呟き尾形の個人的な資料です。

孫子の兵法 14 借屍還魂

第十四計 借屍還魂「屍を借りて魂を還す(しかばねをかりて、たましいをかえす)」

 中華世界を歴史上はじめて統一したのは、秦の王、後の始皇帝でした。
 それだけに、始皇帝の権力は絶対的でした。
 しかし、始皇帝もまた人間で、始皇帝が死去したとたん、圧制に抗して各地に反乱が勃発したそうです。
 先手をきったのは農民出の陳勝・呉広の二人でした。
 それに遅れじと項梁・項羽などが続きます。
 陳勝・呉広が討ち死にすると、項梁が反秦連合のトップとなったのです。
 そのとき軍師の范増が進言しました。
 「秦を恨んでいる楚の人々は、楚の王家の再興を願っていたのに、陳勝はそこを理解することができずに自分が王となってしまった。陳勝が滅びたのは当然である。あなたは、楚の将軍の家柄ゆえに、あなたの挙兵に呼応して楚の各地から武将がはせ参じた。彼らはあなたに楚の王家を再興して欲しいと願っているということを忘れないでください」
 項梁は軍師の范増の言葉を聞き入れて、かつての楚王の孫が羊飼いをしているのを探し出して楚王として立て、懐王としたのでした。
 こうして楚王が反秦連合の盟主になったのを見て、さらに楚の各地から武将が集まり、団結も強くなったのです。
 その後、かわいそうなその傀儡王は、秦の滅亡後不要となり、項梁の甥の項羽の手によって始末されることとなったのでした。

 借屍還魂は、元曲選という詩の中の、女性が屍体を借りて魂を還し、生き返らせたという台詞から、他人の死体を借りて霊魂を復活させるという意味です。
 意味だけを聞くと、否定的な印象をうけるでしょう。
 とはいいつつも、この計は、むしろ、悲劇を減らすためには、重要といえるかもしれません。
 とくに、歴史上において、王朝交代のときに亡国の後裔である者を擁立したり、他人の攻撃・防衛を肩代わりしてやったりするのは、常套手段といえます。
 これは、政治において、常に大義名分が必要とされるからです。
 勢力の拡大をはかる場合、理由も無く、侵略するよりも、なんらかの正統だと主張できる理由をもつことが大事なのです。
 ですから、それを使わぬものは、野蛮な方法だと多くの人から批判や反感をかってしまいます。
 それだけに、多くの人が、借屍還魂を用います。

 この、借屍還魂は、利用する相手の前提条件として、勢力が弱く利用価値があることが必要です。
 利用価値がなくなった場合は、そのまま乗っ取ることができます。
 


 さて、このような借屍還魂が、現代においてどのような活用方法があるのでしょうか?
 それは、世間や風評において、「役に立たない」と評価されている存在を、利用価値があるように創意工夫するということです。
 これは、「役に立つ」ものを利用するのは当たり前です。
 だからこそ、役に立つ分、それを借りたり、利用する事は困難になります。
 しかし、逆に「役に立たない」とされている存在については、容易に手を借りることができますし、自分に有利な条件で利用する事ができます。


 たとえば、活気のある組織は援助を求める事は稀です。
 逆に、活気のない組織は援助を求めてくるものです。
 そこで、活気のない組織に援助して利用すれば、有利に事を進める事が出来ます。
 あるいは、有能な人材をとるよりも、凡庸であるとか、評判が悪い人材ほど、どこかしら、有能な能力に特化しているものです。
 それを見つけ出し、人材を適材適所で使うこと。
 つまり、何でもかんでも利用できるものは利用しろ、利用できなければ利用できるように変えてしまうこと。
 借屍還魂という策略の本質だといえるでしょう。


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