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【定義】

日本曹洞宗高祖である道元禅師によって書かれた、坐禅の儀則が書かれた書。「普く勧める坐禅の儀」の意。

【書誌学的考察】

『普勧坐禅儀』が書かれたことは、『弁道話』にて、道元禅師自ら以下のように示される。
いまは破衣綴盂を生涯として、青巌白石のほとりに茅をむすんで、端坐修練するに、仏向上の事たちまちにあらはれて、一生参学大事すみやかに究竟するものなり。これすなはち龍牙の誡勅なり、鶏足の遺風なり。その坐禅の儀則は、すぎぬる嘉禄のころ撰集せし普勧坐禅儀に依行すべし。

ここから、元々の『普勧坐禅儀』は嘉禄年中(1225〜1227,おそらく嘉禄3年)に書かれたことが推定される。されど、この古い原本(=嘉禄本)は伝わっていない。現在永平寺に国宝として収められているのは、「天福元年中元日書于観音導利院」と奥書がある天福元年(1233)7月15日に書かれた「天福本」という道元禅師の自書本である。

ただし、これはあまり流布しなかったようであり、流布したのは、『永平広録』及び『永平略録』に収められた「流布本」であろう。特に後者は、比較的早い時期に開版されており、それに伴って、同著は広く人の眼に触れたものと思われる。なお、この流布本系統は、いつ書かれたかは分かっていないが、冒頭に「観音導利興聖宝林寺沙門 道元 撰」と書かれていることから、道元禅師が興聖寺にいた嘉禎元年(1235)から寛元元年(1244)7月までに書かれたものであろう事は推測できる。

【内容】

『普勧坐禅儀』は中国にて編集された禅宗に於ける初期の清規に当たる『禅苑清規』に収められた「坐禅儀」に基づいて書かれたものである。それは、道元禅師が自ら『普勧坐禅儀』を書いた理由について示した以下の一文からも明らかである。

 普勧坐禅儀撰述由来
 教外別伝正法眼蔵、吾朝、未だ嘗て聞くことを得ず。矧んや坐禅儀は、則ち今に伝わる無し。予、先の嘉禄中、宋土より本国に帰りしに、因みに参学の請有り、□□□□(撰坐禅儀か)と。已むことを獲ず赴いてこれを撰す。昔日、百丈禅師、連屋連牀を建て、能く少林の風を伝う。従前の葛藤□□(旧窠か)に同じからず。学者これを知って混乱すること勿れ。
 禅苑清規に曾て坐禅儀あり。百丈の古意に順ずと雖も、少しく頤師の新条を添う。所以に、略には多端の錯あり、広には昧没の失あり。言外の領覧を知らず、何人か達せざらんや。今乃ち、見聞の真訣を拾い、心表の稟受に代えんのみ。 原漢文

つまり、『禅苑清規』に収められている『坐禅儀』は、良く百丈の古意に順っているけれども、『禅苑清規』の著者である長廬宗頤がいくらか文章を増減してしまっているため、書き直したということである。この「撰述由来」はあくまで後年に書かれたもので、おそらく「嘉禄本」の由来を書いたものだと思われるが、さまざまな疑問点も提出されている。

「嘉禄本」と「天福本」の関係は分かっていない。後者は、禅師自身が浄書したものであろうと考えれば、同一の内容だと思われるが、前者の現物がないため明確ではない。また、「天福本」と「流布本」の関係も分かっていない。ただ、判明しているのは、他に坐禅について書かれた著作(『正法眼蔵』「坐禅儀」「坐禅箴」、『弁道法』など)から見ても、道元禅師の坐禅はこの「流布本」にしたがったもの、或いはそれらを集大成したものになったことは明らかで、「天福本」と「流布本」の最大の違いは、「薬山非思量」「莫図作仏」が含まれるようになったことである。

ここからは、道元禅師の坐禅が、中国天童山にて身心脱落された後、帰国直後の状況から、日本で修行される間に「非思量」を組み込んだことが推定されてくる。よって、道元禅師坐禅は、中国で大事了畢してからも発展を続けたことが明らかになる。

『普勧坐禅儀』は四六駢儷体という非常に格調高い文章となっており、「原れば夫れ、道本円通す、争か修証を仮らん。宗乗自在なり、何ぞ功夫を費やさん。」から始まる文章は、坐禅が釈尊−達磨という仏祖を経由して当代に伝わった意義から始まって、続いて坐禅の方法について述べられ、最後には坐禅による世界が強く描かれているという、坐禅に関する総合的著作となっている。

なお、現在でも日本曹洞宗両大本山を始めとして、各地の僧堂では夜坐の際に『普勧坐禅儀』を読誦し、道元禅師が示された古儀に順う決意を新たにしている。また、後に、瑩山紹瑾禅師は『普勧坐禅儀』を承けて『坐禅用心記』を著しており、これもまた、僧堂で夜坐に読誦される。

【解説書等】

・『永平略録』『永平広録』の註釈書
上記の註釈書には、全てこの『普勧坐禅儀』への註釈が含まれるため、要参照。
・『普勧坐禅儀聞解
江戸時代の宗乗家、面山瑞方の提唱録。
・『普勧坐禅儀不能語
江戸時代の宗乗家、指月慧印の註釈書。
・『普勧坐禅儀提耳録
明治時代の宗乗家、總持寺貫首も勤めた西有穆山禅師の提唱録。
・『普勧坐禅儀を読む 宗教としての道元禅』(大法輪閣・2005年)
内山興正老師の解説書。
・『普勧坐禅儀講話』(鴻盟社・1997年)
修証義』を編集した大内青巒居士の解説書。
・『道元「小参法語・普勧坐禅儀」』(講談社学術文庫・2006年)
大谷哲夫先生による『永平広録』の解説書。2冊目となる本書は祖山本『永平広録』の訓点にしたがった読み方と、その読み方に従った現代語訳も収録された。
・『『普勧坐禅儀』に親しむ』(曹洞宗宗務庁・2001年)
安藤嘉則先生による解説を掲載した小冊子。姉妹本に『『坐禅用心記』を親しむ』がある。

【『普勧坐禅儀』−全文】

ここに『普勧坐禅儀』の全文を訓読にて示す。典拠としたのは、祖山本『永平広録』巻8に収録されている「流布本」であり、訓読法も『永平広録』に従う。よって、現在夜坐の時に音読される読み方とは違うが、こちらの方が古く正しい読み方である。

 普勧坐禅儀
     観音導利興聖宝林寺 沙門道元 撰

 原れば夫、
道本円通す、争んぞ修証を仮らん。
宗乗自在なり、何ぞ功夫を費やさん。
況んや、
全体迥かに、塵埃を出たり、孰か払拭の手段を信べん。
大都、当処を離れず、豈、修行の脚頭を用いん者や。
 然而ども、
毫釐も差有れば、天地懸隔なり、
違順纔かに起れば紛然として失心す。
 直饒、
会に誇り悟に豊かに、瞥地の智通を獲、
得道明心して、衝天の志気を挙げ、
入頭の辺量に逍遙すと雖も、
幾くか出身の活路を虧闕せる。
 矧んや、彼の
祇園の生知たる、端坐六年蹤跡見るべし、
少林の心印を伝えし、面壁九歳の声明、尚聞こゆ。
古聖既に然り。
今人、盍ぞ弁ぜざらん。
 所以に
須らく尋言遂語の解行を休すべし。
須らく回光返照の退歩を学すべし。
身心自然に脱落し、
本来の面目現前せん。
恁麼の事を得んと欲わば、
急ぎ恁麼の事を務べし。
夫、参禅は、
静室宜し。飲食節あり。
諸縁を放捨し、万事を休息すべし。
善悪を思わず、是非を管すること莫れ。
心意識の運転を停め、
念想観の測量を止むべし。
作仏を図ること莫れ、豈、坐臥に拘らんや。
尋常の坐処、厚く坐物を敷き、上に蒲団を用いる。
或は結跏趺坐。或は半跏趺坐
 謂く、
結跏趺坐は、先ず右の足を以って左の●の上に安き、左の足を右の●の上に安く。
半跏趺坐は、但、左の足を以って右の●を圧すなり。
衣帯寛繋し、斉整ならしむべし。
 次に
右の手を左の足の上に安き、左の掌を右の掌の上に安く。両つの大拇指、面相い柱う。
乃ち正身端坐して、左に側ち右に傾き、前に躬り後に仰ぐことを得ざれ。
要らず、耳と肩と対し、鼻と臍と対せしむべし。
舌は上の腭に掛けて、唇歯相い著けよ。目は須らく常に開くべし。
鼻息微かに通じ、身相既に調えて、欠気一息し、左右揺振すべし。
兀々坐定して、思量箇不思量底。不思量底、如何思量(卍本「箇の不思量底を思量せよ。不思量底、如何が思量せん」)、非思量。此れ乃ち坐禅要術なり。
 所謂、
坐禅は習禅に非ず。
唯、是、安楽法門なり。
究尽菩提の修証なり。
公按現成し、羅篭未だ到らず。
若し此の意を得ば、竜の水を得るが如し、虎の山に靠するに似たり。
 当に知るべし、
正法自ら現前し、昏散先より撲落す。
若し坐従り起たんには、徐々として動身し、
安詳として起つべし。卒暴なる応らず。
 嘗観すれば、
超凡越聖坐脱立亡、此の力に一任す。
 況んや、復、
指竿針槌転機を拈じ、
払拳棒喝証契を挙する、
未だ是、思量分別の能く解する所に非ず、
豈、神通修証の能く知る所為らんや。
声色の外の威儀為るべし、那ぞ、知見の前の軌則に非ざらん者や。
 然れば即ち、
上智下愚を論ぜず、利人鈍者を簡ぶこと莫れ。
専一功夫せば、正に是、弁道なり。
修証自ら染汚せず、趣向更に是、平常なる者なり。
 凡そ夫、
自界他方西天東地、等しく仏印を持し、一ら宗風を擅にす。
唯、打坐を務めて兀地に礙えらる。
万別千差と謂うと雖も、祗管参禅弁道す。
何ぞ自家の坐牀を抛却して、
謾らに他国の塵境に去来せん。
若し、一歩を錯れば、当面蹉過す。
既に人身の機要を得たり、虚しく光陰を度ること莫れ。
仏道要機保任す、誰か浪りに石火に楽しまん。
 加以ならず、
形質は草露の如く、運命は電光に似たり。
倏忽として便ち空し、須臾もすれば即ち失す。
冀くは、其れ、参学高流
久しく模象に習って、真竜を、怪しむこと勿れ。
直指端的の道に精進し、絶学無為の人に尊貴ならん。
仏々の菩提合沓し、
祖々の三昧嫡嗣ならん。
久為恁麼、須是恁麼(卍本「久しく恁麼なることを為せば、須らく是れ恁麼なるべし」)、
宝蔵自ら開け、受用如意ならん。

普勧坐禅儀

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