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事故調委報告案-識者はどうみる

http://www.kobe-np.co.jp/kobenews/sg/0000196538.sh...
2006/12/20

 死者107人、負傷者555人を出した尼崎JR脱線事故はなぜ起きたのか-。国交省航空・鉄道事故調査委員会の「事実関係報告書案」から読み取れる原因や背景について、心理学、工学の専門家2人とノンフィクション作家・柳田邦男氏に聞いた。


注意低下招いた「不安」 芳賀繁教授立教大(交通心理学)

 JR西日本の安全管理体制の調査や同僚らへのアンケートなど、背後要因にまで踏み込んだ、今までにないタイプの報告書になった。今後、事故のヒューマンファクター(人的要因)を分析するためのデータを十分に集めている。

 現場での速度超過は、高見運転士がブレーキを引くタイミングを逃したヒューマンエラーだったと推測する。居眠りや意図的な速度違反ともいわれたが、直前で百二十キロを超えないようブレーキを使うなどしており、その可能性はないと思う。

 高見運転士は過去に日勤教育を受けた後、友人に「次は危ない」と話すなど、運転士でなくなることを恐れていた。そのため、宝塚駅直前のATSで非常ブレーキが作動したことを指令に伝えず、伊丹駅でのオーバーランも車掌に過少に申告するよう頼んでいる。

 しかし、指令に報告する距離を何メートルにするかなどの口裏合わせを十分にできず、車掌と指令の無線交信を細かく聞く必要があった。人の注意力は、考え事や音に集中することで視力や判断力は低下する。車で携帯電話の使用が禁止されたのもそのためだ。問題ないと思われがちなイヤホンなどを使ったハンズフリーの通話も運転の危険を招くというデータもある。

 車掌が指令との無線で「八メートル行き過ぎ」「一分半遅れ」とした言葉を聞くだけでなく、自身が指令から問われたときの答えも考えなければならなかった。速度やブレーキへの意識が欠落するのは想像に難くない。


惨事拡大の背景分析を 柳田邦男氏作家

 公表された報告書案は、高見隆二郎運転士の行動とミスの詳細なデータや、車掌など関係者の証言、背景にあったJR西日本の安全にかかわる企業体質を見るデータなど、画期的といえるほど情報を掲載して貴重だ。

 高見運転士が伊丹駅発車後に車掌に電話でオーバーランを少なく報告してくれと頼むなど、ミスのことが頭の中を占めてブレーキによる減速を忘れさせたという推論は、心理と生理のデータがほとんどない中では、納得できるストーリーだろう。

 だがより深い問題は、なぜこの日、列車自動停止装置(ATS)を無視して暴走したり、オーバーランを何度も重ねたりしたのかという点の解明にある。最後の暴走はその帰結だからだ。そこをどう分析しストーリーを組み立てるのかが焦点。

 教訓として重要なのは、なぜ事故を防げなかったのか、被害をもっと小さくできなかったのかという視点からの背景要因分析だ。ヒューマンエラー防止の本質理解とその実践の不足、運転士の重要局面操作の理解の不徹底、運転ミス後の再教育内容の妥当性、新型のATS-P設置の遅れなどの問題がデータから読み取れるが、最終報告書でそれらをどう分析し論じるかが、もう一つの焦点だ。今後の範となる報告書にしてほしい。


危機意識低かった 元鉄道総合技術研究所研究主幹 橋本渉一・神戸市立工業高等専門学校教授(交通工学)

 事故調のシミュレーションでは、百五キロ以下では脱線せず、百十キロ以上で脱線するとの結果が出たが、運転士アンケートではそうした情報が知らされていないことも分かった。運転ルールを守らせる教育だけでなく、どれだけ速度超過をすればどんな事故が起こるか-という教育もしてほしい。半径三百メートルの現場カーブは、車が走る高速道路では考えられないほどきつい。最高速度百二十キロの路線で保安設備なしに走っていたことは、JR西日本の危機意識が低かったというほかない。
2006年12月21日(木) 05:00:50 Modified by umedango




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