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『なまえをよんで』

とある地方のホテルの出来事―――

「あっ、千早ちゃーん」
その日の仕事を終えてホテルに戻ってきた千早は、聞き覚えのある声に振り向いた。
「あら、萩原さん、我那覇さんに四条さんも」
声に振り向くと、そこには雪歩、貴音、響の三人が立っていた。

偶然、ではあるのだが千早と三人のユニットは同じフェスに参加することが
決まり、同じ日時に同じ地域にいることになっていた。
これまた偶然ではあるが4人は同じホテルに泊まっていたのだ。
「千早ちゃんもここに泊まってるんだ」
「ええ、偶然とはいえ面白いわね」
くすりと笑う千早。
「今日のパフォーマンスすごかったな、さすが千早だな」
「三人のステージも素晴らしかったわ」
「そんなこと…えへへ」
自身のステージを褒められ、照れながら下を向く雪歩。
「立ち話というのもなんですから千早、私達の部屋にてしばし語らいませんか?」
「ごめんなさい、明日も朝が早いから」
貴音に誘われるも、翌日の事を気にかけた千早にやんわりと断られてしまう。
「そうですか…では」
「お休み、千早ちゃん」
「おやすみなさい」
千早の背中を残念そうに見送る貴音と雪歩。
反対に響だけはにこにこしている。
「響、どうかいたしましたか?」
「ううん、何でもないぞ」
「三人とも楽しそうだったわね」
三人と別れて部屋についてから、そう小さくつぶやく千早。
「それにどんどん上手になっていく」
わたしもうかうかしてられない。
今日はかろうじて勝ったものの、このままでは追い抜かれるのは時間の問題だ。
明日も早い、もう寝なくては。
そう思っていると、とんとんとドアを叩く音が聞こえた。
間違いかと思い無視しようと思ったが、ドアを叩く音は止まらない。
「プロデューサーかしら?こんな夜中に…もう」
仕方なくドアを開けると
「えへへ…きちゃったぞ」
扉の前に立っていたのは、プロデューサーではなく響だった。
「我那覇さん!?どうしてここが」
「鍵の番号が見えたんだぞ」
「そう…でももう遅い時間だから…って我那覇さん?」
千早の横をするりと避け、部屋に入る響。
「おー、シングルは狭いんだな」
どうやら帰るつもりはないらしい。
「我那覇さん、部屋に戻らないと」
居座るつもりの響に千早は困り果ててしまう。
「じゃあ、お願いきいて。そしたら戻る」
「そんなの、朝になってからでも」
「だーめ、今じゃないとだめなんだ」
あくまで引き下がるつもりのない響。
「はあ…私に出来ることなら良いわ、何かしら」
溜め息混じりに承諾する千早。お願いを聞いてさっさと戻ってもらおう、という魂胆だ。
「ありがと。えっとね」
少しためらってから
「自分の事名前で呼んで欲しいんだ」
響はそう告げた。
「名前…そんなこと」
「そんなこと、じゃない」
呆れる千早に少し寂しそうにつぶやく響。
「我那覇さん、ていうのやめて欲しいぞ、よそよそしいんだもん」
「でも我那覇さんは我那覇さんでしょう?」
「自分は響だぞ、千早に響って呼んで欲しいんだ」
「名前でも苗字でも…」
「とにかく、自分はもっともーっと千早と仲良しになりたいんだ」
「名前で呼び合あうかは仲の良し悪しとは関係ないでしょう?」
「うー」
思うような答えが得られず、むっとする響。
少し固まってから急にばっ、と両手を広げ千早を威嚇する。
「な、何!?」
「強情な千早にはしつけが必要って思った」
指をわさわさ動かしながら一歩ずつ千早に近づく響。
「千早…言うこと聞かないと…」
「やっ、やめて!」
本能的に危険を感じたのか、後ずさる千早。
「じゃあ名前呼んで」
「もう、わかったわ…」
いざ呼ぼうとすると、妙に気恥ずかしい。
期待に満ちた響の目で見つめられると顔が熱くなってしまう。

「ひ、ひび、き」

顔を真っ赤にしながら明後日の方に目をそらし、小声でつぶやく千早。
「もー!つっかえてるし、ちゃんと目を見てくれなきゃ嫌だぞ!」
期待に満ちた顔の響が一気に怒り出す。
「一体何なの…」
怒りだした理由も分からず、どうしたら良いかわからない千早。
「もっかい」
「ええっ」
「もっかい、ちゃんと目を見て、つっかえないで!」
怒り気味にそう告げる響。
「もう…わかったわ」
再び、響と目があう。
思った以上に緊張するのは何故だろう。

「ひっ…響」

喉から絞り出すように声をだす。
今度は目を反らさずに言えた。
「千早っ」
にっこり笑って響が応える、どうやら満足してもらえたようだ。
「くっ…どうしてこんな」
「千早の気持ちよーく伝わったぞ」
どうやら、響は満足したようだ。
「これでお願いは聞いたでしょう?さっさと部屋に」
「千早ーっ!」
感極まったのか、千早に飛びつく響。
「きゃあっ」
勢いでベッドに倒れ込む。
「千早!千早っ!」
「離して、我那覇さん!」
千早をベッドに押し倒し、頬摺りする響。
「自分すっごく嬉しいぞ!」
「我那覇さん、お願いだから、離れて!」
「もう、我慢の限界だぞ!」
「やっ…だめ…」
これは貞操の危機ではないだろうか。
頭では分かっても体が動かない。
響に抱きつかれたまま千早が固まっていると…
「響、そこまでです!」
「響ちゃん抜け駆けはずるいよぉ!」
急にドアの開く音がして、貴音と雪歩が部屋に飛び込んできた。
「四条さんに萩原さん!はあぁ…助かったわ」
長く息を吐きながらほっとする千早。
そんな千早と響をきっ、と見つめ。
「私も今宵は千早と忘れ難き一夜を過ごしたいと考えていたのに」
貴音は千早の予想外のセリフを放った。
「えっ」
「千早ちゃんといちゃつきたいのは私も一緒なのに!」
「えええっ」
二人が何を言っているかよくわからない。
そういえば鍵がないのに二人はどうやって部屋に入ったのだろうか?
「ちぇー、ばれちゃ仕方ないなあ」
「でも自分が最初に名前呼びになったのは間違いないもん」
「千早と自分はもう下の名前で呼び合う仲になったんだぞ、ねー」
起こしている上半身の後ろ側に素早く回り込み、後ろからぎゅっと抱きつく。
「千早…私の誘いを断りながら…このような」
貴音は悲しみと怒りの混ざったような表情で千早を睨んでいる。
「これは成り行きで…!」
「言い訳など聞きたくありません!」
「今でも遅くはありません、私の事もこれからは貴音とお呼び下さい」
「わ、私も雪歩って名前で!」
負けじと雪歩も声をあげる。
「三人ともどうかしているわ…」
「さあ、千早」
「千早ちゃん!」
「自分のこともずーっと響って呼んでね」
「だ、誰か助けて…」
翌週…

「あの、千早さん」
「高槻さん、なにかしら」
伊織の手を引きながらやよいが声をかけてきた。
「響さんから先週の事聞きました」
先週、我那覇さん…嫌な予感がする。
「何…をかしら」
「私も高槻さん、じゃなくてやよい、って呼んで欲しいです」
「高槻さんまでそんなことを…」
「伊織ちゃんもそう言ってますっ」
「水瀬さんまで!?」
「わ、私だけが名字っていうのも変でしょ!?仕方なくよ、仕方なく」
恥ずかしそうに目を逸らすが、伊織もまんざらでもなさそうだ。
「二人までなにを…っ」
不意に両肩に手を載せられた。
「千早ちゃん、私も呼び捨てがいいわ〜。さん、なんて付けないで」
千早の背中にくっつくあずさ。
あずさだけではない、事務所じゅうから注目が集まっている。
「ボク…千早の事がわからなくなったよ」
「年上の私を呼び捨ててくれたのは親愛の証と信じてたのに…」
落胆したような表情の真と律子。
「千早お姉ちゃ〜ん、それでも一番は亜美なんだよね?ね?」
「いや一番は真美っしょ、千早お姉ちゃん」
亜美と真美は千早の腕を掴み、見上げるように顔を見つめている。
「とんだ女たらしなの」
「…千早ちゃん、見損なった」
美希と春香は冷たい表情でこちらを見ている。
「もう勘弁して…」
「あのー、私は小鳥お姉さんでも」
「聞いてません!」
その日からしばらくの間、千早は事務所の全員を分け隔てなく

名字で呼んだ

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