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異常運転「なぜ」に迫る 「事実」すべてが可能性

http://www.sankei-kansai.com/01_syakai/sya122002.h...

 国交省航空・鉄道事故調査委員会(事故調)が20日公示する「事実調査に関する報告書」。運転士の行動の一部や事故の事実が明らかになり、JR西日本の企業体質に言及するなど、踏み込んだ内容になった。しかし死亡した運転士=当時(23)=が事故当日にとった異常な行動が解明されたとは言い難い。事故調は来春までに最終報告書を作成する予定だが、「事実」は可能性の域を出ない側面があり、運転士が犯したミスの「なぜ」に迫れるかどうか。今後の審議は正念場となる。

 運転士死亡、調査の“壁”
 ■延べ1000人以上
  事故調は、今回の公示に向け、今年9月から週1〜2回のペースで集中審議を始めた。しかし「事故の大きさを考えれば、調査は慎重にならざるを得ない」(事故調担当者)とし、審議は今月14日まで続き、公示時期も当初の今秋から12月まで延びた。

 報告書作成にあたっては関係者延べ1000人以上に聴取。

 車掌や負傷した乗客だけでなく、運転士の家族や友人、JR西日本、旧国鉄の速度担当者ら採用した口述は30人近くになった。

 運転士が所属していた京橋電車区の運転士約50人を対象にアンケートを実施。「遅延原因と心理的負担」「列車無線に気を取られて速度超過をした経験等」「手袋の着脱」など9項目で、同じ運転士ならどう行動したかをみることで、死亡した運転士の異常な行動を説明しようとした。

 とくに力を入れたのは運転士のアンケートと聞き取り調査だ。事故調の鉄道委員は10人。そのもとに調査員がいるが、聞き取り作業は11月に入っても行われたという。

 ■欠ける説得力
  しかし運転士の死亡が、事故調が事実に迫る調査の“壁”になった。他の運転士の答えは当然、死亡した運転士の回答にはなりえないからだ。

 例えば、運転士は事故当日、片町線の放出駅から尼崎駅まで列車(7両編成)を運転したあと、尼崎駅から宝塚駅まで同じ事故車両を回送列車として運転。この際、宝塚駅で2度、列車自動停止装置(ATS)を作動させた。

 このうちの最初のATS作動は、数年前に別の運転士が同様の行動をしていることを記述。「入構する番線を間違えた」可能性にあわせるが、説得力に欠ける。

 ■30秒間と手袋
  また宝塚駅では、進行方向が逆になるため、1両目と7両目にいる車掌(43)と運転士が交代する必要があるが、移動した車掌が7両目に到着した際、運転士は約30秒間、運転席から出てこなかった。

 この時間帯に、私物の携帯に着信していたメールを閲覧していた−などの可能性を指摘しつつ、事故調は宝塚駅での2度のミスを輸送指令に報告していなかったことを考えていた▽運転マニュアルを見直していたなどの可能性もあるとみる。

 30秒出てこなかったことが今回の事故と関係があるのかは不明だ。

 運転士の右手袋が脱げていたことにいたっては、他の運転士のアンケートの回答が、目をこするためや頭をかくためなど多岐にわたり、参考にし難い。

 つまり報告書の事実はすべて可能性であって、解明されていないという見方さえできる。

 また日勤教育については、運転士が事故前年に3回オーバーランをし、再教育を受けたことを記載。運転士が友人に「次は危ない」などと話したことは報告されたが、日勤教育の影響などには触れなかった。

 もちろん、これらの記述を、肯定的にとらえる声はある。関西大学の安部誠治教授(公益事業論)は「今回の報告書は、意見聴取会の公述人希望者に、事故の事実について考えてくださいというもの。この形式でいい」と話している。

 JR西の企業体質に警鐘
 今回の報告書では、JR西日本の「安全意識の欠如」にかかわる記述が目立つ。事故調が報告書で企業体質に踏み込んだ記述を載せたのは、鉄道事故では初めて。異常だったとされる運転士=当時(23)=の行動は個人的な要因によるものではなく、その背景にはJR西の企業体質があるとさえ読める。

 事故調が安全意識の欠如の一つに挙げたは、列車自動停止装置(ATS)の改良、設置までの過程。導入を決める意思決定機関で、社長ら首脳陣が出席する経営会議の資料を入手し、その記述に紙面を割いている。

 例えば、平成元年に、より安全性の高いATS設備の導入の検討をしながら、福知山線のATS改良、導入が決まったのは15年9月29日。それから実際に導入されたのは福知山脱線事故後の17年6月と、遅いというより、安全対策をないがしろにしていたと批判されても仕方がない。

 また余裕のないダイヤ編成の指摘は厳しい。14年3月以降、毎年ダイヤ改正を行うごとに、約10〜20秒で時間短縮。会社として作成し、駅間の運転時間を計算した表は短縮前の時間の想定のまま。時間短縮の実効性は現場の運転士らに“丸投げ”され、運転士は列車に乗る前からプレッシャーを感じることになる。

 ブレーキをかける地点ギリギリまでスピードを上げなければ守れないダイヤ編成…。報告書の指摘はそうも読める。

 安全を軽視し、利益優先になっていなかったか。報告書は“警鐘”といえる内容になっている。

 (大谷卓)

(2006/12/20 8:15)
2006年12月21日(木) 04:04:36 Modified by umedango




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