第42話


ちょっと遅い朝食をとってから買い物に出かけており、昼食はとってはいない。
そもそも出先で外食などできないのだからして、麻理さんが俺の空腹を気遣って
戻ってきたとも考えられる。
時間的には昼食の時間でもいいころあいだ。さてどうしたものか・・・。
とりあえず荷物を置きにマンションまで戻ってきた俺達は、俺が中心となって
買ってきたばかりの品をキッチンで使いやすいようにしまっている。
一応麻理さんにキッチン道具の配置の指示をもらおうとはした。
けれど、キッチンをほぼ使っていない麻理さんにはわかるわけもなく、
結局俺が使いやすいように配置する事になる。
そのおかげで仕事を貰えた事は都合がよかった。
昼食の事をいくら考えても答えなど出てきそうにもないが、
手くらいだけは動かしていた方がちょっとはましな考えも出てくるものだ。
何もしないで考えているときほど、どつぼにはまってしまう。
こうやって麻理さんを気遣う事こそ悪循環なんだろうが。

麻理「戻って来たばかりなんだし、少しは休んだ方がいいんじゃない?」

麻理さんは椅子に座ったままテーブルに寝そべりながら俺に提案してくる。

春希「麻理さんは休んでいてくださいよ。
   麻理さんが俺に片付け任せてくれたんですから、いいじゃないですか」

俺は麻理さんを横目に見ながらも、手だけは止めずに反論する。
テーブルでぐてぇ〜としている様が、なんだか千晶と重ねてしまう。
そう思うと、じわじわと笑みがこみあげてきてしまうもので、
当然麻理さんにも俺の笑っているのに気がついてしまう。

麻理「人を年寄り扱いしてぇ。北原が私を邪魔者扱いしたからじゃない。
   キッチンは北原しか使わないし、私が使うとしても電子レンジくらいだしぃ、
   だから片付けは北原に任せたんじゃない。
   それなのに笑うなんてひどいわよ」

だったらせめてテーブルにひっつけたままの頬を
テーブルから離してくださいよとは言えなかった。
言ったら言ったらで楽しい会話が続くんだろうが、可愛い反感を貰うのも躊躇われた。

春希「年寄り扱いなんて今まで一度もしたことがないじゃないですか。
   それに邪魔者扱いもしていませんよ。
   普段料理をしない麻理さんよりは、少しは料理をする俺が道具の配置をしたほうが
   合理的だって言ったのは麻理さんですよ?」

麻理「そうだけど・・・」

春希「キッチンも二人が動き回れるほど広いわけでもないですし、
   俺一人がやるほうが合理的ですよ」

麻理「それもわかるんだけど」

なおも納得していない麻理さんを見て、どうしたものかなと頭を悩ませる。
麻理さんにとって理屈ではないのだろう。

春希「もうすぐ終わりますから待ってて下さいよ」

麻理「ほんと北原は手際がいいわね。仕事もそうだったけど、料理の方も
   そうとう早く腕をあげるんじゃないかしら」

春希「そんなことないですよ。色々思考錯誤してやっていますよ」

麻理「ふぅ〜ん」

春希「さてと、終わりましたよ。
   そういえば取りに行く物があるって言ってましたけど、どうしますか?」

どうも話の流れが悪いと判断した俺は、次の予定を聞く事にする。
強引な話の切り替えだが、麻理さんの方も異論はないようであった、

麻理「ええ、誕生日ケーキを取りに行こうと思って」

春希「麻理さんのですか?」

俺の返事を聞くと、麻理さんはがばっと顔をあげ、信じられないといった顔を俺に見せる。
いや、わからないのは俺の方なんですけどね。
まあ、麻理さんの誕生日は正月なわけで、
俺の答えはそうとうあさっての方向を見ているのは認めますよ。
でも、麻理さん以外の誰の誕生日を祝うっていうんです?

麻理「ねえ、北原・・・」

春希「はい?」

顔を斜めにそらしながら目を細める麻理さんの横顔は冷え切っていた。
どこか荒涼とした雰囲気に、俺が不正解を言ってしまった事にようやく気がつく。

麻理「わざとかしら?」

春希「わざと、とは?」

麻理「その言葉通りの意味よ。北原がわざと言ってるのかしらってことよ」

春希「わざとなんて言ってませんって。
   この場には俺と麻理さんしかいないんですから、誕生日を祝うんでしたら
   麻理さんのかなって思っただけです」

俺の説明を聞くと、冷え切っていた表情が呆れへと変化していく。
肩をわざとらしく落とすと、そのままテーブルにとうつぶせる。
少々オーバーな演技であるが、可愛らしくおあり、
こっそり心の中で微笑んでしまったことは麻理さんには内緒だ。

麻理「どうして北原は自分の誕生日だと思わないのかしら?」

春希「俺のですか?」

麻理「そうよ。4月といえば北原の誕生日じゃない。
   私の誕生日は一月よ」

春希「麻理さんの誕生日を忘れるわけないじゃないですか」

麻理「そ、そう」

俺の反論に麻理さんの頬がうっすらと赤く染まる。
照れて顔を両腕の中に隠さないところは意地なのだろうか。
そのかわり、力が入った瞳で俺を睨みつけてるという反撃を受けてしまった。

春希「でも、今日は俺の誕生日ではないですよ」

麻理「わかっているわよ。でも、北原の生まれた日にお祝いできないじゃない。
   私はNYにいるわけだし」

春希「たしかに・・・」

麻理「ねっ」

今度は俺の方が照れてしまいそうだ。
麻理さんに愛されいるって実感できる。
それに、誕生日を祝ってもらうことなんて、いつ以来だろうか?
大学高校、遡って中学であっても、クラスの連中がプレゼントをくれた事はある。
だけど、ケーキを用意しての誕生日会となると、
親が離婚する前の消えかけている記憶でしか思い浮かばなかった。

春希「俺の為に用意してくれたんですか?」

麻理「北原以外にいるわけないわよ」

春希「そうかもしれないですけど・・・」

目がしらが熱くなる。
いくら愛されても、その愛にこたえる事が出来ないのに、
どうしてそこまで愛を注いでくでるんですか。
こんな卑怯すぎる俺に与えるべき愛情ではないですって、叫びたかった。

麻理「いいのよ。私の自己満足だと思って受け取ってくれないかしら」

俺の心情を読みとってしまった麻理さんは、寒そうに両腕で自分を抱く。
いくら麻理さんを悲しませないって心に誓っても、こうして隙間をついて悲しませてしまう。
穴だらけの俺の防波堤は、その役割を最初から果たしてはいなかった。

春希「・・・麻理、さん」

麻理「でも、料理は北原自身に作ってもらうんだけどね」

暗くなってしまった部屋を麻理さんが痛々しく明るくしようとする。
健気で、意地っ張りで、人情ぶかくて、愛くるしい。
ワーカーホリックをこじらせた仕事人間であるところも、麻理さんらしさを醸し出している。
ただ、北原春希というダメ人間を愛していなければ、
きっと幸せになっていた人なのに。
何度ともなく繰り返されてきた後悔を振り払い、
俺は麻理さんが作ってくれた明りを大切に手元に寄せる。
たとえ不格好な笑顔であっても、人は形から入るものだと変な言い訳までつけて。

春希「俺が今ある腕を全てふるって料理を作りますよ。
   でも、自分の誕生日パーティーだというのに自分で作るって変な気分ですね」

麻理「それって、私が料理が出来ない事を揶揄っているのかしら?」

麻理さんは目じりに涙を浮かべながらも、必死に俺をたきつけてくる。
そうしないと、ちょっとでも気を抜いてしまうと、俺達は沈んでいってしまう事を
二人とも理解していた。

春希「違いますよ。 
   そんなつもりで言っていないことくらい麻理さんもわかっていますよね?」

麻理「だったらどういうつもりで言ったのよ?」

春希「とくに意味はないですけど・・・」

麻理「そう?」

麻理さんは目元を軽く指先でぬぐうと、わざとらしく拗ねた表情を作り出した。

春希「でも、麻理さんと一緒に料理すればいいですかね。
   そうすれば、一応は麻理さんの手料理となるわけですから」

麻理「なんだか余計な事を言われている気もするんだけど、ここはよしとしときましょうか」

春希「それは光栄です」

俺もわざとらしく、うやうやしく一礼する。

麻理「でも、私に料理なんてできるかしら?」

春希「大丈夫ですよ。俺でも作れるものしか作らないんですから、料理といっても
   初心者向けのレシピしか使いませんよ。
   だから、料理をまったくしない麻理さんでも俺の手伝いくらいはできるはずです」

麻理「またしても余計な一言がきこえてきたんだけど、気のせいかしらね」

春希「気のせいですって」

口をとがらせて不平を訴えかけてくるものだから、俺の苦笑いして丁寧に反論するしかない。
まあ、口をとがらせた麻理さんも可愛らしくて、もっと見たいと思ってしまった事も
秘密にしておいた方がよさそうだった。






麻理 佐和子との電話(回想)



麻理「どうしたらいいのぉ〜・・・」

佐和子「どうもこうもないじゃない」

私の盛大な心の叫びを聞いてもなお、
親友でもあるはずの佐和子はそっけない返事を返してきた。
こうも冷たい反応ばかりされると、さすがに親友じゃないのかもって疑いたくもなる。
でも、この電話で何度も繰り返された同じ質問に、根気よく何度も答えとほおってよこして
くれる佐和子の根気強さを思い返せば、親友じゃなければできないと、
電話の後冷静になったときに導きだした
一応感謝と謝罪のメールをすかさず送った事はいうまでもない。
主に謝罪9割のメールではあったけど・・・・・・。

佐和子「だって、わざわざ北原君の為に誕生日プレゼント買ったんでしょ?
    だったら渡さなければもったいないじゃない」

麻理「お金の問題じゃないでしょ」

わざとらしくおどける佐和子に、ありがたく私ものっかる。

佐和子「だったら、なおのこと渡さないといけないと思うわよ」

麻理「だけどぉ・・・」

またもや会話の無限ループ陥りそうになり、電話の向こう側から盛大なため息が聞こえてくる。
私だってため息をつきたいほどなのに、一応私の事だから我慢しているのに、
それってちょっとあんまりじゃない?

麻理「ちょっと、佐和子ぉ?」

佐和子「はいはい、聞いてますって。
    北原君が麻理の誕生日にくれたボールペンの色違いをプレゼントするんでしょ」

麻理「ええ、まあ、そうね」

佐和子「大丈夫だって」

麻理「北原のことだから、喜んで受け取ってくれるとは思うのよ」

佐和子「そうね。笑顔で受け取ってくれるわ。
    でも、おそろいのボールペンを送るなんて、あんた重い女になったわねぇ」

これで笑い声までおまけが付いていたら立ち直れないところだった。
佐和子の声色が場を盛り上げようとしているのがわかっていて、なおかつ事実を
私に突き付ける為のものだとも理解は出来てはいた。
でも、もうちょっとオブラードに包むって事を覚えてくれないかしら。
長年の親友は大切だけど、こういった遠慮がなくなり過ぎているところは考え直すべきね。
・・・訂正。遠慮なんてする間柄なんて、ごめんかな。
佐和子には抉るような意見だって言ってほしいもの。

麻理「ええ、そうよ。重い女よ。彼女がいる相手におそろいのペンを送ろうとしている
   残念すぎる女なのよ」

佐和子「事実だからフォローのしようもないけど、Watermanのカレンだっけ?
    いいペンだし、せっかくニューヨークまで来てくれるんだから、
    そのお礼も兼ねて送ると思えばいいんじゃない?」

北原から誕生日に貰ったボールペンは、Watermanのカレン。
赤色のペンで、ちょっとだけ重い。
なんとなく人の存在の重みというか、
北原から貰ったとという実感が重みとして手に伝わって来て、私は大変気にいっていた。
そのペンの色違いをニューヨークで見かけて、つい買ってしまった。
とくに意識して探していたわけではない。
私のペンのインクの替えを買いに文房具店に行き、店員に注文して待っているときに
その青いボールペンが目に止まってしまっただけだった。
ショーケースの中にあるそのボールペンは、赤と青。そして黒の三色がならんでいた。
青を選んだ理由は、なんとなくだった。
別に男性に送るものだから黒を選んでもよかったのだけど、
なんとなく北原には青かなって思ってしまった。

麻理「たしかに大学やバイトだってあるわけだし、
   それに旅費だって北原にとっては少なくない出費なのよね。
   それを考えると、誕生日プレゼントとしてペンを送るだけというのも
   感謝のしるしとしては弱いのかもしれないわね」

佐和子「だったら下着くらいは可愛いのを用意しておきなさいよ」

麻理「はぁ?」

私は盛大な声を電話に撒き散らしてしまう。
いや、わかるわよ。佐和子が言っている意味くらいは、私にだって理解できる。
理解はできるけど、それこそ重すぎる女になってしまうじゃない。

佐和子「なにをとぼけた返事をしてるのよ。勝負下着くらいもっているんでしょ?」

麻理「なにを言っているのかしら、佐和子さん?」

佐和子「あぁ、干からびてワーカーホリックになってしまった麻理には必要ないか。
    そうよねぇ・・・。使わないんだったら買っても意味がないわけだし、
    これこそ本当にお金の無駄使いよね」

麻理「それくらい持ってるわよ!」

どこか鼻につくいい方に、私はついかっとなって言いかえしてしまった。
後になって思い返すと、佐和子の術中にはまっただけとも言えるのだけれど、
言ってしまった事は取り消すことなどできやしなかった。

佐和子「どうせ数年前にかったやつでしょ?」

麻理「失礼ね。グアムで買ったやつよ」

佐和子「それって、この前私と一緒にグアム旅行に行ったときに買ったやつ?」

麻理「えぇ、そうよ」

会話が進むほどに私のテンションは下がっていく。
つまりは冷静になってきたというわけだけど、
どうして誕生日プレゼントの話だったのが下着の話になったのだろうと疑問に思う。
これも自分が佐和子の挑発にのったのが悪いんだろうけど、
数秒前の私に恨み事を言いたい気分になってしまった。

佐和子「あぁ、あれね」

麻理「ね。最近買ったのもあるでしょ」

佐和子「あのエロエロできわどすぎるのかぁ・・・。たしか黒だったわよね?」

麻理「えぇそうよ・・・」

今さら後には引けないってわけではないのに、どうして話を続けているのかしら?
そして、段々とこんなにも不毛な話を続けている私自身が情けなくもなってきていた。
それでもある意味ふっきれたというか、別の角度からみるとぶっ飛んでいるともいうけど、
なんだかテンションが下がるほどに楽しくなってもきてもいた。

佐和子「でも、あんな下着買っても一度も着ていないんでしょ?」

麻理「失礼ねっ。着てるわよ」

佐和子「え? もしかして北原君と・・・」

さすがに私の危ない発言を聞いては、佐和子も低い声で探りをいれてくる。
急に場の雰囲気が変わってしまい私は少し戸惑いもしたが、自分の発言の意味を理解すると、
猛烈なスピードで補足事項を告げていった。

麻理「違うわよ。そういうことは一切ないわよ。
   着ているといっても、大事な会議の時に気合を入れる為に着ただけなのよ。
   だから、佐和子が思っているようなシチュエーションにはなってないからね」

一息に全て告げると、息が切れて頭がくらくらしてくる。
酸欠もあるけど、自分の馬鹿な発言が追い打ちをかけるように頭痛を誘発する。

佐和子「それは・・・、別の意味で痛いわね」

麻理「どういう意味よ。女は見えない部分にも気を使うものよ」

佐和子「女性としてよりも仕事最優先のあんたには言われたくないセリフだけど、
    でも、まあ、これはこれでありかもね」

麻理「どういう意味よ?」

佐和子の怪しすぎる声色に、私は身構えてしまう。
電話だから見えないけど、きっと佐和子の事だから、意地悪すぎる顔をしているんだろう。

佐和子「だってさ。大事な会議の時に麻理ったら、あのエロエロな下着を着てたんでしょ?
    これってある意味すごいシチュエーションかなって思えて」

麻理「そう言われてみると・・・。でも、大事な会議とかの場合、下着とかじゃないけど
   なんかゲン担ぎみたいなことすることもあるでしょ?」

佐和子「それはあるけど、あの麻理が、あの下着で会議でしょ?
    もし会議に出ていた人たちが麻理の下着の事を知ったらと思うと、ねぇ?」

一瞬佐和子の想像を私も思い浮かべようとしたが、頭の中で映像となる前に消去した。

麻理「誰にも言わないし、知られる事もないわよ」

佐和子「そお? けっこう似合ってると思ったんだけどなぁ。
    きっと北原君も見たら、驚くと思うわよ」

麻理「それは・・・、北原が見たら驚くに決まっているじゃない!
   別の意味で。
   それに北原とは清い関係だし、
   それに北原には冬馬さんがいるのよ。
   どうして私の下着姿を北原に見せることになるのよ。
   北原は冬馬さんの事を裏切れないし、
   私だって冬馬さんの事を傷つけることなんてできないわ。
   ・・・ただ、北原が私の為にニューヨークにまで来てくれる事自体が
   冬馬さんを傷つけているってわかってはいるのよ。
   そもそも私はまだ処じ・・・、ん〜〜〜・・・・今のは、なし」

私は親友の佐和子にも知られていない秘密をばらしてしまったかもしれなく、
いや、絶対ばれているはずだ・・・、沈黙しか選択肢が残っていなかった。
一言でも言葉をだせば悲鳴が飛び出てくる気がするし、
言葉が出たとしても、きっと裏返った声になってしまうだろう。
いまや上気しきった顔は真っ赤に染まり、電話を持つ赤い手は小刻みに震えていた。

佐和子「えっとぉ・・・、まあ、なに?
    自分の身を大切にするってことはいいことだと思うわよ。
    いっそのこと、結婚するまでバージ・・・」

麻理「佐和子っ!」

佐和子の言葉を途中で遮ぎる。
遮ったところで私の事実は変わらないというのに、どうしたものか。
別に恥ずかしい事だとは思わない。
どうでもいい相手に体を触れられたくはないし、体を許したくもない。
だったら佐和子のいう通り、結婚するまでそのままであってもいいとも思う。
でも・・・、声に出して誇るべき内容ではないということだけは確信できた。
だって、いくら佐和子であっても恥ずかしすぎるじゃないっ!

佐和子「ごめん。でも・・・」

麻理「もう言わないで。この話はここまでっ」

佐和子「麻理がそう言うんだったら・・・・」

沈黙が私たちを支配する。
私が作り出してしまった気まずい雰囲気は、簡単には打破できそうにはなかった。
それでも私を心配して電話を何度もかけて来てくれている佐和子は、
こういった沈黙に慣れてきていた。
だからこそ無難な話題も予め用意しているのかもしれなかった。

佐和子「あの下着着たっていってたけど、サイズは大丈夫なの?
    最近痩せてきてるんでしょ?」

麻理「今のところブラのサイズは問題ないのよね」

佐和子「へぇ・・・」

佐和子は意外そうな声を洩らす。とりあえず場つなぎの為に振った話題なんだろうけど、
意外と話を持ちだした佐和子自身が興味をもったようであった。

佐和子「でも、体全体としては痩せたんでしょ?」

麻理「そうね。痩せたけど、うまく調整すれば今までの服もきれない事はないわよ」

佐和子「ブラも?」

麻理「そうね。ウエストとか太ももは細くなってきているのが自分でもわかるけど、
   胸はあまり変わっていないのかしら」

佐和子「うらやましぃ」

恨めしそうな重低音が鼓膜を震えさせる。
きっと気のせいだろうと決めつけようともしたが、
無視しても後が面倒だから諦めることにした。

麻理「なにを言ってるのよ。今のところブラもサイズ調整するだけで大丈夫だけど、
   でも多少の違和感はあるのよ」

佐和子「でも、カップは変わっていなくて、しかもウエストは細くなったんでしょ?」

麻理「そうだけど・・・」

佐和子「女の敵」

麻理「佐和子?」

佐和子「本当は私の体型を思い浮かべて笑ってるのよ」

麻理「佐和子?」

佐和子「最近運動不足なのも響いているのよねぇ」

麻理「お〜い・・・、佐和子ちゃん?」

佐和子「もういいわ!」

佐和子が突然大声をあげるものだから、驚いてしまう。
今まで暗いうめくような声色だったのに、突然声をあげたものだから、
ちょっと声量をあげただけでも頭に響いてしまった。

麻理「え?」

佐和子「もういいわ。北原君もニューヨークに行くわけだし、
    北原君が気にいる下着を一緒に買いに行けばいいじゃない。
    きっと北原君は恥ずかしがりながらもフィッティングルームまでお供してくれるわよ。
    きっとグアムで買ったのなんかお子様用だと思えるくらいの
    破廉恥な下着を買うのよね。
    もういいわ。勝手にいちゃついていなさい」

麻理「佐和子?」

佐和子の逆切れ?が私たちに笑いをもたらす。
佐和子もこれを狙って話題を振ったわけではないのだろうけど、
今は佐和子への感謝の念でいっぱいだった。
話題にしている内容なんてお馬鹿すぎる内容なんだけど、今の私にはぴったしである。
ただ、北原がニューヨークに来たら試しに誘ってみようかなと、
ほんのわずかながらだけど真剣に考えてしまった事は秘密にしておこう。







第42話 終劇
第43話に続く








第42話 あとがき


今週より「ハーメルン」「SS速報VIP」とのマルチ投稿となります。
掲載する内容は同じですので、すきなサイトでご覧になってください。
ほんとうはどこか一つに絞ろうかとも考えたのですが、
今までお世話になってきたサイトでもあるわけで、
マルチ投稿でいこうかなと決断を下しました。
本サイトでの掲載時間ですが、今までは月曜日の深夜。
深夜と言っても火曜日の午前3時くらいでしょうか。
その時間に無理やり更新を続けて火曜日の更新ですというのもなんですし、
ハーメルンでは月曜更新を決めましたので、こちらでも月曜更新にしようと思います。
ただ、ハーメルンとは違い予約投稿ができないわけで、
当分の間は掲載時間が不安定になると思います。
ちなみにハーメルンでは毎回月曜18時に投稿予約をセットするので
そういった不安がないのが強みなんですよね。
SS速報VIPは、今まで通り火曜夕方の更新を続けようかと思っております。


来週から月曜日にアップできると思いますので
また読んでくださると大変うれしく思います。



黒猫 with かずさ派

このページへのコメント

麻理さんが四月生まれだという春希の誕生日を祝おうとするなんて、タイムリーかついじらしいですね。
そういえばかずさは春希の誕生日を祝えたことが一度もないので、今回の話をかずさが知れば悔しがって麻理さんを妬みそうです。
後半の麻理さんと佐和子さんとの会話も、二人の友情や健やかな関係性を表していて、本編同様ほほえましいやり取りでした。

では次話の展開も楽しみに待ってます。

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Posted by N 2015年04月19日(日) 20:56:47 返信

更新お疲れ様です。
マルチ投稿されるんですね。今回の話もそうですが、麻里さんが可愛いすぎて、涙が……しかし、かずさの事も待ち遠しいです。次回も楽しみにしています

0
Posted by バーグ三世 2015年04月14日(火) 03:01:41 返信

更新お疲れ様です。
今回も麻里さんの春希に対する強い愛情が回想での佐和子さんとの電話での会話も含めてよくわかりますね。
かずさの事を知っていてなお春希にお揃いのボールペンをプレゼントをしようとしている事が痛い行為であると自覚している辺り痛々しさを感じさせます。
春希と麻里さんに別れの時が来た時、佐和子さんが一役買うことになるのかな?
次回も楽しみにしています。

0
Posted by tune 2015年04月13日(月) 22:52:13 返信

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