10.たぬきの鍋賛歌

 スィンパは深いためいきをついて、きぐるみの片袖で目をおおいました。そしていぶちを見て話そうとするの
ですが、そのたびに興奮して、ダイブしようとするのを抑えるために一分かそこらは声がでません。
「紳士、落ち着け」と鴉人は、落ち着いた調子で声を掛けました。やっとスィンパは声が出るようになって、
興奮を抑えながら、またつづけました。

 「いぶっちゃんは、きぐるみを着たまま終日過ごしたことは、あんまりないかもしれないし――」

(「ないねー」といぶち)――「あとガリレンジャーに招待されたこともないよねぇ――」(いぶちは
「それってあの怪しげな集団の――」と言いかけて、すぐに気がついて、「ないよ」ともうしました)

「――だから、仮面戦隊の成功を祈る儀式がどんなにすてきか、もう見当もつかないよね!ね!」

「ぜんぜん。どういう儀式なんですか?」といぶち。

 仮面の青年がいいました。「まず仮面をかぶるだろ――」

「ガリの仮面ね、念のため!」とスィンパ。「モッチーとかスクドじゃないよ。それで好きな衣装に着替えたら――」

「船着場に行くんだぜ」と仮面の青年が付け加えます。

「――壇上に一列に並んで――」

「並ぶと結構シュールだぜ!」と仮面の青年。

「海のほうを向いたら――」

「――お辞儀をしながら頭でぐりぐり」と仮面の青年がつづけます。

 そしてスィンパ。「激しく動かすとご利益があります―」

「もふればいいんじゃないかな!」と仮面の青年が叫んで、その場でぐりぐり始めました。

「もふっもふもふもふもふっもふっ!」

  スィンパも一緒になって、その場で頭をぐりぐりさせました。それから、一通りやって満足したのでしょう

「いぶっちゃん、わかった?」と、スィンパがやや興奮気味に訊きました。

「とっても賑やかなお祈りなんだね」いぶちはおずおずと言いました。

「興味ある?あるよね?」とスィンパ。

「ええ、まあ」

 雰囲気に推されて曖昧に答えるいぶちでしたが、話はスィンパのペースで進みました。

「よーし、じゃあ最初のところやってみよう!」スィンパが仮面の青年にいいました。

「ガリ面なしでもなんとかなるよね!ね!」

「もう、いっそのこと呼ぶ?呼んじゃう!?」と、仮面の青年。その反応を見たいぶちは、この人たちは本当に
賑やかなことが好きなんだろうなと思いました。

 それから、余分に仮面をもってるのはトムさんとりぷるんと大使だっけ、ここからメール届くかななどと、
二人はわいわい話しました。結局メールは届かなかったものの、「困った時は…せーの、『たすけてりぷるん!』」
と二人で(無駄に)叫んで、ミズキを呆れさせました。


「えー、誠に残念ながら、儀式の練習は中止とさせていただきます」

「まあ、そういうこともあるさー」

 残念そうなスィンパに、仮面の青年が答えました。それから「代わりに何かしよーぜ」と言って、ごそごそと、
クロッキー帳を取り出しました。

「という訳で、クロッキー大会しようぜ!」


「えー、絵なんて描けませんよ?」といぶちは言いました。
趣味で描くには描いていますが、急に言われて描く自信はありません。

「ん?いやいや、難しく考えなくていーんだって!ほら、こう、こんな感じで気楽に」

 そう言いながら、仮面の青年はさらさらと鉛筆を動かすと、誰が見てもそれと分かる生き物を、
あっという間に描き上げてしまいました。

「な、簡単だろー?」


「はやっ!」

「はやいな」

「クオリティ高すぎです・・・」

スィンパ以外の三人が、あんまりびっくりしていたので、仮面の青年は言いました。

「えー、そうでもないぜ?まあでも、そこまで難しいって言うなら別のにしてもいーぜ」

 そこでいぶちはこんな提案をしてみました。

「じゃあ、仮面さんがみんなに教えるって言うのはどうでしょう」

「そうだな、ちょっとしたコツくらいなら教えられるけどな」

「じゃあ、それで」ミズキが言いました。

「よーし分かった。じゃあ、はじめるぜ!名付けて『な、簡単だぜー?サカキの絵画教室!』
 あ、編集ソフトがあった方がいいよな?」

(いぶちはそこで初めて、仮面の青年の名前が「サカキ」だと分かりました。)


「よーし、ちょっと待ってろ。いまソフト起動するからな!」

 それを言い終わった途端、仮面の青年、サカキは消えてしまいました。

「無茶しやがって・・・」スィンパが言いました。

「回線生きて・・・」同情して、ミズキが言いました。

「回線イキロ・・・」少し呆れたように鴉人が言いました。

 回線落ちかな、だったら復帰できるでしょうと、みんなで暫く待ってみました、が、サカキはなかなか
戻ってきません。暇を持て余すのは勿体無いので、スィンパがこんなことを言いました。

「トークタイムにしよう、そうしよう。紳士道と裸足の魅力とどっちがいい?」

「それは・・・」

どこから突っ込めと、とでも言いたげに、ミズキが言いました。

「究極の選択だな・・・」

鴉人も呆れたように言いました。いぶちに至っては、他に選択の余地はないのかしらと思って黙っていました。
みんながそれ以上喋らず、いつまでも黙っていたので

「それとも、とっておきの歌を披露しちゃおうかな!」とスィンパは付け足しました。別の選択肢が出てきて、
少なくともまともなものに思えたので、いぶちは急いで返事をしました。

「ああ、歌がいいです、おねがい、スィンパさんさえよろしければ」いぶちの返事があまりに熱心だったので、
スィンパはすっかりいい気になって、こんな歌をうたいだしました:

*   *   *   *   *

「みごとなスープ、かれーのどろどろ
あつあつおなべでまっている!
だれでものりだすすてきな闇鍋!
こんやのスープ、みごとなスープ
こんやのスープ、みごとなスープ
みぃぃごとぉなスゥゥゥプ!
みぃぃごとぉなスゥゥゥプ!
こぉぉぉんやのスゥゥゥプゥ!
みごとなみごとなスープ!」

「みごとなスープ!
さかなにチーズにフルーツいれて!
さんぱいほどのみごとなスープ
でだれもがすべてをなげだしましょう!
スープにからあげトッケイさん!
みぃぃごとぉなスゥゥゥプ!
みぃぃごとぉなスゥゥゥプ!
こぉぉぉんやのスゥゥゥプゥ!
みごとなみぃごとなスゥゥゥゥプ!」

*   *   *   *   *

「さあ、サビをもう一度!」と鴉人がさけんで、スィンパがちょうどそれをくりかえしはじめたとき、
遠くのほうで「ラジオがはじまるぞ!」とさけびがきこえました。

「おっと!」と鴉人は、いぶちに声を掛けて、歌の終わりをまたないで、かけだしました。

「ラジオって?」いぶちはきれぎれの息でききました。でも鴉人は「7chの海岸だよ」と言うだけで
もっと速く走りだして、スィンパの調子に乗った声は、背中からのそよ風にのって、
僅かにきこえてくるだけとなりました:――

「こぉぉぉんやのスゥゥゥプゥ
みごとなみごとなスープ!」

「あれ、私放置!?」 と、スィンパが驚いていると

「今気付いたんですか・・・」

 一人残ったミズキが、冷静に答えました。

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