「はぁ……。どこかに楽して大金を稼げる仕事はないのですかねぇ……」

 キャロルはこの日も失敗に終わった仕事を思い出しながら、夕焼けに染まる道を歩いていた。
 悠々自適なニート生活を送るはずが、何を間違ったのか最近は毎日まじめに働く日々だ。
 理想と現実のギャップに、ついため息が出てしまう。

「お嬢ちゃん、お嬢ちゃん。お金にお困りかい?」

 不意に脇から声をかけられた。
 中年の、どこにでもいそうな冴えない男性が、建物の入り口に立っていた。

「何ですか、おじさんがお金をくれるんですか?」
「いやいや、いい仕事を紹介してあげようと思ってね」
「ホントですか? 嘘だったらハリセンボン飲ませますよ?」
「ああ、別に構わないとも。この仕事は絶対お嬢ちゃんのお眼鏡に適うはずだ」
 自信満々な男の返事に、キャロルの興味がそそられる。
 無意識に身を乗り出していく。
「まずはお嬢ちゃんがこのロイヤルコンニャクゼリーを4000Gで買うんだ」

 キャロルは眉根を寄せる。
 一般的なゼリーの値段は、せいぜい50Gというところだ。
 男の言った価格はゼリーひとつにしては高すぎるし、第一ゼリーを買ってもキャロルは儲からない。

「仕事を紹介してくれるんではなかったのですか?」
「まあ、もうちょっと聞いてくれ。もちろん、ただ買ってそこで終わりってわけじゃないさ」

 男は自信ありげに口元をゆがめる。

「実はこの値段はゼリーと会員権合わせてのものなんだ。
 ゼリーを買うと同時に、お嬢ちゃんは『ナニワ正会』に入会するんだ。
 会員になれば、ここで会員価格の3000Gでロイヤルコンニャクゼリーを購入できる。
 そして、お嬢ちゃんも俺と同じように誰かにゼリーを売ることができる。
 つまり……」
「……?」
「ひとり入会させるごとに、お嬢ちゃんは1000G儲けるって寸法だ!
 たった4人に買ってもらうだけで、元が取れる。
(注:会員権とセットじゃないといけないので、キャロルが買ったのは売れない)
 もっとたくさん勧誘すれば、やればやるだけ儲かるんだ!」
「な、なるほど、ひとりで1000Gですか……」

 キャロルは今までやった売り子の仕事を思い出した。
 一日中働いても貰えるのは1500Gといったところだ。
 それに比べればひどく魅力的な話に思えた。

「しかもそれだけじゃないぜ?
 お嬢ちゃんが入会させた人が他の人を入会させれば、
 なんとお嬢ちゃんにも会からボーナスとして1000Gが支払われるんだ」
「そ、それって、ボクが何もしなくても貰えるですか?」
「ああ、優秀な販売員をスカウトした報酬だからな。
 ただ、お嬢ちゃんが早く勧誘しないと、他の人の誘いで会に入ってしまうかもなぁ。
 そしたら当然、お嬢ちゃんのボーナスもなしだ」
「わかりました! 買うですっ!」

 次の日。
 キャロルはロイヤルコンニャクゼリーを持って、近所のおばちゃんの家に来ていた。

「――つまり、絶対儲かるのですよ!」
「キャロルちゃんがそこまで言うなら、ひとつ買っちゃおうかねぇ」
「ホントですか!
 ありがとうございます。
 ぜひ他のみんなにも勧めてください」

 おばちゃんはキャロルの勧誘に肯いてくれた。
 わずか10分話しただけで1000G。
 しかもおばちゃんが他の人を誘えば、その人数×1000Gが貰えるのだ。
 まだ元は取っていないとはいえ、他の仕事に比べて非常に簡単で稼げる。
 もっとこれで金を稼ごう――キャロルは顔をだらしなくニヤつかせながら、心の中でつぶやいた。
 そして……。



 キャロルは部屋に積まれた大量のロイヤルコンニャクゼリーを見た。
 自然と頬が緩んでしまう。

「ふふっ。ついつい借金までしてたくさん買ってしまいました。」

 金貨のプールに飛び込む未来を夢想して、幼げな少女は幸せな笑みをこぼすのだった。



------------------------ 『キャロルの求める仕事』>>10-11のあとがき

メガテンの小説だかで、ねずみ講を使って魔界で金儲けってのがあったなぁ……。
みんな知ってると思うけど、人口は有限なのでこの商売システムはいずれ破綻します。
詳しくは「マルチ商法」「ねずみ講」で検索してください。
近い将来、業者が夜逃げしてキャロルはゼリーと借金を抱えて途方にくれます……。
でもキャロルは懲りずに、そのうちまた楽して儲けようとして騙されそうな気がする。
ゲームでねずみ講を入れる場合、やり方によっては儲けるようにしてもいいと思うけど、
たとえ自分が儲けても、損した知り合いからの評価は下がるんだろうな。


てけえしさんのロリ魔女からキャロル(18)に勝手に出演してもらいました。

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