竹宮ゆゆこスレ保管庫の補完庫 - ある二人の日常(4)


127 ◆KARsW3gC4M sage 2010/10/15(金) 21:13:20 ID:ldJuxN3S


[ある二人の日常(4)]



「うっわ…何よ人が多くね、コイツらどんだけ暇人よ」
それがバスを降りて徒歩五分水族館入り口前の広場についた瞬間の率直な感想、これは-1点だね…なんちゃって。
「春休みなんだから仕方ないだろ、それにまだ平日だから救いはあるぞ」
彼がそう言って辺りを伺う。
周りは人に人と人か人………恋人同士に親子同士や友達同士と楽しそうな話声が聞こえてくる。
紡ぐ言葉とは裏腹に私はワクワク、何せイルカが待っているからだ。
「だがカミツキガメがこんなに人気とはな……誤算だった、こんなに人が居たら撮れるか不安だぞ」
『撮るじゃねぇ盗るの間違いだろ、文句があるなら殺されるか死ぬか選べ』
と言いたげな顔をした竜児を見て横に居た兄ちゃんが真っ青になって逃げる、だけどそれは誤解で携帯のカメラを使えるか不安なのだろう。
「大丈夫だよぅ〜それは竜児の思い過ごしですからー、てかあんなカメが人気なわけねぇし」
私とのデートよりカメの方が大事? と遠まわしにヤキモチ、入場券売り場に向かいながらチワワアイでキャンキャン吠えてもみる。
「っていうか?? 普通に考えてぇラッコとかイルカとかマンボウ、んん〜チワワとかの方が可愛いし」
と自分を指差して右肘でツンツン、すると竜児が私を見て……
「おぅインコちゃんもな!」
と気持ちいい笑顔と共に親指を上に立てる、あーあ…これはマジムカつく減点だ減点、ブサインコとチワワを同列に並べてんじゃねぇよ。
「………ふん」
顔を横に背けた私は速歩きで彼より前へ出ようとする…ブサインコをライバル視するわけじゃないけどやっぱりイライラ、竜児には『川嶋亜美が一番』だと言って貰いたかった…。
「でも俺は亜美が一番可愛いと思っているぞ別格だ」
でも間髪入れずにそう言われた私は踏み出そうとした右足がピタリと止まる。さらっと言わないでよ……顔がにやけちゃうじゃん。
「インコちゃんを引き合いに出してさ…一言余計なの」
「おぅ? 何のことだか?」
竜児が何気なしに言ったのか、それとも狙って言ったのか…わかんないけどちょっとだけ恥ずかしい。
そっか竜児にとって亜美ちゃんは家族や友達とは別枠で…大切な大切な『一番』なんだ、ふ〜ん……………ふふ♪
「べっつにぃ〜、それよりも早くイルカを見に行こうよぉ〜カメなんて後回しっしょ」
ちょっぴり機嫌がよくなった私は彼の腕に組み付いて急かしウキウキ気分をお裾分けしてみる。


「そうしてやりたいのは山々なんだが…ほら」
竜児が私に差し出したのはチケットと共に貰った館内パンフ、曰わくイルカショーは午前十時から二時間ごとに行われていて只今の時間は十時半過ぎ……。
カミツキガメに興味深々な竜児もどうせ見るなら最初から見たいのだろう、それは私としても同意見なわけで……。
「じゃあ適当に見て回って…だね、ラッコが見たい!」
「おぅ! でもカミツキガメも…」
「しつこい」
ピシャリと言い放った後はニッコリ、忘れずにちゃんと見てあげるわよ…『カメ』は。
「あは…きょーぼーなカメを亜美ちゃんにそぉ〜んなに見せつけたわけ? やぁ〜んこーわーいー」
「はあ…誤解を招く言い方をするな、ま…とにかくそういうことだし入るか」



「わ……やば」
館内に入り順路を進む人波に私達は混ざる、はぐれないようにしっかり組んだ腕にしがみついてデート中なのを周囲にアピールするのも忘れない。
こうすると周りが空気を読んでくれるのだラブラブオーラ全開で混雑していても近くに人が寄って来ないし、もしファンが私を見つけても声を掛けづらくなる。
ちなみに私は今、水槽の中で悠々と群れて泳ぐアジに見入っている。
私は魚に詳しいわけじゃないから多分アジ…サンマじゃないのは間違いない、説明文を見たくても髪を禿散らかしたおっさんが邪魔して見れない。
もしかしたら竜児に聞けばわかるかもね、でも私達は魚を観察しに来たわけじゃないデートしに来たのだ、抑えた照明の薄暗さは海の中そんな雰囲気を味わっていちゃつく為に来ているの。
だから魚が泳いでいればそれでいい、チビとらじゃないけど魚は食べるに限る鮮やかな色合いのやつなら別だけどね。
綺麗なモノにはトゲがあるの、うかつに触ったらチクッとな…愛でて楽しむだけにしときな、これ絶世美少女モデルからのアドバイス…あ、竜児は特別だよ。
「すげぇ数だな、並の包丁なら捌ききる前に刃がダメになる」
哀れなレジスタンスを路地に追い詰めた少佐殿のような顔付きでそう呟く彼を見て私はおかしくなる。
「その前に全部捕まえてみなよ、ぷふふ…」
「無茶言うな釣りすらしたことがないのにいきなり漁はハードルが高いぞ」
今更だけどカップルがデートでする会話じゃないよね色気もあったもんじゃない、けど…さ……こういう一時が重要だと私は思っているんだ。
麻耶ちゃん達みたいに常にあうあうドキドキしてたら心臓がパンクしちゃう。


どうでもいい他愛のない会話の中にちょっとづつ散りばめられた愛情を一人になっている時に想い返してニヤニヤするのが楽しいんだもん。
「おぅ見てみろよネコザメだぞ」
竜児が指差す方に目を向けると小さなサメがウロウロ、やだ…ちょっと可愛いかも。
私は思わず水槽に両手を添えて覗き込む、もうちょっとつぶらな瞳でモコモコしていたらぬいぐるみにモーターでも仕込んでいるんじゃないかと妄想してみたり。
でもどんなに小さくてもサメはサメ、私が見えるのか偶然かはわからないけど目前で鼻先を向けて口を開いて鋭い歯を見せつけられる。
ビクッと肩を震わせると竜児がクスッと笑ってこんなことを教えてくれた。
「ちなみにコレ、カマボコの材料の一つだったりするのは知ってたか?」
「ウッソ…マジ? こんなに可愛いのを食べちゃっているワケ? …てことはカマボコってサメの擂り身なの?」

私は彼を質問責めする、だって本当なら次にカマボコを食べる時にガチ感謝しなければいけないし……。
「スケトウダラとかイワシがほとんどだけどたま〜にサメも混ぜるんだよ、加工食品だから雑魚も関係ないからな」
「ならいいけど…このサメが主だったらカマボコ食べれなくなるとこじゃん」
すると彼は首を傾げて私に聞いてくるのだ。
「お前ってサメが好きなのか?」
「うーん……このネコザメだけは好きになったかもね、でっかいのとかはダメ、中古の高級車に乗ったヤンキー並みにダメ」
いかにも俺は強いぞー偉いぞーなイメージなんだよねデカいサメも型落ち高級車のヤンキーも…小さいのはいいことだ、なんだっけエスプレッソだかカプチーノだったかコーヒーの名前みたいな軽自動車…ああいうのが好みだ。
「そんなもんなのか……そうそう順路からして次はペンギンとかラッコだな」
そう言われたら俄然私の興味はサメからペンギンとラッコに移る、ヨチヨチ歩きのペンギンが前脚をパタパタさせている姿やこっちをジーッと見ながらホタテ貝をガシガシ叩くラッコを見たい、触りたい、ギュッと抱きしめたくなるのは当然だ。
そりゃ見るだけで触れないし抱きしめもできないのはわかっているよ?
でもでも………小さいのがいいことなら可愛いは罪だ、亜美ちゃん自身が可愛いからよ〜くわかるもん抗えないもん衝動的に愛でたくなる。
「何してんの魚はもういいでしょ? 次に行こう…ほら急いだ急いだ!」
私はニヤケる頬を引き締め直して彼の腕を力強く引く。


「はいはい…ペンギンもラッコも逃げねぇから落ち着け」
「は? 亜美ちゃんいたって普通なんですけどぉ?」
頑張って隠したはずのワクワク感は竜児にだだ漏れ、私は恥ずかしくて虚勢を張ってしまう…ちょっと可愛くない。
けど思い返す暇があるなら先へ進めというわけで私達は順路を進む、途中淡水魚の水槽に心奪われた竜児を急かし熱帯魚を後ろ髪を引かれる思いでチラ見しつつ……。
「そういえば水族館にペンギンとかラッコがいるのっておかしくない?」
「ん? 別におかしくはない………ような」
「いやおかしいって、だってペンギンやラッコって魚じゃないじゃん」
だよね? 私のイメージ的には水族館=水生生物なのだラッコはギリギリ譲るとしてペンギンは違う気がするの、ましてやカメは…………あれ? 一応は水生生物に含まれるわけ?
「それを言ったらイルカは哺乳類だ、海の中に住んでたりすればいいんじゃないか?」
「ペンギンは海に潜れるけど水中に住んではいないじゃん、それならここに白熊が居ないのはおかしいし」
「多分だが白熊は海には潜らないけどペンギンは海の中で魚を捕る、そんな微妙な範囲で決めている……のか?」
悩んだところで答えは見つからないし言ってしまえばどうでもいいことだ、ちなみに動物園でならペンギンも白熊も見たことがある、だから理解は出来る。
だけどこの水族館にはペンギンが居る………ああもういいや面倒くさい。
重要なのはヨチヨチ歩きパタパタなペンギンであって、ここが何を飼育しているかなんて関係ない。
この渡り廊下を越えたらとうとう出逢えるのだ、私の胸をときめかせるであろう可愛い生物に。
「……………ショボい」
とワクワクしていたらプール状の飼育場所の端にある小島にペンギンが一羽、数羽飼っているみたいだがどこにも見当たらない。
しかも無気力そうな感じを醸し出す可愛くない目つきで虚空を見詰めてたまに体が揺れるだけ……これって剥製? それともよくできたぬいぐるみ? 正直なところ期待外れだ。
「あー……えっと他のペンギンは体調不良らしいぞ」
そんな私のしょげる姿を見て竜児が近くの貼り紙の内容を教えてくれる、このペンギンが体調不良じゃないのどう見ても。
毎日毎日、人間が来てはキャーキャー騒がれてウンザリしているのかもしれない、でも亜美ちゃんが来ているんだからサービスしてくれたっていいじゃん。


そう念を込めた視線をペンギンに送るとすぐに背中を向けられてしまう…ちょっと悲しい。
「……もう帰る」
私はがた落ちテンションで呟いて踵を返そうとした、しかし竜児の喜色な表情が視界の端に映り込んで…思わず彼を見てしまう。
「か、かわいいじゃねぇかコイツ」
ああ…竜児もショックだったんだね混乱しているに違いない。
「どこらへんが?」
私は振り向いてかのペンギンをチラ見してどこが可愛いのかを探ってみる、僅かな時間の間に腹這いになっている……確かに可愛い気もするけどさ…ポイントアップには繋がらない。
「よく見てみろよ、ほら尾を見ろ……、きっとアイツは不器用なんだ」
なぜか声を潜めてヒソヒソと私に語りかける彼をちょっと睨んでため息を漏らす。
「別に普通じゃん、てかあのペンギン感じ悪過ぎ…亜美ちゃんに愛想を振りまかないしぃ…」
と愚痴った後にジッと見てみるとある事に気付く、尻尾が……凝視しないとわからないくらい細かくピョコピョコと左右に振れている、やだ………可愛いかも。
「ま、まあちょっとは可愛いかもしれないけど……無愛想なのに変わりはないって言うかぁ……」
「テレビとかで見る限りペンギンは無愛想だぞ、ああ見えて歓迎してくれているんだと思う」
竜児はそう言って左手で私の髪を梳く、私は突然の行為にキョトンとするしかない。
「今から思うと去年の聖夜祭の頃の亜美があんな感じだったな、サバサバしている風に見えて実は……」
「うっさい……亜美ちゃんはもっと愛想いいし!」
近頃の竜児は色っぽい、鈍感なのは相変わらずだけど天然ジゴロっぷりには磨きが掛かってきて…この前だって奈々子が……
『高須くんって亜美と付き合い出してから色気プンプンだよね』
とか言ってたし、無意識にエロオーラを振りまくから気が気じゃない。
顔が真っ赤に紅潮していく……彼が私の耳を指先で撫でるから…だからきっと恥ずかしくて…………スキンシップが嬉しくて。
「おぅ、亜美は愛想がいいと思うぞ……俺には」
スッと耳たぶから指が離れていく、それが名残惜しいと感じている『川嶋亜美』をどこか遠くで見ている気がした、誰も居なければもっと触れてとせがんでみたい。
ザブンと大きな音を発てペンギンが水面に波紋を残して消える、甘々タイム終了の合図だ。
「ラ、ラッコ………」


「ん?」
「ペンギンは潜っちゃったし次はラッコを見ようって言ってんの」
竜児は『いつものように』私に触れただけ、でも私はそんな彼の何気ない行為に一人興奮して…『えろちー』になってしまう、それが妙に悔しくてツンツンとぶっきらぼうな言い草になってしまう。
どんなに身体を重ねて満足しても次の日には元通り、私は常に持て余してしまう
『もっと抱いてもっと辱めて……もっと愛して』
留まることを知らないのだ、それを私は理性で抑えつけて自身に嘘をつく。
素の川嶋亜美は甘えん坊、それを受け止めてくれるから私はワガママになっていく…。
胸の鼓動が速くなり本能に火が着きそうになるのを堪え、彼の腕を強引に引いて順路を進む。

...
..
.

「おぅ、おぉう…」
ラッコを上の空で眺めて次は竜児お待ちかねのカメだ、ソワソワしながら辺りを見渡し感嘆の声を洩らしている。
私はここに来るまで別の意味でソワソワしていた、何度暗がりに連れ込んでやろうかと思ったことか……そんな勇気ないけどね。
「ようやく逢えたじゃん、てかカメがそんなに好きだったの?」
「いや、好きっつうか……おぅコイツらを見ていると時間を忘れてしまうんだ」
私は知っているよ、本棚に置いてある図鑑のカメのページだけがボロボロになっていることに…好きってことじゃん、遠回しに言って誤魔化そうたってそうはいかない。
「亜美ちゃんは好きだよカメ、首を引っ込めて縮こまっている感じとか可愛いと思うし」
彼の股関をチラ見しながら言ってみたりして、だが竜児はどこ吹く風で腰を屈めてミドリガメを眺めている。
「あー…コレ小学校のクラスで飼ってたよ、触ったこともないけど…」
「おぅ、実は一度だけこのミドリガメを飼ってたんだがインコちゃんが何故か凄く嫉妬してな…泣く泣く泰子の店の客に貰ってもらったことがあるんだ」
そう回想しながら彼は携帯のカメラでパシャッと撮影、とっさにミドリガメが首を引っ込めた。
「ふ〜ん、何でインコちゃんが嫉妬したんだかわかんなかったわけぇ?」
「俺には皆目見当がつかねえよ、泰子は知っているみたいだが何度聞いても教えてくれなかったな」
「ん……亜美ちゃんは何となくわかったかも…」
私は彼と並んで屈みガラスケースを人差し指で突っついてみる、インコちゃんは竜児が盗られるかと思ったんだ構ってくれないから嫉妬したんだよ。


もし私ならそんな事態になったら相手に噛みつきに行くよ
『私の竜児を盗るな!』
って威嚇するもん絶対に…。
相手してくれなくなったら悲しくて自棄になるかもしれない。
「ま、鈍感竜児にはぜってーわかんないって…ふふっ」
そう言って立ち上がり後ろ手を組んで次のケースへと歩む。
「なんだ…泰子もオマエも結局は教えてくれねぇのかよ」
彼も私に続き不満そうに呟く、だから人差し指の腹で鼻を軽く押して一言。
「教えないよ」
そしてニコッて微笑んでからケース前で一緒に屈み彼と腕を絡めて頬を寄せる。
「だって"ラブ嗅覚"が敏感な女の子にしかわかんないことなんだもん」
そう告げると彼はわかったようなわからないような複雑な面持ちで私を見た後に頭を振る、気持ちの入れ替えといったところだろう。
「まぁ、なんだ、良い方に捉えておく」
「んぅ? 何々、ほれ亜美ちゃんに話してみ?」
「言わねぇ、教えねぇ、オマエだって教えてくれないんだからな」
と、ちょっとふてくされた竜児は可愛い、子供っぽいから母性をくすぐられて『イジワル』したくなる…でも私はあえてしない。
「女の子に"ヒミツ"があるなら男の子にも"ヒミツ"があるんだし気にしちゃダメだわ」
「でも……一言だけ言うなら……愛しているからこそ"嫉妬"してしまうってことかな?」
そう付け加えたのはヒントどころかアンサーだ、でも男の子には……特に竜児にはわかんないよ多分。
竜児はみ〜んな平等に〜な『博愛主義』だからね…『私以外』には………なんちゃってなんちゃって!! キャーキャー♪
私は心の中で惚気つつ彼と頬を寄せる『イジワル』はしないけど『イタズラ』はしたいから密着しなきゃ…。
周囲の客は子供しか居ない、そして子供ゆえにカメに夢中、竜児も私に気を向けてはいながらカメに集中……なら今しかないと私は手近なカメ目掛けて………。
「ほらクヨクヨすんなって元気出しなよ」
元気な声で言うわけじゃなく普通より少し小さめな声で私はそう彼の耳元で囁きサッと股関を掴む。
「うぉうっ!?」
驚いた竜児はビクッと身体を跳ねさせる、幸い誰も気づいてないし気にしてない。
「しーっ…わざわざ飼ったり写メを撮らなくても今飼っているミドリガメをカミツキガメにしてあげるからさ…」
もちろん私はノリノリで指を蠢かせる、その度に彼は弱々しく身じろぎする。
「ば、ばか…人前だぞ…や、やめ」
「どうせお子ちゃまばかりだからわかんないって」


大胆? 痴女? 違うよスキンシップだってば…人前でするには過激な。
朝から欲情してる…んだと思う、ピンクな大人の世界を覗いたしキスしたし甘えん坊タイムしたし………昨日は久々にエッチしたし。
『スケベな亜美』が、淋しいよー構って構って! って彼を『その気』にさせたくて私にさせる、本当はこんな場所ですることじゃないけどしてしまう。
だから……スキンシップと言い訳して私は………。
手の平の中で『きょーぼーりゅーじ』が目覚め始めたことにワクワクし調子に乗ってチャックを……良かったねほらジャケットでいい感じに隠れるし? んん? なかなか出て来ない……。
「わ、わかったから……お願いだ止めてくれマジシャレにならん、おぅう…見ら、れているから」
………はい?
私は辺りを見渡してみる、すると真横に3歳くらいの女の子が指をくわえて不思議そうに見てるし…………っ!?
「ねぇねぇねぇおねーちゃんなにしてるのっ!?」
おさげ髪をぴょこぴょこと跳ねさせながら大きな声で元気よく。
「あああっ…と! えっと……うぅ、えっとねぇ、これは!」
「お、おぅ…お、お兄ちゃんお腹が痛くてな、お姉ちゃんに撫でてもらってるんだよ!」
冷や汗ダラダラな私達は作り笑いでそう答える、すると女の子は……
「ぁう…お兄ちゃんお腹痛いの? …………ひっ!?」
竜児の元へちょこちょこと駆け寄って私の手を引き剥がそうとして、ふと上を見上げたがよほど今の竜児は恐ろしい形相なのだろう、顔面を蒼白にし涙目で逃げ出した。
実のところ手を引き剥がされていたら非常にマズかったのだ、首を擡げたカミツキガメがちょっとだけこんにちわしてトラウマを植え付けかねない。
「ふぅ……一時はどうなるかと思ったよ」
額のイヤ〜な汗を拭って亜美ちゃんミッションコンプリート、カメを守りきった!
「それは俺のセリフだ…こんな場所でこういうことは止めてくれ、この歳で警察沙汰は………………おぐぅっ!!??」
ブツブツと文句を言いつつ彼はチャックを上げ始め、くぐもった呻きを洩らした後にブルブルと震えだす。
「ちょっ! どうしたの!?」
冷や汗が脂汗に変わり顔面が青くなったり赤くなったりしている彼の肩を掴んで顔を覗き込む。
「は、はははは挟んだ」
両膝を床につけ前屈みになり泣き笑いにも似た表情で彼は震える声で告げる。
「は?」
「挟んだ挟んだ…挟んだんだよ! うぅ……竿を……俺のムスコを……っ」


「マジ!? 大丈夫? 痛くない!?」
とっさに私はカメと彼の顔を見比べてカミツキガメに噛みついたカミツキチャックを退治にかかる、…がそれを竜児を優しく制して一言。
「俺に任せろ、すぐに何とかする、オマエは周りを見ていてくれぇえ…」
半ば鼻声な彼を見て私は周囲を警戒、万が一バレたら警察沙汰どころか新聞の三面記事に載る。
『白昼堂々!変態カップルが亀の展示でカメ解放!.大橋市の高校生二人を補導』
とか書かれる!
脳内タイプライターが瞬時にそんなタイトルを打ち出していく、私は必死に周囲に目を配りその間に彼は在るべき場所に大事な大事なモノをしまい込み、内股でフラフラと立ち上がる。
「よ、よし…次はカミツキガメを見よう、そうしよう」
何が彼をそこまでさせる? 痛みを堪えるためか、それとも……。
きもち前屈みでちょい内股な竜児に寄り添う私は申し訳無ささでいっぱい、先ほどまでの高揚していた気持ちが一気に沈む。
「あ、うぅ…ね、ねえこのカメって竜児に似てない? うん似てる似てるぅ"りゅーじ"って名付けよーっと! あ、あはは………、…ゴメン」
でもいい雰囲気なデートをぶち壊したのは私、だから無理やり盛り上げようとして…やっぱり無理で。
目の前のカミツキガメを指差してわざとらしく振る舞ってみるけど落ちた気持ちは浮上しない、かと言って
『亜美ちゃん帰る!』
とかそんなワガママは言えるわけない、彼が許してくれるまで私は媚びるしかない、いや誠意を見せるしかないの…。
ショボンとうなだれている私を見ても彼はいつものように頭を撫でてくれない…優しく許してもくれない……そりゃそうだ十割中の十割、全てにおいて私が悪いのだから……。
「あ…」
でも…手は繋いでくれる、ギュッと強く強く握ってくれる。
それが何を意味するのかわからずに私の喉がか細く鳴る……。
恐る恐る指を絡めてみると絡め返してくれた、試しに肩を寄せても拒絶されない。
「いいからよぅ、気は使うな…直に治るからこんなの」
「でも…」
「いいって、その代わり水族館の帰りに少しキツい目にあってもらう、いいな?」
そう告げた彼に対して私に拒否権はない……だから微かに頷いて返してゆっくり目を合わせる。
「わかったよ」
私は目を離さない、この帰りに何をされるのかわからないけど……ちゃんと謝りたい…許して貰いたいから何をされたっていい。


私は怖い、竜児に見放されるのが怖い、イヤ…そんなことになりたくないもん。
だから…それが私にとって不利だったり辱められることでも逃げない、そう伝えようと目で訴える。
「言っとくけど体力的にキツいことだからな、まあ亜美なら大丈夫だろうが」
そして頭を軽くポンポンと撫でられ、次第に彼が怒っているわけじゃないとわかってきたので安堵感を覚え、続いて私は頭の中で考えを巡らせる。
体力的にキツいこと……何だろ? ま、まさか………し、縛ったり…放置プ、レイ……? いやいやまさかの……仕返しにロウソ……はっ……今夜は帰さないし寝かさない!?
少し浮ついたことを妄想して私はジワリと汗が滲んでいく……おちんちんを挟んじゃったわけだからタダでは済まないのは確か。
「うぅ…頑張る」
そう返すのがやっとでサッと目を逸らす、見慣れた竜児の瞳を見れなくなるよぅ。
「おぅキツいのは俺も同じだから一緒に頑張ろうぜ、ちなみに"ソレ"が考えに考えたオマエを満足させれるデートの締めだ」
『ソレ』の部分を強調して彼はカミツキガメをパシャっと写メで何枚も撮る、その横顔は満足そうだ…対して私はドキドキ。
体力の限界まで何回も致す気なんだ……絶対にそうだ! 泣いて謝っても押さえつけて失神しても満足するまで……あぅ。
「竜児がそうしたいなら、さ…亜美ちゃんもいいかなぁって思うし……そうしてもらえたら気持ちも楽?だし…」
ゴニョゴニョと呟いて上目遣いで見やった私は今どんな顔をしているのだろう?
わかんないや…。
「ん? 多分オマエも喜んでくれると思うし、まあそういうのってあまりしたことがなかったしな…楽しみにしてくれてもいいぞ!」
自信たっぷりに語る竜児に一抹の不安を覚える、悪い意味じゃなくてさ……その『凄い愛し方』をしてくれるんだろうなぁ〜身体が保つかな?
とかとか…キスマークとか噛み痕をたくさん残されて仕事に行ったら恥ずかしいよぅ……なんてそんな『不安』だ。
「イルカショーまで時間もあるし昼飯でも食おうぜ、外にベンチがあっただろ? 行こう」
私は引かれるままに着いていく……数時間先に起こる事態を妄想し期待しながら………。




続く。


137 ◆KARsW3gC4M Sage 2010/10/15(金) 21:25:39 ID:ldJuxN3S
今回は以上です。
次回からはエロ分が入ります、投下予定はかなり先な…(ry

また書けたら投下させてもらいに来ます。
では
ノシ

126 ◆KARsW3gC4M sage 2010/10/15(金) 21:11:29 ID:ldJuxN3S
皆さん大変お久しぶりです。
[ある二人の日常]
の続きが書けたので投下させてもらいに来ました。
前回の感想をくださった方々、まとめてくださった管理人さんありがとうございます。
前の投下より時間が開いたので説明しますと
亜美×竜児で[伝えたい言葉]及び[言霊]の続編で今回は微エロ&男性にとって身が竦む描写があります、苦手な方はスルーしてやってください。
では次レスより投下します。