探してたらこの高須くんレゲフンゲフン! ・・・みのりんレーダーがビビビッと反応してね、来てみたんだよ。
 そしたらなんと、こんな所で高須くんとお喋りなんかしてるんだもん。なんじゃこりゃーだよホント」

「・・・・・・だ、だけど部長? 私、今日のミーティングには出ないって確かに他の子に・・・・・・」

「それ、先週も言ってたよね? そんでもって休み時間になるとちょくちょくここで誰かを待ってるよね?」

「な・・・んで、それを・・・・・・」
 
「大橋の母は何でも知っとりますぞ。例えば私が大河に追っかけられてた間、そこの用具室で何があったか・・・とかもね。
 大変だったねーあれは。だけど良かったね、高須くんが身を挺して・・・っと、あんまり話すのもヤボってもんですな。
 ・・・・・・ミーティングをサボるのと関係あるんじゃないのかな〜って私は考えちゃうんだけど・・・まっさかねー?」

「・・・・・・うそ・・・だ、誰に聞いたんですか・・・・・・」

「誰だろうね〜・・・教えてあげるから、ちょっと部室まで行こう。部長としてもマネージャーに話があるからさ・・・・・・
 じゃ、高須くん。私ちょっくら大切な用事ができたからまたね!」

「お、おぅ・・・だけど櫛枝、もうすぐ授業始まるぞ」

「おぉっと、こいつぁ急がないと! ありがとう高須くん。それと・・・今度はソフト部の部室の掃除、手伝ってもらってもいいかな?
 すっごい迷惑だとは分かってるんだけど・・・どうしてかその日に限って、みんな都合つかなくってさ・・・
 私一人だとちょっと大変なんだ・・・・・・お願いしていい?」

「部長! 私いつでも空けときますから、だから」

「答えは今度でいいよ、高須くん? ・・・・・・あ、前みたいに大河に言わなくていいからね? ほら、迷惑だろうし」


自称大橋の母はその細腕からは想像できないような力で、マネージャーの肩に回した腕でもって彼女の身動きを封じた。
更に言い逃れなんて許さないとばかりに、早口でマネージャーの痛い所を突きまくった挙句、何をするつもりかは分からないが
ソフトボール部部室まで連行しようとしている。
ニコニコと笑っている実乃梨と、これから自分の身に降りかかる『なにか』を想像しているのか、
声も出せずに顔を青くするばかりのマネージャーを、申し訳無さそうに眺めている竜児・・・・・・
きっとミーティングに出ないで、自分を手伝った事を咎められると思っているのだろう。

そんな方向にしか考えられないから、周りの・・・・・・例を挙げるなら、能登が今一番被害を受けるハメに・・・・・・

そして竜児に掃除を手伝ってくれと頼む実乃梨だが、明らかに目的は掃除ではないだろう。明白すぎる。
自分一人では大変だから手伝ってくれ、だけど大河は呼ぶな・・・・・・と。
首を小脇に抱えられるような格好を強いられているマネージャーが即座に立候補しても、さらりと聞き流して・・・
それで本当に部室の掃除なんてする気があるのかどうか、非常に怪しい。
それに部員の都合がつかないというのも実乃梨がセッティングしたのかもしれないし、
部室の掃除をするなんて話自体、ソフト部部員にはされていない可能性もある。
要は、部室に誰もいない状況なら実乃梨的には問題無いのだから。
前日にでも明日の練習は休みとだけ言っておけば、それで準備完了だ。

「俺でよければいくらでも付き合うぞ、櫛枝。運動部の部室か・・・・・・掃除のし甲斐がありそうだな」

「ホントに? ありがとう! 高須くんなら、きっとそう言ってくれると思ってたぜ!」

「そんなに感謝される事じゃねぇって。それと・・・あんまり怒んないでやってくれよ、そいつの事。
 ミーティングを欠席したのにも理由があるだろうし、関係ないのに俺の事手伝ってくれてたんだよ」

「た、高須くん・・・! ・・・・・・ありがとう・・・私、うれし」

「オッケー! じゃあ後でね!!」

そんな事、当然考えつく訳もなく。
竜児は特に考える事もなく、その場で実乃梨の頼みを聞いてしまった。
まぁ、何もかも実乃梨の思い通りという訳にはならなかったが。
実乃梨はまだ何事かを話そうとしていたマネージャーを両腕で抱えなおすと、全部言い切らせる前に走り去ってしまった。

(・・・・・・行っちまったな、高っちゃんも櫛枝も)

(『・・・・・・櫛枝達が見えなくなった後、高須もその場から離れていった』と・・・そうだな、俺達も行くか)

(その前に能登・・・・・・)

(うん? ・・・あぁ、用具室に閉じ込められた高須の話か? ・・・・・・高須が行っちまうから、歩きながら説明させてくれよ)

(おう、分か・・・・・・ったったった〜〜っとぉ!?)

今まで茂みの中で事の始終を覗いていた春田と能登が、竜児達が去っていった事でようやく動き出した。
二人並んでズボッ! っと音を立てながら頭を茂みから出すと、辺りを確認して立ち上がる。
その際、能登に続いて歩き出そうとした春田がうっかり転んでしまい、慌てて手を土に付けて茂みの中で倒立したために
俗に『スケキヨ』と呼ばれる状態を陸で再現してしまったのを、たまたま通りがかった不幸な男子が見てしまい、
既に一年生から広まりつつある『手乗りタイガー、真っ昼間から痴情の縺れで大暴れ』に併せて
『用具室の前の茂みに現れる、苛めを苦に自殺した大橋高生の逆テケテケ』の噂が流行る事になるのだが・・・
当然この時の春田は知る由もないし、そのお化けの正体が自分だなんて分かるはずもなく。
おまけに2-C内で真っ先に広めようとしてまたアホ扱いされるのだが、それはもう少し後の話。
不幸な男子が泣きながら逃げた後、背中から転ぶと春田は何事もなかったように立ち上がり、急かす能登にくっ付いて歩き出した。


                             ・



「あ〜あ〜、ドロ付いちまったよ・・・・・・そうそう、何があったんだよ? てか、櫛枝も知ってるっぽかったんだけど」

「・・・・・・タイガーと櫛枝が外に出た後、さっき一年にしたみたいに、高須がグラウンドを使って練習してた連中に頭下げに行って
 おまけに後片付けも買って出たんだよ・・・当然そんなの『ヤンキー高須』には怖くてさせられないって感じだったんだけど
 高須も譲らなくってさ・・・タイガーと櫛枝の責任を全部肩代わりしたっていうか・・・・・・」

「・・・・・・もう高っちゃんが親父みたいだよな、タイガーの・・・タイガーの父ちゃん? 竜なのにな」

「まぁ、最終的には用具室の物だけを返しに行ってくれって事で話がついて・・・それに付いてったのがあのマネージャーの娘だ。
 最初はスッゲー嫌そうにしてたんだよ・・・・・・たらい回しだった用具室の鍵、押し付けるみたいに渡されて」

「それ、さっきと全然反応が違う気がすんだけど・・・・・・」

「話は最後まで聞けよ。用具室に着いたら、例の如く高須の悪い癖っつーか・・・嬉々として中を掃除し始めて・・・・・・
 あのマネージャーの娘も最初は困惑してたんだけど、高須が大真面目に掃除してるのだけは伝わったのか、ビビリながらも手伝い始めて・・・
 そしたらイタズラのつもりか知らねーけど、用具室の扉閉めてった奴がいてよ・・・運の悪い事に、扉には鍵が付けっ放しの錠がな・・・・・・
 しかもそいつ、鍵かけた後にその鍵持ってっちまった」

「げ・・・高っちゃんが中に居るって知っててやったのか? そいつ。恐いもの知らずだな・・・つーかさ、見てたんなら止めろよ・・・・・・」

「お、俺にもいろいろあんだよ・・・鍵自体は見回りに来た事務員が持ってたから、盗んだ奴が返したんだろうけど
 大体二時間くらいは高須とあの娘、一緒にいた事になるな。あの暗くて狭い用具室の中に、二人っきりで・・・・・・春田、鼻血拭けよ」

「うぉっと・・・・・・なぁ、お前ニ時間も何してんの? まさかそれ・・・その間もノートつけてた訳じゃ」

「言うなよ・・・悪いと思ってんだよ、俺だって・・・何度も何度も人呼んで来ようと思ったんだけど、その度にこれが目に入って・・・・・・」

「ちょ、おい・・・・・・高っちゃんだって能登の事、別に怨んでねーって。だから泣くなよ」

「・・・悪い・・・あぁ、話の続きだったな。確かあの後・・・ギリギリまで近づいて用具室の中に聞き耳立ててたら、あの娘の悲鳴が・・・・・・
 ・・・何かと思ったら、棚の上から落ちてきた荷物の下敷きになりそうだったあの娘を、高須が庇ったっぽいんだ。
 少なくとも、声と物音だけだと俺はそう判断した・・・その後は見回りが助けに来るまでずっとあの娘、高須の事心配しててさ。
 高須もけっこう打ち解けたみたいだな、あの様子だと」

「へー・・・・・・高っちゃんカッケー」

「そうだな・・・多分胸くらいは触っちまったんだろうけど、咄嗟に庇うなんてカッコいい事したんだから別にいいよな」

「へー・・・・・・いい訳ねぇだろ。どういう事だよそれ・・・・・・」

「俺も実際には見てないから何とも言えないけど『・・・・・・あ、ありがと・・・だけどその・・・手が当たってて・・・・・・』って聞こえたんだ。
 ・・・・・・胸じゃないんなら相当マズイし、逆にあの娘の手が高須のどっかに当たってたらなおマズイだろ・・・・・・
 だから俺は『高須が彼女の胸を触ったかもしれない』ってこれに書いた・・・俺はウソは書いてないからな、ちゃんと『かもしれない』って」

「誰もそこまで・・・・・・だけどいいよなぁ高っちゃんはさ・・・そんなマンガかドラマみたいなシチュでよ、女の子と・・・」

「俺は全然羨ましくないけどな・・・高須達が用具室から出てきて、事務員にいろいろ説明してやっと帰った後、俺も帰ろうとしたんだけど・・・
 さっきまで俺等が隠れてた茂みの傍に木が立ってたろ・・・その木の上から誰かが降っててきたんだ・・・・・・」

「・・・・・・・・・は、はぁ? お前いきなり何を」


「そいつらはこう言いながら、どっか行っちまったよ・・・・・・
 『まったくあのバカ、とっとと帰ってればいいのに・・・ケガまでして、おまけにまた増やして・・・全部みのりんのせいだからね』
 『私のせいじゃなくて大河が・・・もういいよ、その話はやめよ? それよりも中の様子・・・本当に全部聞こえたの、大河?』
 『もちろんよ。みのりん所のマネージャーが竜児にベタベタ触ってた音までバッチシね・・・・・・そっちの事はやってくれるんでしょ?』
 『う〜ん・・・部員だったら校外500週くらいはさせるんだけど、マネージャーだしなぁ・・・まぁ、いろいろ考えとくべさ』
 『じゃあ私は竜児を閉じ込めたガキとっ掴まえて、よぉくお礼しとくわ』
 『オッケーっくちゅん・・・さ、さみ〜・・・あーあ、制服どうしよ・・・』ってな・・・どうだ? こんな事されてても、まだ高須が羨ましいか?」

「あ、あああ、あいつら帰ってたんじゃねーの!? てか何で木の上なんかに!? ・・・・・・い、いつから居たんだよ!? いつの間に!?」

「知るかよ・・・だけど本当にいたんだよ、櫛枝もタイガーも・・・しかもタイガー、高須達が中で何してたか全部聞いてたって言ってたぞ・・・
 ありえねーだろ? あんな離れた位置から聞いてたのもそうだけど、もう何かいろいろとさ。
 ・・・・・・それ考えてたら、家帰っても眠れなかった・・・いや、正直に言うとスッゲー怖くって・・・・・・」

「能登・・・・・・じゃあさっき櫛枝があの娘に言ってた事って・・・マジだったのか・・・・・・」

「・・・俺はこの話はお前にしかしてないぞ。付け加えると、高須は『恥ずかしいからあんまり他人に言わないで』ってあの娘に言われてた。
 ・・・・・・タイガーのやつ、ホントに聞こえてたんだろうな・・・・・・」

「・・・・・・もうタイガーのいるとこで下手な事言えねー・・・・・・盗聴器よか恐ぇよ、あいつ」

──────自販機前・階段──────
付かず離れずの距離で竜児の後をつけていた春田と能登。
その顔には、とても昼休み中に出るような物とは思えない程の疲労の色が・・・・・・特に春田の方はあからさまに顔に出ている。
・・・元々、自分の失言からとはいえ教室中から向けられる視線から逃れたかっただけであり、能登の様に何かに追い立てられる程
竜児の行動に興味のない春田としては、能登の話を聞く度に首を突っ込むのを本気で止めたかった・・・だが・・・・・・

「・・・・・・あぁ、やっと今日の大仕事が・・・・・・これで高須が何もしないで帰ってくれれば、明日までは休める」

ここで能登と別れても特に何とも思われないだろうが、春田の方には自分だけ逃げたような、そんな後味の悪さだけが残る。
どうせもう昼休みも長くない。後は竜児にバレないようにしながらつけてれば、それで自分は解放される。
能登はその後も竜児を追いかけるんだろうが、さすがにそこまでは・・・・・・
疲れているせいか、顔を俯かせながらも足だけは動かして、そう考えている春田。

現実はそんなに甘くない。
この言葉を、春田は数時間後に身を持って知ることになる。

一方、今日の大仕事が終わりを見せ始めて、少し緊張の糸が緩んだのか。
能登も竜児から一瞬目を離し、今日の竜児の行動がビッシリと書き込まれているノートのチェックをしていると。

「よぅ、川嶋。また一人でお茶か?」

「・・・・・・そう言う高須くんは珍しく一人なんだ。
 あんまりないよね、クソチビと一緒じゃないのって。痴話ゲンカでもしてるの?」

昼休み中、自販機の間で一人でお茶していた亜美に竜児が声をかけた。
能登と春田は慌てて階下に下がって、今まで同様竜児にバレないように注意しながら聞き耳を立てる。

・・・・・・さっきから亜美に声をかけてくる男子は何人もいたが、二言目には『じゃあね』と言っては追い返していたのに、
何故か亜美は竜児とだけは会話を続けている。
まぁ、下心丸見えで近づいてきて、膝を抱えて座っている亜美の前に来ようとするような奴ばっかりだったのも
原因の一つかもしれないが・・・・・・

「本当に減らねぇ口だな・・・・・・まぁ、もう慣れたけど」

「亜美ちゃんの口は本当の事しか言ってないも〜ん」


竜児が来た途端にからかいモード全開で竜児をいじり回す亜美の顔は、さっきまで静かにお茶を飲んでいた時の暗い物とは打って変わり
花が咲いたような笑顔になっている。
おそらく竜児は自分をからかって楽しんでいるだけだろうとしか考えていないが、周りはそうは思わないだろう。

(俺、そろそろどうにかなりそうなんだけど)

(大丈夫だ。人間、自分で思ってるよりも案外持つもんだぞ? そうじゃなきゃあ、今頃俺がどうにかなってる)

(な、なんだかやたら重いな・・・・・・)

自販機の前で、普段は表に出さない亜美相手に普通に会話している竜児を、そこに居るものとして壁越しに睨んでいる春田。
竜児達が見える所まで行くと自分達も見つかってしまうため、良い雰囲気をぶち壊しに行きたいのを我慢して、
壁に向かって呪詛みたいにぶつぶつ「俺と代わってくれ」と唱えている。
「憎しみで人が殺せたら」とはよく言うが、春田の場合は「憎しみで竜児と入れ代われたら」という程度だろう。
それ程羨ましがっているのも事実だが。
能登の方は特に竜児を羨ましがるでもなく、聞こえてくる声をただただノートに書き写す作業に没頭している。

「・・・・・・でよ、急にこっちに来たと思ったら大河のやつ、いきなり蹴り喰らわしてきて・・・・・・」

「それ、どうせ高須くんが悪いんじゃないの? チビ虎の肩持つ訳じゃないけど」

自販機でコーヒーを一本買った竜児は、昼間の大河との事を愚痴交じりに亜美に話していく。
その都度辛辣な事を言われても、元から亜美の口の悪さを知っている竜児は大して気にするでもなく、普通に会話を続けていると

「・・・・・・ねぇ、高須くん? そんなにタイガーが鬱陶しいならさ、気晴らしに亜美ちゃんと」

「高須くん、なにしてるの? もうすぐ授業が・・・・・・あら・・・・・・」

「た、高須くんいたんだ・・・・・・ね、ねぇ、亜美ちゃん知らない?」

「おでかけ・・・・・・・・・な、奈々子? 麻耶? いつからそこに・・・・・・」

「・・・・・・お邪魔だったかしら? ごめんね、亜美ちゃん」

「あ、亜美ちゃんいたいた。こんなとこいないで、早く教室戻ろうよ」

(奈々子様と木原じゃん。亜美ちゃん呼びに来たのかな)

(・・・・・・・・・・・・・・・・・・)

もう昼休みも終わるというのに帰ってこない亜美を探しに来た奈々子と麻耶が、竜児と亜美の会話に割って入った。
申し出を中断された亜美は、言い切れなかったセリフが竜児ではなく奈々子に聞かれたと分かると、恥ずかしさから軽く頬を染めている。

そして竜児と亜美の会話に割って入ってきた麻耶と奈々子の声を聞いた瞬間、何故か能登の様子が一変した。
ペン先をブルブルと震わせ、広げていたノートを落としても拾おうとせず、ダラダラと汗まで流しだした。

「香椎達こそ、こんなとこで何やってんだ?」

「あたしも麻耶も、亜美ちゃんがあんまり遅いから呼びに来たんだけど・・・来ない方がよかったわね」

「・・・・・・何でだ?」

「ふふ・・・あたしじゃなくて、亜美ちゃんに聞いてみたら?」

「ちょっと奈々子! ・・・・・・へ、変なこと言ってないでさ、もう教室戻らない? 始まるんでしょ、授業」

「てか、あたしらが亜美ちゃんにそれ言いに・・・・・・」


竜児と奈々子の会話に、今度は慌てて亜美が割って入る。
風邪でも引いたんじゃないかと竜児が思ってしまうほど、さっきよりも顔を赤くしている亜美は立ち上がって自販機の間から抜け出ると、
竜児の方は見ようとしないで、奈々子と麻耶の間に入って教室に戻ろうとする。
竜児に一言『それじゃあね』と言おうと振り返った奈々子と、まだ苦手意識があるのか、
なるべく竜児から離れていた麻耶が階段の縁から足を滑らせたのは殆ど一緒だった。

「きゃ・・・・・・」

「危ねぇ!!」

カラン、と・・・次いで、何か重たい物が落ちる音が階段に響く。
竜児が飲み終えた缶コーヒーを落とした音と、麻耶ごと竜児が階段を滑り落ちていった音。

奈々子や麻耶よりも一歩先を歩いていた亜美と、竜児の方を向いていた奈々子は
階段から落ちそうになる麻耶を助けようと、咄嗟に上げた竜児の声に一瞬硬直する。
その一瞬の間に竜児は駆け寄って麻耶を引っ張ろうとするが、逆に自分もバランスを崩してしまい・・・・・・
引き戻すのが無理だと分かると、竜児は麻耶を抱きしめて精一杯体を捻り、自分を下敷きにして階段から落ちていった。
振り返った亜美と奈々子の目には、踊り場に仰向けで倒れている竜児と、竜児の上で目を瞑っている麻耶の姿が写る。
あまりのショックに、亜美も奈々子も起こった事を受け入れられずに動けなかったが、
竜児の体が揺れているのが見えると弾かれたように、駆け足で階段を降り出す。

「痛ってぇ・・・・・・木原、大丈夫か?」

「・・・・・・・・・ぇ・・・・・・ぁ・・・高須くん・・・・・・? ・・・・・・!? ちょ、ちょっと!? ドコ触ってんのよ!」

「ケガは・・・・・・無いみたいだな。よかった」

「ひ、人に抱きついといてケガとか、なに言って・・・・・・あれ・・・?」

階段の上から亜美と奈々子が降りてくるのが見えて、やっと麻耶は自分が階段から落ちた事に気がついたようだ。竜児と一緒に。
その割には、自分の体に痛む所は感じられない・・・だけど、今も下敷きになっている竜児は痛がってなかったか?
抱きつかれたままそろそろと目線を動かすと、心配そうにこっちを見ている三白眼という珍しい物を麻耶は見た。
その目を見た途端勝手に体が逃げ出そうとするが、ガッチリ竜児に抱きしめられていて逃げ出せない。
だけど、じっとこっちを見つめている竜児と目を合わせていると、自分を心配しているのが伝わってくるようで・・・・・・

「・・・・・・ぁ・・・・・・」

「高須くん、大丈夫!?」

「麻耶、ケガは・・・・・・それに高須くんも・・・・・・」

麻耶が何か言う前に、階段から降りてきた亜美と奈々子が竜児達の下に寄って来る。
慌てて竜児から離れた麻耶は立ち上がり、いろいろと聞いてくる奈々子から竜児が自分を助けてくれたのだと聞かされると
亜美と一緒になって竜児の心配をしだした。

「あ、あたしはどこも痛くないんだけど、高須くんが・・・ど、どうしよう、あたしのせいで・・・・・・」

「高須くん、どっかケガしたの!?」

「いや、俺もそんなに大げさなもんじゃ・・・木原こそ、ホントに大丈夫なのか? どっか打ってたりとかしてないか?」

「え・・・・・・う、うん・・・あたしは、その・・・・・・高須くんが守ってくれたじゃない? ホント、マジでどこも痛くないから。
 ・・・さっきはごめんね・・・・・・目を開けたら高須くんが目の前にいて、それで・・・助けてもらったのに、あたし・・・」

「気にしてねぇよ。そんな事より、ケガが無くてなによりだ」

「・・・・・・ありがと・・・・・・」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」


取り乱す亜美に答えながらも、立ち上がった竜児は麻耶を心配してケガがないか聞く。
妙に赤くなりながら答える麻耶の顔が、竜児のセリフで更に赤くなっていく。
・・・・・・半分スルーされた気になっている亜美は、別の意味で顔を赤くしている。
それでも表情筋を総動員させて心配そうな顔を作っている辺り、見上げたモデル根性としか言いようがない。
たまにこめかみや口元がヒクついているが、竜児と麻耶は全然気付いていない。
・・・今気付いているのは、竜児から麻耶を借りてお説教中の奈々子くらいだ。

「もぅ・・・階段から落ちるなんて、子供じゃないんだから・・・あんまり心配させないでね、麻耶」

「ごめん・・・だけど、そんなに怒んないでよ。あたしだって反省してるんだから・・・今思い出すと恐かったし・・・・・・」

「そぅ・・・けどよかったわね、高須くんに助けてもらって・・・・・・」

「そ、その話はもうやめてよ、奈々子・・・・・・あ! もう授業始まるじゃん。
 ほらほら、亜美ちゃんも奈々子も急いで急いで・・・・・・高須くんも、行こ?」

「おぅ・・・・・・川嶋? どうしたんだ?」

茶化してくる奈々子から逃げようと、麻耶は全員を教室に戻るよう急かす。
既に昼休みは終わっているし、自分も麻耶も保健室に行くほどのケガもしてないので授業には差し支えない。
早く教室に戻らないと授業に間に合わない・・・
そう思っている竜児の腕を引っ張った亜美は、無言で竜児の腕を抱きしめると、そのまま竜児に並んで歩き出した。

「だって〜、高須くん階段から落ちたんだよ? 肩ぐらい貸してあげるわよ、亜美ちゃん超優しいから」

「そんなに大した事ないし、もう痛くねぇから平気だって」

「あ、あたしも! 元はと言えば、あたしが悪いんだし・・・教室まで肩貸してあげる」

「いや、だからいいって・・・・・・木原もそんなに気にすんなよ。自分だって危なかったんだから」

「・・・・・・う、うん・・・いや、だけどあたしも」

「ねぇ高須くん、いつおでかけしよっか? 亜美ちゃん、買いたい物が色々あって・・・・・・そうだ! 高須くん選んでくれない?
 亜美ちゃん前から指輪とか欲しくってぇ・・・・・・どうせならペアリングにしちゃおっかな? そっちの方がらしくていいよね」

「川嶋も、さっきから何言って・・・・・・」

「あ、お金なら亜美ちゃん出したげるから気にしないでいいよ? 大切にしてくれればそれでいいの・・・
 だけどね、左手でも右手でもいいけど、ちゃんと薬指に付けててくれないと亜美ちゃん別れちゃうんだから。いい?
 やっべ、今から超楽しみなんだけど・・・いつ行こっか、高須くん?」

「だから何を・・・・・・」

「亜美ちゃん! それあたしも連れてって! いいでしょ? ね? いついつ?」

「ふふ・・・高須くん、モテモテね・・・麻耶も行くんなら、あたしも行こうかな」

「ちょ、ちょっと!? 麻耶も奈々子もなに勝手に・・・・・・」

「・・・・・・なぁ、本当に遅れそうだからダベってないで早く行こうぜ」

勝手にいろいろと予定を決めていく亜美と、そんな亜美に負けじと、北村の事も忘れて張り合う麻耶に、クスクス笑っている奈々子。
竜児を中心に、亜美達は盛大に騒ぎながら教室へと帰っていった。
・・・・・・階下で聞き耳を立てていた春田は、その場に両膝と両手を着いた体勢で、ブツブツとまだ何事か唱えている。



「・・・・・・高っちゃんばっか高っちゃんばっか高っちゃんばっか高っちゃんばっか高っちゃんばっか高っちゃんばっか・・・・・・
 なあ、もう高っちゃんをスケコマシの容疑で逮捕してもらおうぜ。嘆願書でも出せばきっと・・・・・・能登? どうした?」

「え? ・・・・・・あ、あぁ・・・悪い、少し考え事してて。高須達、先に行っちまったのか・・・・・・何してんだ、行くぞ。俺達も遅れんだろ」

「お、おう・・・・・・だけど、ちょっと」

「くだらねぇ事言ってんなよ・・・これでいいだろ。早くしないと欠席扱いだぞ」

「あんまりじゃねー・・・・・・てか、次の授業ってゆりちゃんだからそれは無いんじゃ・・・あっ待てよ、能登〜〜〜・・・・・・・・・」

いつも通りバカな事を言っている春田に、特にツッコミを入れるでもなくノートを脇に立ち上がった能登。
「そんな罪状ねぇだろ。気持ちは分かるけど、泣いてないで行くぞ」と、厳しい中にも自分を慰める言葉を期待していた春田は、
ボーっとしていると思ったらいきなり冷たい言葉を吐いて先に行ってしまった能登を追いかけていった。

昼休みの間中竜児を追い掛け回し、ようやく戻ってきた能登と春田が教室の戸を開けて最初に見たのは、
散々探した挙句に亜美と腕を組んで戻ってきた竜児にブチギレて、独身の制止も聞かずに暴れている大河だった。

能登は溜め息を一つ吐くと例のノートを広げる。
春田は戸を開けてすぐに、大河がぶん投げた椅子の直撃を喰らって倒れている。
そんな春田に気付いているにも関わらず、無視して能登は竜児の方に集中する。
・・・・・・能登以外に誰も気付いてくれない上に、能登からも放置された春田は、床に転がったまま目から水を流し続けていた・・・・・・

・・・・・・その日の5限は、暴れる大河を何とかしてほしいと竜児に泣きついた独身を見て、更にキレて暴れた大河のおかげで丸々潰された。
竜児に抱きつきながら「高須くん・・・おねがい・・・・・・ん・・・・・・」と言って目を瞑っていた独身に、
本当に大河をどうにかしようという気があったのか甚だ疑問ではあるが、結果的に大河の神経を逆撫でしただけなのは間違いない。
実乃梨と亜美の二人がかりで押さえつけられ、それでも大河は竜児と、竜児に抱きついている独身に向かってズンズン歩いていく。
竜児に頼まれてからやっと動いた北村も、大河への抑止力には成りえずに右の一撃で沈んだ。
・・・・・・最終的にこれ以上暴れると晩飯を抜くと竜児に言い渡され、それで怯んだところを実乃梨が全力で取り押さえ、
亜美が持っていたお菓子を竜児が手ずから与えてやって、やっと大河は動きを止めた。
竜児の手ごと食い千切りそうな勢いでお菓子を平らげ、ふて腐れながら「これでいいでしょ・・・晩ご飯抜いちゃヤだ・・・」と言う大河に、
今も床で咽び泣く春田と気絶している北村以外の全員が安堵していると、感謝のつもりだろうか。
独身が「すごいわ高須くん! 先生、とってもうれしい・・・・・・」とまた竜児に抱きつき・・・・・・
大人しくなる前よりも怒気を撒き散らす大河と、いい加減独身の目に余る行動に我慢できなくなった実乃梨と亜美等の手によって
独身は教室から連れ出され・・・5限目が終わる直前になって戻ってきた。
・・・・・・・・・大河達だけ・・・・・・・・・

結局5限の間に戻ってこなかった独身は、HRには何事も無かったように現れて、普通に挨拶だけしていった。
事情を知らない春田と北村以外の生徒は露骨に安心していたのに対し、大河達はどうという顔もしていなかったが・・・
・・・・・・一体何があったのだろう。
それを疑問に思う者は多くいたが、誰も聞く事はできなかった。
自分達が独身と同じような目に合わされたら、無事に帰ってこれるかどうか分からないから・・・・・・




「能登のやつ、すぐに終わるとか言ってたくせに・・・・・・」

──────放課後──────
既に大半の生徒は帰るか部活に行ってしまい、どの教室にも人気が感じられない。
人が居ないだけで全く雰囲気が異なる廊下を、春田は一人教室───2年C組の教室まで歩いている。


HR終了後、てっきり竜児を追いかけるものと思っていた能登が、スドバに寄っていこうと春田を誘った。
しかも能登の奢りという。
速攻でOKを出した春田に『やる事があるから』と、校門で能登が来るのを待っていた春田だったが・・・・・・
いつまで経っても能登がやって来ない。
なんべんもケータイにかけてみても、呼び出し音が鳴るばかりで能登は出ない。

「いつまで待たせんだよ・・・・・・」

痺れを切らせた春田は、多分教室に行けば能登が居るだろうと当たりをつけて呼びに来たのだ。

「ったくよー・・・これでやっぱり奢りじゃないとか言われたらどうすりゃ・・・・・・あん? 声?」

ブツブツと文句を言っている内に、教室は目と鼻の先という所まで歩いていた春田だったが、突然その歩みが止まった。
能登くらいしか残ってないだろうと思っていた教室内から、人の・・・男と女の声が聞こえてきたから。

(誰も居ないはずの教室に男と女が二人で・・・男の方は能登だよな? ・・・まさかあの野郎、俺に奢る約束も忘れて・・・・・・!)

声だけで男の方を能登だと判断した春田は、能登が自分との約束をすっぽかして女と・・・・・・
そう考えて、なるべく音を立てないように教室まで近づいていき、戸を少しだけ開けて中を覗く。
もし本当に能登が誰かと乳繰り合っていたら、それはそれで気まずいし・・・・・・
普通に女子と談笑してるだけなら、そのまま引きずっていこう。こんな時間まで待たせやがって、と。
そのつもりで中を覗いた春田だったが・・・

(・・・・・・眩し・・・何してんだあいつ?)

春田の目に最初に入ってきたのは、窓から入ってきた夕日と、次いで座っている女子と・・・・・・
その女子の前に正座させられている能登という、春田が考えていたような物とはかけ離れた物だった。
まさか本当に能登が女子と・・・・・・と思っていた訳では無いが、別の意味で信じられない物を見てしまった春田は教室に入ることも
忘れてポカーンと中を見ている事しかできない。
そんな春田が覗いていると、正座したままの能登は椅子に座って自分を見下ろしている女子に向かって口を開いた。

「あの・・・・・・時間も時間だし、俺も人を待たせてるんで・・・・・・」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

「えーっと・・・だから、か、帰っても・・・・・・」

「・・・・・・そうねぇ」

逆光でよく見えないが、その女子は考えるような仕草をした後、机の上に手を伸ばして何かを取った。
どうやらノートみたいだ。
この時点で春田の頭にとてつもなく嫌な予感が・・・・・・
これ以上見ているのはマズイ、今すぐ逃げたい・・・だが、どういう訳か目を離せない。

手に取ったノートをペラペラと捲っていき・・・目当てのページを見つけると、女子はじっとそれに目を通していく。
まだ顔は分からないが、それでも段々と目が慣れてきた春田は、そのノートがさっきまで能登が持ち歩いていた・・・・・・
竜児の行動が端から端までビッチリ書き込まれているあのノートだと完全に確信する。
能登が言っていた用とは、目の前の女子にあのノートを渡す事だったようだ。

「・・・・・・今日もご苦労さま、能登くん。いつも助かるわ」

「じゃ、じゃあ今日はもう」

「だけど・・・・・・うふふ・・・・・・」


女子はノートを能登に向けて見せると、ある部分を指差す。

「・・・・・・この間は生徒会の書記さん・・・その前は家庭科部の部長・・・もっと前はスーパーのパートさん・・・・・・」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

「不思議ね・・・あんなに恐い顔してるのに・・・今度は下級生にソフト部のマネージャー・・・・・・それに麻耶まで・・・・・・
 あたしもメイド服着て、『先輩、これどうぞ』ってタオルでも渡してみようかしら・・・ギャルメイクで」

「それはちょっと・・・」

(それどんなイメクラだよ・・・・・・行った事ないけど)

想像してみる春田だが、あまりのミスマッチぶりに思わず噴出しそうになって慌てて口元を押さえる。
能登も似たようなものを想像したのか、声が少し震えている。
そんな二人に反して意外と乗り気だったのか、女子は能登に向かって「そぉ?」とだけ言うと、また黙ってしまった。

時間だけが過ぎる中、長時間正座の姿勢を強いられて限界を迎えたのだろうか。
体を揺すりだした能登が、さっきから黙ってしまっている女子に対して再度尋ねる。

「お、俺もう帰ってもいいか? ていうか帰りたいんだけど・・・・・・」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・?」

(・・・・・・・・・なんだ?)

女子は無言のまま立ち上がると、能登に背を向けて窓際まで歩いていき、
丁度真ん中の窓に手を添えると、能登の問いには答えずに逆に問いかける。

「・・・・・・ねぇ、能登くんに高須くんのことお願いするようになって、どれくらいになるかしら」

「・・・一月か、一月半か・・・・・・二ヶ月は経ってないはずだけど」

「そぅ・・・その間、そのノートにあたしの名前を書いたことは・・・ある?」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

「・・・・・・そぅ・・・・・・」

どうやら能登は一月半前には、竜児を追っかけてはあのノートに竜児の行動を記していたようである。
しかもあのノート・・・竜児の女性関係を綴ったノートに、おそらくはノートを渡しただろう女子の名前は入っていないようだ。
足の痺れであれだけ震えていた能登が、更にガタガタと震えて黙っている事からも分かる。
それはとてもよろしくない事なのだろう。

そもそも、週一のペースであのノートを持ち帰ってる目の前の女子が、ノートの内容を知らないはずが無い。
それでもわざわざ聞いてくるとなると、ひょっとして自分に責があると言われるんじゃ・・・・・・
そんな能登の思考が伝わったのか、クスリと笑った女子は安心させるように、優しい口調で能登に話しかけた。

「べつに能登くんのせいじゃないんだから、気にしなくていいのよ・・・・・・
 やっぱり、あたしからも行かなきゃだめよね・・・待ってるだけじゃ、麻耶にも置いてかれそうだもの」

「そんな事は・・・木原は北村の事が」

「うぅん、それだけじゃない・・・タイガーも櫛枝も亜美ちゃんも、どんどん高須くんを追い詰めてるし・・・
 さっきの人達以外にも、まだいるかもしれないし・・・独身だって怪しいのよ? 目つきで分かるし、今日だってあんなに・・・」


指折り数えて、竜児を狙ってると思われる人物を挙げていく女子・・・・・・
興奮しているのか、能登のかける声を無視しているのにも気付かないでいる。
そしてとうとう・・・・・・

「・・・・・・決めたわ。明日、タイガーが高須くんにお弁当作ってくるんでしょう・・・?
 あたしも作ってくるわ、お弁当。喜んでくれるかな・・・・・・高須くん・・・・・・」

振り返った女子。
能登は元より、逆光の中でも十分に目の慣れた春田にも、今度はしっかりとその顔が見えた。

「だけど、奈々子さ」

「奈々子様ァッ!?」

「なっ!? ・・・・・・は、春田ぁっ!?」

「あ・・・ヤベ・・・・・・」

「・・・・・・あら・・・・・・」

───能登に竜児の行動を監視させていたのは、能登と春田同様、学生生活の殆どを木原麻耶と一緒に過ごす生徒・・・・・・

香椎奈々子だった。

奈々子はうかつにも声を出してしまった春田に気付くと、能登に『おねがい』して春田を捕まえさせた。
必死に逃げようとしていた春田だったが、『おねがい』されただけにも関わらず死に物狂いで追いかけてくる能登の手によって、
あともう少しで外という所で捕まってしまった。
・・・・・・たとえ家に逃げ帰る事が出来たとしても、能登は春田を無理やりにでも教室に連れ戻していたことだろう。
それくらいはしそうな顔をしていた。

「俺だってこんな事したくねぇんだよ・・・だけど頼むよ、俺を助けると思って・・・な? 俺達、友達だろ?」

「いやだあああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ・・・・・・・・・」

教室に辿り着くまで、春田の絶叫が止むことは無かった・・・・・・・・・

「うふふ・・・・・・春田くん、覗き見はいけないわよ。えっちなんだから」

「・・・・・・高っちゃんにするのはいいのか?」

「まぁ・・・・・・能登くんったら、喋っちゃったのね・・・クスクスクス・・・やぁね、もぅ・・・」

教室まで連れ戻された春田に、開口一番にそう言う奈々子。
春田の、聞き様によっては舐めたような返答にも心底楽しそうな顔をしている。機嫌も良いのか時折含み笑いまでしている。
対照的に、能登の顔は引き攣りすぎてえらい事になっている・・・
今頃になって春田を連れ回すんじゃなかったと後悔しても、後の祭りだというのに。

「・・・・・・仕方なかったんだ。こいつが勝手に付いてきて、だから仕方なく・・・・・・」

「あら、いいのよ? 怒ってる訳じゃないの。ただ、ちょっとビックリしちゃって・・・ねぇ春田くん」

「な、なんだよ・・・い、痛くしないで・・・・・・」

「ふふ・・・そんなに恐がらないで。ヒドいことなんてするつもりないわ・・・ちょっとこれ見てくれる?」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」


無理やり椅子に座らせられている春田に、奈々子はゆっくりと近づいていき、一冊の・・・例のノートを見せつける。
何をされるか内心ビビリまくりの春田が待ってると、奈々子はそのノートをパラパラと捲っていく。
意味が分からずに交互に奈々子とノートを見ている春田に、後ろで春田を押さえつけている能登が説明を入れた。

「・・・そのノートが高須の素行調査っていうか・・・お前にも分かるように言うと、観察日記だって事は分かるよな?」

「そりゃあ、まぁ・・・・・・それが何だよ」

実際には観察よりも監視日記みたいなものだろう。もしくは、浮気調査の報告書。
さしづめ奈々子は、浮気性の夫である竜児を、能登を興信所の所員に仕立てて見張らせてるようなものだろうか。

「・・・・・・それを書いてんのが俺だって事も、ちゃんと分かるよな?」

「だから、それが何なんだよ・・・・・・」

変な事を言う能登だ。そんなの、今日の昼休みだけで嫌というほど知っているのに。
春田がそう思っていると、『パン』っとノートを閉じて、奈々子が春田に告げる。

「春田くんには、能登くんのお手伝いを頼みたいの」

「・・・・・・はぁ・・・」

訳が分からず、生返事した次の瞬間

「・・・はあぁぁぁぁっ!? なんで俺が!?」

当然拒否しようとする春田・・・・・・あの一時間少々の尾行でも、今もって回復しきれない疲労とストレスを味あわされている。
この上、あんな光景を毎日見て、それを詳細に記録していくなんてマネ絶対にしたくない。

「だって・・・能登くんたらずっと『辞めたい』『辞めたい』って言うんだもの・・・・・・だけど、辞めてもらう訳にいかなくって」

「だからって、何で俺がそんな・・・・・・」

「ちょ、ちょっと・・・俺もそんな風には・・・ただ、そろそろ高須にも申し訳ないしって・・・・・・」

「だからね・・・二人一緒ならその分負担も少なくて済むでしょう? 春田くん、お願いできないかしら・・・・・・?」

申し訳無さそうな顔をしていながら、言っている事は激しく一方通行である。
それでも、女の子の頼み事に何かしらの見返りがあるかも・・・と心が揺さぶられそうになる春田だったが、これはさすがに度が過ぎている。
もしかしなくても犯罪だし、昨今のプライバシーを守り、それを違反した者への風当たりの強さは尋常じゃない。
もし誰かにバレたりしたら・・・残りの高校生活を、まさか男をストーカーした男というレッテルを貼られて過ごすのか?
『お〜い、掘る田!』と、掘った訳でも掘られた訳でも無いのに、不愉快以外の何物でもないあだ名で呼ばれるんじゃないか?

「い、いやだ・・・掘る田はいやだぁ・・・・・・」

「お、おい・・・急にどうしたんだよ春田」

「・・・・・・俺は絶対にいやだ・・・何が楽しくて高っちゃんをストーキングしなくちゃいけないんだよ・・・」

そう答える春田の声は、既に涙混じりの物に・・・・・・よっぽど掘る田というあだ名が我慢できなかったようだ。
そうでなくても男をつけるなんて事、春田には何の面白味もやり甲斐も感じられそうに・・・いや、感じられなかったというのに。

断固拒否の姿勢を貫こうとしている春田を、この場に似つかわしくない穏やかな笑みで見ていた奈々子が
制服のポケットに手を入れてケータイを取り出した。
「まさか仲間でも呼ばれて、ホントに掘る田にされちまうんじゃ・・・」と怯える春田に、ケータイを操作しながら奈々子が語りかける。


「ねぇ、春田くん・・・・・・どうしてもお手伝いしてくれない? どうしても?」

「そ、そんな目で見たって、俺は絶対にやらないからな・・・・・・この事は誰にも話さないから、もう勘弁してくれよ・・・」

「・・・・・・そぅ・・・・・・残念ね」

「へ?」

諦めた・・・・・・?
驚くほどあっさりした奈々子の反応に、このまま帰れるかもしれないと思った春田だが、その希望は瞬く間に絶望に変わる。

「・・・・・・能登くんも最初は今の春田くんみたいに・・・うぅん、もっと意固地だったわ」

「は?」

「ちょっちょっと・・・・・・」

「だけど、何度も何度もお願いしたらね、最後には折れてくれて・・・感謝してもしきれないわね、能登くんには・・・あ、あった」

何を言ってるのか分からない春田と、何か思い当たる節がある能登に、奈々子は持っていたケータイを見せる。
反射的に画面を見る春田と、そのケータイを何とかして奪おうと能登が手を伸ばした瞬間、画面上にある動画が再生された。

『ジジ・・・あ〜・・・やっぱ亜美ちゃん、良い匂いしてるなぁ・・・・・・俺もう死んでもいいかも』

・・・・・・奈々子のケータイの画面には、能登だろうか? 倍率を上げて録画したためかかなり画質が荒いが、それでも大体は分かる。
そこには、メガネを掛けた変態が椅子・・・十中八九亜美のだろう椅子に顔を擦り付けて悦に入っている映像が映し出されていた。

「これ、いつだったかしら・・・もう大分前に、たまたま忘れ物取りに戻ってきたら偶然居合わせちゃって・・・ビックリして撮っちゃった」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

一々白々しいフレーズを織り交ぜながら、奈々子が独り言のように言っている。
見ているのがいたたまれなくなり、最後まで見ずに春田は顔を背けているのに、それでも能登の消し去りたい過去を
映し続ける奈々子のケータイ・・・・・・
ようやく若気の至りムービーが終了すると、妙な間を入れてから春田が口を開いた。

「・・・・・・能登・・・・・・お前、何であんな事・・・・・・」

「言うな、聞くな・・・俺を見ないでくれ・・・・・・あの時は本当に魔が差したんだ・・・・・・」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

日頃真面目とまではいかないまでも、それなりに普通の学生で、友達だと思っていたクラスメートの痛すぎる性癖に言葉を失う春田・・・・・・
能登はもう羞恥から顔を真っ赤にしている・・・もしそこに穴があったら、一生引き篭もる覚悟で入るかもしれない。

『ジジ・・・だけど木原も捨てがたい・・・・・・誰もいないよな・・・・・・『ヂィィィィィ』・・・・・・・・・』

「なぁに、最後の『ヂィィィィィ』って音?」

「うわあああああぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」

「痛っ! いだだだだ! 能登、指! 指が食い込んでるって! 目があぁ〜〜〜!!」


再度奈々子がケータイを操作すると、さっきの物とは違う動画が再生された。
不意打ち気味に春田と能登の目に飛び込んできたのは、別の椅子に顔を擦り付けているメガネがズボンに手をかけ・・・・・・
能登はそれ以上先を春田に見せるのを許さず、手で春田の目を覆うと耳元で絶叫する。
それでも一瞬ナニをしてるか見てしまった春田だったが、その後何度も「見たろ」と尋ねてくる能登を、
これ以上泣かさないために「見ていない」とシラを切り通した。

「・・・・・・春田くん、お願い・・・ちょっとでいいの、ほんのちょっとだけ・・・あたしを助けて」

・・・・・・能登が落ち着くまで待つと、奈々子は笑みを消して、泣きそうな顔になって懇願するように春田に縋る。
肘に当たる柔らかい感触に勝手に口が緩むが、後ろで自分を押さえつけている悲惨な男が自分の末路だと考えると、
どうしても首を縦に振る訳にはいかない。
あんなのごめんだ。
春田はもげそうな勢いで首を横に振る。

「・・・・・・そぅ・・・・・・もぅ、本当に残念だわ」

「・・・・・・もういいだろ・・・ここで見た事なんか誰にも言わないから、だから俺を」

『ジジ・・・・・・』

帰してくれ・・・そう続けようとした春田のセリフは、奈々子のケータイから流れてくる音によって遮られた。
あれより酷い能登の醜態なんかあるのかよ・・・・・・元より見る気の起きない春田は顔を逸らしていたが、
ケータイからは能登の醜態よりも、もっと意外な映像が映し出された。

『ジジ・・・・・・すぅぅぅ・・・むっはー、亜美た〜ん! ・・・・・・たまんねー!!』

「・・・・・・うぇ!?」

「げ・・・・・・」

「うふふ」

てっきり能登の人生の汚点トップ3の、いよいよ三つ目が流れると思っていた春田は、
ケータイから聞こえる声が能登のものではないと分かるとチラリと目を向けて見てみる。
そこには、能登の代わりに見覚えがありすぎる髪型をした男が・・・・・・

『俺もう死んでもいいかもー・・・ここは天国だー・・・『ヂィィィィィ』・・・・・・』

・・・・・・能登の時と同じで大分画質が荒いが、誰が何をしているかはハッキリと分かる。
画面の中では、軽薄そうなロン毛をした変態がスカート・・・十中八九亜美の物だろうスカートに顔を押し付けてるシーンが映っていた。

「これは割と最近なんだけど、体育の授業中に忘れ物取りに来たら偶然ね・・・・・・
 春田くんも大胆よね、更衣室に忍び込んじゃうなんて・・・もぅ、本当にえっちね」

「春田・・・・・・」

「ち、違うんだ・・・これは何かの間違いだって・・・・・・お、俺じゃないからな! それでも俺はやってねぇんだって!」

またも白々しい説明を入れる奈々子と、春田を押さえつける事も忘れて同情する能登・・・・・・
今一番春田の気持ちを分かってやれるのは能登だけだろう。
そして証拠を突きつけられながらも、それを認めようとしないで言い訳を繰り返す春田・・・・・・
この期に及んで、まだ言い逃れできると信じているのか?

数分後・・・・・・言い訳も尽きて黙りこくってしまった春田に頃合だと判断して、奈々子は最後の確認を取りにきた。

「あのね、春田くん・・・・・・あたしのこと・・・助けてくれる?」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

力なく首を横に振る春田。
ここまで来ると、もはや意地や損得勘定よりも反射で首を振っているだけだろう。
それほどまでに春田は追い詰められている。

そして奈々子は、既に十分追い詰められている春田にダメ押しとばかりに追い討ちをかけた。

「・・・・・・この後も撮っちゃったんだけど・・・春田くん、まだ見たいのかしら?」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

「じゃあ、再生するわね」

「・・・・・・やめてくれ・・・・・・いや、やめてください・・・・・・」

「・・・能登くんもそうだったんだけど、『ヂィィィィィ』って音はなんなのかしらねぇ。今度亜美ちゃんに聞いてみようかな」

「やめて・・・・・・」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

「・・・・・・俺は能登の手伝いでいいんだよな? 他に何もしなくていいんだよな?」

「えぇ、もちろん」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

ガクン・・・・・・

・・・・・・ついに・・・春田は首を縦に振ってしまった・・・・・・
能登の様子を見ていればそんな約束、紙よりも薄っぺらいものだって分かりきっているのに・・・
これ以上の恥辱に耐えられなかったのだろう・・・分かってて、それでも奈々子の『おねがい』を春田は聞いてしまった。
きっと能登もこの手で落ちたに違いない。

奈々子はお礼とばかりに春田に抱きつくと、耳元に優しく息を吹きかける。
久しぶりに背中に走った悪寒以外の何かに春田が驚いていると、抱きついたままの体勢で奈々子は呟いた。

「ありがとう、春田くん。本当に嬉しいわ・・・・・・これからもよろしくね」




「うふふふ・・・今日はいい事があったわ・・・・・・だけど」

───あれから・・・・・・
うな垂れる春田を連れた能登は、奈々子に帰る旨を伝えて教室から出て行った。
一人残った奈々子は、椅子に座りながら何度も読み返したノートをまだ見ている。

「・・・・・・今日もなのね・・・・・・」

はぁ・・・・・・と。
指を文字の上で滑らせながら、溜め息を吐いた奈々子は落胆の色を顔に浮かべる。
いくら読み返しても、どのページを開いても、このノートに奈々子の名前は書かれていない。
・・・・・・竜児と奈々子の間に、何かがあった訳ではないから。

能登に竜児の行動を見張らせて一月以上・・・・・・その間・・・・・・
大河はまるで甘える子猫のようにベッタリと竜児に張り付き・・・・・・
今まで以上に実乃梨は竜児と一緒の時は明るく笑い・・・・・・
亜美は竜児の前では素とも、外面とも違う顔を見せ・・・・・・
それ以外にも、学校の内外を問わず竜児は何かと女性と接点を持っているのに。
竜児に露骨に怯えていたあの独身だって、最近は竜児を気にしているというのに。

・・・・・・それなのに・・・・・・

「なんであたしには・・・・・・」

奈々子は制服の胸ポケットから、一冊の手帳を取り出した。
いかにも女の子が使いそうな可愛らしい物ではなく、落ち着いた色合いの、コンパクトな手帳。
一番最初のページを開くと、小さな文字で日付とその日の出来事が簡潔に書いてある。
それこそ穴が開くほど読み返したのに、今朝だって読み返したのに。
奈々子はまた、その数行に目を滑らせる。

『放課後、麻耶と別れて帰っていると後ろから声をかけられた。
 振り返ると、初対面のくせに馴れ馴れしい男達に囲まれた。
 いきなり肩に手を回されて、胸も触られた。
 人を呼ぶと言ったら、酷い事をすると怒鳴られて恐かった。
 
 高須くんが助けてくれた。
 うれしかった。』

「・・・・・・それだけ・・・なのよね・・・・・・」

女の子らしくない簡素な日記だと、奈々子はごちる。
そう見える風にわざと書いたんじゃない、とも。

言ってしまえば、何の事はない。
あの一年生の女子同様、見知らぬ男数人に絡まれていた自分に、ただ通りがかっただけの高須くんが声をかけてくれただけ。

それだけ。

それだけで無理やり自分を連れて行こうとしていた男達はどこかに消えて。
それだけで自分は高須くんに感謝以上の何かを感じてしまっただけ。

それだけ。

奈々子は、あの時の事を思い出す度にそう思う。





────── 一月半前、能登を呼び出して『おねがい』を聞いてもらう少し前──────
一人で歩いていた奈々子に、趣味の悪いアクセサリーをジャラジャラ付けた男達が声をかけた。
表面には嫌悪感を出さないようにしていた奈々子に向かって、その連中は遊びに連れてってやると強引に迫る。
穏便に断り続ける奈々子に、しつこく誘い続ける男達は断りも無くベタベタと奈々子の体を撫で回し、
それに耐えられなくなった奈々子は男達に対して距離を空けると、これ以上しつこいと人を呼ぶと警告した。
途端に態度を急変させた男達は、奈々子が普段耳にしないような罵声を浴びせて脅しをかけた。

助けを呼ぼうにも周りを通り過ぎていく人間はみんな見て見ぬふりを決め込んでおり、誰も奈々子を助けようとはしない。
必死に身を捩じらせて逃げようとしても、男達は奈々子の腕を掴んで離そうとしない。
声も出せず、ただ震えるだけの奈々子を男達が連れ去ろうと歩き始めた時

「・・・・・・あれ? 香椎か? 香椎だよな?」

ネギやら大根やらが飛び出ている手製のエコバッグを提げた竜児が、覚えの無い連中と一緒に歩いている奈々子に気付いて声をかけた。
自分に声をかけてきたのが竜児だと最初は分からなかった奈々子だったが、俯けていた顔を上げて竜児と目が合うと
掴まれていた腕に痛みが走るのも構わず無理やり振りほどいて、駆け足で竜児の背中に隠れる。
奈々子に絡んでいた連中は最初こそ声を張り上げて竜児を襲おうとしていたが、
仲間の一人が、相手があの『ヤンキー高須』である事に気付いて逃げ出した事と、
ただ目を細めただけのつもりだった竜児のメンチに、他の連中も恐れをなして逃げ出してしまった。

「何だったんだ、あいつら・・・・・・何かあったのか?」

「・・・っ・・・・・・っ・・・っ・・・・・・・・・っ・・・・・・っ・・・・・・」

竜児が首だけ後ろに向けると、背中にしがみ付いたまま、奈々子は浅い呼吸を繰り返して苦しそうにしている。
心配した竜児が事情を聞こうと振り返ったら、奈々子は男達が去っていった事に今気付いたらしい。
辺りをキョロキョロと見回して、ここに居るのが竜児だけだと分かるとその場でポロポロと泣き出してしまった。

「・・・・・・高須くん・・・あた、あたし・・・ひっ・・・・・・あたし・・・・・・あの人達が、いきなり・・・・・・」

「・・・・・・あいつらならどっか行っちまったから、もう心配ねぇよ」

「周りの・・・人も、何もしてくれなくて・・・ぐす・・・・・・大声で脅かされて・・・っく・・・恐かった・・・恐かったのぉ・・・・・・」

「だから、ここには俺と香椎だけだからもう大丈夫だって・・・少し落ち着けよ、無理に話さなくていいから」

「うん・・・うん・・・・・・」

竜児に何があったか説明しようとしても、頭が上手く回らない。嗚咽も止まない。
知らない男に体を触られ、大声で罵倒され、助けを求めて周りに目をやっても見てみぬふりをされ、
奈々子は、今日ほど他人が恐いと思った事はないだろう。

だから、自分を助けてくれて、泣き止むまで傍に居てくれた竜児が奈々子は心の底から嬉しかった。

竜児の格好を見れば、買い物の帰りにたまたま自分を見つけて声をかけた事くらいすぐに分かる。
それが自分をあの連中から助けるためでない事も、あの連中を追い払うために特に竜児が何かした訳ではない事も分かる。
竜児からしてみれば、声をかけたクラスメートに群がっていた連中が、自分を見て勝手に逃げていった。
その程度にしか考えていない事も、なんとなく分かる。

それでも奈々子には十分すぎるほど嬉しかったし、竜児が泣いている自分にあれこれと気を遣ってくれる度に
胸の中に暖かい何かを感じた。

「・・・・・・ぁ・・・ありがとう・・・高須くん・・・・・・」






───結局あの後自宅まで送ってくれた竜児に、奈々子は『ありがとう』や『ごめんなさい』くらいしか言えなかった。
言いたい事がいっぱいありすぎて、何から言えばいいか分からなくて・・・・・・
それに子供みたいに泣いていた自分が恥ずかしくって、奈々子は送ってくれてる間も、家に着いて挨拶を交わしている時も、
竜児に言いたかった事はほとんど言えずに、その日はそのまま別れてしまった。

あれだけ恐い目にあったにも関わらず、何のお礼もできないまま竜児を帰してしまった後悔が奈々子の頭一杯に広がる。


───ドコかでお茶でも・・・そうだ、家に上がってもらって夕飯をご馳走したら・・・あ、あんな時間から作ってたんじゃ待たせちゃうかしら・・・
それに高須くんも夕飯の買い物してたみたいだし・・・迷惑だって思われたらヤだな・・・・・・パパにもなんて言えば・・・・・・
・・・なんであのままさよならしちゃったんだろう・・・助けてもらったのにお礼もしないで、薄情な女だって思われちゃったらどうしよう・・・
だけど、もし『家に上がってかない? お礼がしたいの』って言えて、高須くんもOKしてくれたら・・・・・・───

制服のままなのも気にしないで、ベッドにもぐり込んだ奈々子は後悔とも妄想ともつかない考えに耽る。
頭の中で作った展開に落ち込んだり期待したりを繰り返していると、よっぽど疲れていたのか、奈々子はそのまま眠ってしまっていた。
翌日のまだ早い時間、目が覚めた奈々子はいつも通りの自分の部屋、いつも通りの朝に一瞬『昨日あった事は夢なんじゃ』そう思うが

「夢だったら・・・こんな気持ちにならないわよね・・・・・・」

腕に走る痛みよりも、胸一杯に広がる感情に、奈々子は『あれは夢ではない』と・・・そう思い直した。

ベッドから起き出た奈々子は、制服の胸ポケットに入れっぱなしだった手帳を取り出す。
父親が高校の入学祝に贈ってくれたそれは、奈々子の趣味と全然合わない訳ではないが、女の子が使うにはちょっと地味だ。
学校ではちゃんとそれ用の、麻耶とお揃いで買った手帳を持っていって使っている。
この手帳は、贈ってくれた父親には悪いが奈々子は持ち歩いているだけで、使ったことはない。

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

だけど、今日使おう。
奈々子はそう決めて、わざと素っ気無い風を装って昨日の出来事をその手帳に記す。
いつも持ち歩いている手帳だから。
あのゴテゴテした麻耶とお揃いの手帳よりもずっと小さくて、肌身離さず持っていられるから。
きっと今日以外は、使わないままの手帳だから。
・・・・・・いや・・・・・・

これからは、竜児との間にあった事をこの手帳に書くようにしよう。

「ふふ・・・・・・そうね、その方が・・・・・・うん・・・・・・」

奈々子は気恥ずかしくって入れられなかった文字を、書き終わったはずの文章に付け加える。

───うれしかった───

今度こそ書き終えた奈々子は、昨日そのまま寝てしまったために浴び忘れたシャワーを浴びに部屋を出て行った。
いろいろと大変だったとはいえ夕食の用意もしないで、父親にも可哀想な事をした。
それに他にも・・・・・・高須くんにお礼だって・・・・・・

ブツブツとそんな事を言っている奈々子の顔が、まだシャワーを浴びてもいないのに真っ赤になっていた事は誰も知らない。
鐘のように胸を高鳴らせていた、奈々子以外は・・・・・・・・・






「・・・・・・あたしも、ちゃんとお礼の約束するんだったわ・・・・・・」

パタン、と。
奈々子は手帳を閉じると、また胸ポケットにしまっておく。
これがないと、最近は何だか寂しい気すらする。
奈々子には無くてはならない、大事な手帳だ。

あの日、竜児が奈々子を助けた翌日・・・
どんな顔をしたらいいか、何て言ってお礼の事を切り出そうか・・・緊張しながら竜児に声をかけようとしていた奈々子だったが・・・
奈々子が竜児に声をかける事はなかった。
大河達が代わる代わる竜児と話してて、『高須くん、昨日はありがとう。お礼がしたいんだけど・・・』なんて言えるタイミングが無く、
竜児は竜児で嫌な事なんて早目に忘れた方が良いと思っていたのか、奈々子が近くに来てもあの時の事には触れないでいたために
その日は竜児と話す事ができず・・・・・・
あれから一月半以上も経つ今になっても、奈々子はあの時のお礼どころか特に竜児との間を進展させた訳でもない。

伝えたい想いと、焦りばかりが奈々子の胸に募っていくのに。

「・・・・・・そろそろ帰らないと・・・・・・」

気がつくと、辺りは真っ暗だ。
既に部活動で残っていた生徒も帰ってしまっている。
さすがに残りすぎてしまった。早く帰って夕飯の支度をしないと・・・・・・
バッグを手に取り、次いで竜児の事が書いてあるあのノートに手を翳すと、そこで手が止まる。

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

このノートを見る度に、竜児が自分以外の女の子と仲良くなっているのを見せつけられてるようで嫌な気分になる。
・・・・・・自分の名前は、まだ入ってないから。
最初は竜児の趣味や好みを知りたくって、それだけで能登に『おねがい』して後をつけてもらい、竜児が誰とどんな事をしたかを
調べてもらって・・・そこからどんな風に竜児に接すればいいか考えようとしていただけだったのに。
いつの間にか、このノートは奈々子が考えていたような使い方はされなくなった。

能登に『おねがい』する前から大河、実乃梨、亜美・・・・・・
竜児と親しくしている女の子の名前は頻繁にノートに出てくるだろう事は予想していたが、
竜児は上級生、同級生、下級生でのグランドスラムを早々に達成し、更には担任の女教師や行きつけのスーパーの店員・・・・・・
これは能登が直接調べた訳ではなく、噂を拾ってきたのだが・・・あろう事か母親やペットのインコまで。
母親やペットを抜かしても、竜児はかなりの数の女性から好意を抱かれ、更には大河達から日々苛烈とも言えるモーションをかけられている。
不思議な事に、竜児自身は滅多にその手の好意に気がつく事がないのが奈々子にとっては幸いだったが。

性別が雌なら歳も種族も関係なしに、竜児に好意を持っている人物と、竜児が好意を持たれた原因が
このノートには事細かく記されている。
たまにメガネをかけたソフトマッチョの裸族も何らかのイベントを起こすが、奈々子の方から『男子は数えなくていいのよ』と・・・
以前間違ってカウントしてしまった能登にそう注意しているから、今は野郎との事はノートに書かれていない。

・・・・・・ともかく、日々女の子の名前と、竜児にかけられるアタックの内容が増えていくこのノートに、奈々子の名前が書かれた事はない。

「・・・・・・嫌な女の子・・・・・・」

人を使ってこんな物を書かせているくせに、その事に不満を感じている自分を、奈々子はそう思っている。
竜児の好みを知るために、いけない事と分かりつつも・・・・・・・・・
そのつもりだったのに、能登から渡されるノートの中では自分以外の女の子が竜児との仲を進めていく。
その事に嫉妬している自分に、奈々子は『卑怯者の嫌な女』という評価を下している。

今日だって、ついこの間自分と全く同じシチュエーションで竜児に助けられた下級生の女子が
自分よりも先に歩を進めた事が我慢できなくなり、それで能登に八つ当たりして正座を強要させていた。
覗いていた春田を責める資格なんて無いのに、能登同様たまたま撮っていた彼等の恥ずかしい動画を使って、
自分の言う事を聞けと脅迫した。
亜美がいなかったら、階段から落ちていった竜児を見て泣いていたかもしれない。原因を作った麻耶に手を上げていたかもしれない。

独りよがりで卑怯者で最悪な、惨めな女・・・・・・

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

いつだって、やりすぎている自覚はあった。
それに伴う罪悪感は、日増しに大きくなっていくのに・・・・・・


それでも、竜児の事を想うと、どうしても止められなくって。
助けてくれて、心配して傍にいてくれて・・・そんな竜児の事が忘れられなくて。
悩んで悩んで、眠れないくらい悩んで・・・きっと自分はどこか壊れてしまったんだと思ってしまうくらい悩んで。
悩み抜いた末に、奈々子は放課後の教室に能登を呼び出して、あの動画を見せた。
額に脂汗をビッシリ掻きながら、財布を手に自分が言った『おねがい』を聞いていた時の能登の顔は今でも覚えている。
あのときから、もう止まる訳にはいかなくなった。
・・・・・・止まるのは竜児と関係を持った時と、持てなくなったって諦めた時だけ。
奈々子はそう決めて、能登にあのノートを渡したのだ。

「ほんと、嫌な女の子」

───いいじゃない、嫌な女の子で・・・・・・今だけは、嫌な女の子のままじゃないと他の娘に追いつけない。
追いつけなかったら・・・そんなの嫌よ・・・・・・亜美ちゃんには悪いけど、あたしだって引けないの。
女の子にも、意地があるんだから。
・・・・・・女の子にしかない意地だって、きっとあるんだから。
他の娘に負けたくない。
・・・・・・うぅん、そんな小さな事よりも・・・なによりも

高須くんがいい・・・高須くん以外はイヤなの・・・高須くんだけは・・・高須くんと、もっと一緒に・・・高須くんとどうしても・・・・・・

高須くんじゃなきゃ、もうあたしはダメみたいだから。
高須くんじゃなくっちゃ、ダメにされちゃったんだもの。
高須くんの傍にいられるようにするには、酷いやり方でもなんでもしなきゃ、誰かに先を越されちゃう・・・・・・
いや・・・ヤだ・・・絶対に嫌。
身勝手だってなんだって、今はこうやって高須くんと他の娘の情報を握らなきゃなにもできないもの・・・そういう所が、卑怯よね───

「本当に勝手なんだから・・・能登くんと春田くんにはしっかり謝って、ちゃんとお礼するだけでいいでしょって・・・・・・
 こんな風に考えてるなんて知られたら、怒られちゃうわね・・・・・・」

───謝って許される事じゃないけど、いつかあの二人にはしっかり謝らなくっちゃ・・・
能登くんには随分無理させてきたし、春田くんだってそう・・・もう嫌われてるかもしれないけど・・・その時はその時で頭を下げましょ。
その『いつか』は、できるなら高須くんの隣に居られるようになってからがいいな・・・そうでなきゃ、全部徒労に終わっちゃう。
そんなのは・・・・・・ヤだな・・・・・・───

「結局・・・これに頼っちゃうのに、二人のことは蔑ろにしてるんだから・・・・・・あんまりよね、それじゃあ。
 ・・・・・・高須くんにさえ嫌われなければ、それでいいだなんて考えて・・・・・・ほんと、嫌な女の子・・・・・・」

───このノートは、今のあたしと高須くんを繋いでくれるたった一つの物だから・・・・・・
このノートにあたしの名前が入るまでちゃんと待ってよう。
あたしが勝手にそう思ってて、そう決めてるだけだけど・・・そう思った方が、がんばれそうだから。
他の娘の名前が先に書かれても、タイガー達のあの過激なアプローチが追加されようと
・・・・・・それで嫉妬したって、持っていようよ。
わがまま聞いてくれて、いつも頑張ってくれてる能登くんにも申し訳ないしね───

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

ガサガサとバッグにノートを突っ込むと、奈々子は既に真っ暗になっている教室から出た。
いつ見回りが来てもおかしくない。
足音を立てないように校舎から出ると、街灯で照らされた道を一人で歩く。
他には誰も見当たらない、無機質な明かりだけがポツポツと照らしてるだけの道を。
幾度目かの街灯を横切った時、ふと思った。

───街灯なんかなくったって、高須くんが傍にいてくれればいいんだけど───

自分でも脈絡もなにもあったもんじゃないと、自然と苦笑が漏れる。
もうちょっと考えれば、なにか・・・・・・

───高須くんさえ傍にいてくれたら、他になにもいらないのに───

「・・・・・・いいかも・・・・・・ふふ」

街灯一つから随分と突飛な考えになったものだと、今度はクスクス笑ってしまった。
満更でもないと思っている自分に気付くと、奈々子は誰もいないのに赤くなった顔を隠す。
それでも、さっきよりは心が軽くなった気がする。
何か良い事が起きそうな、そんな予感さえしてくる。
・・・・・・そういえば、明日は大河が竜児にお弁当を作ってくると言っていた。
自分も対抗して作ってくると、能登相手に宣言したし・・・・・・
奈々子は瞬時に頭を切り替えて、明日の事に想いを馳せる。
二番煎じだし、大河が邪魔してくるかもしれないし、そもそも受け取ってくれなかったらどうしよう・・・・・・
そんな後ろ向きな考えが、いくつも浮かんでは消えていく。

だけど、ただ一言『おいしい』と言ってくれる竜児を想像したら

「・・・・・・明日のお弁当、なに作ろうかしら・・・なるべく高須くんの好きそうな物を・・・・・・」

ズルだけど、これ見て決めよ。
奈々子はバッグ越しに、中に入ってるノートを見るとそう呟く。
あの一年生は勿論、大河・・・・・・いや、他の誰の作ったお弁当よりも、おいしいって思ってもらうお弁当にしよう。
味にはうるさい竜児を唸らせる事ができたら、少しは近づく事ができるかもしれない・・・と、そう思いながら
奈々子は家に帰るまでの道すがら、どんなお弁当なら竜児が喜んでくれるかを考えていた。

「・・・・・・・・・高須くん、喜んでくれるかしら・・・喜んでくれるといいな・・・・・・・・・」

───あのノートだけじゃなくって・・・・・・この手帳にも、もっと沢山書きたいしね───

ぎゅっと。
制服の上から、まだ一ページしか書かれていない、女の子が使うには少し地味な手帳を押さえながら。




「・・・・・・・・・・・・・・・なぁ」

「・・・・・・・・・・・・・・・なんだよ」

「・・・・・・亜美ちゃん、どんな匂いしてた?」

「そんなの、直にスカートに顔くっ付けてたお前が聞くのか・・・・・・?」

「・・・・・・だな・・・あ〜、それにしてもよー・・・・・・」

「今度はなんだよ」

「・・・・・・俺ら二人して・・・あれだよ、あんな事してさ・・・バッチリケータイにまで撮られてて・・・しかも気付かないとか、本当にアホだよな」

「お前と一緒にすんじゃ・・・いや・・・一緒だな・・・・・・確かにアホだよなー、俺もお前も・・・・・・」

「だろ? ・・・・・・それとさー・・・・・・」

「なぁ、いい加減にしろよ。さっきっからアホな事ばっか言って」

「・・・・・・奈々子様ってさ・・・なんかご褒美くれたりしねーの?」

「・・・・・・差し入れは何度かあった。クッキーとか、他にも手作りっぽいもんを・・・きっと高須にあげる練習でもしてたんだろうな・・・
 それ考えると泣けてきたけど、味は全然うまかった」

「・・・・・・がんばればパンツとか」

「もう帰ってくれよ、この変態」

「はぁっ!? ひ、酷くね!? 俺が変態なら、能登だって変態じゃんか! 椅子なんかに顔擦り付けて!」

「そ、その事は言うなよ・・・・・・それに俺なんかより、よっぽど春田の方が変態だろ!
 更衣室にまで忍び込みやがって・・・・・・言え、あそこは一体どんなだったか洗いざらい言え!」

「天国だった・・・・・・つか、そもそも俺は変態じゃないから! 仮に変態だとしても、変態という名の紳士だからな!」

「なに、訳分かんねぇ事を・・・・・・そんな事よりも言え、天国がどんな匂いだったか俺にも教えろ!! 教えてください!」



「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

「・・・・・・おい大河。鍋から煙出てるぞ」

「・・・・・・ふぇ? ・・・・・・あぁ〜!? ・・・焦げてる・・・もう! なんで教えないのよ!」

「何言ってんだ、さっきから声かけてたのに・・・ボーっとしてた大河が悪いんだろ」

「・・・・・・だって・・・なんだかいやな予感がしたのよ。地味な方がなにかしてきそうな・・・・・・それで・・・・・・
 だ、だからお鍋焦がしちゃったのは私のせいじゃ」

「分かったから、早いとこ作り直さねぇと泰子が遅刻しちまうだろ。
 明日の弁当に入れるおかずだって今から作っとけば心配ないし、どうしても弁当作らせろって言ったのは大河じゃねぇか。
 だから今日は晩飯も大河に任せてんのに・・・・・・それでもう二つ目だぞ、鍋焦がしたの」

「今日の晩ご飯は大河ちゃんのお手伝〜い♪やっちゃん楽しみぃ♪」

「ぐ、ぐげげ・・・なべ・・・なべ・・・・・・なべあつ?」

「・・・・・・ぐ・・・わ、分かったわよ! ちゃんとご飯作って、絶対あんたに吠え面かかせてやるんだから。
 私が作ったご飯とお弁当の、そのあまりのおいしさに『女将を呼べぇいっ!』って言うがいいわ・・・そ、それで・・・その後は・・・・・・」

「だから、そんなんじゃまた焦がすって・・・・・・ほら見ろ、言ったそばから・・・・・・」

「・・・・・・ふぇ? ・・・・・・あぁ〜!? ・・・また焦がした・・・い、いいわ・・・何度だってやってやるわよ! 竜児、次のお鍋出してっ!!」

「やっぱり止めときゃよかった・・・何で急に弁当なんて・・・・・・大河、それはまだ捨てるな。勿体無いから後で俺が作り直す」

「大河ちゃん、晩ご飯と一緒におべんと作ってるんだぁ・・・・・・
 竜ちゃん、今度やっちゃんにもおべんと作って♪卵焼きはうんと甘くしてぇ、ウインナーはタコさんにしてぇ・・・」

「ぐえぇ・・・たた、たまごはや、やめて・・・・・・おねがいだから・・・・・・か、かわ、かわう・・・かわいそう・・・・・・」

「なに言ってんの、あのブサインコ。ブサインコのブッサイクな卵なんて使うわけないでしょ。
 どうせブッサイ目玉焼きしかできないんだから・・・そもそもブサインコ、卵なんて産んでないじゃない」

「ぐぇ・・・ぶ、ぶさ、ぶさぶさ・・・・・・ぶぶ、ぶさたいがー」

「・・・・・・竜児、焼き鳥ってどうやって作るの? 私、焼き鳥ならおいしく作れそうな気がしてきたわ」

「焼き鳥ぃ? やっちゃんも食べた〜い♪」

「・・・・・・教えてやってもいいけど、インコちゃんを焼くのは止めろ」

「・・・・・・まぁいいわ。私はご飯作んなきゃいけないんだから、キモいブサインコなんかに付き合ってらんないのよ。
 見てなさい、竜児! 絶対ご飯もお弁当もキチンとおいしく作るんだから! ・・・だから、いい、今からそにょ、あにょ・・・ご褒美とか」

「だったら鍋から目を離すんじゃねぇ! ・・・・・・もう換えの鍋なんて無いのに・・・どうすんだよ、それ」

「・・・・・・ふぇ? ・・・・・・あぁ〜!?」



                              〜おわり〜



517 174 ◆TNwhNl8TZY sage 2009/03/07(土) 14:02:51 ID:PQCTy3by
おわり
いけね、★入っちゃってた・・・保管庫の管理人の方、お手数ですがそこだけ修正しておいて下さい。
本当は昨日投下したかったけど・・・泡盛って恐い・・・木曜に飲んで、金曜丸一日潰されるとか。

「×××ドラ!」の続きがこれの半分も書けてないのは、もう申し開きのし様がありません。
書けなかったからこれ書いちゃったわけで・・・・・・あんまり妊娠妊娠考えてて、俺が妊娠しそう。

それと・・・・・・・・・
ストーカー行為は犯罪です。だめ、ぜったい。
けど、奈々子様だから許される・・・っていうか、女の子は許されていいと思う。
人より恋愛の仕方がちょっとだけ不器用で、しつこくて、陰湿なだけの、可愛い娘だと思うんだよ、みんな。
独身なんてその極みに立ってそう。

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