竹宮ゆゆこスレ保管庫の補完庫 - 日常のヒトコマ2
日常のヒトコマ2

「お、おい、あれって……」
「うわっ!? あれ誰よ! てか、ちょー美人じゃね!?」
「あの子って……、たぶんモデルの川嶋亜美ちゃんじゃない? 雑誌で見たことあるわ。なんでまるおくんといるんだろ……」
「そういえば見たことある!! ちょっ! 高須君! どういうこと!? 説明してよ!」
「ま、まずは落ち着け! 痛っ! 俺の頭を叩くなって! おまえ興奮しすぎだ!」
「だってだってだってー! まるおだよ!! あの鈍いまるおがあんな綺麗な女の子と……。
 もしかしてあんなに綺麗な娘が身近にいるから学校の女の子に興味示さないのかも……。うわーー、あたしこれからどうしたらいいの!?」
「麻耶、とにかく落ち着いて。まずこれから三人でスドバ行こ。そこで……」
「じゃ、見なかったことにするの!? そんなの出来ないよー」
「泣くな泣くな。まだどんな関係かもわかんねー痛っ!」
「あれは親し過ぎだって!? 二人とも仲よさそうだし、さっき少し聞こえたんだけどあの娘毒舌だし! 切れ味もバツグンだよ!!
 それなのにあんなに笑ってられるってどうよ!?」
「ま、まぁ仲は良さそう痛っ! 木原! ちょっとこっち向け! とりあえず俺の目を見ろ! 落ち着け!」
「うん、わかっ…怖っ! ちょ、高須君そんな目で睨まないでよ! あたし、脅されるようなこと何もしてないよ!」
「………ぅぅ」
「……麻耶。高須君、目を潤ませて落ち込んでるわよ。何度も高須君の頭殴ったの忘れたの?」
「えっ? そうだっけ? ご、ごめんね……」


麻耶が高須君に協力をお願いしてから一ヶ月近くが経過した。

協力をしてもらう前は、高須君はまるおくんと仲が良くて、まるおくんのことをいっぱい知っているはずだって思ってたけど、怖くて話しかけられなかった。
あの見るもの全てを射殺す目つきと凶悪な顔を見るとどうしても近づけない。
話そうとはしたんだけど、色んな噂が手伝って、どうしても一歩を踏み出すことが出来なかった。
噂には『本職』『極道』『二代目』なんかもあって、あたしや麻耶は実際にそういう筋の人の車に乗っている高須君を目撃したこともある。

たしかゴールデンウィークだったかな?
麻耶と買い物に行った帰りだった。

麻耶と別れしばらくすると私の携帯に電話が掛かってきた。
液晶には『麻耶』と表示されている。
さっき別れたばかりなのにどうしたんだろうと思いながら電話に出ると、興奮した麻耶が電話の向こうにいた。
「高須君は本物だった!」って意味のわからないことを言ってたから、とりあえず麻耶を落ち着かせていると黒塗りの高級車の窓から高須君の顔が出ていたのを目撃しちゃった。
高須君は脅されている様子じゃなくて、ごく普通にその車に乗っているのが当たり前のように車の中の人と話しながら周囲を確認している。
麻耶の言おうとしたことが一瞬で理解出来てしまった。

クラスメイトの一人が違う世界の人間だった。
それは噂で流れていた『ヤンキー高須』っていう言葉がとても小さく感じた。
知っちゃけないことだったのかも。
麻耶には落ち着くように言ったけど、あたしもすごい動揺していた。

高須君の印象が反転したのはいつだったっけ?

黒塗りの高級車に乗っている高須君を見てからしばらく経ったある日、私はスーパーで高須君を見かけた。
高須君の後ろにはお店側のおばさんの目がしっかりと光っている。
おばさんの中では高須君が万引きをするということが確定していたんだろう、と思う。
高須君の動きに合わせてお店のおばさんがピッタリと張り付いていた。

高須君の視線の先には野菜や魚、肉なんかがあった。
もちろん高須君は自分が見られていることには気付いていない。
きっと料理の材料の見極めに必死だったのね。
その後、なんの問題もなくレジを通り、自前のエコバックに購入した商品を入れていく。
そんな時にあたしの近くから会話が聞こえてきた。

「あの男の子はマークしなくてもいいよ。とってもいい子だから」

高須君をマークしてたおばさんはそれを聞いて驚いてた。
あたしも驚いた。
今日高須君を見張ってたおばさんは多分新人さんだったんだね。
店側の万引きGメンからは、すでにお墨付きをもらっていた高須君。
それを聞いて、あたしは柄にもなく声を出して笑ってしまった。
……何があったんだろう。

気になったからおばさんに聞いてみることにした。
おばさんが言うには高須君は、陳列してあった商品が違う棚に置かれていたり、積んであった商品が崩れた時には率先して手伝ってくれたりしたようだった。
恩着せがましい態度もせず、それが当たり前。
そんな感じで自然に手伝った上に並べ方も完璧だったという。


家に帰ってから早速麻耶に話してみた。
嘘っ? っていう当たり前な反応が返ってくる。
でも「面白そうだね」って言ってた。
高須君って、もしかしたら今までも勘違いされていっぱい苦労してきたのかもしれないわね。

次の日、下校しようとしていた高須君を麻耶と一緒に呼び止める。
事情を話し、麻耶とまるおくんの仲を取り持ってもらえないかとお願いすると快く引き受けてくれた。
万引きGメンのおばちゃんは人を見る目があったわけね。

それからの高須君は毎日大変そうだった。
全然怖くない上に世話焼きだと知った麻耶はしょっちゅう高須君に絡みにいく。
高須君大丈夫? と聞いてみたら、「余計な気遣いをされるよりは何倍も嬉しい」って言ってた。
やっぱり苦労してるんだね。

でも麻耶の気遣いのなさは容赦が無いかも。
「なんでまるおはわかってくれないのー!?」と高須君に当り散らし、「今日は一杯話せたよ!!」って喜んで報告して、
そのまま高いテンションで高須君の頭や背中をドンドンと叩いてしまう。
ボディタッチではなく、勢いが強くなりすぎて殴ってる。
もうただの暴力にしか見えない。
照れながら話すときの麻耶の一発が一番強力なようで、あたしたちの周りには轟音が響き渡る。
いくら高須君が痛いと言っても楽しそうな笑顔のまま全く気にしない麻耶。
いい加減困り果ててるよ?

あたしから見ても高須君から見ても、麻耶とまるおくんはただのクラスメイト。
ただの友達。
いつまで経っても「ただの」がとれそうにない。
まるおくんは麻耶に対して友達以上の感情は芽生えていないように思えた。

高校に入って初めての夏休み。
「このままじゃいけない!勝負はやっぱり夏なんだよ!」って麻耶が言い出し、夏休み中になんとかまるおくんを連れ出して、
あたしたちと合わせて四人でどこかに遊びに行こうっていう計画を練るため、お昼前にスドバに集まろうということになった。

話し合い当日、麻耶とあたしは偶然鉢合わせし、一緒にスドバへ向かっている途中で高須君を見つけた。
高須君の視線の先にはまるおくんがいた。

まるおくんは私服だったからこれから学校に行くわけじゃないみたい。
建物の陰に隠れた不審者丸出しの高須君に声をかけると、ビクッとわかりやすく反応した後、「北村はしきりに腕時計で時間を何度も確認している」って言ってた。
きっと待ち合わせでしょ?
でも麻耶は「怪しいからちょっと見てみよ」って言って高須君の隣を陣取った。
不審者カップルが成立しそうだけど、何も言わない方がいいわよね。
不審者二人に不審人物とみなされたまるおくんの待ち合わせの相手は、ファッション雑誌でよく目にするモデルの川島亜美ちゃんだった。
たしか同年代のはずだけど、なんでまるおくんと? なんてあたしが考えてると麻耶が暴走し始める。

「奈々子! あの足見て! 長すぎじゃない!? 何、あのスタイル! 絶対日本人じゃないっしょ!」
「えぇ、羨ましいわね」
「高須君! まるおにメール!」
「なんて送るんだ?」
「『足長すぎる女性は危険!って占いで言ってた』って送ろう!」
「意味わかんねーよ!」
「じゃ『今日のアンラッキーアイテム:サングラスを掛けたスタイルのいい女性』で!」
「ラッキーアイテムじゃねぇのかよ! それにあの人、アイテムじゃねぇし!」
「『恋をするにはうってつけの日、偶然ぶつかったクラスメイトと恋に落ちる』にしよ!」
「もし俺がぶつかったらどうすんだ?」
「……高須君ってそっち系の趣味だったの、どうりで……」
「なんだよ! どうりでって! その蔑んだ目もやめろ! 俺は普通に女の子が好きだよ!」
「誰が好きなの?」
「おっ、奈々子。気になる?」
「えっ? ま、まぁね。で?」
「お、俺のことより、まずは北村だろ」
「今は高須――」
とあたしが言い掛けたところで麻耶の声に遮られる。

「そうだった!『木と原っぱを好きになると恋愛運アップ』で!」
「たしかに極所的に恋愛運がアップするな」
「『クラスメイトの女子を大切に扱う良いことあるぞ^^』は?」
「学生限定の占いなのか?」
「『クラスメイトの女子を大切に扱うエエことあるぞ^^』だったら!」
「なんかエロい!」
「『今日のラッキーカラーは茶髪』でどう!?」
「染めろってか!」
「『ラッキーパーソン→クラスで席が後ろの女性』にしよう!」
「そんなにピンポイントの占いはねぇよ!」
「『目の前で転んだ人を助け起こすとそこから恋愛が始まる…』だったら不自然じゃないよ!」
「しょうがねぇなぁ、じゃそれで送っちまうぞ」
「えぇーーっ!! ホントに送っちゃうの? もし亜美ちゃんがコケたらどうすんのよ!」
「そんときはそんときだろ? そもそも二人の関係だってまだわかんねぇんだ」
「高須君、麻耶。一度落ち着いた方が良いわ。もしそんなメールが高須君から送られてきたら、いくら鈍感なまるおくんでもおかしいと思うんじゃない?」
「ん? あぁ、それもそうだな。じゃ香椎頼む」
「えっ? 何であたし?」
「おまえ北村のメアド知らないだろ? ちょうど良いじゃねえか」
「う〜ん、かなり抵抗あるんだけど……」
「お願いっ! 奈々子っ!」
「……まぁしょうがないか。いいわ。まるおくんのメアド教えて」
「はいよ、これな。んじゃ頼む」

あれっ?
あたし、流されてるかな?
普段ならこんなことしないのに……。

……まぁ、いいわ。
さて、なんて送ろうか。
困った。
さっきの話の流れをそのままでいいわよね?
適当にさっきの会話を取り入れて文章を書いて……送信っと。

「香椎、どんな内容のメール送ったんだ?」
「これよ」

高須君と麻耶にさっきまるおくんに送ったメールを見せてみる。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
       件名:★今日の迷惑メール占い(恋愛編)★

  ・今、魅力的な異性と二人きりでいるキミ達にはでっかい不幸が訪れるぞ♪
   そんな二人はこのメールを共有しよう!
  ・もしキミが学生ならクラスの席が後ろにいる異性を思い出しながら、
   木と原っぱを好きになると極所的に恋愛運が大幅アップ!
  ・ラッキーカップルはメガネと茶髪。
   休みの日に茶髪の女性を大切にするとイイこと起こるかもね!
  ・あなたの目の前で転んだ目つきの悪い人を助けると新たな恋の予感が!?
   その人にご飯を奢ってあげよう! きっと良いことあるよ☆
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――― 

「奈々子、これいいよ!」
「……いいの?」
「……色々と突っ込むところはあるけどさ…。香椎、最後のはなんだ?」
「『まるおくんと高須君がうまくいきますように』…っていうお願いを込めてみたの。『目つきの悪い異性』って書かなかったのがポイントよ」
「えっ!? あたしと高須君ってライバルだったの!?」
「んなわけあるか!」
「そっか、だから今まで上手くいかなかったのかも……。スパイが紛れ込んでたんじゃダメだもんね……」
「本気にしないでくれ!」
「そうね、高須君が裏で糸を引いてたんじゃ、まるおくんとの関係が全然進まないのも納得出来るわね……」
「香椎まで……。お、おい、ちょっと待てって」
「あることないことあたしの悪い情報をまるおに流すなんて……、ヒドイヨー!」
「……おまえの日本語、カタコトになってるぞ」
「高須君、取引しよう」
「何でいきなり真剣な顔作ってんだよ!」
「奈々子をあげるからまるおをあたしに……」
「あ、あたしが取引されるの!?」
「わかった、手を打とう」
「えっ? ちょっと、待って! 手を打たないで!」
「な、奈々子を、大切にしてやってください……」
「……麻耶、何涙ぐんでんの!?」
「あぁ、もちろんだ。大切にする」
「……わぁ、そんな真剣な目で見つめられて、そんな台詞言われるとなんか恥ずかしい……。って、えぇっ!?」
「……高須君、大胆。でもそこで抱き締めるのはあたしじゃなくて奈々子だよ!」
「いや、木原だけからかわれてないのもどうかと思ってな」
「ねぇ、ちょっと騒ぎすぎてない? このままだと見つかっちゃうわ」
「そうだね。じゃ一回落ち着こう! いい? 高須君、奈々子、深呼吸ね!」

一番テンションの高い麻耶が言うのってちょっと……。
でも、まあ、いっか。
呼吸は整ったけど、興奮は収まらなかったみたいだね、麻耶。

「よーし、小芝居も一区切りついたし話を戻すよ!」
「……あぁ、ちょっと疲れたが……」
「高須君がここで『北村、好きだー!』って叫ぶのはどう? あの雰囲気を一発でブチ壊せるよ」
「俺に外見だけじゃなく中身まで近寄りがたくなれっていうのか?」
「それなら麻耶がやった方がいいんじゃない? ついでに思いも伝えられるし……」
「あたし、絶対振られるじゃん!! 告白って、なんていうか、もっと、こ、こう、ロ、ロマンチックに……さ」
「高校生の告白で『ロマンチックに』なんてかなり難しいと思うぞ」
「工夫すれば大丈夫だよ! 恋はリアリストよりロマンチストなの!」
「そうなのか……? よく意味はわからんが……」

聞いていて飽きない。
少しずつ方向がおかしくなっていく会話がどんどん続いていく。
最近は、この二人の方がお似合いなんじゃないかと思うことがよくある。
麻耶はまるおくんを諦めて、高須君にいった方が幸せな気がするけど、どうなんだろ。
高須君なら麻耶のこと自由にさせながらも包んであげられると思うんだけど。

そういえばまるおくんはメール見てくれたかな?
高須君と麻耶ばかり見てて、まるおくんの反応を確かめるの忘れちゃった。

なんかそろそろ会話が終わりそう。
ちょこっと入ってみようかしら。

「おまえテンパり過ぎだ!」
「二人が落ち着きすぎなんだよー。ホントに高校生?」
「当たり前だ! 木原こそ――」
「いいこと考えた!」
「無視かよ!」
「おしっ、高須君突撃だ!」
「なんでだよ!?」
「頑張れっ! 別れさせ屋!!」
「香椎まで!? 俺のことそんな目で見てたなんて……」
「あ、ごめん。ちょっと面白そうだったから」
「奈々子の言う通りだよ! 頑張れ! 工作員!」
「くそっ! そんなに言うなら行ってきてやる」
「行けー!!」
「えっ、ほんとに行くの? 高須君」
「ああ、このままじゃ木原にどんどん俺が貶められるからな。心の傷が広がらないうちに行ってくる」
「ふふ、もし傷が広がったらあたしが癒してあげるわ」
「高須君、あの娘にやられないようにねー!」
「おうっ」


高須君が歩いて行く。
……物凄く不自然な偶然を装う高須君。
……違和感が纏わりつく歩き方で周囲に脅威を振りまきながら、まるおくんの元へ向かって行った。

「あっ、コケた。違和感バリバリだね。あの様子じゃヤバイんじゃない? 奈々子」
「そうね、何もないところで躓いたのに、何かのせいにしようと必死になってキョロキョロしてる姿が哀れね」
「わっ、あの娘が駆け寄ってくれたよ……。案外いい娘じゃん」
「う〜ん、ちょっと意外ね。ふふ、高須君テンパってる」
「あーーっ! 照れるときによくやる仕草またやってる! ダメだ! このままじゃあの娘に高須君がやられちゃうよ!」
「でも、面白いからもう少し見たいかな」
「ははっ、それ言えてるかも」
「……なんか高須君、震えてない? もしかして感動してるのかな……」
「なんで?」
「だってあの娘、高須君のこと全然怖がってないもの」
「あの顔と目つき、コンプレックスみたいだもんね。気にしないでいいのに」
「慣れるとなんか可愛く思えちゃうしね」
「それ今度言ってあげなよー、きっと喜ぶよ高須君」
「麻耶、余計なこと言わないの。あっ、立ち上がった。どこか行っちゃうわ」

高須君は亜美ちゃんに手を引っ張られ、起こしてもらっていた。
お礼を言い、掌や膝に付いた埃を払っている高須君は、遠くにいるあたしからでも目に見えてわかるくらいキョドってる。
さっきの威勢はやっぱり虚勢。
その虚勢も転んだときにどっかに落としちゃったみたい。
麻耶の言った通りやっぱりやばいかも。
早く加勢したほうがいいかな?

まるおくんは「高須じゃないかー! どうしたんだ? こんなところでー!」と両手を広げて大きな声で叫んでいる。
その後は何を話しているかはわからなかったけど、すぐに三人で歩き出した。
ジョニーズに向かっているのかな?
時間も時間だし、お昼にするのかもしれない。

高須君が動揺している。
緊張してまるおくんと亜美ちゃんの会話に入れないみたい。

「あっ、やっと何か話しかけた!」
「上手く話に入っていけてるかな?」
「それは大丈夫っしょー。高須君って意外と話しやすいんだよねー」
「そうね、なぜか自然に話せるのよね。初めて話した時はビックリしたわ」
「見た目があれな分、損してるんだろうけど、話してみるとすごく優しかったりするから意外にモテるんじゃない?」
「そうかも。家事全般出来るっていうのもポイント高いわね」
「いいの? 奈々子」
「何が?」
「高須君、亜美ちゃんに盗られちゃうかもよ〜」

麻耶はイジワルな笑みを浮かべる。
あたしはどうしてか少し焦っている気がする。
嫉妬だろうか。
なんとなく感じたつっかえた感覚を胸の奥に残し、その感情はすぐに消えていった。

「やっぱり、ジョニーズだね。奈々子、あたしたちはどうする?」
「今から入るのはなんだか怪しいし、気分も乗らないわ。そうねぇ、向かいにある喫茶店に入って様子見てみよっか。
 あそこからならジョニーズの中も見えそうだし」
「それいいねー、あそこ行ってみたかったんだ。よし、そうしよー!」
「高須君たちいい場所座ったわね。窓側だし、高須君からは喫茶店が見える位置だし」

あたしたちが入った喫茶店は、シックな雰囲気で高級感漂う清潔なお店だった。
店内には優雅なクラシックが流れ、落ち着いた内装で心地の良い空間。
恐々とメニューを確認するとそこまで高くはない値段だった。

スーツを着たウエイターに注文をした後、高須君にメールしてみる。
近くの喫茶店にいることを伝え、亜美ちゃんとまるおくんの関係を聞いてみた。
高須君によると、ただの幼馴染、らしい。
本当かな?

疎遠にならず、高校生まで幼馴染であり続ける男女がこの世に何組存在するんだろう……。
ま、美男美女だったら変な気を回さず付き合えるのかもしれないわね、なんて考えてみる。
でも一番は性格の問題かな?
まるおくんみたいな屈託のない性格だったら、いつ会っても変わらないから安心できるのかな?
……それってヤバくない?
まるおくんは亜美ちゃんと……?

あと亜美ちゃんはかなりの強い毒を吐くみたい。
『初めは綺麗で可愛くて優しくて気が利いて完璧にみたいな感じだったが、北村に何かを言われてから、すっげ〜毒舌になった。
 でも表情がコロコロ変わって面白い』
という内容もさっきのメールで送られてきた。

「高須君なんて?」
「ただの幼馴染だって。メール見る?」
「うん、見せて」

携帯の画面を見ながら、クリクリとした大きな瞳を輝かせてフンフンと頷いている麻耶。
なんか小動物みたいで可愛い。

まるおはこの娘の魅力に気付かないのかな?
なんでだろう? と考えると割と簡単に答えが出た。
でも麻耶には言わない方がいいわね。
泣いちゃうから……。

「ちょっと奈々子ー。あたしには高須君の隣が空いてるように見えるんだけど……」
「まるおくんと亜美ちゃんが一緒に座ってるからじゃない?」
「ただの幼馴染なのに?」
「うん、ここは女の子の方に気を使ったんじゃないかな? 高須君は外見でよく誤解されるから」
「…ただの幼馴染なのに?」
「まぁ、それだけ仲が良いのよ。あまり気にしないようにね」
「…た・だ・の・幼馴染だよ?」
「あっ、料理がきたみたいだから食事にしましょう」

しつこくなりそうだったから話を逸らせよう。
料理はとてもおいしく、店長の機嫌が良かったのか特別にデザートをサービスしてくれた。

しばらく経つと、なぜか高須君の隣に活発そうな女の子が座った。
どこかで見たことある気がするけど、誰だったかな。

「ねぇ麻耶、あの娘だれだっけ?」
「んー? あれっ? 見たことあるね」
「ソフト部の…」
「あっ、櫛枝さんじゃない?」
「そうだ、櫛枝さんだ。なんで高須君の隣にいるんだろう?」
「まるおくんが呼んだんじゃないのかな」
「聞いてみよっか」

早速メールで聞いてみる。
『櫛枝、ジョニーズでバイト。終わった。北村、誘われた』
という返信が来た。
すぐに返ってくるところが律儀な高須君らしいけど、変なメールね。

「なんか櫛枝さんが来てから高須君、有り得ないくらいキョドってるよ」
「そうね。ふふ、もしかして高須君の好きな人って櫛枝さんなのかしら?」
「えーー!? それはちょっとショックだよ! なんで櫛枝さん!? 接点なんもないじゃん!」
「それはわかんないけど、あたしたちといる時と全然態度違うじゃない?」
「うん、あれは間違いなく不審者だね!!」
「顔の怖さと合わせると、警察が寄ってきても文句言えないわね」
「誤解を解くのに何時間も掛かりそうだね!」
「学校に連絡されたりして」
「親も呼び出されるね!」
「可哀相に……」
「……今日はこのまま高須君の尾行しても面白いかも……」

まるおくんのことで話をするはずなのに、いつの間にか高須君の話をしてる。
それだけ気に掛けているのかしら……。

「ねぇー奈々子ー。あたしらもあっち行った方がよかったんじゃなーい?」
「そうね。そっちの方が話がわかりやすかったわね」
「じゃ高須君に呼んでもらおっか?」
「あたしたちを?」
「うん」
「それは不自然じゃない?」
「やっぱり?」
「それよりあたしたちが何も知らないフリしてジョニーズに行った方が自然だと思うけど……」
「そーだよねー」

麻耶は少しつまらなさそうだった。
様子を窺うなんて柄にもないことしているからかな。

焦ったところで何も変わらないというのと、お腹がいっぱいになって動きたくなかったというのが重なって結局は麻耶と二人、喫茶店でゆっくりと喋っていた。

「ねー、奈々子って高須君のこと本当はどう思ってんのよー?」
「う〜ん、どうかな。良い人だと思ってるよ」
「どんな風に?」
「麻耶はまるおくんより高須君の方が合うんじゃないかなぁって思うくらいに、かな」
「あれ? あたしと高須君? あたしは奈々子が高須君に気があるんだと思ってたんだけど……」
「あたしよりも麻耶と高須君の方が良いコンビに見えるよ」
「そ、そう?」
「麻耶、ちょっと嬉しそうね」
「うん、そりゃあねぇ。最近ね、奈々子と高須君と三人でいるのがすごく楽しいんだよね。今日だってまるお見つけた時いっぱい笑ったし。
 でもあたし、高須君と二人で話したことないよ」
「二人で居ても多分変わらないわよ。そのままの麻耶を受け入れてくれると思うわ」
「そう、なんだろうね。きっと」
「そうよ」
「だからあたしは奈々子と高須君がくっつけば良いと思ってるんだよねー」
「どういうこと?」
「奈々子って消極的でいつも心は一歩引いてるけど、男の子に求める理想高いでしょ」
「う、ん。まぁ、ね。別に理想はそんなに高くないと思うけど」
「でも高須君となら一緒にいたいと思ってるじゃん。そのまんまの奈々子を受け入れてくれていて、一緒にいるのが自然で、
 料理の話で盛り上がったりするでしょ? お似合いだと思うんだけどなー」
「ふふ、なんか変な感じね。高須君の譲り合いって」
「そーだね」
「でも肝心の高須君の気持ちを無視してちゃいけないわよね」
「そーだねー」
「さっき聞きそびれたから今度聞いてみよっか。好きな人は多分櫛枝さんだけど」
「あ、そっか。あたしのせいで聞けなかったんだった! ごめんね、奈々子」
「気にしないでいいわ、さっきの雰囲気じゃ正直に話してくれるかわからないし……。また今度聞こ」
「でも、さすがにあれはないよねー」
「あの挙動不審は初対面の相手だからって理由じゃないわね」
「そういや、あたしらと話した時とは全然違うじゃん」
「初めて話したときはちょっと無愛想で怖かったわね」
「でも相談したらすぐ親身になって話しに乗ってくれたから良い人かもって思えたなー」
「そうね。結構優しくてビックリしたわね」
「もしかして高須君も片想いで悩んでたのかも!? 気持ちがわかるからすぐに協力してくれたのかもしれないね」
「う〜ん、元々困った人を見過ごせないっていうのもあると思うけど……。それも理由の一つかもしれないわね」

高須君の話が続いていく。
全然まるおくんの名前が出てこないのはどういうことなのかしらね。
話しているうちに今度は亜美ちゃんの話題になった。

「亜美ちゃん可愛いかったねー」
「そうね、雑誌で見るより実物の方が可愛いのね」
「可愛いから高須君に興味持ったら怖いよねー」
「でも高須君、鈍いからどれだけアピールされてもわかんないと思うけど」
「はは、それ言えてる。暗に行動で示すんじゃ全く気付かなくて、『好きです』って面と向かって言っても疑われそう」
「そうかもしれないわね」
「でも一応さ、亜美ちゃんでも難しいかもしれないけど、念のため先に差を付けておこうよ!」
「差って?」
「高須君と亜美ちゃんにもしものことがあるといけないからあたしらと高須君の距離をもうちょっと埋めようってこと!」
「どうやって?」
「名前で呼び合う!」
「名前で?」
「そう! その方が近い感じがするじゃん! 今、呼ぶとき苗字だし、君付けだし。もう名前で呼んでもおかしくないくらいは仲良いと思うよ。
 高須君のことは『竜児』って呼んで、あたしらのことは『麻耶』、『奈々子』って呼ぶようにしてもらう。それが他の女の子にも牽制になったりもしそうだしさっ」
「ふふ、なんか恥ずかしいけど、ジョニーズから出てきたら頼んでみよっか」
そんなに高須君のこと取られたくないのかしら?
なら麻耶が付き合えばいいのに。
まるおくんに対する気持ちが大きくて、高須君への気持ちに気付いてないの?

―――数時間後
高須君と合流し、はやる想いを胸に秘めた麻耶がそれを一切包み隠さず身体全体に表現して早口で質問し、高須君を追い詰めていた。

「で、どうだった? 高須君」
「えーーっと、今度川嶋の別荘に遊びに行くことになった」
「何それ!? 今日初対面でしょう!! ありえなくない? あんた数時間でどんだけ進んでんのよ!!」
「あんたって……、北村が前から俺のこと話してくれてたみたいでさ。なんか印象は良かったみたいだった」
「ちょっ、でも別荘行くってことは泊りがけでしょ!? 早すぎるって!」
「北村も行くし、多分お前らも行くだろうって言っといた」
「良くやった! 高須君、あたしはキミを信じてたよ!!」

高須君の右手を両手で包んだ麻耶の目の中には、無数に散った星がキラキラと輝いているように思えた。
さっきまで興奮して机を飛び越えそうな勢いで前に座ってる高須君に迫ってたんだけど……。
麻耶は切り替えが早い。
あたしはちょっと変わった親友を持ったみたいだ。
今更かな。

「…なぁ、香椎。木原ってこんな奴だっけ?」
「…まるおくんのことになると何でもありなんじゃない?」
「そんなもんか」
「そんなもんよ」

麻耶は別荘の話を切り上げ、早速さっきの話を高須君に振ってみた。

「あ、そうだ! 今から高須君のこと名前で呼ぶね。いい?」
「ん? あぁ。別に構わんが…」
「じゃ竜児。あたしのことは『麻耶』って呼ぶこと。奈々子のことは『奈々子』ね」
「ちょっと照れるな」
「恥ずかしいとかは言わない、思わない。あたしら結構仲良いじゃん。別に名前で呼び合っても全然不自然じゃないと思うよ」
「香椎もそれでいいのか?」
「いいわよ、竜児君」
「じゃ、じゃあ、ま、麻耶に奈々子。別荘に行く日だが…」

竜児君にあたしたちを名前で呼ばせるのは思いのほか簡単なことだった。
ちょっと恥ずかしそうに、でも嬉しそうにしていたのがちょっと可愛い。
言ったら怒られそうだけど…。

あたしたちは亜美ちゃんの別荘に行く準備を始めた。


ここまでです。


337 名無しさん@ピンキー 2009/10/01(木) 23:47:54 ID:R23M5f6n

結構前になんとなく書いてみたやつ。
いつだったかに投下した「日常のヒトコマ」と少し繋がっています。
時間は、一年生の夏休み前。
北村、高須、麻耶、奈々子の四人はクラスが同じという設定。
奈々子の視点。
エロはありません、というかエロにもっていけませんでした。