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『ションベン臭い小娘が、何を生意気な! 別荘の鍵もないのにどうするつもりなの?! くっだらない意地張ってないで、さっさと東京に戻って来ることね。
そして、今までのことをママに謝罪するのなら、まぁ、許してあげなくもないわね』
尊大で傲慢な態度、これが噂に聞く川嶋安奈の素の姿なのだろう。亜美も性悪だが、性悪さの桁が段違いだ。やはり芸能界で一目おかれる存在
になるには、相当に根性がねじ曲がっていないといけないらしい。
事実…、再び、『あのぉ?、川嶋さん、そろそろ…』というADらしい若い男の声がしたが、『うるさい! 空気読め!!』という安奈の罵声で、その声の主は
『す、すいません…』と消え入るように詫びていた。
その性悪安奈に、亜美は気丈にも噛みついた。
「鍵ならあるわ! 庭に埋まっているじゃない! その非常用の鍵を使わせて貰うからね!」
『そんな勝手、ママは許しませんからね。ママの許しなく庭から鍵を掘り出したら、それは別荘への不法侵入とみなし、警察に通報する。それでもいいのね?』
「はぁ?! 何言ってんのぉ? 元を正せば、あんたが詐欺同然に偽物の鍵をあたしにつかましたんじゃない。あんたが約束を守っていれば、こんなことには
ならなかった。だから、本来、あたしはこの別荘の鍵を持つ正当な権利を有する者なんだわ。そのあたしが鍵を掘り出したって何も問題はないのよ!!」
『そこまで言うなら勝手になさい。あなたの高校時代のあだ名は“バカチワワ”だったらしいわね。だったら、エロ犬くんと仲良く、ここ掘れワンワンで頑張りなさい』
「言われなくったって、そうするわよぉ!!」
電話での川嶋安奈は、亜美を小馬鹿にするように笑っていた。
『おやおや、それはそれは…。でも、シャベルも何もないのに、どうやって鍵を掘り出すのかしら? シャベルとか重機は納屋にあるけど、納屋の鍵は渡してなかったわよねぇ?』
痛いところを突かれたのか、一瞬だが、亜美がむせるように息を詰まらせた。
「何とかなるわよぉ! 板きれでも、棒でも拾ってきて、鍵を掘り出してみせるんだからぁ!!」
『あら、そうなのぉ? でも、あなただって鍵が埋まっているところは知ってるでしょ? 一抱えもある石の下に埋まっているのよ。板きれや棒きれで掘り返すのは
さぞかし大変でしょうね。あなたは女だし、高須くんはひ弱な優等生じゃない。そんなあなたたちに出来るわけがないでしょ?』
「あたしや竜児の行動力を甘く見ない方がいいわよ。特に、竜児のことを“エロ犬”とか“ひ弱”とか“変態”とか罵ったことは絶対に許さな…、あ、ちょ、ちょっと待てぇ!!」
亜美の反論が終わらないうちに、通話は川嶋安奈から一方的に打ち切られた。
「畜生、切りやがったぁ!!」
亜美は、声を震わせて絶叫し、怒りのあまり手にした携帯電話機をウッドデッキの床に叩きつけようかと左手を振り上げた。