当wikiは年齢制限のあるページです。未成年の方は閲覧をご遠慮下さい。

「あれ?プロデューサーの部屋……」
 ホテルの廊下。雪歩は、プロデューサーの部屋番号のドアから明かりが漏れているのに気づいた。近づいてみるが、中からはなにも聞こえない。
 地方でのライブツアーが終わった晩。スタッフとの打ち上げが終わって、宿泊しているホテルに帰りついたのは2時間ほど前だ。
 今日は疲れたろうし、明日は東京に帰るだけだから一晩ゆっくり休め、そう言われて自分にあてがわれたシングルルームに入ったが、興奮が醒めず眠れない。あまりしないことだが自販機コーナーで甘いアイスティを買い、戻って飲もうかと思ったところで気づいたのだ。
 プロデューサーの部屋のドアは、金属棒のドアロックをつっかえ棒にして隙間を空けてあった。ひんやりした空気が通ってくるところを見ると、窓を開けて涼んでいるのだろう。
「……そうだ」
 雪歩は自販機コーナーまで戻り、缶コーヒーを追加で買ってプロデューサーのドアをノックした。
「あの、プロデューサー?」
 起きてらしたんですか?私も眠れなくて。あの、間違って缶コーヒー買っちゃったんですけど、その、飲んでいただけませんか?……とっさに考えたセリフのやり取りが続くことはなかった。部屋の中からは、返事がなかったのだ。
「……プロデューサー?」
 少し心配になって、ドアをそっと押し開ける。寝ているとかシャワーを浴びているなら無用心だし、起きていて雪歩の声に気付かなかったのなら改めて声をかければいい。
「あの……雪歩です。……入ります、よ?」
 ロックを外し、ドアを閉めて向き直る。
 雪歩の部屋と構造は一緒だった。ドアを開けてすぐのユニットバスは灯りが消えていて、使っている様子はない。湿ったあたたかい空気が漏れてくるのは、シャワーを使った後なのだろう。さらに部屋の中に進み入る。
 その先の書き物机と荷物台、クローゼットは事務所の彼のスペース同様乱雑で、スーツケースからは衣類が飛び出している。ノートパソコンは書類の束が挟まった状態で閉じられ、まるで厚手のバインダーだった。
 ある意味いつものプロデューサーらしい様子を見つけて、雪歩はくすりと笑った。もう一歩前に踏み出し、首をめぐらしてベッドを確認しようとする。
「……んが」
「ひっ!?」
 それを見計らったかのように声が聞こえ、雪歩は飛び上がった。思わず叫びそうになるのを必死に押しとどめ、声の方を見る。
 そこには、ベッドの上で眠りこけるプロデューサーの姿があった。どうやら今の声はイビキだったようだ。
「はぁ、びっくりした……寝てたんだ、プロデューサー」
 はしたないと思いつつ、つい見てしまう。彼が起きている時は動悸が高まってしまい、おずおずと見上げるのが精一杯の相手。
「打ち上げの時もお酒、あんまり飲んでなかったのに……疲れてたのかな」
 壁沿いのセミダブルの上、掛け布団ははねのけている。以前聞いた彼の行動パターンからすると、入室後本日の行動報告を765プロにメールし、シャワーを浴びて沈没した、といったところなのだろう。
 コーヒーをサイドテーブルに置き、自身はベッドの脇に立って、膝に手を当ててかがみ込む。
「……おつかれさまでした、プロデューサー」
 雪歩と同じ、ホテル備え付けの浴衣を着て大の字に眠る彼を観察する。半月ごとに床屋に行っているという整った髪と眉。激務を象徴するかのような、伸び始めた顎髭。はだけた胸元からは黒く固い毛が見え、顔が赤くなる。
「……ぅひゃ。……ひゃあぁ」
 おかしな声を上げて両手で顔を覆ったのは、浴衣の下半身がめくれ上がっており、トランクスを履いた下半身が丸見えになっているのに気付いたからだ。
「うわわわ、だっ、ダメよ雪歩、見ちゃダメ……なの……っ」
 慌てて自分を叱咤するがその実、指の隙間からしっかり見えている。頭に血が昇りすぎたか、視界がくらくらしてきて部屋の床にぺたりと座り込んでしまった。結果、その部分との距離は却って近くなる。
「ふわぁ。ふわああ」
 プロデューサーの寝息は規則正しく、至近距離でひとり騒ぐ声がしているというのに起きそうな気配はない。雪歩はいつだったか宴会の時『いっぺん寝ちゃうと2時間、絶対目が醒めなくて困る』と彼が言っていたのを思い出した。
「ぷ……プロデューサー?」
 どう言葉を継ごうか、思案しながら息を呑んだ。ごくり、とはしたない音が聞こえた。
「そんな格好で寝たら、か、風邪、ひいちゃいます、よ……ぉ?」
 そっと近づく。片膝を立てたいぎたない姿は、ぴくりとも動かない。
「お……お布団、かけておきますね?」
 彼の腿越しに手を伸ばし、丸まった掛けぶとんを取ろうとする。
 と、突然彼が動いた。
「……んんっ」
「ひぅ!?」
 雪歩の方へ寝返りを打ち、自転車でもこぐように両膝をこすり合わせる。驚きで動けずにいる彼女の目前で、彼はまた動きを止めた。
 驚きのあまり目を閉じることさえできない雪歩の眼前で、プロデューサーは再び動かなくなったのだ。
 本人の言う通り、目を覚ますこともないままで。
 ……今の一連の動作で、青い縞のトランクスがずれてしまったことに気付かないままで。
「……っ……っっ!……っ?」
 雪歩は今や、必死で口を押さえていた。もう目を覆う余力はなく、この際絶息してでも悲鳴だけは漏らすまいと努力していた。
 なぜなら、ゆったりとしたサイズの彼のトランクスの隙間からまろび出た彼のペニスと、至近距離で対面してしまったからだ。そして……。
 そしてそのペニスは、雪歩ですら解るほど固く大きくそそり立っていたからだ。
「……ぷはぁっ。はぁ……はあっ」
 ようやく、とにかく大声だけは出すまいと決心でき、雪歩は手を離した。まだ動悸が収まらない。口を大きく開け、荒く息をつく。
「ど……どうしよう……もし今プロデューサーが起きたら……私、わたしっ」
 この部屋を出よう。今すぐ立ちあがって、自室に戻って、明日の朝何事もなかったかのようにプロデューサーに挨拶しよう。そう頭は言っているが、体が動こうとしなかった。
「こ、これじゃ私、変な子だよぉ……こんな、こんな……」
 口で息をしながら、視線はそこに釘付けだった。あまつさえ、少しずつ顔を近づけている。
「これが……プロデューサーの……」
 雪歩の知識はこういう方面には大変貧弱だが、それでもこれがなんであるか、彼女は充分承知していた。
 物心つくくらいまでに幾度かあった、父との入浴。小学校の保健体育の授業。学校で、いやらしい冗談を振舞う男子。自分の体との対比も含め、これが男性の排泄器官であり、生殖器であるとわかった。
 視線をプロデューサーの顔に向ける。彼は、自身の置かれた状況などそれこそ夢にも思わず深く眠っている。
 首を曲げ、目を元の位置に戻す。横臥した両足の付け根からそそり立つ肉の枝。先端は宙に浮いたまま、彼の寝息とともにゆっくりと上下している。その動きはさながら、自宅の庭で時折見かける蛇のようだった。
「……ごくっ」
 もう一度息を――いや、今度は生唾を――呑み、雪歩はおずおずと右手を伸ばした。
 頬のほてりはもう顔全体にゆきわたり、脳をも沸騰させているのだろう。なにをしようとしているかすら意識しないまま、雪歩はプロデューサーのペニスを、そっとなでた。
 雪歩が庭で蛇を見かけても、なぜか蛇はすぐには逃げようとしない。かといって彼女を襲おうとするわけでもなく、静かに雪歩を見つめることが多かった。
 雪歩はそういうとき、蛇の背をなでてやる。二度三度こすってやるとふいと身をくねらせて草むらに消えるのだが、今も彼女はそのように、プロデューサーの逸物をなでてみた。
「あ……熱、い……」
 見た目こそ似ているが、爬虫類とは似ても似つかない熱をもった肉棒。自然、息が荒くなってくるのを感じながら、雪歩はさらになでた。
「プロデューサー、疲れてたんですね。私なんかの相手をして、シャワー浴びるのが精一杯で寝ちゃったんですね」
 小声でいたわりを口にしながら、隆起に手のひらを這わせた。軽く握り込むようにすると、より一層その熱が伝わる。
「……ほ」
「っ!?」
 突然漏れた声にびくりと硬直し、プロデューサーの顔を見る。見つかった?はしたない悪戯をしているのが、彼に知れた?
「きほ……雪歩……俺の、俺の大切な……」
 緊張と恐怖で身じろぎすらできない彼女の耳に届いたのは、しかし相変わらず熟睡しているとしか思えない寝言。
「プロ……デューサー?」
「俺が……必ず、トップに……雪歩、お前、を」
 ひどく長い時間を掛けて呟く声を注意深く組み立て、そう言っているのだと解った。
「そんな……眠ってまで、私……私なんかの」
 目頭が熱くなる。
 プロデューサーは、自分の肉体をここまで酷使して、雪歩をトップアイドルに導こうとしていた。
「私なんかの、ことを」
 省みた自分はどうだろう。プロデューサーに応えられているだろうか。
 精一杯やっている自負はある。だが、成果は?不合格となったオーディション、ブーイングで終わったライブ、多くの成功経験よりも、失敗の記憶ばかりが思い起こされる。
「プロデューサー……ありがとうございます」
 胸がいとおしさで一杯になる。ダメな自分をここまで導いてくれたプロデューサーに、弱気な自分の手を引き続けてくれた彼に精一杯のいたわりを捧げたかった。
「……んむ」
 プロデューサーは再び沈黙する。雪歩はふと、その表情の変化に気付いた。
 先ほどより、わずかだが頬が上気している。口の端に、彼が嬉しい時の特徴的なゆるみが判別できる。オーディション合格やCDの売上好調などのよいニュースを、雪歩に隠している時のバレバレな笑み。
「え……なん……ふぇ」
 熟睡しながらも雪歩の存在を超常的な感覚で知ったのか、などと考えかけ、そうではないことに思い当たった。彼女が右手で……今の一連の事態のさなかでさえ、しっかり握って離さなかったものの存在に。
「ひゃ……ふ、わ、ああ」
 空いている左手で口元を押さえ、さらに学校での最近の記憶を探り当てた。男子の下品な会話に、雪歩を含む友達グループ全員で含み笑いと目くばせを交わしたことを。
 実際のところ、雪歩自身はその時はよく理解できず友人に調子を合わせただけだったが、今それが合致した。
「これ……きもち、いいんだ」
 男子の使った『シコる』という言葉からは相撲取りの姿しか出てこなかったが、断片的な会話や今の状況を合わせ考え、そう結論づけた。
「え、じゃあ……こんな、ふう、に……?」
 そもそもどう扱っていいやら判らぬままに、右手にさらに力を込めて上下にさすってみる。彼女の知識の限りでは、普段はトイレで使用するホースの一種、夫婦間では子供を作る時に女性に差し込む注射器のようなものである。シリンダーを磨くつもりで手を動かす。
「……っふ、うぅ」
 プロデューサーの口からため息が漏れる。目を覚ましたのかと一瞬どきりとしたが、相変わらず眠っているようだ。ただその表情は先刻よりさらに紅潮し、鼻息が荒くなっている。舌をちろりと出し、上唇を舐めるのが目に入った。
「プロデューサー、きもち、いいですか?」
 なんとなくではあるが手ごたえを感じ、雪歩は今の作業に没頭した。摩擦のせいか別の要因かますます熱を帯びる肉の棒に、知らず知らずのうちに力が加わっていく。10回20回と繰り返すうちに力加減も把握し、雪歩は優しく、しかししっかりとマッサージを繰り返す。
 自分の握っているものを見つめ続けるのが恥ずかしく、雪歩はプロデューサーの表情のほうに集中していたが、ある瞬間から手のひらの感触が変化した。
「あれ?なんか、ぬるぬるして……うぁ」
 視線をペニスに移動する。先ほども充分驚いたが、プロデューサーのその部分は数分前よりさらに大きく屹立していた。色合いも初見より赤みを増し、てらてらと光る先端から透明な粘液がしたたり始めていた。
「プロ……デューサー……こんなに……これ、おしっこじゃ、ない、よね……?」
 その正体はよくわからなかったが、少なくとも汚いものには感じなかった。液体の力も借りたことで、マッサージはますます激しくなる。
 ぎゅっと握り、力を込めて上へ、そして下へ。
 握力を弱め、血管の浮き出た横腹の起伏を指でじっくりなぞって。
 首の部分の、ネクタイのような模様に親指の腹を押し当てて、爪を立てないようにぐりぐりと揉みしだいて。
 今やプロデューサーは呼気も荒く、ときおり足も痙攣しているが、それでも目を覚まさない。むしろ気持ちのよい夢に没入しているのだろうと都合よく解釈し、雪歩はさらに顔を近づけた。
「……う、ううっ……は、あぁっ」
「えっ?」
 プロデューサーの表情が、先ほどとはうって変わって苦しげにゆがみ始めていた。
「え、ど、どうしたのかな、力、入れすぎちゃったのかな?え、ええ、な、なんで急に……」
 歯を食いしばり、足を交互に突っ張る彼に動揺しつつ、それでも何が原因か図りかねる。右手は今もリズミカルにマッサージを続けており、ここが苦しいのだろうかと頭の部分を優しく撫でる動きに変えてみる。
「ふぁ……あ……あ」
「ええ?ぷ、プロデューサー、プロデューサー、大丈夫ですか?えええ、ど、どうしよう……っ」
 自分がプロデューサーの部屋に忍び込んでいることも忘れ、雪歩はプロデューサーに呼びかけた。一方ペニスを握る手を離すのもためらわれ、惰性でくりくりとマッサージを続けながら、彼の顔とペニスを交互に覗き込む。
「……っふ、……ふうっ――」
「ぷ、プロ――」
「――っくぅっ!」
 そして突然、その時は来た。
 雪歩がペニスの正面にかがみこんだ瞬間、プロデューサーが小さく吼え、……。
 ペニスの鈴口から、白く濃く熱い精液が噴出したのだ。
「――え」
 とっさに目は閉じたものの、雪歩はそれを顔全体に浴びることとなってしまった。液体は閉じ切れなかった唇の隙間から幾分か入り込み、苦いような塩辛いような不可思議な感覚を味蕾に染み渡らせる。
 頬から鼻を横断するように飛び散った一筋は春の栗林を思わせる、粉っぽい匂いを振り撒いた。
 ……そして。
「くはっ!……ふうっ、ふーっ、な……なんだ……?」
 そして、プロデューサーがついに目を覚ました。

****

 プロデューサーはきょとんとした瞳の焦点を徐々に合わせ、周囲を見回す。
「え……こ、これは……?」
 自分の記憶をたどってみる。
 ――俺は、ホテルの部屋で疲れて眠っていた。
 ――夢に雪歩が出てきた。
 ――夢の雪歩は非常に淫靡で、俺は彼女の誘惑に翻弄されていた。
 ――ついに我慢できず射精したところまでは憶えている。
 ――つまり俺は、雪歩の淫夢で夢精したのだ。
「……し……しかし……っ」
 プロデューサーは困惑していた。
 では、この足元にいる俺の担当アイドルは……当の雪歩は一体なんなのだ。
「ぷ……ぷろでゅー……さぁ」
「……ゆ」
「なんか……なんか出ちゃいました……ご、ごめんなさい、ごめんなさい……っ」
「雪歩おおっ?」
「ふええぇぇ、ごめんなさぁい、プロデューサーごめんなさぁいっ!」
 白濁液まみれで泣きじゃくる雪歩を前に、プロデューサーは混乱の極地にあった。
「ああ、なんかわからんけど……」
 判っていることはごく僅かだ。俺は、自分の担当アイドルに、経緯は不明ながら、顔射をかましてしまったのだ。
「なんかわからんけど、俺……クビかなあ」
 彼は泣き続ける雪歩の頭をなでてやりながら、茫然とひとりごちるのであった。





おわり

このページへのコメント

良かったよ、続けたまえ

0
Posted by 高木 2012年12月30日(日) 16:01:17 返信

コメントをかく


「http://」を含む投稿は禁止されています。

利用規約をご確認のうえご記入下さい

どなたでも編集できます

メンバー募集!