「ただいま。少し遅くなってごめん。」
 食材や家庭用品を買い込み両手に荷物を抱えながら、一目散に家に帰ってきたのだが・・・・・・
 「春希、遅い。!どうでもいいから助けてくれ。」
 「うわっ、ちょっとどうしたんだ。瑞希はどうした?」
 家のドアを開けたとたんにする悪臭と、赤子のけたたましい鳴き声。
 そして、いろいろと汚物にまみれているかずさ。
 「これはまた・・・、○○○のお姫様・・・?」
 「馬鹿いってないで、なんとかしろ!!」
 昔、カレーを頭からかぶったことがあったが、それに勝るとも劣らない悲惨さだ。
 半泣きになりながら、赤子を抱き抱え俺の方に寄ってくる。
 だが、さすがに勘弁して欲しい。
 「落ち着け、とりあえず二人ともバスルームに行って綺麗にして来い。俺はここの掃除をしているから早く。」
 「分かった、じゃあそっちは頼んだぞ。」
 どうやら、おむつを替えようとしていたのだが、どこでどう間違えたのか大変な事になっている。
 「だからベビーシッターを雇えばいいと言ったのに・・・ なんで俺がこんな目に合わないといけないんだ・・・」
 一人でに出る愚痴をいいながら拭き掃除をしていく俺。
 「あーあ、ジュウタン染みになっちゃうかな。漂白剤つかっても怪しいぞこれ。」



 二人して日本を去ってまもなく3年目となる1月中旬、俺たち二人だけの世界の中に新しい家族が出来た。
 名前は「瑞希」
 まだ、生後一ヶ月程しか経っていないのでどっち似かはよくわからないが、目元はかずさ似だと思う女の子。
 さりげなく、俺の春希の希を名前に入れてある。
 かずさも自分の名前を入れたいと言ったのだが
 「お前の名前って、全部ひらがなだろ。子供の名前にひらがなあててもなあ」
 と言ったら怒るやら拗ねるやら、暫くひと悶着したっけ。



 妊娠が分かってから、かずさの音楽活動は産休ということで全て停止した。
 それはいいのだが、どういった心境の変化か、かずさはいままでやりもしなかった家事を率先してやりだした。
 なんでも母親になるのだからそこのところもしっかりしたいとのこと。
 だが、もともと音楽以外のことはからっきし駄目な為、いつも俺が後始末をしている。
 それでも本人は、しっかりとやった気でいるのだから堪らない。
 育児にしても、二人で育てるといって頑としてベビーシッターを雇わなかった。
 まあ、俺以外の他人がこの家にいることなど、かずさが許すわけもないことぐらい、わかっちゃいるのだが。
 とはいえ、瑞希が病院からこの家にやって来たときは本当に小さくて、異国の地で二人で育てられるのかとても不安だった。
 二人して必死になって、初めての子育てにもだんだん慣れてきて、俺も少しだけ目を離せると思ったのだが、まだまだだなあ。



 「ふう、さっぱりした。春希。すまないが洋服のほうも頼んだぞ。
 私は、寝室へ行ってこの子を着替えさせたあと、おっぱいをあげるから。」
 「ああ、わかった。あまり汚れが落なかったら捨てといていいな?」
 「そこは任せるよ。」
 バスタオル一枚纏った姿で子供を抱いて隣の寝室へ行くかずさ。
 母乳で育てるといって毎日4〜5時間起きに授乳している。
 こればっかりは、感心を通り越して感動すら覚える。
 あのかずさがここまで母性的だったとは。
 ただ、俺としてとっても残念なのは瑞希にオッパイを独占され、最近は満足に触らせてくれない。
 また少し胸が大きくなって、そそるんだけどもずっとお預けのまま、家事の後始末ばっかりさせられる。
 納得いかん!



 「トゥルルル・・・・・・」
 忙しなく鳴る電話のベル。
 まだ、掃除が終わってないのにまたいつもの電話かぁ。
 ため息をつきながら受話器をとると
 「ちょっと、春希くん。早く瑞希を出しなさい。いつまで私をパソコンのモニターカメラの前で待たせるの!」
 「すいません、いまかずさが授乳中でして、終わりましたらすぐに出しますので。」
 日本の曜子さんからの国際電話だ。
 曜子さんの様態は比較的落ち着いてはいるのだが、ウィーンも日本も真冬の二月。
 万が一何かがあっては大変なので、医者から渡航禁止が言い渡されている。
 もう少し暖かくなればこっちに来れるかもしれないのだが、まだまだ先の話だ。
 そのため、まだ瑞希を自らその手で抱いていないのだ。
 本当はこっちから行かないといけないのだが、生後一ヶ月の子供を飛行機に乗せるなど言語道断であるし、もし行けるにしてもどんな顔をして日本へいっていいかもわからない。
 曜子さんのストレスは凄まじく、毎日のようにパソコンのテレビ電話での会話を要求してくるのだ。
 「あとね、また子供の服。国際貨物で送ったからちゃんと着させるのよ。あなたセンスないんだから、私の言う通りにしなさい。じゃあ終わったらすぐに出しなさいよ。」
 部屋を見渡すと封を開いていないダンボールの山がある。
 あれ全部瑞希の洋服なんだよなあ。
 毎日違う洋服着させても、着きれないよ。



 「おい、かずさ。そろそろ終わったか?」 
 静かで薄暗い寝室にそっと入り声をかけると。
 「すう〜〜〜」
 「あっ!」
 椅子に座り子供を抱き抱え、胸をはだけ子供に授乳しながら、眠っているかずさ。
 瑞希もお腹いっぱいになったのだろう、安心仕切った顔で二人して眠っている。
 その姿は先ほどの姿とは全くちがった、神々しいまでの美しさに思わず息を飲んでしまった。
 いつまでも見ていたいが、この空間はかずさと瑞希のもの。
 俺はそっとかずさの肩にシーツをかけてあげ、その場をそっと去った。



 「トゥルルル・・・・・・」
 「ちょっと春希君、いつまで待たせるの!。」
 「うわ、すいません。 今日はちょっと・・・」
 「×××××!!!!!」




 初めて書いたSSです。
 非常に拙い文章でお目汚しになるかもしれませんが、どうか生温かい目で見てやってください。


 tototo
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このページへのコメント

 コメントありがとうございます。こういった所に投稿するのははじめてなもので、最初はとても不安でした。また新しい作品を投稿したいとおもいますのでよかったら見て下さい。

0
Posted by tototo 2014年05月20日(火) 22:39:54 返信

こういう話はSSならではですよね。かずさも曜子さんも実際に子供が生まれたら、親バカ、孫バカになるのは不思議では無いと思います。

0
Posted by tune 2014年05月19日(月) 20:14:43 返信

読ませて頂きました。エンド後の春希とかずさ(それと娘)の幸せな様子が感じられて良かったです。
初めて書いてこれとは凄い。また別の(こういう穏やかな)お話を読んでみたいです。

0
Posted by SP 2014年05月19日(月) 19:57:26 返信

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