このページは、主に神経科学に関することがらについて、気になることを集めたメモ集です。

視覚野で運動に選択的に応答する部分(motion sensitive visual areas)は、主に側頭葉に位置していて、サルではMT(middle temporal visual area)とMST(medial superior temporal visual area)という2つの領野に分けられる。ただしヒトでは、測定手法の空間分解能に限界があり(電気生理学的手法は基本的に使えない)、これまでMTとMSTとを区別せずhMT+やV5と呼んできた。

最近、MRIの性能の向上によって、さらに高い空間分解能で脳活動を測定できるようになったことから、MTとMSTのニューロンの視覚刺激に対する応答特性や機能的な差異に基づいて、MTとMSTとを分離することが試みられるようになってきた(文献1, 2)。

これらの研究では、MTとMSTとを区別するのに、以下に挙げる特性の違いを用いている。
  1. MTとMSTのニューロンの受容野の大きさの違い (MT < MST)
  2. 刺激視野と応答するニューロンの関係 (MT: contralateral; MST: ipsi- & contralateral)
  3. 眼球運動信号の処理 (MT: retinal slip signal; MST: extraretinal signal)

Dukelowらは、視覚刺激としてoptic flowを用い、全視野刺激によりMTとMSTが賦活し、peripheralに刺激を提示したときにはMTは対側視野刺激のみに応答し、MSTは同側/対側両視野の刺激ともに応答することを示した。また、MTはvisual inputに基づくsmooth pursuitのみで活動し、MSTはvisual inputによらないsomatosensory-guided pursuitでも活動することを示した。

またHukらは、視覚刺激としてfixation pointに対して拡散・収束するmoving dotsを用いて、MTはretinotopic mapを持つのに対して、MSTでは明瞭なmapを持たないことを示した。

ここでは、Hukらの実験に用いた視覚刺激の概要と、結果から推定されるMTとMSTの位置を記した図を引用する。




References
  1. Distinguishing subregions of the human MT+ complex using visual fields and pursuit eye movments.
    Dukelow SP, DeSouza JF, Culham JC, van den Berg AV, Menon RS, Vilis T.
    J Neurophysiol. 86(4), 1991-2000(2001).
  2. Retinotopy and functional subdivision of human areas MT and MST.
    Huk AC, Dougherty RF, Heeger DJ.
    J Neurosci. 22(16), 7195-7205(2002)

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