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お姫ちんが好き。


赤い色をした、優しい瞳が好き。

月の光のような、銀色のきれいな髪が好き。

本当のお姫様みたいな、上品さが好き。

かっこよくて、自分に厳しくて、でも優しい性格が好き。

そっと抱きしめてくれる、やわらかい身体が好き。

かっこよくて、それでいて落ち着いた声が好き。

たまに見せる、どこか遠くを見ているような表情が好き。

意外と世間知らずなところが好き。

ラーメン好きなところが好き。

真美がどんなにみんなを騙しても、絶対に騙されないところが好き。


お姫ちんが、好き。






今日は、真美がお留守番の日だった。
亜美と兄ちゃんは雑誌の取材で出掛けている。
やることがなくて暇だったから、誰かと遊ぼうかとも思ったけど、あいにくみんな忙しいらしく、断られてしまった。
仕方がないので、大人しくソファに座っていたけど、じっとするのにもそろそろ飽きてきた。
ちらりと壁に掛けられている時計を見たけど、亜美たちが出かけてからまだ30分程しか経っていなかった。
(1時間は経っていると思ったのに〜)
この分じゃ、亜美たちがが帰ってくるまでに暇すぎて死んじゃう、と真面目に考えていると、声を掛けられた。

「もしや、そこにいるのは双海真美ですか?」

振り向くと、お姫ちんがいた。

「お姫ちん!」

アイドルアルティメイトが終わった後、お姫ちんは765プロでもう一回アイドルをすることになった。
アイドルといっても、今は”こーほせー”ってことでほとんど毎日、レッスンを頑張ってる。
「この分だとすぐに再デビューできるだろう」って高木社長が言ってた。
そのときには兄ちゃんが担当するっぽい。
でも真美たちのプロデューサーをやめるわけじゃなくて、真美たちとお姫ちん、2つのユニットを同時にプロデュースするつもりだって兄ちゃんが社長に言ってた。
今日もレッスン(とはいっても今日は兄ちゃんがいないから、セルフレッスン)だったみたいで、手にはジャージが入ってるっぽい、大きめのカバンを持っていた。
話を聞くと、今日はもう予定はないらしい。
ちょうどよかった、と亜美たちが帰ってくるまで、話し相手になってもらうことにした。
わーいと、隣に座ったお姫ちんの膝の上に座る。
ちょっと子どもっぽすぎるかな、とも思ったけど、お姫ちんの膝に座るのは好きだし、お姫ちんも特に嫌がってないから気にしない。
真美が女の子でよかったと思う。男の子だったらこういうことはできないから。

お姫ちんの膝の上で、亜美が携帯の電池を充電し忘れた、とかピヨちゃんが相変わらずりっちゃんに怒られてたとか、収録先のディレクターがどう見てもヅラだったとか、お姫ちんがおいしいラーメン屋を見つけたとか、そういったとりとめもないことを話した。
お姫ちんも楽しそうに聞いてくれたし、話してくれた。
真美も、お姫ちんと二人きりで話せて嬉しかった。
話題は最近の互いの仕事内容に移った。
といってもお姫ちんはレッスンだけだから、話すのは真美ばっかだったけど。

「それにしてもさー、お姫ちん最近頑張りすぎだよー」
「そうでしょうか…?」
前からなんとなく思っていたことだった。
くるりと体の向きを変え、お姫ちんと向き合う。
「そうだよー。レッスンは毎日してるし、その上、自主練だってやってるみたいだし」
今は”こーほせー”だからといっても、この間まで真美たちと同じ、Aランクのアイドルだったんだし。そこまでいったお姫ちんなら、そこまで厳しくレッスンしなくてもすぐにランクアップできると思うんだけど。
「あんま無理しすぎると、倒れちゃうよ?真美も心配するし、亜美だって…」
もともとお姫ちんは何かあってもガマンしちゃう人だし。
ほかの人の前で弱いところを見せたがらないから。
そんな真美の心配をよそに、お姫ちんはやわらかく微笑んで言った。
「ありがとうございます、双海真美…。でも、これでよいのです。今から厳しい修練を積んでおけば、再デビューする際に、困らせずにすむでしょう?」

そう言って笑うお姫ちんがすごく幸せそうで。
今まで見たことない表情で笑ってて。
少しだけ、イヤな予感がした。
「…お姫ちんは本当にいい女ですのう〜。ホント、兄ちゃんにはもったいないくらいだよー」
真美の口から出た言葉が、そのまま真美の首を絞めたような感覚がした。
なんで兄ちゃんの名前を出しちゃったんだろう。
困るのが誰か、なんてお姫ちんは言ってないのに。
真美の首を絞めるものに、顔を赤くしてあわてるお姫ちんも加わった。
「な、なぜそこで、あの方が出てくるのですかっ」
息苦しくて仕方がなかった。

これは違うよ。(本当に?)
いきなり兄ちゃんの名前を出したからびっくりしてるんだよ。ホントは兄ちゃんはイヤなんだよ。(わかってるんでしょ?)
だって、そんなの真美は知らないし、見てないし。(知ってるでしょ?見てたんでしょ?)
必死に否定する真美と、どこか冷静になっている真美。
ふたつの真美が頭の中でガンガンと叫んでる。
もう、息が苦しいのか、胸が苦しいのかわからなかった。
ただ、この苦しみをなくしたくて。否定してほしくて。
気づいたら口が、喉が勝手に声を出していた。

「だってお姫ちん、兄ちゃんのこと、好きっしょ?」

期待した返事は返ってこなかった。
かわりに、かえってきたのは赤くなった両手で、さらに赤くなっている顔を両手で覆って無言でうつむくお姫ちんの姿。
『無言でいるのは、それがホントだってことよ』そう言ったのはりっちゃんだったかな。
お姫ちんが下を向いてくれててよかった。多分、今の真美はひどい顔をしていると思う。
アイドルとしては勿論、亜美や兄ちゃんたちにも見せられない顔だと思う。

どれくらいそうしていたのかな。
しばらくして、ゆきぴょんみたいな小さな声が聞こえてきた。
「…顔に出てましたか?」
両手は少しだけ顔を離れたけど、お姫ちんの顔はまだ下を向いていた。
そのまま下を向いていてほしい。

「あははっ、バレバレだよー!お姫ちん、すっごいわかりやすいもん!」

ウソだった。わかりやすいなんてことはない。
真美以外に気づいてるのなんていない。
亜美だって気づいてない。はるるん達だって気づいてない。
見てるだけでは、普通に信頼し合って、普通にレッスンをしているだけだ。
それだけ、お姫ちんは兄ちゃんに対して、普通に接している。
恋愛感情なんてない、と思えるくらいに。
真美しか気づいてない。ずっとお姫ちんを見てる、真美以外には。
真美がこんなことを考えてるなんて知らないお姫ちんは、そうですか…と、真美の言ったことを真に受けて恥ずかしそうにしていた。

多分兄ちゃんも、お姫ちんのことが好きだ。
実際、兄ちゃんと話しててお姫ちんの話題になると、兄ちゃんは少しだけ嬉しそうにする。
このあいだはお姫ちんと打ち合わせしたあとに、兄ちゃんはお姫ちんが出て行った方をしばらく見てたし。
お姫ちんが事務所にいると、真美たちと話してても、兄ちゃんの目はお姫ちんのほうを見てる。
そのかわり、お姫ちんがこっちを向くとふいっと目線を戻すんだけど。
だから、きっと、二人は両想いなんだろう。お互い気づいてないだけで。
真美からそのことを伝える気は全然ないけど。
そのかわりに。

「ねえ、お姫ちん」

呼ばれたお姫ちんが顔をあげた。
よっぽど恥ずかしかったのか、顔は相変わらず赤くて、そのうえ少しだけ涙目になってる。
ああ、やっぱりお姫ちんはかわいいなあ。

言うか言わないか、一瞬迷った。
それでも、お姫ちんに言ってしまいたかった。
お姫ちんだけには、知っててほしかった。

「真美ね、お姫ちんのこと、好きだよ」


目の前のお姫ちんは目をぱちくりさせたあと、ふわりと静かに微笑んで言った。
「私もあなたのことが好きですよ、双海真美」

でも、お姫ちんの「好き」と、真美の「好き」は違うんだよ。
そう思ったけど口には出さずに、かわりに笑顔でこたえた。
ううん、こたえようとした。笑ったつもりだった。
でも、笑うことなんてできなかった。

「双海真美…?」
お姫ちんの顔を見たくなくて。
兄ちゃんのことが好きなお姫ちんを見たくなくて。
真美のことが”好き”じゃないお姫ちんを見たくなくて。
イヤなものから目をそらすように、お姫ちんの胸に顔を埋めた。

様子がおかしい真美を不思議に思ったのか、お姫ちんが心配そうに声をかけてきた。
「どうか、したのですか?…何か、イヤなことでも?」
原因はお姫ちんだよ、なんて言えなくて。
「何でもないよー?」と声だけは明るく言った。
でも、そんな嘘もお姫ちんには通じなくて。
「双海真美」と呼ぶ声に顔をあげると、本当に心配そうな表情のお姫ちんと目が合った。
「本当に…何でもないのですか?」
「…何でもないよ。ちょっと疲れちゃただけ。心配してくれて、ありがと、お姫ちん」
「…ですが、あなたの目は、そうは言っていないように見受けられます。本当に、何でもないのですか?」

私に、なにかできることはないのですか、と言ってくれるお姫ちんは、本当に優しくて。
いっそのことキライにさせてくれたらいいのに。でもお姫ちんが優しくするからそれもできない。
その優しさがひどいね。
兄ちゃんじゃなくて、真美のことを好きになってよ、って言いたいけど、できなくて。
泣きたくなるくらい苦しいけど、お姫ちんがここまで真美のことを考えてくれるのが嬉しくて。
「なんでもないんだってばー」って言わなきゃいけないのに、言えなくて。
いろんな気持がぐちゃぐちゃになって、気づいたらお姫ちんから逃げ出していた。


後ろで、名前を呼ぶお姫ちんの声がしたけど、立ち止まるなんてできなかった。
このまま、お姫ちんの目を見てたら、すべて言ってしまいそうだったから。
ああ、やっぱりお姫ちんをだますなんてことはできないんだなあ、と走りながらぼんやり思った。
多分、いつかはわかってしまうんだろう。お姫ちんは頭がいいから。
それで悩んでしまうんだろう。お姫ちんは優しいから。

ホント、兄ちゃんにはもったいないよ。

「もしも…」
もしも、真美が男の子だったら、こんなに悩まなくてすんだのかな。
真美が男の子だったら、お姫ちんを兄ちゃんから奪うことができたのかな。

わからないな。

真美がいま、どこに向かって走ってるのかも、どうしたいのかも。

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