やみなべ★Party!! Re:Quest - 不思議のチャンネルのいぶち:第八章
8.やみなべのイベント会場

 広場の入り口には、お店が幾つか並んでいました。そこから右手に向かう大きな階段があり、その先には噴水が
見えました。プリン・・・リプルと蒼さんと笠屋についていぶちが上がっていくと、そこには着飾ったブリーダーが数人
いて、何やら賑やかにお喋りしていました。いぶちは、これは随分楽しそうだなと思って、もっとよく見ようと近くに
寄ってみました。ちょうど近くに着くと、一人がこう言ってるところでした。それは、いぶちを乗せてくれたあの
モンスターのブリーダーでした。

「いやあ、ご一緒できて良かったですよ!」

「ホントですねー、また対戦しましょう!」話し相手はやみなべでした。

 言われた方のブリーダーは、落ち着いた様子でにっこり微笑むと
「またお願いしますね」と言って、階段の方に向き直り、そこでいぶち達に気付きました。

「あれ、リプルさん!お久し振りー」

 少し驚きを交えつつ、そのブリーダーが嬉しそうに言いました。

「アストさん!お久し振りですねー」

 相手に気付いて、リプルが答えました。名前を知っているところからすると、二人は知り合いのようです。
「今日も遠征ですか?」とリプルが尋ねると「レアドロップ狙いで」と、そのブリーダーは元気よく答えました。
ふと思い出したように、やみなべが声を掛けました。

「ああそうだ、参加は都合が合ったらで良いので!」

「いえいえ、今回は参加させていただきますよー。先約があるので、時間まで遠征してますね」

 そう言うと、アストと呼ばれたブリーダーは、少し急ぎ足で階段を降りて、真っ直ぐに船着場へと向かいました。

「どなたですか?」いぶちはリプルに尋ねました。

「ああ、アストリッドさんです。3人でよく一緒に対戦していたんですよ。ちょっと事情があって、暫く会って
いなかったんですが」と、懐かしそうにリプルが答えました。そこへやみなべがやってきて

「ああ、いぶちさん!どこへ行っていたのかと」と、心配そうに声を掛けました。

 噴水の周りには、幾つか屋台ができていました。人が集まるのを見越してでしょう、それぞれに持ち寄った物で、
即売会が始まるところでした。その間に、いぶちはフェスティバルの申し込みを正式に済ませ、やみなべとリプル
から、詳しい予定を聞きました。それから、開始まで時間があるからと、出来上がった屋台を見せてもらうことに
したのでした。

 一つのお店では、ちょっと古めかしい感じの石を扱っていました。話によると、モンスターが技を覚える記石と
いうものだそうで「秘奥義@1、強化@3 ※煙になるかも」と、値段を添えて看板が出ています。その隣では、
厳つい鎧姿の人が「中に人などおりませぬぞ」などと言いながら、遺跡で拾ったという箱やら部品やらを扱って
いました。ちょっと風変わりな品々ですが、いぶちは興味をそそられたので、一通り見て行きました。そのうちに、
何だか良い香りがしてきたので、いぶちが辺りを見回すと、一つのお店で、誰かが揚げ物をしているのでした。

 それはあのスィンパでした。いぶちが近付くと「へい、らっしゃい!」と言いながら、汗びっしょりで唐揚げを
掬っていました。唐揚げはとてもおいしそうでしたが、いぶちはそれを見て、スィンパがいかにも暑そうなので、
きぐるみ脱げば良いのに、と思いました。

 広場の他の様子を見れば、笠屋が熱心に風景を撮っていました。それから、そう言えば仮面の青年がやけに
大人しいぞと思って探したら、蒼さんに捕まって、何かしら指導を受けているところでした(面白い壁がどうとか
言うのが聞こえましたが、何の話かはさっぱり分からないのでした)。双子の一人が退屈そうにしていたので、
いぶちは声を掛けてみました。すると、お姉様は用事があって、もう一人は別のイベントと重なったから来られない
んだ、と寂しそうに言いました。そこでいぶちは、そう言えば海岸で、コノハズクも来られないようなことを言って
いたなと思い出したので、開始時間まで双子の一人(ミズキという名前でした)と、一緒に待つことにしたのでした。

 時間が近づくに従って、次第に人が増えてきました。そうこうするうちに、広場は人で一杯になりました。大きな
建物の前にやみなべが現れて、開始時間を待ち、そして開会を宣言しました。

「フェスティバル開催」

 イェーア!と、誰かが歓声を上げました。それをきっかけに歓声が続き、辺りはいっぺんに騒然となりました。
それからやみなべに代わって3人が司会席に立ち、その姿を見ていぶちはびっくりしました(仮面の青年と、
スィンパと、それからいぶちの友人のすももだったのでした)。

 オープニングイベントとして、3人のトークが元気よく続き(この辺りでは最も騒がしい3人だと、誰かが
言っているのが聞こえました)、この日の為に用意したという歌が始まると、丁度遠征から戻ったばかりと言う
アストリッドが現れて、舞台の前で熱唱しました。歌い振りが余りにも素晴らしかったので、アストリッドは
そのままイベントの進行役に加わり、益々賑やかになりました。怒涛の展開に、いぶちはあっけにとられていました
が、隣のミズキも唖然としていたので、このイベントはきっと特別なことに違いないと思いました(ここに来るまでも
尋常ではなかったのですけれど)。

 その後、すももが座談会を始めたり(オープニングに続き、全員が参加しました)、笠屋の指示で人文字を
つくったり(これには全員が参加しましたが、リプルだけは微調整に走り回ったので、撮影に間に合いません
でした)、鴉人(カラスだか人だか分かりにくいけど、ここではブリーダーの一人ね)がグルメレースを始めて、
スィンパの唐揚げに苦しんだりしました。

 有志によるイベントは順調に進み、ようやくマイクがやみなべに戻りました。立て続けに進んだので、いぶちは
少々慌しい思いでしたが、結構楽しかったので、済んでみればあっという間のことだったと思うのでした。

 「有志の皆様ありがとうございました。お疲れ様でしたー!ではこれから主催のイベント開始となりまーす!
優勝者には私自慢のカレー鍋を。(やみなべがここまで言ったとき、待ってましたとばかりに、スィンパは顔を
ほころばせました)ではルールを説明しますね」

 続いてルールの説明があり、みんなで海岸へ移動しました。イダル飛ばしは、みんな初めてのゲームなので、
慎重に指示具とイダルを検討しました。特に地面に叩き付けるタイプの指示具を持って来ちゃった人は、どんな
スタイルでイダルを打ち飛ばそうかと、とても真剣に考えました。

 設営されたゲーム会場では、リプルがイダルを配っていました。小さなイダルで距離を狙うもの、大きなイダルで
得点を狙うもの・・・開催までに主催者が集めたものに加えて、持ち寄ってもらったものがあるので、イダルの数と
種類は十分にありました。参加者のみんなは、それぞれの指示具との相性も試して、一通り準備は整ったようです。

「さて、皆さん。使う指示具とイダルのサイズは決まりましたか?」

 全体を見渡して、やみなべが言いました。その声に皆は一斉に司会者を見て、それから唖然としました。やみなべが
持っているのは、重くて扱いの難しい、スレッジハンマーでした。

「その細腕で、どうやって・・・とか言わない!」とやみなべは言いました。それから

「一応主催なんで、ガチで優勝狙っていきますよ?」と続けました。

 ゲーム開始の合図があり、みんなスタートラインに立ちました。と言っても、一度に打つと、誰が打ったイダルか
分からなくなるので、2人ずつ順番に(点呼をとりましたが、珍しく一度もダウトにならなかったので、すぐに決まり
ました)打ちました。勢い良く飛ばすのを見送ったり、勢い余って、却って手前に落としたりと、様々です。集計係の
リプルが駆け回って、名前と距離とボードに書き込みました。いぶちもキーロッドで挑戦です。イダルは、どれに
しようかと少し迷いましたが、扱いやすさを考えて、一番小さいものを選びました。

「お、いぶちさん!がんばってネ!」とやみなべが応援しました。

「いぶちさん、ガンバです!」一緒に居たミズキも応援しました。

「よおし、かっとばすぞお!」

 いぶちは張り切ってキーロッドを振り上げました。そして一息に振り下ろすと、イダルにヒットし、気持ちよい
くらい遠くまで飛んだので、みんなが歓声を上げました。スィンパに至っては、まるで自分のことのように喜んで、
いぶっちゃーん!と叫びながら、いぶちに背中からダイブを仕掛けるくらいでした(いぶちが冷静にかわしたのは、
言うまでもありません)。残念ながら最高記録にはなりませんでしたが、飛距離はこれまでの中では上位のようです。

 ゲームは順調に進み、沢山いた参加者も、殆どの人が打ち終わりました。暫定の一位は鎧の人ですが、結果はまだ
分かりません。やみなべが準備を始めました。

「ふっふっふ・・・真打登場ですよっと!」

 いかにも自信たっぷりなやみなべの様子に、みんなが一斉に注目しました。当のやみなべは、いささか慣れない
手つきではあるものの、重たいハンマーをゆっくりと振り上げていきます。

「この日のためにぃー!スレッジ・・・ハンマァーアァ!!」

ドンッ・・・!

 しんとなった会場に、砂煙が上がり、重たい音が響きました。みんながじっと見守る中、砂煙が次第に降りて
いきます。そして、やみなべの姿がはっきりと見えました。

 ハンマーが半分、砂にめり込んでいて、やみなべが肩を震わせています。イダル(やみなべは一番大きいものを
選んでいました)を見ると、最初の位置から、少しだけ前にずれていました。

「はい、なべさん終了」

 イダルに触れたので一回とみなし、リプルが淡々とボードに記載しました。

「ちょっ、まっ・・・おま、今のは・・・だーっ、ちくしょう!!」

「おっ、やってるねっ♪」

 やみなべが悔しがっていると、ヨッパがふらりとやってきました。

「ヨッパさん、間に合いましたね!」といぶちが言うと

「参加することに意義があるからねー」

 ヨッパはそう言うと、腰に付けていた指示具(若木の木剣でした)を抜きました。
それをよっこらせと振りかぶったかと思うと、勢いよく振り下ろしました。

カッ・・・!!

 迷いのない一撃が、中心を打ち抜きました。
イダルは遥かな空へ飛んでいきます。

「これぞ、酔拳の極意ナリ〜」

 みんなが唖然と見守る中、ヨッパはそう言って、また姿を消してしまいました。