街の至るところで赤と緑が目立つようになった肌寒い冬のある日。雑誌やテレビで取り上げられた人気スポットはとっくに混雑していて、コンビニではクリスマスケーキが販売されている。武也も今頃はどこかの誰かと定番のデートコースを闊歩しているだろう。

……それが本命であるかどうかは別問題として。

 かく言う俺もせっかくのイベントに便乗してはいるものの、相手の所望により街へ繰り出すことはしなかった。

 代わりに招待されたのは、相手の自宅。

 一般住宅の三倍はある敷地。アーティストらしい風変わりな外見。軽くバーベキューパーティを開催できる広い庭。その門扉に佇む冴えない一般男子学生――つまり俺は今、場違いで畑違いで身の程知らずな立場にいる。

 以前から知っていたとはいえ、一般家庭で育った身としては何度見ても恐れおののく。曰く、某スタジオミュージシャンの自宅兼スタジオを買い取ったとのことだが、それを成し得る財力とはいかほどのものだろう。想像を絶する。

 けれど、そんな大豪邸に現在住む住人は一人。つまり俺の相手であり恋人である冬馬かずさ。女一人で住む家に男を一人招くのだから、期待するなという方が土台無理な話だ。少なくとも法的には勝訴できる状況であることは特筆するべきだろう。

……いや、そんなことするつもりは毛頭ないけれど。

 そんなわけで、俺は邪な欲を抱きつつ、放送禁止のあらゆる妄想を頭に描きつつ、期待に胸を膨らませながら、家内からの応答を待ちわびている――わけではなかった。

 なぜなら……

「いらっしゃーい! あなたがギター君ね?」

「……北原です」

 迎えてくれたのは『冬馬さん』ではあったが、俺の知る冬馬ではなく、その母親の冬馬曜子さんだから。

……訂正。

 そんな大豪邸に現在住む住人は『本来なら』一人。

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