『魔砲少女まじかる☆りぷるん』


オープニングテーマ『Stellar Shooter』






第4話(続) 少女が遺跡を調べたら






魔砲少女になってから、全力で走る事が多すぎると思う。
理由の大半は何かしらから逃げるため。別に逃げ足が速いワケじゃないのに。
そういえば昔、こむぎと共謀してお姉さまにイタズラを仕掛け、全力で逃走した事があったっけ。あれは楽しかったなぁ。
それはいいのだが、ともかく魔砲少女というのは走る事が仕事ではないはずだ。もっとこう、華麗に鮮やかに輝くパワーで問題を解決するのが…
いや、それも言い出すと考古学者だって職業的に間違っている。
神秘的な黄色い砂色。石造りの緩やかな下り坂を走り抜ける。
両サイドは色褪せた石壁。読めない古代文字が続く壁には逃げ場はなく、それ以外の部分は暗闇しか見えない。
そして後ろを振り返る。「たーたらったー♪」などと軽快に冒険家ソングを口ずさんでみても、その轟音は掻き消されなかった。


ごおおおお!
「にぃいいいいいやあああああ!!」


遺跡と言えばのお約束、岩石がつかず離れずの距離でリプルを迫ってきていた。






話は数時間前に遡る。
「遺跡?」
今日も今日とてこむぎの病室に来ていたリプルは、彼女の朝食をひったくりながら話を聞いていた。
「最近見つかった、皆がせっせとギモ盾探しをしてるあの?」
「ギモ盾固定かよ。それとはまた別、途中に別の島があんの」
こむぎもリプルの手からオレンジジュースを奪い取る。
「あーそれ私のー」
「うるさい。じゃああたしのサラダ返せ、というかコレもあたしのだ」
もう取られないようにと素早くジュースを飲み干した。
「ともかく。あたしはたまたま調査してて、そこの遺跡で見つけたわけ」
こむぎは先ほど渡したイダルを指差す。
「じゃあ、これの他にイダルがあるかもって事だね!」
「確かにあたしは深く探索してないけど。でも小さな遺跡だったし、どうだろ」
「まだあるとしたら、お姉さまが取りに来るかもしれないじゃん!これは行くしか!?」
「あるとしたらの話だろ、だからあるかどうかは…まぁいいけど」
どうやっても行く気満々のリプルを止める術はないと、古くからの友達は知っているのだった。
「ちゃんとお姉さま連れ戻して来いよ、会ったらな」
「もちろん!じゃあこのイダル借りておくね、ついでにそれちょうだい?」
有無を言わさず奪われたので、仕方なくこむぎはデザートのフルーツ盛り合わせを諦める。
「…ま、いいか」
例え馬鹿でも、元気なのは良い事だとこむぎは溜息混じりに笑う。
その元気がお姉さまに伝わるかもと、リプルを信じてイダルを渡したのだった。
「プリンがいい」
「全部食ってから言うな」






ざああ。
「いいいいいやあああああ!埋められる、漬物にされるーッ!」
ごごご。
「ふうううううぬああああああ!壁!影牢3まだですか!?」
がこん。
「ひあぁやだやだやだやだやだーッ!!針が!針が!?」


回想という現実逃避から帰ってくると、目の前には危険がいっぱいだ。
落とし穴に始まり、その後の岩転がし。砂攻め。迫る壁。そして定番釣り天井。
「何が小さい遺跡だ!こむぎちゃんの嘘つきいいいいいぃっ!!」
ピンチに追い込まれながらも、まずリプルは友達に文句を言った。






「はー、はー、はー…」
どれだけ叫んだだろう。罠のラッシュが止み、息も絶え絶えにリプルはようやく腰を下ろすことが出来た。
「アーモンドが居なけりゃ即死だったー…」
窮地を持ち前の冷静さで切り抜けた功労者は、全く息を乱さず壁画を見ていた。
「これでイダルなかったり、お姉さまに会えなかったりしたら泣こう…」
「わん」
「わざと作動させて遊んでるワケじゃないよ!?」
自分でも、わざわざ全部の罠に嵌る必要はなかったと思う。
「にしても結構走ったなー。もうどうやってここまで来たのかわかんないや」
感覚的に地下にいるらしい。しかし深くはないのか、うまく採光されていて明るかった。
映される周囲の色は先程と全く変わらない、けれど今居る場所は今までとは違う雰囲気。
開けた場所、広間とでも言うべきか。その壁は赤い絵で埋め尽くされていた。
輝くもの、異型の生き物、人が集まっていて、また武器らしきものが使われているシーン。
「シュマさんに見せてもらった本と似てる感じ」
リプルはその絵を触った。何十年、何百年と静かに眠っていた壁は冷たい。
「でもなんていうか…悲しい?」
「わん」
アーモンドに導かれ、入ってきた場所とは反対側、一番奥の大きな絵にたどり着く。
黒く塗られた禍々しいもの、それを打ち破らんとする白い人物が描かれた絵だった。
その下の石碑に書かれているのは、昔の象形文字か何か。
「あれ?」
「わん」
「この壁の向こうに、イダルがある気がする…」
何故か読める文章、深く考えずそれをリプルは口にした。
「光を求めるもの…光を集めて…撃ち込め…」


ごしゃあああああ!!


「いい加減擬音語だけで表現するのやめよう!?表現力がなさ過ぎる!」
突然壁画が崩れる。咄嗟に後ろに飛び、瓦礫と一緒に振られた大きな何かを回避した。
向こうの何かがもう一突き、貴重であろう遺物を容赦なく潰したそれは。
「まぁ、最後は大抵コレだよねー…」
部屋いっぱいの巨体、見上げる先には不気味に光る2つの目があった。






「アーモンドぉ…シューターッ!」
閃光を打ち続ける。しかしその敵、ゴーレムはかすり傷ひとつ付かない。
いや、ゴーレム「のようなもの」だった。同じく石で作られた人形ではあっても、大きさがバラバラな石をただ繋ぎ合わせただけの外観。
「どうなってんの、雷も光もまるで無意味だなんて」
巨像は腕を振るう。自分の棲家である事を気にせず柱にぶつけ、振動でリプルは着地を見誤る。
「いつッ…!」
大振りな攻撃でも、たたみ掛け続けられては避け切れない。シールドは防御力を削がれ、石の破片がリプルの腕を切る。
服は擦り切れ、赤く染まった部分が増えてきた。
「攻撃が効かないと勝ち目がない…どうしよーって!?」
右腕を避けたと思いきや、左腕が振り下ろされていた。無理に飛ぼうとしても、足が痛くて力が入らない。
目をつぶる。潰されたくはないという願いを誰かが聞いてくれたのか、なんとか吹っ飛ぶ程度で済んだのだが、
「アーモンド!?」
相棒が身代わりになっていた。叩き付けられた腕を跳ね除けリプルの隣に飛んではきたが、吐血。崩れ落ちる。
「ご、ごめんアーモンド?大丈夫?ねぇ大丈夫なの?」
今度は彼が息も絶え絶えだった。抱き上げたその体には、全く力が入っていない。
「大丈夫だよね?私のせい?ねぇアーモンド…アーモンドッ!!」
返事のない相棒に集中していたから、次の攻撃に気付いた時にはもう遅かった。
逃げられない。でもそんな事より、腕の中で動かなくなった大事な友達の方が―――


「01…ゼロワン…」
聞いた事のない声が、自分ではない誰かを優しく呼んでいた。
「!?」
見えるのは煙っぽい壊れた遺跡ではない。白い筒の中を、魚の群れのように高速で通り過ぎる蒼色の光。
その中央で流されているのは自分と、もう一人見知らぬ格好をした人物。
「今は随分可愛らしい格好をしているのね、01」
「あなたは…?」
目の前に居るのは女性。その姿は透き通り、また不思議に煌いている。
「リプルさん」
「え?あ、はい」
「貴方がここにいるという事は、今回は貴方が決着をつけなければいけないという事」
周囲の蒼色が黒く変わり、数多のシーンが流れ行く。
闇に包まれた世界で多くの人が逃げ惑う。今の世界より進んだ文明がいくつも滅んだ。
「何、何なのこれ?怖いよ…」
「でも大丈夫。貴方が持つ力を、01と合わせれば」
蒼色に戻った景色。周囲から女性が光を集めて、手放す。
「アーモンド!」
流れのままに受け取ったそれは、アーモンドの形になった。
「わん」
「アーモンド…『armed one』。ふふっ」
相棒をぎゅっと抱き締めた。嫌そうに離れようとするのが、逆に安心した。
「01と、私の好きだった世界をよろしくね…」
白い流れを通り抜ける。そして景色が拡散した。






目の前にあるのは岩。腕の中に抱えているものを離さず跳躍、危機一髪。
いつの間にか元の遺跡の中に戻っていた。
「何だったんだろう、今の…」
しかし深く考える暇はない。次の攻撃に備えてリプルは腕の中のものを下ろすと、彼はちゃんと立ってくれた。
「アーモンド。良かった…」
「わん」
そしてアーモンドが咥えていたものは、黄色の欠けた石版。
「これは円盤石の、かけら?」
「わん」
「よくわかんないけど…わかった、使ってみる!」
かけらを真上に投げる。それは砕け散り、輝く砂になってリプルに降り注ぐ。
リプルの傷が治り、そして服が変化していく。更に力が沸いてくる新しい衣装。
「アーモンド、光を撃ち込め!」
巨像にではなく、天井に攻撃を集中。瓦礫を落とし巨像を埋める。
そんなもので倒せるはずはないが、これで時間を稼げた。
「小細工はもう無しだよ。光を、ただ光を集めて…」
アーモンドの横で長杖の先端を巨像へ向け、腰を落とす。
その時巨像が暴れだす。飛んでくる大岩。それがぶつかりそうになる直前。
「アーモンド☆バスタああああああああああ!!」
長杖の先から放たれた光と、アーモンドが撃つ光が収束。それは広間を埋め尽くすほどとなって、巨像を消し飛ばした。


「あー。なんか色々あったね、アーモンド」
「わん」
一人と一匹は疲れてその場に寝転がっていた。アーモンドが仰向けになっているくらいなので、今日はどれだけ大変だったかがわかる。
「ま、何とか終われて良かったなー。イダル回収してさっさと帰ろっか」
なんとか起き上がって銀色の石を探す。思った通り結合の切れた岩の中に落ちていたので、それを拾おうと手を伸ばし…
「けけけ!」
緑の影が横切った。石がない。
「お疲れ様ね」
「…お姉さま」
声の先にいたのはイダルを掴み取ったコノハ、そしてそれを受け取ったお姉さまだった。
「ここにイダルがあるのは知ってたの。でも私こんな木偶の坊とは戦いたくなかったから」
「お前が倒すか倒されるかして、どっちかのイダルを回収しようという作戦さ!」
得意げに叫ぶコノハを無視して、手に入れたイダルを眺めお姉さまは妖しく微笑む。
「ご褒美をあげたい所だけど、私も忙しいの」
「は?いやこれだけ消耗してるんだし、ちょっと殴ればこいつのイダルもぎゅ」
「この子の扱いには口を出さない約束でしょう?コノハ」
「いだだだだ…俺の扱いももうちょっと考えて、いやこれでいいのかぐはっ」
無駄口だったらしいコノハの頬をつねったお姉さまは、そのまま使い魔を後ろに投げ捨てる。
そして自分もそれを追うように踵を返した。
「待ってお姉さま、話したい事が」
リプルは手を伸ばして駆け出す。
お姉さまは小さく手を振った。以前と同じ炎の蛇が、二人の間に火の境界線を作り出す。
「すぐにまた会えるわ。その時遊びましょうね、リプル」
燃え立つ炎。瞬時に消えたが、もうお姉さまは居ない。
「すぐに、また…」
何も掴めなかった手を握り締め、それでもリプルは前を見続けた。






エンディングテーマ『潮風がそよぐ場所』

コメントをかく


「http://」を含む投稿は禁止されています。

利用規約をご確認のうえご記入下さい

どなたでも編集できます