〜幼馴染+後輩、答えはワーウルフ〜
一体なぜこんなことになってしまったのだろうか。高崎 則郎(たかさき のりお)は考える。小学校からの幼馴染と、バイト先が同じ後輩に放課後の屋上へ呼び出された。そこまではいい。そして二人から同時に好きだと告白された。それも非常に驚いたが、まあそれもいい。
──しかしなんで幼馴染と後輩は触手に飲まれ、おれは変な魔方陣に捕まっているのか。
則郎は突如現れたすべての元凶である少女を見遣った。
綺麗だがどうやら手入れをしておらずボサボサの赤い髪に、夕暮れの屋上の向こうに見える夜の闇のように黒い、小学生のような小さな体には大きすぎるサイズの合っていないダボダボなローブ、そして同じ色のつばの広い、魔法使いのような三角帽子。その少女は居間でお茶でもすすっているようなのほほんとした顔で、則郎の驚愕の視線を受けていた。
「だいぶお困りのようですねー」
「困ってるというか訳が分からない。とりあえずそこの二人だけでも放してくれないか」
則郎は身長180を越す大柄な体つきと、幼少の頃はゴリラとあだ名され、今は親しいクラスメートなどからゴリさんと呼ばれるいかつい顔で、ともすればちょっと怖そうな人という印象を持たれやすいが、実際は温和で優しく、よほどのことがない限り感情を露にすることはない。それは幼馴染であり、現在赤黒く蠢く様々な太さの肉蛇にすっかり飲み込まれ、その姿が見えなくなってしまった女子生徒のうちの一人、彼の幼馴染の鞍ヶ矢 凛(くらがや りん)はもとより、同様に飲み込まれてしまったもう一人、則郎と同じスーパーでアルバイトしている後輩、遠野 愛実(とおの あいみ)も知っている。
そんな彼が焦り、困惑しているのも無理からぬことである。むしろ恐怖よりも困惑が先立つあたり、彼の度胸は相当なものであろう。普通ならば半狂乱になってもおかしくはない。 なぜなら──
突如三人の目の前に現れ、魔女の私が皆さんの願いを叶えるですよーなどと言いながら何事かを念じて三人の足元に幾何学模様のような文字が刻まれた円形の紋様──自称魔女は魔方陣だと言った──を浮かび上がらせ、則郎がよく知る少女二人はその魔方陣から無数に涌き出た触手に絡めとられ、そして則郎自身もまるで見えない誰かに押さえつけられるかのように、まったく身動きが取れなくなっているのだから。
「二人が心配ですかー?」
「…当然だ!早く二人を放せ!」
ほとんど動揺の見えなかった、いつもの低い口調が強くなる。ロリ体型魔女に則郎は凛と愛実を放すように言い放ちつつ、隙を見てこの窮地を脱しようとしてはいたが、それは半ば諦めの境地だった。なにせ体が指の先まで全く動かないのだ。意思に反して、というレベルではなく最早脳が体を動かすということ自体を忘れてしまっているような感覚。自由になるのは口と顔だけで、首から下は消失してしまったかのように力むことさえできない。とある事情で退部したとはいえ、この学校の柔道部期待のエースとして活躍していた彼でさえ、全く太刀打ちできなかった。
「ご心配は無用ですー。お二人を危ない目に合わせるわけじゃないですー」
「あれを見てもそう思える訳が無いだろ!」
二人の安否を気にするあまりに怒鳴りつけるようになりながら、則郎はもう一方の魔方陣を見遣った。そこから生えた蠢く気味の悪い触手の藪はすっかり二人を覆い隠してしまって、完全に飲み込まれた形だった。あれでは例え触手が二人を痛めつけないとしても、窒息の恐れもある。
「だいじょうぶですよー。むしろ生まれ変わるのがあまりに気持ちよすぎて、喜んでると思うですよー」
「生まれ変わる!?一体何を言って」
則郎の疑問を遮りながら、魔女はのほほんとした笑みを崩さずに呟いた。
「すぐに、わかるですよ」
…一体なんでこんなことになってしまったのか。鞍ヶ矢 凛は考える。後輩の愛実と二人で決めて、一緒に則郎へ想いを告白すべく、メールで彼を放課後の屋上へ呼び出したのはいい。そして愛実も告白を終え、則郎が一体どちらを選ぶのか、その最初の一言を、心臓を早打ちさせながら待っていた。そこまでは問題ない。
しかし、彼が何か言おうとしたとき突然現れたあの女の子──自分は魔女だと名乗った──が、すべてを無駄した。
則郎の返事も、凛の決意も、愛実の決意も、すべて。
二人の足元に突如出現した円形の紋様から生え出した、生き物なのかすら分からない気味の悪い無数のひも状のものは両手、両足、胴にも巻きつき、二人の動きを封じると、そのままそれらに包み込まれ、飲み込まれてしまった。そして、今に至る。
「…大丈夫か、愛実」
「…はい、なんとか」
二人は、肉壁の部屋に閉じ込められていた。薄暗いそこは上も下も周囲が全て赤紫色で、ぶよぶよとした気持ち悪い感触に包まれた世界。その表面には透明な粘り気のある粘液に覆われ、二人の白いカッターシャツや灰色のチェック模様のプリーツスカートに付着し、シミをつくっていた。
「うう、これ、何なんですかぁ…きもちわるいし、ぬるぬるするし…」
可愛らしい顔をしかめて、遠野愛実がつぶやいた。制服にとどまらず栗色に染めたツインテールの髪や、健康的な肌色の太ももにまでべっとりとした粘液に纏わり付かれ、心底うんざりした様子で、蠢く肉の床に座り込んでいる。
「おそらくこの壁から分泌されているものだろうが…ということはやはり生物なのか、これは」
辺りを見回しながら、凛は弾力のある壁に指で触れると、ぬるりとした感触に、生暖かさを感じた。
「出口は…ないな」
薄暗くてよくは見えないが、どうやら穴はおろか隙間も、床と天井と壁の境目も見当たらない。
二人を拘束していた触手はいつのまにか消え失せていたが、その代わりとでも言うかのように、完全に閉じ込められてしまったこのと証左だった。
「閉じ込められたんですかぁ、私たち…」
「残念ながら、そのようだ」
傍らに立つ凛を縋るような目で見上げていた愛実は、その言葉を聴くと表情を絶望に染め、膝を抱いて体育座りでうずくまった。
「このまま出られなくなったら…私たち、ここで…」
うずくまった愛実から嗚咽が漏れ始める。その彼女の脇にしゃがみこむと、凛はその肩を軽く叩く。
「大丈夫だ。そんなことには、ならないさ」
「…なんで、分かるんですかぁ…」
少しの間を置いて、凛ははっきりとした口調で答える。
「…則郎が、いるからだ」
その言葉に、愛実はゆっくりと頭をあげ、傍らの凛を向いた。涙目を浮かべ顔をくしゃくしゃにした愛実に、名前通りのいつもの凛とした顔に微笑をたたえて見せた。
「則郎が、きっと私たちを助けに来てくれる。あいつは、強いからな」
「で、でも…っ」
「則郎の強さを、愛実もよく知っているだろう?」
凛の言葉に、愛実ははっとした表情を浮かべた。
愛実が、則郎に想いを寄せるきっかけとなった事件。そして、則郎が自らの意思で、柔道の道を退いた出来事。複数の他校の不良生徒に絡まれた自分を、たった一人で守ってくれた彼。反撃し相手に軽い怪我を負わせてしまったことで、部に迷惑がかからない様にと自ら退部届けを提出し、一人静かに去っていった彼。
あまりの恐怖に地面にへたりこみ、泣き出していた自分に、静かな声で「怪我はないか」と声をかけてくれた彼。
その時の則郎の顔が、愛実の脳裏に鮮明に蘇った。
「…そう、ですよね」
腕で目元をぬぐいながら、彼女は弱々しくもいつもの人懐っこい笑みを返した。おそらくそれはかなり無理をしてひきつったようなひどい笑顔だろうとは自分でも思ってはいたが、それでも、笑みを返さずにはいられなかった。
「則郎先輩が、助けてくれますよね。あの魔女っぽい子に一本背負いでも食らわせてから、大丈夫かっていつもの声で、来てくれますよね」
「それどころか、ドロップキックと原爆投げくらいはやってくれているかもしれない」
「それは柔道じゃなくてプロレス技ですよぉ…」
震えた声でくすくすと笑う愛実の横に座り、凛は続けた。自身の不安や恐れをおくびにも出さず、ただ自分の後輩であり、恋敵であり、親友を励ますために。
「それに私たちはまだ、則郎の答えを聞いてないからな」
「…そう、ですよね」
「まあ私が恋人になるのは規定事項だが」
「なっ!?ま、まだそうだと決まったわけじゃないですよ!?」
「諦めることも大事だぞ、愛実」
「り、凛先輩にその言葉そっくりお返ししますっ!」
「私には則郎の幼馴染として小学生から一緒に過ごしてきたアドバンテージがあるからな」
「わ、私だって先輩より胸がおっきいんですから!」
「ほう…私の胸は俎板だというのか…いい度胸じゃないか愛実ぃ…?」
「誰もそこまで言ってませんっ!!」
わずかの沈黙。
そして二人は、どちらともなく笑い出した。
「ぷっ、あははははっ、何やってるんですかね私たち」
「くくくっ、全くだ」
笑いあう二人。愛実の表情からは不安の色がほとんど抜けて、それを見た凛も何時も通りの笑みを向け合っていた、その時だった。
「…なんだ?この匂い」
最初に異変に気付いたのは、凛だった。いつのまにか、無臭だった周囲の空気に何かが混ざり始めている。
「何か、甘い匂いが…」
愛実の鼻腔をどこか甘い香りがくすぐった。水飴を気化させたような、ねっとりと纏わりつく甘味な香りは、二人の思考を少しずつ、曖昧なものにしていく。
(なんだ、これは…頭が、何も、考えられない…)
(なんか、ふわふわするよぉ…)
呆けたように口を半開きにしながら、二人の表情は蕩けた笑みに変わっていく。意思も理性も、思考の全てが桃色の幸福に包まれていく。笑い合いながらも心の奥に残っていた得体の知れないものに閉じ込められた恐怖が、ここから抜け出せるのかといった不安が、完膚なきまでに消え去っていく。
「あ、ああ…」
「ふぁ、ぁ」
甘い匂いに包まれて、唇の間から甘い息を吐く。二人の脳内はすべて幸福で満たされ、それに違和感を持つことさえ放棄した直後、別の感覚が迸った。
(体が、熱い…)
(なんだろう、どきどき、してきた…)
二人の心臓が早打ち始め、全身が熱くなっていくのを、定まらない思考が捉えた。熱に浮かされた、という比喩表現そのままに、二人の瞳から意思の光が弱まっていく。
「あはぁ…」
「ふわぁぁ…っ」
狭い肉壷の中に充満しきった匂いは、二人から理性を溶かし始める。何も考えられなくなった頭の中に、ただ一つの欲求が生まれた。
(なんか、エッチな気分…)
(気持ちよく、なりたい…)
ゆっくりと凛が隣の愛実を向き、愛実がゆっくりと凛を向く。お互いがお互いを視界に入れた瞬間に、その欲求は突然、爆発的に膨れあがった。
(愛実と、愛実と気持ちよくなりたい──!)
(先輩、せんぱいっ、センパイっ!!)
飛び掛った、といっても言い過ぎではないだろう。獲物を捕食しようとする肉食動物の如く、凛は愛実に抱きついて、肉の地面に押し倒し、その唇を奪った。
「んあ!ふっ、くちゅ、ん、んん…っ」
「ちゅ、ちゅ、くちゅ、ちゅる…」
少女同士のキスは、すぐに深いものになる。突然押し倒されたにも関わらず抵抗の素振りすら見せず、それどころか自分からも凛に抱きつき、薄く瑞々しい唇を開けて凛の舌を受け入れ、自らのそれを絡ませる愛実。恋人同士よりも激しく淫らな口付けによって、唇の端から透明な雫がわずかに垂れるのも気にせず、二人は舌を絡ませ合う。
「ふ、んん、あ、くちゅ、っちゅぅっ」
「んあ、あ、ちゅ、ちゅっ」
そんな二人──正確には二人の着衣だが──に、変化が起きた。しゅわしゅわと音を立てながら、あちこちに小さな穴が開き始めたのだ。
「はぁ、ちゅ、ずちゅぅぅっ、ん、んく」
「にちゅ、あんっ、ちゅ、ちゅる…」
その穴は二人が着ている純白のカッターシャツ、灰色のチェックのスカート、紺色の指定のソックス、ブラウンのローファー、それらの一切の区別なく全てに広がると、徐々に拡大していく。
それらの生地が、溶解を始めたのだ。
「んっ、んむっ、んんん!」
「ちゅる、ぷはっ、はぁぁ…」
まるで氷が溶けるように、身につけているもの全てが失われていき、白い素肌が徐々に晒されていく。互いのシャツはその半分以上がすでに失われ、凛の小ぶりな乳房を支える、水色のシンプルなブラジャーが、小柄な愛実の体躯とは少し釣り合わない大きめの膨らみを包む桃色の可愛らしいフロントホックブラが露になり、間を置かずそれらも溶け落ち始める。しかしそんなことも気にしたそぶりをみせず、二人はただただ口付けを交し合うだけだった。
そのうちにプリーツスカートもただの布切れと化していき、それぞれブラと同色で同じデザインのショーツが見え始めると同時にブラと同じように、消失していく。
「ちゅっ、ふあぁぁ…」
「ちゅっ、あ、ああ…」
硬い合皮のローファー生地さえも跡形もなく溶かしてしまえるほどの強力な溶解力にも関わらず、二人の皮膚には傷の一つもついていなかった。彼女達には知る由もないことだが──この赤紫の壁や床や天井から分泌されていた透明な粘液が、二人の着衣だけを溶かしているのだ。
そしてついに、二人の下着や、凛の艶のある長い黒髪をポニーテールにまとめていたヘアバンド──かつて則郎から誕生日に送られた凛の宝物だった──や、愛実のツインテールを纏めていたリボンさえも全て溶けて無くなって、二人は生まれたままの姿を晒した。
「「あ、あ…」」
愛実に覆いかぶさる凛の裸身。全体的に細身で女子でも高い部類に入る背丈は、ファッションモデルのようだった。艶かしい白磁の肌にすらりと伸びた両脚が、愛実のそれと触れ合う。控えめで小ぶりな胸の先端は、先ほどまでの行為のせいか、つん、と張り出している。
凛の下で全てをさらけ出す愛実の裸身。凛と同じく健康的な肌色は服を溶かした粘液に塗れ、しっとりと濡れている。小柄な体躯の中で目立つ大きく実った胸は、仰向けにも関わらず綺麗な形を保ったまま、その先の蕾は凛と同じようにきゅっと締まり、硬さを増していた。
意思も理性も掻き消えた互いの瞳は、互いしか見えない。そのまま見つめあい、そして再び口付けを始めようと、凛の顔がゆっくりと愛実へ近づき始めたとき、それは起こった。
「っぎぃっ!!?」
「んあああっ!!?」
あまりに強烈な衝撃に、二人は白目を剥きかけた。お尻の窄まりから何かが入り込もうとしている大きすぎる異物感。
「いいいいいぎぃぃぃぃぃっ!、な、なに、これぇぇぇぇ…っ!?」
「な゛、な゛あ゛あ゛あ゛っ!!?」
本来は排出、排泄のためにだけ使われるはずの器官から、太く大きい何かが入り込み、自らの奥へ奥へと進んでいく。それは本来、大きな苦痛を持って迎えられるはずのものだが──
「ひぅぅぅぅぅっ!!いい、いいよぉぉっ!!」
「ああああああっ!あんっ、あああんっ!!」
強烈な異物感と、想像を絶する苦痛はすぐに強大な快楽へと変換され、二人を狂わせようとしていた。
一体何が起こっているのか──二人からは見えなかったが、肉の床から人の腕くらいの太さはあろうかという、同じ赤紫のグロテスクな質感をたたえた一本の触手が生え、二人の体に触れる手前で上下2本に枝分かれし、そのまま少女たちの「門」をこじ開け、体内に入り込んでいるのだ。
「あぐぅっ、ひぃっ、くあ、はぁぁぁっ…」
「ひぅ!ぐ、んひぃ!あ、んああああ!!」
触手が入り込むたびに凄まじい快楽が全身を迸り、二人は雄たけびにも似た嬌声を上げ続ける。全身ががくがくと震え、意識そのものが吹き飛んでしまいそうになりつつあったところで、それは唐突に止まった。
「ふぅぅ、うぐぅぅぅぅ…」
「はぁ、ひぅ!はぁぁぁぁ…」
腹のが直接温められているような熱さを感じながら、凛と愛実は快楽の余韻に浸り荒い息を吐く。
そして、突然。
「っっっあああああああああ!?!」
「ひぃああああああああああっっ!!?」
その熱が、腹の中で急激に大きくなった。
「あ、っついいっ!な、なにかぁ!でてるぅっ!」
「くあっ!、あ、くぅぅぅぅっ!!」
二人の中へ入り込んでいる触手が、びくびくと脈打ちながら、何かを注ぎ込んでいる。注ぎ込まれている「何か」の熱が、二人を悶えさせているのだった。
「んああああ!ひぅ!!く、はぁっ…」
「うううううっ、んあぁぁ…っ」
二人へ注ぎ込まれていく「何か」は、直腸で急速に吸収されて、全身へ染み渡っていく。体中が増して火照り始め、力が抜けていく感覚。
「あ、あああ…」
「はぁ…、ああ…」
凛の全身は弛緩しきって、愛実の上で力なく横たわる。一方、凛にのしかかられている愛実も、先ほどのように凛を抱きしめることさえできなくなっている。力なく折り重なる少女たちは、時折びくりと体を震わせて荒い息を吐きながら、淫らな笑みを浮かべていた。まるで恋人同士が行為の余韻に浸っているかのようだった。
──そして、変化が始まった。
「あ、ああんっ…あはぁ…」
「っひゃうぅ…うああ…」
重なり、触れ合う少女たちの艶かしい脚。その境目が、少しずつ曖昧になっていく。境界がぼやけ、滲んで──一つになる。白と肌色が混じりあい、ほのかに黄色く色づいた純白になっていく。同時にそれぞれの足の指は溶けてなくなっていくように、爪と共に引き込まれて失われていった。
「あ、あんっ、んああ、あはぁ…」
「ふぅぅ、くぅっ!んんんん…」
区別を失ったそれぞれの膝から下は完全に同化していた。同化した箇所は色が変わり、ぐにぐにと蠢きながらその輪郭を変えている。一見すれば白っぽい粘土のようだ。
そして、変化は膝と、太股へと広がった。
「んっ!んううううう…っ」
「くっ、あああ…っ」
それぞれの膝と、太股が癒着していく。少女たちはそれぞれの脚を失っていき、腰から上は重なり合う二人の少女、反対側はぐにゅりとした一対の粘土のような白い肉塊という歪な姿を晒していた。
「んあああああああああっ!!」
「ひゃあああああああああ!!」
二人の窄まりを貫いて、その奥にまで入り込んでいた触手が勢い良く引き抜かれた。その刺激に二人は絶頂を迎えそうになり、ひときわ大きな嬌声を上げた。押し広げられて完全に閉じることの出来なくなった二人の菊門から、精液にも似たどろりとした質感の白濁液が垂れる。先ほどまで触手によって中に注ぎ込まれていたものだった。
そして、ついに同化は腰周りにまで及び始める。
「あぅっ!くはぁぁっ!!」
「んっ!んんんんっ!!」
二人の腰の融合が始まる。アイスが溶け合うように一つになっていく。愛実のつるりとした綺麗な秘裂と、凛の控えめに茂った秘所がとろりと蜜を一度吐き出すと、ぴったりと閉じて縦筋が消え、混ざり合って白い肉塊へ埋もれていく。
「う、あ…」
「ん、んん…」
腹部の癒着が始まると、力なく投げ出されていた二人の両手がゆっくりと、互いを求めるように動き出す。愛実の腕が凛の背中に回されて、凛の腕が愛実の肩を抱く。するとそれぞれの腕が、それぞれの体へ埋もれていく。愛実の両手、両腕は凛の背中で形を失い、染み込むように消えていき、凛の両腕は愛実の肩や首周りと同化していく。
「ふぅ…っ、んうう…っ」
「あ、あ…っ」
ぴったりと密着し、ぐにゃりと押しつぶされていた凛の小ぶりな胸と、愛実の大きな胸がそのままひとつになる。今や少女の部分は首から上だけになり、それ以外は全てほのかに黄味を帯びた白色の粘土の塊のようなものに成り果てていた。
両脚であった名残の、一対の長い棒状の肉塊がするすると、胴の方へ引き込まれ始めたのと同時に、残った二人の頭の融合が始まった。
「んん…ちゅ、くちゅぅ…」
「んむ、んちゅ、ちゅっ…」
二人が再び口付けると、そのまま溶け合っていく。唇同士が、触れ合う鼻先が、そして顔面全てが。同時に二人の髪も引き込まれて消えて行き、両耳が埋もれ──そして二人は、完全にひとつになった。
白い、粘土のような丸い肉塊。人間の造形全てが失われた、ぐにゃりとした一塊。それが二人の少女の成れの果てであると、誰が想像できようか。
その塊はぐにぐにと小刻みに動く。まるで溶け合ったお互いがお互いを完全に飲み込もうとするかのように、緩慢なうねりを繰り返すし、そんな動きを続けながら白い塊が、少しずつ大きくなっていく。風船にゆっくりと空気を入れていくように、じわじわと膨れ上がっていきながら、ヒトの様な形へと造形され始めた。
先端がぽっこりと丸く膨らんで、その膨らみは途中で少し括れる。括れから左右に一対、棒状に伸びていくと、その先端は平らに膨らみ、そこから五本のさらに細い棒が延びる。そこから下の肉塊は飴細工のようににゅっと伸ばされながら、二つに分かたれていく。
そうして形作られたのは、いびつなヒトの形。小さな子供が粘土遊びで作ったような、顔も髪も、そのほかの細かい造形が一切無い、四つん這いのような姿勢のヒトガタ。そのヒトガタの表面が一度大きく震えると、ぴしり、ぴしりと音を立て、いくつもの亀裂が走りはじめた。脚のような部分に、胴と思われる部分に。腕や、胸や、頭であろう、背中だと思われる部分に。一切の区別無く、全身がひび割れ始め、一部はぽろぽろと剥がれ始め、そして、
ぱりん、と、音を立てて砕け、崩れ落ちた。
凛と愛実、二人の少女が混ざり合い、固まったものがぱらぱらと、肉の床へ落ちていく。ぱらぱらと落ちていき、その欠片たちは肉の床に溶けて、なくなっていく。
そしてそこには、一人の少女の姿があった。
纏っていた白い欠片がすべて剥がれ落ち、その少女は白い素肌や、無毛の秘所を惜しげもなく晒しながら、四つん這いの姿勢で、何かをじっと待っているようだった。
年の頃は十代後半、少女から女性へ成り代わる直前の可憐な雰囲気を纏い、背丈は凛と同じ程度には長身のようで、その背丈に負けないほどに長い髪は、艶のある美しいプラチナ。大きく膨らんだ胸は自身の手にも余るほどだろう。
そして、そんなプラチナのロングヘアを掻き分けて、ぴん、と頭に一対、三角形の耳が立っている。髪と同じ色の毛で覆われたそれは、さながらイヌ科の動物の耳に見える。さらに小ぶりな尻の上、後ろ腰の真ん中の部分から、これも髪や耳と同じふさふさとした体毛に覆われた、尻尾のようなものが垂れ下がっていた。
獣の耳を生やした少女はそのままの姿勢で動かない。閉じた瞳を開くことも、四つん這いから立ち上がることもせず、ただただ、そのときを待つ。すると動いたのは少女ではなく、少女を閉じ込めている空間そのものだった。床も壁も天井も、全てが大きくざわつき、蠢き始める。するとくちゃぁ、と強い粘り気のある音が響き、天井にぽっかりと穴が開いた。丸く開いたその穴から、夕闇に染まっていく空が見える。
その穴は徐々に大きく広がって、ついには天井の部分が完全に無くなり、今度は壁になっていた赤紫の生きた「壁」が失われていく。にちゅ、にちゅと音を立てながら壁は低くなっていき、ついには床の部分だけになるも、それすらも急速に消失していく。灰色のコンクリートに吸い込まれるように、肉腫とそれを形作っていた触手の群れは、魔方陣と共に完全に消え去った。
消え去ったと同時に。四つんばいのままの少女の瞳がカッと開かれる。その瞳はそれぞれ左が凛と同じ透き通る漆黒、右が愛実のような透明な赤茶色のオッド・アイ。そして──
「…アオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッッ!!!」
夕闇の空に、少女の遠吠えが響き渡った。
「な、なんだ、これは…」
則郎は何が起こっているのか、全く理解できなかった。
件の魔女が「すぐにわかる」、と言い切ってすぐに、幼馴染と後輩を捕らえて閉じ込めていた触手の群れが騒がしくざわつき始めると、コンクリートの床に描かれた魔方陣へ引き込まれ始め、そのまま魔方陣と共に消滅し、中から現れたのは凛と愛実ではなく、何も身につけずに膝と両手をついた姿勢の、一人の少女だった。腰まで届きそうな長く白い髪に、頭には三角の何かが一対、犬か何かの耳のようなものが立ち、さらには腰から、髪や耳と同じ色の毛に覆われた尻尾のようなものが生えた、傍目にはコスプレか何かとしか思えないような出で立ちの少女は、突然空へ向かって遠吠えを始めたのだ。
人間の声質や声量を超えた、本物の獣のようなそれに、則郎はただただ、圧倒されていた。
「どうですか?ワーウルフの遠吠えは。本物の狼より迫力あるですよ」
件の魔女は満足そうに呟いた。ワーウルフ、という良く分からない単語も気になるが、それよりも則郎は凛と愛実の姿が見えないことに怒りの声を上げた。
「何がどうですかだっ!?二人はどうした!!あいつらを返せぇっ!!!」
クラスメートはおろか教師でさえも尻込みしそうな怒りの慟哭。しかしそれすらどこ吹く風、という暢気な口調で、魔女は遠吠えを終え、ゆっくりと立ち上がる少女を指差した。
「?いるですよ?そこに」
「ふざけるなぁっ!!そいつじゃない!!凛と愛実は──」
「…だから、このワーウルフが、あのお二人ですよ?」
この魔女は何を言っているのか。
則郎の脳は、一瞬思考することをやめてしまった。
それほどまでに唐突で、理解しがたいことだった。
「お二人は合体して、このワーウルフになったですよ」
──二人の人間が合体してひとつになる。そんなことあるはずがない。
そう切り捨てることが、則郎にはできない。
なぜなら──
「良く見てくださいです。このワーウルフ、お二人の面影がないですか?」
魔女の言葉を否定するには、このワーウルフは二人の雰囲気に似すぎていたのだ。
「そ、そんな、そんな、ことが…」
立ち上がり、こちらをじっと見据えている、獣の耳と尾を持った少女──ワーウルフは、すっと最初の一歩を踏み出した。
──確かに身長は、ちょうど凛と同じくらいかもしれない。
ゆっくりと、ゆっくりと、こちらへ近づいてくる彼女。
──首から下にはあまり意識を向けないようにしているが、それでも目に入ってしまう大きめな胸の二つの果実。確かに愛実の胸も大きかったように思う。
そして、触れ合えるくらいの距離にまで歩み寄った彼女が、則郎を何の感情も入り混じらない表情で、じっと見上げる。
──端正さと可愛らしさが高次元で同居したような顔の造形は、凛と愛実の雰囲気の両方を感じる。左右で違う色の瞳は幼馴染と後輩、それぞれと同じ色。
「そんな、嘘、だろ…」
言葉を失った則郎。そんな則郎をじっと見上げる白い少女は、突然破顔して、彼にぎゅっと抱きついた。
「えへへ。のりお、のりおぉ…」
頬ずりしながら甘える声はどこか幼い。そんな少女に則郎は慌てて身を捩じらせて逃れようとする。ふとそこで、自分の体が自由になることに気付いた。いつの間にか、体を縛り付けていたらしい魔方陣が消えていたのだ。
「お、おい、ちょ、ちょっと!」
抱きつく少女に呼びかけるが、彼女は全く意に介してしないようだった。ひたすら則郎の名前を呟きながら、体をこすりつけてくる。必然的に彼は少女の柔らかい感触を制服越しに感じることになり、男としていろいろ湧き上がってくるものを必死に押さえつけながら、則郎はこの少女を生み出したらしい魔女に叫んだ。
「お、おい、どうなってるんだ!と、とりあえずこの子を落ち着かせろ!!」
しかし魔女が返した答えは、肯定はおろか拒否ですらない、全く別のもの。
「これで、則郎さんの願いは叶えました。ですよね?」
全く訳がわからなかった。今だ半信半疑、どころか7割くらいは疑っていたが、凛と愛実の二人が融合したというこの女の子が、自分の願いだという。
何を言ってるんだともう一度則郎が叫ぶ前に、魔女は続けた。
「凛さんと愛実さん、お二人から愛の告白をされた則郎さんは、うれしかった。それと同時に、困ってしまった」
その言葉に、彼がはっとした表情を浮かべる。
「それは、どちらかを選ばなければならなくなったから。どちらかの告白を受け入れることは、もう一方の告白を拒絶することと同義です。そして、そんなことをできるはずもなかった。どちらも選びたくなかったし、どちらも選びたかった。…違うですか?」
(そうだ、おれは確かにあの時…)
もしかしたら、女子に告白されたという喜びよりも大きかったかもしれなかった。仲が良い三人の関係が壊れてしまうかもしれない、もう後戻りのできない関係の変化を、心の中で、恐れていたのだ。
同時に、そんな風に逃げてしまう自分が、情けなかった。
「だから、私が則郎さんの願いを叶えた、ですよ。どちらを選ばなくてもいいように、あるいはどちらを選んでもいいように、二人をひとつにしたです」
にっこりと微笑む魔女に、則郎はなにも言えなかった。
「それに、則郎さんの心配も、いらないですよ」
ぶわりと、風が舞い起きる。それは魔女の周囲をぐるぐると回る旋風になって、抱きつく少女の白髪と、則郎の制服をばさばさとはためかせた。
「その子が満足すれば、とりあえずはお二人に戻ることができるです」
満足って、一体何を満たしてやればいいというのか。それを問いただす前に、一際風が強くなると、幼い魔女の姿は夕闇に溶けるように霧散してしまった。
「それじゃ、がんばってくださいです〜」
そんな言葉を残して。
「何を頑張れって言うんだよ…」
後に残された則郎は、則郎に抱きついたまま一向に離れない、二人がひとつになったらしい獣耳の少女に目を遣りながら、困ったように呟いた。
その少女は、胸に顔をうずめたまま微動だにしない。うわ言のように名前を呼びながら、体をこすり付けることもせず、ただじっと抱きついたまま、動かない。
「な、なあ、お前、おれの言葉、分かるか?」
その様子を訝しがりながらも、則郎は少女に向けて口を開いた。しかし少女は返答もせず、そのままの姿勢で身じろぎもしない。
「お、おい、どうした?だいじょうぶ──」
さらに言葉をかけようとして、それは途中で止まる。なぜなら少女がゆっくりと顔を上げたからだ。
「はぁ、はぁ、もうガマン、できないよぉ…」
その頬は上気して緩み、左右の色違いの瞳は蕩け、ぽかんと小さく開いた口からは、尖った八重歯が見える。唇の端から一筋の透明な雫──涎が垂れた。
「お、おい、どうした?」
一瞬少女の蕩けた表情にどきりとしながらも、様子がおかしいことに気付き、則郎が問いかけると、彼女はその返答ととして、
「…んむっ!!?!」
自身の唇を、則郎のそれに強く押し付けた。
「んっ!!んぐっ!、んちゅ、くちゅ…」
何をされているのか理解が追いつかないまま、少し開いた則郎の唇をこじ開けて、少女の長い舌がするりと彼の口の中に入り込み、あちこちを舐めとるようにして蠢く。ようやく則郎の頭が「これ、もしかしてキスされてるのか!(驚愕)」と思い至ったときには、彼女の舌は則郎のそれを絡めとっていた。
「んむ、んんっ!くぅ、んちゅ、ん゛ん゛ん゛ん゛っ!!…」
口内を嬲り、弄ぶような彼女の舌に則郎はされるがままとなり、最後に彼の中の全てを吸い尽くすかのような激しい口付けで、則郎は腰が砕けたような錯覚を覚えた。全身から力が抜けて、立つことすらままならなくなった。
「…っぷはぁっ!はぁ、はぁ…」
崩れ落ちかけた彼の体を、少女はしっかり抱きとめて支える。細い体躯に似合わず相当な力があるようで、彼女はその大きく重い則郎をゆっくりと地に下ろし、横たわらせた。
そしてそのまま、彼の上に覆いかぶさる。
「…もう、がまん、できないの」
じっと則郎を見つめる色違いの双眸。すっかり淫らな色に染まりきった顔で、少女はぽつりと言葉を漏らした。
「…こうび、しよ?」
魔女が残した「満足すれば」という意味をようやく理解してきた則郎は、そのまま白いワーウルフの少女に貪られていった。
もちろん性的な意味で。
「あ、あんっ!せ、せんぱい、せんぱいっ!!い、イク、またイキますぅぅっ!!」
うららかな土曜日の午後の日差しは全てカーテンで遮った部屋。可愛らしい雰囲気が前面に押し出され溢れるそこは、遠野愛実が家族と共に暮らすマンションの一室、愛実の部屋だった。
「く、くぅっ、で、でる…っ!」
「あああんっ!!だしてぇ!だしてくらはぃぃぃぃっ!!」
その部屋の主である愛実は、則郎の下で一糸纏わぬ裸身でよがり狂いながら、両脚と両腕を同じく全裸の則郎に絡ませて、絶頂を迎えた。
「ああああああああああああああああああああああああああああ!!!!」
嬌声を上げ、ガクガクと体を震わせる愛実の中へ、則郎はがちがちに固まって後輩の少女の中をかき回している自身から精を放つ。避妊具の使用は愛実によって完全に拒否されたので、精は彼女の奥深くに直接注ぎ込まれた。
「はぁ、はぁ、あはぁ…あついのが、いっぱいぃ…」
呆けた笑みで、愛する男の熱を感じる彼女。その隣から、別の声がかかる。
「いつ見ても、すごい乱れようだな、愛実は」
荒い息のまま、その声の方を向いて愛実は答えた。
「だって、すごい気持ちいいんですよぅ…それに、凛先輩だってそうじゃないですかー…」
愛実の隣には、同じように生まれたままの姿を恥ずかしげも無く晒している、凛の姿があった。まだ汗が引ききっていないほんのり熱を帯びた白い肌、乱れた長い黒髪、そしてなにより、凛の花弁から自身の蜜と共にとろりと溢れる白濁が、則郎との情事を一足先に済ませていたことの証だった。
あの屋上での出来事から、早一ヶ月。則郎と凛と愛実の三人は、こうして時間を作っては三人一緒に淫らな逢瀬を繰り返していたのである。
ずっと疑念と難色を示し続けていた則郎も、二人の押しの強さと自身の欲望に負け、今やこうして女の子二人と快楽を貪ることに、さほどの抵抗も感じなくなっていたのだった。
「…そうだな、確かに則郎とのセックスは気持ちがいい。乱れてしまうのは仕方が無いことだ」
「ですよねぇ。もう私、則郎センパイ無しじゃ生きていけないかも…」
「私も則郎無しでは達することができなくなってしまった。この間など自分で慰めようとどんなに激しくかき回しても、絶頂できなくてな」
「ああ、わかる!わかりますっ!私も一昨日ちょっと溜まっちゃったから、シたんですけどぜんぜん駄目で…」
「…おまえら、仮にも男のおれの前でそういうぶっちゃけトークは自重してくれないか…」
愛実の中から未だに衰えない自分の陽物を抜き、傍らに座り込んだ則郎。男としては非常に嬉しいことを話し合っているのは分かるのだが、彼ははもう少し恥じらいというものを持って欲しいとも思う。というかこんなエロトークを嬉々として繰り広げるような二人ではなかった気がするのだが、一体どこで道を踏み外してしまったのか。しかしそんな二人ともう数えるのも億劫なほどさんざん致している自分が言えた義理ではないとも則郎は理解しているのであった。
「何を言っている。そもそもこんな体にしたのはお前じゃないか」
「そうですよ!元はといえばセンパイが気持ちよすぎるからいけないんです!」
「…論点はそこなのか?」
二人のツッコミがズレている感が否めなかったので思わず冷静に指摘してしまった則郎だったが、ベッドに並ぶ二人の少女はくすくす笑い合うと、口をそろえて言う。
「…細かい事は」
「いいんですっ!」
そうしてまた笑い合う二人を見て、則郎は思った。二人とも本当に仲がよいな、と。
「…当たり前じゃないか、なぁ?」
「そうですよ。だって、私達…」
どうやら無意識に口に出していたらしい。少女達はお互いに向き合うと、両手を取り合い、その指を絡めあう。
「ひとつに、なれるんだから…」
最後の呟きは、どちらのものだったのか。次の瞬間には、絡めあう指から色が抜けたかと思うと、形を失ってどろりと溶けた。
「あ…」
「んっ…」
指が、手が、腕が溶けていく。溶けながら交じり合い、白い流体、スライム状のなにかに二人は変貌していく。
「ふ、うんっ…」
「あ、あはぁ…」
同じように足も、指先から形と色を失うと、それらは互いに溶け合って、二人の境界を消し去っていく。
「っうぁぁ…」
「あんっ」
腰も、お腹も、胸も、顔も。
全てが溶解して、一つの白い塊になる。
白い塊は蠢いて、新しい自己を形作っていく。
頭を、肩を、腕を、胸を、胴を、脚を。
粘土の塊が、熟練の技で人の形に整えられていくように。
形を作りながら、色をつけていく。
そして。
「は、はぅぅぅ…」
二人の少女は、一人の少女へと融合した。白く輝くようなプラチナの髪の、獣の耳と尻尾を持った少女に。
「はぁ、はぁ、あうぅ、の、りぉ…」
則郎は何度見ても、夢か幻かとしか思えない光景だった。凛と愛実が一人の、それも人外の少女(どうやら狼の特徴を併せ持つワーウルフという種らしい)に成り果てる過程は、未だに現実とは思えない。
だがそれは確かに、自分の目の前で、人懐っこい笑みを浮かべているのだ。
「のりおぉ…えへへ。のりお…」
大きめの胸を揺らして起き上がり、はしりと抱きついてくる少女の頭と白髪を撫でてやりながら、はち切れそうなほどに左右に大きくブンブンと振られる少女の白い尻尾を見て、苦笑した。
いつものことではあるが、この少女はこうして自分に抱きつくこと、そしておそらく少女の方から求めてくるであろう、その先の行為がよほど嬉しいらしい。これじゃ犬だな、なんて一度口走ったことがあったが、頬を膨らませて「犬じゃないもん。狼だもん」と拗ねられた上その時にもう立てないくらいにがっつり搾り取られてからは二度と口にしていないが、やはり思わずにはいられなかった。
(やっぱりこれじゃ犬だよなぁ…)
と、強い力で体を押され、則郎はベッドにぼふ、と倒れこむ。薄暗い部屋の中、押し倒してそのまま則郎にのしかかり、彼の顔を見つめる違う色の双眸が、妖しく光って見えるのは錯覚ではないかもしれなかった。
「えへへ。きょうも、いっぱい、しよーね、のりお…」
こうして彼は、今日も二人で一人になった少女と、激しく愛を交わすのだった。
「うんうん。仲良くやってるみたいですねー」
カーテンで遮られ、外からは様子をうかがい知ることの出来ないマンションの一室を見つめながら、小さな影は満足そうに呟いた。
「それにしても、二人の人間を合成すれば魔族を作り出せるというわたしの仮説は、これで証明できたですかね」
いやいやとかぶりを振る気配。考え込むような唸り声のあと、小さな影は呟いた。
「いや、もう少し実験を続けないといけないですね。この一件だけで証明したとは言えないです。お師匠様も言ってたです。魔術は日々之勉強也、トライ&エラーだと。…ところで、とらいあんどえらぁってどういう意味なんです?」
まあいいです、と言い残し、小さな影は掻き消えた。
「…さて次は、どうしましょうか、ですね」
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