6月5日(火)

場所:理学部5号館5207教室 (東邦大学理学部へのアクセス

14:00〜15:00

外生菌根菌の群集生態を知る−クロマツ海岸林における外生菌根菌群集構造を事例に−


近藤那海子
東京大学大学院・森林植物学研究室

Abstract:

はじめに  

森林生態系における大部分の有機物は森林土壌に堆積・分解され,無機養分として樹木に再吸収される.この物質循環には無数の土壌微生物の生理機構が複雑に絡んでいる.そのなかでも,窒素やリン酸などの樹木の生育に不可欠な養分の再吸収機構に密接に関与し,樹木と共生関係(図1)を結ぶ外生菌根菌は極めて重要な存在である(Smith & Read 1997).特に,火山荒原(Nara 2006)や海岸砂地等の貧栄養土壌における樹木の定着・生存においては,外生菌根菌の存在が不可欠である.



上述した外生菌根菌の共生機能は菌種により異なる.そのため,外生菌根菌の種組成や空間分布は,樹木各々の生長のみならず,森林内での物質循環,遷移過程,植物種の多様性などの森林全体の生態系機能に大きな影響を及ぼすと考えられる.このような機能を正確に評価すること,さらに,植林や育種技術に外生菌根菌による生長促進効果を利用するには,群集構造や繁殖特性といった外生菌根菌の生態学的特徴を明らかにすることが急務である.

研究目的  

クロマツ海岸林は,防風,防潮林としての防災機能や景観保護・保養等の文化的機能を有することで海岸地域の住民の生活に深く貢献している.しかし近年,マツ材線虫病や林帯の維持管理の放棄等により,その多面的機能が十分に発揮できない地域が急増している.このように疲弊した海岸林を再生させるためには,クロマツの生存に不可欠な外生菌根菌の共生機能を高度に発揮させることが重要である.しかし,海岸マツ林の外生菌根菌群集に関する研究は実生を対象としたものしかなく(Baar et al. 1999, Taniguchi et al. 2007),林冠を形成し林帯の物質循環に中心的な役割を果たす成木を対象とした例はない.そこで,本研究は,分子生態学的手法を導入し,クロマツ海岸林における地下部外生菌根菌の群集構造について,空間的・時間的側面から把握することを目的とした.a) クロマツ海岸林全体での外生菌根菌群集を把握し,b) 複数の異なる空間スケールによる種多様性の変化を検出するとともに,c) 群集構造の時間的な変化を解明することを,目的達成のためのアプローチ法とした.

方法・結果・考察

a)  海岸林全体での外生菌根菌群集構造  九十九里浜クロマツ海岸林において,海岸林縁部に生育するクロマツを基点に80m×50mの調査区を設定した.なお,同地域は施業されたクロマツ人工林であるが,近年ニセアカシアの侵入が目立ち,現在では海岸林縁部から後背50m付近よりクロマツ−ニセアカシア混交林を形成する.調査地内の20地点における外生菌根菌の群集構造をrDNA-ITS領域のT-RFLP分析により解析した.同時に土壌分析と植生調査を行い,外部環境の影響と外生菌根菌の群集構造との対応分析の検出を試みた.その結果,種数面積曲線から推定される出現菌種数は,発達した森林と比較して極端に少なかった.Cenococcum geophilum,Clavulina cinereaおよびRussula属菌が調査地全体に広く分布していた.統計分析の結果,外生菌根菌の群集構造は地点ごとに種組成や出現頻度が異なり,海岸からの距離に伴う環境勾配に応じて変化するのではなかった.

b) 複数の異なる空間スケールによる種多様性の変化  a) の調査結果は,80m×50mより小さなスケールでも外生菌根菌の群集構造が異なることを示唆している.そこで新たに2m×1m,20cm×20cmのスケールを設定し,三つの空間スケールによる外生菌根菌群集を比較した.比較項目として,群集構造の類似性と地点間距離との比較にはマンテル検定による自己相関係数を,また種多様性の概念を考慮した.すると,種数および多様度は1m以内では規模の拡大ともに増加するが,それ以上拡大しても増加傾向を示さなかった.さらに群集構造の類似性と地点間距離とは無相関との結果を得た.

a)とb)を総合考察すると,海岸地域において外生菌根菌の群集構造を左右する要因は,海岸からの距離に応じた環境勾配という大きな環境要因ではなく,微細な根圏環境の差や微生物間の相互作用といった,より小さな環境要因であることが示唆された.

c)  群集構造の時間的な変化  森林の遷移と同様に外生菌根菌にも遷移系列が存在し(Fox 1986, Visser 1995, Nara 2006), 前述した外生菌根菌群集の空間分布は時間的に変化する. そのため,ある地域において外生菌根菌の群集構造を把握する場合は,時系列的な側面から空間分布の変化を捉える必要がある.そこで,群集構造の形成過程について実験的に追跡した.土壌中の根外菌糸体が片側面から侵入できる系を作成した後,調査地内の5ヶ所に3個ずつ埋めた.実験開始76日,116日, 156日後に各埋設場所から根箱を回収し,外生菌根菌群集構造を解析した.その結果,遷移初期種と言われるWilcoxina mikolaeやThelephorales sp.が初期に優占すること,回収時期ごとに優占種が変化することが解った.この結果から,少なくとも形成初期の外生菌根菌群集は,経時的に優占種が頻繁に変化するという極めて不安定な構造であることが示唆された.

今後の展開  

a)  子実体発生に伴う群集構造・物質動態の変動  群集構造を左右する大きな要因のひとつに外生菌根菌の繁殖特性がある.外生菌根菌の繁殖には,無性繁殖(菌糸生長)と有性繁殖(胞子形成)の二つが存在し,種の多様性や環境適応の観点から胞子形成が非常に重要である,そのため,胞子形成器官に相当する子実体の発生が,地下群集構造や養分輸送機構といった生態生理学的特徴に与える影響を解明することは,外生菌根菌の繁殖特性を理解する上で重要な課題である.そこで,子実体を主軸に据え,a) 多菌種−多樹種間において,地上部(子実体)の消長と地下部(菌根・菌糸)の群集構造の変化との関係を明らかにすること,b) 樹木共生下での子実体形成前後における物質動態を解明するという目的の下,精力的に研究を行う.

b) 菌根菌ネットワークの実証  森林のように樹木が隣接して生育する地域では,外生菌根菌は同一樹種や異なる樹種間で菌根を形成する(Simard et al. 1997, Ishida et al. 2007).これは,隣接する樹種個体が,菌根菌糸によって物理的に繋がれていることを意味する.筆者らは隣接する樹種間における根・菌根の空間分布地図を作成し,菌根菌ネットワークの視覚的な実証および樹種間での群集構造の類似性について評価する.

引用文献

・Baar et al.(1999) New Phytologist 143: 409-418

・Fox (1986) Transactions of the British Mycological Society 87: 371-380

・Ishida et al.(2007) New Phytologist 174: 430-440

・Nara (2006) New Phytologist 169: 169-178

・Simard et al.(1997) Nature 388: 579-582

・Smith & Read (1997) Mycorrhizal Symbiosis. Second edition, 605pp, Academic Press. London, UK

・Taniguchi et al.(2007) New Phytologist 173: 322-334

・Visser (1995) New Phytologist 143: 389-401


15:00〜16:00

Variation in phytoplankton food quality and effects on plankton community structure and functioning


Antonie M. Verschoor
Netherlands Institute of Ecology, Centre for Limnology (NIOO-CL)

Abstract:

Food quality determines the interaction strength between zooplankton and their food. Here, I will discuss two chemical-mediated mechanisms that affect phytoplankton food quality: inducible defences and biologicalstoichiometry.

Inducible defences allow phytoplankton species to alter their edibility in response to zooplankton cues, such as information chemicals. Infochemical-induced defences can be very effective (e.g. toxicity), but even small changes in edibility already create a dynamic heterogeneity within single phytoplankton species. This heterogeneity may stabilise population dynamics and therefore prevent (stochastic) species extinctions. Furthermore, inducible defences alter the strength of trophic cascades, which may cause pelagic food webs to respond differently to enrichment.

Biological stoichiometry analyses trophic interactions from the balance between energy (carbon) and nutrients. A high carbon to nutrient ratio in the food is generally unfavourable for zooplankton, and may even cause (deterministic) extinction of species above a certain threshold elemental ratio (TER). This does not only happen with decreasing nutrient levels, but also when carbon levels go up. Rising aquatic CO2 levels thus alter the carbon:nutrient ratio in algae, which lowers zooplankton productivity. When the phytoplankton is near the TER, increasing CO2 levels may cause extinction of the herbivorous zooplankton, which in turn may lead to a cascade of extinctions in higher-level consumers.

Both chemical-mediated mechanisms show that even slight changes in food quality already have important effects on the structure and functioning of simple plankton communities. This adds a new perspective on the structure and behaviour of the more complex ecosystems that we observe in nature.

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