第30回TREEセミナー

1月7日(木) 17:00-18:00

ニホンイシガメの系統地理・ニホンイシガメとクサガメの両種間における交雑の遺伝学的検証

鈴木 大 SUZUKI Dai
京大・動物・系統

要旨
1 ニホンイシガメの系統地理

 ニホンイシガメ(Mauremys japonica)は日本列島にのみ生息する日本固有の淡水性カメ類の一種である。今回、遺伝的形質および形態形質に基づき、ニホンイシガメの系統地理学的解析を行った。その結果、本種は大きく二つのグループから構成されており、一方は本州と四国に、もう一方は九州に多くみられた。また、中国地方では両グループが同所的に見られる場所も多かった。両グループの祖先的と考えられるハプロタイプは、主に近畿地方と九州地方からそれぞれ確認された。遺伝的多様度は非常に低く、これは最終氷期において集団が縮小することによりボトルネック効果が生じたためであると考えられた。以上より、最終氷期において本種は近畿地方と九州地方の二カ所のレフュージアに分布が制限され、氷期の終了後から現在にかけてそれぞれ分布を拡大し、中国地方にて二次的に接触したと考えられる。

2 ニホンイシガメとクサガメの両種間における交雑の遺伝学的検証

 カメ類は他の脊椎動物に比べ、多くの異種間交雑事例が報告されている。日本列島において普通種であるニホンイシガメ(Mauremys japonica)とクサガメ(Chinemys reevesii)の二種は、飼育下において交雑することが古くから知られ、さらにはこの交雑個体が正常な生殖能力を持つ可能性も指摘されている。近年、野外において両種間の交雑個体とおもれる個体が多く報告されており、親種に対する影響が懸念されている。そこで、本研究では、野外より捕獲された交雑が疑わしい個体の核DNAとmtDNAを調べ、実際に野外において交雑が生じているかを調べた。その結果、ほとんどの個体がイシガメとクサガメ二種の核DNAを持っており、実際に交雑が生じていることが明らかになった。さらに、核DNAはイシガメと全く同じ配列を持ちながら、mtDNAはクサガメのものであるといった、核DNAの「種」とmtDNAの「種」が異なる個体が少数見られた。これらの個体は、母親がニホンイシガメとクサガメ二種の遺伝子を持っていたことを示しており、交雑個体が繁殖していることを意味する。以上より、野外においてニホンイシガメとクサガメは交雑しており、さらには交雑個体が繁殖能力を持つこと明らかになった。したがって、親種に対する遺伝的汚染が起きている可能性が高い。



第30回ポスター

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