医師:長田陽子による診療録

3月1日 1:13AM

連絡がとれない事を心配した母親により有海公園にて倒れている所を発見される。
救急車により搬送。
当院到着時
BP167/93 BT 33.2℃
cons JCS �-20 GCS G2V1M4=7
両上肢・両下肢に小擦過傷
左側頭部に皮下血腫

同伴者(母)にpregnancyの可否を問うも不明。
最終月経2月18日。
リスクはゼロで無いが優先順位は救命である旨説明。
本人現時点で同意能力無く、母の同意を得てCT施行。

CT
Brain:lt frontal〜temporal lobeを圧排する形でレンズ状のHDA。
midline shift(+) cisternは描出不良。
またrt temporalにも薄いHDA。
chest〜abd:単純CT上、明らかな異常所見は無い。

diag:bil.ASDH due to contusion&contracoup injury

現時点で救命目的の減圧が必要と考えられる。
開頭血腫除去をorder。
血圧上昇はICP亢進によると考え現状では経過観察。
hypothermiaについては、脳保護の意味もあり緩徐な復温のみとする。

両親に状況を説明
・原因は不明であるが、何らかの外傷により頭蓋内に出血と脳の挫傷を起こしています。
・脳の出血は急性硬膜外血腫と呼ばれるタイプの物で、これが頭の中に貯まり
脳を圧迫して現在の意識の状態になっています。
・このまま放置すると出血による圧迫が更に増大し、命に係わります。
また脳が直接外傷の衝撃で挫傷を起こしており、今後脳が浮腫んでくる可能性が高いです。
脳の浮腫みが原因で、やはり命に係わる状況が起き得ます。
・救命を行うためには、頭を開き血液の塊を取り除くのが現時点ではbetterです。
・後遺障害等については、意識が回復しないと現時点では不明です。
しかし脳の損傷部位から考えて右半身の麻痺・言語の障害などが出現する可能性があります。

以上説明。手術の同意を得る。

2:00AM

開頭血腫除去術施行。
血腫はtotal removal出来たが、硬膜下にも出血痕が認められた。
また閉頭時dural tensionはやや高く、brain swellingが有る事を伺わせる。

術後anticonvulsantとしてphenitoinの急速飽和とgliceol200ml×6回を指示。
ICUに帰室となる。


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朋は携帯の着信音に飛び起きた。相手は小木曽雪菜。
時間は午前10時。
いつの間にか眠ってしまっていたようだ。
安堵しながらどうやって罵倒してやろうか考えつつ電話に出る。

「どれだけ私達が心配したと思ってるの!」

しかし電話の相手は雪菜の母であった。

三次救命センターを備えた大学病院。
待合室には雪菜の両親と弟が座っていた。
一様に曇った表情を浮かべ、疲労の色が見て取れた。

手術は成功したと。
現在は薬を使って眠らされていると。

後遺症が残る可能性が高いと。

怒りと哀しみが混ざりあい、言葉を失った。
武也と依緒も順次駆けつける。

面会はまだ家族のみ。


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医師:長田陽子による診療録

3月4日

BP 118/62 BT 37.2℃
cons JCS I-2 drawsy
昨日抜管後も呼吸状態はintact。
呼びかけに対し反応はするも発語無し。
離握手や開閉眼等verbal commandは可能である事から
motor aphasia s/o
rt hemiparesis 4/5程度

CT上血腫腔は再出血も認められず。
shiftも改善しつつあり、edemaは終息しつつある。
実質内にhematomaは無く、contusionは軽度か。

両親に状況を説明
・意識は戻りつつあり、CTの結果も良いです。
・命の危険性は概ね去ったと言えるでしょう。
・現時点で明らかな神経学的所見で運動性失語・右半身の軽度麻痺があります。
これは今後リハビリで改善する可能性がありますが、どこまで回復するかは不明です。
また意識状態の改善に伴い、あらたな障害が認められる可能性もあります。

以上説明。

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集中治療室から一般病棟に移った雪菜。
知らせを受けた朋・武也・依緒の三人が緊張した面持ちで訪れた。

きょとんとした顔で出迎えた雪菜は、
それでも笑顔で彼等を歓迎した。
手術の為の剃毛が痛々しいが、表情は柔らかく顔色もいい。

「雪菜、ようやく眼が覚めたんだね」

コクリ

「傷は痛くない?大丈夫?」

コクリ

言葉が出ないとは聞いていたが…
現実を目の当たりにすると、それは余りにも厳しい。


すると朋が意を決したように問う。

「雪菜、私達が誰だか分かる?」

悲しそうな顔で雪菜は首を振った。

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医師:長田陽子による診療録

3月8日

vital stable
本日全抜糸。wound clear。
食思も良好。

昨日よりbed sideにてST開始。
本日よりリハビリ室でのPT・OTを開始とする。

両親より記憶障害についての言及あり。
友人が思い出せないとの指摘。
脳実質の障害程度によるが、恒久的な物である可能性も言及。

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ほぼ毎日、朋は面会に来ていた。
自分や武也・依緒は以前からの友人である事。
一緒に何をやってきたか。
一緒に何をやろうとしていたのか。
とり止めも無い話を交えながら、無言の雪菜に語り続けた。

雪菜は朋が来ると喜び、朋の話を嬉しそうにじっと聞き続けた。

意図的に話されなかったある事柄、
友人達は今は決して触れない事を約束していた。
彼女の家族とも相談の上の決め事だった。

今は思い出さない方がいいことだってある。
全員の共通見解だった。

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医師:長田陽子による診療録

4月18日

cons alert
rt hemiparesisi U/E 5-/5 L/E full
motor aphasia(+)

aphasiaは日常の挨拶程度は可能となっている。
長文や早い口調はまだ厳しい印象。
歩行は安定しており下肢の麻痺はほぼ目立たないが、
上肢の麻痺は軽度ながら残っており
日常生活に若干の支障を残す。
memory disturbanceについては、回復の目処が立たない。
家族の話では受傷前に強い心的外傷があったとの事。
Psycogenicな要素も否定は出来ないが、現状ではmotorと考えSTは継続すべき。


両親より申し出あり。
4月25日dischargeと決定。
以後外来通院にて投薬とリハビリを行う事とする。

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4月25日退院当日。

家族と友人が勢ぞろいとなった。
出迎えた雪菜は嬉しそうに微笑む。

「ありがとうございました」

ややたどたどしいが、しっかりした口調で雪菜は病棟スタッフに挨拶する。
その笑顔ですっかり人気者であったアイドルの退院に、
多くの入院患者やスタッフが別れを惜しんだ。

家に帰りささやかな宴。
その席で友人達は、雪菜にプレゼントを贈った。

その場にいた全員の強い思いであった。
家族・友人が全力で雪菜を護る。
少しでも雪菜の病状回復にプラスになるなら。
それが彼女に致死的なトラウマを思い出させたとしても
自分たちが護る。

少しでも早い回復を。
自分達の大好きな雪菜を。
その為ならどんな事でもすると。

朋が少し詰まったように喋る。
雪菜、貴方は私の憧れの歌姫だったの。
今は歌を奪われているけど、
必ず取り戻すって信じてる。

ううん、絶対に私達が取り戻させる。
だから、これを使って一緒にリハビリしていこう。

「ギター?」

そう。私達の仲間はあと二人いるの。
二人は色々な事情で遠くにいっちゃってるけど。
このギターは二人が残していった物。

雪菜が無邪気に微笑む。。

遠い空を見上げ
「ありがとう」と言った。
そして振り返り、
大切な仲間達に言う。

「ありがとう、これからも宜しくね」











二年後

今年も雪菜の誕生日が訪れた。
雪が降る季節。

集まったいつもの面々。
共に二年間を戦った、強い絆で結ばれた仲間達。

ビデオの前で雪菜が話し始める。









「元気ですか?

わたしは、今でも歌っています。」


あとがき

かずさTrueEndを私なりの解釈だけで書いてみました。
Jakob ◆VXgvBvozh2

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