213 :名無しさん@ピンキー:2006/08/15(火) 02:50:09 ID:Y4aFqiJf
 だが、神は俺を見捨てなかった。俺がいよいよ死を覚悟した時、どこからか男の声がふってきたのだ。
「手こずってるようだな」
 周囲を見渡すと、いつの間にかバーの屋上でネオンサインに片足をかけ、俺たちを見下ろしている奴がいる。
 夏だというのに喪服みたいに真っ黒なシャツで、汗もかかずに太陽を背にして立っている。
 髪の毛は染めているのか元からか知らないが、白に近い銀色だ。顔はよく見えないが、それでもかなりの……
「ウホッ、いい男」
 新たに出現したその男を見て、女淫兵たちは俺をターゲットから外した。
「むっ、新手か!」隊長の一声で一斉に格闘の構えをとり、バーの屋上の男に向き直る。
 男はそれに動じることなく、ポケットに手をつっこんだまま、すっと両目を瞑った。
 病人かと見まごうほど白い彼の頬を、右目から流れた血が一すじ落ちてゆく。
 そして次に彼が両目を開けた時、彼の双眼は真っ赤に染まっていた。黒目も白目もなくなった、恐ろしいまでの真紅だ。
「チャージ・フルスペック」
 彼が小さく静かに呟いた瞬間、体からカッと閃光がほとばしる。次の瞬間、そこには真っ黒な強化スーツに身を包んだライダーが立っていた。
「なんでだ? 変身ベルトもしてないのに!」
「改造人間なのか!? ……それにしても、あれはもしかして……」
 驚く俺とピザ男の前で、漆黒のライダーは屋上から跳んだ。一陣の黒い旋風と化した彼は、急降下して立ち並ぶ女淫兵の間を駆け抜ける。
「あっ!」
「えっ!?」
 彼が通り抜けた所に立っていた女淫兵が驚きの声を上げ、彼女らの腹部には見る間に横一文字の線が現れた。
「あっ、あっ、ああああああ!」
「いやあああああああ!」
「うっ、うわああああーーっ!」
 十人あまりの上半身が悲鳴をあげながら地面に落ち、残った下半身からは露出した中枢部の機械がショートして青白い炎を上げる。
 道の反対側で止まって向き直った彼を見ると、右手がもはや人間のものではない。
「なんだあのでっけえ剣! ガッツの持ってるやつか!?」
 ピザ男が汗を拭いながら眼鏡をかけなおす。「マジで〃ドラゴン殺し〃みたいだな」
「おのれ、よくもっ!」
 すかさず近くにいた一般兵が左側からパンチを繰り出すも、彼はそれを軽くのけぞってかわすと、左手で彼女の顔面をがっしり掴んだ。
「うっ!? あ……が…ひぐっ! ひいっ!」
 メキメキ、ゴリゴリと嫌な音が響き、掴まれた女淫兵の頭部が歪んでいく。やがて顔と同じく歪んだ悲鳴を残して、彼女の頭は砕け散った。
「ひぶあぃやぁっ!!」
 脳部分に入っていた小型カメラや無線受信部が白い体液と共に飛び散り、首無しの彼女はギクギクと奇妙なステップで数歩歩いて倒れた。
「小癪な! 全員まとめてかかれ!」
 士官タイプの隊長が号令を下すと、残った女淫兵が一斉に彼目掛けて飛び掛った。が、それでも彼は動じない。
 軽くスウェーバックすると右隣に路駐してあったベンツの後部バンパーに足をかけ、思い切り踏みつけた。
 手綱を引かれた馬よろしく直立したベンツを壁にして右からの突撃を防ぎ、左方に向けてでっかい刃物の右腕をなぎ払う。
「うぐ!」
「があっ!」
 断末魔を上げられたのはまだラッキーな方で、殆どの女淫兵は何が起こったか理解する間もなく首をすっ飛ばされた。
 息絶えて立ちすくむ左前列を放置したまま、彼は戦列中央へと一気に飛んだ。着地と同時にぐるんと一回転し、黒い竜巻を引き起こす。
 周囲の女淫兵が声もなくバラける頃には、命令を下したポニテの隊長に向かって一直線に突進していた。


214 :名無しさん@ピンキー:2006/08/15(火) 02:57:09 ID:Y4aFqiJf
「ひ……ひい、ひいいいいっ! 来るなぁ!」
 恐怖に声を上ずらせながら、小隊長が右足を高くあげて連続キックを繰り出す。
「このっ! 死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ねしんじまえーーーーっ!」
 警察の分析によると、女淫兵のキックは一平米あたり十一トンもの威力がある。それは俺も聞いた。
 危ないと思って助けに入ろうとした俺達は、だが、さらに信じられない光景を見せ付けられた。
「うわ! あいつ、クロスさせた腕だけでキックを防いでやがる!!」
「ありえねーーーーッ!! なんだよアレ、俺の強化スーツより頑丈じゃんか!」
 ついでに言うと、俺とピザ男はすでに格闘漫画などで言うところの〃驚き解説要員〃に転落したっぽい。
 ガガガガガガガガガと物凄い勢いで当たるキックを受けて一歩も引かず、彼は隙を見て隊長の背後に回った。
「ああっ!?」
 ちょうど右へハイキックを出していた隊長は避けることもままならず、股間と左肩を掴まれてヒョイと持ち上げられる。
 次の瞬間ぐるんと空中で回され、彼女の天地は逆転した。そして股間を鷲掴みにされたまま、脳天から地面へ叩き付けられた。
「メメタァ!!」
 肩まで道路に埋まった隊長は、空に向けた長い脚をむなしくバタバタさせていたが、
やがて水飲み場のようにジョロジョロと冷却水を吹き上げると、ポウッと光って動かなくなった。
「何なのこいつ! いやあー!」
「うわああああ! 助けてー!」
「あっこら、逃げるな!」
 残った一般兵は隊長がやられたことで怖気づき、背を向けて逃げてゆく。もう一人の士官が止めるのも聞かない。
 黒いライダーは、逃亡を図った連中にも容赦しなかった。
 ダッシュで追いかけると、彼女ら目掛けて道の真ん中に放置されていたエスティマを蹴り飛ばしたのだ。
 サッカーボールよろしく跳んでいったエスティマは、逃げてゆく彼女らの背中に激突した。
「ヘギョミツ!」
 哀れな悲鳴を上げた彼女らはそのままビルと車体に押しつぶされ、あえない最期をとげた。その一秒後、追い討ちとばかりに車が爆発する。
 彼が現れてから、わずか十五秒。残った女淫兵は、ポニテの士官ただ一人。
「どうした、逃げないのか」
 炎と黒煙をバックに話しかけながら、彼はゆっくりと残った一人に近づいてゆく。
「ううぅっ……くそっ、卑怯者! なぜ貴様は邪神様のご意思通り、セックスバトルで戦わない!」
 女淫兵士官は歯噛みしながら悔しがり、彼に指を突きつけて罵った。
「貴様、さては短小なんだろう! それともインポか!? いずれにしても邪神様の下で生きる価値のない男だ!」


215 :名無しさん@ピンキー:2006/08/15(火) 02:59:33 ID:Y4aFqiJf
 漆黒のライダーは立ち止まり、呆れたように天を仰ぐ。俺はこの時、彼がヘルメットの中で嘲笑うのを感じた。
「ふん。そんなに言うなら、ちょっとだけ付き合ってやろう」
 言うが早いか空中へ軽々とジャンプし、再び俺の視界で捉えた時には士官のすぐ後ろに立っていた。
「あ!?」
 慌てて振り返ろうとする彼女の左の乳房をがっしりと掴み、普通の腕に戻した右手をパンティの中に滑らせる。
「あっ、うっ、は……」
 思わず前屈みになろうとするのをオッパイで引き戻され、彼女はがに股のまま股間をいじられて、次第に感じてゆく。
「ううっ、ひっ!? ああ、そんな……そんなぁ、指だけでッ……!!」
 グチュグチュと愛液のかき回される音が大きく響き、彼女のブーツの足はガクガク震え、息遣いも荒くなってきた。
 たちまち絶頂へ向かって追い詰められてゆく女淫兵士官とは逆に、ライダーは怒りを込めた声で静かに語りだす。
「俺はな、お前らの言う理想なんか大嫌いだ。『美しい方が優れている』とか『強い者こそ優れている』とか、結局は選民主義を持ち出してくる。
下らないんだよ、うんざりなんだよ! 貴様らはどうせ、自分のせいで傷ついて死んでいく人間の事なんか考えないんだろうな!」
 怒気を強めながら、彼は指に力を込めて次第に愛撫をいっそう早めた。
「くうぅっ! つ、強い男だけの世にするのが何故悪い…ハァン! お、憶えていろっ、必ず私の仲間がお前を……あふっ!」
 女淫兵が意味のある言葉を喋れたのはそこまでだった。大きめのクリと乳首をゴリゴリ摘み上げられ、舌をとび出させて悶える。
「ファー、ブルスコ……ファーブルスコ……ファーブルスコファー」
 ライダーはキモくなったのか飽きたのかは知らないが、彼女が光りだしたところで愛撫をやめ、首にチョップを食らわせた。
「モルスァ」みたいなことを言いながら凄い勢いで飛んでいった彼女は、バーの壁に人型の窪みを作って半分めり込んだ。
 壁の破片を落としつつ自分の体を壁からひっぺがし、ヨロヨロとこちらへ寄ろうとするも、彼女はピタリと動きを止める。
「お……おっ……」
 目を一杯に開け、内股で立っているのがやっとという感じだ。着衣――といってもパンツだけだが――のまま冷却水を垂れ流し、
やがてゴボッと自らの白い体液を吐く。ゆっくりと前のめりに倒れ、尻を高々と上げたまま地面に沈んだ。
 なんと、彼女の体は巨神兵よろしくドロドロと溶けてゆく。あまりに強い衝撃を受けた為、菌同士の結合が外れてしまったのだろうか。
「フン、所詮は大人の玩具か」
 シュッと音がした後、ライダーは元の姿に戻っていた。あれだけ暴れたのに変化はなく、髪型の乱れもないし汗もかいていない。
 そして俺とピザ男は、もはや解説要員の役すらできなかった。驚きでまともな言葉が浮かばないのだ。
「すっ……Sugeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeee!!」
「つっ……Tueeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeee!!」


240 :名無しさん@ピンキー:2006/08/26(土) 11:30:41 ID:fDYDh7oO
「お前ら、怪我はないか」
 彼が俺達のほうへ寄るのと、ビルの陰からヘリが現れたのはほぼ同時だった。
 腹に『警視庁』と書かれたヘリは放置車両をよけて交差点の真ん中に降り立ち、ぶくぶく太ったオッサンが降りてくる。
「いやぁ〜、すばらしいぞダークキッド君、君は英雄だっ!」
 近寄ってくるオッサンを見て少し眉をひそめ、ダークキッドと呼ばれた男は言葉少なに返した。
「そんな事より副総、ブラックレディースの捜査資料は本当に分けてくれるんだろうな」
「ああ〜もちろんもちろん! もう下のものに渡すよう言ってある。うん」
 二人が何やら俺の解らない会話を交わしている間に、ピザ男がそっと俺に耳打ちする。
「やっぱりな。ダークキッドだよ、あれ」
「なにその日本語に訳したら〃暗い子〃」
「警察の中で流れてた噂でな。小さいときにライダー改造されて、そのまま成人した改造人間がいるってんだよ。それがあいつ」
「へぇー。そういうのって、やっぱ手術代高いのか? 俺もやりたい」
「〃やりたい〃じゃねーよ、既存技術だとあんなにいじれば成長が止まるんだぞ! 妄想の域だと思ってたのに」
 少し離れて立っているダークキッドの方をちらりと見ると、彼はそっぽを向きながらも、こっちに注意を向けているようだった。
(やべ、全部聞かれたかも)
「副総監、ここの上にあるクラブを仮の本部にしましょう。どうせ誰もいません」
 いつの間にかオッサンに付き従っていたメガネの小物っぽいのが、揉み手擦り手で高級クラブの看板を指差している。
「うふひっ、そうしよう。われわれ幹部には快適な環境が必要であるからな。うひひふひひ」
「そうしましょう、そうしましょう。むふひひひ」
 ボトル目当て丸わかりの態度で、おっさん二人は手もみしながらビルの中に入っていく。
 ダークキッドは二人に付いていきかけたが、ふと足をとめて俺とピザ男を振り返った。
「お前らも来いよ。仮本部なんだから、ここで休憩できるぞ」
「あ? 俺もいいの?」
「ええ〜、副総監とヒラのおれが一緒なんてまずいだろ……」
 ピザ男はおっさんに遠慮があるのか、ビビりながらモジモジしている。腹はでかいくせに気の小さい男だ。
「なんだ? ここは幹部専用の本部にするつもりであって、ただの警官には他を用意しようと思ってるんだが」
 副総監とかいうのが眉間に皺を寄せ、俺たちを値踏みするように見た。小物が触手つきの俺を見ながら副総に囁く。
「同じライダーでも、あっちの方は全然かっこよくないですね! まるでイソギンチャクです」
 『黙れコシギンチャク』とよっぽど怒鳴りたかったが、俺はピザ男のために我慢した。
「確かになあ…… おい君、その変なのは知り合いか?」
 と、ここでダークキッドは思いもよらない事を言った。
「ああ、知り合いだ。二人とも、オレの事をよーく知ってる」
 ……やっぱり聞こえてた。

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