523 :名無しさん@ピンキー:2006/04/17(月) 02:18:31 ID:5VsILDtn
「ったく、ユラの奴‥‥なんでこんな面倒なことを考えるかねぇ」
 ある小さな町。盗賊退治の依頼を受けた二人の片割れ、大柄な男はそう独り言をこぼした。
ユラ――相方の男は、今は盗賊が根城としている屋敷に「囚われて」いる。もちろんそれは見せかけ。
予定の時間に合わせて中で混乱を起こし、そこにガルト――この体格の良い男――が切り込む、
という算段だ。本来ふたりの実力をすれば田舎の盗賊ごとき、正面からで十分なのだが、
ユラがやたらとこの策にこだわったのだ。
「‥‥どうせ名のある剣士でもいるって話を聞いたんだろうけどよ‥‥ま、いいけどな。
とりあえず明日の夕方まで、あいつの無事を祈りつつ――祈る必要もねえけど――酒でも飲むとするか」

* * * * *

 屋敷の広間。どう見ても堅気には見えない男達――中には女も見えるが――の輪の中心に、
黒いローブ姿の男が縛られたまま床に座らされていた。そう、ここが件の盗賊の根城であり、
縛られているのが件の「ユラ」だ。感情の感じられない顔と言い、華奢な体つきと言い、
線の細い印象を受ける。が、その横に投げ出された剣――盗賊共に武装解除されたのだろう――は、
持ち主の印象にはおよそ不釣り合いなほど長い曲刀だ。
「ふぅん、お前が捕虜かい。ふふふ、なかなかきれいな顔をしているじゃないか」
 広間の正面に立つ三十路前後の女が、捕縛された男のあごをくいっと持ち上げ、そう笑った。
その身体は豪奢な宝石で飾られ、女の下品さを際だたせている。いや、決して不美人ではない。
むしろ美貌と言っていい。だがそのいかにも男好きといった容貌や過剰に色気を意識した振る舞いは、
とてもではないが上品とはいえない。
「リザーナ」
「ここに」
 応えたのは、捕虜を囲む中にいた女。
(――これが〈毒蛇〉のリザーナですか)
 ユラは目だけでその相手を見た。
 たとえるなら雌豹のような女。流れるような黒髪、鋭い眼、身体の線を隠そうともしない軽装の
――むしろほとんど装飾品に近い鎧からは豊かな乳房と深い谷間、引き締まった腹筋が見える。
防具に露出が多いと言うことは、それだけ身体能力に自信があると言うことだろう。紅い舌が、
淫らとしか言えない仕草で美しい唇を舐めた。
「リザーナ、最近の働きは大したもんだねぇ。
褒美といってはなんだけど、その男、しばらくお前に預けるよ。好きにしな」
「はっ。ありがとうございます」
 そう頭を下げると、リザーナと呼ばれた女はにたりと笑った。
(‥‥あとでお手合わせ願いますよ、リザーナさん)


524 :名無しさん@ピンキー:2006/04/17(月) 02:19:44 ID:5VsILDtn

* * * * *

「さっさと入りな‥‥ふふっ」
 女にせっつかれるように、ユラはその部屋に連れ込まれた。手は後ろ手に括られているが、
その他は自由にされている。
「お、おかえりなさいませリザーナ様!」
 女が部屋に入ると、せっぱ詰まった声が出迎えた。そしてそれに遅れまいと、同じ挨拶が
輪唱のように続く。薄暗い部屋の中には半裸あるいは全裸の男が十人近くいた。若い。
十代の半ばから後半といったところだろうか。
(‥‥ハーレムですか‥‥良い趣味してますねえ‥‥)
 部屋の女主人は男達に防具を外させ、ゆったりとした部屋着を羽織ると見るからに豪華なソファに
腰掛けた。商人から奪い取ったのだろうか、ソファには猛獣の毛皮が敷かれている。グラスにワインを
注がせると、それをあおりながらワインに劣らず真っ赤な唇を開く。
「その坊やの服も脱がせなさい――そうだ、坊やの名前は?」
「‥‥ユラです‥‥――?」
 ユラは渋々答えてやると、ふと痛みを感じて下を見た。‥‥どうやら焦った少年が、
ベルトの金具を引っかけてユラの脇腹に小さな傷を付けたらしい。
「‥‥? 何かあったの?」
「いえ、ちょっとした傷が――」
「あ、あ‥‥ひ‥‥」
 無造作にユラが答えかけると、傷を付けた少年が途端に震え始めた。その反応に女の目が
すぅっと細くなる。ソファから立ち上がると、ゆっくりと歩み寄り――
「傷‥‥ね。ルド? どうしたのかしら?」
「ひぃ‥‥お‥‥お許しを‥‥」
 あごを捕まれ、涙声になる「ルド」と呼ばれた少年。
「ユラは姉御から預かったお客人よ? そのお客に傷を付けた子には‥‥お仕置きが必要よねぇ?」
紅い爪が少年の首筋を這う。
「あ‥‥あ‥‥」
「お前は――用無しよ」
――ゴギッ!
鈍い音が響くと、哀れな少年の首はあり得ない方向に曲がっていた。


525 :名無しさん@ピンキー:2006/04/17(月) 02:20:53 ID:5VsILDtn

* * * * *

「あひぃっ! あはぅ、っく、あああっ、んはあぁぁぁああ!!」
 薄暗い部屋に激しい淫声が響く。
「は‥‥あぁぁっ! す‥‥すご‥‥い‥‥! 奥まで‥‥当たって‥‥! ひぃ、ひああぁ!」
「――ここ、ですか?」
「ああああっ! そこ、そこぉっ!! 突いて、ユラ、もっと、――っくぅぅう!!」
 黒髪を振り乱し、半狂乱になって悶え狂うのはこのハーレムの主、リザーナ。
彼女四つんばいにさせて貫き、絶叫させているのは「客人」であるユラ。線の細い容姿からは
想像もつかないほど、彼は巧みにリザーナを貫いた。
 ハーレムの少年達は、部屋の隅に固まって成り行きも見守っていた。リザーナは「客人」を
傷つけたという名目でルドを「処分」したが、それは彼女の気まぐれに過ぎないと誰もが知っていた。
ほんの少しでも気分を害せば、躊躇なく殺される――さらわれ、「飼われて」いる彼らは、
多くの仲間達の運命からそれを学んでいたから。
 そして、その「客人」もおそらくその運命から逃れられまい――彼女を満足させることができず、
無惨な最期を遂げるだろうと思っていた。だが。
「か、固い、太いわ、すご‥‥い‥‥! あ、あたしが、こんな‥‥に‥‥!
またイく、ああ、イくぅぅうう!! あはぁああああ!!!」
「素敵ですよ、リザーナさん‥‥もっとイってください‥‥胸はどうですか‥‥?」
あいかわらず表情を浮かべずに、ユラは女を抱く。女を後ろから抱きかかえるようにして貫きながら、
片手で豊かな胸を揉みしだく。汗に塗れた肌がぬめり、固く尖った乳首が手のひらを刺激する。
「あぁあ! おっぱい、もっと、ああ、もんで‥‥あくっ!!
こ、壊れる――イく、イく、イく、――んああああぁぁぁぁあああぁあ!!!」
(久しぶりですね‥‥こんなにイイ抱き心地は‥‥。ふふ、僕としたことがのめり込みそうですよ、
リザーナさん。でもまあ、そうも言ってられませんけどね)
 緩急をつけたピストンにひたすらイき続ける女を楽しみながら、
ユラは明日の予定に思いをめぐらせた――。

* * * * *

 翌日。リザーナは激しすぎる夜を過ごし、昼前だというのに泥のように眠っている。
ユラがその間、もちろん何もしていないわけはない。
 彼女のハーレムの少年からこの屋敷の構造を聞き、奪われた自分の剣をひそかに回収した。
本来ならこの次点でリザーナを始末すれば話が早いのだが、ユラにとってそれは最後だ。
この地方の剣客に知られた女性剣士、〈毒蛇〉の名でも知られたリザーナ‥‥勝負したい。
いや。感情をほとんど顕わにしないユラにとって、ただ一つ心躍るのは名のある剣士と
殺し合うことだけだ。名声には興味がない。ただ、自分の力を知りたい、測りたい。
とにかく、相棒がやって来るのは今日の夕暮れ。それまでにある程度の準備をして、
そのあとメインディッシュを平らげ、まぁ‥‥あとは相棒に任せてもいい。どうせガルトは
「悪党を退治する」のが楽しいのだから、獲物が多くても文句は言うまい。


526 :名無しさん@ピンキー:2006/04/17(月) 02:22:37 ID:5VsILDtn

* * * * *

「火事だー!」
「火がー! 誰かー!!」
約束の時間。盗賊達の屋敷の数カ所で、同時に火の手が上がった。誰がやったのかは知れたこと。
リザーナが眠り込んでいる隙に懐柔したハーレムの少年達だ。彼らは小間使いのような役割もあったため、
屋敷内を移動するのに支障はなかったからだ。
「お、おい、なんだ、どうなってんだ!?」
「敵か!?」
 統率が取れているとは言い難い男どもが右往左往する。
「ちっ‥‥役に立たない連中ね! 騒ぐんじゃないわよ、分担して消しにかかりな!
お前ら! ぼさっとしてないで襲撃に備えろ!」
 広間で烏合の衆を指揮するのはリザーナ。一喝に怯えたのか、盗賊達はなんとか冷静さを
半分ほど取り戻して消火と警戒に当たり始める。
「姉御は無事かしらね‥‥ったく、町の連中も弱いくせにしつこいったら――?」
「リザーナ様! お部屋からも火が!」
「なんですって!?」


「遅かったですね、〈毒蛇〉さん」
「‥‥その名を知ってるとはね‥‥ユラ‥‥そう、あんたが‥‥」
 待っていたのは煙と炎ではなく、黒いローブに身を包んだ男だった。
そしてその腰には、取り上げたはずの曲刀。
「ええ、もうすぐ僕の相棒がこっちに来るはずですから、その準備です。――あ、来たみたいですね」
入り口の方がにわかに騒がしくなり、金属音と人間の怒号と悲鳴が響いてくる。
「ちっ‥‥陽動か‥‥こざかしい。
これだけの騒ぎを起こしてくれた以上、残念だけど――死んでもらうわ」
 チキリ、と女の剣が小さな音を立てる。
「ええ、こちらとしてもそのつもりです。
まあ、僕たちの邪魔はしない、悔い改める、というなら、肌を重ねた縁で逃がしてあげてもいいんですよ?
正直、あなたほどの女性を斬るのはちょっと惜しいですし」
 相変わらず感情を感じさせない声。もっとも、「惜しい」と言っても本心は殺し合いを
楽しみたいのだろうが。その言葉にリザーナはどす黒い笑みを浮かべる。
「ふふ、奇遇ね。あたしも同じく、よ」
 ユラが曲刀に手を掛ける。
「――つまり」
「殺し合い、ね」
 冷たい殺気を身にまとい、二人は対峙する。
 ザリッ。
 リザーナの足が、半歩にじり寄り――凄まじい瞬発力に激烈な殺気を載せ、剣が空を裂く。
飛び下がるユラに向け一瞬の停止もなく踏み込んでそのまま斬り上げ、さらに下がるユラを貫く
――はずだったが、紙一重でユラが左に避ける、と見るや彼女は大きく跳んで距離を取った。
「一対一の勝負を仕掛ける変なことをするだけはあるわね‥‥ふふ‥‥抜いてもいいのよ、その剣。
ちゃんと殺し合いましょ」


527 :名無しさん@ピンキー:2006/04/17(月) 02:23:55 ID:5VsILDtn
「‥‥そうですか、じゃあそうさせてもらいます」
 柄に掛けた手が強く握りこまれる。
 ザリッ。
 ユラが半歩踏み出す。リザーナはニィっと笑うと、剣を構え――
――ギャリィッ!
「!!」
 耳障りな金属音が響く。リザーナがかろうじて鍔で止めたことを確認すると、
ユラはわずかに引いて凄まじい速さで縦横に斬りつける。そしてそのスピードに慣れたのか、
最初は圧倒されていたリザーナの剣が徐々にそれを効果的に受けてゆく。
そして、じりじりと攻守が入れ替わり、防戦に転じようとした瞬間、
ユラは大きく跳んで再び距離を取り――

――チンッ。
――ユラの剣は澄んだ音を立てて再び鞘へと戻った。そしてその手が刀の柄から離れ、
殺気が霧散する。女が嗤う。
「あらあら、たしかにいい腕だけど、もう終わり? ふふっ、それもしかたないわね。
あたしのカラダを味わったんだもの‥‥オトコにこのカラダが斬れるはずないわよ。
さあ、ここまでね。あたしを悦ばせてくれたお礼に、楽に死なせてあげるわ‥‥」
 驕慢、色欲、陶酔、嗜虐。ユラは心底呆れた口調で応え、
「――もう少しできる剣士だと思ったんですけどね‥‥ちょっとがっかりしましたよ、リザーナさん。
じゃ、もう僕は行かせてもらいますから」
 そう言って無造作に女の横を通り、すれ違ってゆく。
「何言ってるの? ここで終わりだって言ってる――のに――えっ‥‥?」
 彼女の剣が、刀身の真ん中から斜めにずれ、落ちた。
「‥‥なっ――!」
 彼女の驚きの声に振り向きもせず、ユラは平然と足を運ぶ。
「ちょっと‥‥え‥‥? あ‥‥!?」
 手に感じていた剣の重みが消える。右手を見ると、手首に赤い線が現れ、ずるりとその先がずれた。
「て、手が――! あ、ああっ!!」
 ぼと。ぼとり。右手が、次いで左手が落ちる。両肘がぱっくりと裂け、落ちる。
二の腕に細い筋が現れ、落ちる。切り口からは鮮血が吹き上げ、あたりを染めてゆく。
「ヒィ――い、いや、どうして――! か、かふっ‥‥う、う‥‥そ‥‥」
 すっぱりと滑らかな切り口を見せ、胸を護っていた軽装鎧が落ちる。見事な張りの乳房、
昨晩ユラに揉ませていた淫蕩な乳房が露出し――赤い線が何本も交差し――
「む、むねが――からだ――あたしのカラダが――」
 一瞬の間に、彼女はようやくすべてを悟った。何が起こったのか、ではない。
次の一瞬に起きる運命を悟った。それでも、その一瞬のうちに彼女は極限の絶望を味わった。
多くの男を狂わせてきた淫美な肉体が、醜く――いや、芸術的な太刀筋で斬り刻まれ、
そして、死――死ぬ。このあたしを斬る、この身体を斬れる、そんな、そんな男が――!
 張りつめた乳房に這う線から、紅い液体がじわりと溢れる。そしてそれを皮切りに、
彼女の上半身を縦横無尽に走る紅い線からそれぞれに、真紅の液が流れ――
「た、たすけ――いや、し、死にたく――」
ブシュウゥゥゥッ!
 悲鳴と同時に、ほとばしる血潮は全身から勢いよく吹き出し、傷一つ無かった彼女の肉体を
真っ赤に染めてゆく。
「ああぁぁっ、だ、だれか、たすけ‥‥こん‥‥な‥‥!!」
コンナトコロデ死ニタクナイ
モット殺シタイ
  モット抱キタイ
    モット抱カレタイ
       モット――
「ひいぃぃいぎゃあああぁぁぁ――‥‥あ、あ゛、あ゙ぐぁ‥‥ぉ‥‥」
 絶望の悲鳴は濁った声に代わり、そして途切れた。
 ドサドサッ、グチャ、ドチャ、ドサッ――
 美しかった身体がズタズタの肉となって崩れ、そして傷のない頭がその上に落ち、
上半身を失った脚が倒れた。それが肉欲と自分の外面の美しさだけに囚われ続けた女剣士の最期だった。
 背後に断末魔と肉塊の崩れる音を聞きながら、ユラは相変わらず感情を感じさせない口調で呟いた。
「そうそう、リザーナさん。剣技は僕の足下にも及んでなかったですけど、体の具合はなかなかでしたよ。
――じゃ、地獄で悪魔にでも抱かれててください。いずれまた、そっちで逢えるかも知れませんね」
肉欲に取り憑かれた女剣士には、多少の慰めになる言葉だったろうか。

メンバーのみ編集できます