竹宮ゆゆこスレ保管庫の補完庫 - すみれ姉ちゃん3
◆..4WSlv9x6 2009/11/17(火) 02:26:22 ID:bwIij53+



すみれ姉ちゃん第3章



……素晴らしい…素晴らしすぎる……圧倒的じゃないか!!
「ふっ…ふふふ……クククッ……すげぇ、すげぇぜこいつは…俺は、とんでもない代物を手に入れちまったみたいだ。」
にやけっ放しの面、この台詞、そして認めたくないがギラギラと狂おしく光る三白眼。これだけを見れば俺は危ない
クスリを打ってヘヴンな状態の男にしか見えないだろう。しかし、それは否、断じて否である。
「何時もより多めに買い物したのに……使った金額がさほど変わらない……このカード、噂以上だ。」
両手で掲げるカードの真ん中には「かのうや従業員専用カード」の文字。このカードを提示すればどんな商品だろうと
二割引され、そしてそれが何回であろうが使えると言う、主婦にとってはまるで夢のような代物である。
カードをニヤケ全開で眺めていた時、
ヴーッヴーッヴーッ
「っぉおう!?」
机の上の携帯がバイブレーションしていた。何度あってもあれには慣れない。フリップを開き通話ボタンを押す。
あ、相手誰か確認すんの忘れた。
「えと…もしもし?」
「よう、竜児」
凛とした女性の声、そして俺の呼称、この二つを総合し、導かれる人物は…
「何の用だ、姉ちゃん?」
狩野すみれ、生徒会副会長、そして俺の幼馴染、もとい俺の姉的存在だ。
「明日の昼についてだ。」
ああ、店の中で話したやつね。
「んで、場所はどこにしたんだ?」
「屋上だ。明日は晴れて日差しも暖かいだろうしいいと思った。」
そういや天気予報でそんなこと言ってたな。
「分かった、腕によりをかけて作るから期待してろよ?」
「ほう、随分と自信たっぷりじゃないか。期待して明日を待つとしよう。では、また明日。」
「おう、おやすみ、また明日。」
ふう、さて、どうしてこうなったんだっけ?
たしか姉ちゃんが俺に料理の腕前が上がったかを聞いて、それに俺は自分自身じゃわからんと答えた。
うん、そこまではOKだ。問題はその後だ。
それで姉ちゃんが明日私の分の弁当を作れ、そして一緒に食べようと言ったんだ。
弁当を作るのはこの際良い、何故一緒に食べるんだ?別に朝渡して帰りに感想を聞くでもいいんじゃないか。
そう考え指摘しようとしたが、時既に遅し、話が決まってしまった。
全く、どうしてこうなったんだ。………まぁ、いいや。姉ちゃんと一緒に飯なんかほんとに久しぶりだ。
楽しみじゃないわけが無い。それに今あれこれ考えても仕方ない。風呂に入って寝るとよう。

******


四時間目のチャイムが鳴り授業が終わッたこと告げる。
号令係が起立、気をつけ、礼と号令をかけ、教室は昼休みモードへと移行する。
背筋を逸らす、これが中々に気持ち良い。さて、屋上へと行きますか。


ギイ、と音を立て屋上へとつながる扉は開いた。姉ちゃんはまだ着てないらしい。
暫く待つか、それにしても良い天気だ、コンクリートも暖められていて良い感じに暖かくて気持ち良い。
こうやって座ってボケーっとしてると寝てしまいそうだ。
…………
「悪いまたせたな。」
「んん、あ、ああ、姉ちゃん……」
少し寝ちまったみたいだ。
「授業が中々終わらなくてな……ってお前寝てたのか?」
「ああ、少しだけな。」
「まあ、こんな天気じゃあ仕方ない。まあいい食べよう。」
「おう、ほら姉ちゃんの。」
昨日渡された弁当箱を渡す、そしていざ自分の分を開けようとした時、
「おいちょっと待て。」
「ん、何だよ、食わねぇのかよ。」
なんとなく不機嫌そうに言ってみた。
「いや、そういう訳じゃなくてだな、その、なんだ、あそこで食べないか、良い景色だぞ?」
姉ちゃんが指した所はちょうど先程上ってきた階段の真上に位置するところだった。※
「まあ、別にいいけどよ。」
「よし、さっさといくぞ。」

「……………」
「な?良い景色だろ。」
あまり見慣れない光景に思わず見とれてしまった。
「ほら、早く食わないと昼休み終わっちまうぞ。」
はっ、そうだそうだ早く食わねば、
「お、おうそうだったそうだった。」
「では。」
弁当を開き、両手を合わせる、そしてどちらからとも無く、
「「いただきます」」

※注釈:文章では分かりにくいですが、アニメで北村が大河に告白した後、兄貴が登場した所です。


「ごちそうさま、あーっ食った食った。」
………こういう男っぽさが「兄貴」と呼ばれる所以なんだよなあ。本人は無自覚みたいだけど。
「お粗末様、んで味の方はどうだった?」
正直言ってかなり気になる。姉ちゃんがしたリアクションと言えば最初の一口で目を見開いたぐらいだ。
「美味い!」とか、「この弁当は出来損ないだ、食べられないよ。」とかせめて簡単な批評が欲しかった。
「んー、そうだな、青は藍より出でて藍より青しって奴だな。」
アオ?アイ?何だそりゃ。
「知らないのか?簡単に言えば師匠を超えたってことだよ。」
「えっ、それってまさか……」
「ああ、悔しいが同じ料理でも私はここまで美味くは作れない。負けたよ。」
実感が涌かない。料理を姉ちゃんに教えてもらって以来特に何も特別なことはしていない、
それなのにいつの間にか姉ちゃんを追い越していた。雲の上の存在だと思っていた姉ちゃんを追い越していた。
「どうした?もっと喜んで良いはずだぞ?」
「いや、違うんだ、実感が涌かないだけなんだ。」
「そうなのか。……よっと、あー日差しとコンクリートが程よく暖かい。このまま寝ちまおう。」
この生徒会副会長、堂々と午後の授業放棄を宣言した。これでいいのか?大橋高校。
「飯食ってすぐ寝ると牛になるぞ。つーか堂々とサボりを宣言すんなよ。」
「美味い飯を食ってこんな良い天気中寝られるなら牛になっても私は構わない。」
それはひょっとしてマジで言ってるのか?でも確かにこれは気持ちよさそうだ。あー、何か眠くなってきた。
………寝ちまおうかなー
「何だよ、そういうお前も寝るんじゃないか。」
「なんか俺も眠いんだよ。それに次の授業古典だから授業に出ても結局寝そうなんだよ。」
「先生ー、一年C組の高須竜児君は授業をサボるようでーす。」
間延びした声、いかにもふざけて言ってる感じだ。
「姉ちゃんが今言って良い台詞じゃねーぞー。」
俺も同じように返す。のんびりぽかぽか平和な時間。こういうのも悪くないなー
そう思っていた。そうであって欲しかった。

ガチャ、バタン!!荒々しく閉められた。思わず起き上がりドア付近を見る。横を見ると姉ちゃんも
同じ様にして下を見ていた。ドアから現れた者、それは、一言で言えば小さかった。
ふわふわしたのロングの髪、華奢な体つきで押せば倒れ、割れてしまいそうな繊細さがあった。
「………ッ!」
やばい気づかれた、二人で慌てて腹ばいに伏せる。ああこっち睨んでる、怒ってる。でも、なんて言うんだろうな、その、
(かわいいな、あいつ。そう思わないか?竜児。)
(ああ、俺もそう思った。フランス人形って感じだ。)
緊張感に欠けた会話を繰り広げた。それにつられたかどうか知らないがこちらを睨んではいなかった。
ふう、と息をつく。全身の筋肉からも力が抜けるのが分かる。
あの目は狩る者の目だった。なんで一介の女子高生が殺気を発してるんだ。一体何があったんだ?
あ、大変なことに気付いちまった。
(なあ、姉ちゃん大変だ。)
(どうした竜児?)
(ここから降りれなくなった。)
(?見つからないように降りればいいだけじゃないか。)
(んなスネーク見たいな事俺に出来ねーよ。)
「ヒイッ」
しまった、この人蛇が名前も聞くのが嫌なくらい蛇が苦手だったんだ。でもまさか英語も駄目とは思わなかった。
「そこにいるのは………誰じゃあああああいっ!!」
oh my god マジでばれちまった。さて、どうしたものかなーアッハハハ。
「俺だ、しかしよく気付いたな。」
そうだよ俺だよって……アレ?誰だ、あいつ。
あの坊ちゃん刈り、眼鏡、どっかで………あ!俺のクラスの北村だ。でも何故ここに?
「あなたはキレイだ!」
ゑ?告白?今の、さっきの。
「気持ち悪い!」
女子が北村に右ストレートを繰り出した。けど鼻先で拳がとまる。無風のはずなのに北村の髪が揺れた。
寸止めって奴だ。達人クラスなると失神できるらしい。この女子の寸止めはそこまで行かないものの、
北村をへたり込ませていた。へたり込んだ北村は嬉しそうな顔で立ち上がった。
「いい!そのストレートなところに惚れた!」
すげえ、フられてもまた告白した。普通なら逃げ帰るはずなのに、そこでまた惚れたといった。
………俺には真似できそうにねぇなあ。
「死にさらせぇい!」
北村の脇腹に右フックが綺麗に入る。うずくまり呻いてる北村に一瞥をくれてやり、その女子は屋上から出て行った。
ひどいふられ方だった。自分だったら御免被りたい。でも少しうらやましいと思う。ひどいひどいふられ方とはいえ、
ちゃんとフられたんだ。俺みたいにじゃなく、ちゃんと………
(なあ、姉ちゃん)
(なんだ?)
(あんな風にフられるのと答えをはぐらかされてよく分からないまま終わるのとどっちが辛いと思う?)
(あいにく私は誰かから告白されたことも、したことも無いから分からん。)
姉ちゃんらしい答えだと思った。でも今俺が欲しい答えはそんなものではない。

(おい竜児、あの眼鏡を生徒会に引き込むぞ。)
(はあ?北村を?何で?)
(ほう、北村と言うのか。竜児、耳を貸せ、協力してもらうぞ。)
(……それまじでやんの?)
(当たり前だ、ほら、やるぞ。)
…ええいままよ!
「そこの新入生!悪いがすべて見させて貰ったぞ。」
二人一緒に立ち上がり腕を組み、下を見下ろす。正直恥ずかしい。
「あ…あなた達は…」
北村が俺達を視認し動揺する。すまん、許してくれ。
「ん?私達か?私達はなぁ……」
「通りすがりの!」
「せっ…生徒会だ!」
………………空気が死んだ。
「いや、っていうかあのー生徒会の副会長さんとうちのクラスの高須君ですよねぇ?」
折角のきめ台詞が台無しになってしまった。あ、姉ちゃんの顔が少し赤い。
「ま、まあそれはそれとしてだ。お前、ふられてたよな、だが安心しろ、お前の学校生活は始まったばかりだ。
これからいくらでもなる。だから生徒会に来い!お前が傷心するヒマが無いくらいに忙殺させてやる。」
北村はポカンとしていた。それもそうだいきなり生徒会に入れと言われたんだ。無理も無い。
「放課後、生徒会室に来い、できれば後一人連れて来い!いいな!」
「は、はいい!」
「よし、行くぞ竜児。」
「お、おおう。」
弁当箱を引っつかみはしごから下り、階段へと向かう。
階段を下りてる途中、後ろから男の笑い声が聞こえてきた。
「姉ちゃん、聞きたい事が二つ。」
「何だ、今日のお前は質問ばっかだな。」
「何で北村を入れようとしたんだ?」
「生徒会の人数が少ないってのが一つ。」
確かに現在の生徒会は俺含め三人、あまりにも少なすぎる。
「後他に何かあんのか?」
「ああ、あいつが面白そうな奴だったからだ。」
面白そう、そんな理由とは思わなかった。肩透かしを食らった気分だ。
「まあいいや、後一つなんだが、忙殺ってもしかして……」
「ああ、お前もだぞ、夢に見るくらいに事務仕事をしてもらうぞ。」
ハハハ、俺の場合マジで忙殺されそうだ。
「じゃあ姉ちゃん俺はここまでだ。また放課後に。」
「ふふふ、期待して待ってろよ?」
あくまでも期待しとくよ。

放課後、生徒会室へと向かう。北村は来るのだろうか。
「失礼しまーす。」
中には会長一人だけだった。
「やあ、高須くん。」
この広い部屋に一人でいたのかと思うともう少し早く着けばよかったなと思った。
「会長、新しい生徒会役員二人を連れてきた。」
がらりと引き戸が開け放たれて姉ちゃんが登場した。
二人ってことは北村とあと一人いるのか。
「へえ、まさかまた買収したんじゃないよね?」
「まさか、普通に勧誘しただけだ。」
あれが普通なのだろうか果たして
「ほら、二人とも入って来い。」
開け放たれたドアから北村ともう一人男子が現れた。
「こんにちは、君達が新しく生徒会に入る二人かい?」
柔和な顔で二人に話しかける。その問いに二人は「はい」と答えた。
会長はほっとした、といったような顔で「ありがとう、そしてようこそ、生徒会へ」と二人に
歓迎の意を示した。
「あ、ありがとうございます。1年C組の北村祐作と言います。どうかよろしくお願いします。」
「え、えと僕は1年A組の村瀬といいます。よろしくお願いします。」
「うん、よろしくね。じゃあこっちも紹介しなきゃね。」
何か俺の時よりすんなり進んでいるな。俺がゴネすぎただけか?」
「まずは僕から。っていってもさっきの会話を聞いてれば分かると思うけど僕が会長だ、
分からないことがあったらどんどん聞いてね。」
「次は私だな。私は狩野すみれ、生徒会副会長だ、お前達のサポートはできる限りやっていくつもりだ。よろしく。」
さて、次は俺の番だ、何を言おうか。
「えーと庶務担当の高須竜児です。俺に関する噂は多分ほとんどがデマなんで鵜呑みせず接してくれるとありがたいです。
えと、一緒にがんばって行きましょう。」
これぐらいしか思いつかなかった。
「よーし早速だがお前らに仕事だ。」
姉ちゃんは期待してろと言った。どんなものが出てくるんだ?
「これらの資料を今月中にまとめて欲しい。」
姉ちゃんが指差すところには三つのダンボール。そしてその中には膨大な資料。
横の二人を見ると唖然としていた。当たり前の反応だ。
まじで過労死は嫌だぜ?姉ちゃん。

続く