9.にじかいのお話

 ヨッパの一撃によって雌雄が決し、フェスティバルは後夜祭を迎えました。と言っても、優勝者のヨッパがいなく
なってしまったので、残りのみんなで鍋を囲むことにしました。

「ちょっと汗流してくる・・・皆さんは、存分に味わってくださいね!」

 試合の結果が余程悔しかったのでしょう。参加者が机を囲むのを見届けたやみなべは、食事の支度をリプルに
任せると、ハンマーを片手に、イダルを握って海岸に行ってしまいました。


「念願のッ!やみなべッ!!」


 このタイミングを待っていたのでしょうか。やみなべが行ってしまうや否や、スィンパがそう叫びました。他の
参加者達も心得たとばかり、それぞれに持ち寄った具を次々と、カレーの鍋に投げ込みました。てっきり食事が
始まると思っていたいぶちは、すっかり不意をつかれ、最初の数人が何を入れたのか、まったく分かりませんでした。
おまけに入れる傍からリプルが手際よくかき回したので、何もかもカレーに溶け込んでしまい、何が入っているのか
益々分からなくなったのでした(但し、春巻きだけは形が残っていました)。

「さあ、最初に口を付ける猛者はどなたか!」

 スィンパが言いました。リプルが黙々と食器に盛り付け、次々に配っていきます。他のみんなは、盛り付けられた
物を見て、それからお互いに顔を見合わせて、期待と不安の色を浮かべました。いぶちも食器を渡されましたが、
誰も口を付けないので、やっぱり他のみんなと同じように、盛り付けられた物をしばらく見ていました。見た目は
カレーですが、具の形が尋常ではありません。

 そうこうするうちに、人影が近付いてきました。

「かっとばしてやった!」

 すっきりとした顔の、それはやみなべでした。

「おかえりー」

 顔を僅かに上げて、リプルが言いました。他のみんなも口々におかえりーと声を掛けたので、俄かに騒然と
なりました。騒ぎが一段落するのを待って、やみなべはみんなに聞きました。

「どうですか、私のカレーは?」

 この質問には、みんなが返事に困ってしまいました(だって、まだ誰も口を付けていなかったのです)リプルが、
やみなべの分を差し出したので、やみなべはそのまま受け取りました。それから食べようとして、春巻きが入って
いるのに気付きました。

「・・・ん?何か入れました?」

 やみなべはそう言って、スィンパの方を見ました。

「ささっ、どうぞどうぞ!」

 期待の篭った目で、スィンパがやみなべに言いました。それから、からあげもあるよ!と言って他のみんなにも、
食べるように勧めました。何となく食事の雰囲気になったので、みんなカレーを頂くことにしました。訝しげな目で
スィンパを見ていたやみなべですが、みんなが食べ始めたので、渡された食器に口を付けることにしました。

 自分が入れたものの他は、何が入っているか分からないカレーですが、最後に入れた春巻きだけは、はっきりと
形が残っていたので、みんな直ぐに食べてしまいました。後は手探りで、具を見つけては食べるだけです。いぶちも
箸を入れてみました。

 最初に出てきたのは黒はんぺんでした。仮面の青年とリプルがこれに難儀しました(二人とも、魚がとても苦手
だったのです)。倖い、いぶちは苦手ではなかったので、ぺろりと平らげました。
 次に出てきたのはチーズでした。が、殆ど溶けていたので、誰も気が付きませんでした。みんな好きなように
食べて、それぞれ具を確かめ合ったので、時間はあっという間に過ぎていきました。

「二次会は観覧船で語り合うってのどうかな?」

 食べる方は満足したのかスィンパが言いました。なるほど、フェスティバルの余韻を味わうには良い提案でした。
しかし具の満ちた鍋に大盛りの唐揚げ、それからリプルのプリン(バケツサイズでした)にミズキが差し入れたチーズ
ケーキと盛りだくさんだったので、みんな食べ過ぎで動けなくなりました。平気だったのはリプルとミズキと鴉人、
それに仮面の青年でした。いぶちはかろうじて動けたので、スィンパが行くならと行くよと伝えてから、今日はグルメ
レースもしたんだったと思い出しました。

「じゃー決まりね!なべ氏はどうする?」

スィンパがそう言うとやみなべは

「・・・いってらっしゃいな。どうぞごゆっくり・・・」と、苦しそうに言いました。



 船着場に向かったのはスィンパといぶち、ミズキと鴉人、それから仮面の青年でした。(リプルは何か準備が
あるからと言って広場に残りました。

「5人か…このまま遠征ってのもありかな」集まったメンバーを見て、スィンパが言いました。

「別にいいですけど、モンスなしで行けるんですかね」ミズキが少し、心配そうに言いました。

「まあ、なんとかなるでしょ」落ち着き払って、鴉人が言いました。

「何とかなるさ。いってみよーぜ!」少々落ち着きを欠いて仮面の青年が言いました。こんな話をしながら遠征に
出掛けるのは懐かしいなと、いぶちは思いました。ここにモンスターは居ませんが、思い出の風景を見て回るのも
良いでしょう。

「もしそうなら、広くて緑のあるところがいいな!ロランと駆け回ったのが懐かしいし・・・盆地とかどうだろう?
ラックルとか癒されるよなー」

 いぶちが色々と思い出して、行き先の候補を考えていると、出し抜けにスィンパが言いました。


「じゃーとりあえず北地獄ってことでヨロシク」





 遠征は散々でした。


 スィンパと仮面の青年は、最初からテンションが高く、遺跡の中で騒ぎまくりました。その騒ぎを聞きつけたの
でしょう。遺跡のモンスターが一気に集まったので、5人は通路の中を走り回る羽目になりました。元々こんな
騒ぎが大好きな二人は「ひゃっほぅ!」と叫んで楽しそうですが、いぶちとミズキは半泣きになりながら、久々の
遺跡を懐かしむ余裕もなく、所狭しと走り回りました。ふと鴉人の様子を見ると、先ほどまでの落ち着きはどこへ
いったのか、「イェーア!」と、一緒になって叫んでいます。みんなは崩れた壁や柱を頼りに、遺跡のモンスター
たち(ガイコツのような鎧や、大きな頭のタコのようなものが居ました)を巻いていきましたが、居なかったはずの
場所から急に出てきたり、壁の向こう側から手足が覗いたり、果ては床のないところに浮かんでいたりと対応に
たいへん苦慮しました。隠れて息を潜めようにも、スィンパと仮面の青年が、はっきり言って追いかけっこの気分で、
加えて鴉人も何かしらのスイッチが入りっぱなしだったので、とにかく目立ち、野良モンスターの目を欺くことは
ほとんど不可能でした。また、こんな状況下にも関わらず、レアモンスターを見つける度に「ベル様キター!」などと
叫んで回ったので、ノンアクティブのギモノスまで、わざわざアクティブ化させるほどでした。とにかく出口を
目指して走り回り(恐らく遺跡内部を一周以上したのでした)、ようやく遺跡の外に戻りました。

 みんな息も絶え絶えで、全身に汗をかいていましたが、どうにかそれが一段落すると、鴉人がクスリとわらい
「たのしいねえ」と、半分自分に、半分みんなに言いました。

「いやー、楽しいね!走ったね!ね!」スィンパは明るい調子で言いました。

「走った走った。いい汗かいたなー」と、同じく楽しんだ様子で仮面の青年が続きました。

「たのしいって、どのへんがですか…」と、腑に落ちない表情で言うのはミズキ。
(いぶちも、この意見には賛成でした)
「まあ、レアモンスターとか久々に見れましたけど」

「や、こんなに走ったのは久し振りだなと」と鴉人がさらりと答えました。
「ついでに言うと、もしモンス連れてても、このメンバーじゃかしこさタイプばっかりってね」

「ですよねー」とミズキがため息混じりに答えると

「あちゃー、やっちまったぜ?」と仮面の青年が続き

「だよねぇ・・・てへぺろ☆」と、スィンパが答えました。

 いぶちは「本当にそうだな」と思いました。それから、モンスターたちは今、どこでどうしているのかな、と
懐かしく思いながら、みんなの話を聞いていました。

 遺跡の外も、やはり綺麗な砂浜でした。目の前に広がる海から、心地良い風が吹いてきます。海岸沿いに
植えられた木々の、優しい香りを含んでいて、高揚した気持ちも、体の疲れも、次第に癒されていきました。

 遠征の話は一段落して、今度は思い出話になりました。いぶちは、盆地を走り回ってスクリーンショットを撮った
ことを話し(「しまった、盆地に行く手があったか」と、スィンパは悔しがりました)、それを聞いた仮面の青年が、
一緒に大会出てレベル上げしたよなーと、しみじみと言いました。それから種族別の団体戦の話になり、どの
モンスターが強かったかについて話しました。そんな中で、やっぱりクイックダウンが厄介ということになり、そこで
鴉人が「状態異常コワイ」と言って、お前が言うなとみんなから突っ込みされました。最後にスィンパが、記石を貰う
度に煙にした話をしました。モンスターの年齢が限界まであがり、サービス終了も近付いた時期だというのに、全く
技を覚えられず、最後の最後になって、ようやくディフェブを覚えたと言うこの出来事は、いぶちもよく覚えていた
ので、随分と懐かしんで聞きました。そんな風にして、いぶちが見つめているのに気付いたスィンパは、いいことを
思いついたぞと言う様子で、胸元から何かを取り出しました。

「だからさ、いぶっちゃんも着てみたらいいと思うんだ!」

 スィンパの取り出したものを見て、ミズキは引きました。鴉人は感心し、仮面の青年は流石だと大喜びしました。
いぶちは冷静に答えました。

「なんでそうなる」
 
 タヌキのきぐるみの胸元から出てきたのは、やっぱり別のきぐるみでした。

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