[尼崎事故報告]異常運転の背景が見えてきた(社説)
http://www.yomiuri.co.jp/editorial/news/20061219ig...
ミスの連鎖によるあせりと動揺で、運転に集中できなくなったのではないか――。死者107人を出した異常運転について報告書が示した見方である。
兵庫県尼崎市で昨年4月に起きたJR福知山線脱線事故で、国土交通省の航空・鉄道事故調査委員会が、事実調査報告書を公表した。
昨秋の中間報告は、制限速度を40キロ以上上回って事故現場のカーブに進入した状況を明らかにした。今回は、運転状況の詳細やJR西日本の労務環境、安全管理体制などの調査結果も示している。
運転者の心理が焦点になるのは、統合失調症の機長の異常操縦による1982年の羽田沖日航機墜落事故以来だ。
事故調は分析を進め、年度内にまとめる最終報告で、再発防止へ、運転士の労務管理や教育の課題も提示すべきだ。
報告書が重視したのは、現場手前の伊丹駅で72メートルもオーバーランしたことについて、車掌が列車無線で指令所に報告した交信内容に、死亡した快速電車の運転士が気をとられていた可能性だ。
運転士は車掌に車内電話で「まけてくれ」と頼み、車掌は、72メートルではなく「8メートル」と指令所に報告した。指令員が直接、運転士に説明を求めた時に脱線した。運転士がブレーキをかけずにカーブに進入した直前と交信の時間帯が重なる。
運転士は、始発の宝塚駅でも速度超過で自動列車停止装置(ATS)による非常ブレーキが作動するミスをした。ATS解除には、内規で指令員への連絡が必要なのに、連絡なしに解除していた。
報告書は、運転士が過去にミスをした時に受けた再教育をいやがっていた事実を挙げている。懲罰的な再教育が運転士を追いつめたのかどうか。
教育も不備だった。運転士は、非常ブレーキを使うべき場所で予備ブレーキをかけた。JR西日本は事故調に、ブレーキの使い方は運転士が自分で勉強すると説明したが、乗務員指導要領に従って使用法を図表で示すことを怠っていた。
新型ATSが設置されていれば、事故は防げた。同社の中長期計画では、事故前の昨年3月末までに整備するとされていた。だが、本社が工期を指示せず、支社任せにし、漫然と先送りされた。
国土交通省は10月、同社への鉄道事業法に基づく立ち入り調査で「事故の芽」の報告の活用が不十分と指摘した。
先月、岡山市の津山線で落石により列車が脱線し、25人が重軽傷を負った。この事故も運転士らが土砂崩れの危険を訴えていたのに、対策を怠った結果だ。
安全体制の見直しはまだまだ、十分とは言えない。
(2006年12月20日4時1分 読売新聞)
ミスの連鎖によるあせりと動揺で、運転に集中できなくなったのではないか――。死者107人を出した異常運転について報告書が示した見方である。
兵庫県尼崎市で昨年4月に起きたJR福知山線脱線事故で、国土交通省の航空・鉄道事故調査委員会が、事実調査報告書を公表した。
昨秋の中間報告は、制限速度を40キロ以上上回って事故現場のカーブに進入した状況を明らかにした。今回は、運転状況の詳細やJR西日本の労務環境、安全管理体制などの調査結果も示している。
運転者の心理が焦点になるのは、統合失調症の機長の異常操縦による1982年の羽田沖日航機墜落事故以来だ。
事故調は分析を進め、年度内にまとめる最終報告で、再発防止へ、運転士の労務管理や教育の課題も提示すべきだ。
報告書が重視したのは、現場手前の伊丹駅で72メートルもオーバーランしたことについて、車掌が列車無線で指令所に報告した交信内容に、死亡した快速電車の運転士が気をとられていた可能性だ。
運転士は車掌に車内電話で「まけてくれ」と頼み、車掌は、72メートルではなく「8メートル」と指令所に報告した。指令員が直接、運転士に説明を求めた時に脱線した。運転士がブレーキをかけずにカーブに進入した直前と交信の時間帯が重なる。
運転士は、始発の宝塚駅でも速度超過で自動列車停止装置(ATS)による非常ブレーキが作動するミスをした。ATS解除には、内規で指令員への連絡が必要なのに、連絡なしに解除していた。
報告書は、運転士が過去にミスをした時に受けた再教育をいやがっていた事実を挙げている。懲罰的な再教育が運転士を追いつめたのかどうか。
教育も不備だった。運転士は、非常ブレーキを使うべき場所で予備ブレーキをかけた。JR西日本は事故調に、ブレーキの使い方は運転士が自分で勉強すると説明したが、乗務員指導要領に従って使用法を図表で示すことを怠っていた。
新型ATSが設置されていれば、事故は防げた。同社の中長期計画では、事故前の昨年3月末までに整備するとされていた。だが、本社が工期を指示せず、支社任せにし、漫然と先送りされた。
国土交通省は10月、同社への鉄道事業法に基づく立ち入り調査で「事故の芽」の報告の活用が不十分と指摘した。
先月、岡山市の津山線で落石により列車が脱線し、25人が重軽傷を負った。この事故も運転士らが土砂崩れの危険を訴えていたのに、対策を怠った結果だ。
安全体制の見直しはまだまだ、十分とは言えない。
(2006年12月20日4時1分 読売新聞)
2006年12月21日(木) 04:58:04 Modified by umedango