Graduate School of Science and Technology, Niigata University/新潟大学大学院自然科学研究科・植物分子遺伝学研究室


1.なぜレポートを提出しないといけないのか? 〜No job is finished till the paperwork is done〜

プレゼンテーションの目的は、おもしろいことがあった/役に立つことがあるのでみんな聞いてください、ということだと私は思っています。それを書きしるしたので是非読んでください、15分で話しをするのでみんなきいてください、というお願いする姿勢です。路上ライブのようなものです。こんな気持ちいい歌があるので歌いたい、そして聞いてほしいということです。学生の間はお金をとらない路上ライブ、博士はメジャーでオリジナル曲によるライブです。将来は10分ライブで億単位を稼ぐようなメジャー博士になることもあります。知識を学んでそれを他人にアウトプット・共有したいと思わない、そもそも歌うことが好きではない、という人は、お金をだして大学に進学するところから間違いがあるように思います。研究はするけど論文を書かないというのは税金の無駄なので家のガレージで自費でやってください、ということになります。

学生実習も、授業のレポートも基本は一緒です。他人の仕事を自分で実験しなおす、先生の話をもとに知識を書き記すのも、歌で言えば小学校の合唱レベルで、あなた(学生)が歌いたい曲ではないかもしれません。しかしいきなり洋楽をカバーして他人に歌い聞かせることは4年生が英語の原著論文がまともに読めないのと同じくらいに難しいことです。まずは小学校の合唱レベルで気持ちよく歌ってみることです。レポートは「この点がおもしろい・役に立つ知識なので、是非これを読んでそれを知ってください(読む相手は先生なのですが、先生を対象とするよりも、どちらかと言えば、その実習や授業を知らない友人や兄弟を対象にイメージする)」という姿勢で書いてみてください。嫌々レポートを書いたり、つまらない顔で論文セミナーをするのでは、誰もそれを読んだり聞いたりしません。一人も立ち止まらない路上ライブは寂しいし、監督されるように先生が腕を組んで聞いて後で小言がある、というイメージではおもしろくもなんともありません。

とにかく気持ち良く歌ってください。他人も気持ち良くなれるような歌い方、大学院ではさらにオリジナル曲の作成法まで教えるのが大学の先生のお仕事です。

2.論文/レポートにはフォーマットがある

理系論文/レポートはフォーマットがあります。例えば、概要、序論、材料と方法、結果、討論、と分けて書くのはフォーマットです。ここに必要な文章を入れていく、論理的に正しくかつシンプルな流れの文章を並べ、文と文の間に適切な接続後を入れる。ほとんど書き方が決まっているので、その型を身につければ真っ白なレポートのまま単位を落とすことも少なくなるのではないかと思います。小説を書くように一から悩む必要はないのです。

例えば以下のwebページを見てみてください。Nature のSummary の書き方です。英語がよく分からなければ、一番近い先生に解説してもらってください。
http://www.nature.com/nature/authors/gta/2c_Summar...
どういう論理展開でサマリーを書けばよいか一目瞭然で示されています。実際のNature論文の多くがこのフォーマットにあった書き方をしていることも確認してください。このようなフォーマットを学べば、少しはレポート/論文書きも楽になるでしょう。日本語で書かれた、日本語論文の書き方のための解説書が大きな本屋で販売されているのでお金を払って本を買い勉強してください。情報も勉強もただでは勉強できませんよ。

Nature のフォーマット http://www.nature.com/nature/authors/gta/index.htm...
Plant Cell のフォーマット http://www.plantcell.org/misc/ifora.shtml
投稿する雑誌それぞれにフォーマットがあります。英語の論文用とはいえ、日本語レポートのフォーマットはこの英語論文をお手本にしています。なので、羊土社ででているような論文の書き方ハウツー本がよく勉強になります。社会に出たら、こういった英語には接しないわけにはいかないので、必要な情報が読み取れる程度にはレベルをあげてください。

3.レポート/論文はツリー構造 〜カードを使ったWriting Thesis〜

ICUの授業ではWriting Thesisという科目がありました。これは大学2年生のときに論文の書き方を学び、4年生の卒論(ICU生全員英語で提出します)の準備をする科目です。ここで、8x12cm程度の罫線の引いてあるカードを使っていました。カードには一行、もしくは一つの意味の文章の塊(2−3行)を書きます。これを100-500枚と作り終えて、適切な接続語でつなげれば、レポートは完成です。ここで重要なのは、カードはイメージとしてはツリー状につなげて並べられることです。一番大本になる1枚が、論文のタイトルです。タイトルから一つ上がアブストラクト/サマリーです。このサマリーが書かれたカードから枝分かれして、序論、結果、討論、方法、謝辞、参考文献、図説明、表、図のカードが置かれます。序論カードの上にはパラグラフタイトルが4-10くらいまた枝分かれしておかれます。パラグラフタイトルは、そのパラグラフで述べたい結論が書かれ、パラグラフの最初もしくは最後の行になります。パラグラフタイトルから枝分かれするのが、パラグラフタイトルを支える5−12枚のカードになります。

ここで学んだことは、1)まずタイトル・書きたい結論を決める、2)アブストラクト・第一稿を200-400wordsを書く、3)アブストラクトで書いた内容を展開して文章を増やしていく、と末広がり型に文章を作っていく方法です。枝分かれが増えるにしたがい、文章が詳細・具体的になり、また文字数も増えていきます。実際には先にアブストラクトを書くというのは難しいでしょうが、どんな先行研究があって、何が現在問題になっていて、どんなアプローチでその問題に取り組み、どんな結果を得て、どういう結論と方向性になるのかを決めなくてはレポートは書けません。これはまさに2.で書いたNatureのサマリー フォーマットそのものです。

このイメージから分かることは、枝葉にある文章すべては大本になる論文タイトル、そしてアブストラクトで述べる内容を支えるために存在するということです。なので、一つの論文は1行のタイトル・一つの結論のために存在しています。またパラグラフに限っても、一つのパラグラフタイトル・一つの結論のためにだけ存在しています。2つの結論を一つの論文/レポート、一つのパラグラフに入れてしまってはいけません。2つの結論が並列する論文タイトルは、何が言いたいのか印象が薄れ、人に読んでもらえません。博士号取得者でも、1行1行は正しいけれど全体として何がいいたいのか分からない、論文を書いてもってくることはよくあります。

4.論理的文章/論文/レポートを書くために学んでほしい重要なこと

(これは学部卒論の序論に対する指導コメントをエッセンスとして抜き出した内容です。彼らは卒業後、企業に就職するのですが、そこでも役立つ知識という指導の仕方をしています)

1)論理展開は一方向。行ったり来たりしない。
2)論理的文章作成では同じことの繰り返しを避けること。繰り返しは結論のみ。
3)接続語は論理的つながりを示す重要な単語になる。使い方が正しいかいつも気をつけること。
4)「なんとなく」書くのはだめ。一語一語吟味すること。
5)テキストでわかりにくい部分は図をつける。
6)自分が書いているテキスト内での様々な表記法は統一すること。
7)科学レポートの記述は常に主語と述語のつなぎかたが正しいか自分で確認すること。
8)理系文章では、論理構築は積み木と同じ。いきなり説明のない情報を付け加えてはいけない。一個、一個、きれいに積み上げていくこと。
9)対比の関係は読み手が一番イメージする対比を使うのが効果的。
10)「何が今、重要な課題/問題になっているのか」を伝える一行/一言を文章/プレゼンの一番盛り上げる部分にする。これが読み手/相手にきちんと理解してもらえれば、著者/プレゼンターがその後に伝えたい内容はその問題への解答/解決策であることが直感的に理解できる。問題と答えは、高校までは「答え」が重要だけど、社会にでれば「何が問題なのか」を正しく認識し伝える能力のほうがより重要で価値があると見なされる。そして新たな切り口で発見した問題について、解決に向けたアプローチを新たに提案・実行したときに大きなお金がもらえるようになる。そのような意識改革を大学にいるうちにすること。つまり、大学では問題の答えを学ぶのでなく、何が問題かを発見する方法を学ぶこと。問題に対するアプローチ法は、大学院や会社の現場で学ぶこと。
11)常に自分が読み手になって、自分の文章につっこみを入れること。
12)「詳細にかいてあるけど、読み手には伝わらず、自己満足にしかならない」文章にしない。丁寧にわかりやすく書くこと。
13)サイエンスに限らずビジネスに用いるテキストに感情を含む言葉はできるだけ避ける。用いるのはその行に特別注目して感情が発露してしまうくらい重要なことを述べるときに、意識して効果的に、かつ限定的に、ここぞというときにだけ、使うこと。

補足: 論理的文章が書けることと論理的思考ができることは等しいです。論理的文章が書けないということは実は論理的思考ができていないため、頭で考えていることがそのままテキストとして現れているのだと理解してください。論理的文章と図が書ける能力が身に付くと、逆に、何かもやもやと思考がまとまらないときに、文章と図にして自分の考えているもやもやをクリアな像として現すことができるようになります。論文を書いている最中に問題が発見される、ということは頻繁にあることなのです。どこに論理的問題があるのか自分で、もしくは人と話しをしながら言葉にしていくことで発見でき、問題解決にむけたアプローチ法を探す道筋を得ることができるようになるのです。主体性を持って問題に取り組む能力、というのは、論理的文章が書ける能力がなければ獲得できないのです。先日、話したようにトップレベルの大学を卒業する学生は論理的文章がある程度書けるようになっています。なのでみんながもやもやとしている中からクリアな問題点を自ら発見し、他人が意識していないその問題にアプローチしてビジネスチャンスを見つけようという強い意識を持てる、つまり主体的に会社で働くことができ、また中間管理職として他人の問題点を発見して指導することもでき、大学で研究も教育もできるようになるのです。職種によっては英語が重要になりますが、英語を使うのにも母国語で論理的思考がきちんとできることが必須です。たとえ英語が母国語であっても理解できない英語を書く人はたくさんいるし、日本の先生でも何を話しているのか、何を書いているのか日本語で言われているのに分からないという人もたくさんいる、ということです。
 それでは論理的文章、わかりやすい文章の書き方を学ぶにはどうしたらよいか。一番身近なビジネス文章が新聞になります。社会で積極的に生きていく上で必要な情報も一石二鳥で得られるので、読んでいないならば読んでくださいといっているのは、こういった意味があるからです。もちろん、卒論書きのように実際に書かなくては学べないことがあります。それはよい指導者を得て添削してもらうより仕方ありません。または、「論文の書き方」「ビジネス文章の書き方」などの本で独学でも身につけてください。私は20年近くそういったトレーニングを積んできていますが、今でも、他人に論文やプレゼンを見てもらい、どこが悪いか、受け手から見てどういった印象があるか、の意見を聞き、自分の能力を磨いています。これは、論理的に人に情報を伝え、また問題発見能力を高め維持し、実際に飯の種を見つける、という仕事のサイクルに必須の行為なのです。

引用文献をおろそかにしない

卒業論文を提出してもらうと引用文献がほとんどない、ということがあります。理系文章では、引用文献を軽んじてはいけません。理系的思考法のもっとも根幹になるスタイルです。「誰がそんなことを言っているのか?」、噂や雰囲気だけでその文章や情報を鵜呑みにしていないか、自分で一つ一つ確かめる作業です。全部自分で実地に実験しろ、と言っているのではなく、その文章を書いた責任者を明示しておく、ということです。学部レベルならば、英文の原著論文や総説でなく、日本語教科書でも構いません。

研究や仕事では、手足を動かすことだけが先行しがちですが、興味ある対象・現象に対するこれまでの発見・情報を原典にまでさかのぼって実験条件も理解し、「今どこまで明らかになっていて、何が明らかになっていないのか」という、問題点の明確化、論点の詳細な理解と整理こそが貴重です。実際に情報ソースを確認すると、落とし穴が見つかって、上手くいかない理由が分かったり、新たな飯の種がころがっていたりするものです。また何が問題なのか人が分かるように言葉にできれば、その解決法は上司の助けや現場の話し合いでなんとかなるものです。大学で学んで欲しいことは、「問題の発見能力」です。そのためには、教科書を読んでも、常に「誰がこんなこと言ってんねん」とツッコミを入れて、その情報の詳細はなんなのか納得いくまで問いを本や教師に発することです。

一行書きたい文章はきまっていて、ワープロで打つのは10秒でも、その情報ソースを見つけ出して理解し「自分のもの」にするまでに1週間かかることもあります。その手間を惜しんではいけません。自分の仕事の専門になる情報ソースの見つけ方は、それぞれの業種によって異なるとは思います。しかしそういった情報ソースへのアクセス方法を知ることが専門家とよばれるのに重要なのだ、ということは認識していてください。

それから引用文献の書きしるし方が卒論のなかで統一感なくてんでばらばらなまま提出されてきます。分からなければ、提出する前にきちんと隣にいる教員に聞いて学ぶこと。分からないまま適当に書いて提出しない。できたら本で勉強してください。原著論文(英語)はセミナーで読んで実際の書き方をみているのだから、そのスタイルをそのまままねてください。「教えてもらっていないからできない(まま提出した)」は社会では通用しません。できないことがあるならできるように自分から学んでこい、です。これも大学にいるうちに学んでほしいスタイルです。

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