第46話



 数年前までは毎日のように見てきた実家の玄関のドア。それは今も同じように存在していて、
引き出しの奥に眠っていた実家の鍵を差し込んで回せは扉が開くはずである。
そう、別におかしいところは一つを除けばまったくない。おかしなところなんてないはずだった。

春希「なあ千晶。お前がその手に持っているのは、もしかしないでも鍵だよな?」

千晶「ん? 鍵以外の何に見えるのよ。もしかして魔法の鍵とか、
   ・・・わたしの心を開ける鍵だとか思っちゃったわけ?」

春希「そんなこと思うわけもないだろ」

 俺の突っ込みをよそに千晶はさっさと鍵を開け、当然のようになめらかな動作で
部屋の明かりをつけていく。つまりは、手慣れている。この家に来ることに慣れている。
 そもそも俺は千晶を実家に招待したことなんてない。あの母親に千晶を紹介なんてするわけも
ない。俺の一方的すぎる母親との絶縁状態で、どうやってこの千晶を紹介するっていうんだ。

春希「ちょっとまて」

千晶「だから、さっきからなんなのよ」

春希「だから、なんで千晶がうちの実家の鍵を持ってるんだよ」

千晶「あぁその事ね。そんなの決まってるじゃない。春希のお母さんから貰ったの」

春希「は?」

 思考が停止する。停止したら負けだってわかっているのに、
俺の脳はオーバーヒートを回避すべく止まろうとしていた。

千晶「だからぁ、春希の荷物を引っ越し業者が取りに来たでしょ」

春希「それは今さらだけど、ありがとな。助かったよ」

千晶「どういたしまして」

 優雅に頭を垂れる様はおそらくきまっているのに、
どうしてその頭をおもいっきりひっぱたきたくなるんだろうな。不思議だよ、まったく。

千晶「でね、ここまで一緒に引っ越し業者の人ときたわけよ。そしたら春希のお母さんがいるじゃない」

春希「そりゃあ住んでいるからな」

千晶「それでお互い自己紹介して、そしたらここに住んでもいいよって、ね。わかった?」

春希「わかるかっ。わかってたまるか。どうやったらその説明だけでわかるっていうんだ。
   もしわかるというなら、俺が知らない間に人類が進化してテレパシーでも
   会得したんだろうな」

千晶「何言ってるの、春希? そんな空想実現するわけないじゃない」

春希「だぁ・・・、だから、どうしてお前がここに住むんだよ。実家まで来たところまでは
   想定内だよ。色々と母親と話をすることも、嫌だけど、想定していた。でも、
   なんでそれが飛躍しまくって、ここに住む事になったんだ。そこんところを詳しく
   説明して頂きたい」

千晶「わかったわよ。春希が何を聞きたいかくらいわかってるから。でもその前に荷物おかない?
   春希も重い荷物持ってるわけだし、一時休戦ってことで」

春希「わかった。荷物置いたら話を聞くからな」

千晶「らじゃ〜」

 そうわざとらしく敬礼すると、千晶は空き部屋だった部屋に消えていく。ちらっと部屋の中が
見えたが、すでに千晶の荷物らしきものが敷き詰められている。あの千晶御用達の寝袋は部屋の
隅に転がり、その横には使われずにしまわれていた客用の布団が畳まれていた。
 俺はもっと部屋の中を見たい気持ちと、これ以上面倒事を抱える事のデメリットを天秤にかけ、
部屋の中を見たいに大きく傾いた。だから俺は反対の行動を選択する。だって千晶だし、
俺の判断は絶対に間違っているはずだ。
 混乱が収まらぬまま自室へと向かう。前回きたときと同じように部屋の空気はどよんでは
おらず、部屋にあるべき荷物が収まっている分生活感が漂ってくる。きっと千晶が今までの配置を
参考にして荷物を押しこんでくれたのだろう。ベッドも机の位置も変わり映えしない。
そもそもこの実家での自室をそのままマンションに押し込んだのだから同じなわけだが。
 ただカーテンだけは真新しいものが下がっていた。薄い水色の遮光カーテンが外の光を
遮断している。俺はゆっくりと遮光カーテンを開け、続いて白いレースのカーテンも開ける。
飛び込んでくる外の景色は、あの時と、数年前のあの時と同じ光景だ。違う点があるとしたら、
あいつが、かずさが下の道路にいないことだけだった。

千晶「まだぁ? それとも片付け手伝おうか?」

春希「悪い。今行く」

千晶「わかったぁ」

 俺は窓を少しだけ開けて風を取り込む。ゆらゆらとした風が舞いこみ、ふわりとカーテンを
なびかせる。それがなんだか俺を歓迎しているように見えてしまったのは、
俺が弱っているせいだろうか。
 新品のカーテンが俺を歓迎してるようなきもするが、これからうまくやっていけるかは不安が
残る。今になって思ってしまう。引っ越しの話をする為に母と向き合った時、何故母の事を
意識してしまったかようやくわかった気がした。あくまで気がしただけで
勘違いかもしれないけど、今はこう思えた。
 それは色々なことが積み上がっての事だが、冬馬親子のすれ違い。麻理さんに対して自分勝手に
作り上げてきた根拠もない強さ。本当は繊細で可愛らしい人であった。たしかに仕事面では
圧倒的な強さは見せるけど。
 だから、母に関しても、高校時代までに自分が勝手に作り上げてきた母親像を
見てきたんじゃないかって思えてしまう。勝手に母だけに責任を押し付けて、
自分は意識さえしていない被害者意識を持っていたのかもしれなかった。
 ニューヨークに行くまでの数カ月で何か変わるかなんてわからない。それでも今度こそ親子の
縁が砕け散ったとしても、母と向き合ってみようと思わずにはいられなかった。





春希「で、なんでお前がここに住む事になったんだよ」

千晶「そのことね。わかった。今から説明するね」

春希「俺が、人間が理解できる説明を頼む」

千晶「傷つくなぁ、その言い方」

 舞台女優のごとく、一番後ろの観客までわかるように大げさに傷ついた演技をこうじる。
それを目の前で見ている俺からすれば嫌味しか感じ取れないが、
それさえも千晶の演出だと思えてしまう。

春希「わかった。悪かったよ。だから説明を始めてくれ」

千晶「よろしい。まず荷物をここに届けたでしょ。で、おばさんに会って、わたしは誰ってことに
   なるでしょ? だから自己紹介をしたってわけ」

春希「ちょっと待て」

千晶「なんだい春希くん?」

春希「お前の自己紹介って、どんなことを吹きこんだんだ」

千晶「吹き込んだなんて心外かな」

春希「それはもういいから話を進めてくれ」

千晶「ほいほい。えっと、まずは大学で春希が勉強面で面倒みてくれているってことと、
   春希が教授にわたしの教育係を任命されているってことかな」

春希「まあ、嘘は入っていないな」

千晶「だから警戒しすぎだっての。でね、春休みになって色々とレポートとかを春希が
   助けてくれて、部屋に泊まり込んで頑張ったってことを言ったかな。そしてその後も
   泊まる部屋がない私を春希が居候させてくれたってことかな」

春希「ちょっと待て。だいたい事実通りなんだけど、
   どうしてそこから千晶がここに住む事に繋がるんだ」

千晶「それはこれから話すんだから、ちょっと待ってよ。せっかちだね、春希って」

春希「うるさいっ」

千晶「はいはい。えっと、春希が実家に戻っちゃうでしょ。そうしたらわたしが住む場所も
   自動的になくなるわけだから、困ったなぁって話になるわけよ」

春希「いや、だから、千晶も実家に住んでいるんだから帰ればいいじゃないか」

千晶「そこんところは話していないかな? いや、どうだったかな?」

春希「しらばっくれるな。わざと話していないんだろ。・・・・・・もういい。
   で、今まで俺ん所に転がり込んでいたから、急に部屋がなくなって困った。
   だからそれを見かねて母さんが部屋を提供してくれたって事なんだな?」

千晶「ま、そんなところかな」

春希「それだけでよく部屋を貸してもらえたな。もしかして恋人とかっていってないよな?」

千晶「それはきっぱりと否定しておいてあげたよ。
   もちろんわたしの裸をじっくり見たっていうのも言ってない」

 体をしならせるな。くねらせるな。色気をばらまくな。・・・・・・思いだしちゃっただろ。
 俺は頭をリセットして邪念を振り払うべく話を強引に進め出した。

春希「その方が賢明だな。いきなり彼女が押しかけてきたら、さすがの母さんも気を使っただろうな」

千晶「だね。でも安心して。春希が海外行くまでの前期日程までしか居候するつもりはないから。
   いくらわたしでも、春希がいないのにここに住んでいられるほど神経図太いわけではないからさ」

春希「すでに十分すぎるほど図太いと思うぞ」

千晶「そう?」

春希「まあいいよ。どういういきさつで住むことになったかはわかった。
   それに母さんは納得していたんだろ?」

千晶「うん、わたしの印象では嫌がってはいなかったかな」

春希「だったら問題ない。俺自身も居候みたいなものだから・・・」

千晶「ふぅ〜ん・・・、だからか。やっぱ親子なんだね。思考回路というか考え方? 
   そういうのが似ているかな」

春希「どういう意味だよ?」

千晶「だからさ、二人とも口ではわたしのことを面倒見るとか言ってるけど、実際は
   親子二人っきりで生活していくのを怖がってるって事。つまり二人の間にわたしという
   緩衝材を置く事によって精神的な安定を求めているってことよ」

 びしっと指さすその人差し指をひっつかんで、ぐいっとへし折ってやろうと思ってしまう。
だが、そういう感情的な反応こそが図星であり、俺が考えたくない事実なのだろう。

春希「わかった。降参。その通りだと思うよ。だから千晶も気を使わないでここに住んでくれ」

千晶「言われなくたってわたしが気を使うとでも思ってたの?」

春希「思ってないよ。思ってないけど、多少は気を使うふりくらいをしてくれると助かるよ」

千晶「ふりね、ふり。今度からはそうする。でもさ、一緒に住むわけだから料理の勉強も
   しやすくなるでしょ? その辺は春希にとっては都合がいいんじゃない?」

春希「そうだな。そう考えればそうなるわけか」

千晶「まっ、これから半年間よろしくね、春希っ」

春希「あぁ、よろしく頼むよ」

 固い握手で結ばれた先にある表情からでは、その奥に潜む真意は読みとる事は出来なかった。
 まあ、いいか。どうせ千晶のことはわかりっこない。わかろうと歩み寄ってもするりと
かわされてしまう。だけど、わかろうとする努力だけはしておくか。わからないことと、
わかろうとしないことは大きく意味合いが違う。
 母さんのこともわかろうとしてこなかったわけだし、ついでだ。千晶と母さん。
この半年で少しでもわかる事ができるのなら、それは人として成長できたって思えるかも
しれない、と課題を一つ立ち上げた。





 本日急きょ開催された千晶主催の料理教室はいたって平穏に終了する。味付けなんかは
やはり食にうるさい千晶ともあって大変参考にはなった。あとこれは意外ではあったが、
千晶はけっこうな凝り性でもある。それと同時に面倒くさがりやで時間短縮調理も詳しい。
その相反する料理プロセスを共存させているのはある意味面白い観察対象であった。
 まあ、なるようにしかならないし、いつまで続くかもわからない。それに今俺がすべきことは
麻理さんに連絡をいれること。きっと麻理さんは連絡を待っているはずだ。
 しかし、本当に俺が麻理さんの夕食に声と映像だけで参加して、それだけで麻理さんの症状を
抑えられるのだろうか? 本来なら俺も一緒に食事をすべきだが、千晶がいるとあってそれは
できない。こればっかりは千晶に知られるわけにはいかないしな。
 俺は一つ深く深呼吸をすると、通話ボタンを押した。

麻理「もしもし、北原?」

 ちょっとばかしの予想と、多大な期待通り麻理さんは即座に俺からの連絡を受け取ってくれた。
その映像と声は半日前と変わり映えがない。

春希「少し報告が遅れましたが、日本に無事着きました。今は実家の俺の部屋です」

麻理「そう。無事ついたのなら問題ないわ。・・・・・・親御さんは、お母様とはどうだった?」

春希「母はまだ帰宅していません。ただ・・・、その」

 俺の歯切れの悪い反応に麻理さんは訝しげな表情をむけてくる。俺の方も悪い事を
しているわけではないのに、どうしてドキドキしてしまうのだろうか。それはきっと千晶のことを
話したら、麻理さんの反応がどうなるかわかっているからなんだろうけど、
でも隠しておくわけにはいかないし、ここは正直に言ってしまおう。

麻理「北原、正直になりなさい。隠していてもお前の為にはならないぞ」

 どうしてだろう。神様みたいな慈悲深い笑顔の奥に、
死神のごとく真っ黒なオーラが見えるのは・・・・・・。

春希「はは・・・」

麻理「どうした北原? 笑えるような話なのか? それならば隠していないで私にも教えて欲しいかな」

 だから、どうして笑顔が輝くほどに黒いオーラが増大していくんですっ。

春希「あのですね、これは俺が関知していなかった事で、なおかつ母が決めてしまった事なの
   ですが、俺の大学の同級生も一緒に実家で住む事になりました。俺としては母と
   二人っきりよりも、そいつが一緒の方が何かと気まずくないと思いますし、
   悪い話ではないと思うんですよ」

麻理「そう・・・、わかったわ。で、和泉千晶さんは今も隣の部屋にでもいるのかしら?」

 どうしてわかるんですか? 俺は一言も千晶の事を話してはいないじゃないですか。
 背筋に流れる冷や汗が、麻理さんがすうっと指先で撫でたかのようにひやりと背中を震わせる。
きっと俺の顔は青く染まっているのだろう。

春希「たぶん千晶が使う事になった部屋にいると思います。でもなんで千晶だとわかったんですか?」

麻理「女の勘って言ってしまえばそれまでなんだけど、でもそうね。北原は大学で親しくして
   いる友人って限られているからかな。もちろん北原から聞いた話でしか交友関係は
   わからないけど、その中で北原が実家に住む事を許せる人物となると和泉千晶さん一人しか
   思い浮かばなかっただけよ」

春希「たしかに千晶以外ですと武也っていう腐れ縁のやつがいますけど、
   そもそもそいつは俺のところには転がり込んではこないですね」

麻理「あぁ、あの武也君ね。女癖が悪い」

春希「ええ、その武也です。あいつが住む場所に困ったら女のところに転がり込みますよ」

麻理「北原がそう断言するだなんて、よっぽど女癖が悪いのかしら? 
   そのうち刺されるんじゃない? 大丈夫?」

春希「たぶん大丈夫じゃないですかね。今までも刺された事はないですから」

麻理「ちがうわよ。北原が巻きこまれて痛い目にあうんじゃないかって心配しているのよ」

春希「俺ですか?」

麻理「そうよ。だって武也君は自分で撒いた種でし、自業自得でしょ。ある意味女の敵でも
   あるんだから、責任は彼自身が取るべきね。でも、その騒動に北原が巻き込まれるのは
   別問題よ。だって、彼の問題に北原が巻き込まれる理由がないもの」

春希「はは・・・、大丈夫ですよ。以前間違えられてひっぱたかれた事はありますけど、
   それだけです。麻理さんが心配するような流血騒ぎは起こっていないです」

麻理「そう? ならいいけど、でも北原。気をつけてね」

春希「はい。さて、食事の準備は大丈夫ですか? 俺の方は同居人と食べてしまったので
   申し訳ないのですが」

麻理「準備はできてるから大丈夫よ。一緒に食べられないのは残念だけど」

春希「すみません。できるだけ時間作りますから」

麻理「うん、ありがと」





 電話から聞こえてくる佐和子さんの声は安堵に満ちている。普段はお互いの愚痴ばかり
言っているのに相手の事を思いやる気持ちの深さは測りされないくらい深い。
麻理さんとの食事が終わり、俺の方が先に佐和子さんと電話をする事になった。親友であり、
同じ女性同士である佐和子さんと麻理さんの方が長話になることを見越しての判断である。

佐和子「でも大丈夫なの? 食事って毎日よ。毎日北原君が麻理の食事に付き合うなんて
    難しいんじゃないかな?」

春希「やれることろまでやってみますよ。それに半年もありませんからね。
   そのくらいなら問題ないです」

佐和子「そう? 私がたまに代わってあげる事ができるんあらよかったんだけど、
    私では効果がないんだもの。ほんと色ぼけしてしまってるわね」

 親友である佐和子さんでも、麻理さんの味覚障害を緩和する事はできなかった。
そのやりきれない気持ちは、親友としては辛いものだろう。しかも効果がある俺ときたら半端者
で、全てを頼ることができないときている。きっと俺には言えない本音もあるはずだ。

春希「その事についてはノーコメントで」

佐和子「ノーコメントっていうことは、言えないような事を考えているのかしら、ね?」

春希「それもノーコメントでお願いします」

佐和子「ほんとこういうところはガードが固いのよね。もう少し隙を見せてくれてもいいのに」

春希「そうですか? 俺は結構佐和子さんのことを頼りにしているんですけどね。だから、
   隙を見せているかはわかりませんが、腹を割って話しているつもりですよ」

佐和子「まあ、そうね。もし北原君が本心を隠して麻理に近づいていたのなら、麻理の心を
    中途半端に癒そうとしていたんなら、きっと私はあなたを許さなかった」

春希「・・・・・・その」

 なんと言えばいいのだろうか。いつも通りの口調のはずなのに重く俺の心にのしかかって
くる重圧に、俺は返す言葉が詰まってしまう。

佐和子「ごめんね、北原君。きつい事言って。北原君が麻理によくしてくれているって
    わかってるのに、麻理の為にニューヨークまで行ってくれるっていうのにね。
    ・・・・・・・ほんとごめんなさい」

春希「そんな。俺がしっかりしていなかったことが招いた事なんですから、責められるべくして
   責められているんですよ。それにニューヨーク行きは俺にとって悪い話ではないですから。
   麻理さんからも早い段階で海外での経験を積んだ方がいいって言われていましたから。
   だから、それがちょっとだけ早まっただけです。むしろちょうどいい機会だとさえ
   思っています」

佐和子「でも、ニューヨークに行くとなると今までみたいに大学とそのバイトっていうわけには
    いかないわよ。一応開桜社が期待してニューヨークに送り出してくれているんだもの」

春希「はい、その点も重々承知しています。開桜社と麻理さんの顔を汚すような事はしない
   つもりです。浜田さんにも色々とお世話になっていますから、その分俺が結果を残さないと
   いけないですからね」

佐和子「だから北原君。あなたは一人で背負いこもうとしすぎよ。あなたはまだ大学生で、
    来年からは編集部に席を置く事が決まったからといっても、今はまだバイトに
    すぎないの。だからほんとこのままだと麻理だけじゃなくて北原君、あなたまでも
    押しつぶれてしまいそうで見ていて辛いわ。・・・辛い、というかな、
    なんか見てらんない。自分が何もできないのもふがいないんだけどね」

春希「なんだかさきほどから同じ事を繰り返してしまってますね」

佐和子「ちょっと北原君?」

 俺の場違いの声色に戸惑いをみせ口をとがらせる。たしかにシリアスな雰囲気に突然陽気な声が
こぼされたら、怒るかあっけにとられるかのどちらかだろう。

春希「これから先どうなるかはわかりません。でも、俺も佐和子さんも、そして麻理さんだって
   みんなの事を心配してるってことですよ」

佐和子「そうだけど・・・」

春希「それにそろそろ電話を切って佐和子さんが麻理さんに電話しないといけない時間だと
   思いますよ」

佐和子「あっ、ほんとだ。これ以上麻理にやきもちをやかせることはできないわね」

春希「佐和子さん?」

佐和子「お互いさまよ。じゃ、また近いうちにあいましょう」

春希「はい」

 電話を切り、窓の外を見る。これから麻理さんは仕事だ。食事は無事終えることができても、
それがいつまで続くかなんてわからない。
不安要素をあげればきりがないってわかっていても考えずにはいられなかった。
 でも、今日はこの後佐和子さんも連絡を取るわけで、気持ちの上での応援は出来る限り送れる
はずだ。そう考えると俺と佐和子さんの連絡は後でもよかった気が今さらながらしてしまう。
仕事には真摯に向かう麻理さんが遅刻までして佐和子さんと長話なんてできやしない。
でも、話し足りないほうが仕事後の楽しみもできるというものか。
 俺はそう勝手な結論をつけると、ようやくニューヨークにもっていった荷物の片づけを始めた。





第46話 終劇
第47話に続く




第46話 あとがき


暑くなってくるとパソコンに向かうのも大変ですよね。
暑いし・・・・・・。
最近執筆ペースが速くなったはずなのに、どうして楽にならないんでしょうか。
本棚には買ったのにまだ読んでもいない本が積まれていっていますが、
最近では本棚の中身を見なかった事にしています。


来週も月曜日にアップできると思いますので
また読んでくださると大変嬉しく思います。



黒猫 with かずさ派

このページへのコメント

まさか千晶が春希の母に交渉して春希の実家に居候することになるとは…。さすがは春希にネゴシエーション能力は俺以上と思わしめた千晶です。
今は知らないようですが、春希がニューヨークにいる女性とPCで毎日連絡を取ってる様を春希の母が知ったら息子の女性関係をどう思うのでしょうかw

そして第四勢力?たるかずさや曜子さんたちは今何をしているのかも気になるところです。
ここでかずさたちも春希に絡んでくればカオスで楽しそうになりそうですがw
では次回以降の日本での話も楽しみにしています。

0
Posted by N 2015年05月12日(火) 22:30:49 返信

誤記のご報告ありがとうございます。
さっそく訂正させてもらいました。
これは単なるケアレスミスなのですが、登場人物が増えるとそれだけ扱う呼称も増えるわけで、
久しぶりに出てくるキャラはちょっと戸惑ったりしたりします。
千晶はある意味第三勢力っていう感じでしょうか。
物語にアクセントがつけばいいかなと思っております。

0
Posted by 黒猫 2015年05月12日(火) 03:15:55 返信

更新お疲れ様です。
千晶が春希の実家にまで転がり込んできた事がこの後の物語にどう関わってくるのか興味深いですね。
春希と佐和子さんの会話では今後について話し合われましたが、結論としては麻里さんの病気を治すには春希がそばに居ること以上の良い方法が無いという感じですね。
次回も楽しみにしています。
追記
春希と佐和子さんの会話で春希が佐和子さんにさん付けをしていない所がありました。おそらく誤記ですよね?

0
Posted by tune 2015年05月11日(月) 21:27:49 返信

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