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gurugurian 2019年10月07日(月) 09:39:31履歴
虐殺捏造/正当防衛説の根拠は関東大震災直後の新聞記事だが、これらはデマであったことが確認されている。
2009年、「ノンフィクション」作家工藤美代子氏が『関東大震災「朝鮮人虐殺」の真実』(産経新聞出版)を著しました(2014年、工藤氏の夫である加藤康男氏が加筆し『関東大震災「朝鮮人虐殺」はなかった』(WAC)として出版)。
この書籍の主張を一言で言えば「関東大震災直後に朝鮮人が殺されたのは、彼らが本当に暴動を起こしていたからあり、「虐殺」ではなく正当防衛だ」というもの。しかしその根拠とされるものは震災直後に発行された新聞記事でした。これらは震災の混乱でまともな情報が得られない中飛び回っていた流言飛語(デマ)をそのまま記事にしたもので、まさにそうした記事も一因となり虐殺が引き起こされたのですが、驚くべきことに工藤・加藤両氏はそれを「事実」と何の裏付けもなく断定しています。
こうした「朝鮮人虐殺否定/正当化論」、および工藤・加藤両氏のデタラメについては、「「朝鮮人虐殺はなかった」はなぜデタラメか」、「工藤美代子/加藤康男「虐殺否定本」を検証する」に詳しいのでそちらに譲ります。
2009年、「ノンフィクション」作家工藤美代子氏が『関東大震災「朝鮮人虐殺」の真実』(産経新聞出版)を著しました(2014年、工藤氏の夫である加藤康男氏が加筆し『関東大震災「朝鮮人虐殺」はなかった』(WAC)として出版)。
この書籍の主張を一言で言えば「関東大震災直後に朝鮮人が殺されたのは、彼らが本当に暴動を起こしていたからあり、「虐殺」ではなく正当防衛だ」というもの。しかしその根拠とされるものは震災直後に発行された新聞記事でした。これらは震災の混乱でまともな情報が得られない中飛び回っていた流言飛語(デマ)をそのまま記事にしたもので、まさにそうした記事も一因となり虐殺が引き起こされたのですが、驚くべきことに工藤・加藤両氏はそれを「事実」と何の裏付けもなく断定しています。
こうした「朝鮮人虐殺否定/正当化論」、および工藤・加藤両氏のデタラメについては、「「朝鮮人虐殺はなかった」はなぜデタラメか」、「工藤美代子/加藤康男「虐殺否定本」を検証する」に詳しいのでそちらに譲ります。
幸いなことに、この朝鮮人虐殺否定論はしばらくの間それほど注目を集めることはありませんでした。しかし2017年、この件がにわかに注目されることになりました。きっかけは小池百合子東京都知事が、それまで歴代都知事によって行われてきた「関東大震災朝鮮人犠牲者追悼式」への追悼文送付を見送ったことです。
小池都知事、関東大震災の朝鮮人犠牲者への追悼文を取りやめ 自民都議の指摘が背景
小池知事、関東大震災の朝鮮人犠牲者めぐり持論⇒「虐殺の事実から目を背けるもの」と批判の声
これについては多くの批判の声が上がり、抗議活動も行われました。またそれに付随して、二つの無視できない出来事も起きています。
2017年9月1日、極右団体「そよ風」が「真実の関東大震災石原町犠牲者慰霊祭」と題する催しを開催しました。
【2017/9/1】 そよ風主催の「真実の関東大震災石原町犠牲者慰霊祭」@都立横網町公園のようす
このイベントが「慰霊祭」とは名ばかりで、実態は朝鮮人虐殺を否定し、かつ同公園で行われた朝鮮人犠牲者追悼式典に対する嫌がらせであったことは会場で「六千人虐殺は本当か 日本人の名誉を守ろう」という看板が掲げられていたことでも明らかです。この、在特会との関係も深い「そよ風」は2010年小池百合子氏を招いた講演会を主催したことでも知られています。
こうしたヘイトスピーチ(差別煽動)とも言える歴史否定のイベントに自治体が公園使用許可を与えたのも問題ですが、このイベントにはは現職の墨田区議員である大瀬康介氏も出席していました。
関東大震災朝鮮人虐殺を否定する在特会系ヘイト団体の集会に政治家も参加!「虐殺は正当防衛」とトンデモ主張


(2017年9月2日放送、TBS『報道特集』より)
また、荒川区議の小坂英二氏もツイッターで次のような発言をしています。
虐殺がデマに煽動された民衆(自警団)のみならず、日本軍によって行われたこともまた明らかになっており(※注1)、小坂氏の発言は明らかな誤りですが、現時点(2017年9月8日)でも氏は発言を撤回していません。
言うまでもないことですが、関東大震災時の朝鮮人虐殺は、当時日本人が朝鮮人に抱いていた差別感情を背景としたデマ(ヘイトスピーチ)によって引き起こされたヘイトクライム・ジェノサイドであり、ナチスによるホロコーストやルワンダにおけるツチ虐殺などと同様、永く記憶に刻まれるべき歴史的事実です。たとえばドイツやフランスなどではホロコースト否定は犯罪として処罰されますし、それ以外の国でも公にそうした発言をすれば批判や社会的制裁は免れません。(※注2)
朝鮮人虐殺は、単なる「遠い過去の出来事」ではありません。そこから教訓を引き出すことを怠れば、再び同じ過ちが繰り返される可能性があります。現に2011年の東日本大震災では「被災地で外国人犯罪が横行している」というデマが流れ、多くの人がそれを信じたといいます(※注3)。そうしたデマが発生した時点で対象となる在日外国人は恐怖にさらされます。また2016年の熊本地震の際には「自警団」を名乗って現地入りした人物が「中国語でも喋ろうもんならその場で殺しちゃえ」などと公言していました(※注4)。誇張でも何でもなく、今私たちはかつての虐殺が再び起きかねない危険な状況下にいます。
先述したように、朝鮮人虐殺はデマ記事を流した当時の新聞社にも大きな責任があります。工藤美代子・加藤康男両氏の歴史否定本は虐殺を否定/正当化し、再び悲劇を招きかねないものであり、厳しく非難されなければなりません。それを出版したメディア(産経新聞出版、WAC、および元となる連載を掲載していた雑誌『SAPIO』およびその発行元である小学館)も同様です。
メディア同様、政治家などの公人の影響力はとても大きなものです。だからこそ公人による歴史否定はより強く非難されなければなりません。また朝鮮人虐殺に限らず、一部の政治家が歴史否定言説を口にするのは、当人がそれを信じているから、というのもあるでしょうが、それによって支持が得られるからという理由も小さくありません。だからこそ、歴史否定支持以上に声を上げること、すなわち歴史否定は利益(賛同・支持)以上の不利益(非難・不支持)をもたらすという状況を作り出さなければなりません。そのためには一人一人が臆することなく声を上げる必要があります。
小池百合子氏は記者会見で「追悼文送付を断ったことが朝鮮人殺害の事実を否定されたと受け止められ批判されているが、それについてどう思うか」という質問に対して「様々な歴史的な認識があろうかと思っております」と答え(※注5)、朝鮮人虐殺を肯定も否定もしませんでした。これは「朝鮮人虐殺は捏造」という主張も「様々な歴史的な認識」のひとつとして容認しているも同然です。「ホロコースト否定論」について問われた欧米の政治家がこのような回答をすればたちまち「ホロコースト否定論容認」と見なされ、公職から追放されることでしょう。
現に、2017日8月12日にアメリカのシャーロッツビルで起きた、白人至上主義者の集会に抗議していた女性がテロによって殺された事件について「様々な側からもたらされる憎悪、偏見、暴力に…抗議を表明する」と語ったトランプ大統領はその発言を強く非難されました。テロを引き起こした白人至上主義やネオナチを明確に非難しなかったというのがその理由です(※注6)。小池都知事の「様々な歴史的な認識」というのは、ちょうどトランプ大統領の「様々な側」と同質のものです。ただ「歴史否定やレイシズムを肯定しない」という消極的な態度では不充分であり「歴史否定やレイシズムを積極的・具体的に非難する」ことが必要とされていることを、小池都知事も私たちも強く認識し、共有しなければなりません。
<追記>
関東大震災時の朝鮮人虐殺については多くの書籍が出版されています。近年のものでは加藤直樹氏の『九月、東京の路上で』(2014年、ころから)をお薦めします。
<2019.10.7追記>
2019年7月、上に記した『九月、東京の路上で』の加藤直樹氏が、朝鮮人虐殺否定論にターゲットを絞った『TRICK トリック 「朝鮮人虐殺」をなかったことにしたい人たち』(ころから)を上梓しました。工藤美代子・加藤康男両氏の「否定本」のトリックを鮮やかに暴く良書。『東京〜』との併読を強くおすすめします。
(※注1)
たとえばこちらの記事の浅岡重蔵氏の証言など。また朝鮮人虐殺に限定しないのであれば、アナーキストの大杉栄らが憲兵隊に殺された甘粕事件や中国人留学生王希天が殺された王希天事件などが有名です。
(※注2)
最近では医師の高須克弥氏のホロコーストを否定し、ナチスを賞賛する発言が海外でも紹介され、大きな非難をあびています(参照:高須クリニック院長の高須克弥氏によるナチス賛美はどこが問題なのか)。残念なことに、この件を取り上げた日本の大手メディアはほとんどありません。
(※注3)
震災後のデマ「信じた」8割超す 東北学院大、仙台市民調査
(※注4)
熊本地震のヘイトデマ(3) 自警団話の蠢動
(※注5)
【平成29年8月25日】小池都知事 定例記者会見の40:30〜41:40頃。
(※注6)
「様々な側からの暴力に抗議」トランプ大統領のコメントに疑問視の声 共和党内からも「はっきり言え」
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