2.地底の庭

「いぶっちゃーん!!」
大きな声がしたかと思うと、オレンジのタヌキが現れて、いぶちの方へ突っ込んできました。
突然のことにびっくりしたいぶちでしたが、さっと身をかわすと、
哀れなタヌキはいぶちの横をすり抜けて、ガラス机の脚に思い切りぶつかりました。
「ちょ・・・スィンパさん、大丈夫?って言うか、さっきから何してるんですか?」
いぶちは慌てて駆け寄って、タヌキにそう声を掛けました。(机にぶつかったとき、
物凄い音がしたので、優しいいぶちは心配になったのですね)
いぶちは初めて見たときから、このタヌキは見たことがあるぞと思っていましたが、
こうして近くで見てみると、やっぱり知り合いだったのでした。

オレンジのタヌキが、額をさすりながら起き上がります。
「いやぁ、ちょーっとヤボ用でさぁ・・・」
よっこらせっと立ち上がって、タヌキは話しをはじめました。

ひゅううううう

「え、うそ、ちょ、マジで!?」とタヌキは叫びました。
(びっくりしすぎて、ちゃんとした話し方を忘れちゃったんだね)
タヌキが上を見ながら驚いたので、いぶちもそちらを見ようとすると

ゴオォーン・・・

容赦のない音がして、今のいぶちとタヌキにとっては身長サイズのキーロッドが、
タヌキの頭にぶつかったのでした。
着ぐるみがクッションになったので、怪我にはなりませんでしたが、
タヌキは声も出せない様子で、ごろごろと身悶えし、心配そうに見守るいぶちを残したまま、
そのまま転がって、どこかへ行ってしまいました。
いぶちはあっけにとられて、暫く立ちすくんでいましたが、ともかく鍵を手に入れたので、
お庭に続く扉を開けてみることにしました。
「スィンパさんには悪いけど、助かったな・・・この装備も久し振りだね!」

懐かしい気分になって、キーロッドを振り回すいぶち。ガラス机の脚を鏡代わりにして、
ちょっとポーズを決めてみます。
「うん、なかなかいいね!」
「ついでにモンスターも手に入らないかなー」

そんなことを言いながら、いぶちは小さな(今のいぶちにとっては丁度良い大きさの)
扉に近付いて、鍵穴にキーロッドを差し込みました。

ガチャリ

扉を開けると、噴水のある広場に出ました。
綺麗に敷き詰められた石畳の向こうには真っ白な砂浜が広がって、
そのまま大きな海に続いています。
いぶちは何だか嬉しくなって、砂浜に向かって駆け出しました。

すると向こうの方に、奇妙な双子と、緑のマントの青年が、言い争いをしているのが見えました。

「うるさいっ!オレはもっといぢめられたいんだっ!!」
「お姉様は、そんなことしないよっ!」

一体何の話でしょう。いぶちはそっと近付いて、暫く様子を見守ることにしました。




緑のマントの青年はこう続けます。
「オレはもともと、ソロが好きじゃないんだよっ!折角一緒になったんだから
もっと組んで暴れまわりたいってわけ!」
双子の一人が答えます。
「それは分かりますけどね・・・」
「まあ、お姉様と組めば無敵だな」
もう一人が答えると、青年は「そうだろう」と言う顔をして、
少し胸を張りながらこんなことを言いました。
「だからもっとオレ様と遠征にでたら、その力が更に高まるって言ってるんだよっ!
そもそもアイツだって不満の捌け口を欲しがって契約したんだから―」
「いやぁ・・・お姉様に限ってそれは・・・」
「そういや、誰が最強か決まってなかったな」
結んだ髪に、つぶらな瞳
着ている服はもちろんのこと、首をかしげる仕草まで
双子は見るからに、本当に何もかもがそっくりでしたが、
話の内容は全くかみ合っていませんから、
もしかしたら、興味はまったくちがうのでしょうね。
内容が行ったり来たりして、話は終わりそうにありません。

「一体なんなのかしら」

いぶちが不毛な会話を見守っていると、海岸沿いに一人の女性が、
凛とした姿で颯爽と現れました。
(とても格好が良かったので、いぶちは思わず見とれてしまいました)

双子がびっくりして叫びます。
「あっお姉様!」

「もう、またあなたたちなのね・・・」
お姉様と呼ばれた女性は半ば呆れたように呟きました。

「コノハ・・・二人に変なことを吹き込まないで下さいね」
「ハッ、オレは自分に正直なだけだぜ!」

コノハと呼ばれたマントの青年は、一向に構わない様子です。

「いつまでもそんなこと言っていると、鳥の姿になってしまいますよ?」
「クケケッ!呑気にしていられるのも今のうち・・・」

お姉様がそう言うと、青年は見る間に姿を変えて、
本当にコノハズクになってしまったのでした。

「くそうっ、イダルさえ手に入れば…!」
コノハズクは悔しそうに呟くと、どこかに飛び去ってゆきました。



「ところで」

お姉様が口を開きます。
「そこで何をしているのですか?」

いぶちはびっくりしてしまいました。
何故って、気付いていないと思っていたのに、お姉様がこちらを見ていたからです。

「こんばんはー」

つい言ってしまってから、今更何て間の抜けた挨拶だろうといぶちは思いました。
お姉様は続けます。

「それはキーロッドですね。あなたもブリーダーなのですか?」

その声で、奇妙な双子もいぶちに気付いて、じっとこちらを見ています。
二人とも大変可愛らしく、その上とても良く似ていたので、
ちょっと微笑を漏らしかけましたが、いぶちは困りました。

何故って、さっきから奇妙なことばかり起こっているものですから、
自分が何者なのかを考えている暇がなかったのです。
キーロッドをもっているのは確かですが、今のいぶちには、
相棒といえるモンスターさえ居ないのです。先ほど通り過ぎた石畳の噴水に、
足元の砂浜。そこから広がる海の風景は、ブリーダーだった頃の思い出と一致するものの、
今のいぶちがブリーダーであると証明できるものは、何一つないのです。

そんないぶちの姿を見て、お姉様は言いました。
「あなた達、この方に見覚えはある?」

「えっ!?」

双子の一人が言いました。
「ご存知、ないのですか・・・?」

もう一人が続けます。
「彼女こそ、誤変換からチャンスをつかみ」
「スターの座を駆け上がっている」
「超諸島シンデレラ、ほしみちゃんです!(キラッ☆ミ)」
(どこかで聞いたような流れだな・・・といぶちは思いました)



「・・・つまり、知らないのですね」
お姉様は半ば呆れ顔でそう言うと、いぶちにそっと近付きました。

「この辺りは物騒ですから、一人で出歩かない方が良いですよ。
もし良かったら、町の方まで案内しましょうか?」

どうなることかと思いましたが、危険は人ではなさそうです。
いぶちは「さてどうしようか」と思いましたが、特に行き先も決めていなかったので、
「よろしくお願いします」と言って、町まで案内してもらうことにしたのでした。
(どちらがお姉様の隣になるかで、双子は随分と長いこと言い争いをしましたが、
お姉様が二人に先頭を歩くように言ったので、何とかその場は収まったのでした)

先を歩く双子の可愛らしい頭を見ているうちに
(二人とも頭にマッシグラネコイヤーを付けていました)
いぶちはふと、先ほどのことを思い出して、呟くようにこんなことを尋ねました。
「あのー、さっきの緑のマントの人は一体―」

「え、コノハのこと?」
お姉様が答えると、いぶちは頷きました。

「イダルがどうこうって言っていたけれど・・・」
いぶちが続けると、お姉様の代わりに双子の一人が答えます。

「闇フェス、でしたっけ・・・?」
「は?」
あまりに場違いな答えにいぶちが驚いていると、さも当たり前のようにもう一人が答えます。

「なべ氏主宰のイダル飛ばしだな」
「優勝するとカレーがもらえる・・・らしいです」
「あれ?鍋じゃなかったっけ」
「会場が遠いから、コノハさん来られないんだよね・・・」

会話がカオスになってきたので、いぶちはお姉様の方を見ました。
落ち着き払って、お姉様が答えます。

「もう、さっきから何を言っているの?コノハはね―」
「あっ、船が着いてます!」

お姉様が答えかけたところで、双子の一人が叫んで、遠くの方を指差しました。
いぶちがそちらの方を見ると、大きなモンスターに曳かれた船が、港に浮かんでいるのでした。

双子がはしゃいで走り出したのを見て、お姉様も走り出し、
いぶちも置いていかれては大変なので(だって、ここがどこで、
どんな場所なのか分からないですからね)、慌てて後を追いかけました。

ふと周りを見渡せば、続々と人が集まっているのでした。

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