第35話



春希 4月7日 木曜日



夕方という時刻は、既に過ぎ去っている。
俺が浜田さんに呼ばれて編集長の元へ訪れたのは、夕陽が消えかけの頃だったと思う。
そして、俺と浜田さんが編集長の元から会議室へ移った頃には、すっかり日は暮れていた。
けれども、編集部内に満ち溢れている活気は衰える事もなく、
今が夜だという事を忘れさせてしまう。
俺としては、静まり返った会議室に浜田さんと二人で放り込まれるよりは、
壁から抜けてくる喧騒に満ちた編集部の騒音をBGMに出来たほうが有難かった。

浜田「やはり入社前研修制度そのものは一般的だったとしても、
   海外まで行った奴はいなかったな」

春希「自分でも予想してはいましたけど、案外制度だけあっても知られていなく、
   実は使われていない制度がたくさんあるような気がしますね」

浜田「自分に関係ない制度ならばなおさらだからな。
   人間、必要を感じなければ気がつかないものさ」

春希「しかし、そういった使っていない制度こそ裏技とか言われるんでしょうね。
   本来は他の制度と同じ通常の制度であるにもかかわらず」

浜田「お前らみたいな奴がいるから裏技だっていわれるんじゃないか?」

どこかあきらめムードを漂わせている浜田さんの口調には、批難の色はない。
むしろ誉めているんだろうけど、俺と麻理さんをどこか規格外の人間だと
思っている気がする。
そんなに強い人間ではないのに。・・・そう、俺も麻理さんも弱い人間だから
こうして人が見向きもしない制度を見つけ出してきては、自分を守ろうとする。
自己分析をするにつれ、自嘲気味に自分を責め立てる影が俺を覆い尽くそうとしだす。
だから俺は、とっさに自己分析を終了させて、心の闇を心の奥深くにしまい込む。
見せられない。見せてはいけない。
俺と麻理さんの秘密を、今、編集部のみんなに知られるわけにはいかなかった。

春希「別に自分はそう思われてもいいんですけど、
   ただ、制度を捻じ曲げているわけでもないので
   ちょっと心外だと思ってしまうところもありますね」

浜田「お前は正論すぎる所があるから、NYへ行ったら、敵を作らないように気をつけろよ」

春希「え?」

俺は、浜田さんの突然の結論に困惑を示してしまう。
だって、編集長は浜田さんに任すとはいっても、
こんなにも早く結論が出るとは思っていなかった。
最終的にはNY行きを許してくれるとは思っていた。
それでも、NYへ行く理由や今後の進路について詳しく話さないといけないと考えていた。
だから俺は、浜田さんに話せる範囲を、矛盾なく的確に話せるように何度も計算していたのだ。

浜田「そんなに驚いた顔するなよ。
   編集長も、あとは俺に任せるって言って書類をくれただろう。
   それに、北原の事だから、俺よりも海外研修の規則を知っていると思ったんだがな」

春希「え?」

浜田「だからな、海外研修を希望する者は、直属の上司及び
   その部をまとめる責任者の許可があれば、その希望を許可するってあるだろ」

春希「あつ」

浜田「やっと気がついたのか。責任者は、編集長だから、すでに許可は下りているんだよ。
   いくら直属の上司の許可が必要だっていっも、上司が推薦もできない部下を
   編集長に推薦するわけないだろ。
   つまり、お前は編集長が書類をくれた時点でNY行きが決まっていたんだよ。
   それとも、あれか?
   俺がもうちょっとごねたほうがよかったか?
   あぁ、引き止めてほしかったとかか?」

浜田さんは一見おどけているような口調をしていても、その顔の固さをぬぐい切れていない。
きっと俺を気持ちよく送り出しらいのだろう。
その気配りが、よくわかってしまう。だって、俺は短い時間であっても、
この人の部下であったし、それに編集部に来てから、ずっとお世話になっている先輩でも
あるのだから。

春希「そ、そんなことはないです。
   ただ、もう少し理由とか聞かれるのかなと」

浜田「話せるのか?」

理由を聞いて欲しいのかとは、浜田さんを言わない。
一般的なシチュエーションならば、ここは上司が理由を聞いて欲しいのかと
普通ならばいうはずだ。
それなのに浜田さんは、「話せるのか?」と言った。
つまり、浜田さんは、浜田さんなりに俺の事情をくんでくれているってことなのだろう。

春希「今は話せません」

浜田「そうか」

春希「すみません」

浜田「いや、いい」

春希「ありがとうございます」

浜田「まあ、な。俺もお前の上司やってたから、お前が理由なしでNY行きなんて
   決めるとは思ってないよ。
   むしろ、こんなにも急に言いだしたんだから、よっぽどの事情だって推測できる。
   だから、今は聞かない。いつか北原が話せるようになったときに
   話してくれればいいよ。
   ・・・うん。別に話せなくてもいいけど、俺を頼ってくれよな。
   お前がNYへ行っても、東京の、この編集部が、お前のホームグランドなんだから、
   いつでも帰ってこられる場所だってことを覚えておいてくれればいい」

春希「ありがとうございます」

俺は、もう一度感謝の気持ちを伝え、深々と頭を下げる。
そして、再び顔をあげたその向こうには、顔を少し紅潮させた浜田さんがいた。

浜田「松岡の奴も、北原くらい行動してくれればいいんだけどな」

春希「最近は、以前より良くなったって言ってたじゃないですか」

浜田「それは、比較論にすぎない。目指すべき目標は、高い方がいいからな」

春希「そうですね。浜田さんも、俺が日本に戻ってくるまでには編集長くらいには
   なっていて下さいよ」

浜田「おいおい。いくら高い目標を持つと言っても、北原が日本に戻ってくるまでに
   編集長になるなんて無理だよ。
   それとも、北原は、ずっとNYにいるつもりなのか?」

自分が招いた失言に、表情を崩しそうになる。
俺としては、重い雰囲気を払しょくしたいだけだったのに、いつもの俺なら仕出かさない
失態に悪態をつきそうになってしまう。
けれど、悪態は再び喉の奥に押し込めて、
冷静を装って明るくなってきた雰囲気を維持しようとした。

春希「だって、俺が日本に戻ってくる時、編集部に席を確保しておいてもらわないと
   いけないじゃないですか。
   だったら浜田さんには、編集長くらいには出世して頂いてもらわないと困ります」

浜田「それは手厳しいな」

春希「まあ、冗談はともかく、せっかくNYへ行くのですから、
   向こうでの仕事をしっかりと覚えてから日本に戻ってくるのもいいかなって
   思っていたりしています。
   そう何度もNYへ行く機会などありそうもないですから」

浜田「たしかにな。俺もそうだが、松岡なんて、ずっと日本にいそうだな」

春希「たしかに。でも、松岡さんばかりを引き合いに出していると、
   松岡さんも拗ねてしまいますよ」

浜田「わかっているよ。でも、あいつもそんなことを言われないように頑張っているところ
   もあるから、ついな」

春希「期待しているんですね」

浜田「期待しているっていうか、可愛いんだろうな。
   ほら、馬鹿なやつほど可愛いっていうだろ?」

春希「そういうことにしておきますよ」

和やかな雰囲気がうまく流れていく。俺は、ほっと一息つきそうになった。
しかし、目の前にいる浜田さんは、一度俺から視線を外し、
再び俺の方に視線を戻した時には少し厳しい目つきで俺に尋ねてきた。

浜田「最後に一ついいか? 答えられないのなら、こたえなくてもいいから」

春希「わかりました。どうぞ」

浜田「俺の下じゃなくて、風岡の下がよかったのか?」

どういう意味で言ったのだろうか?
浜田さんの問いだけでは、その後ろにある意味が読みとれない。
俺のその疑問が伝わったのか、浜田さんは補足説明をしてきた。

浜田「俺は、風岡ほどお前を使いこなせていなかったと思う。
   それは仕方がないで片付けられないとはわかっているけど、
   俺も自分の身の丈はわかっているつもりだ。
   ないものはない。でも、ない事を嘆いているばかりじゃなくて
   俺が出来る精一杯の事はしてきたつもりだ。
   だから、・・・その、北原は、俺の下じゃ、物足りなかったのかなと、な」

春希「そんなことはないです。
   毎日が充実していて、与えられた仕事をこなすのに苦労していたほどですから。
   だから、仕事に関して、なにも不満もありませんし、それに
   上司としても、人としても、尊敬していました」

浜田「そっか、わかった」

浜田さんが本当に聞きたかった質問は、これだったのだろうかと、ふと気になってしまう。
一応最初に、俺がNYへいく理由は聞かないと言った手前、このような質問に
なってしまったとさえ思えてしまう。
・・・浜田さんが一番聞きたかった事。
そして、聞けなかった事。
それは、麻理さんが関係しているのか。その事なのではないかと、思えてしまう。
けれど、この問いを投げかけられなくてよかった。
だって、何度シミュレーションしても満足する回答が出なかったのだから。
嘘をつく事はできない。
ならば、回答拒否? それは、すでに麻理さんと関係ありますと明言しているだけだ。
だったら、話せる範囲で話すべきだったか?
それならば、どこまで話す?
NYへ、麻理さんを追って行く理由を、どこまで話せるというんだ。
一応、麻理さんのもとで、海外での仕事を覚えたいという理由も考えはした。
これは嘘ではないし、理想的な海外修業と言えるだろう。
しかし、平静を装って告げることができただろうか。
どうしても、最後の作り上げた理由を告白する場面でエラーが出てしまう。
嘘ではないのに。むしろ理想的な理由であるからこそ、悲しくなってしまう。
こんなにも幸せな理由を、俺は胸を張って言えるわけがない。
NYで、一人孤独と向き合っている麻理さんに、虚偽の笑顔を強要したくはなかった。

浜田「さて、もうそろそろ戻るとするか。
   鈴木あたりが、今か今かと待ち受けているから、お前の方から説明しろよ」

春希「はい、わかりました」

鈴木さんだけでなく、松岡さんや木崎さんにも伝えなくてはならない。
きっと鈴木さんの松岡さんは、俺と浜田さんのただならぬ雰囲気を察して
色々を推測しているに違いなかった。
これが単なる好奇心からであるのならば、適当にあしらう事も出来る。
しかし、きっと先輩たちはそれだけの為に俺の事を気にしているわけではないだろう。
ただ、NY行きを伝えたら、麻理さんをからめた追及をきっとしてくるだろうけど・・・。







鈴木「へぇ、NYかぁ。で、麻理さんとこに転がり込むの?」

みんなに差し入れとばかりに持ちこんだ編集部備え付けのコーヒーを
俺は盛大に噴き出しそうになる。
どうにか目の前にいる鈴木さんにコーヒーを口からぶちまける醜態は回避できたが、
コーヒーが入ってはいけないところに入りそうになり、むせかえしてしまう。

春希「どこを、どう考えれば、麻理さんの所で居候させてもらうって考えつくんですか?」

いきなり正解を引き当てた鈴木さんに対して、俺はいつもの調子で反論してみせる。
きっと噂好きの、勝手な想像なのだろうけど、核心を見事に突いてしまうあたりは、
油断できない。

鈴木「だって、麻理さんと付き合ってたんでしょ?」

春希「は?」

鈴木さんの切り返しに、今回ばかりは俺も対処ができなかった。
唯一助かった事といえば、コーヒーを口に含んでいなかったことくらいだろう。
もしコーヒーを飲んでいたら、コーヒーを吹きだしていたと断言できる。
それくらい俺にとっては衝撃的な追及だった。
木崎さんは、珍しくもないが、タイミング良く編集部に残っており、もちろん松岡さんも
いつものごとく俺に詰め寄っていた。
しかし、二人とも鈴木さんの発言に驚いてはいない。
驚いているのは、俺一人だけだった。
一応側に入るけど、自分のデスクに陣取っている浜田さんの様子も伺ったが、
これもまた驚いてはいなかった。
先ほどから浜田さんは、俺達の様子を見ているので、俺達の会話を聞こえていないわけはない。
聞こえていてもなお驚いていないという事は、浜田さんにとっても当然の事って
いうことなのだろう。

春希「ちょっと待ってください。いつ、俺が麻理さんと付き合ってる事になったんですか?」

鈴木「いつって、今年になってからじゃないかな?」

松岡「だよな」

さも当然という口調で、迷いがない発言であった。

木崎「北原は、ばれてないと思っていたのか?」

木崎さんまでも当然という顔を見せているので、確たる根拠があっての推論なのだろう。
でも、俺は編集部内で麻理さんと付き合ってるような態度をしたことはないと断言できる。
そもそも実際には付き合ってはいないのだから、断言できるというのは
少しおかしいのかもしれないが、俺と麻理さんのやり取りは、
今年になっても今までと変わらなかったはずだと思えた。
それに、俺は、そして特に麻理さんは、仕事にプライベートを持ちこむことはない。
・・・いや、プライベートを持ちこんだ結果が、NY行きか。
自嘲気味に、自分のふがいなさを猛省しそうになったが、
目の前に展開する好奇の目を感じ取り、
ぎりぎり意識を現実世界につなぎ止めておくことに成功した。

春希「どういうことでしょうか?」

鈴木「え? 本当に私たちが気がついてないと思ってたの?」

春希「だから、どういう意味です?」

松岡「察してやれよ。麻理さんに口止めされているんじゃないか?」

鈴木「なるほどね」

鈴木さんは、何か含みがある笑いをにじみ出すと、勝手に納得して、勝手に結論付けた。

春希「だから、どういう意味なんですか?」

松岡「本当にわかってないのか?」

さも意外そうな顔を見せるので、俺としては不安になってしまう。
この編集部で、俺と麻理さんの関係が、どう評価されているのか不安になる。
鈴木さん達の反応を見る限りは、NYでの真相にはたどり着いてはいないはずだが。
・・・俺だって、NYにいる麻理さんが、あんな状態になっているなんて
想像する事もできなかった。
現実は、想像を超えるとはよく言ったものだが、あまりにもひどいではないか。
俺に責任があるってわかっている。
ならば、俺にすべての責任を押し付けてくれればよかったんだ。
それなのに、麻理さんに責任が襲い掛かってしまった。
その方が、俺がショックを受けるって、最初からわかっていたかのように・・・。

木崎「その辺にしてやれよ。本人達は、いたって本気だと思うぞ。
   お前らだって、経験あるだろ?」

松岡「そうかもしれませんが、でも、あまりにもうぶで、見ている方が恥ずかしかったですよ」

木崎「まあ、な。あれは、ちょっと見ている方が照れたな」

鈴木「本当よ。中学生の恋愛かって、突っ込み入れたくなっちゃったもん。
   でも、麻理さんと北原君だし。まじめ過ぎる二人の事だから、
   まじめに隠そうとしてたんだと思うよ」

今度はなぜか鈴木さんに肩を優しく叩かれて、勝手に慰められてしまう。
本当に訳がわからなかった。
たしかに、麻理さんとのことは、隠さなければならない。
麻理さんの病状は、誰であっても気がつかれてはならなかった。
今、編集部は勘違いしてくれている。
俺が戸惑っている理由さえも、鈴木さん達の理想によって創造された理由に
すり変わってくれていた。
ならば、俺は、この状況を利用すべきではないだろうか。
けっして誉められる方法ではない。
むしろ、麻理さんの病状が回復して、笑って話せるようになった時、
俺がこれからしようとしている、つまり、鈴木さん達を騙そうとしている行為そのものに
反感を持たれてしまうかもしれない。
俺が有する選択肢は少ない。
既に浜田さんには、今は伝えることができない理由があることを打ち明けてしまった。
もちろん、麻理さんと付き合っているからという理由だけで、俺がNYに行くとは
考えてはいないだろうけど、
麻理さんが理由の一つとなっているとは考えているはずだ。

松岡「北原は、顔に出さなかったけど、麻理さんは、顔に出まくっていたからな。
   さすがに仕事中はいつも以上に鬼だったけど、北原が絡んでくると
   顔が違ったからな」

鈴木「だよね。いつだったか、北原君から電話がかかってきたときなんて
   編集部中が麻理さんが必死に隠そうとするのを生温かく見守ってたもんね」

松岡「あれは大変だったな。本人は隠せているって思ってたみたいだけど、
   編集部まで声が聞こえてきたし、声の質っていうの?
   最初は麻理さんじゃない別の人が、麻理さんの声を使ってるって思ったほどだしさ」

鈴木「うんうん。電話の後の顔なんて、仕事中の麻理さんからは想像できないほど
   デレまくってたからね」

松岡「あれは編集部でも話題になったな。仕事の鬼にも春が来たんだって
   みんな喜んでいたな。
   ま、少しは仕事の要求が楽になるんじゃないかって期待してただけなんだけど、
   まったく仕事量は変わらなくて、がっかりしたのを覚えているよ」

鈴木「当たり前じゃない。あの麻理さんなのよ。逆に仕事が増えてたんじゃないかな?」

松岡「たしかに。・・・俺達の方に仕事を振られなかった事は幸いだったけど」

・・・考えがまとまらない。
俺は、この人たちに、どういった態度をとればいいのだろうか。
俺は、曖昧な態度のまま、鈴木さん達の会話の聞き役に徹していく。
自分からは発言しない。求められれば、曖昧にうなずいて、確定事項は伝えない。
卑怯だってわかっている。
冷静な俺だったら、うまくこの場を切り抜けられたのかもしれなかった。
しかし、冷静ではいられない。
俺の事だけなら、なんとでも対処のしようがあったのに。
その為の模範解答は無数に用意してもいた。
それもこれも、全ては麻理さんが話題の中心まで持ちあげれらてしまったせいで
俺の計画は崩壊した。
麻理さんが表舞台まで出てしまっては、俺は不誠実な対応が出来なくなってしまう。
麻理さんをこれ以上傷つけるわけにはいかない。
麻理さんをこれ以上傷つけさせるわけにはいかない。
汚名は全て俺が引き受けるって決めていた。
だったら、俺は、鈴木さん達に嘘だってつけるはずなのに、それができないでいた。

鈴木「まあ、いいんじゃない。麻理さん、とっても幸せそうだったし」

松岡「だよな。仕事だけじゃなくって、プライベートでも幸せになってほしいって
   本気で思ったし」

木崎「たしかに、編集部のみんなも、似たような意見だったな」

俺を置いてけぼりにして話は進んで行く。
曖昧な笑顔を浮かべたまま、話を聞いているふりを演じていた。
いや、反応できないだけで、一応聞いてはいるが正しいかもしれない。
それでも、俺は、これらの発言に対しては、過剰なまでも反応してしまう。
鉄の棒で激しく叩かれる精神状態とは、こういうことだって実感してしまう。
麻理さんが幸せそうだった。
これは嘘ではないと、断言できる。
事実、麻理さんの口から伝えられた事でもあるのだから、否定できない。
そう、・・・俺が麻理さんとの事を、嘘で固めた曖昧な事実をでっちあげて
鈴木さん達に伝えられない理由は、気がついてみれば、シンプルな理由であった。
その理由とは、麻理さんが、光栄にも俺に向けてくれている好意を
たとえ話をそらす目的であっても、否定することなど出来なかったのだ。
麻理さんが注いでくれる愛情を、ほんのわずかでも汚す行為など
俺には到底無理な話であった。
それさえ気がついてしまえば、肩の荷が下りたも同然だった。
俺は、鈴木さん達の執拗なまでの追及に、のらりくらりとかわしていく。
麻理さんからの愛情を否定することなく、嘘を塗り固めていく。
その行為は、倒錯した愛情だってわかっている。
麻理さんの純粋な愛情とは、かけ離れているって、誰よりも理解していた。
俺は、いつもの北原春希を演じながら、そんな醜い自分を分析していた。





第35話 終劇
第36話に続く








第35話 あとがき


風邪をひいたのですが、風邪は早めに体を休めることが重要ですね。
なにせ風邪のひき始めの時、ちょっと体調悪いなと思ったときに労わればよかったのですが
風邪だと認めたら負けだと思い、いつもの運動トレーニングを断行してしまいました。
そりゃあ風邪引いているのに汗だくになるまで走っていたら
風邪は悪化するに決まっています。
風邪は認めたら負けではなく、異変を感じたら速攻体を休めることが重要だと気がつきましたw



来週も、火曜日、いつもの時間帯にアップできると思いますので
また読んでくださると、大変うれしいです



黒猫 with かずさ派

このページへのコメント

更新お疲れ様です。
麻里さんと春希の事に気づいていても露骨に干渉したりしない開桜社の人達は文字通りの大人な人達で春希にとってはとても居心地の良い場所ではないかと思います。物語はいよいよ本格的に動きだしそうですね。次回も楽しみにしています。

0
Posted by tune 2015年02月24日(火) 21:58:40 返信

素晴らしい内容のSSありがとうございます。私は最近ホワイトアルバムを始めてハマったのですが、SSを全て読みました。黒猫様の文面に感動しました。今後も継続されることを楽しみにしています。追伸 風邪にはお気をつけください

0
Posted by バーグ三世 2015年02月24日(火) 08:24:44 返信

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