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283 174 ◆TNwhNl8TZY sage 2010/11/14(日) 13:08:08 ID:CRNj3M8S


「NOET 3.5ページ目」




深まる秋も終わりを告げはじめた十一月の半ば。
そろそろ夜長にも慣れだし、吹きつける寒気に人々が人恋しさに心揺さぶられる、そんな時分である。
場所は大橋高校のとある教室。時は下校時刻を大きく過ぎた、すっかり人気のない頃合だ。
いかがわしい不順異性交遊にはおあつらえむきのシチュエーション。
しかし、もし本当にそうであるならば、教室内に二つある影の片方、長身長髪の男子らしき生徒はそうとうにマニアックなご趣味をお持ちだろうと察せられる。
何故なら彼はもう片方、これも長髪の女子生徒の前で正座なんぞしているのだから、若人にあるまじきアブノーマルっぷりだ。
甚だに将来が危ぶまれる。
一応彼の小指の爪の先にくっついた鼻くそよりもみみっちく矮小な名誉のために言わせてもらうなら、そこまでの変態性は持ち合わせてはいない。
校舎内、それも女子更衣室に平然と忍び込み、学内屈指の美少女のスカートに顔を埋めくんかくんかもふもふし、あまつさえ孤独な遊戯に耽っていたという紛う事なき変態ではあるものの、被虐的嗜好に倒錯するような高みにまでは至っていない。
それも時間の問題かもしれないが、今はまだ、人の道と言うものの端っこをおっかなびっくりよたつきつつも踏みとどまっている。
彼女の方においてはそんな危ない男子など恋愛対象として見ていようはずもなく、しかしてこの状況も、健全な不順異性交遊なぞのそれとは決して重ならない。
一体何用でこんな時間にこんなことをと思っているのは彼とて同じである。
また今日もフラグを数えるお仕事が始まるよin校内をため息と共に終え、また今日もフラグを数えるお仕事が始まるよin校外のためにストーカー行為を続行する相棒の後をついていこうとした矢先、彼の肩を、目の前にいる彼女が掴んで止めた。
そしてここに居残っていろと小声で囁く。
すわとうとうお仕置きかと、心当たりのないようであるような恐怖に慄く彼を相棒は平気で置いてけぼりにし、自分の仕事を完遂するためにとっとと先を行ってしまった。
追い縋る自分から全速力で離れる、天晴れなほど保身根性剥き出しの相棒を彼は恨んだ。それはもう呪わんばかりに恨んだ。
恨んだが、それ以上にこんな面倒なことに首を突っ込んだ自分自身を彼は恨み、何でもっと早く袂を分かたなかったのかと腹の底から悔い、そして絶望しながら教室から一人、また一人と生徒が帰るのを見送った。
別れの挨拶をいちいち大げさに交わす彼を、級友はどんな思いで見ていたのだろうか。
おそらくは一様にアホがとち狂ってると思っていたことだろう。彼に向けられていた眼差しはどれも生温かった。
そうして日は暮れ、二人っきりになり、見回りの事務員もやり過ごし。
他人に見られる心配はこれでないだろうと判断した彼は真剣な面持ちで席を立ち、椅子に座り頬杖をつく彼女の前で流れるような動作でおもむろに土下座の構えをとった。
すみませんすみませんと泣きを入れるみっともなさでは右に出るものの思いつかない情けない男子を尻目に、ほぅっと女子はこめかみに人差し指をあてた。
とりあえず顔を上げさせはしたものの、はてさて何から言えばいいのだろうか。
悩んでいても仕方なく、このままこうしていたところで埒も明かない。
怯え竦み上がる彼をこれ以上拘束するのも可哀想だし、本音を言えば、あまり近しいお付き合いをしたくもない。
言うだけ言ってみますか、と。
そして、彼女からしたらわりと控えめにあるお願いを頼んで、けれど彼からしたら唐突突如突然に死刑宣告に等しい、ある命令を仰せつけられた。
彼の胸中たるや、さながら地獄へのエレベーターだぜ。

「いやだあああああああああああああああ!?」

デニム地を裂くような野太い野郎の悲鳴が、真っ暗な廊下に木霊した。

「しー。春田くん、静かに。お口にチャックして」

「できっかあ!? ていうかそうじゃねえよ! 何だって俺がそんな!?」

必死に前言撤回を求めているのは春田浩次である。既におわかりであろう。
そんな春田に声を潜めて優しく注意をしているのは香椎奈々子だ。
本来ならばもう一人、お馴染みの目立たないメガネは今はもう自宅へと向けて疲れた体を引きずっている頃だろう。


ちなみに今日の戦果は、買い物先であるスーパーにおいて大河が買い物カゴにこっそりと紛れ込ませた育児雑誌でそこはかとなく不穏なアピールをかまし、
店を出たところを待ち構えていた実乃梨が偶然を装いつつ「一緒に帰ってもいいかな」と背後から声をかけたそのときに、一度自宅まで帰ったのだろうか、
この季節では少々肌寒いだろう露出の多めな服装に着替えてきた亜美が「これからどっか行かない?」等と息を切らせて上気する頬、弾む胸をこれ見よがしに押し付けて誘い、
大河と実乃梨が二人がかりでそれを懇切丁重にお断りし、往来の真っ只中で燃え盛る火柱三つがわけも分からずしどろもどろに眺めているしかなかった竜児を奪い合うという比較的穏やかなものだった。
そんなもんを見せつけられている方の心労は推して知るべしである。
ではなにゆえ今日のこの日に限って能登が単独行動をしているかというと、それは春田が奈々子に捕まっているからであり、何故奈々子は春田を残らせたかというと、ある頼み事があったからだ。

「もぅ、そんなに難しくないでしょう。いつもやってるのと大差ないじゃない」

奈々子からしてみればついでのつもりでという、簡単な頼みだった。
だから春田のあまりにもぞんざいな言い草での拒否ように唇をとんがらせ、ぷっくりほっぺを膨らましたりしてみる。
なかなかに可愛らしい。だけでなく愛らしい。しかも子供っぽいのがどことなく扇情的だ。
こんな人気のない夜の学校でそんな無防備かつ拗ねた仕草なんてとられた日には押し倒されたって双方合意の上だったじゃんと勘違いされても仕方なかろう。
若さとはえてしてそういうものだ。勢いが、そして今が大事なのだ。
仄暗い影の中からぬっと欲の望みがかま首をもたげ耳元まで這いずり上り、誘惑の言葉に甘い吐息を振りかけて囁く。
お前の栄光時代はいつだ。長いこと一緒にいるけどよ、俺あそんなもんについぞ出合ったことはねえ。
先に送って送って、その結果がこれだよ。他人の幸せを羨んで、指くわえてぼけっと見てるだけ。
いつだって待ちをくらって、それでわりをくうのも俺の方だってのにな。
待てど海路の日和なし、いったいいつになったら新しい世界に乗り出すことができんのかね、たく。
おおっと、勘違いすんな。べつに責めちゃいねえからよ、お前は俺で俺はお前なんだ。
数々の苦労を分かち合いバケツに溜まるほどの涙をお猪口で酌み交わし肩を抱き合い励ましあってここまで進んできたじゃあねえか、委細知ってるに決まってんだろう、お前のことなんて。
そんな俺だからさあ、お前がまさかそんな奴じゃねえってこたあよおっく理解してんだよ。骨身に染みてるよ。
でも、ほら、ちょっと手を伸ばせばさ、な? こんなまたとない好機なんて、な? 俺たちゃ男であっちは女で、な? 言わなくったってわかんだろ、な?
そりゃあよ、栄光時代ってのは省みるものであって目指すべきところじゃあねえよ、単なる通過点に過ぎねえよ。
通った後になってから、ああ、あれがそうだったんだって初めて気がつくのが大半だよ、それでいいんだ。
だけど、その栄光時代があるとしたら、紛れもなく今がその時だぜ。
他の誰がなじり誹って批難しようと、俺だけは力いっぱいよくできましたねって誉めてやるよ、だから。
ユー、やっちまいなよ。
などという葛藤ややんちゃなジョニーの自己肯定的言い訳にはこれっぽっちも耳を貸さず、春田は持って生まれた強い意志でかぶりを振った。

「どこがだよ、ぜんぜんいつもと違えよ!」

「そうかしら」

あくまで態度を崩さぬ奈々子に春田は床を手の平でバッシバッシと力いっぱい叩く。
痛みが熱となって広がるが知ったこっちゃない。
他に込み上げるやり場のない感情を発散する術がないのだ。
相手が女の子じゃなければとこれほど切に願ったことはないだろう、でなければとうにぶん殴っている。

「俺さ、確かに聞いたよな。何もしなくていいんだよなって」

確認を取るべく、春田がまるで懇願するような四つん這いの体勢で苦々しく口を開く。
それはあの日のここで、夕焼けの中誓いを立てた、否、立てさせられた時に唱えたセリフ。
紙くず同然のものだとて約束は約束だ。何らかの効力を持って然るべしだ。それを条件にあんな理不尽極まる頼み事を飲んだのだ。
なのに、である。

「何で高っちゃんだけじゃなくて、タイガーたちのことまでつけなきゃなんないんだよ」


しかも春田一人でだ。
ここで今日これまでの能登と春田の過酷な日常を掻い摘んで述べよう。
まだ薄暗い時間、目を覚ました能登は登校準備を終えると学生鞄を引っ提げ、春田の自宅へと向かう。
寒い眠いめんどくさいと渋る春田を迎えに行くのだ。
これが女子だったらまるで学園ドラマの定番であるが、やってくるのは幼馴染でちょっと地味なしっかり者のおさげ委員長でなく、冴えないメガネの男である。
想像しただけで吐き気がする。そんなのはお互い様だった。
朝っぱらから景気の悪そうな顔でぶちぶち文句をたれつつの二人が足を止めたのは学校ではない。
竜児の家の前だ。
能登と春田の一日が本格的に始まるのはここからと言っていい。
電柱の後ろに隠れながらしばらく待ち、大河を伴った竜児が通学すると即座にその後を追い、何かあれば逐一余さず記録する。
澄んだ空気を肩で風きり過ぎ去った道にぺんぺん草も下を向かせる淀んだ何かを残す二人は何かに追い立てられるように竜児から一定の間隔を保ちつつ歩を進める。
学校に着いてもそれは変わらない。むしろ着いたと同時に試合開始のゴングが鳴る。
多くの在校生、並びに教師にとって、竜児の存在は無視できないものだ。
ヤンキー高須の名は本人の与り知らぬところでその蛮力を恣にし、市内はおろか県内でさえもはや掌握が完了していると言って過言でない。
まさに魔王である。
実際には寄ってくる女子を追っ払う大河が、時折竜児を亡き者にせんとする愚かで不幸な他校の不良を「あんたたちもね、あんたたちもそうなのね」と勘違いしてこてんぱんにのしていたのだが、
どこをどうしたらそんな尾ひれまで付いたのか、ヤンキー高須が篭絡した木刀女に身の回りの世話を焼かせているという噂が真しやかに巷に流れ、
巡り巡って駆け抜けたその噂は多大な感染力と恐怖でもってすっかり近隣に定着してしまっていた。
真実はまったくの真逆であり、その木刀女の世話を焼いているのはあのヤンキー高須の方であるというのに。
しかしこれならば大河がその勇名を馳せそうなものだが、彼女は男女の隔てなしに決まって胸を張り、ほっぺを色づき始めた苺みたく染めつつこう言った。
「あいつは私のもので、私はあいつのものなの」と。
笑顔で宣言した大河のそれをとどのつまりはヤンキー高須が強力な戦力を二重の意味で抱き込んだと誤解され、ただでさえ厄介な立ち位置が更に厄介なものにされていた。
当の竜児本人は全く関与せず、また耳にしたことすらないためそんな噂の存在自体知らない。
なので、以前よりも若干強く感じる自身を取り巻く畏怖の念と視線にちょっと傷つき、余計に目を細め、それがまた周囲に要らぬ恐怖心を植えつけているという悪循環に。
これは竜児をよく知らない人間に特に顕著に見られる傾向であり、彼の人となりを少しでも知っていればその境遇に同情すら覚える。
2-Cや同学年の生徒においては比較的竜児の評価は悪くない。好感を持っている者も少なくない。
そして、竜児にそんな印象を抱いているのは押し並べて女子生徒ばかりである。
特別な感情と言い換えても差し支えない。
奇っ怪千万だ。
関わったら新築物件の人身御供か風呂屋に沈められるとまで恐れられているというのに、直接関わった者は近いうち偏見を捨て去り、なんでもなかったかのように普通に付き合えている。
それは性格やら人間性をひっくるめ、偏に竜児の持つ徳と言ってもいいが、にしたって異常なのだ。
無自覚な分たちが悪い、その誑しっぷりが。
竜児は面倒事に巻き込まれることが多い。
大河を引き合いに挙げれば、彼女の起こしたドジにはほぼ毎度毎度巻き込まれる。
それだけ竜児と大河が一緒に行動しているのだからと言えなくはないが、傍らに大河がいないところにあっても竜児は何らかの事態に出くわす。
それはナンパされる下級生の前であったり、ソフト部マネージャーと体育倉庫に閉じ込められたり、麻耶が階段から足を滑らせるところにだったりと、枚挙に暇がない。
共通しているのは皆女性であることと、事態が収束する頃には竜児を見る目が変わっているということ。
まるで恋する乙女のような。
極々一部の男子が極々たまにそんな目を竜児に向けていることがあるが割愛させていただく。
もしかしたら成就するかもしれない恋と、もしかしなくても成就しない恋というものが世の中にはあるのだ。
とにかく竜児は歩けばそんな場面にぶつかることがままあるのだ。顔見知りであろうと初対面であろうと関係なく。


ならばどこでそんなどぎつい桃色をしていそうなものにぶつかるのかといえば、学校がその多くを占める。
当然だ。竜児は学生であり、日々の大半をこの学び舎で過ごすのだから。
あちらが校門をくぐるとにわかに能登と春田が忙しなくなる。
特殊な磁場かはたまた力場でも生まれているんじゃないかと疑ってしまうくらい、行き交う人々は竜児から一定以上は離れる。目も合わせようとしない。
真っ二つに分け開かれた道を、慣れたもので、大河は意にも介さず悠々と竜児を引き連れ歩いていく。
と、一瞬だけ大河がキッと目を吊り上げた。当然竜児には見られぬように。
女の勘はとても鋭いものなのだ。
加えて野性のそれも持ち合わせていそうな大河の勘はとても、とても鋭い。
具体的にどのくらいかというと、足音や話し声などの雑多なざわつきに混じってこっちへ来ようとする特定の気配を敏感に察知できるくらい鋭い。
大体の方向もわかる。目つきを険しくしたのはそちらへ向けて威嚇したのだ。
今回はそれだけで片がついたらしい、何事も起こらなかった。
が、腹に据えかねる大河はむらむらと立ち上ってきた怒りのままに駆け足で下駄箱まで。
なにも野性の獰猛さでもって狩りに行ったわけでも追い討ちをかけんとするためでもなく、下駄箱の中をチェックしに行ったのだ。
自分のではない、竜児のを。
これは毎朝のことである。竜児は戦々恐々となった。これも毎朝のことである。
テレビの星座占いで「乙女座のあなた、今日死にまーす」なんて未来を占われたような顔をしており、牛歩のごとく足が進まない。
先に靴を履き替えていた大河が何故か不機嫌になっていることがある。
理由は皆目見当もつかないが、そうなるとと思うと気が滅入る。
知らないということが罪なら竜児はとっくに縛り首にでもなっているだろう。
そうでなくても既に大河がその首に愛と名のつく鋼鉄製の首輪を嵌めているかもしれない。伸びる鎖が一本とは限らないが。
その日は不審な果たし状は確認できなかったので、大河はけろりと竜児に早く行くわよと促す。
校庭から竜児の姿が消えると、安堵の空気が一面に漂う。
少しだけ、嫌な気持ちになる。
あいつらの気持ちもわからないでもないがと能登と春田は複雑に思うものの、途端それ以上に嫌な気持ちにさせられるものを目撃してしまった。
大河に阻まれて渡しそびれてしまった弁当箱を抱え、ぽつんと寂しげに佇む下級生。
なけなしの勇気を振り絞ったことは想像に難くない。
能登は誰かの代わりにごめんと呟きつつ彼女のことを手にして構えていたノートに記し、竜児たちが入った頃だろう教室へと向かった。
何食わぬ顔で二人が戸を開けるとそこは凍てつく雪国も真っ青のいつもの2-Cだった。
普段はわりと遅めに登校する亜美は今日は竜児と大河よりも早く到着していたようで、朝の軽い挨拶をにこやかに交わしている。
竜児とはまるで恋人にでもするような甘いものであり、次の大河とは傍から見れば完全に罵りあいである。
ほっぺにちゅっはさすがにやりすぎだ。
そして窓の外からは実乃梨の喚き声が拳骨よりも大きいソフトボールと共に投げ込まれている。
げに恐ろしきは正確無比と例えてなお足りないほど的確に開け放った窓に狙って入れられる制球力でも抜群の肩でもなく、彼女は如何にして竜児の現状を察知できたのだろうか。
みのりんレーダーの繊細精緻かつ膨大強力な受信力侮りがたし。
そうしていつもどおり活気というか騒音に満ち満ちた朝は担任独女がHRを終えるまで続き、その後しばらくは冷戦状態に突入する。
さすがに授業中まで好き勝手やってたらあまり良い結果にならないことくらい誰しもわかっているのだ。
合間合間に挟まれる休み時間も大したことはできない。何かしようにも短すぎる。
だから一日のうち、昼休みが最も熾烈激烈猛烈を極めるのは語るに及ばない。
どんなあれやそれが勃発しているのかは呼吸すらも億劫だというように消沈しきっている能登と春田の疲弊度合いを見ればおおよそ把握できることだろう。
しかし一日の大半のエネルギーをその約一時間に持ってかれた彼らに、未だ休みは訪れない。
クラスメートがなだらかに惰性で過ごす午後の授業であっても気を張り詰めさせ、時折突然神隠しに遭うゆりがいなくなったLHRも終え、放課してからが踏ん張りどころだ。
褌を締めなおして臨まねばならない。
外の世界は未知で溢れている。出会いの宝庫だ。
いつどこでフラグとも地雷ともつかないものに遭遇するかわかったものではない。


なにより、まかり間違っても竜児がお持ち帰りされるようなことになるようならそれとなく出しゃばり、いい雰囲気に水を差して台無しにしてやらなければならない。
相応に本気であり、望みをかける乙女たちにとってこれほど迷惑で卑怯な邪魔のされ方もないが、能登と春田にしてみても命懸けに本気なのだ。
特定多数から怨まれるのと失恋に崩れた奈々子の相手をすることを秤にかけた末の苦汁の決断なのだから、あまり責めてやるのも酷というものである。
だが、あっけないほどに何もない日もある。
校外は想定外の事態が起こることがしばしばあれど、竜児がすんなり帰宅できる日も確かに存在する。
そう、奈々子が春田に大河たちのことを探ってこいと仰せ付けた原因はこれに起因する。
ふと気になったのだ、彼女たちが何をしているのか。
行動した後になってみなければ何をするのかわからないのは当たり前であり、事前に知っていれば対策を練るのは容易であることも当たり前である。
情報を制する者はなんとやらとは使い古された陳腐な名句ながらも、知るということは掛け値なしで力なのだ。
詭弁である。
最近奈々子は多分に焦りを感じていた。
先の竜児が風邪をひき、そのお見舞いに行ってからというもの、どうにも前にも進めず後にも引かず、足踏みをしているだけのように思えてならない。
特に何もしないのであれば自然にしていればいいのに、それでは満足できないというか、けれどいきなり馴れ馴れしくするのも違うだろうし。
そんな風に一歩も動けないでいる間にも、大河たちは竜児を手中に収めようと躍起になり、絶え間なく数多のアプローチをしかけているというのに。
恋慕の情が募るに従いジレンマも肥えていく。
膨らむそれをありのままぶつけるには、奈々子の勇気はまだ幼かった。
なので、だ。
その勇気が成長するのを待ちつつ、また、いずれ迎える予定のその時、万全に万全を期するため。

「そこをなんとかお願いできない、春田くん」

なんとしても頷いてもらわねばならない。
それはもうなんとしてでもだ。

「なんとかって、んな勝手な」

だがしかし春田だってはいそうですかなんて唯々諾々と了承するわけにはいかない。
男にストーカー行為を働くというのもそうではあるが、女の子にそんなマネを働くというのはもっと抵抗がある。
現代日本で仮にも高等教育を受けている彼はそのFM-8ばりの処理速度の脳みそをフル回転させ、もっともらしい理由での断り方を必死に検索する。
なかなかうまく丸め込めそうなものは見つからないが、奈々子の頼みを聞いてしまった場合の展開は、目を逸らしたいのにまざまざと瞼の裏に映し出される。
ただでさえ竜児一人を追いかけ回すのに二人ががりでやってるのに、一人で、それもあんな大人数だって? 冗談じゃない。
しかも事が露見してしまえば社会的にせよ肉体的にせよ抹殺されるだろう、必定だ。
人生棒に振りたかないし、まだ天に召したくなんてない。

「俺は絶対に嫌だからな。なに言ったってムダだからな」

頑として譲るわけにはいかない。
ご主人様によく躾けられたわんちゃんよろしく四つん這いという格好ででも、断固拒否の姿勢を貫き通し、春田は突き放すように言った。
これには奈々子も眉根をひそめ、困ったという顔になる。あくまで表面上は。

「どうしても?」

「どうしてもだよ」

「こんなにお願いしてるのに?」

「どんなに頼まれたって、なに言われたって、俺は絶対やらないからな」

そう、と呟き、奈々子が悲しげに目を伏せた。
差し込む月明かりに照らされた横顔に、儚く一筋星が流れるのを春田は見てしまい、打って変わって動揺しだす。
断固拒否の姿勢はどこへやらだ。

「な、なにもそんな、泣かなくったって」

あんなもん演技に決まってんだろ、今までだってこの手でさんざんっぱらハメられてきたじゃないか。
そうは思ってみても、罪悪感は高まる一方である。
十人に尋ねれば十人ともが首肯するというまでに春田はほとほとアホだったが、悪い人間じゃあなかった。
少なくとも泣いている女の子をほっとけないほどには。


「だって、だって」

ぐしゅぐしゅ両袖で目元まで拭う奈々子はただ「だって」と小声の涙声で繰り返すばかりで、その様子はまるで叱られた子供そのものだ。
どちらかといえば同年代の中では大人びた印象を与える彼女のそんなギャップに、いよいよ春田の顔から血の気が失せてきた。
そのくせ発汗は尋常ではない、おそらく背中はびっしょりで地肌が透けて見えるだろう。
とかく女の武器というものは実に使い勝手がいい。なおかつその威力は無類である。
それを実証でもするように、みるみる春田の心の氷を溶かして流していく。
硬く閉ざしたそれを丸裸にするのにさしたる時間は必要なかった。

「もういい」

しばしの間ひっくひっくしゃくりあげていた奈々子が、聞こえるか聞こえないかというギリギリの大きさでそう呟いた。
恐る恐るおもてを上げた春田に、ごめんね、と前置きをおくと、早口で捲くし立てる。

「春田くんがそこまで嫌だったなんて気付かなかったの。春田くんならきっとって。ごめんね、そんな風に勝手に決め付けちゃってて」

「い、いや、ちょっと待ってくれよ。そういう言い方されるとなんか」

「こんな遅くまでくだらないことで残らせちゃってごめんね、ほんと。あたしのことなんて気にしなくっていいから、今日はもう帰っていいのよ」

「だ、だからちょっと、俺の話も」

「もういいってば。先帰ってて」

とうとう奈々子は机に突っ伏し、顔を隠してしまった。
やおら春田が立ち上がる。
長時間正座を強いられていた足は血流がせき止められていたためにふらつき、固いはずの床は無いも同然の感覚で、踏みしめる度じんじんとした独特の痺れを訴える。
無視し、細かく肩を震わせる奈々子の対面に回り込んだ。やや腰も屈め、合わせようと目線を低くする。

「な、なあ、俺が悪かったからさ、な?」

「しらない」

とりあえず謝ってみるも効果はむなしく、にべも取り付く島もない。
すっかり拗ねられてしまっていた。
ここまで塞ぎこまれるほどに酷い行いなんてしてないだろ、と憤る反面、ここまで真剣だったのかと軽く衝撃を受ける。
水面に小さく揺らぎを作った波紋。
次第に輪を大きくしていったそれは、ついにはさざ波から巨大な津波へと発展し、春田を飲み込む。

「ばか」

奈々子がぽつり。
次の瞬間、春田は頭を掻き毟り、その無駄にリンスだコンディショナーだとトリートメントに気を遣っている長髪を振り乱した。
試合終了のホイッスル。決着の合図。心が折れる音。
例えようはいくらでもあるが、そんな感じの音が春田にははっきり聞こえた気がした。

「あああもうっ、わかったよ、やりゃあいんだろやりゃあ!? わかったから泣か」

「ほんと!?」

勢いよく顔を上げた奈々子は素早く机の横に提げたカバンに手を突っ込み、鮮やかな、実に鮮やかな所作でとある紙の束を取り出した。
なにやらどこかで見覚えがある紙の束。ここのところ四六時中否が応でも視界に入るそれ。
ノートだ。
それは能登が後生大事に持ち歩いているノートと瓜二つだった。
いや、一箇所だけ違った。
今一度目を擦り、よおく瞬きして瞳を潤わせ、刮目して見てみる。
新品のそのノートは常日頃相棒が死んでも手放さないと、よもや愛着すら抱いているのではと勘ぐりそうなほど大切にさせられているあれにそっくりだ。
表紙、厚み、大きさ。どれを取っても寸分違わず同じに見える。


何が異なっているのだろう。
穴が空くほど見つめていると、ようやく違和感の正体をつきとめる。
その時である。

「それじゃあはいこれ。引き受けてくれてとっても嬉しいわ。期待して待ってるから、これからもよろしくね、春田くん。じゃあね、また明日」

手渡し、機関銃の如き速さで捲くし立てて言い切ると、そそくさと春田を残して奈々子は一人先に帰ってしまった。
ご満悦なその表情に翳りは一片たりともなく、意識はもう夕食をどうしようかというものにすり替わっているのがなんとなく把握できる。
足音がしなくなるまでぽつねんと見送り、残された春田はノートをブルブル震えた手で握り締め、聞く者のいない闇に重々しく唱える。

「ばか」

誰がだろうか。
きっと下段右端にピンク色の可愛らしい丸文字で書かれた「はるたくん」と言う名の彼に向かってそう言ったに違いない。
こんなオチになることなんて簡単に予想できていたのに。
ゆうに数分は立ち尽くしていた春田が思い出したように動き出し、精気の感じられない足取りで教室を後にし、外へと出た。
いつ頃からそうだったのか、この時期には珍しく霞のように柔らかく雲のかかった月が、まるで朧月夜のようだった。
十一月の朧月夜。
とぼとぼ肩を落として夜道を帰る春田の目には、そんな風光明媚なものは映らない。
映ったとして、月をバックに優しげに微笑み、軽く手まで振っている奈々子の幻影を見てしまいそうだが。
竹から生まれてクレーターだらけの天体に還っていったとんちきなお姫様もびっくりのワガママぶりだ。
浪漫もへったくれもない。
それにしても、けっこう重てえんだなあこれ、と横目で小脇をちらり。
あてがわれた自分専用のノートが放つとんでもない重さに、こんなものをずっと持たされていた能登を改めて不憫に思う。
これが責任の重さだとでも言うのか。責任とはかくも押し潰さんばかりの重圧をかけてくるものだったのか。
あいつは今んとこ耐えちゃいるが、自分はやってけるのだろうか。
自信はこれっぽっちも湧いてこようはずもなく、あいつはあいつでいつこの重責にいつ何時負けてしまうかわかったもんじゃない。
終わりだって、これ、ちゃんと来るんだろうな?
未だまっさらなノートは、しかし捨てることも放置することも許さず、与えられた使命を死ぬ気でまっとうしろと語りかけてくるのみだった。


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翌日のことだ。

「よく来たな、こっち側に。歓迎はできないけど心から同情するよ」

「うっせえよ黙らないとぶっ飛ばすぞこの駄メガネ」

半日ほど前に舞い降りた悲劇を聞き終えた能登の第一声がそれであり、春田は口ではそんなことを言いつつも覇気はなく、げんなりと落ち込んでいた。
能登にしろ本気で茶化したわけではない。
茶化されでもしないとやりきれない、やってられないという春田の思いを誰よりも切実にわかってやれるのはきっとこの世で彼だけだろう。
一蓮托生、死ぬときは一緒だぜのこの関係が生コンを塗りたくられたようにより強固なものになったことが窺い知れる。
しかしまさかこいつにまで仕事が回されるとは思いもよらなかったと頭の隅でぼやく。
そもそも春田がこんなことに巻き込まれたのは半分は覗き見なんぞやらかした自業自得とはいえ、もう半分は自分のせいではないのかという引け目が少なからずあった。
元を辿っていけば竜児に行き着くことはそうなのだが、責任を全てなすりつけるにはあまりに可哀想だった。
能登からしてみたらどう見ても幸せそうには見えなかったから。
むしろ、と。そこから先は考えるのをやめておく。幸不幸を他人が決めるものではない。
それはそうとして春田である。
確かに春田は当初の宣言どおり能登の補佐程度のことしかしていない。
もっと的確に言い表すなら、隣にくっついているだけで何もしちゃいない。せいぜいが見張りかそこらだ。
それは能登が意図的にそうさせていた部分もある。
結局はビタリと背後に張り付いて事細かく何があったかを記録するだけなのだから一人でだって事足りる。
追跡を気取られたくないのであれば二人よりも一人でやってる方がいいだろう、春田は一々大げさにしているので目立つ。
あまり役に立ってはいないし、何か任そうにも余計な心配事を増やしそうなので何もさせやしないが、それでも一人よりは二人である。


そう思えてしまう辺り、春田は精神的な面では少なからず支えになっているようだ。
野郎同士のことだとなんと気色の悪いことであるか。
そんな春田に訪れた転機。口が裂けても好いものだとは言えない。
能登は腹の底から湧いて出る憐憫の情を一言に乗せる。

「元気出せよ」

肩に置かれた手は暖かかった。
どぶんと春田の涙腺が決壊し、鼻からも汚い汁を滴らせる。

「ごめ、俺、ごめ」

「いいさ、なんも言うなよ」

一時能登は蹲る春田に背を向けた。能登なりの優しさだった。
ともあれいつまでもこうしてはいられない。

「それで、どうすんだこれから」

頃合を見計らい、能登は足元の春田へと声をかける。
鼻を啜りつつすっくと春田が立ち上がる。

「どうって、やるしかねえだろ、やるしか。じゃなきゃ何されるかわかんねえし」

「ま、そうだよなあ」

あまり報告を待たせると今度はどんな理不尽を仰せ付けてくるか知れたものではない。
手を抜いたり、虚偽の情報を記したりし、それが公になったとあってはそれこそ何をされるやら。
従順素直で迅速な体はあからさまなほどに見せておいた方が得策である。そのスタンスだけでもだ。
まったく、こういうことにはせっかちなのに、こと恋愛に関してはのんびり屋なのは如何なるわけか。
前者は単純明快であれど、後者は複雑怪奇である。
深遠なる乙女心に触れ、どちらともなくため息がもれる。

「気をつけろよ。高須と違ってあっちはいろいろネジ外れてるから」

「おまえ、けっこうひでーのな」

「なに言ってんだよ。これでも心配して言ってやってんだぞ」

女の子に対していささかあんまりな言い草ではあるが、能登の忠告は至極真っ当なものだ。
恋する乙女とはかくありきであるという決まりはないとはいえバラエティーに富みひたすらに奔放な大河たちを鑑みるに、心配の種は尽きない。
そう、春田の相手はあの大河たちである。
ネジなんてもの外れてるどころか締めてあったのかどうかさえ疑わしい。
能登はお鉢が自分に回ってこなかったことを思わずガッツポーズをしてしまうくらい、心底から喜べてしまう。
ひとしきり生を噛みしめた能登は、死神に目を付けられた不幸な相棒をいかにして生き永らえさせるかという思案に耽りだす。
へた打ちゃ命がない。
他はまだしも、あの三人に見つかってしまったら警察や学校といった類の公権力ないし、家族会議の被告人席へ突き出される前に墓穴へ直送されるだろう。


無論火葬でなく土葬である。並木の中にあって一際色鮮やかな花びらをつける桜があればその根元に埋められていることだろう。
他人事とはいえ看過できない事態だ。
今日まで培った豊富でありながら褒められたものではない経験を踏まえつつ、能登は尾行の鉄則と称した注意事項をわざわざはるたくんノートの最初のページに上から下までビッシリ書きこんでやる。
口頭で伝えきるにはあまりに多かった。
つまり春田が一度に覚えきれる文字数を遥かに凌駕する情報量であり、一日の長というか、伊達に先んじてこんなヤクザな仕事を押しつけられていない的確なものであった。
書き終え、目と目をしっかり合わせる。
これだけは念入りに念を押しておかなければならないと言い聞かす。

「いいか、絶対にバレんなよ。万が一バレても慌てて逃げたりするな、それで捕まったら最悪だ」

「じゃ、じゃあどうすんだよ、見つかっちまったら」

「言い逃れできる場面だったら全力で言い逃れろ。あれ、偶然だな〜ぐらいの機転は利かせられるだろ。てか利かせろ」

「できなかったら?」

ふうっと能登が目を逸らし、どこか遠くを見つめる。その肩が少しだけ震えているように見える。
言葉はいらなかった。
意味するところを十二分に察した春田から表情が消える。

「バレんなよ、絶対」

「お互いな」

ゆめゆめ見つかるようなヘマだけはするまいと固く誓う春田だった。

「あの、ところでさ。春田」

「あん?」

重苦しい空気を払うように能登が一転、よそよそしい口調でそう切り出す。
春田ははるたくんノートを他に入れるもののないカレイかヒラメみたいに平べったい学生鞄にしまいつつ、竜児が出てくるのを今か今かと物陰から探っている。
もう登校しだしてていい時間だった。

「もしバレてもさ、俺のことだけは黙っててくれるよな。友達だろ、俺たち」

「高っちゃーん! ここにストーがぶふぅ!?」

友達の右拳は容赦なく鳩尾に突き刺さった。
頼れる能登の見事な手の平の返しように幻滅した春田の嫌がらせと悶絶の絶叫は幸いにも高須家にまでは届かなかったようで、直後に出てきた竜児と大河はいたって普段どおりに登校していった。
見届け、咄嗟にゴミ捨て場に放り捨てた春田を能登が引っ張り出す。
鼻が曲がりそうな強烈な異臭を放つ春田はぺっぺと口にまで入ってきたゴミを吐き出し、シャレのわからないメガネを一睨み。

「なんか文句でもあんのか」

キラリとレンズを光らせた能登の、その奥で爛々と輝く光を見て何も言えずに引き下がったが。


「たく、もう少しで気付かれるとこだったじゃないか。ほんの冗談なのに真に受けんなよ」

「え、それおまえが言うの」

あれ完璧自分に飛び火しないようにするための予防線だったじゃんと春田は思ったが、思うことを考えなしに口にするという愚行を繰り返すのを避けた。
それこそ愚行以外の何物でもない。
アホはアホなりの学習能力を発揮した。鉄拳指導は一度でたくさんである。

「はあ〜、もういいよ、なんでも。てかさー俺らも早く行こうぜ。高っちゃんのこともそうだけど遅刻しちまうよ」

「そうだな、と。悪い、ちょっと」

制服をはたきながら歩き出す春田の後ろで能登がなにやらポケットを弄る。
マナーモードに設定し忘れたため、先を行く春田の耳にまで着信音が届いた。
数年前に携帯電話を主題にしたことで話題を呼んだとあるホラー映画において、作中頻繁にかかり、その映画を象徴するものとなったあれ。
あの着信メロディである。
放映当時ならいざ知らず、今時ノリで設定するには微妙すぎるそれをわざわざ特定の一人から着信がきた時だけ鳴るように能登は設定している。
よほど嫌いな相手なのか。
それとも、そんなに恐ろしい存在なのか。

「ああ、さっき出たとこだけど。は? え、それだけ? わかった、じゃあ」

通話は十秒にも満たないで切れ、能登はマナーモードに切り替えたケータイをポケットに突っ込む。

「なんだって?」

「いや、高須が今なにしてるかって。それだけ」

「ああ、そう」

通話相手が誰なのかは考える必要もなかった。
束縛の強い彼女を持つと苦労しますなあと軽口を叩いてやろうかとしたが、そんな気分にもなれず、春田は口を噤む。
だってそのとおり過ぎていっそ怖気すら感じてしまう。
人を使って素行調査をさせているだけでは飽き足らず、現在の様子まで知りたがる束縛ぶり。
彼女をそういう意味での彼女にした上で浮気なんてしようものなら、さてどんな結末を迎えるのだろうか。
背筋を駆け抜けていった悪寒が全てを物語っていた。

「高っちゃん、大変だよな」

「そうだな。大変だな、高須」

二人の未来予想図は夢も希望もない、とても未来ある高校生が描くものではなかった。
もちろん竜児の未来像だが。
そんな能登と春田の心配を嘲笑うかのように、二人の目の前では早速合流した実乃梨が大河と仲良さげに抱き合いながら背骨の折り合いを開始していた。
不毛なのは恒例と化すほど毎朝同じことをする大河と実乃梨の方だろうか。
それとも遠目から克明にその様子を書き記す能登と春田の方だろうか。

「もうやだ俺」

「しっかりしろ。一人でやらなきゃならないんだろ。そりゃ俺だって何度も、今だってそう思ってるけど、案外続けられるもんだって」

つまるところ、それ、強く出れずにやめるにやめられないだけだろうが。
早くも挫けかける春田は、気を遣ってくれる能登にこれ以上の負担をかけまいと、そんな内心を曖昧に笑って誤魔化した。
所詮同じ穴の狢である。
あの奈々子相手に強く出れるとか、それができるようだったらこんな苦労は背負っていなかった。

                              〜おわり〜


294 174 ◆TNwhNl8TZY sage 2010/11/14(日) 13:27:06 ID:CRNj3M8S
おしまい
個人的なことで恐縮だけど、書き始めてから今日でちょうど丸二年なのと、なんだか珍しく名前が出てたんで小ネタを。

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