7.ふつうのオフ会

 プリンの下にはテーブルがありました(本当ならテーブルに乗っていたと言うべきなんだろうけど、あんまり
大きかったから、気付かなかったんだね)。そのテーブルには人影があり、なにやら話をしています。テーブルは
そこそこ大きいのに、その人達はそのかどっこ一つに固まっていました。

 いぶちが近付いたのを見ると「おっと、お客さんだ」と一人が言い(頭には笠を被っていました)、
「こんばんは。いらっしゃい!」とプリンが言いました。

 本当にプリンが喋ったので、いぶちは流石に引きましたが、これまでにもおかしなことは沢山あったので、別に
驚くこともないかと思い直すのでした。


 いいえ、喋ったのはプリンではありませんでした。プリンに隠れていて見えなかったのですが、それは広場で会った、
あのリプルでした(少なくとも、いぶちにはそう見えました)。

「リプルさん?」といぶちは声を掛けました。

「いいえ、プリンです」とリプルが答え、「ちがうだろ」と笠の人が言いました。
それから「お知り合いですか?」と笠の人が言ったので、いぶちは(ははぁ、きっとこの人が笠屋さんだな)と思い
ながら「さっき広場でお会いしたので」と答えました。

「まあ、どうぞプリンでも」とリプルは言い、大胆にもバケツに掬って、それをいぶちに勧めました。笠の人は、
「いきなりそれはちょっと・・・」と止めかけて「あ、お二人は面識あるんでしたっけ?」と言い、それなら問題ない
という感じで、バケツがいぶちに渡るのを見ていました。勧められるままに、思わず両手で受け取ったいぶちでしたが、
あっけにとられて暫くぽかんとしていました。それからはっと我に返って「いやいや、こんなには食べられませんよ」
と、慌てて言いました。

「まあまあ、遠慮なくどうぞ」とリプルが更に勧めました。いぶちは困惑しつつ「いやいやいや!」と言ってバケツを
押し返しましたが、すぐにリプルが押し戻したので、このやりとりは暫く続きました。笠の人は少しおかしそうに、
その間中ずっと、にこにこしながらお茶を飲んでいました。

「いらないなら断ればいいんだよ」

 鋭い声が聞こえたので、誰が喋ったんだろうと、いぶちは辺りを見回しました。リプルと笠の人の他に、人の気配は
ありません。いぶちがきょろきょろしている内に、笠の人は「まあ、確かに」と言ってちょっと笑い、いぶちから
バケツを受け取りました。それをテーブルに載せた向かい側に、一体いつから居たのか、一人の女性が、少し
眠たそうに座っていました。

「蒼さんを釣るとはやりますな!」と、リプルが感心したように言うと
「自分で振ったんだろ」と、蒼さんと呼ばれた女性が、呆れたように答えました。
「まあまあ」と笠の人が言い、「さて、どこまで話しましたっけ」と続けました。

 いぶちをテーブル(と言うよりプリン)に迎え入れると、3人はいぶちに、お茶やらお菓子やらを勧めました。
それからそれぞれに一息ついた後、3人は、いぶちが話し始めるのを待ちました。

「えーと」と、いぶちは一呼吸置きました。それから「ここで何をしているのですか?」と3人に尋ねました。

「ああ、見ての通りですよ」
 口火を切ったのは笠の人でした。それから

「今回は割と大人しいメンバーになったな・・・これ以外」
 蒼さんと呼ばれた女性が、プリンを見ながら続けると

「『どうせ集まるなら記念に何かやれば?』ってなべさんに言われたので」
 と、リプルが答えました。

「まあ、事前の打ち合わせですよ、フェスティバルの。そう言えば、いぶちさんはどうしますか?」
 まだお返事を伺ってませんでしたよねと、リプルはいぶちに尋ねました。

「もし良かったら、参加したいんだけど」といぶちは言い
「実際のところ、何をしたらいいのかさっぱりなので」と続けました。

 どこまで決まってましたっけと笠の人がリプルに尋ね、おおよその日程を聞き出しました。それから、必要なものが
あれば借りられますから、どうぞお気軽に、とも言いました。

「かくれんぼとかグルメレースとかは定番ですし、座談会もまず大丈夫でしょう。一番厄介なのは
イダル飛ばしでしょうね・・・」

 日程を確かめたリプルが、眉をひそめて言いました。

「そう言えば、詳しく聞いてなかった。そんなに厄介なゲームなんですか?」

 やみなべのジェスチャーから、ゴルフみたいなものを想像していたいぶちは、ちょっと不思議に思って、
そう尋ねました。

「ええ、まあ」と、リプルは言いました。

「ルールは単純なんですけどね」

 リプルの説明によると、各地から持ち寄った大小さまざまな(それこそゴルフボールくらいのものから、
漬物石くらいのものまであるみたいでした)イダルを、好きな指示具で打ち飛ばして、その飛距離を競うというもの
でした。同じ距離であれば、大きなイダルを飛ばした方が高得点とのことで、成程、確かにルールは分かりやすい
ゲームのようです。

「それで、何が厄介なんですか?」と、いぶちは尋ねました。
ルールを聞く限り、大きな混乱を招くことはなさそうです。

「集計ですよ。飛んで行ったイダルまでの距離とかどうするんですか・・・」
 ちょっとため息混じりに、リプルが答えました。
「まあ、目標物を決めるとか、分担するとかまでは考えたんですけどね・・・」

「広場じゃ危ないですから、海岸でやるとか。でも海に落ちたらどうするのか、とかね」
 笠の人も答えました。

「そもそも、あれ指示具で殴って大丈夫なのか?」
 蒼さんと呼ばれた女性がポツリと言います。

「とまあ、裏方にはいろいろあるんですよ。まあ、お気軽にご参加ください」

 リプルが話をまとめたので、この話はここまでになりました。幾つか気になることはあるものの、ようやく
フェスティバルのことが分かって、いぶちは少しだけほっとしました。

「ところで」といぶちは尋ねました。
「皆さんは、ここまでどうやって来たの?」

 それは重要な質問でした。何故って、この場所は遠征の途中、嵐で偶然訪れた場所です。次にまた来られるか
どうか、それ以前に、元の場所に帰れるのかどうか分かりません。いぶちが心配そうにしていると、リプルが元気良く
答えました。

「どうやっても何も、ここはうちのギルドファームですから、好きなときに」

 いぶちはあっけにとられました。
「え、どういうことなの・・・?」

「どういうも何も、そういう事です」
 何を不思議に思うことがあるのか、とでも言う感じで、リプルはしれっと答えました。いぶちには全く事情が
飲み込めません。そこで改めて、こんな風に聞いてみました。

「つまり、この場所と広場は、どこかで繫がってるっていうこと・・・?」

「まあ、そういうことになりますかね?」
 ちょっと考えて、リプルは答えました。そして、広場と繫がっているというゲートのところまで案内
しましょうかと、いぶちに言いました。

「まあ、我々も行くことになりますし、一休みしたら出掛けましょうか」

 そう言ったのは笠の人でした。蒼さんと呼ばれた女性も、そうだなーと言って、残っていたお茶を飲み干して、
それから手近な荷物を片付けに掛かりました。

 すっかり片付けを終えて、4人は立ち上がりました。それからリプルを先頭に、茂みに向かって歩き始めました
(あのおっきなプリンだけは、まだそこに残っていました)。人がようやく通れる程の小道があって、それが奥の
ほうまでずっと続いています。いぶちが耳を済ませると、どこからか川のせせらぎが聞こえてきました。
周りの木々は次第に高さを増し、煌くような木漏れ日が、心地よく降り注ぎます。そうして暫く歩いて行くと、
そこには緑のゲートが待っているのでした。

「ここですよ」

 リプルはゲートの前に立ってそう言いました。二本の柱の上に一つの丸と柱が横たわる形で、丸の中には不思議な
模様が掘り込まれています。いぶちが眺めているとリプルが

「じゃあ、行きましょうか」と言って、最初にゲートを潜りました。後の2人はそのまま待っていて、
いぶちに「どうぞ」と言って道をあけました。少しどきどきしましたが、待たせるのも悪い気がしたので、
いぶちは先にゲートに入りました。

「あれ?」
 笠の人が言いました。
「ここうちのファームだ」

「バグった・・・?」
 今度はリプルが言いました。

「そう言えば、そんなバグあったよな」
 蒼さんと呼ばれた女性が答えました。

「え、何が起こったの」
 事情が分からないので、いぶちは尋ねました。

「あー、ギルド移ると、その前に所属していたとこに出るとかありましたね」

「もう一回通ると直るんだっけ」

「そうそう」

「そういうことですねー」

 勝手に喋って納得すると、3人はゲートに入ってしまいました。いぶちが「え、」と言って戸惑っていると、
笠の人が戻ってきて

「ああ、すみません。こっちですよ」と、ゲートの中に招きました。

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