第49話


5月ゴールデンウィーク序盤


 俺が千晶と母親に弁当を作るイベントは毎日の習慣として定着していき、
今は台所にあるホワイトボードで母親と意思疎通ができるところまで進歩していた。
進歩といっても、朝食や弁当をいらない日を書いておくだけの一方通行の意思疎通ではあるが。
 ……そうでもないか。母親からのメッセージはもう一つ増えている。
食べ終わって綺麗に洗れている母親の弁当箱の横には、いつも弁当の感想が短く書かれていた。
これは千晶のお節介なのだが、俺が料理の勉強をしていると母さんに告げ、
今後の勉強の為にも食べ終わった後の感想を欲しいと言った事が起因していた。
 ただその感想も、手紙というには味気なさすぎるし、
かといって店に送る評価感想と比べれば温かみが込められてはいる。
 そんな中途半端な立ち位置は、今の母子の距離をうまく表しているような気がした。
 世間から見れば歪な母子関係ではあるが、それでも無関心から意識しているに進展して
いる事を考えれば大きな成果なのだろう。この手紙以外でも世間の親子関係では当たり前の
関係を、時には強引に、時には俺達に気がつかれないように千晶が誘導するものだから、
今や俺と千晶の立場はこの北原家においては逆転しているっていっても過言ではなかった。
 ほんと俺の心の中にずかずかと神経質に踏みこんでくる奴だよ、あいつは。それでいて
俺の心をよく理解してタイミングをはかっているんだから恐れ入る。
 俺がしてやれるお礼なんて大学でのサポートと毎日の食事くらいだけど、
素直にお礼ができないあたりはまだまだ俺も子供なのだろう。

千晶「おっ、春希ぃ〜っ。グッドタ〜イミング。っていうか時間に正確すぎじゃない?」

 俺の姿を見つけるや、両手をぶんぶん振り回しながら俺を呼ぶのはもちろん和泉千晶。
俺の恩人にして同居人の、けっして感謝している事を伝えられない親友だ。
 五月の太陽の下、太陽以上に陽気な彼女は俺が手にする「弁当箱」が入っている鞄を見て
喜びを爆発させる。さすがにゴールデンウィークの連休ともあって大学がたむろする暇人の影
はひそめ、千晶のようにサークル活動に励む学生がちらほらとみかけられる程度であった。
 まあ、俺みたいに弁当を届ける為だけにやってくる人間なんていないだろうけど。

春希「約束の時間通りに来て、どうして文句を言われるか知りたいところだな」

千晶「ん? なんとなく、かな?」

春希「まあいいや。早く食事を始めるか。麻理さんも待っているだろうし」

千晶「だね」

 麻理さんに千晶を紹介する事は、正直迷いに迷った。けれど、麻理さんからの強い要望も
あって対面し、そして今は時折一緒に食事をするまでになっている。
 まあ最初はただたんに麻理さんが俺の同居人に会いたいっていうのが始まりであって、
千晶が一緒に食事までするようになったのは、やはり千晶の人柄によるのだろう。
もちろん俺は千晶をパソコン画面を通じてであっても麻理さんに会わせる事には抵抗した。
そりゃあ千晶だし、剥き出しの爆弾をしょいこんだ愉快犯を、どうして麻理さんに会わせたい
なんて思うものか。それでも麻理さんの強い要望と、これはひどい言いようだが、千晶が
あまりにも真面目に俺の話を聞いてくれたおかげで、こうして麻理さんと千晶の対面が実現した。
 それに、これはリハビリの一環でもあって、俺とだけの食事では新たな弊害を生む恐れが
あったからであった。いくら食事ができるようになっても、北原春希がいなければ食事が
できないではリハビリが成功したとはいえないだろう。

千晶「どう? 親子水入らずの生活は?」

春希「どう?って聞かれても、今まで通りだと思うぞ。
   もともとお互い生活リズムが違うんだから、あまり顔を合わせないしな」

千晶「それでも私が家にいないで親子二人っきりっていうのは初めてでしょ?」

春希「たしかにそうだけど、あまり意識していないからな」

千晶「ふぅ〜ん……」

 やはり千晶には嘘はつけないか。正直俺も母さんもお互いを意識しまくっている。
 ゴールデンうウィークの大型連休に入り、千晶は演劇部の合宿とやらで大学に泊まり込みで
練習をしていた。それでも一日一回は俺の弁当を食わせろとの御要望もあり、
こうして弁当持参でわざわざ休講中の大学キャンパスまでくりだしてきたわけである。

春希「でも、顔を合わせれば挨拶もするし、普通だとおもうぞ」

千晶「そっか……」

千晶は俺の返事を待たずに中に入っていくので、俺はその後ろ姿をみうしまいと後を追った。
俺も千晶もこの普通が異常だと認識しているからこそこれ以上言葉がでなかったのかもしれない。



春希「よし、セッティングできたぞ」

千晶「お〜けい。こっちもだいじょぶかな」

いつものようにパソコン前に弁当を広げた俺と千晶は、画面の向こうで待っていたニューヨーク
の麻理さんと向かい合う。最近の麻理さんは体重の減少も止まり、とりあえずはこれ以上の
危機的状況へのカウントダウンを止めることに成功していた。しかし、この成功を収めつつ
食事会も新たな火種を生んでいる事もたしかであり、うれしい悩み?に苦しむ日々を送っている。

春希「お待たせしましてすみません麻理さん」

麻理「問題ないわ。時間通りじゃない」

千晶「早く着いたのに時間がかかったのは春希のお小言のせいじゃない」

せっかく和やかな食事タイムにしようとしたのに、千晶のやつは俺の事が好きすぎるだろっ。

麻理「北原の千晶さんへのお説教は計算に入っているから問題ないわ」

千晶「その計算間違ってない?」

春希「お前がやるっていってた課題を全く手をつけていないのが悪いんじゃないか」

千晶「こっちも劇団の練習で忙しいんだから仕方ないじゃない」

春希「そういう言い訳をしているから春休みみたいな大変な目にあったのを忘れたのか」

千晶「忘れはしていないけど……」

春希「だろ? あんな修羅場をまた経験したいのか?」

麻理「千晶さんも練習で疲れていたのだからしょうがないじゃない」

春希「麻理さんは千晶に甘すぎですよ」

千晶「さっすが、麻理さんっ」

春希「おいっ」

麻理「いいじゃない北原。どうせ後で苦労するのは千晶さんなのだから、今北原が気に病む
   必要なんてないわ。だってそうでしょ? 学期末になって単位が取れなくて卒業でき
   なくなるのは千晶さんであって北原ではないのよ? 
   だったら北原が心配したって意味がないじゃない」

春希「……」

 それはそうなんですけど、ね。でも、結局は俺が尻ぬぐいすることになって、
春休み以上の惨劇に降りかかってくる事確定じゃないですか。

千晶「ひっどい。ひどすぎない麻理さん? やっぱ春希の上司だけはあるわね。
   春希以上に厭味ったらしいし、毒舌に年季を感じるわ」

麻理「あら? お誉め頂いてありがとう。でも、あなたに称賛してもらえるほど
   年をとっているとは思えないのだけれど」

あぁ……、どうしてこうも仲がいいんだよっ。建前だけの会話をしてくださいとはいわないけど、
でも、もう少し食事にあった話題ってものを選んでくれても……いいじゃないですかっ。

千晶「べ〜つにっ誉めてないけど? それとも年増のひがみとか言ってほしかったの?」

麻理「あら? ごめんなさい。最近の一部の大学生だけで使われている言語は習得していないの。
   だから私が伝えようとしている内容と、千晶さんが理解している内容とには齟齬がある
   みたいね。でも安心してもいいわよ。いくら言語体系が違くとも、
   内容の齟齬を理解していない人は幸せに暮らせると思うから」

千晶「やっぱ麻理さんくらいの自称常識人の嫌味は誉め言葉になってしまうんだね」

麻理「あら、どういう意味かしら?」

千晶「言葉の意味通りだけど?」

あぁっ、もうっ。二人とも笑顔で話す内容じゃないのに、笑顔で話している分不気味すぎるだろっ。

麻理「と、いうと?」

千晶「それすらわからないの? それでよく出版社の編集なんてできるね」

麻理「ごめんなさい。人外の言葉は習得していなくて」

千晶「そっか……、それなら仕方がないね」

麻理「ええ、大変申し訳ないのだけれど……」

春希「あの、さ。そろそろ食事にした方がいいんじゃないかな? 俺もこの後バイトだし、
   千晶も練習に戻るんだろ? それに麻理さんも食事をしたほうが……」

千晶「ちょっと黙ってて」

麻理「Be quiet!」

春希「すみません」

 ほんと仲がいいんだからなぁ。
 こうしていつもの食事前の儀式は進められていく。いつものことなのに、どうしてこうも
話題が尽きないのだろうか。これも一種のコミュニケーションであり、二人の距離と三人の
距離の確認なのだろうけど、もう少し穏便にしてくださると俺の胃の負担も減るんだが。







5月ゴールデンウィーク明け



 世間ではゴールデンウィークとかいう大型連休があったらしいが、そんな定まった休みなど
取れない職場では、連休など最初からなかったかのように振る舞われる。俺からすれば仕事を
貯めなければいいだけなのにというのが正直な感想だ。しかし、そういった方々のヘルプ要請
のニーズがあるからこそ俺の仕事もあるわけで、俺は感謝の気持ちを隠して連休を消化して
いった。そんな正しくない連休の過ごし方をした俺の目の前には、おそらく正しすぎる大学生
の連休の過ごし方をした武也と依緒がいた。

春希「おはよう武也。それに依緒もおはよう」

武也「おう、珍しく今日は春希一人なんだな」

春希「あぁ千晶は荷物取りにいっていて、後からくるよ」

依緒「おはよう春希。いっつもあの子と一緒にいるから、なんだか春希一人で歩いているのを
  見ると、ついに春希が見捨てるほどのことを仕出かしたのかって嬉しくなってしまうわね」

この二人は連休明けだというのに他の生徒のような連休疲れなど最初からなかったかのように
声をかけてくる。他の連中の顔を見れば連休が終わってしまった絶望と格闘しているっていう
のに元気なやつらだよ、まったく。まあ、今絶望している連中も最初の講義を受ければ、
現実に戻ってくるのが例年のパターンだけれど。
あと、依緒の最後の言葉については聞かなかった事にしておこう……。

春希「千晶を見捨てることなんてないと思うけど、本来ならば見捨てられてしまう事を
  しでかしているから俺が教育係を任されている事を覚えていてくれると助かるんだが」

依緒「あ〜、なるほどね」

春希「そういうお前らだっていつも一緒じゃないか。武也一人で歩いているのを見たとしたら、
  ついに依緒に見捨てられる事をしでかしたんじゃないかって思うかもしれないな」

武也「俺は別に好き好んでこいつと一緒にいるわけではないって」

依緒「そうよ、私だって仕方がないから一緒にいるのよ。だって武也を一人で
  歩かせていたら、また被害者が増えるじゃない? だから私が一緒にいるの」

春希「はいはい。たしかに依緒のあの事件が広まってくれたおかげで武也に近づこうと
  する女の子が減ったって聞いたけど、実際どうなんだ?」

武也「聞いてくれよぉ春希ぃ……」

春希「そんな情けない声を出さなくても俺は聞いて欲しいならいつでも、……時間があれば聞くぞ」

武也「おい、言いかえすなよ。それはいつでも聞くが正解だろっ」

案外細かいところを気にするんだな。たしかに細かいところまで気を配る事が出来なければ、
複数の女の子と同時に付き合うことなんてできやしないか。
まあ、俺はその気遣いが全くできないせいでまともな交際さえできないでいるけど……。

春希「いや、時間は限られているからな」

武也「俺と春希の友情はそんなものだったのかよぉ」

春希「そんなものなんじゃないか?」

武也「おいぃ……」

依緒「まあいいじゃない。春希もあんたの愚痴を聞いてくれるって言ってくれているんだから。
  私としてはむしろ武也よりも私の気苦労をねぎらってほしいものね」

春希「そうなのか?」

依緒「当たり前じゃない。このバカが性懲りもなくふらふらっと何も知らない女の子に手を
  出そうとするものだから、私が身をはって守ってあげているのよ。あの噂もあるおかげで、
  一言私が教えてあげるだけでみんな逃げていくわよ。たぶん性懲りもなくこの男がナンパ
  すると思うから、その時は春希も見てみるといいわよ。きっと笑い転げるから」

武也「春希ぃ……」

春希「まあ、いいんじゃないか? 大学4年にもなったわけだし、
  ここは心機一転違う生活っていうのもいいと思うぞ」

武也「お前まで俺を見捨てるのか?」

春希「大丈夫だよ。依緒が見捨てないで側にいてくれているんだろ?」

武也「そうだけどよぉ」

依緒「それにせっかくの連休だったたいうのに、この辛気臭い男とずっと一緒だったのよ」

春希「それはそれは……」

武也「仕方がないだろ。あの事件が他の子にも知られてしまって今は彼女がだれもいなく
  なったんだから。そりゃあやっぱその原因の一端たる依緒は、
  俺の休日を盛り上げる義務があるだろ?」

依緒「はいはい」

春希「別に依緒の方も連休の予定がなかったのなら予定が入ってよかったんじゃないか?」

依緒「そこっ。どうして私の予定が白紙なのが前提なのよ?」

春希「違うのか?」

依緒「まあ雪菜との約束は入っていたけど……、あとは白紙だったけどさ」

武也「ほらな」

依緒「あんたには言われたくないから」

 武也の絶妙な突っ込みも、今は依緒の機嫌を逆なでにするだけか。……でも、依緒も口では
怒っている風を装っていても、どうみても喜んでいるよな。絶対本人達にはいえないけど。

春希「悪い。そろそろ時間だ。依緒、悪いけど武也のこと頼むな」

依緒「まあ、どうなるかわからないけど、ね」

春希「じゃあ、またな」

依緒「ええ、じゃあね」

武也「お〜い……、まあいっか。じゃあな春希」

春希「ああ、またな武也」

俺はその場を離れていってから再び武也たちの方を振り返ると、二人は相変わらず仲が
良すぎる騒ぎを巻き散らかしながら学部棟へと向かって行っていた。ほんと、あいつらは
素直じゃないんだから。俺が言えたものではないけど、あの事件のおかげで
収まるべくとことに収まりつつあるってことで喜んでおくとするか。

千晶「は〜るきっ。なんだか嬉しそうだけど何かあった?」

春希「千晶か……、別に何も。そっちは探していたものあったのか?」

千晶「あっ、うん。だいじょぶだいじょぶ。なかったけど座長に言っておけばまた用意してくれるし」

春希「それって大丈夫だとは言わないと思うぞ」

 主に座長さんが……。

千晶「そう?」

春希「まあいいか。ほら、俺達も急がないと遅刻してしまうぞ」

千晶「はぁ〜い……。でもほんと春希、なんか気持ち悪いほど機嫌がいいよ」

春希「そうか?」

千晶「まっいっか。どうせあの女が飯塚とうまくいってるだけだし」

 おい、千晶。見てたんなら聞くなよっ。
 俺は隠し事など一切できない千晶の後姿を追いながら、
我ながら強力すぎる親友を作ってしまったと、微妙な笑顔を浮かべていた。







7月下旬



 すっかり二人でいる事が当たり前になっている武也と依緒による三人だけの送別会を
先日終えた俺は、ただ一人成田空港で出国のときを待っていた。依緒の言い分によれば、
武也の毒牙にかかる女の子を守っているだけだっていうことらしいが、そんな建前なんて
なくても既に武也の女遊びはなくなっている。それは俺でさえわかっている事なのだから、
ましてやいつも側にいる依緒ならばわかるはずだ。その言い訳をいまだに使うあたりは依緒の
気持ちは整理できていないのだろう。あとは武也の頑張り次第だろうけど、俺がとやかく
言う事でもないか。でも、大学生活最後の夏だからって、二人で沖縄旅行に行く計画まで
たてているんだから、俺が心配する必要なんてもうないのかもな。
 俺は苦笑いを浮かべながら鞄の一番上に収まっていた弁当箱を取りだした。

千晶「忘れ物はない?」

春希「問題ない」

 いつものと変わり映えのない朝。千晶はいつものように俺より遅く起きてきて、
眠そうな顔をでおはようと朝の挨拶をしようとしたが、けれど今日だけはその眠そうな顔は
一瞬で吹き飛び、笑顔ともに告げてきた。べつにいつもより豪華な弁当を用意していたわけ
ではない。もちろん昨夜に何かあったわけでもない。
 ただ、今日の台所には俺と母さんの二人がたっていただけだった。

千晶「ほら、これ、お弁当。せっかくお母さんが春希のために用意してくれたんだから、
  忘れたなんてことになったら、せっかく改善してきた関係が破綻しちゃうわよ」

春希「最後に鞄に入れようと思っていたんだよ。気温が高いからな」

千晶「たしかにお弁当食べて食中毒で飛行機に乗れませんでしたってことになったら、
  今度こそお母さんこの家からも出ていってしまうかもね」

春希「それ笑い話にならないからな」

千晶「でもいいじゃない。なんだかんだいって和解……できたでしょ」

春希「誰かさんのおかげでな」

千晶「そうだね。感謝しときなさいよ」

春希「ああ、感謝してる」

 千晶のずうずうしすぎる介入もあって、俺と母さんとのすれ違いはひとまず解決した。
別に今朝になってようやく解決したというわけでもなく、5月の下旬あたりから千晶の強引な
介入もあって一緒に食事をするようにもなっていはいた。けど、こうして言葉にして
すれ違いに区切りをつける事が出来たのは、やはり千晶の助力のおかげなのだろう。

千晶「一人で大丈夫?」

春希「俺の方こそ心配だよ。お前ちゃんと実家に戻るんだろうな? またふらふらと
  あちこち泊まり歩くんじゃないぞ」

千晶「だいじょぶだって。春希が一緒に荷物運んでくれたときにお母さんを紹介したでしょ。
  私の場合は春希とは違って喧嘩なんてしてないし」

春希「そういう問題じゃなくてだな」

千晶「わかってるって」

春希「ほんとうかぁ……」

千晶「ほらっ」

顔をあげ千晶の顔を見て真意のほどを確かめようとすると、俺の視界は黒く塗りつぶされる。
真夏だというのにあの日感じた春の香りが俺を包み込む。それは、甘えることを捨てた俺に
甘え方を教えてくれた千晶の優しさが噴き出していて、俺の気持ちを軽くしていく。

千晶「ほんと春希はすけべだよねぇ……」

春希「むぅ〜」

千晶「ほらほら、あばれないあばれない」

千晶は俺の全く本気ではない抵抗を、その大きな胸で抱きしめている俺の頭を撫でること退ける。

千晶「だいじょぶだよ。しっかり大学は卒業するし、ふらふらすることもないからさ」

春希「……」

 俺の抵抗がなくなっても、千晶は今も俺を慈しむように撫で続けていた。

千晶「それに、この胸は当分は春希専用だから、他の男が勘違いして触るような事はしないって」

その辺のことはノーコメントで……。でも、いつの日か俺もこの胸から卒業しないといけない
のはたしかであり、いつまでも千晶に甘えることなんてできやしない。 

千晶「でもね、苦しくなったら、苦しいって言っていいんだよ。助けてって言ってよ。
  言ってくれないとわからないじゃない。
  いつも春希を見ていることなんてできないんだよ。わかってる?」

春希「……」

千晶「でも、いっか。わからない相手にはわかるまで教えればいいだけなんだから、
  その辺は覚悟しておいてね」

 母さんが作ってくれた弁当を見て、千晶との共同生活を思い出す。
 悪くはなかった。むしろ楽しんでさえいた。
 考えてみれば千晶がいなければ、きっと母さんと和解なんてできないで、
この弁当だって存在しなかったはずだ。
そう思うと、千晶の存在の大きさと、あの計算とも天然とも言えるずうずうしい介入によって
俺達は救われたことの大切さを噛み締める事が出来た。
 遅すぎることなんてないんだ。道を間違えたのなら、いったん元の道を戻ればいいだけだ。
 それに、一人では無理ならば助けを求めればいい。今も甘える事には抵抗があるけれど、
それでも一人では無理だという事は理解できる。
 それは日本でも、そしてニューヨークでも、同じことなのだろう。


第49話 終劇
第50に続く


第49話 あとがき


これにて日本編終了です。
ちょっと駆け足になってしまいましたが、
これ以上深く書いてしまうとさすがにかずさが黙っていないかと……。

冴えカノの方の続編ですが、とりあえず原作全部読み終わりました。
『詩羽無双』を書いたきっかけは、アニメとコミックス版『恋するメトロノーム』を
読んだからであり、じゃあ原作FDの詩羽パートだけでも読んでおくかってかんじで、
にわかファンが書いた二次小説という読者が聞きたくもない裏話があるわけで……。
でも今回は、『詩羽無双』を書く為にやっぱ原作最新刊7巻くらいは読んで
世界観捉えておくかって感じで短時間で1冊頭に叩き込んだという
原作作者及びファンの方々からすれば、その読み方で面白いの?っていう暴挙もせずに
比較的ゆっくりと原作1巻からGirls Sideまで読み終える事が出来ました。
ただこれ書くと、原作ファンの皆さんからネタだろ?って言われそうなのが痛いですw
まあ黒猫にはあんなチート能力ありませんし、精々読書量による慣れにすぎません。
とりあえず結果としては痛いコメントになってしまっても
身を削ってでもちゃんと読んだ事実はお伝えできたかと。
さて続編ですが、連載中2本に新規1本(予定)あって、そこに冴えカノ1本ですよね。
あとオリジナルも2本書いていまして、黒猫過労死?ですかね……。
冗談はさておき、申し訳ありませんが、もうしばらく書きためる時間をくださいとしか言えません。
一応アニメも2期が決まっておりますし、
その頃までにはどうにかできていればいいなというのが実情です。
それとこれは書かない没プロットなんですけど、一応序盤と終盤から結末までのプロットを
作りました。ただ、序盤は明るいんですけど、どうとちくるったか結末にかけて暗い暗い。
地獄でのハッピーエンドといいますか、やはり勢いでつくるものではありませんね。
物語としては盛り上がりそうですが……。


来週も月曜日に掲載できると思いますので、
また読んでくださると大変嬉しく思います。

黒猫 with かずさ派

このページへのコメント

 麻理さんと千晶のプチ修羅場はコミカルで面白かったです。
麻理さんの台詞はどこか、ゆきのんか詩羽先輩っぽかったですけど。

しかしイオタケの進展や春希母との和解などトラブルの元が二つも片付き、残る問題は麻理さんの摂食障害ぐらいしかなくなってしまって、ストーリーをこれからどう盛り上げていくのか予想がつきませんね。
次回以降の展開を楽しみにしています。

0
Posted by N 2015年06月08日(月) 22:42:04 返信

更新お疲れ様です。
千晶効果?なのか北原親子の仲が良い方向へ改善されたのは春希にはうれしい誤算だったのでは。
それにしても春希との時間に千晶が割り込んでくることは麻里さんにとってはあまり喜ばしくは無いのでしょうが、喧嘩にならないのは麻里さんだからでしょうねかずさであればこうはいかないでしょう。次回からのNY編楽しみにしています。久しぶりに春希と直に対面する麻里さんの反応が興味深いですね。

0
Posted by tune 2015年06月08日(月) 20:58:12 返信

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