銀の騰貴による中国経済の影響
近代化に立ち遅れた中国経済
◆中国は元来は物産豊富な海外との貿易を必用としない国であった。
18世紀になると、貿易相手国の中ではイギリス東インド会社を持つイギリスが台頭して、中国貿易を独占する形となった。それは中国茶・絹・陶磁器を輸入し、代価を新大陸からの銀で支払う極端な輸入超過である。このため中国では大量の銀が国内に流入することになる。１７７６年になるとアメリカが独立して有力な銀産国の植民地を喪失するとイギリスは供給する銀に困り果ててしまう。
そして、イギリス王ジョージ3世の命を受けて、１７９３年、清朝皇帝乾隆帝の８０歳を祝う使節団として派遣されたのは当時上院議員である全権大使のジョージ・マカートニーである。マカートニーの使命は、極端な制限貿易の撤退であった。
当時の中国は、朝貢貿易主義を貫き、海外貿易を広州１港に制限し（1757年）、王室が指定した少数の特許商人組合・公行（コホン。通称広東十三行。カントンじゅうさんこう）が取り仕切るっており、軌道に乗りつつある三角貿易をより円滑に進めたい狙いがあった。
三角貿易とは、イギリス・中国と当時イギリスの有力な植民地であるインド間の貿易をいう。まず、イギリス本国の綿製品をインドへ、インドで生産したアヘンを中国へ、中国産の茶・絹・陶磁器をイギリス本国へと輸出する貿易をいう。
マカートニーは避暑で訪れていた熱河で乾隆帝の謁見を許される。しかし、彼をを待ち受けていたのは摩訶不思議な東洋の習慣であった。三跪九叩頭の礼（さんききゅうこうとうのれい, 英:nine kowtows）といい、「一叩」の号令で手を地面につけ、額を地面に打ち付ける 「二叩」の号令で手を地面につけ、額を地面に打ち付ける 「三叩」の号令で手を地面につけ、額を地面に打ち付ける 。これをさらに2回繰り返す。
イギリス人としては相当屈辱的であったのだろう。これを拒否、片膝を付き乾隆帝の手に接吻する妥協案でようやく謁見を許される。（後年にウィリアム＝ピット＝アマースト全権大使が派遣され、マカートニー同様三跪九叩頭を拒否し謁見にのぞんだが、今度は謁見も許されなかった。）
マカートニーの要求は皇帝への礼を失した野蛮人とされ、当然のように、制限貿易の撤廃、広州以外の開港、対等国交の樹立は拒否されている。そして、乾隆帝の以外な言葉を聴くことになる。
『貴下の使節も親しく実見せられた所であろうが我々はあらゆる物を持っている。私は珍奇なモノ、あるいは精妙なモノに価値は認めない、私は貴国の工場を必要としない。』
これは、決して中国人特有の唯我独尊や夜郎自大とも言えない。同時期、中国税関で有名なロバート・ハートも同様な発言をしている。
『中国は輸出入とも必要としない、対外貿易なしで自立できる。
すなわち、中国は世界最良の食料である米・最良の飲料である茶・最良の被服である綿・絹・毛皮を持っている、これらの必需品のほかに無数の国産品を持つが故に中国人は１ペニーたりとも他国からモノを買う必用がない。
また、領土広くかつ人口多きがゆえにお互いに国内売買だけで結構取引が出来る。
従って、外国から輸入は要しない。』
しかし、乾隆帝の予想は空しくも当たらなかった。清王朝が滅び、孫文が中華民国を立ち上げるが民国元年（1931年）〜民国20年（1951年）だけでも消費に関する嗜好品の輸入は１８億２千万両に達する。国民政府は焦慮の末、これらの輸入品に対して高い関税を掛け国内産業の保護に当たる。
かつての主要な輸出品も著しく競争力を失うことになる。その競争相手はことごとく新興国日本によって奪われることになる。ロバート・ハートをして『最良の飲料』と言わしめたお茶であるが、アメリカへの販路は日本の植民地である台湾に取って代わられ、ロンドンの市場では、セイロン茶が勃興しており、乾隆帝の時代に独占していた茶は、昭和１０年当時には世界市場の１割程度のシェアに落ち込んでいる。
被服の素材である絹についても、本来は中国に於いて養蚕技術が発明されたが、改良進歩が遅々たる内に日本が追い越し追い抜いて、世界の生糸市場の８０％程度を占めるようになり、これまた、中国産の市場は１０％程度に落ち込むようになった。これは、産業革命により工場で大量生産ができるようになり、中国の農民が副業的に行っていた家内工業生産では太刀打ちできなくなっていた。
『男が耕し、女が織る』といった数千年続いた労働形態が崩壊してしまったのである。絹製品であり木工品であり、それが陶磁器であろうと機械生産で造られた製品には値段に於いても、品質の於いても到来対抗すべくもなかった。
あれだけ優越的な立場にあった中国製品はつるべ落ちに競争力を失うことになる。
産業革命で産業の基盤がガタガタになったのは中国だけではなかった。お隣のインドはより深刻であった。
インドはかつては手工業王国であった。人口の約半数が従事していたされている。しかし、イギリスの商品に駆逐されていく。これは、インドの農業人口の推移を表した端的に物語っている。
１８７１年の農業人口は５０％、１８９１年；６２％、１９１１年；７３．５％と世界では農村から工場へと人々が移動して行く趨勢であるのに対し、インドの商品は市場から消え、インドの都市は年々農村化していく奇妙な現象を引き起こしている。また、その頃、飢餓の問題も深刻化している。インドは元来、大飢饉に悩まされた国でもあった。
１７７０年には、大飢饉がありベンガル地方だけでも１千万人の餓死者を出している。１７７０年というと日本では明和７年にあたる。江戸幕府10代将軍徳川家治の時代にあたる。ちょうど田沼意次が老中に就任しており、田沼時代の幕開けでもある。
その前年の１６６９年には、英国ではワットが実用的な蒸気機関を開発したばかりで産業革命は起こっていない。
しかし、その後、物質文明が軌道に乗り始めると、恐ろしいスピードでインド市場を席捲していき、インドの大飢饉も頻繁に起こるようになる。１８００年以降になると４年１回程度の大飢饉に襲われるようになってくる。その死者は戦前の１９２０〜１９３０年頃まで約三千三百万人と言われている。１９２０〜１９３０年の人口が３億人前後との類型であるので凄まじい数の餓死者である。
【中国国内の現銀の流出】
◆昭和９年６月に施行された銀貨の釣り上げを積極的の行うことになる銀買上げ法案成立は、中国経済を紊乱に陥れることとなる。
（表１）・中国の銀の輸出入 単位；千元／昭和７年を100とする
◆米国の金買上げにより、中国の在銀は急激に流出し、下記のような現象を起こす。
�＾貳婿餠發粒こ案�避、銀の死蔵
��中国の小銀行⇒中国の大銀行⇒外国銀行と、預金の移動がみられるようになる。
��これは、上海銀相場が、ロンドン銀相場より低位にあり、外国相場が高ければ、銀の密輸出が高くなることが
必然となる。
�い修侶覯漫⊂�銀行・信託銀行・質屋の破産から、現銀の取り付け騒ぎに発展
�ッ羚颪蓮�銀の生産国でないため、国内の貯蔵銀が減少し、一般の流通通貨すら支障を来たすようになった。
��新たに、銀を購入せんとすれば、以前の価格より大幅に高い価格で購入せねばならない。
⇒金融経済恐慌の深刻化
【農業経済の貧窮】
�ゝ蚕囘�問題 灌漑設備や自然災害に対する農業設備の不充分
��経済的要因 国際的農業農業物価下落及び国内の貨幣制度の整備不十分
��税の厳しい取立て 内乱その他政治的要因による基準を超える税金の徴収
�ぅぅ鵐侫蕕量簑蝓 々馥盡鯆漫米始�・鉄道ほか）の不備、外国借款鉄道による運賃高
（表２）◆農業物価指数 昭和６年を１００とする
（単位；百万元）
新聞記事から ◆餓死、自殺した農民既に二百万人・痛ましい支那の大旱害・◆----------
支那は一部の水災や蝗害を加えてまたしても一大飢饉に見舞われんとしている、秋の収穫季を
前にしてその惨害はいよいよ具体化して来た、日に日に報道せられるところでは夏季旱のつづ
いていたころ予想された被害よりも遥かに甚大で来年春まで糧道を絶たれた農民大衆のうち何
百万という多数が餓死に瀕しているのである、飢民の暴動はすでに地方々々に頻発している、
地方軍閥は財政収入の減少に伴い農村に対し一層重圧を加えんとしている、支那の社会的混乱
は、かくして強力な拍車を加えられるばかりである （昭和９年９月６日；大阪毎日新聞）
----------------------------------------------------------------------------
安徽省・浙江省は中国の米どころだけに、全支に及ぼす影響は大きく、食糧物価の高騰を招く。悪いことに、この前後、中国は大きな災害になかされている。
民国２４年（昭和１０年）の黄河氾濫だけで受けた被害地域は、日本でいうと、山東省だけで、九州と四国の半分ぐらいの土地を一面の湖水にしてしまう。山東省の罹災民だけで五百万人、被疑損害５億元。
また、同様に民国２４年（昭和１０年）にも黄河が洪水に襲われ、河北・河南・山東の３省で罹災民だけで３２７万人、その内、餓死者２／３に当たる２２０万人を数える。被疑損害２億３千万元。
エドガー・スノーによれば、『１９３５年（昭和１０年）には、実に2万9千人もの人々が飢え死にしたり餓死したりした。』と伝えている。
しかし、豊作だとしても、上記であげた経済問題や輸送の不便などのインフラの未整備で農産物価格は低下の一途をたどって行く。
（表３）◆農村の購買力指数（金陵大学 張教授調査）
新聞記事から ◆驚異的銀流出に支那財界混乱 ◆----------------------------
銀の夥しき海外流出は当事者は勿論、支那金融界を攪乱し、農村経済を根本から破壊する
という一般民衆にとっても死活問題となっている。
上海の銀がどんどん海外に飛び出すと、支那内地に死蔵されている銀がそれだけ上海に集
中して来る。
支那における景気、不景気のバロメーターともいわれる現銀の都市集中を促進し、上海在
銀高はますます増加し、農村経済は破綻に瀕するであろう、また過去においても支那は銀
価が低位にあったため世界不況の影響から或程度まで免れた経験に徴すれば、銀吊上げは
支那にとっては弊害の方面が多いという右のような全然相対立する見方が二つとも相当有
力に行われていたのである、
また七月までは、上海からの流出先は主としてロンドン、ニューヨーク、ボンペイ方面で
あったが、八月に入ってからその九十パーセントまではロンドンの銀市場めがけて逃避し
て行くこのことは、米国がロンドンで銀買付を行ったため同地の銀価が、ニューヨーク等
より高位にあることが重なる原因となっているが、単にそれだけの理由ではないと一部で
は見ている。
すなわち国際情勢の緊張と、世界恐慌の波が鋭敏に反映し、上海市場が比較的不安定な立
場におかれて来たので、上海で最大勢力を占める英国系銀行の本拠、ロンドンに向って逃
避して行くのだというのである。
銀の逃避が支那経済の死活問題となっている以上、南京政府としては、これが対策を急が
ねばならぬ、また巨額の輸入超過と華僑の送金激減によって国際貿易のバランスが従来か
ら見ると一層著しくなりつつある状況ではこの国際貿易問題が銀流出と密接な相関関係を
持っていることはいうまでもない、しかし米国における銀に対する対策如何が、支那にと
っては最も切実に、実際問題となって反映してくるのである。
大阪毎日新聞 1934.8.28(昭和9)より
--------------------------------------------------------------------------
←現銀と貨幣権の争奪 １に戻る【通貨戦争の一覧に戻る】
国民政府の銀対策全く失敗
滔々尽きぬ密輸出
上海本社特電【十六日発】支那の銀輸出税引上および平衡税実施後銀の海外流出は一時全く杜絶し国民政府の銀対策はともかく奏功したかの如く見る向きもあったが事実は全然逆の現象を見せつつあり、上海某外国銀行の調査によると去月十五日銀対策の強行以来十五日までの一ケ月間に上海から海外または支那内地向け現銀の移輸出は一億三千万元の巨額に達したと伝えている、これらの大部分は福州、廈門、汕頭方面に移出され同地方の銀元および銀塊はさらに何等輸出制限なき香港に輸入され同地から海外に流出するもの多く毎週平均二百万元に上っている、上海銀行公会の調査によれば最近一週間における現銀の移動は各地から上海への移入は僅か七十万テールの少額に反し流出額はニューヨーク百万元、漢口四百万元、廈門二百六十万元、汕頭百二十五万元、青島百万元、天津六十万元、済南五十元など合計千百五十万元の巨額を示している、昨今の上海銀は海外銀に対してなお二割五分乃至三割の下鞘にあり正当に税金納入の手続きを取っても採算を割らないといわれ一方では密輸出が驚くべき多額に上っていると一般でも見ている、また中央銀行の市場操作は海外銀を無視して今のままに動かされ従って外銀側は中央銀行に対する信用を全く失った形である、右の如く上海の在銀高は減少の一途をたどるのみで国民政府の銀政策は完全に失敗を暴露するに至りさらに第二段の対策を施すべき必要に迫られているが、根本策として国際貿易整調のため輸出入税改訂、その他の対策が切実に考慮されている
東京朝日新聞 1934.12.1(昭和9)
上海金融混乱 紙幣不信昂まる
香上銀行に銀再輸入交渉
【上海特派員三十日発】南京政府の有ゆる対策にも拘らず支那の銀流出は依然として止まず上海の在銀高は前週中に千四百万元減少した、この銀流出の余波を受けて起った香上銀行の取付け騒ぎ以来上海の金融界は異常の不安状態に陥り金利は奔騰し内国公債及び一般社債、株式などの一般的低落に反し綿糸、棉花などは反騰する有様で貨幣価格動揺の影響を現している、しかしてこの風潮は奥地にも波及し現銀死蔵の徴が現れつつあるのみならず紙幣に対する疑惑を誘発し棉花その他の買付に対して現銀支払を求める傾向さえ顕著になって来たこの情勢を憂慮した財政部では香上銀行に対して同行が予て香港へ輸出した現銀を再輸入して金融逼迫の緩和を計らんことを交渉して居る、これに対し香上側は再輸入は原則的に承認するが輸入する銀に対しては今後再輸出の際無税にさせよとの条件を提出した、上海金融界では南京政府が結局右の条件を容れ交渉成立するものと見て居りさすれば上海の人気を回復する上に相当効果をもたらすものと期待して居る
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◆中国は元来は物産豊富な海外との貿易を必用としない国であった。
18世紀になると、貿易相手国の中ではイギリス東インド会社を持つイギリスが台頭して、中国貿易を独占する形となった。それは中国茶・絹・陶磁器を輸入し、代価を新大陸からの銀で支払う極端な輸入超過である。このため中国では大量の銀が国内に流入することになる。１７７６年になるとアメリカが独立して有力な銀産国の植民地を喪失するとイギリスは供給する銀に困り果ててしまう。
そして、イギリス王ジョージ3世の命を受けて、１７９３年、清朝皇帝乾隆帝の８０歳を祝う使節団として派遣されたのは当時上院議員である全権大使のジョージ・マカートニーである。マカートニーの使命は、極端な制限貿易の撤退であった。
当時の中国は、朝貢貿易主義を貫き、海外貿易を広州１港に制限し（1757年）、王室が指定した少数の特許商人組合・公行（コホン。通称広東十三行。カントンじゅうさんこう）が取り仕切るっており、軌道に乗りつつある三角貿易をより円滑に進めたい狙いがあった。
三角貿易とは、イギリス・中国と当時イギリスの有力な植民地であるインド間の貿易をいう。まず、イギリス本国の綿製品をインドへ、インドで生産したアヘンを中国へ、中国産の茶・絹・陶磁器をイギリス本国へと輸出する貿易をいう。
マカートニーは避暑で訪れていた熱河で乾隆帝の謁見を許される。しかし、彼をを待ち受けていたのは摩訶不思議な東洋の習慣であった。三跪九叩頭の礼（さんききゅうこうとうのれい, 英:nine kowtows）といい、「一叩」の号令で手を地面につけ、額を地面に打ち付ける 「二叩」の号令で手を地面につけ、額を地面に打ち付ける 「三叩」の号令で手を地面につけ、額を地面に打ち付ける 。これをさらに2回繰り返す。
イギリス人としては相当屈辱的であったのだろう。これを拒否、片膝を付き乾隆帝の手に接吻する妥協案でようやく謁見を許される。（後年にウィリアム＝ピット＝アマースト全権大使が派遣され、マカートニー同様三跪九叩頭を拒否し謁見にのぞんだが、今度は謁見も許されなかった。）
マカートニーの要求は皇帝への礼を失した野蛮人とされ、当然のように、制限貿易の撤廃、広州以外の開港、対等国交の樹立は拒否されている。そして、乾隆帝の以外な言葉を聴くことになる。
『貴下の使節も親しく実見せられた所であろうが我々はあらゆる物を持っている。私は珍奇なモノ、あるいは精妙なモノに価値は認めない、私は貴国の工場を必要としない。』
これは、決して中国人特有の唯我独尊や夜郎自大とも言えない。同時期、中国税関で有名なロバート・ハートも同様な発言をしている。
『中国は輸出入とも必要としない、対外貿易なしで自立できる。
すなわち、中国は世界最良の食料である米・最良の飲料である茶・最良の被服である綿・絹・毛皮を持っている、これらの必需品のほかに無数の国産品を持つが故に中国人は１ペニーたりとも他国からモノを買う必用がない。
また、領土広くかつ人口多きがゆえにお互いに国内売買だけで結構取引が出来る。
従って、外国から輸入は要しない。』
しかし、乾隆帝の予想は空しくも当たらなかった。清王朝が滅び、孫文が中華民国を立ち上げるが民国元年（1931年）〜民国20年（1951年）だけでも消費に関する嗜好品の輸入は１８億２千万両に達する。国民政府は焦慮の末、これらの輸入品に対して高い関税を掛け国内産業の保護に当たる。
かつての主要な輸出品も著しく競争力を失うことになる。その競争相手はことごとく新興国日本によって奪われることになる。ロバート・ハートをして『最良の飲料』と言わしめたお茶であるが、アメリカへの販路は日本の植民地である台湾に取って代わられ、ロンドンの市場では、セイロン茶が勃興しており、乾隆帝の時代に独占していた茶は、昭和１０年当時には世界市場の１割程度のシェアに落ち込んでいる。
被服の素材である絹についても、本来は中国に於いて養蚕技術が発明されたが、改良進歩が遅々たる内に日本が追い越し追い抜いて、世界の生糸市場の８０％程度を占めるようになり、これまた、中国産の市場は１０％程度に落ち込むようになった。これは、産業革命により工場で大量生産ができるようになり、中国の農民が副業的に行っていた家内工業生産では太刀打ちできなくなっていた。
『男が耕し、女が織る』といった数千年続いた労働形態が崩壊してしまったのである。絹製品であり木工品であり、それが陶磁器であろうと機械生産で造られた製品には値段に於いても、品質の於いても到来対抗すべくもなかった。
あれだけ優越的な立場にあった中国製品はつるべ落ちに競争力を失うことになる。
産業革命で産業の基盤がガタガタになったのは中国だけではなかった。お隣のインドはより深刻であった。
インドはかつては手工業王国であった。人口の約半数が従事していたされている。しかし、イギリスの商品に駆逐されていく。これは、インドの農業人口の推移を表した端的に物語っている。
１８７１年の農業人口は５０％、１８９１年；６２％、１９１１年；７３．５％と世界では農村から工場へと人々が移動して行く趨勢であるのに対し、インドの商品は市場から消え、インドの都市は年々農村化していく奇妙な現象を引き起こしている。また、その頃、飢餓の問題も深刻化している。インドは元来、大飢饉に悩まされた国でもあった。
１７７０年には、大飢饉がありベンガル地方だけでも１千万人の餓死者を出している。１７７０年というと日本では明和７年にあたる。江戸幕府10代将軍徳川家治の時代にあたる。ちょうど田沼意次が老中に就任しており、田沼時代の幕開けでもある。
その前年の１６６９年には、英国ではワットが実用的な蒸気機関を開発したばかりで産業革命は起こっていない。
しかし、その後、物質文明が軌道に乗り始めると、恐ろしいスピードでインド市場を席捲していき、インドの大飢饉も頻繁に起こるようになる。１８００年以降になると４年１回程度の大飢饉に襲われるようになってくる。その死者は戦前の１９２０〜１９３０年頃まで約三千三百万人と言われている。１９２０〜１９３０年の人口が３億人前後との類型であるので凄まじい数の餓死者である。
【中国国内の現銀の流出】
◆昭和９年６月に施行された銀貨の釣り上げを積極的の行うことになる銀買上げ法案成立は、中国経済を紊乱に陥れることとなる。
（表１）・中国の銀の輸出入 単位；千元／昭和７年を100とする
| 昭和７年平均 | 昭和８年平均 | 昭和９年平均 | |
| 銀輸入 | ９６，５３９(100) | ８０，４３２(83) | １０，８３０(11) |
| 銀輸出 | １０６，９３４(100) | ９４，８５５(89) | ２６７、５５８(250) |
| 差し引き流出 | １０，３９５(100) | １４、４２３(138) | ２５６、７２８(246) |
◆米国の金買上げにより、中国の在銀は急激に流出し、下記のような現象を起こす。
�＾貳婿餠發粒こ案�避、銀の死蔵
��中国の小銀行⇒中国の大銀行⇒外国銀行と、預金の移動がみられるようになる。
��これは、上海銀相場が、ロンドン銀相場より低位にあり、外国相場が高ければ、銀の密輸出が高くなることが
必然となる。
�い修侶覯漫⊂�銀行・信託銀行・質屋の破産から、現銀の取り付け騒ぎに発展
�ッ羚颪蓮�銀の生産国でないため、国内の貯蔵銀が減少し、一般の流通通貨すら支障を来たすようになった。
��新たに、銀を購入せんとすれば、以前の価格より大幅に高い価格で購入せねばならない。
⇒金融経済恐慌の深刻化
【農業経済の貧窮】
- アメリカの銀政策はもう１つの副産物を生むこととなる。中国の農産物が国際市場に曝されることなり、その貧弱性が暴露される。この時代、中国の農民人口は、９０％占めるといわれており、農業を基盤とする経済であり、ブルジョアの党とされている国民党も無視できる産業ではない。当時の学者があげている中国農業の問題点
�ゝ蚕囘�問題 灌漑設備や自然災害に対する農業設備の不充分
��経済的要因 国際的農業農業物価下落及び国内の貨幣制度の整備不十分
��税の厳しい取立て 内乱その他政治的要因による基準を超える税金の徴収
�ぅぅ鵐侫蕕量簑蝓 々馥盡鯆漫米始�・鉄道ほか）の不備、外国借款鉄道による運賃高
- �△侶从囘�要因の深刻さも数字が語っている。
（表２）◆農業物価指数 昭和６年を１００とする
| 品目 | 昭和７年 | 昭和８年 |
| ・米 | ８１ | ５５ |
| ・麦 | ８０ | ７６ |
| ・茶 | ５９ | ４３ |
| ・繭 | − | ５７ |
| ・綿花 | ８７ | ８１ |
- この年（昭和９年）、経済を困窮させたのは、銀市場の騰貴による混乱だけではなかった、より深刻だったのは、安徽省・江蘇省・浙江省一帯を襲った旱魃被害は深刻で、国共内戦で疲労した大地が悲鳴を上げていた。被害総額は以下の通り
（単位；百万元）
| 江蘇省 | 浙江省 | 安徽省 | 合計 |
| ２１８ | １６４ | ３４６ | １，６０２ |
新聞記事から ◆餓死、自殺した農民既に二百万人・痛ましい支那の大旱害・◆----------
支那は一部の水災や蝗害を加えてまたしても一大飢饉に見舞われんとしている、秋の収穫季を
前にしてその惨害はいよいよ具体化して来た、日に日に報道せられるところでは夏季旱のつづ
いていたころ予想された被害よりも遥かに甚大で来年春まで糧道を絶たれた農民大衆のうち何
百万という多数が餓死に瀕しているのである、飢民の暴動はすでに地方々々に頻発している、
地方軍閥は財政収入の減少に伴い農村に対し一層重圧を加えんとしている、支那の社会的混乱
は、かくして強力な拍車を加えられるばかりである （昭和９年９月６日；大阪毎日新聞）
----------------------------------------------------------------------------
安徽省・浙江省は中国の米どころだけに、全支に及ぼす影響は大きく、食糧物価の高騰を招く。悪いことに、この前後、中国は大きな災害になかされている。
民国２４年（昭和１０年）の黄河氾濫だけで受けた被害地域は、日本でいうと、山東省だけで、九州と四国の半分ぐらいの土地を一面の湖水にしてしまう。山東省の罹災民だけで五百万人、被疑損害５億元。
また、同様に民国２４年（昭和１０年）にも黄河が洪水に襲われ、河北・河南・山東の３省で罹災民だけで３２７万人、その内、餓死者２／３に当たる２２０万人を数える。被疑損害２億３千万元。
エドガー・スノーによれば、『１９３５年（昭和１０年）には、実に2万9千人もの人々が飢え死にしたり餓死したりした。』と伝えている。
しかし、豊作だとしても、上記であげた経済問題や輸送の不便などのインフラの未整備で農産物価格は低下の一途をたどって行く。
（表３）◆農村の購買力指数（金陵大学 張教授調査）
| 品目 | 農産品販売価格指数 | 農民需要品買い入れ価格指数 | 農産品購買力 |
| 昭和６年 | １７３ | １８１ | ９６ |
| 昭和７年 | １６２ | １８３ | ８８ |
| 昭和８年 | ９６ | ８８ | ７０ |
新聞記事から ◆驚異的銀流出に支那財界混乱 ◆----------------------------
銀の夥しき海外流出は当事者は勿論、支那金融界を攪乱し、農村経済を根本から破壊する
という一般民衆にとっても死活問題となっている。
上海の銀がどんどん海外に飛び出すと、支那内地に死蔵されている銀がそれだけ上海に集
中して来る。
支那における景気、不景気のバロメーターともいわれる現銀の都市集中を促進し、上海在
銀高はますます増加し、農村経済は破綻に瀕するであろう、また過去においても支那は銀
価が低位にあったため世界不況の影響から或程度まで免れた経験に徴すれば、銀吊上げは
支那にとっては弊害の方面が多いという右のような全然相対立する見方が二つとも相当有
力に行われていたのである、
また七月までは、上海からの流出先は主としてロンドン、ニューヨーク、ボンペイ方面で
あったが、八月に入ってからその九十パーセントまではロンドンの銀市場めがけて逃避し
て行くこのことは、米国がロンドンで銀買付を行ったため同地の銀価が、ニューヨーク等
より高位にあることが重なる原因となっているが、単にそれだけの理由ではないと一部で
は見ている。
すなわち国際情勢の緊張と、世界恐慌の波が鋭敏に反映し、上海市場が比較的不安定な立
場におかれて来たので、上海で最大勢力を占める英国系銀行の本拠、ロンドンに向って逃
避して行くのだというのである。
銀の逃避が支那経済の死活問題となっている以上、南京政府としては、これが対策を急が
ねばならぬ、また巨額の輸入超過と華僑の送金激減によって国際貿易のバランスが従来か
ら見ると一層著しくなりつつある状況ではこの国際貿易問題が銀流出と密接な相関関係を
持っていることはいうまでもない、しかし米国における銀に対する対策如何が、支那にと
っては最も切実に、実際問題となって反映してくるのである。
大阪毎日新聞 1934.8.28(昭和9)より
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←現銀と貨幣権の争奪 １に戻る【通貨戦争の一覧に戻る】
国民政府の銀対策全く失敗
滔々尽きぬ密輸出
上海本社特電【十六日発】支那の銀輸出税引上および平衡税実施後銀の海外流出は一時全く杜絶し国民政府の銀対策はともかく奏功したかの如く見る向きもあったが事実は全然逆の現象を見せつつあり、上海某外国銀行の調査によると去月十五日銀対策の強行以来十五日までの一ケ月間に上海から海外または支那内地向け現銀の移輸出は一億三千万元の巨額に達したと伝えている、これらの大部分は福州、廈門、汕頭方面に移出され同地方の銀元および銀塊はさらに何等輸出制限なき香港に輸入され同地から海外に流出するもの多く毎週平均二百万元に上っている、上海銀行公会の調査によれば最近一週間における現銀の移動は各地から上海への移入は僅か七十万テールの少額に反し流出額はニューヨーク百万元、漢口四百万元、廈門二百六十万元、汕頭百二十五万元、青島百万元、天津六十万元、済南五十元など合計千百五十万元の巨額を示している、昨今の上海銀は海外銀に対してなお二割五分乃至三割の下鞘にあり正当に税金納入の手続きを取っても採算を割らないといわれ一方では密輸出が驚くべき多額に上っていると一般でも見ている、また中央銀行の市場操作は海外銀を無視して今のままに動かされ従って外銀側は中央銀行に対する信用を全く失った形である、右の如く上海の在銀高は減少の一途をたどるのみで国民政府の銀政策は完全に失敗を暴露するに至りさらに第二段の対策を施すべき必要に迫られているが、根本策として国際貿易整調のため輸出入税改訂、その他の対策が切実に考慮されている
東京朝日新聞 1934.12.1(昭和9)
上海金融混乱 紙幣不信昂まる
香上銀行に銀再輸入交渉
【上海特派員三十日発】南京政府の有ゆる対策にも拘らず支那の銀流出は依然として止まず上海の在銀高は前週中に千四百万元減少した、この銀流出の余波を受けて起った香上銀行の取付け騒ぎ以来上海の金融界は異常の不安状態に陥り金利は奔騰し内国公債及び一般社債、株式などの一般的低落に反し綿糸、棉花などは反騰する有様で貨幣価格動揺の影響を現している、しかしてこの風潮は奥地にも波及し現銀死蔵の徴が現れつつあるのみならず紙幣に対する疑惑を誘発し棉花その他の買付に対して現銀支払を求める傾向さえ顕著になって来たこの情勢を憂慮した財政部では香上銀行に対して同行が予て香港へ輸出した現銀を再輸入して金融逼迫の緩和を計らんことを交渉して居る、これに対し香上側は再輸入は原則的に承認するが輸入する銀に対しては今後再輸出の際無税にさせよとの条件を提出した、上海金融界では南京政府が結局右の条件を容れ交渉成立するものと見て居りさすれば上海の人気を回復する上に相当効果をもたらすものと期待して居る
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2007年05月31日(木) 13:45:27 Modified by yuyu122222