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<尼崎脱線報告書>「焦り」まざまざ…運転席の記録

http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20061220-0000001...
12月20日4時3分

 快速電車の運転席で何が起きていたのか。05年4月のJR福知山線脱線事故を、20日付で公表された「事実調査報告書」に基づき再現すると、高見隆二郎運転士(当時23歳、死亡)の焦りが伝わってくる。報告書は、事故を招いたJR西日本の「安全軽視」の実態も厳しく指摘した。【本多健、勝野俊一郎、種市房子】

 05年4月25日。勤務2日目の高見運転士は、宿泊先の放出派出所(東大阪市)で午前6時8分に点呼を受け乗務を開始した。同8時31分尼崎発の宝塚行き回送電車に乗務してから運命の歯車は大きく狂い始める。

 同54分、宝塚駅で到着番線を勘違いしたのか、自動列車停止装置(ATS)による非常ブレーキが作動した。本来、このときすべき総合指令所への無線連絡をしなかった。2分後、また非常ブレーキが作動した。

 電車は宝塚で折り返し、事故を起こす快速電車となる。折り返し前、運転士と車掌は席を交代するが、高見運転士は約3分間運転室にこもったまま。車掌がATS作動の有無を尋ねたが、「ムスッとした感じ」だった。

 総合指令所と車掌との交信を傍受しようとした痕跡は、この出発前に残っていた。

 9時4分、宝塚を出発。交信が気になったのか、伊丹駅の643メートル手前で、時速113キロになる。運転室内にはATSの女性の音声「停車です、停車です」が響く。さらに、男性の音声による警報音「停車、停車」が鳴る。最大ブレーキをかけたが間に合わず、非常ブレーキがかかり約72メートルのオーバーランとなった。

 車掌が「次は尼崎」と車内放送したとき、高見運転士が車内連絡用のブザーを使って電話連絡を求めた。

 運転士「まけてくれへんか」
 車掌「だいぶと行ってるよ(ずいぶん行き過ぎているよ)」

 高見運転士はオーバーランの距離を過少申告するよう依頼した。だがその直後、車掌は乗客からおわびを要求され、2人の会話は途切れた。

 その後、出発したが、速度は再び110〜120キロに。9時18分。車掌が総合指令所を列車無線で呼び出し始めた。わずかにブレーキがかかる。

 車掌「えー、行き過ぎですけども、およそ8メートル行き過ぎて……」
 塚口駅を通過、名神高速道路をくぐり抜けた。
 指令「(遅れは)何分でしょうか」
 車掌「あ、1分半です。どうぞ」

 あと数秒で制限速度70キロとなる現場のカーブ。だがブレーキ操作はしていない。同50秒過ぎ、最大ブレーキをかけたが、電車は同54秒、1両目から脱線。マンションに突っ込みながら、10秒後に止まった。

 この間、指令は高見運転士を呼び続けた。「えー、それでは替わりまして、運転士応答できますか」「応答してください。どうぞ」

 傍受内容をメモしようとしたのか。高見運転士は右手袋をはずし、運転室内には赤鉛筆が転がっていた。

 ■事故調担当者「運転士だけの責任ではない」

 事故の起きた宝塚―尼崎間は、数度にわたってダイヤが短縮され、半年前には余裕時分を10秒削ったが、ブレーキポイントを記した運転マニュアルは「事故対応が優先され余力がない」(大阪支社輸送課長)と改訂されていなかった。ダイヤを作るコンピューターのデータも間違っていた。電車は日常的に遅れ、高見運転士作成のメモ通りに走っても常に11秒遅れとなった。

 ダイヤだけではない。現場カーブで減速するためのブレーキポイントも、事故調の試算で約100メートルも現場寄りだった。伊丹駅手前の旧型ATSの地上設備も誤って設置。警報音通りのブレーキ操作でも約101メートルオーバーランしてしまう状態だった。新型ATS整備は予定より遅れ、旧型ATSでもカーブ対策はされていなかった。

 こうしたなか、運転士たちは事故の予兆をうかがわせる経験をしていたことが証言などで明らかになった。しかしJR西は、こうした「ヒヤリ・ハット」情報を集約しようとはしなかった。安全担当幹部の社内会議で03年10月、申告者を不問にする免責制導入を求める意見も出たが「中身によっては指導は必要」「時期尚早」といった意見に押され、先送りされた。

 村上恒美・前安全推進部長は、新型ATSについて「カーブの速度を抑える機能があることを知らなかった」と事故調に話したが、同9月の幹部会議の資料では、カーブの脱線を防ぐために新型ATSが有効だとする記述があった。

 事故調の担当者は「運転士だけの責任ではない」と語気を強めた。

 ▽JR西日本安全諮問委員会委員の芳賀繁・立教大教授(産業心理学)の話 事故の直接原因は、無線に注意が集中し、ブレーキ操作が遅れたことだと考えられる。運転士の行動の背景説明として、ゆとりのないダイヤや、日勤教育など会社の安全管理上の問題を個別に指摘する方針なのだろう。興味深いのは、口裏合わせが完全に出来なかった原因が、列車の遅れに対する乗客からクレームだったこと。ダイヤのゆとりに対する社会全体の理解も必要となるだろう。

 ▽鉄道・航空事故に詳しい作家の柳田邦男氏の話 これだけ連続してエラーを起こすことは異常だ。高見運転士は心理的に圧迫されたのだろう。特に伊丹駅でのオーバーランでは、車掌とのやり取りが中断し、処分への心配が頭の中を占め判断力喪失に陥ったに違いない。ただエラーが連続した理由の解明こそが重要だ。一方、運転士のブレーキ操作やATS作動後の対応について、一人一人に認識の違いがあることが分かった。JR西の安全教育のあり方に問題があったのではないか。

 ▽TASK(鉄道安全推進会議)事務局長の佐藤健宗弁護士の話 運転士個人に責任を押し付けるのではなく、背景にあるJR西の責任に切り込んだことは評価できる。無理なダイヤ設定や幹部の「ヒヤリ・ハット報告は時期尚早」との発言などに、安全や事故防止に関する発想がよく表れている。ただ報告書は非常に難解になりがち。特に遺族や被害者にとっては、事故原因を知ることが打撃を乗り越えるきっかけになる。最終報告では、事故調委員が直接説明する機会を設けてほしい。
2006年12月21日(木) 04:49:18 Modified by umedango




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