第36回TREEセミナー

5月28日(金)17:00 〜 18:00
場所:東邦大学理学部5号館5207教室(東邦大学理学部へのアクセス

熱帯林・亜熱帯林に生息する落葉分解菌類の機能的多様性と系統地理 "Functional biodiversity and phylogeography of litter-decomposing fungi in tropical and subtropical forests"

大園 享司 Takashi Osono
京都大学生態学研究センター生態学研究部門 準教授

要旨
 熱帯林・亜熱帯林では林床有機物の集積量が他の気候帯に比べて少ないことが知られている。これは植物リターの分解過程において、リターの主要な構成成分でありなおかつ難分解成分であるリグニンが活発に分解されることによる。菌類はリグニン分解において中心的な役割を担う生物群であり、熱帯林・亜熱帯林では菌類による活発なリグニン分解により形成される落葉の白色化(漂白)が頻繁に認められる。セミナーでは、この落葉の漂白現象に注目した、熱帯林・亜熱帯林におけるリグニン分解菌の種多様性、機能的多様性、系統地理に関する研究を紹介する。沖縄本島北部の通称「やんばるの森」とよばれる亜熱帯常緑広葉樹林における事例研究の結果を中心に、タイ北部の熱帯季節林、マレーシアの低地熱帯雨林、オーストラリアの低地熱帯雨林で行った比較研究の一連の結果について述べる。
 本研究では、まず野外観察により、落葉上に漂白が認められる樹種の種多様性を明らかにした。この観察結果をふまえて、落葉の漂白部に出現する菌類の子実体と、漂白部から分離した菌糸体を材料に、菌類標本の分子系統学的な解析によりリグニン分解菌の種多様性と宿主特異性を評価した。また、環境DNAを用いた菌類群集の解析も合わせて行い、リグニン分解菌の種多様性と生活史を明らかにした。分離菌株を用いた培養系での滅菌落葉への接種試験により、リグニン分解菌の潜在的な落葉分解力・リグニン分解力を定量的に評価し、リグニン分解菌が分解機能の点で多様なグループであることを実証的に示した。野外で採取した落葉漂白部の化学分析から、漂白部ではリグニンの選択的分解にともなって窒素の放出が促進されている。アジア各地の林床における落葉漂白部の面積割合の測定から、熱帯林・亜熱帯林において落葉の漂白が普遍的な現象であることを示すとともに、子嚢菌類Coccomyces属が、熱帯各地において樹木と共進化しながら多様化してきたプロセスについても議論したい。

ポスター:第36回ポスター

pre-TREEセミナー

5月28日(金)16:30 〜 17:00
場所:東邦大学理学部5号館5207教室(東邦大学理学部へのアクセス

ヤブツバキ落葉上リティズマ科菌類のコロニーサイズにみられる地理的変異

松倉 君予 Kimiyo Matsukura
環境科学専攻・湖沼生態学研究室・M1

要旨
 菌類は有機物の分解に関わり、生態系の物質循環において重要な機能を担う。しかし、各種の存在量を明らかにすることは一般に困難であり、地域個体群間で分布量を比較した研究は殆どない。本研究は、ヤブツバキ落葉を分解するリティズマ科菌類を材料として、分解に伴い生じる漂白面積を測定することにより、国内のヤブツバキ自生地間における各種のコロニーサイズを比較した。調査の結果、各採取地のヤブツバキ落葉からは本科菌類が3 種確認され、分布域は種毎に異なることが明らかになった。さらに、コロニーサイズの変異は地理的なパターンを示した。培養実験や系統調査のデータを併せ、本科菌類の定着密度に影響を及ぼす要因を検討する。

ポスター:第36回pre-TREEポスター

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