「この度は、弊社開桜グラフのインタビューを受けていただき、ありがとうございます。
私、風岡と申します。本日は宜しくお願いします」
「いえ、こちらこそいつもお世話になっております。ナイツレコードの小木曽と申します」
「…冬馬曜子オフィスの冬馬かずさです」
ありきたりの挨拶に対して、いかにも広報らしい人当たりのよい返答と、ぶっきらぼうな返事が返ってきた。
どちらも、強敵だった。
「では、録音を開始します」
愛用のICレコーダーのボタンを押す。戦いの始まりだった。
「さて、まずはSETSUNA&冬馬かずさの初シングルCD、『時の魔法』の発売決定、おめでとうございます」
「ありがとう」
「ありがとうございます」
「この曲は、どういった経緯で作られたのですか?」
「SETSUNAとおたくの記者があたしにちょっかい出すためにねじ込んだんだよ」
「ちょっかい、ですか?」
私に言わせれば、おせっかい、なんだけどな。
「そう。1回目の日本公演が失敗して、手に怪我を負って。自棄になったあたしを助けるためだけに、無理やりな」
「私が冬馬曜子さんに直接プレゼンしたんです。私が説得しますから、アンサンブル増刊号にミニアルバムをつけましょうって。
あのときは大変でしたよ。一日で企画考えて、翌日には上司に直談判して。あり得ない速さでGOサイン出してもらって…」
「私一人だけ苦労するのはムカついたんだ。だから、こいつらも巻き込んでやろうと思って、作詞させて、歌わせた」
「私は歌うのが生き甲斐なので、あのとき巻き込んでくれて嬉しかったです」
「作詞したのは弊社の北原ですよね。3人はどういった関係だったのでしょうか?」
よく知ってるくせに、白々しい…。そんな自分が嫌になる。
「アンサンブルのミニアルバムにクレジットした通り、私たちは峰城大学付属軽音楽同好会のOBです」
「学祭のステージで演ったんだ」
「それがカップリング曲の『届かない恋』ですね?」
「そうなんです。
御社の北原さんが、孤独だったどこかのピアニストを想って書いた詞に、当時の冬馬かずさが脇目もふらず全力で作曲した、私たちの始まりの曲です」
「作曲して1日後に本番ステージだったから、今思うと完成度低かったよな」
「今回はちゃんと練習してレコーディングしたので、当時よりいいものができたと思ってます」
「それでもギターがトチりまくって、ディレクターの山口さんに迷惑かけっぱなしだったけどな」
「ええと…『届かない恋』は、かずささんがモデルだったのですか?」
「そうなんですよ。だから、『私の歌』にするのは、実はとても大変でした」
「雪菜のキーに合わせて作曲したから、歌いやすいはずなんだけどな」
「好きな人に、他人のラブレターを代理で渡すような感覚でしたので、そういう意味では確かに私にとっても『届かない恋』でした」
「今は届いてるくせに、よくいうよ」
……私なんて、気持ちを抱いてることすら届かないのにな。
「この曲は、峰城大学のFMラジオ局で人気だったそうですね?」
「そうなんです。知らないうちに、勝手に何度も流されてましたw」
「あたしはヨーロッパにいたから、そこはわかんないな。でも勝手に二人でバレンタインコンサートに出たのは知ってる」
「『届かない恋』は、私たちにとって三角関係の象徴でした。だから、再び歌うのにはいろいろ葛藤があったのは事実です」
「SETSUNAさんは、バレンタインコンサートをきっかけにインディーズ活動を始められたとのことですが」
「ええ、やっぱり歌を歌うのが大好きでしたから。
でもプロデビューは考えてませんでしたので、少しでも歌に関わりをもちたくて、ナイツレコードに就職しました」
「今後の活動はどのようにしたいですか?」
「かずさがクラシックで全国ツアーをやってるので、ユニットとしてはしばらく活動停止状態になりそうです」
「活動の見通しに関しては、どっちかというと、あたしの都合よりも、新妻になるSETSUNAの都合じゃないのか?」
「ええっ!? SETSUNAさん、結婚されるんですか?」
……白々しいな、私。覚悟して来日したはずなのに。
「ええっとぉ…はい。彼の家族の問題とか、いろいろ落ち着いたので…次の日曜に」
「おめでとうございます」
「ありがとうございます!」
「結局、あたしだけが『届かない恋』してたってオチさ。でも、『時の魔法』で私たちは再び3人に戻れた」
「『時の魔法』は社会現象とも呼べる大反響を呼びましたよね。ポップスをクラシックの第一人者が演奏というのは、賛否両論ありましたが」
「学祭のときもね、キーボードだけじゃなくて、サックスやベースも弾いたりしたんだ。ピエロ扱いされたよ」
「でも皆に大ウケしたよね!」
「あたしにはピアノしかないけど…でも、クラシックだけじゃなくて、いろんな形で皆さんに楽しんでもらいたいと思ってる」
「…大人になったね、かずさ」
「そんな言い方しなくてもいいだろ? あんまり苛めると、結婚式でピアノ弾いてやんないぞ?」
「うわぁぁ! なし! いまのなし! かずさ、ごめんねぇぇ」
「こほん、『時の魔法』の作曲について、教えてください」
「あのときは、とてもスケジュールがタイトだったんです。本当は、かずさの追加公演の前日にレコーディング予定だったのですが」
「どこかの馬鹿がジャケットデザイン忘れたり、作詞が遅れたりしたせいで間に合わなかったんだよな」
「で、結局追加公演終えてから、その足でレコーディングに入ったんです」
「コンサートに来てくれたお客さんには、アンコールに応えられなくて申し訳なく思ってる」
「着替える時間もなかったから、かずさはドレス姿のままでレコーディングしたんですよ。春希くん、鼻の下散々伸ばしちゃって」
「あ、こら。春希の名前は出しちゃだめだろ。ここ、オフレコで」
そもそもこのインタビューを記事に出来るのか、が一番の悩みどころなのよね。
「弊社の北原、にしておきますね」
惚気とゴシップと内輪ネタで9割占めるし…。
「とにかく、あの曲はあたしの世界を新しく創造するつもりで作ったんだ。楽しんでほしい」
こんな風に、残り1割に記事にしたい言葉も含まれてるけれど。
「では、最後に一言ずつお願いします」
「あたしは一度は日本を去った身だけど、今は日本で頑張りたいと思ってる。どうか見守って欲しい」
「SETSUNAとしては、これからもインディーズ含めて幅広く活動したいと思ってます。
ナイツレコードの小木曽雪菜としても、弊社アーティストを手助けしていきたいです」
「本日はインタビューに答えていただき、ありがとうございました」
再びICレコーダのボタンを押した。録音が終わった。
私にとっては、戦いだった。自分の気持ちをごまかすための。
この二人が相手では、万に一つも勝ち目はなかったかな。
元部下の結婚式に出席するための一時帰国のついでの、単純な仕事のはずなのに。
「あの時の北原も、こんな気持ちで記事を書いたのかな…」
このインタビューを原稿化するより、まずは結婚式のスピーチで悩まないと…。
私、冬馬かずさみたいに振舞えるかなぁ。
小木曽雪菜は、多分ブーケを冬馬かずさに渡そうとするだろう。
でも、隙あらば、狙ってみようかな? 恋の傷は、恋で癒せよ、私。

あとがき

麻理さんではなく、春希にインタビューさせた方がつっこみが利いて、多分面白い文章になったと思います。
でも、雪菜の幸せの対象がCCヒロインにも届いてほしいと思って書きました。
SETSUNA&冬馬かずさのユニット名義で、実際に届かない恋と時の魔法のシングルCD出してくれると信じてますリーフ様。
それとブーケは麻理さんがかずさをマークしてる間に、依緒に渡るとみたw そんな不器用な麻理さんが大好きです。

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