最終更新:ID:h3oo0bNzcA 2014年04月17日(木) 00:11:17履歴
「やっほー、かずさ。元気してる?」
「……電話口で大声出すな。酔ってるだろ」
「そんなわけないじゃなーい。娘に酔っぱらって電話する母親なんて母親失格よ」
「そうだな。ものすごく説得力あるよ」
「相変わらずつれないわねぇ」
「それで急になに? こっちは明日から期末試験で構ってる余裕なんかないんだけど」
「嘘おっしゃい。あなたがピアノ以外の勉強をするはずないでしょう。大方、惰眠を貪ってるところを起こされて機嫌が悪いから早く切りたいってところかしらね」
「あたしもそっちの方があたしらしいって思うけどね」
「ほら認めた」
「もうそれはいいから……。で、用件は?」
「久しぶりに電話したんだから、もう少し時候の話とかさあ」
「今パリに住んでるんだろ……」
「でも今度会うときは、そういった辛気くさい話が似合う場所になるかしらね」
「……どういうこと?」
「今月末に、日本に帰るわ。多分クリスマス前後になると思うけど」
「え」
「女二人で寂しいクリスマスを一緒に過ごしましょうよ」
「いや、でも……急にそんなこと言われても……」
「どうせ予定なんてスッカラカンなんでしょ。それともなに? 恋人ができたから困るとかそういうこと? もしそうだったらさすがにお母さんだって遠慮するわ」
「…………」
「…………え、あれ?」
「い、いや……その……」
「もしかして……予定、埋まってるの?」
「……………………うん」
「その、つまり……クリスマスイブ的な意味で」
「…………………………うん。だからさ、今回はちょっと――」
「うっそほんとにマジでー!? 本気と書いてマジ? ほんとにほんとにほんと!?」
「あんたいったい何歳だよ……」
「きゃーんっ! もうそういうことは早く言いなさいよ。電話でもメールでも電報でもモールス信号でもいいからさぁ」
「後半が謎なんだけど……」
「はぁ……。あなたにもとうとう春が来るとはねぇ。お母さん感激」
「いやだから……ん、まあそういうわけだからさ、今回ばかりは――」
「で? どんなコ、どんなコ? ルックスは? 中身は? 身だしなみは? どうやって出会ってどうやって恋を育んでどうやって交際を始めたのか、千文字以上で答えなさい」
「数分前に勉強できないって烙印を押した娘にそういうこと要求するな」
「だって嬉しいんだもん。娘と彼氏の話なんて、憧れだったわ。私の夢だったから」
「夢……」
「それでそれで? どんなコにかずさのハートは射止められちゃったの?」
「………………テストは常に学年一桁で、クラス委員長で、ついでに馬鹿だ」
「……思ったより普通そうなコね」
「外見も普通だ。十人並み。髪型もさえないし、ワイシャツの第一ボタンまでぴっちり締めてる。おまけにギターがヘタクソで、あたしが教えてもちっとも上手くならない。……まあ最近はちょっとだけマシになってきたけど。そのくせ人が苦しんでるのを見るのが好きで、あたしに勉強教えるとか言いつつ、あたしのことイジめるんだ」
「へえ……よくもまあそんなコがかずさに興味を持ったわね。片親でグレてるようなコなんか、歯牙にもかけなさそうなのに」
「あ、あいつは……そんなことで人を差別するような奴じゃない!」
「……そうなの?」
「誰に対しても平等でお節介で、何度突き放しても平気で介入してくる、救いようのない馬鹿だ」
「……」
「それに、あいつだって父親いなくて……しかも母親に放っておかれてて……」
「だからやられちゃったんだ? 似たような境遇なのに、平気で頑張ってる彼が眩しかった?」
「ちち、ちが……」
「……」
「……」
「なるほどねぇ。いつの間にか、恋に浮かれて大嫌いな勉強をするような女の子になってたか。あのかずさがね……」
「……おかしいかよ?」
「ううん、わが娘ながら、可愛いなって」
「うるさいっ」
「でもそういうことなら母親としてきっちり挨拶するべきよね。あ、そうだ。時期も時期だし、クリスマスパーティに招待するのはどうかしら?」
「ちょっと待ってくれよ。さっき予定が埋まってるなら遠慮するって言っただろ」
「方便に決まってるじゃない、そんなの。こんな美味しい話、私が見逃すと思う? たとえ明日がデートでもコンサートでも、事故で入院してても不治の病に冒されたとしても、地球の裏側からすっ飛んで来るわ。あらゆるコネと買収した機関を使ってね」
「本当に実現しそうだから余計に怖い……じゃなくて、もう予定が決まってるんだ。あいつと一緒に過ごすって」
「安心なさい。テキトーに理由つけて夜だけは席を外すから」
「だだだ、黙れよ! その発言は母親失格だ!」
「あら? その反応を見る限り、まだ一緒に寝てないんだ。少し意外。あたしの娘なんだから、もうとっくに手を出し――出されてると思ってたのに」
「あたしはあんたみたいに、男とっかえひっかえしてばっかりの、『控えめに言って恋多き女』とは違うんだよ!」
「ふむふむ。つまりまだキスすらしてないと。もしかして未だに名字で呼び合ってる?」
「……………………してない」
「してるのね……。こりゃ先が長そう」
「してないって言っただろ! ちゃんと…………は、春希って……呼んでる」
「へえ、春希君って言うんだ。そのギター君は」
「名前で呼ぶな!」
「あたしにまで嫉妬しないの。今言ったことが嘘だって自分で証明してるようなものよ」
「っ……」
「賑やかなパーティになりそうね。お土産、楽しみにしてなさい」
「ちょ、ちょっと母さん!」
「じゃあまたね。私の愛しのかずさちゃん」
「……………………」
「……電話口で大声出すな。酔ってるだろ」
「そんなわけないじゃなーい。娘に酔っぱらって電話する母親なんて母親失格よ」
「そうだな。ものすごく説得力あるよ」
「相変わらずつれないわねぇ」
「それで急になに? こっちは明日から期末試験で構ってる余裕なんかないんだけど」
「嘘おっしゃい。あなたがピアノ以外の勉強をするはずないでしょう。大方、惰眠を貪ってるところを起こされて機嫌が悪いから早く切りたいってところかしらね」
「あたしもそっちの方があたしらしいって思うけどね」
「ほら認めた」
「もうそれはいいから……。で、用件は?」
「久しぶりに電話したんだから、もう少し時候の話とかさあ」
「今パリに住んでるんだろ……」
「でも今度会うときは、そういった辛気くさい話が似合う場所になるかしらね」
「……どういうこと?」
「今月末に、日本に帰るわ。多分クリスマス前後になると思うけど」
「え」
「女二人で寂しいクリスマスを一緒に過ごしましょうよ」
「いや、でも……急にそんなこと言われても……」
「どうせ予定なんてスッカラカンなんでしょ。それともなに? 恋人ができたから困るとかそういうこと? もしそうだったらさすがにお母さんだって遠慮するわ」
「…………」
「…………え、あれ?」
「い、いや……その……」
「もしかして……予定、埋まってるの?」
「……………………うん」
「その、つまり……クリスマスイブ的な意味で」
「…………………………うん。だからさ、今回はちょっと――」
「うっそほんとにマジでー!? 本気と書いてマジ? ほんとにほんとにほんと!?」
「あんたいったい何歳だよ……」
「きゃーんっ! もうそういうことは早く言いなさいよ。電話でもメールでも電報でもモールス信号でもいいからさぁ」
「後半が謎なんだけど……」
「はぁ……。あなたにもとうとう春が来るとはねぇ。お母さん感激」
「いやだから……ん、まあそういうわけだからさ、今回ばかりは――」
「で? どんなコ、どんなコ? ルックスは? 中身は? 身だしなみは? どうやって出会ってどうやって恋を育んでどうやって交際を始めたのか、千文字以上で答えなさい」
「数分前に勉強できないって烙印を押した娘にそういうこと要求するな」
「だって嬉しいんだもん。娘と彼氏の話なんて、憧れだったわ。私の夢だったから」
「夢……」
「それでそれで? どんなコにかずさのハートは射止められちゃったの?」
「………………テストは常に学年一桁で、クラス委員長で、ついでに馬鹿だ」
「……思ったより普通そうなコね」
「外見も普通だ。十人並み。髪型もさえないし、ワイシャツの第一ボタンまでぴっちり締めてる。おまけにギターがヘタクソで、あたしが教えてもちっとも上手くならない。……まあ最近はちょっとだけマシになってきたけど。そのくせ人が苦しんでるのを見るのが好きで、あたしに勉強教えるとか言いつつ、あたしのことイジめるんだ」
「へえ……よくもまあそんなコがかずさに興味を持ったわね。片親でグレてるようなコなんか、歯牙にもかけなさそうなのに」
「あ、あいつは……そんなことで人を差別するような奴じゃない!」
「……そうなの?」
「誰に対しても平等でお節介で、何度突き放しても平気で介入してくる、救いようのない馬鹿だ」
「……」
「それに、あいつだって父親いなくて……しかも母親に放っておかれてて……」
「だからやられちゃったんだ? 似たような境遇なのに、平気で頑張ってる彼が眩しかった?」
「ちち、ちが……」
「……」
「……」
「なるほどねぇ。いつの間にか、恋に浮かれて大嫌いな勉強をするような女の子になってたか。あのかずさがね……」
「……おかしいかよ?」
「ううん、わが娘ながら、可愛いなって」
「うるさいっ」
「でもそういうことなら母親としてきっちり挨拶するべきよね。あ、そうだ。時期も時期だし、クリスマスパーティに招待するのはどうかしら?」
「ちょっと待ってくれよ。さっき予定が埋まってるなら遠慮するって言っただろ」
「方便に決まってるじゃない、そんなの。こんな美味しい話、私が見逃すと思う? たとえ明日がデートでもコンサートでも、事故で入院してても不治の病に冒されたとしても、地球の裏側からすっ飛んで来るわ。あらゆるコネと買収した機関を使ってね」
「本当に実現しそうだから余計に怖い……じゃなくて、もう予定が決まってるんだ。あいつと一緒に過ごすって」
「安心なさい。テキトーに理由つけて夜だけは席を外すから」
「だだだ、黙れよ! その発言は母親失格だ!」
「あら? その反応を見る限り、まだ一緒に寝てないんだ。少し意外。あたしの娘なんだから、もうとっくに手を出し――出されてると思ってたのに」
「あたしはあんたみたいに、男とっかえひっかえしてばっかりの、『控えめに言って恋多き女』とは違うんだよ!」
「ふむふむ。つまりまだキスすらしてないと。もしかして未だに名字で呼び合ってる?」
「……………………してない」
「してるのね……。こりゃ先が長そう」
「してないって言っただろ! ちゃんと…………は、春希って……呼んでる」
「へえ、春希君って言うんだ。そのギター君は」
「名前で呼ぶな!」
「あたしにまで嫉妬しないの。今言ったことが嘘だって自分で証明してるようなものよ」
「っ……」
「賑やかなパーティになりそうね。お土産、楽しみにしてなさい」
「ちょ、ちょっと母さん!」
「じゃあまたね。私の愛しのかずさちゃん」
「……………………」
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