『人脈作りの科学』

書名人脈づくりの科学
著者安田雪
発行日2004/08/23
発行所日本経済新聞社

サマリー(帯より)


「人と人との関係」に隠された力を探る

すぐれた人脈とはどういうものか。
  • 知り合いの知り合いが重要
  • つながる数よりも、質が重要
  • よく会う仲間よりも遠くにいる人が役に立つ
だからこそ、人脈の中に意識的に「隙間」をつくろう



序章 人脈づくりを戦略的に考える

  • 人脈づくりや天賦の才なのか
  • 異業種交流会の限界と「名刺ゲーム」の愚

第1章 パーソナルネットワークをどう考えるか

  • ネットワークはどう形づくられるか
  • 仕事の効率を下げるのは誰か〜負の影響は連鎖する
  • 自分のネットワークを点検すると見えてくるもの
    自分の持っているネットワークを形式知にすることを嫌う人は多い。パーソナルネットワークを可視化させるという行為は、自分自身の豊かさと孤独を同時に体験する行為である。人によっては、他人にはもっとも知られたくない情報の一つかもしれない。
  • 知り合いの数を増やしても、優れたネットワークはできない
    知人の数のみ増加させたところで、それは優れたネットワークにはならない。優れたネットワークとは、自分にとって、そしてともにそのネットワークを構成する他者にとっても、豊かな情報源として、そして資本として機能するネットワークである。自然発生的なネットワークは優れたネットワークを生み出す母体である。
    自然発生的なネットワーク(パーソナルネットワーク)は高密度になりがちで、情報収集力が低く、自由に動ける間隙が少ない。

第2章 人と人との関係が生むソーシャル・キャピタル

  • 人と人との関係に宿る力
  • ソーシャル・キャピタルをネットワークでどうとらえるか
  • 小さな世界の問題

第3章 優れたネットワークの構築

  • 関係の特性を知る…個人の特性ではなく、個人が埋め込まれた環境を精査することによって浮かび上がる関係的な要因を探る
    • 中心性…権力構造
    • 結合関係…派閥の構造
    • 構造道知性…競合関係
  • 集中よりも分散、同質性よりも多様性
  • 壊れやすく、そして貴重な橋
  • 誰が権力の中心で、誰が周辺にいるのか

第4章 目的に応じたネットワークを把握する

  • 目的によって、ネットワークの特徴はどう違うか
    仕事上の相談相手、情報の交換相手、昼食や退社後の娯楽などインフォーマルにつきあう相手など、人間関係は一部は重なり合い、一部は独立しながら重層的に形成されている
    情報交換のネットワークでは大きさが重要、相談のネットワークは構成メンバーが誰であるのかが重要、効率低下のネットワークは直上の上司・直下の部下を含んでいるかが重要
  • 相談のネットワーク〜大きさよりも構成メンバーの質
    相談の本質は、他者への以来支援。誰にでも相談を持ちかけることは適切ではない。相手構わず窮状を訴え支援を依頼するならば、その人は信頼を損ない能力がない人間だとみなされるのがオチ。相談関係は、相談する者と支援する者の間に成立する非対称な関係であるから、相談の相手は注意深く選ぶこと。むやみな相談は他者との関係の対称性をゆがめる。
  • 情報交換のネットワーク〜対等な関係を築ける人をいかに増やすか
  • 自らの存在を浮き彫りにする、他者との関係

第5章 創造性を生むネットワークのあり方

  • 創造性とネットワークにはどのような関係があるのか
  • 研究者のネットワークの混沌と中心性
  • 他者との関係が業績を左右する
  • 関係を媒介する力がもたらすもの
    ある種の状況において、人脈それ自身が自動的に好循環を起こす。より多く求められるものが、より多くを得る。人よりも先に有利な位置を占めるものが、より有利な機会に恵まれる場合がある。人脈は必ずしも戦略的に築くことができるものではない。我々は自分の力量の限界に応じた人間関係を持つことしか不可能なのかもしれない。

第6章 隙間と連鎖が情報収集・競争を有利にする

  • 弱い紐帯の強さ〜情報電波を支える連鎖
    グラノヴェッターの理論では、情報収集や情報伝達に優れているのは、日常的に親しくしている人々との絆ではなく、接触頻度が低い疎遠な人々との絆である。ネットワークでは、内部に存在する異なるグループを連結させるブリッジが重要である。ブリッジの連結機能は、情報伝達や社会統合に優れて役立つものである。ブリッジは弱い紐帯であることが多い。だから弱い紐帯は重要である。いつも顔を合わせている人々が保持する情報は自分が持っている情報とあまり変わらない場合が多く、新しい世界へ自分が移行するために必要な情報を集める場合は弱い紐帯を使ったほうが良い。
  • 弱い紐帯の力は本物か
    • 接触頻度で紐帯の強弱を既定する以上、弱い紐帯の数が強い紐帯よりも絶対に多いはず。数が多い弱い紐帯が広い範囲をもらし、より豊かな情報をもたらすのは当然である。本当の問題は紐帯の数であり、弱いから優れているというのは違うのではないか。
    • 実証研究者が同様の調査をしても、結果が安定しない。日本では就職の斡旋では強い中退の方が役に立つという結果も出ている。この差異が文化的なものなのかあるいは何かの条件があるのか。
  • 競争関係からの脱出
    ブリッジの消滅
    • 機能的消滅…2つのグループをつなげる役割を果たす人数が増えることで、ブリッジとしての価値が薄まること。しかし、関係の重複は閉鎖を招き、効率的に機能しない可能性がある。ネットワークの中に感激をつくることが重要
    • 存在消滅…多数のブリッジを持つ人には負荷がかかる。異質な集団を連結させる人間は、複数の異質な集団の規範や価値観を同時に満たせなければならない。多くの場合、どちらかのグループを優先し、もう一方との関係は切れてしまう。これがブリッジが短命である理由。
  • 密度の高いネットワークの罠 N=ネットワークの構成人数 t=紐帯数
密度が高いネットワークほど、ソーシャル・キャピタルとしての有効性は低い。密度の高さは閉鎖性を示し、情報収集力、他社の行動の制約力の点でネットワーク保持者に対して不利に働く。高密度ネットワークでは形成される規範や意識は同質になりやすいため、メンバーで逸脱的な行動を行うものへの強い排他性を生む。
    • 対象ネットワークの密度=2t/{N(N-1)}
    • 非対称ネットワークの密度=t/{N(N-1)}
  • 身動きのとれないネットワークは断ち切れ
    開放的なネットワークでは村八分は安易には生じない
※ネットワークの空隙の利点と関係の重複による非効率性は家族や友人など日常生活で接する人々との関係に応用することは適切ではない。空隙や重複を考慮すべきネットワークは、効率性や情報収集力が重視される文脈に限る

異質な人間とのつきあいはストレスを生じさせる。故に、人々は同質的な考え方を持つ人々と閉鎖的で空隙が少ないネットワークを形成しがち。
日々同じメンバーで接触していると職場のネットワークは頑健で安定的なものだと思われがちであるが、特定の人物を除去すると途端に関係構造がバラバラになることがある。

第7章 他者から選ばれる関係とは何か

  • 関係が雪崩をうって壊れるとき
  • 好かれる人は、さらに好かれる〜人脈はランダムには成長しない
    優先的選択…すでに多くの人に好かれている人を選択すること。成長とは、関係を形成する主体と、関係そのものが常に拡大し続けようとする傾向を指す。優先的選択と成長によってつくられた人間関係はスケールフリーの型をもち、紐帯の大多数を保持する中心的存在を作り出す。
    • ランダムネットワークに見られる分布は大多数の人が平均点の前後に密集する構造(正規分布に近似)。血縁関係、敵対関係、組織における上下関係、地理的な隣接関係などは、当事者に選択の余地が少なくランダム性に支配される。
    • スケールフリーに見られる分布は大多数の人は関係を持たず0や1の近傍に、関係を持つ量とともに該当者は減少し右側に長いすそを引く分布。知人関係、友人関係、恋愛関係、師弟関係、協働関係は、優先的選択に左右されやすい。
      目的を持って形成される集団においては、人間関係を自然にゆだねていてはいけない。利益を追求する組織で社員の優先的選択に任せてしまうと結果としてできrてくるネットワークは最良の結びつきにはなりにくい。
  • 優れた人脈づくりのための3つの課題
    • 人脈の形成原理を何にするのか(損得勘定、信頼、情報収集etc)
    • 潜在構造を考え、目に見える形にすることに対する抵抗の克服
    • 人間関係を合理的にとらえるべきではないという規範論に対する反論を用意すること
優れた人脈とは何だろう。それは、結果の出せる人間関係ということ。友人関係や恋人関係であれば、継続的な安定を持って良しとすべき。ビジネス上の人脈なら情報収集力、転職や異動時にはダイナミックな成長こそが優良な資質。人間関係の目的を何にするかによって、優良とすべき資質にバリエーションがある。
結果につながる優れた人間関係は、感情ではなく意思によってのみ、つくりあげられるのである。

補足

  • パーソナルネットワーク分析の進め方

原則のまとめ

01.未来が感じられる、継続性のありうる関係こそがネットワークである
02.ネットワークは数ではなく質である
03.人間は自分の認知ネットワークでしか生きられない
04.パーソナルネットワークは、自然にゆだねておくと同質的、高密度になる
05.密度の高いネットワークは、情報収集機能が弱い
06.密度の高いネットワークは、頑健である
07.密度の高いネットワークは、空隙に乏しい
08.関係の強弱によって情報収集力は異なる
09.他者の関係を仲介できる位置を占めよ
10.代替のない位置を占めよ
11.少しの努力で、世界は急激に広がる
12.少々のことでは、周囲の密接な人間関係は崩壊しない
13.周囲の密接な人間関係は、ある程度頑健だが、ランダムさの限界を超えると急速に崩壊する
14.ネットワークは普及・伝染機能を持ち、それは良きものも悪しきものも同様に運ぶ
15.異質な他者との接触を重視しよう
16.ブリッジは情報収集・情報発信に優れている
17.ブリッジは壊れやすく、1年間で9割が消滅する
18.誰が中心人物かは見方によって異なる
19.間係数・媒介性・近接性・不可欠性の区別が重要である
20.相談のネットワークは、組織気程度が従業員の職場意識と密接にかかわっている
21.組織での相談相手の選択は慎重に
22.情報交換は互恵関係。相手は多いほど良く、裏切りの抑制力になる
23.自ら情報を収集し発信するハブに、情報は集まる
24.職場にいる人の組み合わせからあがる成果を評価しよう
25.50代からは、意識的にインフォーマルな活動を展開すべきである
26.他者との関係の中で、自分の存在は成り立つ
27.人間関係のマネジメント能力は、創造性や生産性と深いつながりがある
28.生産性の高い人間は多数の人を結びつける
29.最先端の研究は、見えざるネットワークが推し進める
30.弱い紐帯は情報収集機能に富む
31.弱い紐帯は数が多い
32.関係に重複がなければ、情報は加速度的に拡散する
33.他者と構造同値の関係になるのは回避する
34.隙間が多く、風通しの良い関係を構築する
35.仲たがいを調整するには、共通の敵になれ
36.身動きの取れないネットワークは断ち切り、指数的減衰を持つ
37.ただし、関係からの離脱は最終手段とし、減衰が起こる可能性を見極めてからにする
38.関係は、優先的選択に支配されがちである
39.優先的選択にまかせておくと、関係は少数に集中し、大多数は関係を持たなくなる
40.自然にゆだねず、常に微調整を繰り返す
2005年12月24日(土) 01:07:24 Modified by zin941_9x19




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